火花を散らせ、羽を追え!(櫻 茅子 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●とある村の言い伝え
 とある山のふもとにある、緑豊かな村・カロエーテ。そこには、ある噂があった。『幸せの黄色い鳥』の羽に触れると幸せになれる、という噂だ。
 幸せを運ぶ鳥が何色かと聞かれたら、『青』と答える人がほとんどだ(もしかしたら、違う色が一般的な地域もあるかもしれないが)。だが、カロエーテは違う。なぜなのか。それは、「飢饉の際、鳥に村の窮地を救われた」という言い伝えが関係している。言い伝えは、簡単にまとめると以下のようなものだ。
 飢えに苦しむ村人の前に、太陽の光を一身にうけたような鮮やかな黄色を纏う鳥が現れた。そして一本の稲を渡し、育てるようにいう。村人が言われた通りに稲を植えると、村はたちまち緑であふれ、救われた――。
 ここで登場する救世主ともいうべき鳥は、カロエーテ周辺に生息する『向日葵鳥』であるといわれている。カロエーテの人々にとって、幸福の色は青ではなく向日葵鳥が持つ黄色、というわけだ。
 そんな向日葵鳥の羽を欲しがる者は多い。だが、噂の鳥は滅多に姿を見せないうえに、羽を落とすことも少ない。まして、村を守った尊い鳥を捕まえて羽をむしるなんてことが許されるわけもない。
 だが、年に一度、幸福を運ぶその羽に触れることができる――かもしれない日がある。
 その日を、人々は『陽光祭』と呼んでいる。

●陽光祭、開催!!
 ウィンクルムがカロエーテに集まったのは偶然だった。ある者はポスターを見て、ある者は噂で聞いて。とにかく、なんらかの形で村のお祭り――陽光祭の情報を得て、この場へとやって来た。
 陽光祭。食べ物の屋台や音楽でにぎわうその日の目玉は、向日葵鳥の羽を奪い合う『羽とり合戦』だ。
 ルールは以下の通り。
 村の中央にある広場に、向日葵鳥の羽が入った鳥かごが置かれている。参加者――二人一組のペアを組んでいる――は決められた位置に集まり、開始の合図とともに鳥かごに向かって走り出す。そして、鳥かごを奪い合い……一時間後、終了の合図が響いた時、鳥かごを持っていたペアが優勝だ。
 優勝者には村人が腕によりをかけて作ったごちそうが食べ放題になり、そしてなにより『向日葵鳥の羽に触れることが許される』という特典がついてくる。
 滅多に手に入らないといわれる羽が、なぜあるのか。それは、村長が代々受け継ぐ特別な羽……言い伝えに登場する『村を救った向日葵鳥の羽』が特別に貸し出されているからだ。胡散臭いといえるかもしれない。だが、淡い光を帯びたその羽は、本当に奇跡を呼んでくれそうな、神秘的な空気を纏っている。
 だが、優勝するのは容易ではない。はじまりは広場だが、舞台は村中となるのだ。武器は運営側が用意したおもちゃの弓矢か、おもちゃの釣竿のみ。弓は相手の動きを牽制する程度(矢じりが吸盤になっているあれだ)しかできないし、釣竿は鳥かごを釣り上げることができるだろうが、ある程度の腕がないと使いこなせないだろう。それに、参加するのはウィンクルムだけじゃない。村人――ざっと数えて、十組以上はいるだろうか。皆闘志を燃やし、やる気満々といった感じだ。

 負けないぞ、とある者は言う。
 俺が勝つさと、ある者は言う。

 太陽の下、熱気渦巻く人々がそれぞれ得物を手に前を見据える。そして響き渡る、開始の合図――
 さあ、お祭りのはじまりだ!

解説

●目標
陽光祭・羽とり合戦で優勝!

●羽とり合戦について
 二人一組で参加します。
 村を救ったとされる向日葵鳥の羽を参加者で奪い合い、開始から一時間後の終了時、手にしていた組が勝者となります。
 運営が用意した『おもちゃの弓矢』か『おもちゃの釣竿』、どちらか一つを借りることができます。
※弓矢は相手の動きを牽制、釣竿は鳥かごを釣り上げることができます。
※弓矢使用の際は『ハンティング』、釣竿使用の際は『フィッシング』があると、特殊な妨害がない限り使用成功になるものとします。

●お祭りの進み方
 村の中央にある広場に、向日葵鳥の羽が鳥かごに入った状態で置かれています。
 参加者はスタート地点につき、開始の合図があったら羽を目指して走り出します。最初にたどり着いた人は鳥かごを持ち終了時間まで死守、他の人は奪いとって死守を目指してください。

●カロエーテについて
村の中央に丸い広場があり、広場を囲むように家やお店が並んでいます。道は広く整えられており、逃げるのに苦労しません。ただ、すぐ見つかるともいえるので、がんばって逃げてください。

●プランについて
・作戦

・羽をゲットした時、どうするか
 例:逃げ回る、どこかに隠そうとする

・羽を奪われた時、どうするか
 例:取り返そうとする、一度ひいてチャンスをうかがう

・優勝、敗北した時の反応をそれぞれ

上記4点の記載をお願いいたします。

●消費ジェール
カロエーテへの交通費&軽食代として『500ジェール』いただきます。

●余談
一斉描写になりますので、参加者同士でやりとりが発生します。また、アドリブも発生する予定です。なので、『他ペアとの交流NG』『アドリブNG』のどちらかにあてはまる方は申し訳ありませんが参加をご遠慮ください。

ゲームマスターより

お邪魔してます、櫻です。初めてこういったタイプのエピソードを出します。
参加者同士、作戦とコンビネーションを駆使してがっつり戦ってみませんか? というお誘いです。勝者、敗者が出る(出ない可能性もありますが)お話なので、ちょっとハードルが高く感じるかもしれませんが……皆さんでわいわい楽しんでいただければいいなぁと言うのが第一にあるので、興味がありましたらお気軽に参加いただけると嬉しいです。
では、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  桐華さんが弓持って
そんで籠ゲットしたら僕が抱えるよ
最初は慌てて広場まで行かず、くるっと村の周りをまわるよ
村の状況を知っておけば逃げ回りやすいしね

誰かが籠を持ってたら、こっそり先回りしたい
そんで桐華に持ち主を狙って貰おう
先回りが無理でも、基本は怯んでる隙狙い

籠所持時は、暫くはカーディガンかけて隠しながら抱えるよ
桐華さんに回り警戒してて貰いながら逃げに専念
本気で逃げる時は桐華さんにパスだ
回避力に期待してる!

奪取成功時には素直に喜んで逃げ回って
奪われた時には一旦引いてまた機会を窺うよ

勝っても負けても楽しかったらいいよね
鬼ごっこはちょっと自信あるんだけど、ペアの力は侮れないね!
楽しい時間、ありがとう



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  触ったら何か変わるだろうか
例えば近くに居る人の気持ちが一寸分かるようになる、とか…


俺は弓矢を使う
ハンティングを生かし鳥籠を持つ手を撃って、釣る隙を作ったり、
武器を撃ち弾き飛ばしたり、額を撃ちビックリさせて強奪防止しよう

取れたら、全力で家の間に逃げ込んで呼吸を整え、静かに逃げる
奪われたら、相手の疲労を見極めて終了間際に再度奪取を試みる

再度取れたら、教会や公民館等高い建物の屋根に上り、屋根伝いに逃げ切りたい

・負けたら:屋台を楽しむ(楽しかったし、十分幸せだからそれでいい

・勝ったら;羽を観察し、そっと感触確認
「全員が一寸ずつ触るってのはダメなのか?」と村長に提案
どうせなら皆が幸せになる方がいいだろ



鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
  (皆、足早そうだよねぇ。でも僕達も出来るだけの事をしようか)

主な作戦としては叢や木々の陰から、
他の参加者達が鳥かごを奪い合う所を狙う。
漁夫の利を得るつもりで奪い取るよ。
(フィッシングスキル使用)

手に入れた羽は、鳥かごごと天高く掲げながら移動。
羽を奪われた時は、奪われた人の姿が見えなくなるまで追跡。
見えなくなったなら、
追わない代わりに、隙を狙って奪い返す。

優勝したら、嬉しさで舞い上がったまま、琥珀ちゃんを肩車。
このまま、村を一周してくるよ!
……っと、その前に向日葵鳥の羽を触らないとね。
どんな感触がするのか本当楽しみだよねぇ。

負けちゃったら……。
まあ、自腹で村の美味しいものをお腹一杯食べに行こう。



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  武器は弓を選択

難しいことは考えずに、純粋に祭りを楽しみながら羽を奪い合う
「せっかくのお祭りなんだし、楽しまないとな」
とはいえ、負けるつもりはない

テンペストダンサーのイチカの足を信じてスタートダッシュにかける

羽をゲットしたらそのままイチカに託す
イチカなら、羽を奪おうとする相手の攻撃をある程度は躱せるはず
俺は弓矢で奪おうとしてくる相手を牽制しつつ逃げる

基本イチカにいろいろ頑張ってもらって、俺はそのサポート
…オーガ退治の時と似てるかも

羽を奪われたらすぐ取り返そうとする
相手に牽制されたりして無理そうであれば一旦引いて体制を整えてから再度挑む

優勝したら素直に喜ぶ
敗北したら悔しそうにしつつも優勝者を称える



終夜 望(イレイス)
  ・作戦
俺ら最初で取れないと勝ち目ないから……脇目を振らずスタートダッシュ!
駄目ならダメで持ってる奴をこっそり後ろから狙っていく感じになるのかな。
一応弓矢もってくけど……俺、遠距離は苦手なんだよなあ……

・羽ゲット
俺だけなら逃げる。超逃げる。
体力と方向音痴のスキルを活かして(?)もうなんか脇目も振らずひたすら逃げる。

・羽を奪われた時
俺だけなら、取り返そうと追うぜ。
もとい、迷子なので、アンタが居ないと俺帰れませんッ!(超必死
兄貴と一緒なら兄貴の判断に従うよ。

・優勝、敗北時の反応
優勝出来たら兄貴とハイタッチかましてるかな。
負けたら……負けた時、俺、ちゃんと、道……解ってる自信ねーぜ……(迷子なう


●こんにちは、負けません
『羽とり合戦のスタート地点はこちらです! 参加者は速やかに――』
 誘導の声が響く。
 陽光祭の目玉、羽とり合戦が、もう少しで始まろうとしていた。
 スタート地点に集まったのは、一般人だけじゃない。偶然カロエーテに居合わせたウ数組のィンクルムも、例外なく優勝を狙っていた。

「せっかくのお祭りなんだし、楽しまないとな」
『天原 秋乃』は弓の調子を確認しながらそう呟いた。だが、負けるつもりもない。
 やる気に満ちた秋乃の隣に立つ『イチカ・ククル』はといえば、(秋乃と楽しく遊べるのなら、勝ち負けはどうでもいいや)という心境だった。ただ、「秋乃がやる気みたいだから一応頑張るけど」と続く。

「サバゲーみたいで楽しいな」
 わくわくと瞳を輝かせるのは『ヴェルトール・ランス』だ。
「ふふ……釣りまくってやるぜ」
 そんな呟きの通り、彼が手にしているのは釣竿だ。隣に立つ『アキ・セイジ』の手には弓が握られている。バランスのとれた二人といえるだろう。
「触ったら何か変わるだろうか。例えば近くに居る人の気持ちが一寸分かるようになる、とか……」
 確かめてみたい。
 落ち着いているように見えるアキだが、胸に秘めた熱は相当なものだ。

「最初は慌てて広場まで行かないで、くるっと村の周りを回ろう。村の状況を知っておけば、逃げ回りやすいしね。あ、籠ゲットしたら僕が抱えるよ」
『叶』が立てた作戦に、『桐華』は軽く頷いた。
 桐華の手には、弓が握られている。彼が持つスキルを活かすには、こちらの方が都合がいいからだ。
 だが、この祭りに――羽とり合戦に参加するといった叶の胸のうちを思い、桐華はわずかに眉を寄せるのだった。

(皆、足早そうだよねぇ)
『鹿鳴館・リュウ・凛玖義』は参加者を見回して、そんなことを思った。
「りくぅ、優勝ってなると自信ないよぅ。それに……足早くなくても勝てるかなぁ」
 そして、似たようなことを小さな精霊……『琥珀・アンブラー』も感じていたらしい。不安そうに裾を引っ張る琥珀に、凛玖義はニッと笑って見せる。
「だーいじょうぶ。早くなくても、戦い方はあるんだから。一緒に頑張ろうねぇ」
「いっしょ……うん!」
 心強い凛玖義の言葉に、琥珀はこくりと頷いた。凛玖義は笑みを浮かべたまま、静かに作戦を考える。
(僕達も出来るだけの事をしようか)
 
 スタート地点でもかなり前――場所だけでいえばかなり有利な位置に、『終夜 望』と『イレイス』は立っていた。
 お祭りを楽しんでいる途中、かなりの実力を持つウィンクルムを見かけた二人は、少しでもいいポジションをとっておこうと頑張ったのである。
「緊張してきた……」
「釣りか、手元が狂わなければいいのだが」
「頼むから俺を釣り上げるとかしないでくれよ」
「善処しよう」
 ペースを崩さないイレイスにつられ、望の肩からわずかだが力が抜ける。

 スタートが近づくにつれ、空気がピンと張りつめたものに変わっていく。だが、たしかな熱がそこにはあって。
『それでは、陽光祭・羽とり合戦! ――スタートです!!』
 振り下ろされた合図に、参加者は一斉に走り出した。
 お祭りのはじまりだ!

●交戦開始!
 俺ら、最初で取れないと勝ち目ないから……脇目を振らずスタートダッシュ!
 動き出す集団の間を潜り抜け、最初に飛び出したのは望だ。そんな彼を追うイレイスの懐には、鳥かご――中に何も入っていない――が隠されている。手先の器用さを活かし、本番前に拵えてみた偽物だ。もちろん、本物と細かいところは違うだろうけれど、一瞬でも参加者の注意をそらすことができれば十分だ。
「さて」
 何にせよ、まずは突っ走ったアホと合流しなければならない。争奪戦が始まる前に迷子になられたら厄介だ。
 そして、スタートダッシュに力を入れているのは、望たちだけではなかった。
「頼むぜイチカ!」
 秋乃の声援に応え、飛び出したのはイチカだ。素早い動きを得意とするテンペストダンサーである彼は、ぐんぐんと先頭との距離を縮めていく。
「あ、あれだね」
 辿り着いた広場の中央に、ほのかな光を放つ鳥かごが見えた。
 イチカは更に加速し――鳥かごを奪う!
「やった」
 先制をとれたイチカは、ここで油断してはいけないと抱え直した。
 後続から放たれる矢や釣竿を軽やかな足取りで避けるイチカの視界に、追手を阻止すべく弓を構える秋乃の姿が映った。
 ――基本イチカにいろいろ頑張ってもらって、俺はそのサポート。……オーガ退治の時と似てるかも。
 なんて、スタート前に彼が話していたことを思い出す。
(秋乃のためにも、死守しなくちゃね。僕のこと信じて任せてくれてるみたいだし、ちゃんと応えてあげないと)
 そんなイチカの後ろ姿を見ながら、イレイスは「ふむ」と小さく呟いた。
 今鳥かごを持っている彼のすぐ後ろに我が弟がいて、自分は二人の更に後ろだ。けれど、遠い、というほどではない。
 イレイスはちらりと釣竿を見た。
(手が滑って弟釣り上げるかもしれんが、それはそれで良し)
 望が聞いていたらつっこまずにはいられないだろうことを考えながら、釣竿を振りかぶる!
「わっ、と?」
「――よっしゃ!」
 突如降ってきた釣り糸に驚いたイチカは、思わず態勢を崩してしまう。その隙を逃さず、望は鳥かごを奪い取った。弟がすごい勢いで逃げに徹しはじめた姿を確認したイレイスは、懐から偽鳥かごを取り出した。そして、明後日の方向に思いきりぶん投げる!!
「あーなんてことをするんだ弟よー!!」
 セリフ自体はわざとらしい。けれど、イレイスの声は妙に現実味を帯びている。つまりかなり焦っている風に聞こえるのだ。
 偽の鳥かごと、本物を持つ望。同じ方向に向かっていた集団が、少しずつばらけはじめた。
(このまま逃げ切ってくれたらいいのだが。……いや、残り時間を考えるとさすがにきついか)
 冷静に状況を分析しながら、イレイスは次の一手を考えはじめる。
 秋乃はすぐに取り返そうとしたが、イレイスのかく乱もあり思うように動けなかった。
(二人して躍起になってたら、獲れるものも獲れないかもしれないしね)
 そう思い、あえて何もしなかったイチカの元に、悔しそうに顔を歪めた秋乃がやって来た。二人はいったん引いて、体制を整えることするのだった。

「さて、じゃあ僕たちも作戦に移ろうか、琥珀ちゃん」
「う、うんっ!」
 緊張したように頷く琥珀だが、その目の浮かぶ闘志はたしかなものだ。
 凛玖義は形のよい頭をわしわしと撫でると、姿を隠せる叢や木々を探す。
 彼らが立てた作戦は『他の参加者達が鳥かごを奪い合う所を狙う』というシンプルな、だがはまれば強いものだ。
(漁夫の利を得るつもりで奪い取るよ!)
 さて、誰が来るだろう。
 凛玖義は小さな精霊に勝利を捧げたいと、目を光らせるのだった――。

●混戦極まれり
「おやぁ?」
 琥珀と共に木の影に隠れ、チャンスを伺っていた凛玖義は、脇目もふらずにひたすら走る鳥かご所持者・望を見て目を丸くした。
(走る方向がめちゃくちゃだねぇ。行きあたりばったりって感じだ)
 だからこそ、追手にかごを奪われずに済んでいるのだろうけれど。そんなことを考えていると、琥珀がくいと服の裾を引いた。
「りくぅ、どうする?」
「そうだねぇ」
 望へ視線を戻す。彼を追う参加者の中に、軽やかな身のこなしが特徴的な黒髪の青年・イチカと、彼をサポートする秋乃の姿も確認できる。
 そして、再び奪い合いが発生しそうな気配を敏感に察知し、隙を狙っている別の二人組がいることも凛玖義は気付いていた。
「琥珀ちゃん、もう少し待ってみよう」
「わかった」
 こくりと頷き、琥珀はどきどきしながら鳥かごの行方を目で追う。
 すると。
「わっ!?」
「ランス、いまだ!!」
「りょーかい!」
 イチカと秋乃が勝負に出ようとしたところを、アキが矢で牽制する。イチカの足元、秋乃の額を撃ったアキは、さらに望の行く先を寸分の狂いもなく阻害した。相棒が作った隙を、ヴェルトールが逃すわけがなく――ひゅん、と。釣竿が唸る。
「おっしゃ! 羽ゲット!」
 ヴェルトールの釣りの腕はなかなかのものだ。空いた距離をものともせず、見事に鳥かごの奪取に成功する。
 だが、これこそが凛玖義の狙っていた絶好のタイミングだった。
「琥珀ちゃん、今だよ!」
「わかった!」
 凛玖義の合図にあわせ、琥珀は弓矢を構えた。逃げようとしたヴェルトールの邪魔をするように矢を放つ。思わぬところから攻撃を受けたアキは、けれどすぐに迎え撃つ準備を済ませた。
 矢がどこから飛んできたのか冷静に見極めると、これ同じように弓で迎撃する。これ以上、ヴェルトールの邪魔をさせるわけにはいかない。
「わっ、わぁっ、すごいっ!」
 琥珀の腕も相当なものだが、アキの腕はその更に上をいっていた。徐々に琥珀が押されはじめる。
 だが、この小さな精霊が稼いでくれた時間は決して無駄にはならなかった。いや、させてなるものか!
 凛玖義の釣竿がヴェルトールの腕に収まる鳥かごを――釣り上げる!
「ありがとうねぇ、琥珀ちゃん!」
「やったぁ! りくっ、すごい!!」
 鳥かごを、羽を手に入れた凛玖義は手に入れた鳥かごを天高く掲げながら、琥珀とともに移動をはじめた。逃げながらも、琥珀は奪い取ろうとする参加者の死角を狙い、弓矢を乱れ撃つ!
 小さな体以上の働きをする琥珀に、凛玖義は鼻高々だ。
 遠ざかる彼らの背を見ながら、ヴェルトールは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「セイジ、すまん!」
「気にするな、また取り返せばいいさ。それにしても、すごいコンビプレイだったな」
 奪い合いの隙をついた、見事な作戦だった。アキは感心しながらも、考えることをやめなかった。
「次の勝負は、終了間際だな」
 アキの言葉に、ヴェルトールは頷いた。時間が過ぎれば、必ず疲れが出るものだ。相手の疲労を見極めて、再度奪取を試みる。
 二人の目は、まっすぐ凛玖義たちが走っていった方を向いていた。

 望は取り返そうと鳥かごの行方を追うが、所持者はめまぐるしくかわる。
 一度イレイスに相談しようと思ったものの、兄がどこにいるのかも、自分が今どこにいるのかもわからない。
(取り返そう)
 望は覚悟を決めた。
 なぜなら――兄貴……アンタがいないと俺帰れませんッ!!
 再び足に力をこめた、その瞬間だった。
「お前私の弟を何処へやった!」
 と、間違えるわけもない、イレイスの怒声が聞こえてきたのは。
 一体何をやってるんだ、と思ったのはほんのわずかな時間だけ。「助かった」と望は声がした方に駆け出すのだった。
 ……会えるか、保障はまったくないが。

●残り二十分、動き出すのは
『――残り二十分です!!』
 聞こえたアナウンスに、叶はにこりと微笑んだ。
「さて、じゃあ行きますか」
 現在のかごの持ち主・凛玖義の行き先を見極め、叶はくるりと方向転換をした。先回りするつもりなのだ。はじめの接戦をあえて避け、情報収集をしていた叶だからこその作戦である。
 桐華も桐華で、叶の考えは心得ていた。軽く打ち合わせをすると、凛玖義追跡に力を入れる。
「そろそろだな」
 叶の読み通りに進む凛玖義に、桐華は弓を構えた。ひゅん。本物に比べると迫力は劣るが、それなりの威力を持った矢が凛玖義を襲う。
「わっ! 琥珀ちゃん、迎え撃てるかい!?」
「う、え、と。ちょっと難しい、かも……!」
 桐華の手は止まらない。たまらず、一瞬力を緩めた凛玖義の隙をつき
「とうっ! 桐華さん、ありがとね」
 叶は鳥かごを奪い、笑顔で走り出した。かごにカーディガンをかけ、簡単に奪われないよう工夫しながら。
「わっ、すごい追手の数!」
 参加者が向日葵鳥の羽にかける情熱はとてつもない、と叶は前半でしっかり理解していた。だが、実際に追われる側になると、やはり熱量が違う。中でも、凛玖義と琥珀、秋乃とイチカの二組は迫力が違った。
 叶の護衛をこなしていた桐華は、ちらりと叶に目をやった。
「桐華さん、回避力期待してるよ!」
「はいはい」
 鳥かごをパスされた桐華はスピードをあげた。襲い掛かる妨害を華麗に避ける美丈夫の姿に、観戦している女性はほうと甘い吐息をもらす。
 ――だが、桐華は最後まで逃げ切るつもりはなかった。
 鳥と、鳥を捕えるかごの組み合わせには、あまりいい印象を持っていない。
 桐華は一瞬、後方を見やった。そして、今にも追いつきそうなイチカの姿を確認し、そっと腕の力を緩める。
 追ってきたイチカは違和感を覚えた。だが、この一瞬を逃すほど大人ではない。
「あきのん、とったよー!」
 そんな掛け声を背中で聞きながら、桐華は「ふう」と息をついた。わざとらしくならなかった、と思う。……叶には、ばれるだろうけど。

 再びかごを手にしたイチカは、秋乃のサポートを受けながら残り時間を逃げ切ろうと走り回っていた。
 だが、一時間という短いようで長い時間。走り続けた体は、正直疲れで鈍っていた。
『残り二分です!』
「もうちょっとだな、頑張ろうぜ」
 もう少しで羽とり合戦が終わるということ――優勝が近いという事実に、秋乃は気合を入れている。ニッと笑顔を浮かべる彼は、とても楽しそうだ。
 イチカも小さく笑みを返すと、鳥かごを死守すべく足に力をこめた。けれど同時に、少し油断したのかもしれない。
 すこん。
「わっ!」
 走り続けるイチカの額に、一本の矢が張り付いた。これで二度目だ。ということは。
「とりゃ!」
 続いて、そんな掛け声が聞こえたかと思うと、腕に抱いていたはずの鳥かごはふわりと宙を浮いていて。
 淡く輝く羽は、空を舞い――ヴェルトールの腕にすっぽりとおさまった。
「疲れさせるのは、大物釣りの基本だろう」
 ヴェルトールはにやりと笑うと、アキとともに高い建物の屋根へと登り始めた。
 驚くほどの身軽さに、そして屋根という思わぬ逃げ道に、他の参加者は矢や釣竿で妨害を入れることしかできない。だが、それらは全て躱されてしまう。

 屋根の上を走る。奪われないよう、二人でしっかり持ち手を握って。
 そして。
 
『終了です!!』
 響いた宣言に、アキとヴェルトールは足を止め、そしてゆっくり顔を見合わせた。
「……勝った、のか?」
「ああ、セイジ。俺達の勝ちだ!」

●優勝は
 再び広場に集まった参加者は、村長の前に立つアキとヴェルトールに嫉妬、羨望、様々な感情をこめた視線を向けていた。
 彼らにはごちそう食べ放題という特典と、更に向日葵鳥の羽に触れる権利が与えられる。
「あー、やっぱ悔しいな」
「いやー残念だったねぇ、あきのん」
 そう言いながらも素直に優勝者を称える秋乃に対し、イチカは気の抜ける笑みを浮かべていた。秋乃とのコンビネーションを周囲に見せつけることができて、満足感を覚えているのだ。
 イチカの考えに気付いたのか、「お前なぁ……」と秋乃は僅かに声を荒げた。
 そんな彼らの隣では、凛玖義がしょぼんとする琥珀の頭を撫でていた。
「いやー、皆強かったねぇ。次は負けないように、村で美味しいものをお腹一杯食べようか!」
「! うん!」
 凛玖義の提案に、琥珀はぱぁっと顔を輝かせた。
「一番おいしいお魚を食べて帰ろう!」
 ほのぼのとしたやりとりに耳を傾けていた叶は、「楽しかったね」と桐華に笑いかけた。その笑みに何を感じたのか――桐華の表情は、どこか暗かったけれど。


 そんな活気溢れる広場から、少し離れたカロエーテの片隅で。
「俺、ちゃんと、道……解ってる自信ねーぜ……」
 声を辿ってたものの、そこにイレイスの姿はなくて。さらにいえば一向に広場に辿り着けない望は足をとめ、深く深呼吸をした。改めて周囲を見回しても、どこに向かえばいいのか全くわからない。
「ここどこだ……?」
 完全に迷子です。
「ここにいたか。すれ違いにならなくてよかったといえばいいのか、私の渾身の演技でも望を呼び寄せることはできなかったと悲しむべきか、どちらだろうな」
「兄貴!」
 呆然と立ち尽くしていた望は、現れたイレイスに安堵の声をあげた。後光が差しているようにすら見える。
「声が聞こえたから行こうと思ったら、気付いたらここにいて」
「なるほど、相変わらずの方向音痴だな」
 ちなみに、私が声を張り上げたのは真逆の方向だぞ。
 すぱんと切り捨てられ、望はがくりと肩を落とした。彼の言う通りだ。
 だけど、まぁ。
「楽しかったわ」
「そうか、よかったな」
 望を見つめるイレイスの目は、兄としての優しい光を帯びているように見えた。

●光放つ羽
 優勝を飾ったアキとヴェルトールは、鳥かごから出された羽を見てほうと息を吐いた。
 淡く輝くその羽は美しい黄色で、どこか神聖さを感じさせる。
「どうぞ」
 触ってもいいものか、アキとヴェルトールは一瞬ためらった。だが、こんな貴重な機会を逃すのはもったいない。
 差し出された羽にそっと触れる。まず思ったのは、ふわふわと柔らかいということ。続いて、じんわりと、体の内を温めるような、不思議な温もりが伝わってくるということ。
(近くに居る人の気持ちが一寸分かるようになる、てことはないみたいだな)
 けれど、今ヴェルトールが何を思っているのかは十二分にわかっているつもりである。
 アキはくすりと笑うと、「村長」と話しかけた。
「全員が一寸ずつ触るってのはダメなのか?」
 どうせなら皆が幸せになる方がいいだろ、と続けたアキに、村長は目を丸くした。数秒沈黙したかと思うと、「全員は無理じゃな」と続ける。「羽が痛んでしまうかもしれない」
 そうか、と残念に思ったアキだが、続いた言葉に笑顔を浮かべる。
「だが、参加者の中でもひときわ輝いていた数組くらいならいいかもしれぬ。彼らのおかげで、ここ数年で一番の賑わいを見せたからの」
 そして呼ばれたのは凛玖義と琥珀、秋乃とイチカ、そして叶と桐華、望とイレイスである。叶と桐華は辞退、望とイレイスは行方不明のため、優勝ペア以外に四人が羽に触れることになった。
「おお、あったかい……」
「どんなもんかわからないけど、なんか幸せなことが起こるといいね」
「どんな感触がするのか本当楽しみだよねぇ」
「ほんとに触っても大丈夫ですかっ?」
 思わぬ流れに驚いていたものの、秋乃とイチカは嬉しそうに羽に触れていた。そんな二人に、おそるおそる、けれど嬉しそうに羽に触れる琥珀と、そんな彼を見つめる凛玖義が続く。
 ヴェルトールが口を開いた。
「やー、楽しかったな! コンビプレイも羽とりも!」
 そして、終了間際……アキが見せた、いや『魅』せた射撃を思い出す。
「しかしセイジの弓の腕前……すげえな」
「攻撃力不足を実感していたからな」
 そう答えたアキに、ヴェルトールは「そっか」と頷いた。
「それで埋めようとしてたんだな」
「その通りだが……そんな撫でなくても」
「頑張り屋なセイジにご褒美だ! なんつって」
 ぽふぽふと頭を撫でる、大きな手のひら。触られたところから温もりが広がるような、そんな気持ちを味わいながら、アキはふと――とろけるような笑みを浮かべるのだった。

●君、鳥と鳥籠
「鬼ごっこはちょっと自信あるんだけど、ペアの力は侮れないね!」
 勝っても負けても楽しかったらいいよね。そう言う叶に、桐華は眉を寄せた。
(鳥に、鳥籠。そんな祭に参加した時から判ってた。……優勝する気は最初からないんだろうって)
 そんな桐華の様子に気付いてないのか――気付かないフリをしているのか。叶は「桐華さん、楽しい時間、ありがとう」と笑顔を見せる。
 その笑顔に、桐華はかつてのことを思い出す。
 鳥に、鳥籠。昔、鳥に扮した叶を、鳥籠を持って追いかけた事があることを。
 だからこそ、叶が鳥籠が嫌いなのは、知っているつもりだ。
(それに……お前は幸運は人にお裾分けしたがるタイプだろ)
 それなりの時間をともにしてきたのだ、これくらいのことはわかる。
 いまだに、わからないこともあるけれど。
(楽しかったと叶が笑うなら、それでいい)
 ふらふらと屋台を覗く叶に、桐華はぽつりと呟いた。
「……お前の幸せなら、俺が、作るから」
 誓いのように零された言葉を、桐華は他の誰でもない、自分自身の胸に刻み込むのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 櫻 茅子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月29日
出発日 08月05日 00:00
予定納品日 08月15日

参加者

会議室

  • [11]叶

    2015/08/04-23:53 

  • [10]天原 秋乃

    2015/08/04-23:01 

  • [9]アキ・セイジ

    2015/08/04-01:41 

    プランは提出できているよ。
    怪我無く楽しめると良いな。

  • [7]アキ・セイジ

    2015/08/03-00:08 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス、よろしくな。

    ハンティングは多少ある。
    勝ち負けと言うより楽しく遊べたらいいな。

  • ハンティングやフィッシングスキルが出来ると聞いて。
    ……あ、それだけじゃないけどね。
    ここのメンバーは、皆はじめましてかな。
    鹿鳴館さん家の凛玖義っていうよ、よろしくね!

    僕達はフィッシングのスキルを持ってるよ。
    勝負事は好きなんだけど、強くはないんだよねぇ。
    というわけで楽しく勝負出来ることだけ考えるよ!

  • [4]終夜 望

    2015/08/02-17:10 


    えーっと、終夜 望とイレイスだ。今回はよろしく頼むぜ。
    勝負事……みてーだけど俺らフィッシングもハンティングもないんだよなあ。
    ……うん、大分不利かもしれねーな。

    まあ、それでも出来る事はあるだろうし、折角だから優勝目指して頑張ってみるぜ。

    (無様な負け犬マダー、と白尽くめの方から声が響いたかも)

  • [3]天原 秋乃

    2015/08/02-02:00 

    みんなでわいわいできると聞いて。
    天原秋乃とイチカだ。よろしくな。
    俺もイチカも「ハンティング」や「フィッシング」とかの技術はないからある奴と比べたらちょっと不利ではあるんだろうけど、まあなんとかなるよな…!
    作戦ガッツリ練るタイプではないんだが、一応勝負ごとだし負けるつもりで参加はしないからよろしくな。

    さてと、弓矢にするか釣り竿にするか………(うむむ

  • [2]叶

    2015/08/02-01:45 

    お祭ではライバルだけどね!
    そんな感じで叶と愉快な桐華さんだよー。
    キラキラ綺麗な鳥の羽根を奪い合うなんて激しいお祭だねぇ。
    折角だから真面目に戦略練って頑張ろうか、程々にお遊びしちゃおうかすっごく悩んでる。
    もてあましてる桐華さんのハンティング技術が唸る!…かも?

    ま、ま。なんにしたって、目一杯楽しむのが一番だよねー。
    どうぞ宜しくね?

  • [1]叶

    2015/08/02-01:41 


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