【水魚】水龍宮で愛をささやいて(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 海底世界には、とある伝説があった。

 水龍宮。

 普通の人は入れない。神の使い『ナピナピ』から選ばれた者だけが訪れることができるといわれている、神秘的で不思議な場所だ。



 ナピナピは、水龍宮の中をふわふわと漂うように歩いていた。最も奥にある豪華で気品のある座敷には、人魚姫の像と人間の若者の像が飾られている。またこの部屋は魔法陣の効果が発動しており、チョーカーをつけていなくても呼吸ができる。

「……」

 ナピナピは手にした小瓶に視線を落とした。
 座敷に飾られている男女の像は、愛の力を感じると清らかな祝福の涙を流す。ナピナピはその涙を集める役目を任されていた。
 愛の力を示すには、甘い言葉や熱い思いを口にするのが良い。
 男女の恋愛の力がメインとなるが、友情といった広い意味の愛であっても多少の効果はあるだろう。

 祝福の涙を集めるには、愛の力が必要。
 愛の力を持つといえば、ウィンクルムたち。
 海底世界には、ちょうど多くのウィンクルムが遊びや依頼のためにやってきていた。

 神の使いナピナピは神出鬼没だ。海底世界に遊びにきているウィンクルムの中から、強い愛の力を秘めているペアを水龍宮へと招待することにした。
 ナピナピがウィンクルムを呼んだタイミングによって、像のある座敷にいるのは神人と精霊の二人きりになるかもしれないし、複数のウィンクルムたちが同時に座敷に招かれることもあり得るだろう。

 声を発せないナピナピは、ウィンクルムに向けてメモを残していた。

『愛の力で二つの像は涙を流す。
 祝福の涙は特別な涙。
 ウィンクルム、どうか水龍宮で愛をささやいて』

解説

・必須費用
海底都市で遊んだ時に使ったお金:1組300jr

・状況
水龍宮の座敷にいます。和風の雰囲気の建物です。
座敷以外のエリアは、呼吸ができないため出られません。

・人数について
シーンをウィンクルム1組ごとに描写するか、参加したウィンクルム複数で描写するか、参加者同士でご相談の上で選択できます。
合同描写を希望する場合は、会議掲示板で明確な意思表明をするか、プランに「合」の一文字を先頭または文末にわかりやすく記載してください。

他の皆は合同でも、自分はソロで遊びたーい! という方はその旨を会議掲示板で明確な意思表明をするか、プランに「個」の一文字を記載してください。

・目的
ウィンクルムが愛の言葉を口にして、水龍宮の男女像に祝福の涙を流してもらう。

ゲームマスターより

山内ヤトです。

神人と精霊で二人きりで過ごすのも良いですし、他のウィンクルムと交流するのも楽しそうですね!
ハピネスですが、ナピナピから託されたちょっとした目的もあります。愛の言葉で水龍宮の男女像に祝福の涙を流してもらいましょう!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

 
メモを見て
天藍の事は、勿論好きで何よりも大切な存在ですけれど、愛を囁いてというのは…
改めて想いを口にするのは恥ずかしいです…

今更断れる状況でもなく座敷で像を眺め途方に暮れる

改めて伝えられた天藍の言葉が喜びとなって胸に満ちる

天藍が伝えてくれる分自分も話さなくてはと
途切れながらも自身の想いを

…私こそ天藍にいつも支えて貰っています…
何度ありがとうの言葉を重ねても足りない位に
こんな私でも貴方の支えになれているのなら嬉しいです…

天藍に抱き寄せられ少し躊躇い
人目がない場所でも嫌か?と少し寂しげな彼の声音に、そうではないのだと首を横に振り身を寄せ、顔を見上げる

これからも一番近い場所で貴方を支えていきたいと



ラブラ・D・ルッチ(アスタルア=ルーデンベルグ)
  (個)

あらあら、どうしたのアス汰ちゃん
デートのお誘いなんて初めてじゃないかしら
精霊に手を引かれ、像の前までやって来る

(嫌われるのは嫌)

この前のこと(E 12)が頭を過り暗い表情になる
もうウィンクルムやめたいって話だったらどうしよう
私は、初めて手に入れた繋がりさえ失ってしまう

精霊の言葉を聞いて安心したのか、涙が溢れ出る

私も離れたくないの
ずっとずっと、アスタルアと一緒に居たい……!
寂しいのはもう嫌。お願い、独りにしないで!!

嬉しさからか胸の高鳴りが抑えられず、精霊に顔を近づけて
キスをしようとする
女の子をその気にさせて逃げるなんて絶対ダメなんだから……。

うっとりした表情で精霊を見つめる


アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  ここで任務を受けることもあるだろうからと見学に来ていたのですが…
何かの用事で呼ばれたようですね
とりあえず、残されたメモを見てみましょう

どうも、像の前で愛をささやいて欲しいそうですよ?
ラルクさんとは縁遠い分野ですよね
あら、パートナーだからこそ分かっているじゃないですか、さらっと反論

…いい機会かもしれません
ラルクさん、お願いできますか?と右手を差し出し
私の覚悟が決まったらこの傷を隠す手袋を外してもらうという約束、果たしてください

それは束縛する、という意味ですか?
貴方がそう言うからにはそうなのでしょう
何を求めていらっしゃるのか見当もつきませんが…
これが貴方への愛情を示すことになるなら、構いません


桜倉 歌菜(月成 羽純)
 
祝福の涙…どんなものか凄く気になります!

人魚姫の像と人間の若者の像を見上げて
この像にはどんな物語があるんだろうとふと思い

私が知っている人魚の童話は切ない話
種族が違うから、お姫様は色んな障害に阻まれて…
王子様とは結ばれなかった
最後まで想いを貫いて泡になった人魚姫

考えてみれば、私と羽純くんも
ウィンクルムとなってパートナーとなれたから一緒に居られるけれど
もし、羽純くんに別のパートナーが居たら…私はどうしてたんだろう

…きっと変わらない
きっと羽純くんと出会って
泡になり消える運命だとしても、想い続ける
だって…(羽純くんが好きだから)

だからね、今とても幸せなんだ
羽純くんのパートナーとして、隣に居られる事が



ウラ(アンク・ヴィヴィアニー)
 
「強い、愛?」(首傾げ
「んー…私達はどちらかっていうと“友達”だよね」
「…でも、丁度良い、かな…。アンクに謝りたかったし…」

(アンクと向き合い)
前々回の依頼での自分の行動を反省。
…こないだの依頼。…夢の中での戦い、なんだけど…(語尾が小さくなっていく
「ごめんなさい、アンクに無理、言って…結局倒せなかったから…」
危険が伴う、と言われたけどやっぱり申し訳ないな…。
「う、でもさ…」
(決意を固めて)「…これからも……。うん、アンク、私、もっと頑張る。だから…これからも宜しくね?」
アンクの手を握って、握手。



●悲しい人魚姫にはならない
 不思議な和風の屋敷に導かれた『桜倉 歌菜』と『月成 羽純』は、ナピナピからのメモを見てその緊張を解いた。
「祝福の涙……どんなものか凄く気になります!」
 明るくそう言って、歌菜は人魚姫の像と人間の若者の像を見上げる。ふと、この二体の像にはどんな物語があるのだろうかと気になった。
「……私が知っている人魚の童話は切ない話。種族が違うから、お姫様は色んな障害に阻まれて……」
 像を見上げながら、ぽつりと語り始める。
 歌菜のそばで、羽純は彼女の言葉に静かに耳を傾けていた。
「王子様とは結ばれなかった。最後まで想いを貫いて泡になった人魚姫……」
 切なそうに目を伏せる歌菜。
「俺もその童話のことを思い出していた。幼い頃、その物語が大嫌いだった」
「……え? 嫌いだったの?」
 羽純は歌菜に穏やかな眼差しを向けてから、二体の像を見上げる。
「人魚姫に気付く事なく、他の女性を選んだ王子様。なんて薄情な奴なんだと思った。許せなかった」
「羽純くん……」
 彼の優しさに胸を打たれる。
「自分なら違う結末を描ける筈と、子供心にそう思った」
 童話の人魚姫への羽純の思いやりと誠実さが、なんだか自分に向けられているようで、歌菜はドキドキした。羽純に出会った時に王子様を連想したように、今の羽純は童話に出てくるどんな王子様よりも凛々しく格好良く見えた。
 けれども悲しい人魚姫の物語は、歌菜に暗い未来を想像させる。
「考えてみれば、私と羽純くんもウィンクルムとなってパートナーとなれたから一緒に居られるけれど、もし、羽純くんに別のパートナーが居たら……私はどうしてたんだろう」
 歌菜の問いかけに、羽純は腕を組んで考え込んだ。
「別のパートナーが居たら……想像も付かないな」
 羽純にとっては歌菜といるのがもう当然のことになっていて、彼女の存在が欠けた日常生活というものがそもそも考えられないようだ。
「もしも、私と羽純くんがウィンクルムじゃなかったとしても」
 決意を秘めた強い眼差しで、歌菜が言う。
「……きっと変わらない。きっと羽純くんと出会って、泡になり消える運命だとしても、想い続ける。だって……」
 そこから先の言葉は、声には出さなかった。
(羽純くんが好きだから)
「俺もきっと変わらない」
 驚いて歌菜の肩がピクッと動く。羽純の言葉が、自分が内心でつぶやいた、好きだから、という気持ちに対して向けられたのかと、一瞬勘違いしたからだ。だが、そうではない。
「もし歌菜に他にパートナーが居たとしても……それでも俺は……何を置いてもお前を守りたいと思うだろう」
 迷いなくそう言える羽純は、本当に王子様のようだった。
 そんな彼を見て、歌菜は満ち足りたように微笑んだ。
 水龍宮の男女の像の前で、歌菜と羽純は見つめ合い、愛の言葉を口にする。
「だからね、今とても幸せなんだ。羽純くんのパートナーとして、隣に居られる事が」
「本当に……お前のパートナーである現在(いま)が、得難い幸福だと思い知らされる」
 それは、二人がウィンクルムとしてパートナーであることの幸せを相手に伝える、愛情に満ちたものだった。
 羽純は歌菜の体に腕を回し、引き寄せた。
「は……、羽純くん?」
 驚く歌菜の耳元に、羽純の唇が近づく。息がかかるほどの距離でささやかれる。
「愛してる」
「!」
 真っ赤になって口をパクパクさせている歌菜に、羽純は朗らかに笑ってこう告げる。
「愛の言葉が必要だからな」
 冗談だと、彼は笑ってごまかした。
「そ、そっか……。冗談だったんだね」
 頬を赤く染めながら、歌菜がひとりごとをつぶやく。いつか、冗談ではない本気の言葉として聞きたいと、そう願う。

 男女の像は、そんな二人を温かく見守るように、たくさんの祝福の涙をキラキラと流した。

●いっぱい泣いた後は大胆に!
 『ラブラ・D・ルッチ』は水龍宮の座敷で妖艶に微笑んだ。
「あらあら、どうしたのアス汰ちゃん。デートのお誘いなんて初めてじゃないかしら」
 余裕ありげな言葉。ラブラの振る舞いを見て、どれだけの人間が、彼女が隠している不安に気づくだろうか。
「そうですね、これが初めてかも」
 『アスタルア=ルーデンベルグ』は穏やかに頷いた後で、ラブラの目を見て真剣に言う。
「今日は二人きりで話がしたかったんです」
「……話、ね」
 ラブラの表情に暗いものがよぎる。
(嫌われるのは嫌)
 もうウィンクルムをやめたい、なんて話をアスタルアから切り出されたら、どうして良いかわからない。アスタルアとの絆は、ラブラにとって初めて手に入れた繋がりだ。それを失うことは、怖くてたまらない。
 アスタルアに手を引かれるまま、ラブラはどこかおぼつかない足取りで像の前までやってきた。
「ラブさん」
 ラブラの手が、アスタルアの両手でそっと包まれる。彼は笑顔でこう問いかけてきた。
「僕、これからも貴女の側に居て良いですか」
 それは、ラブラが予想していたのとは真逆の言葉。ラブラと共にいたいという、アスタルアからの願いだった。
 赤い目からはらはらと、透明の雫がこぼれ落ちていく。アスタルアの言葉に安心して、ラブラは溢れ出る涙を止めることができなかった。
「確かにこの前の話は突然で、ちょっと驚きましたけど、だからって貴女のこと嫌いになれません」
「私も離れたくないの」
「もう寂しい思いはしなくて良いんです。誰にも愛されてないなんて、そんなことありません」
 アスタルアはラブラの手を握りながら、片方の手で彼女の涙を拭う。
「ここに、いつも笑顔で優しいラブラさんが大好きな奴が居るってこと忘れないでください」
 アスタルアの真っ直ぐで優しい言葉に、ラブラはまたポロポロと涙を流して、自分の気持ちを素直に口にする。
「ずっとずっと、アスタルアと一緒に居たい……! 寂しいのはもう嫌。お願い、独りにしないで!!」
「はい、約束です!」
 ラブラの声に答え、アスタルアはしっかりと頷いた。
 パートナーとして、これからもラブラのことを支えていきたい。アスタルアはそう決意する。

 水龍宮の男女像は、ラブラとアスタルアの気持ちの強さに呼応するかのように、たくさんの祝福の涙を流し続けていた。


 と、ここまでは切なくロマンチックなムードが流れていたが……。
「アス汰ちゃんっ!」
 嬉しさでラブラの胸の高鳴りはマックスだ!
 セクシーに唇を突き出しながら、アスタルアに顔を急接近させる。
「っ、ラブさん!?」
 ラブラの大胆な行動に、アスタルアはうろたえて赤面する。
「女の子をその気にさせて逃げるなんて絶対ダメなんだから……」
 そう言ったラブラの眼光は、恋する乙女、などといった生ぬるいものではない。そう、それはまるでエモノを見つけた肉食獣のような気迫だった。
 ぐぐぐ、と彼女の顔が近づいてくる。
「え、ちょ、なに、何しようとしてるんですかテメーは!?」
 強引にキスをしてこようとするラブラに、必死で抵抗するアスタルア。
「ああんっ! アス汰ちゃん、アス汰ちゃん! これからもずっと一緒よ~」
 ラブラは陶酔した表情で、アスタルアのことを見つめている。
 その表情に、アスタルアは背筋がゾワリとした。
「だからって襲ってくるんじゃねーですよっ!? このクソババア!」
 ドタバタと暴れ、追いかけるラブラと全速力で逃げるアスタルア。水龍宮で呼吸ができるのはこの座敷だけなので、一種の密室といえる。頑張れアスタルア!
 憎まれ口を叩いてキスから逃げながらも、これだけ騒げるほどの元気を取り戻したラブラを見て、アスタルアは安心するのだった。

●こういうことは苦手だけれど
 『天藍』は水龍宮の座敷に置かれていたナピナピのメモに目を通す。
「愛を囁いて、か」
 どことなく乗り気でないような口調。そういうことは誰かから頼まれて言う事でもない、と天藍は考えていたからだ。
 天藍は『かのん』にナピナピのメモを手渡した。
「これは……ええと……」
 彼女もまた性格的に、あまりこういった、相手と面と向かって愛をささやくという類のことは得意ではなかった。もちろん、天藍の事は好きで、何よりも大切な存在だと感じている。でも、像の前で愛をささやく、という点が引っかかってしまう。
「改めて想いを口にするのは恥ずかしいです……」
 小声でそうつぶやき、頬を染めるかのん。
 そんな彼女の様子を見て、かのんらしいな、と天藍の顔から笑みがこぼれる。
「でも、今更断れる状況でもなさそうですし……」
 かのんは周囲を見渡してみた。水龍宮の座敷の中は魔法陣によって空気で満たされているが、それ以外の場所は海中だ。勝手には出られない。
 この水龍宮の特別な座敷にかのんと天藍を招き入れたのは、神の使いであるナピナピだ。ナピナピがウィンクルムに危害を加えるようなことをするはずはないので、この場は安全だとわかっている。
 だが、愛の言葉をささやくことに抵抗感のある二人にとっては、なかなか厄介な状況に追い込まれたようだ。
「困りましたね……どうしましょう」
 座敷に飾られている男女の像を眺めて、ただただ途方に暮れるかのんだった。

 しばらくして、そんなかのんの隣に、天藍がスッと腰を下ろした。
 そして、両手を伸ばして彼女の両手を包む。うつむきがちになっているかのんの顔をのぞく。真摯な視線で、かのんの瞳を見つめる。
「こんな機会でもないと改めては言えないからな」
 そう弁解するように言った後、咳払いをして天藍は思いを口にした。
「かのん、いつも俺を支えてくれてありがとう。かのんが向けてくれる微笑みが、俺の背中を押して前に進む勇気をくれている」
 言葉にすると、なんだかいっそうかのんへの愛しさが込み上がってくる。天藍はその愛おしさに突き動かされるままに、気づけば自然に彼女の体をそっと抱きしめていた。
「改めて、ありがとう」
 伝えられた天藍の言葉が、かのんの胸に喜びとなって満ちていく。胸の奥でふわりと花が咲いたような、そんな温かな気持ちになった。
 天藍が思いを伝えてくれた。
「……私こそ天藍にいつも支えて貰っています……」
 今度は自分が話さなくてはと、かのんは途切れ途切れになりながらも、自身の気持ちを言葉にしていく。
「何度ありがとうの言葉を重ねても足りない位に」
 緊張と恥じらいで、耳まで微熱をもっているのが自分でもわかる。
「こんな私でも貴方の支えになれているのなら嬉しいです……」
 そこまで言い終えたかのんを天藍はさきほどよりも強く抱き寄せた。お互いの肌のぬくもりや、心臓の鼓動がわかってしまうほど、二人の体は近くにある。
「あ……っ」
 少し戸惑ったような小さな声が、かのんのノドからもれた。
「人目がない場所でも嫌か?」
 そう尋ねる天藍の声音は少し寂しげだった。
「いえ……」
 そうではない、とかのんは静かに小さく首を横に振る。
 そして、かのん自ら天藍に身を寄せて、彼の顔を見上げた。優しく微笑んで、こう告げる。
「これからも一番近い場所で貴方を支えていきたいです」
 かのんからの言葉に、天藍も笑顔で返す。
「俺も何よりもかのんの近くで共にありたい。どうかこれからも自分の隣に居て欲しい」
 そのまま仲睦まじく身を寄せ合いながら、かのんと天藍は穏やかな二人きりの時間を過ごした。

 深い信頼感で結ばれた二人の言葉に、水龍宮の像は涙を流した。

●謎めいたやりとり
 『アイリス・ケリー』と『ラルク・ラエビガータ』は油断のない眼差しで水龍宮の座敷を見渡した。
「ここで任務を受けることもあるだろうからと見学に来ていたのですが……何かの用事で呼ばれたようですね」
 ラルクはやれやれというように肩をすくめる。
「……菓子で出来た世界、白昼夢を見る島、海の中……もう何が起きてもそう驚きはしないが、流石に唐突過ぎやしないか」
 自分が知らぬ間に見知らぬ場所へ連れ込まれるということ自体が落ち着かない。
「とりあえず、残されたメモを見てみましょう」
「任せた。俺は周囲を探索してみる」
 一通り座敷を見て回ったが、これといってラルクの興味を引くようなものは見つからなかった。メモを読んでいるアイリスのところに戻り、問いかける。
「んで、何て書いてあるんだ?」
「どうも、像の前で愛をささやいて欲しいそうですよ?」
「……愛をささやけ? 冗談じゃねぇよな」
 アイリスの手からメモを受け取り、ラルクは自分の目で内容を確認する。
「マジかよ」
 うんざりした調子でそう言って、頭を抱えるラルク。
 はっきりとした口調で、アイリスがズバッと断定する。
「ラルクさんとは縁遠い分野ですよね」
「否定はしないが、パートナーがそれを言い切るってどうなんだ」
「あら、パートナーだからこそ分かっているじゃないですか」
 少し不満げに不平を唱えるラルクに、アイリスは涼しい顔でさらっと反論した。

「……いい機会かもしれません」
 真剣な顔になり、アイリスが手袋をはめた右手を差し出す。
「ラルクさん、お願いできますか?」
 その言葉に、ラルクは驚いたようだった。探るような目で、アイリスの顔を見る。
「私の覚悟が決まったらこの傷を隠す手袋を外してもらうという約束、果たしてください」
 アイリスの右手の甲には、オーガからつけられた傷が残っている。手袋は傷を隠すためのものだ。アイリスはいつも手袋を身につけていた。
 その手袋を外してほしい、とアイリスはラルクに頼んでいる。
「本当にいいんだな」
 確認をとるように、ラルクが尋ねる。
「これを外すことは、アンタが一歩踏み出す切欠になるとは思う」
 その後で、ラルクは意味深にこう言葉を付け加える。
「だが、間違いなく俺は違う枷をこの手首に嵌めるぞ」
 落ち着いた声でアイリスが問う。
「それは束縛する、という意味ですか?」
 ラルクは曖昧な答えを返した。
「アンタが思ってるようなもんではないことだけは確かだな。それでも、いいんだな?」
 アイリスはしばらく瞳を閉じて考えた後、ゆっくりと顔を上げた。
「貴方がそう言うからにはそうなのでしょう。何を求めていらっしゃるのか見当もつきませんが……。これが貴方への愛情を示すことになるなら、構いません」
 アイリスとラルク以外の誰かが聞いていれば、首をかしげそうなやりとりだ。ラルクがアイリスに嵌める枷とはどんなものなのか、どうして手袋を外すことが愛情を示すことになるのか。それらが語られることはなかった。
 だが他の誰がどう思おうと、当の二人はちゃんとこのやりとりの意味を理解している。
「物好きな女だ」
 苦笑いしながら、ラルクはアイリスの右手にはめられていた手袋をするりと外した。
 オーガの傷がつけられたアイリスの痛々しい手が、こうしてさらされた。

 水龍宮の像はというと……目元がかすかに湿っている程度だった。
 アイリスとラルクのやりとりは難解で不明な点も多く、一般的な愛の言葉として像が上手く認識できなかったようだ。手袋を外すことが、どうやら二人にとって重要な意味を持つことは雰囲気でわかるのだが……。

 それでも、アイリスの手袋が外されたことには変わりない。
 たとえ水龍宮の石像から理解を得られなくても、アイリスとラルクの二人の間では、手袋を外したことの意味と重要性はわかっているはずだ。

●明るい未来があるように
 水龍宮の座敷に招かれた『ウラ』と『アンク・ヴィヴィアニー』はナピナピからのメモを読んだ後も、しばらくの間、呆然としていた。ウラは不思議そうな顔で。アンクは相変わらずの無表情で。
 やっとのことで、こてんと首をかしげながらウラがつぶやく。
「強い、愛?」
 そして、パートナーであるアンクへと視線を向ける。
「んー……私達はどちらかっていうと『友達』だよね」
「……そうだな、僕達は友人同士、だ」
 ウラとアンクはウィンクルムとしての活動をはじめて、まだそれほど月日がたっていないペアだ。
 今のところ、二人の関係はあくまでも友達同士だ。
 もっとも、さほど心配はいらない。メインとなるのは愛の言葉ではあるものの、ナピナピや水龍宮の石像は温かな友情も、広い意味での愛情として解釈している。

 男女の石像の前に立って、ウラがぽつりとこんなことを言った。
「……でも、丁度良い、かな……。アンクに謝りたかったし……」
 そう言われて、アンクは考え込む。謝りたい、と言われても、ウラからは特に謝られるようなことをされた覚えがないからだ。
 ウラはアンクと向き合い、少しずつ言葉で説明していく。
「……こないだの依頼」
 とある依頼での出来事。ウラはそこでの自分の行動を反省していた。
「……夢の中での戦い、なんだけど……」
 最後の方は、声がかすれて小さくなっていた。
 それでもアンクにはかろうじて内容が聞き取れたようだ。
「こないだの、夢……ああ、あの事か」
 アンクは納得する。思い当たる出来事があった。
 ウラは、本来の自由でマイペースな彼女には似合わないほどの真面目な顔つきと口調で、アンクに謝る。それだけ、深く反省していたのかもしれない。
「ごめんなさい、アンクに無理、言って……結局倒せなかったから……」
 危険が伴う、と言われたがやはり申し訳ない、という気持ちは強い。
 ウラは頭を下げた。
「……」
 そんなウラの様子を見て、アンクは彼女の心情を察する。あの出来事が、忘れたくても忘れられないのだろう。
「過ぎた事だ。僕は気にしていない」
 そう言って、ペコリと下げられたウラの頭に、アンクはぽんっと優しく手を置いた。かなり反省している様子の彼女を見かねて、サラリとしたウラの髪をアンクはごく軽くなでる。
「……危険が伴うイコール僕達ならば尚更、だろう?」
 その言葉にハッとしてウラが顔を上げれば、そこにはアンクの微笑みがあった。冷静沈着で無表情な彼がそんな表情を見せるのは、なかなかないことだった。
 ただ、それでもウラは、あの出来事に対してどこか割り切れないものを感じているらしい。
「う、でもさ……」
 口ごもりながら、反論しようとする。
 それを遮るように、アンクがウラをたしなめる。
「でもじゃない。君はそうやって自分の中に溜め込むな」
 過去を反省することも大切だが、自分の中にあれこれマイナスの感情を溜め込んでしまうのも考えものだ。ウィンクルムとして、これからのことも前向きに考えてほしい。アンクはウラにそう伝えたかった。
「……これじゃあ、君から目を離す訳にもいかない。僕はこれからも友人である君と戦う」
 アンクの言葉で、ウラも今後もウィンクルムとして戦う決意を固めることができたようだ。
「……これからも……。うん、アンク、私、もっと頑張る。だから……これからも宜しくね?」
 ウラの方から、アンクの方に手を差し出す。微笑みながら、アンクの手を握る。
 アンクもまた、無表情ながらもどこか穏やかな雰囲気で、ウラの手を握り返す。
 それは温かな友情の握手だった。

 水龍宮の男女の像は、このウィンクルムの未来が明るいものであるようにと、祝福の涙を送った。

●祝福の涙を集めて……
 丁重に感謝の気持ちを示しながら、ナピナピは水龍宮に招いたウィンクルム全員を元いた海底都市の場所まで戻した。
 ナピナピが手にした小瓶には、石像が流した祝福の涙が集められている。大切に集められた祝福の涙は瓶の中でキラキラと美しく輝いていた。



依頼結果:成功
MVP
名前:ラブラ・D・ルッチ
呼び名:ラブさん クソババア
  名前:アスタルア=ルーデンベルグ
呼び名:アス汰ちゃん 

 

名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月23日
出発日 07月28日 00:00
予定納品日 08月07日

参加者

会議室

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/07/27-23:56 

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/07/27-23:56 

  • [7]ウラ

    2015/07/27-22:53 

    わ、ぎりぎりですみません。
    ウラとアンクです。

    えっと、こっちも諸事情で個別にします。
    プランは出してきました。
    愛というか、友情発言が濃いかも…です。
    宜しくお願いしまーす。

  • [6]かのん

    2015/07/27-21:43 

  • [5]ラブラ・D・ルッチ

    2015/07/27-15:41 

  • [4]かのん

    2015/07/27-05:16 

    こんにちは、かのんとパートナーの天藍です
    皆さんおひさしぶりです、よろしくお願いしますね

    ……こちらも出発まであまり会議室うかがえなさそうなので、個別に参加させて頂こうと思っていました
    皆さんもそのようでほっとしています

  • [3]ラブラ・D・ルッチ

    2015/07/27-00:31 

    こんばんは!ラブラ・Dよ。
    そうね、私達も個別にさせて貰おうかしら。皆がそれぞれ楽しめると良いわね〜

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/07/27-00:18 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様とまたご一緒できて嬉しいです! 宜しくお願いいたします♪

    えーっと、気づけばプラン締切まで一日切ってましたね…!
    私達も合同での参加はプラン調整が難しいところがありますので、個別で参加させて頂きますね。

    皆様の愛の言葉、密かに楽しみだったりたり!←

  • [1]アイリス・ケリー

    2015/07/27-00:14 

    アイリス・ケリーと、パートナーのラルクです。
    ラブラさんとアスタルアさんは初めまして。
    かのんさん、歌菜さんはお久しぶりです。
    相談といいますか打ち合わせをした方が良さそうな合同での参加は、プランの調整に応じれるか怪しいので私たちは個別で参加させていただきますね。
    それでは、どうぞよろしくお願い致します。


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