ミラクル・ミステリー~月下の墜落~(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ある一人の青年が、唐突にその生命を断ちました。
 皆様には、その死の理由を見つけて欲しいのです。


 月の綺麗な夜でした。
 煌々と光る月の下で、青年の身体は冷たくなっていました。
 見つけたのは、この家の執事。
 亡くなっていたのは、屋敷に住み込みで働いていた書生でした。

 書生は、若干18歳のとても美しい青年でした。
 働き者で、誰からも愛される、そんな人柄です。
 このため、彼は屋敷の主人の寵愛を受けていたそうです。

 しかし、彼には想い人がおりました。
 この屋敷で同じく働く、植木職人の青年です。
 植木職人の青年も、書生のことは憎からず想っていたようですが、屋敷の主人へ遠慮し、二人が会話を交わす事はほとんどなかったそうです。

 屋敷の主人は、そのことを憎々しく思っており、近々植木職人の青年をクビにする事を考えていたようでした。
 執事は主人に思い止まらせようと進言しておりましたが、主人は聞く耳を持たず、よく二人は口論していたという話もあります。

 また、主人には別に男性の愛人がおりました。
 最近、書生にばかり気を向ける主人に、愛人もまた恨みを募らせていたといいます。

 事件はそんな最中に起こりました。
 真夜中の0時。
 ドサリと何かが落ちる重い音を聴いて、執事が庭へ出ると……書生が庭で息絶えていたのです。
 高い所から転落したようでした。
 執事が上を見上げると、3階にある図書館の窓が開いていました。
 きっと、そこから転落したのでしょう。

 これは事故?
 それとも何者かが書生を殺害した?

 真実を見つけるのは、貴方です。


「ようこそ、ミラクル・ミステリーへ!」
 ミラクル・トラベル・カンパニーのツアーコンダクターが、丁寧なお辞儀で挨拶をしました。
「これより、皆様にはこの屋敷の調査を行っていただき、明日の15時にその結果を発表していただきます」
 参加者の一人が時計を見ると、針は20時を指そうとしています。
「主人や愛人役など、亡くなった書生役以外の役者の皆様は、完全にその役柄の人物として屋敷内に居ります。自由にお話を聞いていただいて構いません」
 ツアーコンダクターの言葉に、役者たちがお辞儀をして応えます。
「捜査をせず、屋敷内で自由に楽しんでいただくことも可能です。撞球室には色々ゲームを用意しておりますので、ご自由にお使いください。
 朝食は7時、昼食は12時から、1階の食堂にご用意いたします。
 ご希望があれば、お部屋に運ぶ事も可能ですので、お気軽にお申し付けください」
 コンダクターの周囲には、ミラクル・トラベル・カンパニーの腕章を付けた数人のスタッフがニコニコと笑顔を向けていました。
「明日の15時に、1階の広間で皆様の推理を披露していただきます。お時間になったら、お集まりください。
 その他、何か御座いましたら、お気軽にスタッフまでお声を掛けてくださいませ。
 それでは、皆様、楽しいミステリーの時間を!」


 ☆☆☆

『屋敷の施設紹介』

 1階……玄関ホール、広間、食堂、浴室
 2階……撞球室、喫煙室、客室(10室)
 3階……主人の寝室、愛人の寝室、書斎、図書館
 離れ……厨房、洗濯室、使用人の部屋

『容疑者一覧』
※被害者が死亡した際、屋敷(離れを除く)に居た人物

・屋敷の主人(49歳)
・主人の愛人(29歳
・植木職人の青年(21歳)
・屋敷の執事(60歳)

解説

皆様には、ミラクル・トラベル・カンパニー主催『ミラクル・ミステリー』に参加いただきます。
本サービスが開始されていないツアーであり、皆様にはモニターとして参加いただきます。
モニターですので、今回は参加費用が無料です。

皆様は、真犯人を見つけるため、主人に呼ばれた『探偵』として、事件を探っていただきます。
翌日の15時までに、屋敷を捜査して、真相を推理してみてください。
推理を行わず、雰囲気だけ楽しんで過ごす事も可能です。

※指紋鑑定などの専門的な鑑定作業はできません。
※皆様が訪れたのは、事件の翌日という設定です。

一人一部屋、2階の客室が割り当てられておりますので、休憩や就寝はそちらでお願いします。
1階の浴室は大浴場となっていますので、ご自由に利用してください。

ミラクル・トラベル・カンパニーのスタッフは、広間と離れに待機しています。

推理を行われる方は、プラン内に犯人の名前を明記をお願いします。
※一プレイヤー様に付き、一人のみでお願いいたします。
(記載例:犯人=主人)

また、トリックや動機などを記載いただきます(自由に想像いただいて構いません!)と、それが反映される可能性があります。
※都合上、反映できない場合もございますので、予めご了承ください。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『二時間サスペンスは役者さんで犯人を当ててしまう方の』雪花菜 凛(きらず りん)です。

今回は、ちょっぴり耽美でミステリー風味なエピソードとなっております。
あくまで『風』ですので、探索を楽しんでいただき、勘で犯人を当てられたらラッキー!なシナリオです。
探偵気分で、パートナーと仲良く一時を過ごせていただけたらと思います。
探索や皆様の推理結果で、展開が七色に変わるシナリオですので、お気軽にご参加ください!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

※ゲームマスター情報の個人ページに、雪花菜の傾向と対策を記載しております。
 ご参考までにご一読いただけますと幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイヤ・ツァーリス(エリクシア)

  犯人=主人または事故。

ぼく、主人が窓の外に植木職人が書生にあてた手紙を投げ捨てて、それを取ろうとした書生が窓から落ちた。または職人が止めるのを知った書生が主人にとりなしをお願いしてもみ合った結果落ちたかだと思ってるんだ。
二人は表だって会話をしなかったみたいだから文通もありえるかなって。
だから図書室と書斎、離れの使用人室は見て回りたいな。
図書室は窓縁の高さとか本棚の上部、本の中を調べたいの。
書斎は手紙が主人に回収されてる場合を考えて。
使用人室は書生からの手紙や、植木職人から書生への手紙があるかも。

※緊張したりエリクシアや家族以外の年上を前にすると「~、です」というぎこちない敬語になります。



木之下若葉(アクア・グレイ)
  お屋敷の雰囲気を楽しもうと思って来たのだけれど、探偵気分も楽しそうだね
少し探索してみようか

2階の部屋に荷物を置いてまず庭へ
散策しながら植木職人が居たら話を聞こう
いや、ね
憎からず思って居たのならさぞや悔しいだろうなぁって

その後は当初の目的通りお屋敷内をふらふら
調度品を眺めたり、色んな屋敷の人達と話したりして

そうだ。離れの亡くなった本人の部屋も見に行ってみようかな

食事は食堂で食べるよ
大浴場で羽を伸ばしたら
夜はアクアと他愛も無い話をしながらのんびりと

そうだね。推理もしなきゃ
…自殺、だと思うよ
優しい人だったのだろう
自分が火種になるのが耐えられなかったんだ
犯人は彼自身
なーんて、ね
さて真実はどうなのかな


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ◆犯人=書生本人(自殺)

◆捜査
ツアーのパンフ(ガイド文)を一瞥し思案

各容疑者に死亡時刻付近の行動と物音等は聞かなかったかを聞く
*物音等があればその正体も推理に加味

死亡が転落による事も確認

◆推理
物音も話し声も無かったのだから、書生は一人だった

誰かが殺したなら諍いの声くらいあるだろ
落とされたなら悲鳴くらいあってもいいしさ
天気からして風の音等で音が消されることも無い

だから他殺とは考えにくい

自殺か事故死かというなら自殺だ
0時丁度なんてのは意図的じゃないとなかなか…な

それにパンフの最初に答えが書いてあるじゃないか
「その生命を断ちました」と
断たれたでも終えたでもなく「その生命を断った」んだから自殺だよ(笑



大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
  ガロンと手分けして情報収集
倒れていた場所・開け離れた窓、及び他の部屋の位置関係と、その内部の様子、遺留品・痕跡の捜索
書生の部屋の捜索

ガロンと卓球しながら調査報告&探偵役が居ればその人にも

モニターってもさ。
俺は名探偵の孫でも身体は子供頭脳は大人な高校生探偵でもないから、分かる気がしないんだけどっ!(カンッ

あ、後で大浴場行こう・・・ぜっ!(かーん


個人的に一番の線は犯人=書生、まあつまる所事故。
てのも二人が会話を交わす事はほとんどなかったってことから庭で見かけた植木職人に話をしようとしたけれど、廊下に出たら愛人とか主人が居たから窓から抜けだろうとして…?って線かなあ


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ミステリー読んだ興奮のままにツアーに
なんて僕も焼きがまわったかな…

ほらみろ!子供の教育に悪いだろうがっ(赤く
まったく何を考えてーー…え?
(まじまじと見つめる)

※探偵達と情報共有したい
図書室の中から窓の下まで現場をみ、書生の部屋も
事情聴取も全員に
何をして?前後で気付いた事は?


深夜に大浴場。湯上り鉢合わせ
大勢って風呂ってありえないし…(貧弱だし)
一人で入りたかったんだ
…しょうがないやつ
(頭も子供とかわらなそうだよな・微笑撫で)


図書室へ 推理を再現

書生の想い人か主人のどちらかなんだが

深夜二人きりで近づいても不審じゃないだろ
そのまま(押すふり)
書生は優しい人と聞く。あえて受けたとも身投げの線も…



●1.

「少し探索してみようか」
 木之下若葉は、パートナーのアクア・グレイに声を掛けると、庭へまず足を向けた。
 アクアは若葉の横を歩きながら、屋敷内を珍しそうに眺める。
「凄いお屋敷ですね、ワカバさん!」
「お屋敷の雰囲気だけでも、十分楽しめるな」
 若葉もまた、廊下の柱時計を見ては瞳を細める。
「雰囲気を楽しみながら、探偵気分も楽しそうだね」
 長い廊下を抜け扉を開けると庭へ出た。
 庭は見事な和風庭園で、手入れされた庭石や植木が美しい。
「綺麗ですね~!」
 月に照らされる白い庭石が鈍く光り、実に情緒ある風景だ。
 誘われるように庭をぐるっと回ってみる事にする。
 少し歩いた所で、アクアが若葉の袖を引いた。
「……植木職人さん、でしょうか?」
 そこには洋灯で手元を照らし、黙々と作業をしている青年が居る。
「こんばんは。夜遅くまでご苦労様です」
 若葉が声を掛けると、植木職人の青年は小さく目を見開いてから頭を下げた。
「……あんな事があって、庭が荒れてしまったので」
 あんな事、とは書生の死を指すのだろう。
「彼奴は……この庭が好き、でしたから……」
 か細く続いた言葉に、若葉は少し考えてから口を開いた。
「少し話を聞いてもいいか?」
 青年が頷き、三人は庭石に腰を掛けて、話をする事にする。
「いや、ね。……憎からず思って居たのなら、さぞや悔しいだろうなぁって」
 若葉がそう言うと、青年は口元に苦笑を浮かべた。
「殆ど、口を聞いた事も無いんですよ」
「お喋りした事が、無いのですか?」
 アクアの問い掛けに、更に青年は困ったように眉根をハの字に寄せた。
「彼奴とは……視線で語り合うっていうのかな……いや、そんなロマンチックな物ではなかったかもしれないけれど。
 けど俺は、あの笑顔を見れたら、それで……」
 『幸せだったんです』という声は声にならなかった。
 若葉とアクアは、暫くその彼の背中をそっと撫でていたのだった。


 その頃、セイヤ・ツァーリスとエリクシアは図書館へ来ていた。
「ここから……書生さんは落ちたんだね」
 窓縁の高さを確認しながら、セイヤは哀しげに瞳を揺らす。
 とても怖くて、凄く痛かったのだろう。
 想像するだけで身体が無意識に震えた。
 しかし、この高さだと、何かの弾みで落ちる……とは考え辛い。
 誰かに押されたか、もしくは自身で踏み出したか。
「セイヤ様、そちらは危ないですよ」
 エリクシアが優しくセイヤの肩を抱き、さりげなく窓縁から彼を離した。
「二人は表だって会話をしなかった……んだよね」
 セイヤは図書室を見渡しながら、考えつつ言葉を紡ぐ。
「そんな二人が仲良くする方法って……文通かなって、思うんだけど……」
「成程、文通ですか……ならば、手紙が何所かに残っている可能性がありますね」
 エリクシアはセイヤの言葉に感心したように瞬きしてから、口元を緩ませた。
「エリク。僕、この図書館の本棚の上部、本の中を調べたいの」
「畏まりました、セイヤ様。高い所は私にお任せください」
 エリクシアは優雅に一礼すると直ぐ様、本棚の上部の確認に移った。
 その姿に瞳を輝かせてから、セイヤもまた、低い位置の本棚の本を片っ端に捲っていく。
 黙々と作業を進め、暫くが経った時だった。
「セイヤ様! これを見てください」
 エリクシアが歩み寄ってくる。
 手には小さな紙片があった。
「本の間に挟まっていました」
「これって……」
「恋文、のようですね」

 -「恋しい」という想いがなかったら、きっと私は私ではなかったのです。-


●2.

「……少し、いいだろうか」
 若葉とアクアの慰めで、書生が落ち着いた頃、アキ・セイジとヴェルトール・ランスが歩み寄って来た。
「時間は取らせない。ニ点、確認したい事がある」
 ランスは青年に駆け寄ると耳打ちする
「無理なら、落ち着いてからでいいから」
 その気遣いの言葉に、青年は気丈に首を振るとセイジに視線を合わせた。
「俺に答えられる事なら」
「死亡時刻付近の行動を、まず教えて貰いたい」
「俺は……旦那様のお部屋に呼ばれていました。
 ……あんな事があったので有耶無耶になりましたけど、俺をクビにしたかったんだと思います」
『なるほど』とセイジは自分の手帳にペンを走らせ、
「二人でその時、物音などは聞かなかっただろうか?」
「何かが庭に落ちる音、がしました。……それから、執事さんの悲鳴が」
 あまり思い出したくないのか、その眉間に皺が刻まれた。
「それで、主人と一緒に庭に出たと」
「そうです」
 セイジは几帳面にメモを書き込むと、『ご協力感謝する』と丁寧に頭を下げる。
「邪魔して悪かったね」
 ランスが若葉とアクアに手を合わせた。
 アクアはそれに首を振り、若葉は軽く手を上げて応える。
 去っていくセイジ達を見送って、若葉は庭石から立ち上がった。
「俺達もそろそろ行こうか」
「大丈夫、ですか?」
 アクアが心配気に青年を見上げると、彼は小さく笑って頷いた。
「落ち着いたよ。……有難う。今は少し、一人になりたい」
 淋しげな微笑みを浮かべる青年に挨拶をし、若葉とアクアもまた、その場を後にしたのだった。


 大槻 一輝とガロン・エンヴィニオは、離れに来ていた。
 使用人の部屋と言っても、これだけの大きなお屋敷だ。
 書生の部屋、執事の部屋の他にも女中の部屋などがひしめき合っている。
「屋敷に比べると庶民的になるんだな」
 一輝はキョロキョロと辺りを見渡し、話を聞きたかった執事を発見した。
「お話をお伺いしたいのですけど」
「お客人方、如何されましたかな?」
 何所からどう見ても執事というオーラを纏ったその彼は足を止めると、にこやかに一輝とガロンを見つめる。
「お屋敷の方々について、貴方の主観で構いませんので教えて頂きたいのです」
 執事に負けないくらいの落ち着いた微笑でガロンがそう言い、目線で一輝を促した。
 頷いてから、一輝は執事へ口を開く。
「このお屋敷のご主人ですが、貴方から見てどのような人物ですか?」
「旦那様、ですか」
 言葉を選ぶように、執事は顎に手を当てる。
「とても厳格で、ご自身にも他者へも厳しい方です。そんな旦那様が、あの書生君が来て……みるみる変わりました」
「書生さんが来てから?」
 一輝の言葉に執事は深く頷く。
「書生君は、田舎の貧しい村の出身で……旦那様のご友人のツテで屋敷に住み込む事になりました。
 働き者で人好きのする、優しい青年だったのです」
「そんな書生さんと接する内に、ご主人は変わられたのですね?」
 ガロンの言葉に『えぇ』と執事は小さく息を吐き出した。
「旦那様へも物怖じせず、意見を言う勇気のある子でした。まずそこを気に入られたようです。
 その優しさに触れて、旦那様も良い方向へ変わる……そう思っていたのですが」
 愛情は独占欲へと変わってしまった。
 病的でもある干渉や束縛に、書生自身大変怯えていたと言う。
「愛は時に狂気を孕む、か」
 ガロンの呟きが、何所か低く辺りに響いたのだった。


●3.
 
「……男同士ってありなんだ」
 パートナーが真顔で言い放った言葉に、セラフィム・ロイスは反射的に、
「ほらみろ! 子供の教育に悪いだろうがっ」
 と叫んでしまっていた。
「んだよ!? 大声なんてめっずらしー」
 肩を跳ね上げた火山 タイガが、目を丸くしセラフィムを見上げる。セラフィムは難しい顔で眉間に指を当てていた。
(僕も焼きがまわったかな)
 ミステリー小説を読んだ興奮のままにツアーに参加してしまった彼だったが、激しく後悔していた。
 タイガの教育上、激しく良くないに違いないのだ。
「まったく何を考えて……」
「大体、子供って何だよ? オレ17歳だぞ! セラと変わんねぇだろ」
「え?」
 タイガの口から出た言葉に、セラフィムは思わず顔を上げて、マジマジとその顔や身体を見下ろす。
「?」
 タイガは不思議そうにその視線を受けてから、ビシッとセラフィムに指を突き付けた。
「いつか挽回してやっから!」

 気を取り直したセラフィムとタイガが、足を向けたのは愛人の部屋だった。
 まず、事件の関係者から話を聞いていこうという事になったのだ。
「可愛らしい探偵さん達。いらっしゃい」
 愛人は気さくな笑顔で二人を出迎えた。
 中性的な雰囲気や服装に、タイガは困惑しているようだが、余計な事を言わないようセラフィムは強く釘を刺す。
「何が聞きたいの?」
 妖艶に首を傾ける愛人に、セラフィムは気を引き締めながら質問を投げる。
「転落事件があった際、貴方は何所で何をしていましたか?」
「私はここで絵を描いていたわ。画家なの、私」
 描きかけのキャンバスを指して、愛人は笑みを浮かべた。
 この部屋から見える月だろうか?……煌々と輝く白い円形が描かれている。
「お一人で?」
「残念ながら。旦那様は来客があるとかで相手してくれなかったし」
 『来客については詳しく知らないわよ』と付け足し、愛人はソファに腰を下ろし、煙管を取り出した。
「事件の前後で何か気付いた事があれば、教えてください」
「そうねぇ……変わった事と言えば、あんな時間に植木職人君が屋敷内に居たって事ぐらいかしら? それ以上は思い付かないわ」
 煙管から立ち上る紫煙が、蛇のように空気に絡み上へと昇った。


「人形となりますが、ご容赦ください」
 スタッフの言葉に頷いて、セイジとランス、一輝とガロンはその人形を見下ろした。
 書生を模した人形は、思ったよりも外傷もなく綺麗なもので……但し、首だけがあらぬ方向への曲がってしまっている。
「死因は……やはり落下による頚椎骨折、ですか?」
「はい、その通りです」
 ランスの問い掛けに、スタッフは頷いた。
「それ以外の外傷は、ないみたいだなぁ」
 注意深く人形を観察してから、ランスがそう結論を口にする。
「着衣の乱れや落下以外での汚れも、なさそうだね」
 書生の服を確認しながら、ガロンが呟いた。
「夜間着でもなく、普通の服装だ。誰かに会う約束があったのだろうか?」
 セイジが考えるように瞳を細める。
「少なくとも、寝ようとしてた訳じゃないって事ですね」
 一輝も腕組みをして唸った。
 果たして、それは何を意味するのだろうか。
 物言わぬ人形は、静かに何処かを見つめている。


●4.

 若葉とアクアが離れを探索していると、とある扉の前でセイヤとエリクシアに出会った。
 互いに挨拶し、若葉が口を開く。
「ここって……書生の部屋?」
「は、はい、です」
 セイヤが緊張した様子ながらも、しっかりと頷いた。
「探したい物がありまして」
 エリクシアがその言葉を補足して言う。
「ワカバさん! ご一緒させて貰いましょう」
 アクアがそう若葉を見上げると、彼は小さく頷いた。
「俺達も調べてみようと思ってたんで、ご一緒させて貰ってもいいですか?」
「……勿論、です!」
 セイヤが頬を赤くして頷き、四人は書生の部屋へ足を踏み入れた。

 部屋は質素で狭いが、綺麗に整頓された、何所か居心地が良いと思わせる部屋だった。
「何を探すんです?」
 若葉の問いにセイヤが顔を上げて、緊張しながらも自分の意見を述べる。
「二人は表だって会話をしなかったみたいだから……文通もありえるかなって、思う、です」
「お手紙を探したらいいんだねっ」
 アクアが笑顔で頷いた。
「僕とワカバさんは、日記とかないかな~って思ってたんだ」
「ならば、日記と手紙を探してみましょう」
 エリクシアがにこやかにそう言い、探索が始まる。

「ありました……!」
 アクアの声が部屋に響き、三人はアクアの周りに集まった。
 書生の机の下にあった桐箱の中に、数多くの手紙が仕舞われていたのだ。
「これ、恋文……か?」
 手紙を開き、若葉が顎に手を当てる。
『貴方の事を、ただ遠くから恋焦がれるだけでいい』
『今日、貴方と目が合った。それだけで一日が幸せ』
『せめて、一言でも言葉を交わしたいけれど、それを望むのは……贅沢なのだろう』
 手紙には、そんな事が切々と書き綴られている。
「……日記、ぽい?、です」
「ここにあるって事は、お相手には渡していないのでしょうね~」
 セイヤとアクアが一緒に首を傾ける。
「そもそも、書生の手紙なのか……」
「書生さんの書かれたもの、と思いますよ」
 若葉の問いに、エリクシアが机の上にあったノートを開いてそう言った。
「これは書生さんの書かれた授業記録のノートのようです。この文字と、この手紙の筆跡は同じに見えます」
 それに、とエリクシアは懐から、先ほど図書室で回収した紙片を取り出す。
「セイヤ様と図書室で見つけた紙片、これも同じ筆跡と思われます」
 若葉はエリクシアから紙片を見せて貰うと、考え込むように瞳を伏せたのだった。


●5.

「モニターってもさ。
 俺は名探偵の孫でも、身体は子供頭脳は大人な高校生探偵でもないから、分かる気がしないんだけどっ!」
 カーン!
 一輝のラケットから放たれた白球が、反対側のコートへと踊り入る。
「なに、雰囲気だけを楽しむというのもアリだと言っていただろう。
 これはこれで面白いじゃないか」
 カンッ
 ガロンがにこやかな笑顔で、白球を打ち返す。
「セラ! あれ、すっげー面白そう!」
 タイガが爛々と瞳を輝かせるのを眺め、セラフィムは一言、
「卓球というスポーツだ。因みに僕はしないからな」
「えぇー!?」
 タイガが抗議の声を上げるが、セラフィムは関係ないという表情で手元の手帳を眺める。
 参加者一同が、撞球室に集まっていた。
 そこで情報交換が行われ、貴重な情報を得た。
「エリクシアさんの見つけた紙片……」
 セイジもまた、己の手帳で情報を整理しながら、考えに浸っている。
 その隣で、ランスもまた卓球に興味があるようでソワソワしているが、セイジの邪魔をしてはいけないと踏み止まっていた。
「あ、後で大浴場行こう……ぜっ!」
 一輝の渾身のスマッシュが打ち込まれる。
「悪くないな。煮詰まれば別の行動をしてみるとまた活路が見えてくるかもしれん」
 かーんっ
 しかし、ガロンは余裕すら感じさせる鮮やかなリターンを決めて、卓球対決はガロンの勝利に終わった。
 試合を見物していた一同が、パチパチと拍手で健闘を称える。
「ま、負けた」
 ぐったりと一輝が卓球台に倒れ込んだ。
「お疲れ様だな」
 ガロンは爽やかな笑顔で一輝に歩み寄り、タオルを掛けてやる。
「汗もかいたし大浴場にでも行こうか。自分で立てるな? 背負われるのは嫌だろう?」
「当たり前だっ!」
 一輝は根性で立ち上がると、ガロンと共に大浴場へと向かう。
 自然と大浴場へ行く者、そうでない者と別れ、その場は解散となったのだった。


●6.

「セラの奴、何所に行ったんだ?」
 深夜、タイガはセラフィムの姿を探していた。
「もしかして、風呂?」
 あの時、タイガは皆と一緒に大浴場へ行こうと言ったのに、セラフィムは頑として首を縦に振らなかった。
 一人で入りに行っているのかもしれない。
「セラ!」
 予想は当たっていた。
 大浴場の前で、出てきたばかりのセラフィムとかち合ったのだ。
「居ないからビックリしたじゃん」
「……一人で入りたかったんだ。大勢で風呂って有り得ないし」
(貧弱だし)
 セラフィムはタイガから視線を逸し、胸中で呟く。
 タイガはそんな彼をじっと見つめてから、徐ろに猫のように頭を寄せた。
「セラー構え~」
 撫でろ、という事だろうか。
「……しょうがない奴」
(頭も子供と変わらなさそうだよな)
 セラフィムは微笑むと彼の頭を撫でる。そして、
「ちょっと図書室へ付き合え」
 そう言ったのだった。

 図書室へ来ると、セラフィムは窓際へ寄り、タイガを手招きする。
「書生の想い人か、主人のどちらかと思うんだ」
 タイガが近くに寄ると、セラフィムは押すふりをしてそう言った。
「深夜二人きりで近付いても不審じゃないだろ?
 書生は優しい人と聞く。敢えて受けたとも身投げの線も」
 一方、タイガは至近距離の彼から視線が外せないでいた。
 長い睫。風呂上がりで濡れている髪が、何所か艶かしい。
(整ってるけど、男なんだよなぁ)
 そんな言葉の代わりに、タイガは質問を口にする。
「セラが同じ状況ならどうする?」
 セラフィムは少し驚いた顔をしてから、考えるように瞳を揺らした。
「書生と? ……全ての感情を知ってたら、想いを伝えて駆け落ちか、命をー
 いや、やめよう」
「自信ねぇ?」
「ないし、恋してない僕には言えないと思う」
 これはツアーだというのに。タイガは微笑んだ。
「了解。もし同じ目にあったら言えよ? 俺が助けてやる!」


「職人さんが辞めるのを知った書生さんがご主人にとりなしをお願いして……もみ合った結果、落ちたのかなって、思ってるんだ」
 ベッドの中でセイヤが紡ぐ言葉を、ベットサイドの椅子に座り、エリクシアは穏やか表情で聞いていた。
「どんな気持ち、だったのかなぁ……」
 瞳を潤ませるセイヤの髪を、エリクシアの優しい指が撫でる。
 お芝居だというのに……本当に心優しい主だと、そんな想いを込めて。


「自殺、だと思うよ」
 客室で寛ぎながら、若葉はアクアにそう答えた。
「優しい人だったのだろう。自分が火種になるのが耐えられなかったんだ。
 だから、犯人は彼自身」
 『なーんてね』と付け足し、少し寂しそうに苦笑する彼を見つめ、アクアはぎゅっとその手を握った。
「アクア?」
「少しの間、こうしてましょう!」
 そう言い、若葉の手を暫く握っていたのだった。


「個人的に一番の線は犯人=書生、まぁ詰まる所事故」
 ベッドで伸びをしながら、一輝はそう見解を述べる。
「てのも……二人が会話を交わす事は殆ど無かったって事から、
 庭で見かけた植木職人に話をしようとしたけれど、廊下に出たら愛人とか主人が居た。
 で、窓から抜けだろうとして……?って線かなぁ」
「服装の乱れ等も無かったし、俺もカズキの意見に乗る事にしよう」
 ガロンはにこやかにそう言うと、時計を見上げる。
「もう夜明けか。少しばかり休むとしようか」
「そだな」
「添い寝は?」
「いらねーよ!」


「彼……書生の自殺の意図をどう思う?」
 二人で大浴場の湯に浸かりながら、セイジはそうパートナーへ問い掛けた。
 ランスはうーんと天井を眺めてから、
「俺なら、好きな人を置いて自殺は絶対ないな!」
 きっぱりと言い切った。
 セイジは彼らしい答えに目元を緩ませると、『そうだな』と頷く。
「俺も、残された人の事を考えると自殺はしないな。
 困難な事でも、二人で一緒に乗り越えたいじゃないか……」
「セイジ! 俺達二人なら、何でも乗り越えられるぞ!」
「!? 手を握るな、バカ!」


●7.

 15時。
 1階の広間に舞台が設置され、書生を含めた役者達がそこに並ぶ。
「真相を発表致します!」
 推理の披露後、コンダクターが一言声を上げると、舞台の照明が落とされた。
 七色の照明が、舞台上の役者達を照らしていき、最後にその犯人を指す。
「犯人は、僕です」
 前に踏み出たのは書生だった。
「僕は……植木職人の彼を守りたかった。旦那様がクビにする原因は僕。
 僕が彼を好いたから。
 僕さえ居なくなれば、彼はクビにならなくて済む……そう思ったんです」

「ワカバさん、凄い! 当たりましたよ~!」
「そーみたい、だな」
「大当たりです!」
 笑顔で褒めるアクアに、若葉は照れくさ気に小さく微笑んだ。

「セイジ、流石だな!」
「別に、この程度の事……」
 満面の笑みを向けるランスから、セイジは居心地悪そうに視線を逸らす。
「何なら、もっと褒めていいぞ」
「止めろ、ランス!」
 ガシガシと頭を撫でられ、セイジは必死にその手から逃れようとする。

「身投げの線、だったか」
「惜しい所行ってたよな、セラ!」
「あぁ。……しかし、身投げする程の想い、か」
 物思いに耽るセラフィムに、タイガは頭を寄せて撫でろ催促したのだった。

「書生さん、だったの……自分でなんて……」
 想像して瞳を潤ませるセイヤの肩に、優しいエリクシアの手が掛かった。
「書生さんの想いは、主人にも植木職人の青年にも、きっと伝わった筈です」
 セイヤは涙を拭いながら頷く。

「動機の線は残念だったけど、犯人は当たったね」
「あーちくしょー」
 少し悔しそうにする一輝を見て、ガロンは楽しそうに微笑む。
「俺からカズキに花マルをあげよう」
「いらねーよ」

 楽しいミステリーの時間、お楽しみ頂けましたか?

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:木之下若葉
呼び名:ワカバさん
  名前:アクア・グレイ
呼び名:アクア

 

名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル サスペンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月30日
出発日 04月05日 00:00
予定納品日 04月15日

参加者

会議室

  • [8]セラフィム・ロイス

    2014/04/04-01:37 

    って、僕は何を間違えてるんだ。「一日をきった」の間違いだな。すまん

  • [7]セラフィム・ロイス

    2014/04/04-00:43 

    ああ、よろしく

    そうだな、もう一時間きったし
    各自みせたい場面を中心にでもいいかな。ツアーだし
    一応、「探偵達に情報はみせる、共有したい」ぐらいは書くつもりだ

  • [6]セイヤ・ツァーリス

    2014/04/04-00:10 

    ぎりぎりで参加になっちゃった、ですっ。
    参加できてよかったあ……。

    あ、えと、セイヤ、です。よろしくお願いします。
    ミステリー楽しみだなー。

  • [5]セラフィム・ロイス

    2014/04/03-21:47 

    ううーん・・・1組じゃやること多すぎやしないかと思ってさ
    某アニメ探偵団の影響もあるかもしれない
    確かに自由にとあるし個人でやっていいかもな

    現場検証、屋敷探索、事情聴取、夜間見張り(?)
    尾行、トリック実践、+パートナーとの交流
    など考えていたら探偵するとなると披露も含め文字数が・・・

    やりたいを絞って書けばいいのかな・・・?
    情報共有だけでもするか?探索だけでも助かる(二度手間防止)
    皆がよかったらで構わない

  • [4]木之下若葉

    2014/04/03-21:16 

    皆、こちらこそ宜しくだよ。

    >相談
    どうだろう。
    『探偵気分で、パートナーと仲良く一時を過ごせていただけたらと思います。』
    と書いてあるしそれぞれのペースでも大丈夫な気はする、かな?

  • [3]セラフィム・ロイス

    2014/04/03-02:14 

    どうも。セラフィムだ
    ・・・・・・タイガがぶつぶつ言ってるが。まあ、よろしく頼む
    推理サスペンス、愛憎劇にあたるんだよな・・・これは
    そうだな。乗って楽しむのも一興か

    ところで相談は・・・なくてもいいのか?

  • [2]アキ・セイジ

    2014/04/03-00:16 

    アキ・セイジだ。
    ミステリーのムードも楽しみたいと思ってる。よろしくな。

  • [1]木之下若葉

    2014/04/02-22:20 

    さて、まだ俺一人しかいないけれどこっそりと。
    木之下若葉と申しますよ。
    もしこれから一緒になる方がいらっしゃったらどうぞ宜しく。

    真実は何処にあるのだろうね?
    それはプランが返って来てからのお楽しみだけれど、何だろうね。
    ちょっぴりわくわくしてしまうよ。


PAGE TOP