【祝福】不憫精霊座談会(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

イベリン領内のA.R.O.A.支部。
手続きのため、別室に入っていった神人を見送って精霊は「はぁ……」と溜め息を漏らした。
(なんか最近、ロクな目に遭ってない気がする……)
デミ・オーガにズボンを食い破られて下着がまる見えになったり、発狂した神人に「死んで」と襲い掛かられたり。
女装もさせられたし、不味い料理を食べさせられたり、バニーの変装をさせられたり……。
(おかしいな。ウィンクルムって、もっと格好良いものじゃなかったっけ?)
世では英雄とも扱われるウィンクルム。
しかしてその実態を思い浮かべてみると、なんだか遠くを見るような目になってしまう精霊である。

もう一度溜め息をつこうとした時だ。
「はぁ……」
すぐ隣から溜め息が聞こえた。
隣に立つ別の精霊に目をやる彼。目と目が合った。
そしてその瞬間、何かが通じ合った。

――お前も、か――

言葉にしなくても、その身にまとった不憫オーラは隠しようがない。
きっと彼も、苦労をしているのだろう、色々と。そう、色々と。

互いに溜め息を付き合って苦笑を浮かべあう、不幸精霊ズ。
そして彼らはどちらからともなく言った。
「一緒にメシでも食いにいかねぇ?」
それが更なる悲劇の幕開けだとは、彼らはまだ気づいていなかった。



一方の神人。
精霊と別れて手続きをしていたら、精霊がやってきて「ちょっとコイツらと飯食ってくる」と言う。
普段はパートナーとして頑張ってくれている彼だ、たまには男同士で語り合う時間も必要だろう。
快諾をしてみたものの、少し暇になってしまった。
(さて、どうしましょうね……)
ふとその時、彼女は隣に立つ別の神人と目が合った。
そしてその瞬間、何かが通じ合った。
「あら、貴女も?」
そして彼女達はどちらからともなく言った。
「ねぇ、女子会しない?」
そうと決まれば話は早い、彼女達は早速美味しいお店をリサーチしはじめた。



さて、再び視点は精霊達に戻る。
何となくの流れで一緒になった精霊達と、何となくの流れで入った店。
「空いてて良かったな。昼時だからどうなるかと思ったが……」
そう、その時点で気づくべきだったのだ。
けれども精霊達は何の疑いもなく席につき、メニューを注文してしまった。
ハンバーグ定食、唐揚げ定食、それからシェフのオススメ弁当などなど。
程なくして料理が運ばれてくると、精霊達は一斉にナイフとフォーク、又は箸に手を伸ばした。
「いっただっきまーす!!」
そして料理を口に運んだ精霊達。
「…………」
何というか、その。すーぱーでんじゃらすな味。
ハッキリ言って……うん、そうだね。マズイよおかーさん。

あまりの衝撃に料理を口から出してしまおうと思って精霊は気づく。
店主が鬼のような形相でこちらを見つめていることに。
あの店主、その辺のギルティよりもヤバいオーラが出てるんじゃないか……?
そして彼らは悟る。
――この料理、完食するしかない――
半泣きになりながらマズメシを口に運ぶ不憫精霊ズ。
だが、食べているうち何だか不思議な変化が彼らに起きた。
「聞いてくれよ、俺、このあいださぁ……」
「そうそう、オレもさー」
「そういえば儂も先日……」
ポツリポツリと日頃の理不尽な出来事について話し出す精霊達。
そう、このマズメシには、祝福を受けたプリムラのエディブルフラワーが混ぜ込まれていたのだ。
ある気持ちを素直に伝えたくなる作用を持つ、祝福を受けた花。
料理に混ぜられた花の効用は、そう……グチを言いたくなる。
そんな訳で、でんじゃらすな料理を囲んだ精霊達のグチ大会は続く。



一方の神人達。
A.R.O.A.支部の職員から聞き出した美味しいお店。
非常に混む店だが、職員のコネを使ってもらって予約を取ることもできた。
久しぶりの女子会とあって、はしゃぐ気持ちのままに言葉を交わしつつ店に入った神人達。
「上手く席を取れてよかったわねー」
お洒落な店のスタイリッシュなメニューを眺めながら料理を決め、注文する。
程なくして料理が運ばれてくると神人達はめいめいカトラリーを手に取り、食べ物を口に運んだ。
「んーー。美味しいっ!」
見た目も良ければ味も良し。
特に、この色とりどりの花が散りばめられたエディブルフラワーのサラダは最高だ。
品良く取り分けつつも、サラダに夢中になっていた神人達。
「そういえばさ、うちの精霊……」
ポツリと一人の神人が、自分のパートナーの精霊に対して日頃から思っていることを口にする。
「あー。そういえば私のところの精霊も……」
「うんうん、そうそう。ウチのなんか……」
そう、このエディブルフラワーのサラダに使われていた花は
ある気持ちを素直に伝えたくなる作用を持つ、祝福を受けた花。
料理に混ぜられた花の効用は、そう……精霊に対する評価を言いたくなる。
そんな訳で、精霊抜きの女子会は続いていく。

解説

各お店で、女子会および男子会がスタートしたところから描写がスタートし
会がお開きとなった時点で描写が終わります


●やること
神人
 女子会
 美味しい料理を食べる
 精霊に対する素直な評価を語り合う

精霊
 男子会
 マズイ料理を食べる
 最近あった出来事に対してグチを言い合い、慰め合う


●注意1
このエピソードでは神人と精霊は一切出会いません
女子会と男子会で完全に分かれていますので、自分のパートナーと会話をすることはできません

●注意2
題名の通り、不憫な精霊達が互いの傷を舐めあうことがメインです
そのため、描写としては精霊のほうに主力を置こうと思っています
もしウィッシュプランの文字数が足りないようでしたら、
今回のエピソードに限り、アクションプランで補足をしても構いません
但し、それがウィッシュプランの補足であることが分かるようにしておいてください


●消費Jr
神人および精霊の飲食代として、一律300Jrをいただきます

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

何か酷いタイトルですね、はい。
そして久しぶりのメシマズです。
楽しみですね、精霊さん達にはどんな酷い料理を食べてもらいましょうか……。
リクエストがあればプランにて記載をお願いします。

楽しい座談会になることを祈りつつ。
よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

かのん(天藍)

  本日のお薦めランチ彩り鮮やかで美味しそう
神人だけで食事の機会は初めて少し緊張
基本他の神人の話を聞く
間が空いたら少し天藍の事を
言い方はそれぞれでも皆さん精霊さんが大切なのですね

天藍に対し
当人無自覚の惚気
優しい方です
隣で笑みを向けてくれたら大抵の事は2人で何とかできるような気がして
自分が守ると言ってとても大事にしてくれるのですけれど、私も同じように天藍を支えられたらと思うんです
(にっこり)

以下ウィッシュ補足
注文した日替わり定食
一口食べサバイバル訓練の一環だと切り替え
食えりゃ良いの方向で黙々と食べる
他の精霊の愚痴にはまず同意、共感
それぞれ苦労しているんだなとしみじみ
絡まれたらそれとなく他の精霊へ流す



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  こ、これが女子会という物か・・・。
何を話せばいいのか・・・。(そわそわ)

<行動>
・初の女子会に緊張しながらも、料理を楽しむ
・恋バナに興味しんしん
・「えっと、アモンについてか?そうだな・・・」
「はっきり言って乱暴だし、デリカシーがないし、いつもからかってばかりなのが嫌だ!」
「それと・・・時々何か隠し事をしている様な顔をする」
「でも、そんな彼にいつも助けられたりしているし・・・優しい部分もみせてくれる」
・まさに恋する少女の顔をしながら「私はそうゆう彼が好き・・・はっ!?」
「ちちちっ、違うぞ、今のはその!確かに好きだけど!うああっ、違うそういう意味じゃ・・・!」(赤面&パニック)

※アドリブOK!



水田 茉莉花(八月一日 智)
  おいっしーっ!
いいところ見つかって良かったわねー♪

うーん…ほづみさんの評価ねぇ…
普段会社で仕事してるときはマトモなのよねぇ…
スマホアプリを作る仕事してるんだけど
ちゃんとプロジェクトはこなしてる…かな?
ただね…ご飯関係になると目がないって言うか
ウインクルムの依頼はね、何か食べられるモノがあると
俄然張り切るのがねー
ゲンキンって言うかわかりやすいって言うか…(たふり)
ねえ、みんなはどうかしら

ウィッシュ補足
食材を無駄にするのは嫌いな方なので
卓上の塩コショウを振ってでも食べ尽くす
パスタやランチプレートなどの一皿料理大好き
食後は紅茶派、ミルクたっぷりが好き
入っているのがポーションミルクだと「解せぬ」となる



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  折角のおいしいご飯ですし、楽しくお話もしたいです
そういえば…かのんさんは天藍さんとお付き合いされているのですよね
少し興味がありますし、皆さんのお話も聞ければと思います

え、ラルクさんの良いところ、ですか?
…困りました、咄嗟に思いつきません
少し考えて見ますのでと、他の方を促す
他の方の話を聞いて、ラルクさんの事を考えて気付いたこと、は
私は、あの人の眼が好きなんだと思います
私を探して、引っ張り出そうとするあの眼
ただ、優しさではなくて別の何かを感じるんですが…と最後にぽつり

惚気にはあらあらご馳走様ですと笑って返す

○精霊補足
店員の殺意を感じ、最終的に押し付けられたものは完食
覚えてろよと呪詛の言葉をもらす


ファルファッラ(レオナルド・グリム)
  ここのお料理美味しいね♪デザートもあるのかな?
…みんなはちゃんと女の子扱いされてるんだね。
パートナーの事をすごく楽しそうにお話ができてて羨ましい。
レオは私のこと女の子扱いどころか子ども扱いするんだから。
私のお菓子とか「虫歯になる」ってすぐ隠すし…。
年齢的にはそんなに子供じゃないと思うんだけどな…レオとの年が離れてるから、かな?
レオはすぐに大人をからかうな~って言うけどからかってるつもりはないんだけどな…。
慎みとか恥じらいをもてとかは言われたけどやっぱりそれが必要なのかな?
別に私はレオに保護者になってほしいわけじゃないのに。

レオの書いてる本が読めるくらいには成長してるつもりなんだけどなぁ…ダメ?


●座談会開幕

 この店で食事をするのは多分今日が最初で最後だ。だからこの日替わり定食が、実は毎日同じものだったとしても知ったことではない。
 そんな訳で日替わりであることに意義を見出せぬ日替わり定食のメイン。何故か酸っぱい唐揚げを、無我の境地で黙々と咀嚼する天藍。
(これはサバイバル訓練、これはサバイバル訓練……)
 腹に入ってエネルギーになりさえすれば何でもいい。
 そう割り切ってはみたものの、爽やかさを華麗に飛び越えた酸味は刺激臭となって、容赦なく天藍の鼻腔を攻撃する。滲む視界に目をしばたたく天藍。
 そんな天藍を横目で見つつ、ラルク・ラエビガータはゴム板のような生姜焼きを半ば強引に喰いちぎった。
「ヤバくないか、ここの料理……」
 呟いたラルクのうなじの毛がそそけ立つ。店主が発する殺気を感じたためだ。生姜ばかりが主張して舌に痛い塊を強引に飲み込んで、ラルクはがっくりと肩を落とした。
「クソッ、あの女がいない飯時にすら平穏を求めちゃいかんのか……!」
 あの女とは当然、ラルクのパートナーたるアイリス・ケリーのことだ。
「女装させられて女装させられて山ほどケーキ奢る羽目になってんでもって、女装させられて挙句にどこで買ってきたのか知らんがピンクレースのボクサーパンツまで履く苦痛まで味わったってのに!」
 女装、女装、女装。己の性を無視される苦痛を平然とラルクに押し付けるアイリス。Irisの『S』はドSのSに違いない。
 パートナーがいない時くらい平和に食事をしたいというラルクのささやかな願いを木っ端微塵に粉砕した料理を眺めながら、恨みがましい目でメンバーの顔を見回すのはアモン・イシュタールだ。
「誰だよ、この店選んだ奴……」
「誰というか……なんていうかついてない時はとことんついてないもんだな」
 アモンの言葉に穏やかに答えるレオナルド・グリム。誰が選んだというか、誰からともなく「あ、あそこに飯屋があるじゃん」みたいな感じになったのだ。全員の目にこの店の看板が飛び込んできてしまったのは、不運としか言いようがない。
「要するについてないんだよな……全員」
 レオナルドの言葉に諦めの溜め息をついて、アモンは目の前の紫色の物体を口に運んだ。魚の香草焼きとあったが、普通は香草によって打ち消される魚の生臭みが、何故か100倍くらいに強調されている。しかも何か苦い。
「……」
 思わず一瞬眉を寄せて、アモンはできるだけ噛まないようにして魚らしきものを胃の中へと送り込む。
(スラム時代の食生活に比べればまだ食える方……食える方……)
 あの頃口にした、腐りかけの食べ物の味を思い出してアモンは自らにそう言い聞かせた。がっくりと、垂直降下するテンション。
「なんかもう逆にストレス増えないか、これ?」
 雨が降り出す直前の梅雨空のように暗い表情でアモンが呟けば。
「どこをどう間違って味付けされたのかが分かる料理って結構堪えるモンがあるよな、うん……」
 本来ならば食べ物を前にすれば俄然テンションが上がるはずの八月一日 智もまた、どんよりとした顔でそう答えた。



●女子会スタート

「本日のお薦めランチ、彩り鮮やかで美味しそう」
 日替わり定食と本日のお薦めランチ、命名は違えど性質は同じである。が、何故にそこに天と地ほどの差が生まれたのだろう。
 グルメ雑誌から飛び出してきたようなランチを前にかのんがわくわくとカトラリーを手に取る。
 その向かいでは早速最初の一口を口にした水田 茉莉花が自らの頬に手をあてて満面の笑みを浮かべていた。
「んーおいっしーっ!」
 やたらと食い意地の張っている智をパートナーに持つ茉莉花にとって、食べ物に関わる話題はありふれたものであるが、こうも心まで染み入る料理に出会えることは、そう多くはない。
 幸せそのものの表情で料理を口に運ぶ茉莉花に笑って頷くファルファッラ。
「ここのお料理美味しいね。デザートもあるのかな?」
 いつも口うるさいレオナルドがいない隙に甘いお菓子をたらふく食べてしまおうと、ファルファッラは首を傾げる。
 そんなファルファッラの呟きにいち早く反応したのはリオ・クラインであった。
「あるんじゃないか?あ、ほら。ここにスイーツメニューが……」
 ランチメニューより一回り小さく一回りぶ厚いメニューを差し出しながら言うリオ。
 女子会なるものが初めてのリオは、他の4人に比べ少し落ち着かない様子を見せていたが、料理を口にすれば、たちまち緊張も解けてゆく。
 穏やかな笑みを見せるリオにアイリス・ケリーが優しく笑って言った。
「折角のおいしいご飯ですし、楽しくお話もしたいですね」



●落ち込む男子

「最近どうも、ついてない……」
 溜め息と共にポツリと呟く天藍は、その料理にグチを言いたくなる花が混ぜられている事には気づいてない。
「面目がないというか精霊としての沽券に関わるというか、な」
 某研究所から貰った強化剤のせいで錯乱して大暴れしたり、教団員に易々と誘拐されてしまったり、ダリアに寄生されてかのんの首を絞めようとしたり……。
「何よりもかのんを守り支えたいと思ってるはずなんだが、何かここの所立場が逆転しててな」
 特に自分が誘拐された件が、天藍の自尊心にとっては致命的だった。
 天藍を誘拐した教団員というのが教団のみならずA.R.O.A.からさえも『使えない』認定を受けた、いわゆる出来損ないの教団員だったからだ。そんな相手にホイホイと誘拐された挙げ句、まるで眠り姫のようにかのんの口づけで目覚めさせられたとあっては、少々情けない。
 そうして密かに危機感を抱いていれば、今度はウェディングドレスを着たかのんに殺されかけ、天藍の心はもはや傷だらけである。
「このざまだと精霊の存在意義が無いだろう」
 精霊として以前に一人の男として、このままではマズイと溜め息を漏らす天藍を、マズイの単語だけを聞き取った店主がジロリと睨む。
「ほ……他は最近どうだ?」
 背筋が凍りつくような視線に、慌てて唐揚げを口の中に放り込んで、天藍は他の精霊へと話を振った。
「そういえばオレも頼られてないな……」
 振られた話題を引き継ぐアモン。
「うちのお嬢様が最近、オレに対してよそよそしくてよー。急に真っ赤になって怒り出したり、何かと距離をおこうとするし」
 何が怒りのスイッチになっているかも分からないが、妙に避けられているせいもあり、リオの考えが読めないとアモンは文句を言う。
「何考えてんのか知らないが、あいつはたまに無茶するからな……。もっとオレを頼れよ、あのお嬢は」
 悪態の裏側にある温かな気持ち。だが、それが空回りしてしまうからこそ辛いのだ。
 状況に違いはあれど、どことなく似通った状況に、天藍とアモンは同病を相憐れみながら深い深い溜め息をついた。

 一方、偶然にも天藍とアモンの間に座っていたラルクは、二人が落胆の穴の中に沈んでゆくズブズブという音を、ステレオで聞きながら思った。
(これは無自覚の惚気じゃないか?)
 天藍もアモンも、パートナーの前では男らしく格好良くあろうとしている。つまり彼らは、多かれ少なかれ神人から頼れる存在だと認識してもらいたいと思っているのだ。
 そして第三者から見れば、彼らのパートナー達も、それなりに良い感じであるようにしか見えない。
「……」
 男としての沽券に関わるというのはラルクにも共通する状況であるが、何だか納得が行かなかった。
「……よし、二人には俺の分の飯を進呈しよう」
 ちょうど、あと2枚残っていた生姜焼きを天藍とアモンの皿に一枚ずつ放り込むラルク。
「おい、やめろ」
 割と本気の怒気をはらんだアモンの視線をしれっと受け流し、ラルクは言う。
「ありがたく頂戴してくれ、美味いだろ?」
「……」
 ギルティよりもヤバい殺気を放つ店主の前では、まさか不味いから要らないなどとは言えない。対抗手段を見失って、ぐぬぬと唇を噛むアモン。もう一人の被害者である天藍は、迷惑そうに眉を寄せつつも、黙々と食事を続けている。これは諦めるより他がないのかと、アモンはもう何度目か分からぬ溜め息をついた。
「……はぁ」
 そんなアモンと同時に溜め息をついた者がいた。智である。
「そーいやおれ、最近みずたまりにぶん殴られてばっかりだなー」
 まさかDVではなかろうかと、少し心配そうな視線を智に向ける他の精霊達。
 白くふやけて歯応えも弾力もないパスタに、テーブルの上の塩とコショウを大量に振りかけて、それを水と共に無理矢理飲み下してから智は続けた。
「あ、そうそう。おれ、会社の動画配信事業をやってるんだけどさー。それのアシスタントにみずたまり起用して殴られたろ。それから年末には、勝手に旅館予約して殴られたし、依頼は喰い物関係だとすぐ飛びつくって殴られるし……」
 殴られた経験を指折り数える智に、ラルクは自業自得だろうと、そっと目を逸らす。話に聞く限り、智と茉莉花の間には報告・連絡・相談が足りていない。
 そんなラルクの思いをよそに、智は不満げにパスタをつつく。
「クリスマスには、みずたまりのパンツを勝手に持ってって殴られたし、パンツ丸見えになっても気にしなかったら殴られたし……」
「パンツって……一体何があった」
 智の言葉に実にさりげなく含まれていた不穏な言葉に反応して、眉を上げるアモン。
「あー。洗濯物の中から、ちょっと拝借したのと、デミ・ワイルドドックにズボンを食い破られたんだ」
「……」
 後者ならともかく、前者をされて怒らない女性がいたとしたら、その女性は頭のネジが少し飛んでいるに違いない。アモンはそう思ったが、咄嗟には上手い言葉が思いつかずに口を噤んだ。代わりに、まだ皿の上に残っていた紫色の魚と、先程ラルクに押し付けられた生姜焼きを智の皿に放り込む。
「よし、智あんたが食え。たくさん食わないとでかくならねぇぞ?」
「って、おれの所に集めンなよお前等!」
 そう叫びつつも、食い意地が張っているが故に食材を無駄にするのを嫌う智は、何とかそれらを食べる構えだ。
「別にいーんじゃね?と思うんだけどナー、パンツぐらい……あ、そういえばパンツ丸見えの時一緒だったよな、グリム!」
 強烈に舌を刺激する生姜の風味に目にうっすらと涙を浮かべていた智。パンツ絡みでそんな事を思い出し、それまで黙って聞き役に徹していたレオナルドへと話を振った。
「そういえばそうだったな。……うちの神人は、俺がパンツ一丁で戦ってても視線さえそらさらないが」
 パンツを見て恥ずかしがって殴るくらいならまだ良い、レオナルドはそう言って溜め息をつく。
「俺からしたらお前さんたちのパートナーはみんな素敵なお嬢さんだよ。うちの神人は世間知らずというか感覚が人とずれているというか……」
 癖のある依頼ばっかりうけてくるし、パンツがまる見えでも視線さえそらさらないし、と神人の日頃の行動を上げ連ねるレオナルド。
「女の子らしい恥じらいがないというか。子供だから仕方ないのかもしれないが今のままでは先が心配で心配で……」
「分かる気がする」
 レオナルドの言葉に深く頷いたのはラルクだった。
 アイリスは既に女の子という歳ではないが、女性らしい可愛げのある恥じらいを見せないという意味ではファルファッラに似ている。
 そんな神人をパートナーに持つラルクやレオナルドからすれば……
「お嬢さんらしいお嬢さんがパートナーだなんて……俺からしたら羨ましい話だ」
 再び深く頷くラルク。もやは完全に同類認定しているラルクの視線を受けながら、レオナルドはボヤいた。
「だからって子供扱いするとすねるしな……どう扱っていいのか正直わからん」
 その辺りの可愛げは、まだファルファッラの方が勝っているようである。
 ラルクがほんの少し傷ついた顔をして、アモンと天藍そして智が、どことなく同情するような視線をラルクに向けた。


●花咲く女子

「うーん。ほづみさんねぇ……」
 料理を食べ終え、デザートを待つ間、茉莉花が天井から吊るされたランプを見つめて小さく唸る。
「普段会社で仕事してるときはマトモなのよねぇ……」
 智の仕事はスマホアプリを作ることなのだが、プロジェクトをこなしていくときはきちんとしているのだと茉莉花は他の神人達に説明する。
「ただね……ご飯関係になると目がないって言うか、何か食べられるモノがあると俄然張り切るのがねー」
 ランプを見つめたまま、どこか遠くを見るような表情を浮かべて、ふふりと笑う茉莉花。
「ゲンキンって言うかわかりやすいって言うか……」
 食い意地が張っている。世の人は智のような人物をそう評するに違いない。
 一つ溜め息をつき、茉莉花はランプから神人達へと視線を戻す。
「ねえ、みんなはどうかしら?」
「え、ラルクさんですか?」
 茉莉花の問いに、戸惑ったような声を上げたのはアイリスだった。
「……困りました、咄嗟に良いところが思いつきません。少し考えて見ますので……」
 しれっと、何気に酷いことを口にして、アイリスは会話の主導権を隣に座るリオへと受け渡す。
「えっと、アモンについてか?そうだな……」
 急に話を振られて思わず慌てたリオだったが、考えるうちにその眉根がきゅっと寄せられた。
「はっきり言って乱暴だし、デリカシーがないし、いつもからかってばかりなのが嫌だ!それと……時々何か隠し事をしている様な顔をする」
 特に隠し事は考えが読めないから嫌なのだと、計らずもアモンと同じグチを零すリオ。
 ついつい視線を下に向け、リオはテーブルの上のコップを見つめながら続ける。
「でも、そんな彼にいつも助けられたりしているし、優しい部分もみせてくれる。私はそうゆう彼が好……はっ?!」
 白磁のような頬をほんのりと桃色に染め、夢見るように呟きかけたリオだったが、興味津々の態で自分を見つめている神人達に視線に気づき、大慌てで言葉を切った。
「ちちちっ、違うぞ、今のは!!その、確かに好きだけど!うああっ」
 弁明しようとして、かえってどつぼにはまり、ジタバタともがくリオ。そんなリオを優しく見つめながらアイリスが笑う。
「あらあらご馳走様です」
「違うそういう意味じゃ……!」
 アイリスにトドメを刺され、リオは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
 撃沈してしまったリオに変わって、次の惚気を披露したのはかのんである。
「天藍は……優しい方ですね。隣で笑みを向けてくれたら大抵の事は2人で何とかできるような気がして」
 少しも恥ずかしがることなくそんな事を言うのは、これが惚気であるとは無自覚であるに違いない。
 空回り気味ではあるものの、天藍の温かな思いにしっかりと包まれたかのんは、幸せそうに微笑んで言う。
「自分が守ると言って、とても大事にしてくれるのですけれど……私も同じように天藍を支えられたらと思うんです」
 相手を支えたい、天藍と同じ言葉を口にするかのん。その姿は、相思相愛そのものと言っても過言ではなかった。
 そんな二人の微笑ましい様子を見ていたアイリスが、ふと口を開く。
「他の方の話を聞いて、ラルクさんの事を考えて気付いたこと、は……私は、あの人の眼が好きなんだと思います。」
 眼とはどういうことかと訊ねる視線に、アイリスはラルクの赤い瞳を思い浮かべた。
「私を探して、引っ張り出そうとするあの眼……」
 その眼に見つめられているかのような表情を浮かべるアイリス。その姿に、可愛げない仲間のファルファッラが溜め息をつく。
「……みんなはちゃんと女の子扱いされてるんだね。パートナーの事をすごく楽しそうにお話ができてて羨ましい」
 私のこと女の子扱いどころか子ども扱いをされると頬を膨らませるファルファッラ。その姿は実年齢に比較して、とても幼く見えた。
「年齢的にはそんなに子供じゃないと思うんだけどな……レオとの年が離れてるから、かな?」
 レオナルドに保護者になってほしいわけじゃない。
 ファルファッラはそう言って不満を漏らすが、結局のところレオナルドの態度の根底には、アモンや天藍と同じく、優しさがあるのだろう。
 そう考えたアイリスが、誰にともなくポツリと漏らす。
「ラルクさんのは、優しさではなくて別の何かを感じますね……」
 アイリスの言葉に、茉莉花が少し不思議そうに首を傾げた。


●食後はいかが?

 ギルティよりも恐ろしい殺気を放つ店主の監視のもと、どうにかこうにかメニューを完食しきった精霊達。
 一縷の望みを託したドリンクメニューですら、破滅的な味だったのは痛かった。
 やたらと苦くてやたらと酸っぱく、それでいて香りの薄いコーヒーに投入されていた大量の砂糖を思い出しながらレオナルドがぼやく。
「そういえば、ウチの神人はなんにでも砂糖投入するんだが、あれはかんべんしてほしい……」
 ものによっては砂糖と相性の良くない食材もあるにはあるが、この店の料理の後では可愛く思えてしまう不思議。
「まぁ何だ……。それでも嫌で嫌でたまらんという訳ではないからな……」
 口の中にザラリと残る砂糖の感触を、唯一無事だった水で流し込んでレオナルドは言った。
「そうだな、面目がない状況ばかりだが、愛想を尽かされている訳でもないし……」
 その言葉に頷く天藍。支えているという実感は得られずとも、それは裏を返せば、天藍もまたかのんに支えられているということだ。
 どちらかが一方的に頑張るよりは、二人で共に支えあうくらいがちょうど良いのかもしれない。
「確かにな。……考えが読めないが、悪い感じがするわけでもないしな」
 とアモン。
 もたつきを感じないといえば嘘になるが、心のどこかに、きっと何とかなるという気持ちもある。
 そんなアモンの隣で、智が大きく伸びをして言った。
「まー殴りはするけど、みずたまりだって本気で駄目って訳じゃないし」
「そうだな……俺も、あの女がなんやかんや言って俺にベタ惚れだってのは知ってはいる」
 天藍やアモンの惚気に敵愾心を見せていたくせに、最後の最後でしれっと惚気るラルクである。

 不憫な精霊達の不憫な昼食会。
 精霊達が出ていった後の店で、店主が一人ほくそ笑みながら呟いた。
「たまには愚痴を言い合うのも、互いの結束を強くするしな……がんばれよ、若造共」



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 06月24日
出発日 06月30日 00:00
予定納品日 07月10日

参加者

会議室

  • [24]リオ・クライン

    2015/06/29-23:57 

  • [23]水田 茉莉花

    2015/06/29-23:10 

  • [22]かのん

    2015/06/29-21:45 

    まぁ、アレだ
    ウィンクルム何かやっていると、たいした装備がない中で野営が必要な時があるかもしれない、何でも食べるというのはサバイバルの基本だろう
    (その手の訓練だと思って諦めろ、と智の肩叩く)

    とりあえずここの流れ見ながらプランは送ってみた
    ……どう転んでも(精霊側は)不毛だよな、これ

  • [21]アイリス・ケリー

    2015/06/29-21:33 

  • [20]水田 茉莉花

    2015/06/29-21:04 


    やめrー!(ふがもが)
    おれは喰いモンに関しては妥協しない方なんだ!
    あ・・・(鬼を厨房に見つけ)あうー。

    飯の味とかどこをどう間違って味付けされてんのも分かる俺に
    これってヒデー仕打ちなんじゃね?違う?ちがわねーよなぁ・・・・
    (ぶつぶつ言いながらも喰う)

  • [19]アイリス・ケリー

    2015/06/29-13:31 

    仕方ない、それならここは公平に智に押し付けようじゃなかった、分けよう。
    アモンが言うように、成長には栄養が欠かせないからな、良く食って良く寝て育つといい。

  • [18]アイリス・ケリー

    2015/06/29-13:28 

    ラルクさんの良いところを思いつかずに今日が来てしまいました。
    困ったものです。
    個人的に興味がありますし…既にお付き合いされているということで、かのんさんにお話を聞きに行こうかなと考えております。

  • [17]リオ・クライン

    2015/06/28-23:48 

    >ラルク、天藍

    おいやめろ(怒)

    よし、智あんたが食え。
    たくさん食べないとでかくならねぇからな。

  • [16]水田 茉莉花

    2015/06/28-23:15 


    えー、なんでおれの所はノーコメなのさ、ラエビガータぁ!
    まー確かに、パンツがあってもなくてもおれ怒られてるし
    パンツ持ち出しても怒られてるし
    別に何も悪いことしてねーんだけどなー

    (PL:よく聞くと自業自得な話のようです。ツッコミお待ちしております。)

  • [15]かのん

    2015/06/28-16:22 

    ……それぞれ苦労してるんだな

    とりあえずラルク、俺は気持ちだけで十分だ、料理は若いアモンにやってくれ

    ああ、それとかのんは性格的に自分から率先して話す方ではないから、基本他の神人の話を聞いて喋るのは少し、じゃないかと思う、たぶん

  • [14]アイリス・ケリー

    2015/06/28-15:23 

    ……無自覚の惚気って怖いな(ぼそ)
    アモンと天藍には俺の分の料理を分けてやろう、そうしよう(決意したように拳を握り締め)

    なんつーか、智のところは…うむ、ノーコメで(そっと目を逸らし)
    レオナルドとは話が合いそうだ。
    うちも変な任務をしょっちゅう受けてきやがる…強く生きようぜ。な?(レオナルドの肩を叩きながら)

  • [13]リオ・クライン

    2015/06/28-10:01 

    こ、これが女子会という物か・・・。
    何だか緊張するな。

    アモンについて話せばいいのか?
    べ、別に彼とは何とも・・・。(もじもじ)

  • [12]リオ・クライン

    2015/06/28-09:59 

    全員揃ったな・・・。

    最近、うちのお嬢様がオレに対してよそよそしい件について。
    あと、何か怒りっぽくなった。

  • [11]ファルファッラ

    2015/06/28-05:34 

    ファルファッラだよ。ファルって読んでね。
    女子会楽しみ…だな。
    レオの評価?レオッたら私のこといっつも子供扱いするのよ(むー)

    (PL;若干愚痴りつつも結局嫌いになれない感じになりそうです)

  • [10]ファルファッラ

    2015/06/28-05:31 

    皆それぞれ大変なようだな…(遠い目)
    俺はまぁこの年になってパンツ丸見えで戦ったり猫語になったり…。
    なんであいつは一癖ある依頼ばかりをもらってくるのか(目頭抑え)

  • [9]水田 茉莉花

    2015/06/28-00:16 

    うぉっと、遅れてスマねぇ!
    八月一日智でっす、男子会会場はここでいーんだよな!

    あー、おれの災難?
    みずたまりにボコられたりボコられたりパンツ丸見えでボコられたり・・・
    あれ?おれって結構不憫じゃね?

  • [8]かのん

    2015/06/27-23:10 

    こんにちは
    素敵なお店に入れて良かったですよね、皆さんとのお話楽しみです
    天藍の評価ですか……、改めて言葉にするとなると難しいですね
    最近何だかへこんでいるようなので、元気になって欲しいなと思っているのですけれど…

    (PL:こちらは無自覚惚気になりそうな気配です)

  • [7]かのん

    2015/06/27-23:05 

    そーだな
    ま、ここに居る以上、好奇心も下衆な理由もありだろう(苦笑)
    どう絡むかどーかは各自判断するにしても、何言うかは分かってた方が良いよな
    って、ラルクお前アレ1回限りじゃなかったのか、そいつはまた…(遠い目)
    あー、ハンカチ使うか?

    こっちは、某所の強化剤で錯乱したり、ダリアのせいでおかしくなったり、挙げ句敵味方両方から役立たず認定されてた兄弟に誘拐される始末でな…
    もれなくかのんに助けられてるわけだが、こうも続くと精霊としてどーかと(溜息)

  • [6]アイリス・ケリー

    2015/06/27-22:23 

    (女子会の方)
    ふふ、美味しいご飯、楽しみですね。
    デザートもきっと素敵なものがあると期待しつつ…個人的にはリオさん達の関係が気になってます(わくわくそわそわ)

    ラルクさんの評価は…………
    ……すみません、いいところがとっさに思いつかないので、1日じっくり考えてみますね。

  • [5]アイリス・ケリー

    2015/06/27-22:20 

    智が来てないところ悪いが…一応、どういうことを話すつもりかは軽くでも言っておかないか?
    どう慰める、反応するかも仕込みやすくなるだろうしな。
    いや、別に天藍に何があったか非常に気になるから早く知りたいとか言う下衆な理由じゃないからな?
    違うからな? これはプランを書くための重要な理由だからであって、俺の好奇心が理由じゃないからな?

    俺は…女装させられて、女装させられて、山ほどケーキを奢る羽目になって、んでもって女装させられた。
    ん……? おかしい、目から海水が出てきた……。

  • [4]リオ・クライン

    2015/06/27-22:13 

    男子会会場ってここでいいのかー?

    オレはアモン・イシュタール、よろしくな。

  • [3]ファルファッラ

    2015/06/27-04:36 

    あー…この部屋でいいのか?
    俺はレオナルド・グリムだよろしく頼む…。

  • [2]かのん

    2015/06/27-00:32 

    お、久し振りだなっ・・・・・・て、そこドアを閉めるな
    しかも最初と今と、随分表情が違うんだが

    ・・・実際この春先、あまりろくな事が無かったんだ
    花のせいで多少愚痴が出ても良いだろう

    ま、よろしく頼む

  • [1]アイリス・ケリー

    2015/06/27-00:18 

    うーっす、ラルクだ…(天藍の姿を見て会議室のドアを一度閉める)
    いや、そんな馬鹿な。天藍の姿が見えたなんて、ましてや予約参加なんて気のせいだそうに違いない(もう一度ドアを開けて)
    …天藍にいったい何があったのか聞きたくてたまらないんだが。
    いや、うん。とりあえずよろしく頼む


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