プロローグ
●イベリンの隅のケーキ屋さん
祝福を受けたイベリンの地は、今日も明るく楽しそうな声で満ちている。
ウェディング・ラブ・ハーモニーの開催、ハルモニアホールの完成、連日実施される催し物にツアー。喜びに満ちたこの場所だけれど、不穏な事件も決して少なくない数起こっていた。ウィンクルムである以上、いくら興味をひかれる何かがあったとしても、事件が起こったら解決に動かなければならない。
今日も今日とて一仕事を終えた神人は、精霊と別れ、自宅への道を歩いていた。と、途中、見慣れない店を見つけ足を止める。
白い壁と赤い屋根がかわいらしい、小さな店だ。看板には『リナリア』と書かれている。窓から中を覗くと、色とりどりのケーキがショーケースの中に並んでいた。
どうやら、最近できたケーキ屋さんらしい。
ぐう、とお腹の虫が鳴く。
自分へのご褒美に、と神人は一人言い訳をしながら、リナリアのドアを開ける。からんからん、というベルの音に迎えられた神人は、ショーケースの上に置かれたポップに気が付いた。
「『リナリアに想いを乗せて……』?」
「いらっしゃいませ」
と、店員に声をかけられ、神人はなんとなく恥ずかしくなる。その様子を見た店員は、くすりと笑った。
「今、開店キャンペーンも兼ねて、ご希望の方に祝福を受けたリナリアをお配りしているんです。このリナリアは、見ていると『恋心を伝えたくなる』効果がありまして。ジューンブライドに乗っかって、お客様のお手伝いになればいいなぁと思ってはじめたんですけど、結構評判なんですよ」
へえ、と神人は頷いた。そして、相棒である精霊のことを思いうかべる。ウィンクルムとして同じ時間を過ごすうちに、だんだん……。
ぽっ、と頬を染めた神人に、店員はそっとリナリアの花を差し出した。
「ケーキと一緒にお一つ、いかがです?」
「……いただきます……」
●リナリアの花言葉
ケーキを二つ、そしてリナリアを一輪手にして店を出た神人の背中を、店員は微笑ましい気持ちで見守っていた。
彼女と意中の彼が、うまくいけばいいなと祈りながら。
そして、自らもリナリアを手に取る。金魚のような、かわいらしい花に与えられた祝福の効果は花言葉とぴったり、と笑う。
リナリアの花言葉は――この恋に、気付いて。
解説
●ケーキ屋さん・リナリアについて
小さなケーキ屋さんです。
ショートケーキやチョコケーキ、モンブラン、タルト等王道なものから、シュークリームやロールケーキといったスイーツも販売しています。
●リナリアの花について
ケーキを購入すると、一輪もらうことができます。
「この恋に気付いて」という花言葉を持つリナリアは、見ていると『恋心を伝えたくなる』効果があります。
ただ、「好きだ!」とそのまま伝えたくなるのではなく、
・相手の好きなところを言いたくなる
・ときめいた瞬間のことを言いたくなる
・ちょっぴり嫉妬した時のことを話したくなる
……というように、少し遠回りになるようです。
●消費ジェールについて
ケーキ一個につき『200ジェール』いただきます。
例:精霊分のみ一個購入=200ジェール消費
神人と精霊分で二個購入=400ジェール消費
※リナリアは、数に関係なく「ケーキを購入したら一輪もらえる」という形になっております。
●プランについて
・購入者は神人か精霊か
・どんなケーキを購入するのか
・どこで、どんなことを伝えるのか
例:精霊の家で一緒にケーキを食べる。神人が精霊に助けられて、ときめいた時のことを話し出す。
上記3点の明記をお願いいたします。
※親密度によっては、アクションが不成功になる可能性もございます。ご了承くださいませ。
ゲームマスターより
閲覧ありがとうございます。
最近しょっちゅう顔を出させてもらっています、櫻茅子です。
リナリアの花言葉すごいかわいい!! ということで。
絶賛片思い中の方はもちろん、恋していることに気付いていない方の甘酸っぱいあれこれのきっかけになったりしたらいいなぁと思っています。
思わずもだもだしてしまうようなリザルトを残せたら幸いです。
では、よろしくお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
※神人と精霊はAROA職員の自宅に引き取られ、別々の部屋に住んでいる。 リヴィエラ: まぁっ、素敵なお花! ケーキもありがとうございます、ロジェ。 (リナリアの効果を受け) あ、あの…ロジェの空と夜が混じったような、紫の瞳が好きです… それから、私を外の世界へ連れ出してくださった騎士様ですから、私の憧れの方です… で、でも! この前、A.R.O.Aの職員の女性と親しげに話していらして (涙目になりながら)私、胸にもやもやした感情が湧き上がってきて… えっ…この感情をヤキモチというのですか? む、むぅ…ロジェ、そうすると、私ばかりロジェを好きなようでずるいです…ひゃうっ も、もう耳はやめてください~! |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
苺と生チョコ苺ショート、2種を購入し精霊の家へ ■心情 恋心? 興味ないけど、ないけど …私の事をどう思ってるか気になる、ちょっとだけっ! ■行動 アイツの家は初めてね(どきどき 「お茶しない? 偶々近くに来たから、ケーキ美味しそうだったから!」(照 綺麗…というかモノが少ない家 「お花、貰ったからとりあえず飾るわね 枯れたら困るし!」 契約時を思いだす 「笑顔が、す、き 違っ…初めて会った事、覚えてる!? あの時は不安だったから安心したというか 成り行きで契約したけど温度差が近いから居心地がいい…じゃなくて」 (何で自分の告白しているの!?)動揺しケーキぐさぐさ (また馬鹿にされてる!)笑わられて、むー 「どうして?」きょとん |
アマリリス(ヴェルナー)
購入側 ショートケーキとチョコケーキ購入 花言葉は「この恋に、気付いて」、ですか …気付いて? なぜかしら、いつも通りの光景しか浮かばないわ 精霊の察しの悪さ思い出し 精霊の家訪問 ケーキを渡す前に何だか精霊が気になりじーっと見てしまう いえ、別に? 最初は顔が最大の原因だと思っていたの でも最近は別に顔を見たいというよりかは声だけでも聞きたいと思ってしまったりもするし 不思議なものね やっぱりいつも通りね 軽く息を付くも特に思いつめた様子はない きっともっと本音でこの言葉を素直な形にしないと伝わらないでしょうね いつか、もっと正直になれたらとは思うけれど… こんな何でもないような時間を一緒に過ごすのも、幸せなの |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
精霊の突然の訪問に驚く お互いの家を行き来することなんてほぼありませんし、私にいたってはラルクさんの住所を知らないくらいですし この前、ちょっとだけいい茶葉を買ったばかりなんです 折角ですからお茶にしましょうと家に招きいれる 花瓶の代わりに、淡い水色のグラスにケーキと一緒に頂いた花を活ける お茶やケーキと一緒にテーブルへ クリームがしつこくないのが嬉しいです、苺も甘いですし うっとりしながら食べていく 花を見ている精霊に気付き、どうかしましたか?と問いかけ 精霊の悪くないは、気に入ってるということ くすっと笑い、「では、タルトの残りは頂いても?」 遠慮なく貰ったタルトをすぐにぱくり …とても美味しいです |
メイリ・ヴィヴィアーニ(チハヤ・クロニカ)
ケーキ買ったのは精霊(苺のロールケーキ<メイリ>とチーズケーキ<チハヤ>) 約束の時間より早くに到着し、玄関前で「まだかなぁ」と待っていたところチハヤがケーキとリナリアを持って帰ってくる。「おかえり~、お花可愛いね」と駆け寄る。 チハヤがお茶の準備している間リナリアをテーブルに飾り、植物図鑑でリナリアの別名・花言葉などを調べる。 ケーキたべてる時にチハヤに自分が調べたことを話し、その流れで「歳の差の所為で変な風にみられることがあっても傍にいてくれる面倒見の良さと苦手な場所でも付き合ってくれる優しい所が好きだよ」と言う。逆に好きなところ言われたら照れる。 チハヤとのお茶の時間が結構幸せだなと感じている。 |
●そんなところが好きだよ
今日は相棒である神人、『メイリ・ヴィヴィアーニ』が家へやって来る。せっかくだからケーキでも買って帰ろうと、『チハヤ・クロニカ』は「リナリア」へ足を運んだ。
最近できたというその店で、いちごたっぷりのロールケーキとチーズケーキの二つを購入する。と、祝福をうけ不思議な力を持ったというリナリアの花を手渡され、どうしようかと逡巡する。
家への道を歩きながら、そうだと思いつく。
(メイリが帰るときに持たせよう)
それがいいだろう。どんな顔をするだろうか、なんて頭の隅で考えながら、チハヤは足早に家へと向かうのだった。
「まだかなぁ」
約束の時間より早くチハヤの家に着いたメイリは、玄関の前で家主の帰りを待っていた。と、チハヤの姿が見えて、ぱっと顔を輝かせる。
慌てて駆け寄ってきたチハヤに、メイリも同じように駆け寄る。彼の手には白い箱と花が握られていて、メイリは「わあ」と声をあげた。
「おかえり~、お花かわいいね」
チハヤは返事もそこそこにメイリを家の中へ通すと、お茶の準備をはじめた。その間に、メイリはリナリア――チハヤから教えてもらった――をテーブルに飾り付け、植物図鑑を引っ張り出す。そして、わくわくとリナリアの別名や花言葉について調べはじめた。
「準備できたぞ」
「やったあ!」
チハヤの声に、メイリはぱっと立ち上がった。いちごとクリームがたっぷり詰まったロールケーキに、メイリは「すごい! おいしそう!」と歓声をあげる。チハヤは満更でもなさそうな表情を浮かべると、自分用にと購入したチーズケーキを口に含んだ。しっとりとした食感と控えめな甘さで、文句なしにおいしい。続いて、メイリももふもふと、まるでハムスターのようにロールケーキをほおばる。
こくり、と飲みこむと、メイリは楽しそうに調べたことを話し始めた。
「ねえねえちーくん。リナリアは別名ヒメキンギョソウって言って、花言葉は『この恋に気付いて』なんだって!」
なんだかロマンチックだね、なんて笑顔を浮かべるメイリの話に耳を傾けながら、チハヤは飾られたリナリアを見た。金魚のしっぽのような変わった形。けれど、可愛らしいと思わせる花だ。
そういえば、このリナリアには効果があると店員が話していたような……。
チハヤがふと思い出したと同時に、メイリが嬉しそうに続けた。
「ふふ。私ね、歳の差の所為で変な風にみられることがあっても傍にいてくれる面倒見の良さと、苦手な場所でも付き合ってくれる優しい所が好きだよ」
まっすぐで飾り気のない、だからこそ心に響くメイリの言葉に、どきりとした。
だけど、まあ。
「素直なところは嫌いではない」
「え」
ぽろりとこぼれた本心に、チハヤ自身は気付いていない。
「悪い所を必死になおそうと努力するところは好感を持っている。ああ、時々小動物っぽくて撫でまわしたくなる時あるな」
「え、えっと……」
メイリがぽっと頬をそめたのを見て、チハヤはハッと口を押さえた。
「へへ。ちーくん、そんな風に思ってたんだ」
てれてれと話すメイリにチハヤは大慌てで言い返す。
「ち、違う! 空耳だ!」
「えー? 私、ちゃんと聞こえたよ?」
えへへ、と幸せそうに笑うメイリに、チハヤは何も言えなくなった。せめてもの抵抗に、ふいと視線をそらす。それがなんだかおかしくて、メイリはもっと笑ってしまった。
ちーくんとのお茶の時間、結構幸せだな。
穏やかな昼下がり。
メイリはふわふわと、まるでクリームに包まれたような幸せな時間を過ごすのだった。
●あなたとの時間だから幸せ
ケーキ屋「リナリア」に足を踏み入れた『アマリリス』は、店内を彩るポップを見て「あら」とこぼした。今このお店では、ケーキを購入すると店名と同じ、リナリアの花をプレゼントしているらしい。
「花言葉は『この恋に、気付いて』、ですか。……気付いて? なぜかしら、いつも通りの光景しか浮かばないわ」
リナリアの効果、花言葉を読んだアマリリスは、精霊の察しの悪さを思い出し肩を落とした。
けれど、興味がないわけではなく――次の瞬間にはショートケーキとチョコケーキ、そして一輪のリナリアを手に、精霊『ヴェルナー』の家に行くと連絡を入れているのだった。
アマリリスから「今から家に行く」と連絡をうけたヴェルナーは、掃除をして、出迎える準備を整えていた。それからほどなくして、アマリリスが到着する。
「ようこそお越しくださいました」
扉をあけ、アマリリスを向かえたヴェルナーだが、じーっと見つめられ思わずたじろぐ。
「何かありましたでしょうか?」
「いえ、別に?」
なんとなく精霊が気になってしまっただけなのだが、口に出すのは憚れる。そのまま横を通り過ぎ入室していくアマリリスに、ヴェルナーは「?」を浮かべた。
アマリリスが、ふいに口を開く。
「最初は顔が最大の原因だと思っていたの」
何の話だろう?
そう思いながらも、ヴェルナーは彼女の話に耳を傾ける。
「でも最近は別に顔を見たいというよりかは声だけでも聞きたいと思ってしまったりもするし、不思議なものね」
「不思議ですね」
相槌をうったもの、ヴェルナーの頭にふと、ある疑問が浮かんだ。
(それにしても、声だけでも聴きたい相手とは誰でしょう……?)
ケーキを受け取りお茶の準備をしながら、ヴェルナーは小さく首を傾げた。
まさか、自分のはずはないし――でも、アマリリスにそんな風に思われているなんて、少し羨ましい。
そこまで考えたヴェルナーは、ちくりと、胸のあたりに小さな、けれど鋭い痛みを覚えた。しかし次の瞬間にはきれいさっぱり消えていたので、気のせいかと流してしまう。
いつもと変わらない彼の様子に、アマリリスは「わかっていたけれど」と想いながらも、つい肩を落としてしまう。
(この様子だと、あなたのことを話していることはおろか、そもそも何の話なのかわかってないのでしょうね)
予想通りだ。
(やっぱりいつも通りね)
そう思い、軽く息をつく。けれど、彼女に思いつめた様子はなかった。
ヴェルナーには、きっともっと本音でこの言葉を素直な形にしないと伝わらないのだろう。けれど、それはなかなか難しい。
(いつか、もっと正直になれたらとは思うけれど……)
でも。
(こんな何でもないような時間を一緒に過ごすのも、幸せなの)
「……どうしました?」
「別に、なんでもないですわ」
どこか嬉しそうに笑うアマリリスに首を傾げながらも、ヴェルナーは着席し――二人で甘いケーキを楽しむ、穏やかで、温かな時間を過ごすのだった。
●心を紡ぐ
ケーキ屋「リナリア」に訪れた『ラルク・ラエビガータ』は、ポップに書かれたリナリアの花の効果を見て、己の神人である『アイリス・ケリー』のことを思い浮かべた。
(恋心、ねぇ……。ピンとはこないがあの女は甘いモンが好きだし、買ってってやるかね)
ラルクはそう決めると、神人用にショートケーキ、自分用にはオレンジタルトを注文し、包んでもらう。
そして、まっすぐアイリスの家へと向かうのだった。
「開店したばかりの店を見つけてな。アンタ、甘いモン好きだろ」
そんな言葉とともに訪れた精霊に、アイリスは目を丸くした。
お互いの家を行き来することなんてほとんどない上に、アイリスはラルクの住所だって知らないのだ。連絡もなく、しかも手土産まで携えてくるなんてなかなかの衝撃である。
「アンタが本気で驚くなんて珍しいな」
からかうように指摘を入れるラルクに「本当に驚きましたから」と返し、アイリスは頬を緩める。
「この前、ちょっとだけいい茶葉を買ったばかりなんです。折角ですからお茶にしましょう」
アイリスの招きに応じて、ラルクは遠慮なく家へとお邪魔する。
渡されたのはケーキだけでなく、紫と白のグラデーションがかわいらしい花も一緒だった。なぜ花が? と不思議に思っていると、「ケーキ屋がキャンペーンをやっていたんだ」と説明が入った。なるほど、と納得して、花瓶の代わりに淡い水色のグラスを用意する。そして、お茶とケーキとともに、テーブルへと運んだ。
ラルクが買ってきたのはショートケーキとオレンジタルトだ。アイリスがショートケーキをぱくりと口に含むと、纏う空気がほわんと優しいものになった。柔らかなスポンジとクリーム、そしていちごの味のバランスが絶妙だ。自然と笑顔が浮かぶ。
「クリームがしつこくないのが嬉しいです、苺も甘いですし」
「アンタ、本当に甘いモン好きだよなぁ」
うっとりしながらショートケーキを口に運ぶアイリスに、ラルクは半ば苦笑しつつタルトを少しずつ食べる。
タルトを半分ほど食べおえた頃、ふと、ラルクはグラスに活けられた花――リナリアが気になった。
じっ、と視線を送っているラルクに、アイリスも気付いたようだ。
「どうかしましたか?」
問いかけに「なんでもない」と言おうとして、口をつぐむ。
なぜか、さっきまでの神人の笑顔が頭に思い浮かんだ。
「……甘いモン食ってる時のアンタの顔は悪くないと思ってな」
ラルクの返事に、アイリスはぱちりとまばたきをした。
彼の『悪くない』は、気に入ってるということだ。
急にこんなことを言うなんて。そう思いながらも、ついついくすっと笑ってしまう。
「では、タルトの残りは頂いても?」
「いつものことだろ」
アイリスのお願いを拒否することなく、ラルクは残りのタルトを差し出した。
目の前にやってきた艶やかなオレンジが素敵なタルトを、アイリスは遠慮なく、ぱくりと口に運んだ。
爽やかな酸味とほどよい甘さが魅力的なオレンジタルトだが、なぜか今日はとても甘く感じて――
「……とても美味しいです」
頬を桃色に染め、照れる己の神人を見ながら、ラルクはお茶をすする。
「うん、悪くないな」
そんな、温もりにあふれた呟きとともに。
●あなたの笑顔が
『ミオン・キャロル』は気になる話を聞いて、ケーキ屋「リナリア」へと足を運んだ。
いちごのショートケーキといちごの生チョコショートケーキを購入すると、目的である一輪のリナリアが手渡される。
(恋心? 興味ないけど、ないけど。……私の事をどう思ってるか気になる、ちょっとだけ!)
誰に聞かれたわけでもないが、ミオンは何度も心の中で言い訳をしながら精霊『アルヴィン・ブラッドロー』の家へと向かう。
「アイツの家は初めてね」
首都郊外にある彼の家の前に立ち、ミオンは一度、深呼吸をした。どきどきと早鐘をうつ胸に手をあて、彼を呼ぶ。すぐにやってきたアルヴィンは、驚いたようにミオンを見つめた。
「どうした?」
「お茶しない? 偶々近くに来たから、ケーキ美味しそうだったから!」
照れていると気づかれないよう、ミオンはずいとケーキの箱を差し出した。
アルヴィンは突然訪れたミオンにびっくりしたが、断る理由はないと中へ通す。
(綺麗……というかモノが少ない家)
きょろりと周囲を見回して、ミオンはすぐにハッとした。
「お花、貰ったからとりあえず飾るわね。枯れたら困るし!」
そう言うも、花瓶なんて見当たらない。仕方なく、コップで代用することにする。
「珈琲くらいしかないけど」
準備を済ませてくれたアルヴィンにお礼を言って、ミオンは席についた。花を挟む形で向かい合う。
言葉少なにケーキを、そして珈琲を楽しむ。
(この花、本当に効果があるのかしら……?)
アルヴィンがそれらしいことを言う気配はまるでなく、ミオンはまじまじとリナリアの花を見つめた。
金魚のしっぽのようなかわいらしい花を見つめているうちに、ミオンはあの日の――彼と契約の日を思い出していた。
精神的に不安定だったあの時、アルヴィンの笑顔にどれだけ救われたか。
「笑顔が、す、き」
気付けば、ぽろりとそんなことを零していた。
「笑顔が好き?」
「違っ……初めて会った事、覚えてる!? あの時は不安だったから安心したというか、成り行きで契約したけど温度差が近いから居心地がいい……じゃなくて」
自分の気持ちを素直に口にしてしまい、ミオンは動揺しケーキにぐさぐさとフォークを突き刺していた。
(なんで自分の告白しているの!?)
一方、ミオンの好意を受け取ったアルヴィンは落ち着いたものだった。というのも、彼女からの好意に気付いているからだ。
けれど、不思議で仕方がなかった。
(俺のどこがいいんだろうな)
そう思いながら、「単純」と笑う。笑顔が人に与える影響を十分に理解しているアルヴィンは、ミオンのわかりやすい理由に破顔した。
(また馬鹿にされてる!)
笑われたミオンは、いい気なんてしない。むー、と頬を膨らませ、じっとりとアルヴィンを見つめる。
「俺もミオンの笑顔は好きだよ」
表情がくるくる変わるところ、わたわたしてるのは可愛い。続きそうになった言葉を飲み込んだが――正解だったようだ。ミオンはわかりやすく動揺し、うろうろと視線をさまよわせている。
なんとなく気恥ずかしくて、アルヴィンも視線をそらした。そして、ミオンが持ってきた花が目に入る。変わった、けれど可愛らしい花。
「精霊で良かった、と言われたのは嬉しかったな」
春先に言われ、神人を意識するきっかけになったその言葉。でも、とアルヴィンは続ける。「選択肢のない精霊であることには不満がある」
「どうして?」
思いがけない精霊の本音に、ミオンはきょとんと首をかしげた。
「私はあなたが精霊でよかっ、た……って、違う!」
ミオンの答えを聞いて、アルヴィンはふっと噴き出した。自分の相棒は、なんて素直なんだろう。
不満は消えたわけじゃない。けれど、彼女が「よかった」と言ってくれる、そんな精霊であり続けたいと思う。
――契約の時、一瞬、怯えた表情をしていたのが気になった。それから任務をともにしはじめて、神人として逃げずに向き合ってる姿を見て。
「余計に守らないとと思った」
何気なく落とされたその呟きに、ミオンは硬直した。
「どうした?」
アルヴィンは自分が何を言ったのか、気付いていないようだ。
――無意識だなんてたちが悪い……!
ミオンはすっかり形を崩してしまったケーキをパクリと食べる。
クリームは、なぜかさっきよりも甘く感じられた。
●それもこれも、あなたが好きなせい
「ん?」
星々が煌めく夜空の下。仕事を終え帰路に着いた『ロジェ』は、白い壁と赤い屋根が印象的なケーキ屋の前で足を止めた。看板には「リナリア」とある。
そしてふと、帰りを待っているだろう『リヴィエラ』の姿が頭に浮かび、口元を緩ませた。
土産にちょうどいいかもしれない。店に入ると、『リナリアに想いをのせて』と描かれたポップが目に入る。
(恋心を伝えたくなるリナリアか。リヴィーにケーキでも一つ、買って行こうか)
ロジェはリヴィエラが喜ぶ様子を思い浮かべて、早く帰らなければなと思う。声をかけると、奥で準備をしていたらしい店員が少し慌てた様子で出てきた。手早く注文を済ませると、ロジェは足早に店を出た。
彼女の待つ家へ、帰ろう。
「まぁっ、素敵なお花! ケーキもありがとうございます、ロジェ」
家へ帰り、ケーキと花を渡したリヴィエラの反応が予想通りで、ロジェは小さく噴き出した。
「もう夜も遅いですし、ケーキは明日いただきますね。それにしても、かわいらしい花……」
金魚のしっぽのような愛らしい花に、リヴィエラは顔をほころばせた。胸のあたりがぽかぽかと暖かなもので満たされていく。ロジェがくれたものだと思うと、その想いは更に増して――
――彼に、この想いを伝えたい。
「あ、あの……ロジェの空と夜が混じったような、紫の瞳が好きです……」
ふわりと頬を染め、上目づかいにロジェを見ながら、リヴィエラは心の底から溢れて来た――いや、常日頃から思っていることと言った方が正しいだろうか――想いを口にする。突然の告白に、ロジェはぱちりとまばたきをした。困惑する彼を気にせず、リヴィエラはそのまま、素直な気持ちを紡ぐ。
「それから、私を外の世界へ連れ出してくださった騎士様ですから、私の憧れの方です……」
「いやっ……その……君を攫った事は、俺のエゴで……俺の方こそ、君に一目ぼれしたようなもので……俺だって、君の青空のような瞳と心に惹き付けられているんだ」
あまりにもまっすぐなリヴィエラの言葉に、ロジェは顔を真っ赤にした。そんな彼に、リヴィエラは満たされた気持ちになる。
けれど。
「で、でも! この前、A.R.O.Aの職員の女性と親しげに話していらして、私、胸にもやもやした感情が湧き上がってきて……」
瞳を潤ませながら必死に訴えるリヴィエラに、ロジェはたまらない気持ちになるのがわかった。そして、あまりの愛しさに、自然と笑顔が浮かんでしまう。
「ああ、あれは依頼の話をしていたんだ。ほら、こっちに来い。そういう感情をヤキモチと言うんだ」
「えっ……この感情をヤキモチというのですか?」
きょとんと、言われて気付いたというようなリヴィエラにロジェは軽く笑い声をあげる。そして、彼女の手をひき――
「む、むぅ……ロジェ、そうすると、私ばかりロジェを好きなようでずるいです……ひゃうっ」
ロジェは、自分の膝に座らせた。恥ずかしがるリヴィエラを腕で優しく拘束し、耳に一つ、口づけを落とす。
「も、もう耳はやめてください~!」
「くっ、相変わらず耳が弱いんだな」
離れようと動くが、ロジェにとって些細は抵抗に過ぎない。伝わる体温に胸を満たされながら、ロジェは彼女の耳元で、そっと囁く。
「俺が君以外の女に目が行く筈がないだろう?」
その、短いながらも愛にあふれた言葉に――リヴィエラは大人しくなるしかなく。
手に持つリナリアが、一瞬、淡く輝いたように見えた。
まるで、祝福するように。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 櫻 茅子 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月19日 |
出発日 | 06月27日 00:00 |
予定納品日 | 07月07日 |
参加者
- リヴィエラ(ロジェ)
- ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
- アマリリス(ヴェルナー)
- アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
- メイリ・ヴィヴィアーニ(チハヤ・クロニカ)
会議室
-
2015/06/26-23:24
-
2015/06/26-23:23
ミオンさんが可愛くて、何故か私がそわそわしています。
春っていいですね。…今は梅雨ですが -
2015/06/24-22:48
挨拶が遅れたわ。
皆さん、よろしくお願いします。メイリさん…ちゃん?は初めまして(にこっと笑顔)
リナリア、ほんと可愛い花。
色々な色があって吃驚。1本も良いけど色んな色が沢山あると綺麗ね!
アイツの家に行こうと思ってるけど
花瓶なさそう…コップで代用っていいわね。
「好き」とかの感情が無ければ何も反応はないのかしらね?
…別に、『恋心』なんて興味ないけど、ちょこ~と、知りたいなんて思わないけどっ! -
2015/06/24-02:29
-
2015/06/22-20:51
メイリ・ヴィヴィアーニです。
リナリアもケーキもとても楽しみなの。
よろしくおねがいしますなのです。
-
2015/06/22-16:42
リヴィエラと申します。
リナリアの花を見るのは初めてで、どんな花なのだろうと楽しみです。
みなさま、宜しくお願いします。 -
2015/06/22-14:28
アイリス・ケリーです。
お会いしたことがある方々ばかりですね。
リナリアの花を見てみましたが、随分可愛らしい花ですね。
…家に花瓶があったか不安になってきましたが、いざというときはコップで代用も出来ますし、花とケーキを堪能したいと思います。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。