プロローグ
「キャ――――――!!」
絹を裂くような悲鳴が、六月の曇り空に響いた。それもあちこちから。
ここは、私立全寮制の女子高校・リリエンヌ女学院。
イベリン領の少し人里から離れた森の中に位置し、イベリンの身分のある階級の子女たちも通う名門高校だ。
この学園にオーガが現れたという一報を受け、現場に駆けつけたウィンクルムたちが目にしたのは、パニックに陥り、泣きながら校庭を走り回る女子高生たちの姿だった。
ウィンクルムたちは近くにきた生徒を何とか宥めて事情を聞く。ウィンクルムが助けにきたと知った生徒たちは、たちまち集まってきて、口々に状況を教えてくれた。
現れたのはDスケールオーガが数体。正門から入ってきたオーガたちは、何か紙のようなものを持っていて、それを片手に逃げまどう生徒を物色している様子だった。最近、誘拐事件が多発しているから、このオーガたちも生徒をさらうつもりなのでは……と、女子生徒たちは語った。
オーガは、今は一匹ずつバラバラに分かれて行動している。彼女らはオーガを目撃した場所と、その特徴も教えてくれた。
敵がバラバラに動いているということ、オーガたちが生徒をさらおうとしており、一刻も早く倒さねば拉致されてしまうであろうこと。これらから考えるに、全員で手分けをしてオーガを発見し、戦った方が良さそうだ。
君たちは頭を寄せ合って、急いで相談をはじめた。
解説
【レベル10以上の方の参加を推奨しています】
目的・オーガの討伐、及び、さらわれそうな女子高生の救出
オーガは参加ウィンクルムの組数出現します(五組なら五体)
個別戦闘エピソードです
6面ダイスAと6面ダイスBを一回ずつ振って下さい
6面ダイスAの出た目で【戦う場所】、6面ダイスBの出た目で【オーガの種類】が決定します
【6面ダイスA・戦う場所】
1→教室……机やいすが並び、動き回るのに少々邪魔
2→階段……足場注意。味方が上へ昇り、敵が降りてくる形で遭遇
3→森の中……木の葉や茂みが生い茂り、敵も味方も隠れやすい状況
4→グラウンド……広く、障害物もなく戦いやすい
5→プールサイド……プールには水が張られ、落ちる可能性がある
6→上記いずれか場所を指定できる
【6面ダイスB・オーガの種類】
1→ヤグズナル……手の付け根から骨片を撃ち出す。素早く攻撃を当てにくい
2→ヤグナム……装甲厚く、細長い腕を鞭のように使い攻撃する。命中率を低下させる吠え声を出す
3→ヤグルロム……幻影のデミオーガを3体まで出現させる。幻影は攻撃されると自爆する
4→ヤックドーラ……長い舌の先に麻痺毒の毒針を持つ。比較的知能が高い
5→ヤグマアル……唾液を飛ばしてくる他、10m四方に酸性の集中豪雨を降らすことが可能
6→上記いずれか敵を指定できる
★諸注意
・駆けつけた時点で、オーガは生徒一人を抱えて拉致しようとしています。危害は加えませんが、盾にとる可能性があります。生徒が怪我をしないよう救出して下さい
・施設の規模や様子は、都会の一般的な高校を想像して下さい
・急な依頼のため、アイテム申請不可、装備品以外の物品の持ち込み不可。但し現場にありそうな物を利用するのはOK
・戦闘現場近くに他の生徒はいません
・物品・建造物等の破壊はA.R.O.A.の補償対象となります
ゲームマスターより
純戦ですが、ダイスの目によっていくつか条件が発生しますので、与えられた条件下で工夫しながら戦ってみてください。
「難しい」個別戦闘エピソードです。個別のプランの工夫が問われますが、もちろん、「こういう状況ではどうしたらいいと思うか」など、相談して下さってもかまいません。
それでは、よろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
・戦闘開始後トランス ・敵が吠える前に【クリアレイン】で敵を目くらまし(女子生徒に矢を当てないよう慎重に使う)ヤグナムから女子生徒を救出する ・【古文書ウィクネス】で敵の防御と回避力を低下させる ・戦いの影響が及ばない後方に下がる 女子生徒の傍に付き添い心のケア 「貴女のことは絶対に守るから私の傍を離れちゃ駄目だよ。大丈夫、エミリオさんはすごく強いんだから!私達を信じて」(少女のの手を握る。スキル:メンタルヘルス使用) ・女子生徒を背に庇いながら後方から弓で精霊を援護 精霊が戦い辛そうにしていたら机や椅子をどかす ・敵の攻撃を受けそうになった場合は身を挺して女子生徒を守る 防御の大失敗判定は【宝玉】の力で無効化 |
油屋。(サマエル)
トランスとハイトランス・ジェミニを行う 戦闘中は女子生徒の安全を優先して行動 なるべく音を立てないように移動 精霊が引きつける間、机と椅子で出入り口封鎖 攻撃が来る場合は机と椅子を盾にしつつ屈んで移動、回避 聴覚が優れてる=音には 精霊が敵を教室前方へ追い込んだ段階で、 黒板を思い切り(武器等で)引っ掻いて混乱させてみる 最初は精霊のスキルを使用せず、女子生徒をオーガから 引き剥がすことを目的として攻撃→保護 成功したら、女子生徒の安全を確保するため 一緒に後方に下がる ほんとサマエルって人使いが荒いんだから! ※アドリブ歓迎 |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
戦闘場所:グラウンド オーガ:ヤグルロム 幻影が厄介ですね… トランス&ハイトランスジェミニします。 爆発に気をつけなくては。 遠距離から攻撃できればそれも怖くないはずです。 わたくしはデミに射撃を当てる事に集中しましょう。 銃をカガヤの放ったオ・トーリ・デコイの方へ向け デミ3体が集まるのをじっと待ちます。 デミ1体に狙いを定めて射撃。 倒しきれなければ わたくしのオトーリデコイを前方に放ち 同じく集まったデミを射撃します。 3体全て倒しきるまで射程距離を保ちつつ しっかりデミを狙っての射撃を繰り返します。 助け方が手荒で申し訳ありません と女子生徒さんに声を掛けます。 女子生徒さんの手を引いてすぐにヤグルロムから離れます。 |
アマリリス(ヴェルナー)
場所:グラウンド 相手:ヤグマアル 見つけましたわ 覚悟なさって 移動中にトランスし遭遇次第ハイトランス 人命を優先し学生救助を意識して行動 学生に向けて助けに来たと声掛け気落ち着かせる なるべくイージスの盾範囲内で行動 敵の攻撃を防ぎつつ敵接近 弓で当てないように注意し敵付近の地面狙って射て目晦まし 射る前に学生に向けて目を閉じるよう指示 こちらの狙いを敵に気づかれないよう機会が来るまでは攻撃しない 学生奪取まで弓で援護 救助後は学生と一緒に後退 討伐が完了するまでは学生の傍を離れず、常時遠距離攻撃に注意 唾液飛んできたら盾で防御 雨なら身を寄せ合って盾を傘代わりにして頭守る 精霊に集中しているようなら弓構え今度は当てに行く |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
グラウンドで対ヤックドーラ 生徒が抱えられている以上、迂闊に切り込むわけには行かず、かといって手を出さなければ逃げられる…厄介ですが お任せを トランス後、ヤックドーラに接近し、生徒に当たらないよう注意しながら攻撃 麻痺させられないよう、舌の動きに注意 オーガの注意を眼前の私に向けることを第一とし、攻めあぐねているように見せかける 剣がうまく陽光を反射してくれればいいのですが… 精霊がオーガに組み付き次第、攻撃の手を止めて生徒の保護へ 怪我をさせないよう、生徒に覆いかぶさります 生徒と共に一度、後方へ 怪我の有無を確認し、周囲の状況を見て安全な逃走経路を指示 生徒を逃がしたら戦線へ復帰 ダメージよりもめくらまし優先 |
●鳴り響く音色
「盲目の神よ、彼の者達に死の快楽を与え賜え」
その炎は絶望と拒絶に似た闇色。油屋。とサマエルは迅速にトランスとハイトランス・ジェミニを終え、二カ所ある教室出入り口の後方から突入した。
――キュルルルルルッ
金属をこするような鳴き声。薄暗い教室に、子供の頃見た悪夢のように浮かび上がる異形。
蝙蝠に似た頭部、小さな瞳がつぶらに見えるのが、その不気味さをかえって際立たせる。
片腕に抱かれた金髪の女子生徒は今にも卒倒しそうだ。
「助けに来ました。どうかそのままで。オーガを刺激しないようにお願いします」
歩み寄りながら、サマエル。その声は凪いだ水辺のように静かだ。
生徒は我に返り、震えながら頷いた。
ヤグズナルの片手が、サマエルを指さした。死神が死を宣告するように。
放たれた骨弾を、机を盾にしつつ屈んで回避しようとするが、敵が生徒を捕らえる際散らかしたのだろう、転がっていた椅子に足を取られた。
パァンッ!
直撃したものの、弾く音。グロームを突き破る骨弾はない。サマエルは悠々とオーガに肉薄する。
攻撃が通じないのを見て、ヤグズナルは後ろに飛び退いた。
その隙に、油屋が机と椅子で出入り口を封鎖する。最初は自分たちの入った後方の扉、そして黒板側の前方の扉。静かに注意深く行ったが、完全に音を殺すことはできず、がたんと机が鳴った。蝙蝠頭は油屋を一瞥し、出入り口と反対側、窓へとその手を伸ばした。
バリィンッ。
骨弾を受け、ガラス窓が粉々に砕け散る。ヤグズナルが生徒を抱え、そちらに疾(はし)る。
しかし、サマエルの投げつけた椅子が一瞬早く、オーガと窓の間に派手な音を立てて落ちた。
「逃げるのか、薄汚い虫けらが」
サマエルはその美貌に傲然とした笑みを浮かべた。蝙蝠頭はキュルルルと鳴きながら昏(くら)い目でディアボロを睨み、再び後ろに飛び退いた。
後ろとはこの場合、すなわち黒板付近。
ギィ――――――!!
突如、教室に気が狂いそうな高音が鳴り響いた。油屋が槍・緋矛で全力で黒板をひっかいたのである。
ヤグズナルは音波で敵を探知する。高音に音波をかき乱され、動揺した様子で周囲を見回した。
「死ぬのは貴様だ」
甘くすら聞こえる声音でそう囁きながら、サマエルは生徒にあてないよう注意しつつ、敵の頭部目がけてゴッドブレスを一閃した。
ゴガッ。
鈍器は蝙蝠頭の3分の1ほどをふっ飛ばした。異形が死の苦痛に絶叫する。サマエル、すかさず生徒を引き剥がす。
「早瀬っ!」
生徒を渡そうと叫んだサマエル、振り返って……目が点。
油屋が黒板の下にうずくまってぷるぷる震えている。
説明しよう! 黒板ひっかくのは、やった本人が1番ダメージが大きいのだ!(目撃者語る)
「あのメスゴリラっ……」
舌打ちしつつ、サマエルは生徒の腕を掴んで誘導する。
「後ろに下がって」
そして生徒が逃げたのを確認すると、致命傷だが完全に絶命していないオーガに向かい、菫色の長髪をなびかせて虎のように跳躍した。
炎のオーラが爆発的に膨れあがり、龍が吼えるがごとき音を立てて振り降ろされる。
祈りの力が込められた鐘が、あらゆる悪を断ちきるように鳴り響く。
「ヘルダイバー!」
インプロージョンで強化された一撃は、轟音と共にオーガを地獄の業火に包み、紙くずのように叩きつぶした。
「はーやーせー」
「ごめん。サマエル本当ごめん」
へこむ油屋の頭をグリグリしているサマエル。
そんな精霊に歩み寄る影。
「早瀬様、そして、サマエル様……本当にありがとうございました」
金髪の生徒、神を崇拝するようなまなざしで、手をお祈りのように組み、特に精霊を眺めた。
「え? いえ、当然のことをしたまでです」
微笑して応じるサマエル。その輝くようなルックスに、生徒、完全にフォーリンラブ。
サマエルはちらりと油屋の様子を見たが、油屋はつんとあっちを向いただけだった。
●ついてない日
ぬろっとした眼で、魚頭のヤックドーラは追ってきたウィンクルムをねめつけた。
「キサマラ、ジャマダ。相手シテイルヒマ、ナイ」
「悪い。こっちはどうしても構って欲しいんでね」
笑って、ラルク・ラエビガータは身構えた。
「障害物の無いだだっ広い真昼間のグラウンドとはな……シノビとは相性がよろしくない」
学校にはいくらでもシノビが活躍できる場所があるのに、敵を見つけたのがここ。
「運が悪いとしか言いようがありませんね」
アイリス・ケリーはさらりと言いつつ分析する。
「生徒が抱えられている以上、迂闊に切り込むわけには行かず、かといって手を出さなければ逃げられる……厄介ですが」
「まあ、やるしかないな。いくぞ、アイリス」
敵は舌を振り回しつつ、じりじりと後退している。
「助けて……助けて!」
化け物に片手で抱きしめられ、黒髪の女子生徒が蒼白な顔で叫んだ。
アイリスが優しく、かつ毅然と彼女に答えた。
「お任せを」
「猛き心を」
トランス後、大地を蹴り、栗色の長髪をなびかせ、ヤックドーラに突撃していったのはアイリスだ。
右手には短剣・クリアライト。走りながら流れるように空中で弧を描く。
(剣がうまく陽光を反射してくれればいいのですが……)
上空をちらっと見て、
「……ていうか曇ってる?!」
プロローグ二行目に仕組まれた罠!
曇天でも反射しないわけではないが、晴天や近くに光源がある場合よりは輝きが鈍くなる。
短剣は女生徒を避け、敵の腹部にあたったが、跳ね返された。目眩まし効果は薄いが、注意を引きつけることには成功した。
彼女に、蛇のようにのたうつ舌が襲いかかる。
「……っ」
舌の動きに十分注意して飛び退いたが、毒針がかすかに指先をかすめた。
――アイリス!
ラルクはどきりとしたが、しかし冷静に、攻撃直後の舌目がけて戦輪・契りを飛ばした。鮮やかな弧を描き、細い舌が二つに分断されて宙を舞った。
ヤックドーラが怒声をあげた。目前のアイリスに片手の爪で襲いかかる。
「大丈夫です!」
ラルクの心を読んだように神人が叫ぶが、動きは多少鈍っているようだ。爪の一撃を盾・食いしん坊なお化けでガード。
「きゃっ!」
受け止めたものの、衝撃によろける。
後方のラルクからの追撃の戦輪もオーガには当たらない。
ヤックドーラは、神人の悲鳴のかすかなわざとらしさにも、精霊が攻撃をあえて外していることにも気がつかない。
――コイツラ、ヨワイ。
ならば、こいつらを殺してから、女を連れ帰る。
神人の存在はオーガを魅惑する。ヤックドーラは生徒から手を離し、神人に掴みかかった。
その神人の後ろに、唐突に後方にいたはずのラルクが出現した。
「?!」
驚愕したオーガにラルクが組み付く。
影法師も曇天では使えず、精霊は双葉弐式で、敵の下半身目がけて両手から戦輪を投げつけた。
しかしこの日のラルク、とことん運がなかった。ヤックドーラは彼の苦手な水属性だった。
足に決まったものの、思うほどのダメージにはならなかったようだ。
一方、アイリスは怪我をさせないよう、生徒に覆いかぶさっていた。
「安心して」
「……お姉様……」
アイリスの腕に包まれ、生徒の瞳がキラッキラ輝いている。
オーガの注意が完全に精霊に向いているのを確認し、神人は生徒と共に一度グラウンド後方へ向かう。
生徒に怪我が無いか確認し、周囲を見まわして、
「あの校舎にはオーガの目撃情報はなかったはず。あそこへ逃げて」
安全な逃走経路を指示し、生徒を逃がした。
わずかでも毒が入った以上、戦線復帰はやめた方がいいと判断し、アイリスは後方でラルクの戦闘を見守った。敵の足を傷つけたので、逃亡は阻止できている。敵の攻撃もラルクにダメージは入らない。
だがヤックドーラの体力は高い。一回下がってディスペンサしたが、やがてMPを使い果たし、あとは敵が倒れるまで手裏剣を投げた。
手間取ったが、敵は仕留めた。その後で、ラルクはアイリスを気遣う。
大丈夫、との返事だったが、あとで医師に診てもらった方がいいだろう。
●雨と蝶
ローブをまとったそのシルエットは、一見賢者のようにも見える。しかし布の隙間に覗くは、蛙のような異様な姿。
「汝、誠実たれ」
移動中にトランスした二人は、敵の姿をグラウンドに見つけてハイトランス・ジェミニを行う。
「見つけましたわ。覚悟なさって」
アマリリスの声かけに、怪物が振り向く。しかしその瞳は、何も映さない虚無。
「た、助けて!」
「安心して。必ず助けますわ」
異形に抱えられ、震えながら叫んだ栗色の髪の生徒は、神人の落ち着いた喋り方や気品溢れる態度に、涙ぐんで「はい」と答えた。
その間にも、ヴェルナーは敵に向かって疾走する。敵も逃げているが、生徒を抱えている分動きが遅い。やがて十分に接近すると、
「待て!」
気合いの声に、ヤグマアルは無視できず立ち止った。ぎろり。悪意に満ちた眼。
精霊は立て続けにイージスの盾を発動する。ふわり、ヴェルナーの頭上に音もなく立ち現れたのは、大地の息吹を帯びた、硬質な石にも似た数枚の盾。
「アマリリス、離れないで下さい」
盾を構えてヴェルナーが、その後ろからアマリリスが、慎重にヤグマアルとの距離を詰める。精霊はバタフライアックスを軽く振る。蝶の羽は生きているように見え、敵を威嚇しその気を引く。
唐突に。
ごぉっと、バケツをひっくり返したような雨の音が聞こえてきた。降り注ぐ酸性の豪雨。
しかし、空中を漂う数枚の盾のうち一枚が、ヴェルナーの頭上から素早く神人の上に飛来し、便利な傘のようにふわふわと優雅に漂う。
買い物帰りで両手が塞がっているときに、ゲリラ豪雨に襲われた際便利だな、なんて思ってしまうほど。
ダメージもなく、ヴェルナーが敵に接近する。アマリリスも離れぬよう注意深く続く。
十分な距離に入ってから、神人が叫んだ。
「学生さん、目を閉じて」
生徒が目を閉じたのを確認し、素早くクリアレインをつがえ、敵付近の地面を狙って射た。
しかし。
敵は何の反応もしない。
曇天であったことに加え、閃光効果は「敵への攻撃が命中した際に」一定の確率で相手の視界を奪うものなので、敵を狙わないと効果が発生しないことがあるのだ。
「くっ……」
計算高いアマリリスの珍しい誤算だった。アプローチの効果で、オーガはヴェルナーを注視したまま生徒を抱えている。精霊も迂闊には攻撃できない。
両者黙ったまま、しばしにらみ合う。
しかし、敵も手詰まりだった。
自慢の酸性雨が通じないし、変な声のせいで逃げられない。
ヤグマアル、考えた末、精霊の上空の盾めがけて唾液を飛ばした。あのふわふわしているのを何とかすれば、酸性雨が効くと思ったようだ。
ヴェルナー、攻撃で敵の気がそれた隙を狙い、一気に距離をつめる。
「動かないで」
そう叫びながら、生徒には当てないよう敵の足狙って斧を振り下ろした。
斧は太ももに突き刺さり、オーガはグァァ、と吼えた。ゆるんだ腕から生徒を引き剥がすと、お願いします、と素早く駆け寄ってきた神人に託した。
「もう大丈夫」
囁きながら、アマリリスは生徒の手を引き後方へ。生徒を護るように後ろに回し、弓をつがえ油断なく敵を観察する。閃光効果は期待できずとも、牽制にはなる。
一方、ヴェルナーは二人が離れたのを視認し、再度アプローチを発動する。神人と生徒に注意がいかぬよう今一度引き付け、手数の多さを生かし、優美な蝶の斧で容赦なくオーガを斬り刻む。敵は苦手な風属性で、中々倒れなかったが、ぼろぼろの体で最後の力で唾液で攻撃してきた。
「ソードブレイク!」
すかさずカウンター技が炸裂し、ヤグマアルはついに絶命した。
少々手間取ったが、敵は倒れた。
「ありがとうございます……お二人とも」
そう言いつつも、生徒の星のように輝く眼はヴェルナーに釘づけだ!
「お怪我がなくて何よりですわ」
アマリリスは微笑みつつ、精霊と生徒が近づきすぎないよう、間に割って入ったのだった。
●赤と黒、そして罪
「絆を繋ぎ、想いを紡ごう」
インスパイア・スペルの優しい響きと裏腹に、エミリオ・シュトルツの左耳のピアスが禍々しい漆黒に輝く。それでも周囲に透明の薔薇が舞い散り、青と黒の光が飛び交う様は、怪物に抱えられ恐怖している銀髪の女子生徒の目すら奪う美しさだ。ミサ・フルールの右手の腕輪もまた、青く輝いている。
豚頭、でっぷりと肥満した異形の怪物は、ウィンクルムの到着を知ると、細長い片腕をロープのように使い、生徒の身体にぐるぐると巻き付けた。奪えるものなら奪ってみろ、と挑発するように、二人を見る。
天候に苦労したアイリスペアやアマリリスペアと違い、この二人は強運だった。教室の電気はついていたのである。
「必ず助けるから!」
素早くクリアレインをつがえ、敵が吼える前に解き放つ。矢を生徒に当てないよう慎重に。
しかし。
振り上げたヤグナムの片腕が、輝く矢をはじき飛ばした。矢は涼やかな音を立てて床に転がる。
だが、攻撃直後は隙が生じる。エミリオはこの隙を利用してオーガに一気に迫った。
上位レベルのテンペストダンサーの流れるような動き、机や椅子など障害ともならなかった。
「トーベント」
エミリオの緋色の瞳が残酷な美しさに輝く。ヤグナムがエミリオの存在を目前に捉えたときには、もうその口に双刀・ジューンクウォーツが打ち込まれていた。叫び声を浴びるいとまもなく、周囲の分厚い装甲ごと一瞬で斬り裂かれていく。次々と繰り出される斬撃は、血の深紅と黒衣の闇とで織りなされる嵐のよう、ヤグナムにもし美意識があれば、斬り裂かれながらうっとりと見とれたに違いない。
オーガの上体がぐらりとかしいだ。しかし、まだ意識があるのか、片腕は生徒の身体に巻き付いたままだ。
「……っ」
厄介だな、とエミリオは飛び退く。ヤグナムの腕の付け根は生徒の背中に密着しており、迂闊に切断できない。
女子生徒は恐ろしさのあまり硬直していた。ヤグナムも恐ろしかったが、今、間近で感じたエミリオの気迫も、背筋が凍るようで。
「貴女のことは絶対に守るから、私達を信じて! 大丈夫、エミリオさんはすごく強くて、優しい人だよ」
とっさにミサが叫んだ。力強いが穏やかなその響きに、女子生徒が我に返る。
「エミリオさん、古文書ウィクネスを使おう」
「わかった」
ミサはページを開き、呪文を唱える。その間エミリオはアナリーゼのステップを踏みつつ、闇雲に振り回されるヤグナムの片腕が神人へいかないよう、双剣でたたき斬った。
やがて、ミサの栗色の瞳に古の力と知識が宿った。
「もう一度、口を狙って。それで倒せるはずだよ」
ハヤブサのように、エミリオが疾(はし)った。ヤグナムは死の恐怖を覚えずに済んだ。二回目のトーベントは全力、初回より更に気迫を増し、赤と黒の荒れ狂う嵐は、ヤグナムが自覚する前にその頭部を空中でバラバラに分断していた。
オーガの死により解放された少女に、ミサが駆け寄る。その手を両手で握って、
「大丈夫? 怪我はない?」
少女はブルブル震えながら頷く。そして頭部のないオーガの死体と、エミリオを交互に見た。その瞳に恐怖が宿っているのに、エミリオは針で刺されたような苦痛を覚えた。
「あの……あの……」
ありがとう、の言葉もうまく出てこないらしい。少女はその代わり、ミサに抱きついた。
「安心していいよ。私たちが守るから。もう何も怖くないよ」
声をあげて泣き出した少女の背中を優しくさすり、ミサが耳元に囁く。
エミリオは視線をそらした。少女が自分に見せた恐怖の色は、自分の恐ろしい過去を、禍々しい罪を嫌でも思い出させた。
「エミリオ……さん?」
優しく尋ねるミサの声を聞くのが、今は辛かった。
二人の望み通り、今回は教室の備品をほとんど壊さずに済んだ。人命救助優先で構わない依頼だったが、二人の気遣いは賞賛されていいだろう。
●緻密かつ大胆に
アンコウ頭の触手状の突起の先についた光体が、不気味な光をチカチカと明滅させている。
「私達の全ては、ただ潰滅の為にある。」
吹き荒れる風。手屋 笹とカガヤ・アクショアは更にハイトランス・ジェミニも行う。
出現した幻影は三体、狼に熊にカラス、いずれも額には角が生えている。
ヤグルロムは幻影の出現と同時に、生徒を抱え回れ右し、一目散に逃げ出した。
「幻影が厄介ですね……爆発に気をつけなくては」
三匹のデミオーガを見据え、笹。
「幻影を倒さないとヤグルロムに接近も難しい……かといって、近距離で攻撃しても爆発に巻き込まれるだけ、か」
カガヤ、オーガがグラウンドの風景に紛れてかき消えるのを見ながら呟く。
「遠距離から攻撃できれば爆発も怖くないはずです」
笹は両手銃・ネイビーライフルを構えた。
「わたくしはデミに射撃を当てる事に集中しましょう。カガヤ、サポートをお願いします」
「了解。まずは素早く幻影デミを倒そう!」
カガヤ、オ・トーリ・デコイを取り出すと、こちらに向かってくる三匹のデミオーガに放り投げた。
「それ!」
騒々しい鳴き声を立てるアヒルに、狼と熊の視線が釘付けになる。しかし、デコイも100%敵を引き付けられるわけではない。デミ・クロウが奇声をあげて空中から笹に襲いかかってくる!
「お前の相手は俺だ!」
カガヤ、叫んで笹の斜め前に立ち、ステンドグラスのはめ込まれた斧・ゴシックチャペルを盾のように構え、牽制する。
パァンッ! バン!
両手銃が火を噴き、カラスが爆発・四散する。盾代わりの斧の隙間から破片が飛んできて、カガヤの頬をかすめた。
軽傷なのを視認し、笹は残りのオーガに向き直る。囮に引き付けられ、一カ所に集まっている二匹のうち、狼に狙いを定めた。
パァンッ! バァン!
派手な音を立てて、狼が消し飛んだ。残った熊は今の爆発で我に返り、唸り声と共に二人へ迫ってくる。
笹、自分のアヒルを投げた。再び足を止める熊。三度目の銃撃が響き、熊は大きな破裂音と共に消え失せた。
難なく倒せたが、三度の銃撃で45秒が経過している。ヤグルロムの姿が再び見えたが、すでにグラウンドの隅まで移動していた。
「行きますわよ! カガヤ!」
「うん! 笹ちゃん!」
二人は全力疾走をはじめた。ハイトランスのお陰で、笹もカガヤも同じスピードで、しかも普段より早く走れる。ヤグルロムは素早いオーガではない。しかも、生徒を抱えていて動きが鈍っている。二人は最初からそこまで読んでいたのだろう。さらには、
「なにすんのよ離してよ!」
抱えたメガネの生徒がひときわ元気に暴れているので、更に動きが鈍っている。
グラウンドの入り口でオーガに追いついた。生徒を盾にするオーガの真横に、カガヤは抜群の運動神経ですっと移動する。人質は頭の良い生徒で、カガヤの接近に急に大人しくなった。
「はっ!」
気合い一閃、生徒を抱えている腕の付け根を狙って斧を振り降ろす。普通のハードブレイカーなら命中精度が低いので危険だが、彼は普通のハードブレイカーではない。高攻撃力と高い命中精度を兼ね備えているのだ!
オーガが苦痛に吼えた。その片腕とともに、どさりと生徒が落下する。
「助け方が手荒で申し訳ありません」
すかさず笹が助け起こす。
「ううん、平気。助けてくれてめっちゃありがとう! 君ちっちゃいのにカッコイイね!」
驚くべき神経の太さ。メガネの生徒は笹と手を取り合って敵から離れる。
二人が離れたのを確認後、片腕の爪で襲いかかってくるオーガの攻撃をカガヤはひらり、ひらりとかわし、姿勢を低くし身構える。
「グランドクラッシャー!」
ヤグルロム目がけ、インプロージョンで強化されたすさまじい斬撃が放たれた。衝撃に土が吹き上がり、もうもうと土埃が立つ。ヤグルロムは地面ごと吹き飛ばされ、土まみれのバラバラ死体となった。
「ぐっ……げほっ」
土埃でむせたのは予定外。しかし、完勝である。
かくして学園は救われた。気象の面など予想外の事もあったが、慎重かつ大胆なウィンクルムの活躍で、生徒は無事全員保護されたのである。
依頼結果:成功
MVP:
名前:油屋。 呼び名:乳女 ゴリラ 早瀬 |
名前:サマエル 呼び名:サマエル |
名前:手屋 笹 呼び名:笹ちゃん |
名前:カガヤ・アクショア 呼び名:カガヤ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼鷹 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 難しい |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 多い |
リリース日 | 06月13日 |
出発日 | 06月20日 00:00 |
予定納品日 | 06月30日 |
参加者
会議室
-
2015/06/19-23:58
-
2015/06/19-23:58
ぎりぎりですが何とかプラン完成です…!
この緊張は何度やっても慣れませんね… -
2015/06/19-20:55
-
2015/06/19-06:55
-
2015/06/19-06:54
>笹ちゃん
あわわ、返信遅くなってごめんね!
狭い教室で戦う以上、多少なりとも何かが壊れてしまうのはどうしようもないものね。
私女子生徒さんにとって思い出のある場所をなるべく壊したくないなとも思ってて。
お返事くれてどうもありがとうね(にこ)
まだ早いけど今日は仕事で帰りが遅いので、先にスタンプ押しておきます。
皆さん頑張りましょう!
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2015/06/19-00:34
では丁度ばらけているようですし、こちらはヤグマアルにしておきますね。
無事に救出と討伐を成功できるよう各自頑張りましょう。
あとはいらないかもとは思ったのですが
時々齟齬があったりするので先に引用します。
【ワールド設定補完スレ・2】 【87】より引用
【イージスの盾について】
Q.「飛来する攻撃に対して、これを防御する技」とありますが、飛来=遠距離攻撃で近距離攻撃は防御しないの認識であっていますでしょうか。
▼はい、その通りです。
Q.防御するのは物理、魔法の両方でしょうか。
▼こちら「イージスの盾」を例としてご説明させていただきます。
イージスの盾は、物理、魔法両方に対応します。
Q.ヤグマアルは酸性雨を降らせて攻撃してきますが、それに対しても防御が行われるのでしょうか。
▼はい、イージスの盾は酸性雨にも対応します。
Q.出現する盾の数はいくつでしょうか。
▼状況に応じて数枚出現します。 -
2015/06/17-17:53
(【13】発言、書いてしまって良いものか疑問になった為、削除しました)
>ミサさん
オーガを倒す、女子生徒さんを助ける行動の中で
どうしてもやらなきゃいけない物品、建造物破壊ならば問題ないと思いますよ。
必要以上の破壊をわざわざ行うのでなければ、
目的達成に必要なものだったとしてAROAが補助しますという事なのかなと。
破壊しないで済むならその方がいいのは確か、ですね。 -
2015/06/17-16:39
むうー。
苦手な相手にあえて挑むのも手かと思いましたが、
任務である以上倒せないわけにも行きませんしね…
広い場所でヤグズナルの相手は厳しそうでしょうか。
カガヤのジョブと戦闘場所の状況を踏まえてヤグルロムにしようかと思います。 -
2015/06/17-07:47
途中参加失礼しますー(ぺこり)
私達は『教室でヤグナム』と戦うことになりました。
動きづらいうえに、物品の破壊はA.R.O.A の補償対象なんだよね、き、気をつけなきゃ。
とりあえず今はこれで。
皆さんどうぞよろしくお願いします!
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2015/06/17-07:20
【ダイスA(6面):1】【ダイスB(6面):2】 -
2015/06/17-00:21
あら、同じく【グラウンド】で【相手を指定可能】のようです。
自由となると悩みますが
イージスの盾を使ってみたいと思っていたので
ヤグズナルかヤグマアルのどちらかになるかと思います。 -
2015/06/17-00:17
【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):6】 -
2015/06/17-00:09
あ、【グラウンド】で【相手を指定可能】か~
これはこれで悩むな…
とりあえずよろしくお願いします! -
2015/06/17-00:07
こんばんは。手屋 笹とパートナーのカガヤです。
油屋。さん、アイリスさん、今回もよろしくお願いします。
場所と相手を決めましょうか。
えいっ
【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):6】 -
2015/06/16-20:41
またアイリスさん達とご一緒出来て嬉しい!こっちこそ宜しく!!
作戦ねりねりしないとだー(考え中 -
2015/06/16-12:06
【グラウンド】の【ヤックドーラ】が相手ですか。
動きの邪魔になるようなものが無い代わりに、逃亡を阻止できるようなものもあまり無い、と。 -
2015/06/16-12:03
アイリス・ケリーとラルクです。
油屋さんとサマエルさん、お久しぶりです。
現地で同じ敵を相手に戦うことはありませんが、お互い頑張りましょうね。
どうぞよろしくお願いいたします。
それでは…てい
【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):4】 -
2015/06/16-00:24
という事で……、私達は【教室でヤグズナル】と戦うことになりました。
作戦等はまた後ほど考えると致しましょう……。 -
2015/06/16-00:20
こんちはー!油屋とサマエルだよーっ!!早速だけどサイコロそいやーっ!
【ダイスA(6面):1】【ダイスB(6面):1】