《dahlia》芽吹く殺意(木乃 マスター) 【難易度:難しい】

プロローグ

●その声は裏切りの花より
バレンタイン地方にもいまだにオーガやデミ・オーガの驚異は残っている。
とある閑静な村の周辺にデミ・オーガの目撃情報があったと連絡を受け、
デミ化したネイチャーの巣が近くにあるかもしれないという情報から数組のウィンクルムが派遣された。

村周辺に広がる森の中は気づけばすでに夕闇に覆われつつある。
周辺の範囲の広さから、個別に哨戒に当たることになって数時間。
『デミオーガは無事討伐した、一旦村まで戻り合流しよう』
同じ依頼にあたっていたウィンクルムがデミオーガを討伐したと通信機越しに通達してきた。

では村で合流して帰還しよう、そんな返答をして村に向かおうとした瞬間……
「……痛っ」
神人の頭部に激痛が走り、頭を押さえると痛みに意識が朦朧とする。
ぐらりと体勢を崩して倒れこんでしまった。
ドサ……
先を歩いていた精霊が振り返ると神人が地面に伏していた。
転んだのかと思い手を引いて起こそうと慌てて近づいていく。
「大丈夫か?」
手を取ろうとした瞬間、ヒュンッ!と空を切る音と共に頬に鋭利な刃が掠めていく。

驚いた精霊は一歩飛び退いて神人を見つめる。
武器を手にした神人がゆらぁ、とゆっくり立ち上がった。
虚ろな瞳、それに反した恍惚な笑み……そして、瞳に宿る明確な殺意。

神人の頭の中に声が響いていた。
『ほら、アナタのスキなヒト イトシい、愛しイ、想イ人
 ホシい?得タイ?傍にオキたい? それならカンタン、殺ってシマエ』
悪魔の囁きに似た幻聴、胸に秘めた情愛をあふれさせ殺意に改変していく。

スキ スキ スキスキスキ ワタシダケノ ワタシダケノ!   絶対ニ、離サナイ――!
感情が歪んでいきじくじくと頭が痛む。

精霊は神人の豹変に動揺したがすぐに原因が解った。
……神人の頭部にある、見覚えのない幾重にも花弁を重ねた花。
身に付けていなかったはずの純白のダリアが、頭部に差されている。
ダリアの花弁は真っ白だが、徐々に赤いインクを染み込むように鮮烈な赤色に根元から染まり始めている。
「あの花が原因か……?」
精霊は神人の頭に開花した花が原因だと直感した。
掠り傷からこぼれて頬を伝う鮮血を手で拭いながら精霊は変貌した神人と対峙する。

――込められた殺意は、反転した愛情だと知らずに。

解説

目的
トライシオンダリアを除去して神人を救出

●状況
バレンタイン地方の森の中。
夕陽が差し込んでいますが、長丁場になれば日が落ちて周辺も暗くなる。
神人と精霊、2人だけで動いていた状況で発生。
※PC同士の援護や救助は場所が解っていないため不可

デミ・オーガは同行していたNPCのウィンクルムが討伐済ですので出ません。
出ないのでプランに書かなくて問題ないです。

●トライシオンダリア
バレンタイン地方の森に生える寄生型植物。
宿主の好意を殺意に変えて急速に成長し、花を除去すれば宿主は元に戻る。

寄生されると狂戦士状態になってしまう。
好意が強ければ強いほど、殺意が高まっていき吸収した分を強化する

精霊は豹変した原因が頭部の花であることを直感し、理解している。
※GMごとに多少の設定が異なります、攻略関連を含めお問い合わせはご遠慮下さい

●神人
こめかみ辺りにダリアが開花。
頭部以外は通常のバトルコーデ装備。
(頭部にダリアが開花しているため、頭装備のみカウントしません)
すでに意識は乗っ取られて武器を手に精霊に襲いかかれる状態。

身体能力は『親密度が高ければ高いほど向上』します。

●精霊
通常のバトルコーデは装備しています。
トランスは出来ない状態(神人がすでに寄生されている)なので、
スキルも使用できません。ご注意ください。

なお神人の『頭部に』ダリアが開花しています。
武器でそのまま攻撃するとどうなるか……予想がつくかと思います、
大幅なマスタリングがかかる恐れがございますのでご配慮ください。

●その他
・個別戦闘です
・頭部に寄生されているため、除去後は一旦意識が昏倒します
・神人は狂戦士化しているので理性的な行動は難しいです
・武器で頭部に咲いたダリアを狙うと神人が色々エライ事になります。
 その辺は作戦が必要です。

ゲームマスターより

正気度チェックはお手の物、木乃です。
闇堕ちですよ、奥さん。
今回は神人が闇堕ちし精霊が対峙することになります。
ヒャッハーでもゲハゲハでもにひひひでもクスクスクスでも!

しつこいほど書きますが、今回は神人の『頭部に寄生』しています。
プランの内容によっては大幅なマスタリングがかかる恐れがございますので
作戦を組む上で予めご考慮ください。

難易度も除去する部位が『難しい』という意味合いが強いです。
個人戦になりますのでレベルが1の方でも20の方でも差はありません。

それでは皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)

  「ふふ、うふふ」
微笑みながらも虚ろな目で翡翠さんに近づく。
斧を構えた瞬間、奇声をあげて彼に槍を振るい、攻撃する。
彼を永遠に私のモノにする為に。

お互いの武器同士を違えたまま、押し合いへし合いの攻防が続く。
私は呟いた、何で逃げるの?と。
やがて痺れを切らし、急に武器ごと身を引く代わりに、
今度は翡翠さんを突き刺すように槍を投げつけた。

槍を失ってもなお、私は絶望的な表情一つ変えない。
翡翠さんに近づき、ついには両手で首を絞めにかかる。

「!?」
その時、目の前で一輪の花が舞い落ちる。
私は両手の力が抜けるのを感じました。
言葉に出そうと、声に出そうとしてみる。
そうしている内に翡翠さんの前で両膝を折って倒れました。





フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
  ・寄生中
…ジュスト、ダイスキ…。ダカラ…、ワタシノモノニシテアゲル。
(普段の引っ込み思案は陰を潜めて、ふんわり微笑みつつ…)



(…コロス、コロ、す?…シンダラワタシノモノ、ワタシダケノモノ。
…、…デ、も、…シンダラ、ウゴカナイ、ハナサナイ、カワラナイ、ソン、なの、は…)

・昏倒から覚めた後
…ごめんなさい…、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…、その…。
…、…助けてくれて、ありが、とう…、ごめんなさい…。


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  瞳に映るのは、愛しい貴方の姿だけ
羽純くん、羽純クン
大好き
大好き
アナタが本当にスキ

…でも、私のものにならないなら…殺しちゃうシカないの

薄く微笑みながら、槍を彼に向けて構える

ちょっとイタイけど、許してね
アナタを殺しタラ、私もスグに後を追うカラ
そうシタラ…天国でずーっとズット、アナタと一緒
羽純クンはもう戦うヒツヨウはなくなる

ダカラ、死んで!

彼の心臓をめがけ、何度も槍を突き振るう

ドウシテ避けるの?
私と一緒に居るのはイヤ?
そんなの嫌
私はこんなに好きなのに
嫌嫌嫌!
頭が痛い…好きが溢れて
殺してワタシだけのものにするの!

だったら、ワタシに殺されて!
思い切り槍を突き出す

…羽純くんが私を引き戻してくれたの
有難う



●その花は
一目見ただけでは花弁を何十にも重ねた大きな花の髪飾りに見える。
純白のダリアは清楚でいて華やかさの残る佇まいで神人のこめかみ辺りに……『咲き誇っていた』
その実態は花の髪飾りではなく、寄生植物『トライシオンダリア』
じわりじわりと、鮮やかな赤色が花弁の根元から吸い上げられていく様子はまるで吸血しているようにも感じる。
吸い上げた分だけ愛情を殺意へと改変していく忌まわしき一輪の花。

急激な成長して開花した大輪の花は神人に悪魔の幻聴を聴かせ続ける。
『欲しいなら、力づくで手に入れてしまえ』と。
同時刻、陽が落ちようとしている森の中で3組のウィンクルムがその猛威に晒されていた。

●微笑む狂気
「トライシオンダリア、とか言ったか」
ジュスト・レヴィンはマジックブックを構え、ゆっくり立ち上がるフィーリア・セオフィラスを見据える。
「……ジュスト」
普段は引っ込み思案で伏し目がちなフィーリアが今はふんわりと笑みを浮かべている。
そしてしっかりと握り締めた大型ナイフを持つ手に、フィーリアの大きな黒い瞳が雄弁に自己主張していることが普段の彼女と明らかに違う。
「まずは武器をどうにかしないと」
自分がなにをすべきか、ジュストは言葉を口にして冷静に思考する。
しかし今のフィーリアにジュストの事情は関係ない、大きく一歩を踏み出すと凶刃を振り降ろすべく大きく振りかぶる。
「くっ」
マジックブックで剣撃を逸らせながらまた一歩後ろに飛び退く。
白いウェーブがかった髪を振り乱すフィーリアはジュストから視線を逸らさない。
貴方だけを見つめている、ストレートな愛情表現のようにすら思える。
「……ジュスト、ダイスキ」
ぽつりぽつり、たどたどしい口調で発する声も普段と変わらない。
だが口から出てくる直接的な言葉だけが大人しい彼女のものではない、ジュストは僅かに顰めた表情でフィーリアを見つめる。

「そうか」
肯定もせず否定もしない曖昧な言葉を返すジュスト。
(リアは戦闘訓練を受けた事も無いし、体力もある方じゃない)
俺一人でも時間をかければフィーリアを疲れさせてどうにか出来るはず、
そう考えたジュストはマジックブックを宙に浮かせながら応戦の意志をフィーリアにみせる。
「……ダイスキ……。ダカラ…… 」
ワタシノモノニシテアゲル。
フィーリアが小さく呟いた狂愛の言葉が嫌に大きく聞こえ、再び身構えると事前動作もなしに急接近。
大型ナイフの突きや振り抜きの乱れ撃ちを浮遊させたマジックブックと懐に忍ばせていた仕込み刀でいなしていく。
しかし肉体をダリアが強化しているのか、ナイフによる掠り傷を少しずつ増やされていく。
至近距離での捌き合いは互いの表情がよく見えた、ジュストの表情はフィーリアからどう見えていたのだろう?
ジュストの見たフィーリアの表情は柔らかな笑みに反して、鋭く尖った愛憎が虚ろな眼から感じられる。
(違う、本来のリアはこうじゃないハズだ)
ウィンクルムになることへの使命感があった訳ではない。
ジュスト自身オーガの対処が出来るのならなんとなく悪くないから、それだけだ。
フィーリアも今はダリアが見せる幻影に惑わされているだけなのかもしれないと思うがジュストは確信を持てなかった。

「リア、武器を離せ!」
フィーリアの武器を持つ手を狙い、僅かな隙を突いてマジックブックをぶつけようとするがフィーリアの滅茶苦茶な動きは狙いを定めさせない。
怪我をさせたくない、という躊躇いがあるからかもしれない。
せめて疲労により攻撃の手が緩むことを狙ったほうがいいかと作戦方針をシフトする。
( ……おかしい)
ジュストは全力で斬撃を繰り返すフィーリアの動きに疲労が感じられないことに違和感を覚える。
(まさか)
ハッとしたジュストはダリアに一瞬視線を向けると、先ほどより鮮やかな赤の面積が広がっている。
嫌な予感がじわじわと胸に広がりはじめる。
(リアの身体を限界以上に酷使させているとしたら)
――時間をかければかけるほど、ダリアはフィーリアの身体を衰弱させていくのでは?
内心、舌打ちしたい気持ちを押さえてジュストはフィーリアが大きく振りかぶった瞬間を見て、スッとしゃがみこむ。
そこにあったはずのジュストの身体が見えなくなったがフィーリアは既に振り抜いた後。
「済まない」
小さく謝罪の言葉を述べるジュストはフィーリアの細い脚に足払いをかけると足元に注意を払っていなかったフィーリアは容易に地面に伏した。
持っていた大型ナイフもフィーリアの手から離れて地面に突き刺さる。
「終わりにする」
ジュストはフィーリアのこめかみに咲いた赤色に染まりつつあるダリアを握りつぶす。
湿り気を帯びた花弁はくしゃり、と形を歪めるとすぐに茶ばんでいき粉々となっていく。
「ジュ、ス……」
ダリアが枯れ果てると同時にフィーリアはガクリと脱力した。

「はぁ、はぁ」
すでに周囲は陽が落ちて暗くなった森の中、ジュストの荒い呼吸がよく聞こえる。
反してフィーリアは浅くか細い呼吸を繰り返しかなり衰弱していることが解る。
「済まない」
ジュストはもう一度謝罪の言葉を述べてフィーリアの身体を担いだ、一刻も早く手当をした方がいい。
(……ダイスキ、か)
フィーリアの真意は知れぬものの、ジュストは大型ナイフを回収し急ぎ足で村へと向かう。

●熱情の狂気
カシャン!!
大きな音をたてて柄を補助にしながら桜倉 歌菜は立ち上がる。
身にまとう気は普段の明るく活発な少女のものとは思えない鬼迫。
「羽純くん、羽純クン」
歌菜は大好きな月成 羽純の名を呼んだ、一目見た時から運命を感じた私の王子様。
「大好き、大好き、アナタが本当にスキ」
恋焦がれる乙女の言葉はなんと情愛に満ちていることか!歌菜は瞳を潤ませながら羽純を見据える。
「……でも、私のものにならないなら……殺しちゃうシカないの」
羽純クンは、私だけのもの。絶対に絶対に、誰にも渡さない!!
自身の王子である羽純に対し歌菜は煌びやかな装飾を施した軍用槍の切っ先を向ける。
浮かべる恍惚とした微笑は一種の美しさも感じられた。
「歌菜……!」
何度か報告に聞いていた狂気の花に歌菜が寄生されると思わず羽純は動揺が隠せなかった。
「ちょっとイタイけど、許してね?アナタを殺しタラ、私もスグに後を追うカラ」
動揺する羽純を宥めようと一変して明るい笑みを浮かべる歌菜、発せられる言葉は本来の彼女ならば出るはずのないものばかり。
「そうシタラ……天国でずーっとズット、アナタと一緒。羽純クンはもう戦うヒツヨウはなくなる」
細められた双眸から覗くアクアマリンの瞳は変わらず、虚ろでいて強烈な殺意が垣間見える。

「ダカラ、死んで!」
地面を踏みしめて一気に踏み込む速度はデミ・ウルフに匹敵するほど。
切っ先を向けたまま突撃してきた歌菜に羽純は片手杖と小剣を構えながら横に転がり避ける。
「ドウシテ避けるの? 私と一緒に居るのはイヤ?そんなの嫌……!!」
露骨に怒気を滲ませ眉をしかめる歌菜、光彩のない瞳が威圧感を増幅させる。
立ち直した羽純に対して容赦なく追撃をしかけ刺突していく。
「そんなの嫌、 私はこんなに好きなのに、嫌嫌嫌!!!」
怒り狂ったように軍用槍を振り回す歌菜に対し、羽純は普段との差異の激しさから驚くほど冷静さを取り戻していく。
それは歌菜とくぐり抜けた戦場の数々、そして彼女を想う気持ちが羽純の意志を確固たるものにしていた。
「……俺はお前と一緒に居たいよ」
歌菜の耳には届いていないかもしれない、それでも今伝えなければいけないような気がして羽純は言葉に変える。
羽純の胴を薙ぎ払おうとする槍の切っ先から一歩引いて空振りさせる。
「だから、死ねない」
そう、すでに心の中でどうすべきか決まっている。
「お前も絶対に守り切る」
ここで死ぬつもりはない、歌菜も死なせない。羽純の漆黒の瞳に決意が宿る。
「頭が痛い……」
羽純の言葉に心が揺らいだのか、じくじくとダリアの生じる痛みに眉を顰める歌菜に再び幻聴が甘く囁きかける。
『私ダケの王子様、モウ苦しマナイで?楽にスルカラ、傍に居てアゲマしょウ?』
じわりと歌菜の胸に熱い感情がこみあげる、奥底に秘めた愛情が反転させられていく。
「そうよ、殺してワタシだけのものにするの!」
歌菜の刺突の勢いがより強まり、羽純の肉体にいくつもの傷をつけていく。
「羽純クン、羽純クン羽純クン羽純クン!!」
目の前で必死に回避する羽純の心臓めがけて刺突し、胴めがけて大きく薙ぎ払っていく歌菜。

(突いて、突いて、薙ぎ払う……単調な攻撃からすると考えて動いている訳ではないな)
羽純とて防戦しているだけに留まらない、あくまで歌菜を傷つけない為に自分から攻撃せずに一撃でダリアを除去するための算段を練っていた。
(まずは射程の長い槍の懐に潜り込まないと、動きはだいたい読めた)
歌菜はあくまで一撃で俺を殺したいらしいと胸の中心にある心臓を狙っていると羽純は推測。
「もうこれ以上苦しまなくていいからな」
立ち止まり冷静に呼びかける羽純に対し歌菜はもう一度身構えて交戦を続ける姿勢をみせる、ダリアは半分ほど赤く色づいていた。
「だったら、ワタシに殺されて!」
歌菜もこの一撃で終わらせようと大きく一歩を踏み出すと同時に貫通させようと軍用槍を突き込む。
(来たな!)
羽純は歌菜の大振りに動いた直後を狙って前屈姿勢で歌菜との間合いを詰めていく、肩口に槍の刃が掠めて傷つけられたが、好機とあれば関係ない。
そのまま体当たりした羽純は歌菜を地面に押し倒していく、体格差もあって歌菜は容易に地面に押さえつけられる。
「歌菜から離れろ!」
羽純は歌菜に寄生するダリアを引きちぎると、生花と変わらぬ脆さで崩れていった。
「……あ、あぁ……」
ダリアが朽ちると歌菜はゆっくりとまぶたを閉じる。

「歌菜?……おい、歌菜!」
昏倒した歌菜を見て肩の負傷など気にも留めず羽純は慌てて抱き起こす、見ると額に僅かな汗を滲ませながら胸を上下させて呼吸を繰り返している。
気を失っているだけだと気づいた羽純は項垂れて大きく溜息をついて張り詰めていた息を吐き出す。
「よかった……あまり心配させるな、馬鹿」
しかし顔色をよく見てみると芳しくない、羽純は肩を簡単に止血すると歌菜の軍用槍を支えにして背負いあげる。
「……はす、み、くん……?」
支度を済ませて村へ向かおうとすると歌菜がまぶたを薄く開く、弱々しいながら聞こえた声色にハッとしながら羽純は覗き込んだ。
「歌菜、大丈夫か?」
「羽純、くん……あり、が、と……私を、引き戻して……くれ、て」
歌菜は儚げに笑みを浮かべると再び気を失って羽純の大きな背中に身を預けた。
先ほどより少し安堵した表情を見せる歌菜に羽純もようやく安心したのか、小さく微笑をこぼす。
「……無事でよかった」
俺が死ねば、歌菜を一人にしてしまう。
歌菜が死んでしまったら……ああ、そんなことは考えたくない。彼女はいま自分の背中でようやく落ち着きを取り戻したのだ。
自分は、自分の信念を貫いたんだ……今だけはそれを誇ろう。
「歌菜、絶対に……一人にしないからな」
秘めた決意を再び胸に宿し、羽純は歌菜を治療すべく村へと静かに歩みだす。

●愛憎の慕情
「ふふ、うふふ」
七草・シエテ・イルゴも同様に茶色の緩やかな髪の合間から純白のダリアを咲かせていた。
手にした緋色の矛は返り血を帯びているようにすら思えるのは、シエテから溢れ出る明確な殺意が想起させるのだろう。
艶然と微笑むその深緑の瞳は深い陰りを見せ、虚ろな眼差しは恋人でもある翡翠・フェイツィに向けられる。
「シエ……」
自身の恋人の変貌に翡翠は理解が追いつかない、何故シエは俺に向かって武器を振りかざしているんだ?どうして?
考えれば考えるほど理解したくないと脳が拒絶する。
「翡、翠、サ……ン」
名を呼ぶ、愛する女の声音は翡翠の背筋を凍えさせるような冷たさを感じさせる。
口元に弧を大きく描きながらゆっくり、ゆっくりと歩を進めて近づいてくるシエテ。
(どうすれば……いや、ひとまずシエが持つあの矛をどうにかしないと)
翡翠は頭を振ると意を決して背負っていた両手斧を構える、木製だと侮ることなかれ。ショコランドの木から生まれた伝説の両手斧である。
初夏の花である真っ白なカーネーションが螺旋状に咲き誇る両手斧を手に取るとふわりとフリル状の花弁が揺れる。
迎撃態勢を見せる翡翠にシエテは笑みを深め……翡翠に一気に詰め寄る。

「うぅあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
(速い!?)
咆哮をあげながら突進するシエテは翡翠の予想以上の速度で迫っていき、勢いのまま緋矛を振り下ろしていく。
翡翠も振り下ろすタイミングに合わせて両手斧で受け止めるが勢いの乗った一撃は重い。
「ぐぅぅっ!?シエ、やめろ!!」
両手斧と紅矛の柄同士で鍔迫り合いながら翡翠は必死でシエテに呼びかける。
しかし、シエテは押し負かすつもりでギリギリと押し込み優勢な立場を得ようとしている。
「翡翠サン、ヒスイさん翡翠さんヒスイサン翡翠さんヒスイさんヒスイサン翡翠さん……!!」
まくし立てるように名を呼び続けるシエテの瞳に翡翠の狼狽した顔が映る。
「ナンで逃げルノ?ドウシテ逃げルノ?私と翡翠サンは愛シ合ッテイルのでショウ?ねぇ、ドウシテ翡翠サン!?」
ヒステリックに叫びながらシエテは両手斧を弾き飛ばしてもう一度翡翠の頭部めがけて紅矛を振り降ろしていく。
振り下ろされる紅矛に対し、翡翠は柄で軌道を逸らして一撃を受け流し続ける。
「翡翠サンと私ハ永遠ニ一緒ナノ、翡翠サンハ私ダケノモノ!ズーット、ズーット……一緒に居てアゲマスから!!」
狂ったように笑みを浮かべるシエテの攻撃の手を休めることはない、次第に軌道を逸らしきれなくなってきた翡翠の腕や頬に赤い線が増えて血が滲み出す。

(くそ、随分タフネスになっている……隙をこっちから作るしかないな)
「熱い殺し文句だなぁ、シエ!そういう素直なところも好きだぞ?」
幾度の競り合いを経て距離を一度置いた翡翠はシエテを挑発して油断させようとする。
「うふ、ふふふ……嬉シイ!翡翠サン、スグ楽にして差し上ゲマス……!!」
シエテは紅矛をまっすぐ構えて突撃を仕掛ける。
(隙だらけだな、このまま矛を持つ手元を狙えば……)
その時、翡翠はシエテの手元を狙って両手斧の先端をぶつけようと大きく振りかぶる……
(……待て、こんな大きな得物で、シエの手元を狙ったら……どうなる?)
視線は既に緋色の矛を握るか細い手首を捉えている、あとは両手斧を振り下ろせば自分の思惑通りになるハズだ。
だが、今振り下ろそうとしている相手は……誰だ?
愛する女に、自分は何をしようとしている?それは自分が守ろうしている者を、本当に守ることなのか?
(ダメだ、これだとシエに怪我をさせかねない……!!)
―――自分の脳裏に浮かんだ結末に、翡翠は振り下ろすことが出来なくなった。
狼狽している翡翠に好機と見たり、シエテは紅矛で翡翠の脇腹を貫き大木まで押し込んでいく。
「かはぁ……っ!」
脇腹に走る激痛に翡翠は息が詰まる、しかし呼吸を整える隙を与えないとシエテは翡翠の首を両手で締め上げていく。
「ふふ、うふふふふふふふふふふふふ……翡翠サンは、ホントに優シイですネ。私も、スグに終わラセマスから」
ギリギリギリ、と女の細腕とは思えないほどの剛力でシエテは翡翠の首に力を加えていく。

「シ……エ……」
首筋に食い込む指の感触がジワジワと呼吸を阻害し始め翡翠は苦しげに息を吸い込もうとする。
……至近距離で顔を寄せているシエテの瞳は変わらず虚ろで、自分ではない何かを見てるのかと錯覚しそうになる。
同時に、あの忌々しい大輪の花が翡翠の視界に入る。
(コイツ、を……潰せばぁ……!!)
翡翠は歯を食いしばり必死でシエテを苦しめ続けるダリアに手を伸ばす、
シエテ自身は悲願達成に夢中になっているからか翡翠が自身の花を狙っていることを歯牙にもかけない。
酸欠で遠のきそうな意識を気力で留めている翡翠はようやくダリアに手をかける。
(さっさと、シエから……離れろぉ……!!)
ダリアに触れた手を力いっぱい握り締めると勢いよく引きちぎり遠くへ投げ捨てる。
宙へ放り出された赤く染まるダリアが地面に落ちることには既に枯れ果てていた。
「!?……」
シエテの両手は翡翠の首筋からするりと外れていき、両膝をついてシエテは倒れこんだ。
「ゲホ、ゴホッ……はぁ、はぁ」
ようやく絞め上げから解放された翡翠は呼吸を整えようとして僅かに咳き込む、あんな愛情表現はさすがに何度も受けたくはない。
「う、ぁ……」
「シエ、大丈夫か!?」
呻き声を漏らすシエテに翡翠は慌てて顔色を見るとダリアに寄生されていた時間が長かったのか顔色は青白くなっていた。
「そうだ、村で合流する手筈になっているんだ……急いでシエを連れて行かないと」
自身の傷は村で手当してもらえばいいと後回しにした翡翠は両手斧と紅矛を揃えて持ちながらシエテを背負いあげる。
2本の柄にシエテを座らせるようにして支えると急ぎ足で村へと向かう。
(シエ、すまない……)



依頼結果:普通
MVP
名前:桜倉 歌菜
呼び名:歌菜
  名前:月成 羽純
呼び名:羽純くん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 未織  )


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 難しい
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 3 ~ 5
報酬 通常
リリース日 06月08日
出発日 06月14日 00:00
予定納品日 06月24日

参加者

会議室

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/06/13-22:07 

  • [5]桜倉 歌菜

    2015/06/13-22:07 

  • 翡翠:
    シエテのパートナー、翡翠・フェイツィだ。
    羽純の兄さん、ジュストの兄さん、よろしくな。

    報告書で読んできたトライシオンダリアが、ついに俺達にも襲い掛かってきたね。
    日没までにあの花を切り落として、助けよう。

  • ジュスト:ジュスト・レヴィン。
    パートナーはフィーリア・セオフィラス。
    よろしく。

    物理攻撃は苦手なんだが…。どうするかな。

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/06/12-00:42 

    羽純:
    月成羽純だ。パートナーは歌菜。
    皆さん、宜しくお願いします。

    大変な事になったな…。
    スキルも使用出来ない状態で何が出来るか、見極めて…何とか止めなければ。

  • [1]桜倉 歌菜

    2015/06/12-00:39 


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