プロローグ
●女性職員の憂鬱
「夜空に虹をかけてほしい?」
A.R.O.A.の女性職員は、各地から寄せられた依頼の中にロマンチックな一文を見つけ、思わず声をあげた。
虹がかかった夜空かあ……そんなの、すてきに決まってるじゃない。
束の間、想像上の光景にうっとりと目を細める。しかし、職員はすぐに我にかえると、自分の仕事を思い出した。依頼内容に目を通して、深いため息をつく。
「仕方のないことだけど、オーガの被害者はなかなか減らないわね。……ん?」
職員は依頼の最後に添えられた文を見て、目を丸くした。それから、どこか軽やかに、ウィンクルムに協力を求めるべく動き出したのだった。
●夜空に虹はかかるのか
「依頼について説明するわ」
女性職員の真剣な眼差しに射抜かれて、神人と精霊はぴんと背筋を伸ばした。自分たちと同じように、説明をうけに来た数組のウィンクルムも皆、どこか緊張しているように見える。少なからず、戦いを切り抜けてきた者を圧倒するほどのオーラを、彼女はまとっていた。
一体、どんな危険な依頼がきたのだろう。
「ウィンクルムのみんなには、夜空に虹をかけるお手伝いをしてほしいの」
その言葉に、数秒、沈黙が落ちる。
「……虹、ですか? 夜空に?」
「ええ」
職員は難しい顔をしたまま、続きを口にする。
山のふもとにある小さな村では、妖精の力を秘めた石が祀られている。その石は一年に一度、妖精の力を受け取り、疫病や貧困から村を守るのだという。しかし、妖精の力を受け取るには、宴を開き、妖精たちに感謝の気持ちを伝えなければいけない。
感謝の気持ちを受け取った妖精が、石に力を渡す時に見られる光が虹のように見えることから、村人はその特別な日を『夜空に虹がかかる日』と呼んでいるそうだ。
だが、今年は宴の準備をしている途中、『あるモノ』が現れた。あるモノ――デミ・ワイルドドックの群れである。
虹がかかる日はもうすぐなのに、デミ・ワイルドドックのせいで準備がなかなか進まない。このままでは宴を開催できない、奴らを退治してほしい。
「以上が今回の依頼よ」
職員は話し終えると、ふう、と息をついた。
「何か質問はあるかしら?」
「あの、依頼はデミ・ワイルドドックの退治、で間違いありませんよね?」
「ええ。群れにいるのは10匹くらいのようね。その中にいたという身体の大きな個体がリーダーじゃないか、とあるわ」
――神人と精霊は、拍子抜けした思いだった。職員の様子から、オーガの大群が現れたとか、もっと緊迫したものが来たと思ったのだ。
「あ、そうだ。可能なら宴の準備を手伝ってほしいともあったわ。手伝ってもらえる場合は、力仕事が多いからできれば男性にうけてもらいたいって」
そう補足すると、職員はウィンクルムたちから視線をそらした。
「宴には、村人以外も参加していいらしいの。退治が終わったら、ゆっくりするのもありかもね。……私も、仕事が終わったら様子を見に行くつもり」
職員の言葉に、神人と精霊は顔をみあわせた。職員の声に、楽しそうな響きが混じっているのがわかったからだ。
――あれかな、楽しみにしてるのを隠そうとして、固い態度になってたのかな。
理由をなんとなくだが察したウィンクルムたちは、苦笑いを浮かべながらも、困っている人を助けるべく、村へと向かうのだった。
解説
●成功条件
デミ・ワイルドドック10体の撃退
●発見されたデミ・ワイルドドックについて
山を住処にしており、夜になると村に下りてくるようです。
群れの中にはリーダーを守ろうとする個体と、人や宴のために用意された食糧を狙う好戦的な個体がいます。
リーダーは身体が他のデミ・ワイルドドックに比べて大きく、慎重かつ狡猾な性格のようです。
一体一体の強さはそれほどでもないですが、囲まれると厄介です。先にリーダーを倒せれば、残された個体は混乱して隙をつきやすくなりそうですが……。
●戦闘の可能性がある場所について
・山
村人が出入りしている関係で、比較的足場は整っています。ですが、少しそれると迷ってしまう可能性があるので気を付けてください。
足跡を発見し住処を見つけられれば、村に被害を出さず倒すことも可能かもしれません。
・村
道が整備されており移動しやすいですが、家や宴の会場となる広場に被害が出ないよう気を付ける必要があります。
・広場
宴の準備が進められている広場です。テーブルや灯りが持ち込まれているので、少々動きづらいかもしれません。微量ではありますが、食糧も保存されているので、デミ・ワイルドドックが村に下りてきた際、まっさきに向かってくる可能性が高いです。
●余談
相手は10体。一気に倒すのがベストではありますが、群れと離れて行動する個体も出てくる可能性もありますので、撃退に向かうグループと村人の護衛をするグループに分かれるといいかもしれません。
村に残る場合は、宴の準備を手伝うと村の造り等周辺の情報を知ることができ、何より村人に喜ばれます。余裕があれば、困っている村人たちの力になってあげてください。
ゲームマスターより
お世話になっています、櫻茅子(さくらかやこ)です。
ページを開いていただき、ありがとうございます。
今回、皆様には夜空に虹をかけるお手伝いをお願いします。少し戦いにくいところでの戦闘になる可能性もありますが、落ち着いて戦えば勝てるはずです。
また、プロローグにあるように、村は男手を必要としているので、募集は男性のみとなっています。
初めてのアドベンチャーエピソードで緊張しています……(ぶるぶる)
が、皆様の活躍を魅力的に伝えられるよう、精いっぱい頑張ります!
では、よろしくお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
入山前に野犬の住処になりそうな場所があれば聞いておく 連絡用にインカム受け取り、電波が通じるか確認 山中の移動は一定間隔で木に目印をつける 辺りが暗くなってきたらライトを絞って使用 デミ発見後にトランス 後衛に配置。状況を広く見ることを心がける 味方の立ち位置や敵の襲撃に 気付いていない場合に注意を促す 逃走しそうな個体を優先して狙う 確実に矢を当てて動きを鈍らせることを意識 できる限り村の方へは行かせたくないから 逃がした場合は村にいる仲間へ連絡 退治後にまだ準備があれば喜んでお手伝いを …ラセルタさん、いつも重い銃を持っているでしょ(じと 宴は村の人たちに混ざり楽しく過ごす 感謝を伝えるものだし、明るく賑やかにできたら |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
悪いが一匹も逃がすつもりはない 人を襲った獣だしデミだからな …ゴメンな ◆探索 村人に簡易地図を借り、目撃位置と山道等から出没位置を絞込む その付近で獣の足跡・糞・爪痕から辿り、巣を見つけたい ランスの《動物学》も頼りだ トランス 風向きに注意し可能なら風下から隠密に巣へ接近 ・巣穴なら落ち枝に火を点け穴に投擲⇒燻されて目や鼻を煙でやられたのを倒す ワイルドドックは通常巣穴生息だから確率は高い ・穴以外なら逃走防止に囲んで襲う ・先に気付かれたら足止めしつつ魔法《カナリア》を待つ デミの逃走は杖の“封樹の理”で草蔓を伸ばし絡めて防ぐ! ★下山時に食用果実(ユスラウメやモミジイチゴ)を採取し供物に加える ★虹が見れたら感動 |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
オレ達は村と村人を傍で護るぜ。 群れからはぐれて食べモノを狙う敵を退治しなきゃ。 宴の準備を主に力仕事で手伝い、村人達から話を聞く。 ・村と村周辺の地形 ・敵をどの辺で見かけたか の情報をインカムや携帯電話で仲間に知らせる。 敵が入り込む可能性の高い方向(道)を特に警戒。 道途中にスキル偽装3も活用し、 古い戸板で身を隠せる程度の遮蔽物を作り 敵の攻撃に備える。射撃攻撃時に良いだろ。 道は全部塞がない。 万一敵が村に入って来たらトランス。 オレが敵に近づき敵の気を引く。 敵攻撃を引き受け、他の人が攻撃されないようにする。 オレは剣とシャイニングスピアのカウンターで応戦だ。 手早く敵を倒して宴の準備を続けようぜ。宴楽しみだ! |
アイオライト・セプテンバー(白露)
準備:携帯電話orインカム(出来れば人数分 あたしとパパは護衛組 デミが来るまでは、準備のお手伝い あたし女の子だけど(女の子だもん)がんばるよ 初めての場所だから、お手伝いしながら土地勘掴みたいな デミは広場に来るんじゃないかって話だから、デミの通りそうな道筋を村の人に聞いて、そこで待ち伏せかな 撃退組の人達の様子を、電話とかで、お互いにどんな様子か連絡しあえるといいんだけどなー トランスはデミが現れたら デミが村の人を襲いそうになったら、鞭で捕まえるの パパのMPが足りなくなったら、ディスペンサするね 夜空の虹かー 月虹とはまた違うんだよね 素敵だろうなあ パパと一緒に見たいな そっと寄り添って…きゃーロマンチック♪ |
天原 秋乃(イチカ・ククル)
夜空にかかる虹ってどんなのだろう? 昼間の普通の虹より綺麗なのかな? 撃退組と村に残る護衛組に分かれて行動 俺とイチカは撃退組に 山に入ったら足跡からデミ達の住居を探す うまく住居を見つけられればそこを叩く 戦闘にはいり次第トランス 無理はしない程度にイチカや他のみんなのサポート 誰かが囲まれて孤立してしまわないように注意を払いながら戦う 村に被害が及ぶのは避けたいから、そっちに逃げそうな敵をみつけたら他のみんなに叫んで知らせる 「一匹たりとも逃がさない!」 やむを得ず逃がしてしまったら、護衛組の4人に連絡をいれる デミ退治が終わったあと、必要であれば宴の準備の手伝いもする 虹…無事にかかるといいな |
●村人達の希望
夜空に虹をかける、手伝いをしてほしい。
その依頼に名乗りをあげた神人と精霊は、到着した村で「広場に十五時集合」と決め、情報収集のために散っていた。
「夜空にかかる虹ってどんなのだろう? 昼間の普通の虹より綺麗なのかな?」
約束の時間の数分前。澄んだ青空の下、広場の隅で『天原秋乃』は『イチカ・ククル』の隣に立ち、ふと気になっていたことを口にした。
「夜空の虹かー、月虹とはまた違うんだよね。素敵だろうなぁ。パパと一緒に見たいな。そっと寄り添って……きゃーロマンチック♪」
秋乃の言葉を拾った『アイオライト・セプテンバー』がうっとりと頬を両手で包んだ。
「きれいな虹を見るためにも、デミの群れは必ず退治しなくてはいけませんね」
「まあ、みんなが楽しみにしているお祭りを邪魔するのはよくないよね~。悪い犬さん達にはさっさと退場してもらおうか」
愛らしいその姿を見守りながら口を開いた『白露』に、イチカが続く。
と、『羽瀬川千代』と『ラセルタ=ブラドッツ』、『アキ・セイジ』と『ヴェルトール・ランス』の四人がやってきた。
「すみません、遅くなりました」
「すまない。だが、山道等を簡単に記した地図を借りることができた。これと皆の情報をあわせれば、ある程度の出没位置を絞り込めると思う」
「さすがですね、セイジさん」
「動物に詳しいランスさんもいるしな。頼りにしてるぜ」
アキの手際に、『ラキア・ジェイドバイン』と『セイリュー・グラシア』が賞賛の言葉を口にする。名指しで頼られたヴェルトールは満更でもなさそうな顔をすると、「さて!」と声を張り上げた。
「時間はあんまりないし、さっさと作戦をまとめようぜ!」
全員が頷くと、千代が口を開いた。
「現れたデミ・ワイルドドックの群れは全部で十体。その中になかなか人前に現れず、常に数匹のデミを侍らせている体の大きい一体がいる、と。この体が大きい一体が、リーダーなんじゃないかってことでしたよね」
「戦いを好む好戦的な個体や、食糧を狙う個体もいるという話だったな」
千代とラセルタの再確認に、ラキアが「山で倒しきるのが一番だと思うけど」と話を続ける。
「数もいるから、何体か村に下りてきてしまう可能性もあるよね」
「山へ撃退へ向かう者と、村に残って守る者に分かれるのが無難だろうな。この時間であれば、奴らはまだ山にいるはずだ」
目撃された時間は、ほとんどが夕方から夜にかけてだったからな。
ラセルタの提案に、全員が納得する。話し合いの末、デミの撃退に山へと向かうのは、秋乃とイチカ、アキとヴェルトール、千代とラセルタの三組。セイリューとラキア、アイオライトと白露の二組は村に残り、宴の手伝い兼村に現れる(かもしれない)デミの撃退を担当することとなった。
そして、それぞれが手に入れた情報を共有していく。千代が中心となって集めた「野犬の住処になりそうな場所」をはじめ、どんな性格の個体が何体いると予想されるのか等、情報と地図を照らし合わせ、ざっくりとではあるが出没位置を絞り込んでいく。
話がまとまると、全員が連絡用にと用意したインカムを装着した。必要な情報は――うまくつながればだが――これからこのインカムを通じて報告しあうことになっている。
「村の護衛は頼んだぞ」
「だいじょーぶ! あたし女の子だけどがんばるよ」
撃退に向かう六人に元気な返事をしたアイオライトだが、何か言いたげな顔をした白露に気付くと「女の子だもん」と頬を膨らませた。セイリューも「任せろって!」と頼もしい笑顔を見せ、ラキアも安心させるように頷いて見せる。
彼らなら、村を任せても安心だ。
頼もしい仲間に六人は背を向けると、山へ向かって歩き出した。その後ろ姿を見送りながら、白露はアイオライトに声をかける。
「気持ちのいい宴にしたいですね。でもアイ、お酒は呑んではいけませんよ」
白露の注意に頷くと、アイオライトは「んー」と人差し指を唇にあてる。
「初めての場所だから、お手伝いしながら土地勘掴みたいな」
「村と村周辺の地形とか、敵をどの辺で見かけたかとかも聞いてみたいよな。さっき集めた以外にも、何か情報を持ってる人がいるかもしれないし。山に行った皆に、少しでも多く情報を渡したい」
「そうだね」
セイリューの言葉にラキアは頷くと、ふうと息をついた。
「『村に敵が到達する前に殲滅』が基本方針だけど……来てしまった場合に備えて、俺達の方でも対応をまとめておこうか」
「さんせーい!」
「最優先事項は村人に怪我をさせないこと。とはいえ、大切な宴の場所を血で汚したくないから、敵は広場に入る前に殲滅したいね」
「デミは広場に来るんじゃないかって話だから、デミの通りそうな道筋を村の人に聞いて、そこで待ち伏せかな」
「邪魔にならない程度に、広場に直結する以外の道に障害を置けば、デミの動きを少しは予測できるんじゃないでしょうか」
「だったら、古い戸板で身を隠せる程度の遮蔽物をオレが作るよ。射撃攻撃時に良いだろ」
セイリューは「オレのスキルが活用できる!」と笑顔を見せた。弓や銃を得物とする白露にとって、それはありがたい申し出だった。お礼を言って、更に話を続ける。
「道は全部ふさがないでおきましょう。逃げて来たデミが、別の村に行ってしまったら困りますし」
「撃退組の人達の様子を、インカムでお互いにどんな様子か連絡しあえるといいんだけどなー」
アイオライトがそう言った直後、耳元で『聞こえますか?』と、落ち着いた千代の声が聞こえてきた。少しノイズが混じっているものの、聞き取るのに問題はない程度だ。どうやら、早速山に足を踏み入れたらしい。
セイリューが答える。
「聞こえてるぜ。よかった、山の中でもちゃんとつながるみたいだな」
『そうみたいですね。とはいえ、まだそんなに深いところに入ったわけではないのですが。テストついでに、こちらの状況をお伝えしておきます。今、先ほどまとめた情報と周りの痕跡をもとに、デミの住処を探しているところです』
「了解。オレたちはこれから宴の手伝いに行ってくる。何か追加で情報が手に入ったら連絡するぜ」
『わかりました、よろしくお願いします。では、また後ほど』
通信が切れると、白露は「それじゃあ」と周囲を見回す。
宴は、今日の夜開催されるとのことだった。だが、その割に準備は進んでいないようだ。
「とにかく、まずは宴の準備ですね、せいぜい働きますか。……力仕事は得意じゃないですが、アイに任せてひっくり返されるよりはマシでしょう」
「そんなこと、しないもーんっ」
アイオライトはぷうと頬を膨らませた。二人のやりとりに、緊張から自然と固くなっていた身体がいい意味でほぐれる。
やるべきことは沢山ある。時間を無駄にはしていられないと、四人は動き出すのだった。
●山の中へ、そして
山へと向かった六人は、周囲を注意深く観察しながら比較的整備された道を歩いていた。
護衛組と連絡がとれることを確認した千代は、後方、左右からの気配と物音を窺うラセルタとともに殿に位置しながら、一定間隔で木に目印をつけながら足を進める。
「足跡からデミたちの住居を探せばいいんだよな?」
秋乃の確認にアキは頷くと、「糞や爪痕も手がかりになる」と補足した。
「痕跡はどこに残っているかわからない。僅かな草の窪みも見逃さないよう、意識しよう」
そう言ったアキに、全員が頷く。また、「元の生態がそこそこ残ってる。俺の動物学が役立つさ」と言っていたヴェルトールも、自身の言葉通り、痕跡を見逃さないよう、助言を交えながら進んでいた。
その甲斐あってか、新しい足音の発見に成功する。
六人は慎重に、足音を辿っていく。
「悪いが一匹も逃がすつもりはない。人を襲った獣だし、デミだからな」
アキが小さくつぶやいた、そのときだった。
――グルルルル……。
前方から、低いうなり声が聞こえてきた。
よく見てみると、開けた場所にオオカミのような影が複数、動いているのがわかる。村を出た時間、そして山を探索していた時間を合わせると、そろそろ活動を始める時間になっていてもおかしくない。
(洞穴にいてくれたらやりやすかったのだが)
周囲を警戒するように見回していることから、何者かが山に侵入していることに気付いたのかもしれなかった。野生の勘は馬鹿にならない。
アイコンタクトを送り合い、デミを逃がさないよう囲むように位置する。そして――
「コンタクト」
「力よ集え」
「静かに、微睡みが近寄るように」
インスパイアスペルを唱え、神人と精霊はトランス状態へと移行した。
一陣の風が吹く。
向きを変えたそれは、デミたちに侵入者の匂いを届けたに違いなかった。
神人と精霊に、敵意を宿した瞳が向けられる。
「手加減はしてやれないのでな」
ラセルタは両手弓「架刑のメテオール」を構え、素早く一撃を放った。浄化の力を持った矢は風を切り、周囲を警戒していた一頭を正確に射抜いた。
「ラセルタさん、すごいね」
千代の賞賛に、ラセルタは気を良くしたようだった。だが、その瞳はすぐに細められ、真っ直ぐに敵を見据えた。
デミ・ワイルドドックの咆哮が、山に響き渡る。
●戦闘開始!
敵の影は十。報告にあった通りだ。ここで全ての個体を倒せれば、村に一切の被害を出さずに済む。
イチカは双剣「ダイヤモンドダスト」を構え、≪エトワール≫を繰り出した。剣舞のような優雅な動きは、敵の視線を誘う。
(他のみんなが攻撃しやすい位置に敵を誘導できれば理想的だな~)
イチカは囮の役目をこなすべく、積極的に前へ出る。ただ、囮になって怪我をしたら意味がない。剣を振るい、危なくなれば華麗にかわす。
(できればリーダーっぽいやつから倒していきたいところだけど、数を減らしておくにこしたことないし)
イチカの動きに合わせるように、秋乃は短剣「コネクトハーツ」を振るう。武器の効果を活かすため、近くで戦う方が都合がいいのだ。
秋乃とイチカは協力して、届く範囲にいる敵を地に沈めていく。
「一匹たりとも逃がさない!」
秋乃は誰かが囲まれて孤立してしまわないよう注意を払いながら、そう吠えた。
敵は一体、二体と切り伏せられ、着実に減っていた。
集中力を切らさないよう、イチカと二人、敵に立ち向かう。
秋乃とイチカのおかげで、大分戦いやすくなった。
アキは二人に感謝しながら、自身の武器である「封樹の杖」を駆使し、戦線を維持していた。デミを村へ行かせないよう、気を配るのも忘れない。
ヴェルトールは襲いくるデミを≪恋心≫でさばき、倒しながら、リーダーと思われる個体を見つけるべくざっと周囲に目を走らせた。
圧倒される強さ、というわけではないが、統率のとれた動きはやはり厄介だ。リーダーを倒せれば、もっと楽に戦いが進むはずである。
(合図する個体、中心の個体……)
ヴェルトールの目が、戦闘に参加せず、二体のデミに守られるようにこちらを見つめる体の大きな個体をとらえる。
「お前がボスだ」
着実に、確実に相手を追いつめていく。そのたびに、じわりと痛む心には気づかないフリをして。
(生まれ変わったら普通の獣になれ)
祈りにも似た想いを抱きながら、村人を守るために戦い続ける。
――三、四、五!
群れは、半数まで減っていた。
一歩離れたところで状況を広く見ることを心がけながら、千代は鉱弓「クリアレイン」を構えていた。
囮をこなしながら、隙さえあれば敵を切り伏せる秋乃とイチカ。攻撃の手を止めないアキとヴェルトール。彼らがより良い動きをできるよう、とどめをさすのではなく、動きを鈍らせることを意識する。
逃げようとする個体は、アキが≪封樹の理≫で操る草蔓と力を合わせ阻止。味方の立ち位置も意識し、敵の襲撃に気付いていないようであれば注意を促す。
(あの奥にいるのがリーダーだね。なんとか、攻撃できたら……)
残るはリーダーを含め、五体。順調なペースと言っていいのではないだろうか。千代が見つめる先の個体に気付いたラセルタは、リーダーを守るように立つ二体のデミに狙いを定める。
(……邪魔だな)
ラセルタはデミの猛攻を余裕でかわしながら、静かに唇の端を上げた。
「知恵比べは嫌いではないが」
リーダーを守る二体のデミに向かって、不適に笑ってみせる。
「そもそも俺様とお前たちのような駄犬では格が違いすぎるだろう?」
挑発だ。
言葉の意味はわかっていないだろう。だが、敵は不快感は覚えたようだ。歯をむき出しにし、攻撃の態勢へと入る。
その隙をつき、千代がリーダーに向けクリスタルが施された矢を放った。矢は光の線を描き、横腹へと命中する。
どす。と、鈍い音が響く。
直後、痛みからか――他を圧倒するような叫びがあたりを支配した!
――グオオオオン!!
苦痛の声に、負けを確信したのだろうか。前線で戦っていた二体が戦闘を放棄し、ものすごい勢いで走り出した。
阻止しようとしたものの、突如動きだしたリーダーと、残った二体の攻撃を受け、逃してしまう。
秋乃は慌てて護衛組に連絡を飛ばす。
「悪い、二頭逃がした!」
秋乃の声に反応したのか、リーダーの目が秋乃を捕らえる。そして一気に距離を詰めると、鋭く尖った爪を振り下ろした。咄嗟にコネクトハーツで受けとめたものの、その重さに秋乃はうめく。
「ぐっ!?」
他の個体とは一線を画す、俊敏かつ力強い動き。だが……倒せないほどではない!
秋乃を援護するように、イチカの双剣が振るわれる。
アキが杖を駆使して動きを封じた取り巻きの一体を、ヴェルトールの≪恋心≫が身体の内側から燃やし尽くす。そしてもう一体は、千代の矢で体制を崩し、ラセルタの≪パルパティアン≫でとどめをさす!
この場に残ったのは、リーダーのみ。
千代が与えたダメージに加え、秋乃とイチカ、二人のコンビネーションに追いつめられたリーダーが押し切られるのは、時間の問題だった。
「これで……終わりだよ!!」
舞うようなイチカの剣技が、リーダーに炸裂する!
――静寂が、山の中に落ちた。
さわさわと鳴る木々の葉の中、転がるデミの亡骸。
「……ゴメンな」
アキのつぶやきが、そっと空へと溶けていった。
●村での攻防
村にデミが向かっている。
報告を受けたアイオライトと白露、そしてセイリューとラキアは、それぞれデミが現れるであろうポイントへと向かった。
「デミが村の人を襲いそうになったらあたしが鞭で捕まえるからね、パパ」
「お願いしますね、アイ」
白露は軽く打ち合わせしながら、いざというときの対応を話した自分の言葉を思い出しながら、片手銃ボルグ改C96を手に神経を研ぎすましていた。
「……パパ」
「わかってます、アイ」
わざと用意したデミの道。その先から、荒い足音が、荒い息遣いが聞こえてくる。
(きちんと機能してくれて助かりました)
――Vive memor mortis
インスパイアスペルを唱えトランス状態に移行した白露は、引き金を引く。飛び出した弾丸は風を切り、デミの足元ではじけた。態勢を崩したところを、≪スナイピング≫で的確に足を射抜く。
怒涛の攻撃に倒れたデミに、とどめの≪ダブルシューターⅡ≫を放つ!
弾丸の雨が、デミを襲う。音がやんだ後には、デミの亡骸が残るのみ。
「すっごい! パパかっこいい~!」
うまく行ったことに安心しながら、白露はセイリューたちへ連絡を入れる。
「残るはあと一体か」
アイオライトの報告をうけたセイリューは、とりあえずではあるもののほっと息をついた。
「最悪の事態にはならずにすみそうだな」
「そうだね。だけど、油断は禁物だよ」
ラキアの言葉にセイリューは頷き、来るデミへと構えた。
最後の手段として≪チャーチ≫の使用も考えていたが、使わずに済みそうだ。
「滅せよ」
スペルとともに、トランス状態へ移行する。同時に、セイリューの目が荒い息を吐くデミの姿をとらえた。
これ以上、村の奥へと近づけさせるわけにはいかない!
一気に距離を詰め、太刀「鍔鳴り」で応戦するセイリューに、ラキアは≪シャイニングスピア≫を使用する。
光の輪はセイリューの身を守ると同時にデミの攻撃を反射し、確実に体力を削って行く。
山で蓄積されたダメージもあったのだろう、すぐに動きは鈍くなり――
「これで、最後だっ!」
デミの身体に、一閃が走る。
倒れたデミは、再び立ち上がり牙をむく――ことはなく、しんとしたままだ。
「……よっしゃあ!」
「やったね」
最後の一体を倒した。
セイリューとラキアはハイタッチを交わすと、仲間に連絡を入れるのだった。
殲滅を終えた護衛組は、下山を始めているだろう撃退組へと報告を入れた。
『土産も持って帰るぜ』と言うヴェルトールに「楽しみにしてる」と返すと、手伝いへと戻る。
「全部退治できたのでもう安心ですよ」
ラキアの言葉に村人たちはわあっと歓声をあげると、口ぐちにお礼を述べる。
合流したアイオライトと白露がもみくちゃにされる姿にひとしきり笑った後、皆で宴の準備へ走るのだった。
●夜空に虹がかかる日
下山を終え、広場へと向かった撃退組は村人たちを手伝っていた。喜びを力に変えた村人たちの勢いもあり、なんとか準備は終わりそうだ。
アキとヴェルトールが「土産に」と、知識を駆使し採取してきたユスラウメやモミジイチゴをはじめとする食用果実も、供物として並ぶことになった。
「俺様は箸より重い物は持たない主義なのだが」
「……ラセルタさん、いつも重い銃を持っているでしょ」
「……冗談だ。千代の労いを期待して働くとしようか」
そんなやりとりをしながら、時間は過ぎていき――
――広場はすっかり宴仕様へと変わり、夜を迎えた。
村はあっという間に明るい歓声に包まれる。
「妖精に感謝を伝えるための宴」といっても特別なことをするわけではなく、村人総出で楽しく過ごせばいいらしい。妖精にとって、村人の笑顔こそが何よりの感謝の証なのだと。
村を救ったウィンクルムたちは、それぞれたくさんの住人から感謝の言葉を告げられている。
と。
村人の視線が、一斉に空へと向けられた。
ウィンクルムたちもつられて見上げると、夜空に光の珠のようなものが走り――直後、光の珠が進んだ道をなぞるように、虹が架かっていく様子が目に入った。
夜空に浮かび上がる、光を纏った七色の虹。
「わぁ……っ! すごい、きれー!!」
アイオライトが、感嘆の声を上げる。それは、彼をハラハラと見守っていた白露も同じだった。
アキは用意していたカメラを取り出し、そっとシャッターをきる。きちんと撮れていればいいのだが。そう思いながら、焼き付けるように虹を眺める。
「すごいな……」
「ああ、本当に。……綺麗だ」
虹を――そしてアキの横顔を心に焼き付けるように、ヴェルトールはつぶやく。
その近くで、セイリューとラキアも空を見上げていた。
「『夜空にかかる虹』ってどんなもんかと思ってたけど……なんというか、すごいな」
「そうだね。……それにしても、セイリューの感想……」
「な、なんだよ! ほかにどう言えばいいのかわからなかったんだよ!」
無事に退治が終わったら、秋乃と一緒にのんびりできればいい。そう思っていたイチカは、依頼を無事に終え、こうして楽しい空気に包まれた会場にいられることを嬉しく思っていた。
千代もラセルタとともに、宴を満喫している。
虹が降らせる光の粒を映した千代の瞳は、きらきらと輝いていた。その瞳を見たラセルタはふと笑みを浮かべると、千代の腕をくいと引いた。
「歌えや踊れ……俺様たちも参加だな」
再び喧噪を取り戻した会場に、ラセルタと千代は二人、まぎれていく。
夜空に虹がかかる日――ウィンクルムたちに守られた特別な夜は、にぎやかに過ぎていくのだった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:セイリュー・グラシア 呼び名:セイリュー |
名前:ラキア・ジェイドバイン 呼び名:ラキア |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 櫻 茅子 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 05月23日 |
出発日 | 05月31日 00:00 |
予定納品日 | 06月10日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- 天原 秋乃(イチカ・ククル)
会議室
-
2015/05/30-23:59
プランは提出できた。
うまくいきますように!
宴が成功するように頑張ろうぜ。
相談もろもろ、皆さんお疲れさまでした。
夜空の虹が見られますように!
-
2015/05/30-23:58
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2015/05/30-22:54
>アイちゃん
インカム使うと書かせてもらったよ。申請有難う。
プランは提出できている。うまくいくといいな。 -
2015/05/30-21:22
もうちょっと微調整かけるけど
勝手にしちゃったけど、携帯電話かインカムも申請したよー
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2015/05/30-21:20
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2015/05/29-13:46
わー、埋まった埋まった。
今回もよろしくおねがいしまーすっ☆
天原さん、まとめありがとっ。
>流れ
はーい、了解でーす。
携帯電話か無線の連絡は確保しておいたほうが楽だよね。
お互いどんな状況かつかんでおいたほうが、討ちもらしもないだろうし。
あたしは前にも書いたとおり、広場に直結する道で待機しようかなと思ってたけど、もし連絡が付いたら他にもっといい場所で待ち伏せできるかも。 -
2015/05/29-12:07
お、埋まったな。アキとセイリューはよろしくな。
それぞれの振り分けはこうかな?間違ってたり、やっぱり変更したいって場合は指摘してくれ
【撃退グループ】
千代&ラセルタ
アキ&ヴェルトール
秋乃&イチカ
【護衛グループ】
アイオライト&白露
セイリュー&ラキア
>撃退組
足跡→住居発見→戦闘って流れかな?了解した。
俺達は2人は目に付く敵を優先しつつ、主に陽動として動こうかなと思ってる。
トドメをさしたりとか、逃走しそうな敵をあとの2人に任せられたら安心かな。 -
2015/05/29-01:13
定員が埋まりましたね、改めてどうぞ宜しくお願い致します。
>撃退組
山の中にある敵の住処を発見して、そこで倒す、という流れでしょうか。
デミ・ワイルドドックの住処というのはあまり想像が付かないのですが、
うまく敵を囲んだり不意を突かないと、すぐ逃げられてしまいそうですね…。
村の方へ行かせるのはできる限り避けたいので、俺たち二人は
逃走しそうな敵を率先して倒していくようにしたいと考えています。 -
2015/05/29-00:23
セイリュー・グラシアとライフビショップのラキアだ。
今回もヨロシク頼むぜ。
デミ・ワイルドドックが10体だけとは限らないし
はぐれデミ・ワイルドドックが居るかもしれない。
オレ達は村人の護衛にまわろうかと思っている。
宴準備の力仕事も手伝ってあげたいし。
村人達から聞いた話を電話で皆に伝える事も出来るかな?
オレ達が村人の護衛だと困るなら遠慮なく言ってくれ。
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2015/05/29-00:10
アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。
村と撃退で分ける話把握した。
「動物学」レベル5の相棒がいるので、
>足跡を発見し住処を見つけられれば、村に被害を出さず倒すことも可能かもしれません
の足跡発見を試みたいと思ってる。
なので他の人に異存がなければ撃退組にはいる予定だ。 -
2015/05/28-18:14
あたしも迷ってるんだよね-、人数の分け方はどんだけがいいか
じゃあ、あたしとパパはとりあえず村の人を守るほうにしてみるけど、他の案がよかったらいってね
広場で待ち伏せしたいけど、準備の最中だから、邪魔しちゃ悪いかな。
いくつかの道をふさいじゃって、デミが通れ道を特定できるようにしとくのがいいかなー?
で、道の途中で待ち伏せ?
撃退チームはデミを山の方に押し戻すみたいにできたら、被害も少なくなるかなって思うけど、そう上手くいかないかもだし…むー。 -
2015/05/28-14:50
成功条件もデミの撃退ってことになってるし、そっちに重きをおくべきか
現状6人だから、4:2でわかれるのがいいかな…それとも5:1か…
俺はいまだに迷っている段階なんだが、イチカは前衛職のテンペストダンサーだし撃退グループに挙手させておくよ -
2015/05/27-23:29
挨拶が遅くなり申し訳ありません。
羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです、どうぞ宜しくお願いします。
敵はデミ・ワイルドドッグが10体、少なくはありませんからね…。
できれば撃退の方に人数を多めに割きたい気もしますが
村の人たちから情報を得る組も居たほうが、何かと動きやすそうです。
今のところ、俺とラセルタさんは撃退するグループに挙手しますね。
今後の参加人数と作戦次第で、臨機応変に対応したいと思います。 -
2015/05/26-23:59
天原秋乃とテンペストダンサーのイチカだ。今回もよろしく頼む
アイオライトの言うように二手にわかれたほうがいいかな
とはいえ、今の人数だと二手に分かれるにはちょっと心もとない感じもするが…
俺達もとくに希望はないからどっちでもいいぜ -
2015/05/26-21:02
遅くなったけど、こんにちはー。
アイオライト・セプテンバーです、今回もよろしくでーす。
とりあえずデミだよね。
「撃退に向かうグループと村人の護衛をするグループに分かれるといいかもしれません。」だから素直に二手に別れる?
あたしとパパはどっちでもいいよー。
何装備するのが一番かなあ。