プロローグ
●不思議な喫茶からのご案内
<さつきの喫茶より、薔薇庭園のご案内>
みなさま、元気にお過ごしでしょうか? <さつきのきつさ>店長でございます。
今年もまた、薔薇(バラ)の美しい季節がやって参りました。
薔薇は冬ではないのか、ですか? いいえ、初夏でも盛りです。
皆様により一層薔薇を楽しんで頂くため、パズル好きの店主がとっておきの謎を添えておもてなしいたします。
パズルと薔薇、そして当喫茶のお茶菓子でおくつろぎください。
場所 タブロス市郊外『さつきの喫茶』
開催 薔薇とパズルを一緒に愛でる会
ヒント
1つ目:イ−2 ロ−1 ロ-2 ロ−3 ロ−4 ハ−3 ニ−1 ホ−2 ホ−3
2つ目:ニ−5 ニ−6 ニ−7 ホ−8 ヘ−6 ヘ−7
3つ目:ヘ−4 ト−3 ト−4 ト−5 チ−4 チ−5 チ−6 リ−3 リ−5 ヌ−4
庭園にて、店長からもうひとつヒントを差し上げます。ヒントを集めて、喫茶店でパズルを紐解いてくださいませ。
また、パズルを解けなかった場合のペナルティは一切ございませんので、ご安心ください。
※時折、薔薇庭園に店長が出没します。出くわしましたら、パズルのヒントをせがむなり回答を迫るなり、ご自由にどうぞ。
店長はノリが良いです(`・ω・´)キリッ
※店長による解説講座は、予告なく開かれる場合があります。あしらかず(^ω^)
※当店店長は薔薇だけでなく、多くの花を愛しております。
そのため、愛ゆえに暴走して薔薇でない話が出てくるかもしれません。テヘペロ!(・ω<)
●ヒントがヒントじゃないです、先生!
「な、なんっだ……これ……」
これのどこがヒントだ? と声を大にして言いたいくらいには、このチラシはよく分からない。
ていうか、何だこの顔文字は。
「どんだけノリが良いんだ、この『店長』って人……」
「そう感じたくらいにノリが良いのよ、店長さん」
街中で手にしたチラシを前に悩んでいると、後ろからくすくすと笑う朗らかな声が聴こえた。A.R.O.A.の受付をしている女性の1人だ。
「会ったことあるんですか?」
「ええ。冬に初めて行ったのだけど、庭園は本当に素晴らしかったわ」
店長さんも凄く良い人で、お茶目な方よ。
ふふ、と笑ってウインクする女性も中々に茶目っ気があるようだ。
「じゃあ、この『パズル』っていうのは?」
「店長さんも店員さんも、パズルが大好きなの。謎解きって言えば解りやすい?」
「あ、それなら何となく……」
分かったような気がするが、如何せん、この『ヒント』はヒントになっていないような気がする。
「そうよね。すごく気合いが入っているみたい」
(気合い……?)
意味が分からず悩んでいると、女性がまたクスリと笑った。
「気になるなら行ってみるのが一番よ? 可愛い彼女とデートとか」
「!」
ビクリと肩を揺らしてしまい、彼女の笑いをさらに誘ってしまった。
(からかわれた……!)
それでも庭園のチラシを丁寧に折ってポケットに仕舞う辺り、バレバレである。
解説
薔薇とパズルを一緒に楽しむ、一粒で2度美味しい感じの鑑賞会です。
どうやら薔薇の剪定を手伝わせて貰えるようで……?
・朝一番の「薔薇とパズルを一緒に愛でる会」
お茶とお茶菓子のセットで、参加費200Jrとなります。
・パズルは初心者向けの簡単なものです。
文字というよりは色を使ったパズルですので、この時点でピンと来る方は来るかも!
●プランについて
・通常のハピネスプランに加えて、パズルが得意か/好きか、といった嗜好を少し記載して頂けますと助かります。
(記載がない場合は、皆様のプロフィールを元にアドリブで書かせていただきます)
また、関連する一般スキルをお持ちの場合はそちらも考慮いたします。
例1)パズルにはあまり興味がないけど、理数に強い。
例2)パズルは好きだけど、解けないかも。迷路は大好き!
ゲームマスターより
キユキと申します。
初めましての方もそうでない方も、エピソードをご覧下さりありがとうございました。
お久しぶりの<さつきのきつさ>、昨年機会を逃した薔薇の出番でございます!
今回は店長も気合いを入れたようで、皆様の来園を楽しみに待っているようです。
ものすごーく個人的な話ですが、今回のパズルはGMが不得手としているものだったりします…。
かといって、得意なパズルはあるのかと問われても「ないです!( ー`дー´)キリッ」となりますが(笑)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
かのん(天藍)
パズル 普段はあまり接点なし 植物の知識なら学術的な事も栽培技術も分かると思いますけれど ヒント見ながら首傾げ 天藍は分かります? 天藍から薔薇園への誘いに少し驚く この手のお出かけを誘うのは専ら自分だったので きっと、私が見たいのだろうなと思って誘ってくれたのですよねと感謝の気持ち 折角天藍が誘ってくれたので一緒にいる時間を大切に 昨年の紫陽花鑑賞の反省もあり薔薇だけに夢中にならないように 庭園散策時は天藍の傍で寄り添って歩く 隣で天藍が笑う事が嬉しい 請われるまま品種名や花言葉の話を 剪定の手伝いの時だけはガーデナーの本気モード 天藍の声かけに一緒に作業を 今日ここに誘ってくれてありがとうございます とても嬉しい事伝える |
豊村 刹那(逆月)
パズルはあんまり得意じゃないけど。 解けると楽しいんだろうな。 相変わらず、逆月は謎解きに興味は無いみたいだ。 薔薇ばっかり眺めてる。 「確かに。根詰めても仕方ないか」 少し休憩しよう。 店長にはもう少しヒント貰いたいな。 さっぱりだ。 剪定もやらせてくれるみたいだ。 「何で止めなきゃいけないんだ?」別に戦うより危険じゃ無いだろ。 (やっぱり、逆月の居た村は好きに慣れない) 自分のこと、あんまりやらないのはその所為か。 しないんじゃなく、やり方知らないんだな。 「少しずつでもいいから、やりたいことをやればいいさ」(微笑する 今はとりあえず剪定だな。 色んなことやって知っていけば。 いつか見つかるだろ。 「逆月?」何か言ったか? |
和泉 羽海(セララ)
アドリブ歓迎 …こんなに沢山咲いてるの、初めて見た…綺麗 剪定とか…したことないから、説明はちゃんと聞く 薔薇のトゲ…刺さると痛いもんね… この人、意外と花言葉とか詳しい…意外 『花、好きなの?』(筆談で) …くだらない理由だった… でも、貰ったら嬉しいは分かる 花は詳しくないけど…そういうのも知ってれば、もっと嬉しくなる…のかな… ……?数でも意味が違う…そういえば… 『前にもらった薔薇…11本…あれも意味ある…?』 む…いじわるだ… …店長なら…知ってる、かな… (答える答えないはお任せ) ■パズル やるのは大好き。解けるまで考え込むタイプ イロハ…数字…色…?解けそうで解けない…むぅ 貰ったヒントで…解けるといいな… |
牡丹(シオン)
パズルはそれなりに好きだが あまりにも解けない場合は面倒になってくる 薔薇もパズルも楽しめるなんてお得だね でも、結構難しいかも シオンさんはわかった?だよね 薔薇を楽しみつつ店長さんにも会えたらいいね 綺麗だよね、初夏も見頃なのは知らなかったな …うんうん、そうだよね 薔薇はね、ライバルなの 名前的にも花言葉的にも色々と だから花のことを言っているっていうのはわかるけど なんだかこう、対抗心がね?ふふ 店長さんに会ったら牡丹の花のいい所も布教して貰いたいかも 喫茶店ではヒントを頼りにパズルを頑張ってみようかな シオンさん、頼りにしてるから頑張ってね きっとシオンさんなら解けると思うよ(自分で解く気薄くなってる |
アンジェローゼ(エー)
パズルは不得意 謎解き自体は好き 薔薇が綺麗ね あなたは薔薇が好きだから喜こぶのではと思ったの …私が一番好きなのはあなたの育てた薔薇だけど パズルも面白いね! 私、さっぱりで…いろは歌?ってわけでもなさそうだし… …店長さんにヒントも貰おう!(唇に手を当て真剣に) エーはわかった? …なんで私の方ばっかり見てるの? 挙動不審だし…大丈夫? 見つめられると照れくさいよ …それよりこっちのパズルを、一緒に解こうよ 照れ隠しに紅茶を飲みケーキを一口食べる エーもどうぞ。ほら、あーん! 真剣に考えるエーの横顔になぜか胸が高鳴る …いつもぽやぽやしてるのにこんな表情もするのね でも何気なく傍によれば真っ赤になるし…可愛いかも エー!!? |
●さつきのきつさ
今日も今日とて散策日和。昼間は夏日まで気温が上がるが、朝は涼しく過ごしやすい。
「皆様、本日はようこそいらっしゃいました」
白髪混じりの紳士然とした男性が、庭園<さつきのきつさ>の中にある薔薇庭園前で参加者たちを出迎えた。ビニール加工を為された厚手のエプロンに首元は手拭い、手元は軍手という出で立ち。腰のベルトに下がる革鞄からは、剪定用具と思しきものが幾つも覗いている。
「私が<さつきのきつさ>店長です。以降、お見知り置きを」
店長は、足元に並ぶ一抱えサイズの花籠を全員へ配る。中にはそれぞれ剪定用の鋏と、淡い色合いのカードが2枚ずつ入っていた。
「喫茶の場所やパズルの新たなヒントは、すべてカードに描かれております」
彼は悪戯っぽい表情で続ける。
「私も他の薔薇の剪定をしていますので、見掛けた際はお気軽にお声がけください」
それでは、ごゆっくり。
店長に見送られて、花籠を手にした皆は思い思いに薔薇庭園へと足を踏み入れた。
●紫
今回の薔薇庭園への誘いは、珍しいことに『天藍』からのものだった。この手の外出はもっぱら『かのん』からの誘いであったので、驚いたことを思い出す。
(きっと、私が見たいのだろうなと思って誘ってくれたのですよね)
かのんはそっと、胸の内で感謝を述べる。天藍は花籠に入っていたカードを1枚捲ってみた。
「『紫系の薔薇の花を、丸ごと6つ摘んでください』?」
前回同様、今回のパズルも何かしら植物が関わってるのか? と、彼は捲ったカードをかのんへ手渡した。1枚目のカードには他に薔薇の剪定についてが図解され、ガーデナーであるかのんは何のための剪定かすぐに思い当たる。
「花がら摘みをするのですね」
「花がら摘み?」
「簡単に言うと、次の花も長く楽しめるよう咲ききった花を摘んでしまうんです」
もう1枚のカードには、『紫は6つで1字です』と描いてある。
庭園の西に紫系の薔薇の一角を見つけ、2人は植え込みの中を歩き出す。かのんの視線はあっという間に薔薇へ惹き寄せられた。
(……放っておかれるのは織り込み済みだからな)
彼女が喜ぶ姿を傍で見られればまぁ良いか、と天藍はひっそりと苦笑する。
そのかのんは、昨年の紫陽花鑑賞時の自身を省みて、薔薇だけに夢中にならないようにと決意していた。入り口周辺を覆い尽くすような木香薔薇の間を、天藍に寄り添うように歩く。
(せっかく、天藍が誘ってくれたのですから)
一緒にいる時間を大切に。
かのんが薔薇を見て回るよりも一緒に歩くことを優先してくれていることを察した天藍は、せっかくなので薔薇の解説を頼んだ。
「カードには『紫』って書いてるが、青ではないんだよな?」
見えてきた紫の薔薇について尋ねれば、かのんは頷いた。
「はい。青い色素を持つ原種の薔薇は未だに発見されておらず、青い薔薇とは基本、紫系の薔薇のことなんです」
例えば、と彼女は網状の支柱に絡まる薔薇に触れる。
「これはレイニーブルーという品種ですが、青には見えないでしょう?」
「確かに」
「足元のこれは、赤に近い紫のシャルルドゴールですね」
ツツジのように咲くラベンダードリーム、病気に滅法強いノヴァーリス。かのんは剪定用の鋏を手にし、これ以上は開かないであろう咲き切った薔薇を1つ選ぶと、慎重に萼下へ鋏を入れた。
その一瞬でガーデナーの真剣な表情に変わった彼女を、らしいなと天藍は見守る。
薔薇が1つ、花籠に収まった。
「かのん、俺にもやり方を教えてくれないか?」
「え?」
隣へしゃがんだ天藍に、かのんが首を傾げる。彼は穏やかに告げた。
「かのんの庭で男手が必要なとき、手伝うことが出来るようになれば、今より傍にいられるだろう?」
口調と同じ穏やかな笑みの彼に、かのんが否やを言うはずもない。
「それじゃあ、2つ目をお願いしますね」
1つしかない鋏は、かのんの手から天藍へ渡った。
●黄1
煉瓦の仕切りを這う淡い桃色の薔薇群を、『逆月』はじっと見つめた。
「相変わらず、見事な腕前だ。見応えがある」
薔薇の名はスパニッシュビューティー。彼の視線を隣で追いながら、『豊村 刹那』は花籠に入ったカードを1枚裏返す。
(やっぱり、逆月は謎解きに興味は無いみたいだ)
1枚目には花を摘む剪定の仕方と、喫茶の場所が簡易な地図で描いてあった。そしてもう1枚は。
「『黄色系の薔薇の花を、丸ごと5つ摘んでください』?」
さらに『ヒント』と描かれた文章には、『黄色は9つで1字になります』と書いてある。
(チラシのヒントと言い、さっぱりだ……)
刹那はううん、と唸る。
「店長には、もう少しヒントを貰いたいな」
刹那は指定された黄薔薇の見える方へと、逆月をそれとなく誘導しつつ歩いた。視線はついヒントのカードへ落ちてしまう。
(刹那は、また謎解きのようだ)
彼女が眉を寄せるのを見て、逆月は声を掛けた。
「考え過ぎては、解けるものも解けぬ」
サンスプラッシュとある小さな黄薔薇を見下ろしつつ告げれば、刹那は納得したらしい。
「確かに。根を詰めても仕方ないか」
パズルについては、休憩しよう。
ほんの少し目線を上げるだけでも、迷路のような小道に多くの薔薇が植えられている。逆月はゆるりと辺りを見渡し、呟いた。
「よく手が足りる」
庭の手入れの話かと気づき、刹那も彼に同意する。
「そうだな。相当な人数の人が働いていそうだ」
剪定鋏を手にし、刹那は逆月を見遣った。
「剪定もやらせてくれるみたいだ。逆月、やってみるか?」
聞かれた逆月はふと思う。
「刹那は、俺のすることをあまり止めぬな」
不思議そうに問われ、刹那もまた返す。
「何で止めなきゃいけないんだ?」
別に戦うより危険じゃないだろと言えば、思い出すように赤の眼が眇められた。
「村では、此の様なことは俺のすることではないと。そう言われた」
刹那は言葉を呑み込む。
(やっぱり、逆月の居た村は好きになれない)
自分のことをあまりやらないのは、その所為か。ようやく判り、反面刹那はホッとした。
(しないんじゃなく、やり方を知らないんだな)
それなら、と鋏の取っ手を彼へ向ける。
「少しずつでもいいから、やりたいことをやればいいさ」
今はとりあえず剪定だな。
そう微笑んだ刹那を見つめ返し、逆月は考えた。
(やりたいこと……)
俺のやりたいこととは、何だろうか。
(今は浮かばぬ)
逆月の戸惑いを悟っているのか、刹那はマルコポーロとある黄薔薇を指差す。
「色んなことやって知っていけば。いつか見つかるだろ」
カードの手順を見せてくる彼女に逆らわず、逆月は鋏を手に薔薇へと手を伸ばした。
(色々なこと、か)
●赤1
「薔薇もパズルも楽しめるなんてお得だね」
でも、結構難しいかも。
チラシのヒントとカードのヒントに?マークを飛ばしながら、『牡丹』は『シオン』を振り返る。
「シオンさんは解った?」
「いや、さっぱり」
「だよね」
「だよねって言うの早くない?!」
俺のことどう思ってたのかなんとなく分かった気がする……と、シオンは項垂れた。牡丹はそんな彼にクスクスと笑う。
桃色のクイーンマザー、白から濃桃へのグラデーションの美しいウィミィ。軽い足取りで歩きながら、牡丹はくるりと周りを見回した。
「綺麗だよね。初夏も見頃なのは知らなかったな」
彼女に合わせて足を止めたシオンも、それは同意だった。
「ああ。こうまで咲いてると壮観だな」
「うんうん、そうだよね!」
相槌を返した牡丹の声に何となく含みというのか不満げな響きがあり、シオンは尋ねた。
「何か不満気だな……?」
牡丹は素直に返す。
「薔薇はね、ライバルなの」
「ライバル?」
「そう。名前的にも花言葉的にも、色々と」
「あー、花の王様って言うんだっけ?」
そういえば、どっちも派手な花だな。
牡丹のように花びらの多いレッドピクシーを横目にして、シオンは自分の名前も花だったと胸中で呟く。
(この土俵には立てないし、立ちたくないけどな……)
赤い薔薇を5つ摘むんだね、と鋏を手にした牡丹は、ライバルを目の前にして楽しげだ。カードにはもう1つ、『赤は10個で1字になります』とある。
「また店長さんに会ったら、牡丹の花の良いところも布教して貰いたいかも」
なんだかこう、対抗心がね?
ふふ、と笑みを零して、彼女は開き切ったレッドピクシーをパチンと落とす。シオンは何気なく告げた。
「俺はどっちもそれぞれ良さがあって好きだよ」
「え?」
牡丹の声に、ハッとする。
「は、花が! 薔薇と牡丹が!」
慌てて付け加えたその慌てっぷりが、牡丹の笑いを誘った。
「ふふっ、そんなに慌てなくても」
剪定する薔薇を探し立ち上がった牡丹は、塀の向こうに人影を見つける。
「あっ、あれ店長さん?」
●黄2
控えめなかれん、橙の花かがり、外側の黄色が淡い月光。『和泉 羽海』は、周囲に咲き誇る薔薇たちに目を奪われた。
(こんなに沢山咲いてるの、初めて見た。綺麗……)
『セララ』はというと、ひたすらに羽海を見つめている。
(美しい薔薇に囲まれて佇む羽海ちゃん……マジ天使)
カードに描いてある剪定の仕方。羽海は花籠の鋏を見下ろした。
「薔薇の剪定かぁ……。羽海ちゃん、怪我しないように気をつけてね」
(薔薇のトゲ……刺さると痛いもんね……)
セララの言葉に頷いたものの、羽海はどの薔薇を切ろうかと迷う。セララがようやく周りの薔薇へ目を向けた。
「薔薇って色んな花言葉があるんだよねー。色や形で変わっちゃうし、贈る数でも意味が違ってくるんだって」
面白いよね。
(この人、意外と花言葉とか詳しい……)
羽海は常備しているメモ帳を開いた。
『花、好きなの?』
幼い頃に声を失くした羽海は筆談、読唇、あるいは手話で会話を行う。彼女のメモにセララは首を傾げた。
「んー特に好きってわけじゃないんだけど。女の子にプレゼントするのに色々調べてたら、いつの間にか詳しくなってた」
(……くだらない理由だった)
分かってはいたが、羽海はちょっと落胆する。その様子に、彼は肩を竦めた。
「ま、そんなの知らなくても貰って嫌な気持ちにはならないんだから、花って凄いよね」
羽海は少し考え、首肯する。
(貰ったら嬉しいのは、分かる。花は詳しくないけど……そういうのも知ってれば、もっと嬉しくなる……のかな……)
そこであれ? と気がついた。
(数でも意味が違う……そういえば……)
以前に薔薇を貰ったが、あれは?
『前にもらった薔薇、11本……。あれも意味ある……?』
彼女の問いに、セララは意味ありげに笑った。
「それは……内緒だよ♪」
人差し指を唇に触れるオプション付きだ。羽海は唇を尖らせた。
(む……いじわるだ)
表情で察したか、悪気なくセララは言う。
「いじわるじゃないよー? 教えてもいいけど、自分で気づいた方が楽しいでしょ」
楽しいのは言ってる本人だけな気がする。
(店長なら……知ってる、かな……)
羽海がセララから視線を外した先、煉瓦造りの塀の向こう。
(あ……)
向こう側からやって来たのは、さつきのきつさの店長だった。
「これは羽海さんにセララさん。どうですか? 当店の薔薇は」
『すごく綺麗』
「圧倒される感じ?」
文字と言葉に店長は光栄ですと笑い、まだ空っぽの花籠に目を留める。
「【何かお困りですか?】」
手話だ。羽海とセララは驚き、顔を見合わせた。文字よりも断然早い。
【どの花を摘めば良いのか迷って】
【お2人は黄色の薔薇が4つ、ですね】
店長が言葉を発してくれるので、セララでも会話が分かる。従業員にも何らかの障がいを持つ人がいるそうだ。
羽海は店長に教えてもらい、恐る恐る薔薇を1つ摘んだ。セララの視線が別へ逸れていることを見て取り、彼女はこっそりと手を動かす。
【店長は、11本の薔薇の花言葉って知ってる?】
【どなたかに贈られましたか?】
言われ、ちらりとセララを見る。察した店長はそれでは、と微笑んだ。
【私が答えるのは止しておきましょう】
【えっ】
【贈り主の想いが篭っていますから】
白い薔薇を幾つも摘んだ花籠を手にし、店長はでは、と軽い辞儀で羽海とセララの居る庭園の一角から離れて行った。
●赤2
花籠にあるカードには、薔薇の剪定方法ともうひとつ。
「『赤系の薔薇の花を、丸ごと5つ摘んでください』……だって」
「花がら摘みのようですね。これならば初心者でも可能でしょう」
『アンジェローゼ』は読んだカードを『エー』へ手渡すと、アーチを形作る大輪の薔薇リリアーナを眺める。
「薔薇が綺麗ね」
あなたは薔薇が好きだから、喜ぶのではと思ったの。
そう告げたアンジェローゼに、エーはいたく感激した。
「薔薇の美しい場所でお嬢様と2人でお茶とは……とても嬉しいです。有難うございます」
大袈裟よ、とアンジェローゼはアーチをくぐり抜ける。咲き乱れる黒赤のブラックバッカラ、中心の白いスカーレットパール。薔薇を自ら育てているエーが見ても、この薔薇庭園は相当な造り込みをされていた。
でも、とアンジェローゼがちらりとエーを振り返る。
「……私が一番好きなのは、あなたの育てた薔薇だけど」
悪戯っぽく笑ってまた庭園を歩き出した彼女は、見逃した。エーが、どれだけ情熱的な視線で彼女を見つめ返していたのかを。
(薔薇よりも、僕のお嬢様のほうがずっとお美しく、可憐です)
ただ、哀しいかな。アンジェローゼは、エーのことを兄のようにしか見ていない。
(男と意識して頂けるよう、頑張らねば)
私も剪定してみたいな、という彼女の要望をエーが聞かぬわけもなく、棘でアンジェローゼの指先が傷つかないよう細心の注意を払う。
「ね、カードのヒントとチラシのヒント、エーは解る? 私、さっぱりで」
いろは歌? ってわけでもなさそうだし、とアンジェローゼは首を捻った。
唇に指を触れ思考に耽る彼女を、エーは熱心に見つめる。
(真剣に考えるロゼ様は愛らしくて、唇に触れている白い指も艶かしい……その薔薇の唇を塞いでしまおうか?)
いや、いきなりキスしたら引かれるのでは? と頭(かぶり)を振る。
(ここは何気なく、手を握ってみようか……)
アンジェローゼはぼぅっと彼女を見つめているエーに気づかず、よし、と喫茶店のある方向を見上げた。
「店長さんにヒントも貰おう!」
●フラワーアート
参加者たちが喫茶店へ集まったところへ、白い薔薇の花籠を手に店長も戻ってきた。
「お茶の用意をいたしますので、少々お待ちを」
花籠を置いて奥へ引っ込んだ店長を見送り、皆は店内を見回す。
店内中央のテーブルに、水の張られた正方形8cm×8cm程のアクリルケースが横に8個、縦に10個並び長方形を作っていた。
ガラスケースの横列には1〜8の数字、縦列にはいろは歌のヌまでカタカナが付箋で貼ってある。
「チラシのヒントと関係ある……?」
アンジェローゼは腕組みをし、エーにも尋ねようとして目を瞬いた。
「……なんで私の方ばっかり見てるの?」
挙動不審だし……大丈夫?
そんな彼女の心配は、エーには明後日のもの。
(ロゼ様が傍に……!)
ようは距離が近くて挙動不審になっているだけである。
「お待たせしました」
店長が奥から戻ってきた。盆にはアイスティーが人数分、バスケットにはマドレーヌが盛られている。
(薔薇の形、してる……)
羽海はマドレーヌを手に取り、目を輝かせた。もちろんパズルも忘れない。
(イロハ……数字……色……?)
セララは早々にギブアップしたが。
「オレ、考え込んでる羽海ちゃん眺めるのに忙しいから任せる!」
その理由はどうなのかと、思わないでもない。
アンジェローゼはぱくりと食べたマドレーヌに頬を綻ばせ、エーにもそのマドレーヌを差し出した。
「エーもどうぞ。ほら、あーん!」
(あーん……これは、間接キス?!)
動揺しつつ、エーは有難く頂く。
「何より甘くて、美味しゅうございます」
そう、と答えたアンジェローゼは、照れ隠しにアイスティーを飲んだ。
皆がマドレーヌに舌鼓を打ち、アイスティーでひと心地ついた頃合い。店長は中央のテーブルを指した。
「さて、これが本日のパズルです。ヒントはこうなりますね」
手持ちの黒板にヒントが書き出される。
ヒント1
1つ目:イ−2 ロ−1 ロ-2 ロ−3 ロ−4 ハ−3 ニ−1 ホ−2 ホ−3
2つ目:ニ−5 ニ−6 ニ−7 ホ−8 ヘ−6 ヘ−7
3つ目:ヘ−4 ト−3 ト−4 ト−5 チ−4 チ−5 チ−6 リ−3 リ−5 ヌ−4
ヒント2
紫は6つで1字/黄は9つで1字/赤は10個で1字
かのんが自分の花籠へ視線を落とす。
「剪定した薔薇の色が、ヒント1に繋がるのでしょうか?」
「てことは、ケース横の数字と文字も関係してきそうだな」
店長はかのんと天藍の言葉に頷き、指を1つ立てた。
「3つ目のヒントです。ヒント1の『1つ目』は黄色、『2つ目』は紫、『3つ目』は赤です」
パズルへ向き直り真剣に考えるエーの横顔。アンジェローゼはなぜか胸が高鳴る。
(……いつもぽやぽやしてるのに、こんな表情もするのね)
でも何気なく傍によれば真っ赤になるし……可愛いかも。
マドレーヌを味わいながら、牡丹は水の張られたケースとヒントを見比べる。ヒントを頼りに頑張ってみたが、ちょっと面倒くさくなってきた。
「シオンさん、頼りにしてるから頑張ってね」
きっとシオンさんなら解けると思うよ!
牡丹にあからさまに持ち上げられている。が、悪い気はせずシオンは真面目に考え始めた。
(薔薇の色と数字……?)
店長が白い薔薇を手に取る。
「これを1つ置きますね」
切った花を水に張って楽しむことを、フローティングフラワーと言うのだと説明しつつ。
「今置いた箇所はイ-1になります」
「「「あっ!」」」
(あっ!)
大ヒントに、何人かの声が重なった。
かのんと天藍が、紫の薔薇をケースの水に浮かべていく。
「ニ−5、ニ−6……」
刹那と羽海が黄色の薔薇を、エーとシオンが赤の薔薇をヒント1に従い浮かべていく。
すると、
さ
つ
き
の3文字が、黄、紫、赤の薔薇で浮かび上がった。店長は薔薇の入っていないケースへ白い薔薇を入れていく。
出来上がったのは、薔薇のフローティングフラワーアート。
「今回のパズルはカラーロジック……お絵かきロジックとも呼ばれるものです」
ピースが細ければ、より複雑な絵が描けるという。
「綺麗……」
パズルを見つめ隙ばかり見せるアンジェローゼ。エーは悔しさを募らせた。
彼女が隙を見せるのは、自分を男として意識していないからだろうか。
(……大好きなのに)
悔しさのまま、こちらを見ない彼女の頬へキスをひとつ。
「エー?!!」
パッと振り向いたアンジェローゼの頬は朱く染まり、エーは少し心が晴れやかになった。
「店長さん、薔薇だけじゃなくて今度は牡丹もやってね!」
同じ名を持つ彼女に、店長はにこりと頷く。
「牡丹の咲き頃は2月ですね。もちろんございますので、ぜひおいでください」
嬉しそうにする牡丹を、シオンは微笑ましげに見ていた。
「凄いね、羽海ちゃん。パズル解けたね!」
にこにこしているセララを見上げ、羽海はひとつ決めた。
(11本の薔薇の花言葉……調べよう、かな……)
逆月は、皆とともに何とかパズルを解いた刹那を見る。
(刹那の隣は落ち着く)
知らぬことは、多いのだろう。知ろうとも思ってはいなかった。
(共に在ることが出来れば、それで良い)
それがやりたいこと、だろうか?
「逆月?」
何か言ったか? と刹那が問い掛けてきて、彼は首を横に振った。
「いや」
薔薇のパズルに感心している天藍へ、かのんは礼を口にした。
「今日、ここに誘ってくれてありがとうございます」
本当に嬉しいのだと込めて微笑めば、彼もまた表情を緩め笑った。
「喜んで貰えたなら、良かった」
End.
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | キユキ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月24日 |
出発日 | 06月01日 00:00 |
予定納品日 | 06月11日 |
参加者
会議室
-
2015/05/31-22:00
-
2015/05/31-22:00
プラン提出しました
パズルは・・・楽しめれれば良いかな、と・・・
皆さんそれぞれ素敵な時間が過ごせると良いですよね -
2015/05/29-09:22
-
2015/05/29-02:09
-
2015/05/27-21:41
初参加、です!
アンジェローゼと、エーと申します。
わたしもパズルには自信はないけれど…エーとゆっくり楽しめたらいいなぁと思っているの。
よろしくお願いしますね! -
2015/05/27-19:53
豊村刹那と、逆月だ。
よろしく頼むよ。
パズルが毎度の事ながら解ける気がしないけど。
楽しめると良いな。 -
2015/05/27-06:50
-
2015/05/27-06:50
こんにちは
さつきのきつさのお邪魔するのは本当に久し振り
今回は薔薇庭園とのこと、楽しみです