プロローグ
『ウホウホッ! ウホウホウホホホ。ゴリィ。ゴリ。ウホウホホ、ウホウホウホ……』
郵便受けに突っ込まれていた、得体の知れないチラシ。その冒頭部分をちらっと読んだだけで、何か嫌な予感がしたあなたは――無言でそれをくしゃりと握りつぶした。
「いやー、何か訳わからないゴリラの写真? うん、そんなのが印刷されてるチラシが届いてさあ」
と、次の日辺りパートナーに話せば、それは他愛のない笑い話で済んだ事だろう。
――しかし、運命の女神は悪戯好きで。彼女はきっと、ゴリラのような姿をしていたのに違いなかった。
「……テーマパークからの依頼、ですか」
そして翌日、A.R.O.A.職員からウィンクルムたちが告げられたのは、オープン間もないテーマパークがウィンクルムの助けを必要としていると言う話だった。
何でも、以前そこでデミ・オーガが出現した事があり、その時にウィンクルムが颯爽と事件を解決したそうで――そこでテーマパークの更なるイメージアップの為に、是非ウィンクルム同士で仲睦まじいデートをして欲しいとの事だ。
「と言うのもですね、そのテーマパーク……家族連れや友達同士で行くにはもってこいみたいなんですけど、カップルがデートに行くには、少し敷居が高いみたいで」
なので、是非ウィンクルムの皆に『これぞろまんちっくなデート』を実践して欲しいと思っているようなのだ。
「そのテーマパークは、ゴリラ・マスター・パークと言いまして」
――ちょっと待った。何か今、不穏な単語が含まれていたような気がする。
「もう一度言いますね。ゴリラ・マスター・パークです。ゴリラ……って皆さん何処に行こうとされているんですか?」
急いで回れ右をしたウィンクルムの首根っこを掴んで、ゴリラゴリラと連呼する職員。何だか目が怖い。
「いやあ、ゴリラはいいですよお。『新世界のゴリラに俺はなる』って言った人の気持ちも分かると言うか」
嗚呼、もしや職員はゴリラの洗礼を浴びてしまったと言うのか――とにかくそのテーマパークは何から何までゴリラ尽くしで、「とてもゴリラだった」と言う評判に恥じない場所らしい。
「岩山と森に囲まれた、雄大な大自然。そこで雄々しきドラミングを響かせるゴリラ……屋台では普通のバナナの他、チョコバナナも売られてますし、ゴリラに餌やりも可。一緒に写真撮影も出来ます!」
更にゴリラの顔出し看板や、ゴリラになりきれるマスクにTシャツなどお土産も充実。ゴリラの形をした遊具もあるし、我こそはゴリラと言う人の為に『なりきりゴリラコンテスト』も行われているそうだ。
「逞しい男性の腕に抱かれて、この人ってゴリラみたいに優しくって素敵……と『きゅん』となれる事間違いなし……って、まだ話は終わってませんよ!?」
再び回れ右をしたウィンクルムの前に、今度は回り込んでくる職員。すごいガッツだ。しかし、まあ、助けを必要としているのであれば、行ってみるのも良いかもしれないし――それに何より、ふたりの愛が本物であるのならば、何処でだって素敵なムードに持って行ける筈! そう、例え其処がゴリラの楽園であっても。
――そう、きっと自分たちは試されているのだとウィンクルムは思った。
「……俺と、行ってくれるか? ゴリラ・マスター・パークに」
そして、貴女の出した答えは――。
解説
●成功条件
ゴリラ・マスター・パークでらぶらぶのデートをする。
●ゴリラ・マスター・パーク
最近オープンした、何から何までゴリラ尽くしのテーマパーク。沢山のゴリラが皆様をお出迎えします。ふれあいコーナーでは餌やりや写真撮影も可。
バナナ料理の屋台も充実、ゴリラグッズのお土産売り場にゴリラの遊具もあります。
我こそはと言う人は、『なりきりゴリラコンテスト』で思う存分ゴリラアピールも出来ます。
※ゴリラ・マスター・パークについてもっと知りたい方は、こーやGMの『ウホッ!イイGM!!』をご覧ください。
●ろまんちっく・でぇと
ここのテーマパークにカップルのお客さんを呼び込むべく、是非ウィンクルムの皆さんに『ろまんちっく』なデートをして欲しいと言うお願いが来ています。
この出オチ感満載な場所で、是非らぶらぶで甘々なでぇとをこなしてください。
●参加費
なにぶんオープンしたてのテーマパークなので、一日フリーパス券の代金として、お二人で400ジェール消費します。
●お願いごと
今回のエピソードとは関係ない、違うエピソードで起こった出来事を前提としたプランは、採用出来ない恐れがあります(軽く触れる程度であれば大丈夫です)。今回のお話ならではの行動や関わりを、築いていってください。
ゲームマスターより
柚烏と申します。ネタ満載な場所で、如何にロマンチックなムードを出してデートをするか……ある意味『とても難しい』任務ですが、たまにはこんな風変わりなデートも如何でしょうか。もちろんわいわい楽しんでも大丈夫ですよ!
ちなみに、ジャンルの『ロマンス』は希望であり、実際どんな感じになるのかは皆様次第です。それではよろしくお願いします。
※ゴリラ・マスター・パークの使用許可を下さった、こーやGMに感謝いたしまウホッ(隠せない興奮)。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
楽しめてますよ 動物は好きですから おやつに林檎買っておきましょう 色々観察できて嬉しいです ゴリラって本当はちょっと臆病みたいなんですけど それを感じさせない位に逞しいですよね。 ………… ディエゴさん 良い意味とか悪い意味とか関係なく ゴリラは好きですけど、ゴリラ呼ばわりは好きじゃないって言ってんですよ(片手で林檎粉砕) …ではコンテスト参加しましょうか 私はゴリラ系女子らしいですから、このたくましい腕で抱きしめてあげますよ、感謝してください。 …あれ?ディエゴさん?ディエゴさーん! えっ… 絞め落としたのは私が初めて…?(ドキッ) そ、そんなことで褒めても親密度上がりませんよっ あら?変な事言っちゃいましたね |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 ラダさんはやけにゴリラを推してますね。これがゴリ押し……。 行動 触れ合いコーナーで女性ゴリラと仲良くしたいです。「うほほっ」と笑いかけバナナを差し出します。花占い風にバナナの皮を剥きつつ「……うほぅ」と女性ゴリラ相手に恋の弱音をこぼします。恋バナです。 ラダさんが戻ってきたら、気持ちを前向きに切り替えましょう。置き去りにされて困りましたが、悪気はなかったようですし、気づいて探しにきてくれたのは嬉しいです。話相手になってくれたゴリラには手を振ります。 コンテスト見物。疾走感のあるドラミングが私の心にも響きましたよ。あんなに叩いて痛くはないんですか? ちょっと照れながらマッシブな大胸筋に触れてみます。 |
水田 茉莉花(八月一日 智)
…何でそんなに馴染んでるんですか、ほづみさん? ゴリラに混じって胸叩いて…(溜息) ああもう、任務じゃなければ家に帰りたいです 何か食べるって言ってもバナナ料理しか無いじゃないですかっ! …って、結構美味しいのね、焼きバナナって 普通にランチになってる…意外 「はい」って…何してるの? まさか…『あーん』って奴をやれっていうの! (過去2回やらされた経験アリ) ヤダヤダヤダヤダ絶対イヤだぁ! …ううっ、しごと、あ、「あーん」… (もぐもぐごくん)食べた気がしないですー ほづみさん、今、普通にさっきのフォーク使ってましたよね! それって間接…ヤダもう恥ずかしくてご飯食べられない… ああもう、ここの支払い全部ほづみさんで!! |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
こんなにも怪しい施設なのに、いつになくラルクさんがはしゃいでいます 彼は疲れているのでしょうか つい、哀れみの目で見てしまいます ここまでラルクさんを理解できないと思ったのは初めてです… いえ、私は遠慮します 触れ合いコーナーで楽しそうに触れ合う精霊に引き気味 ベンチで休憩しようという提案にほっとするも、 美味しいバナナですね。チョコバナナも食べたいウホ…はっ!私ったら、今何を…? ドラミングを見るなんて嫌だったのに、目が離せなくなってきました それに、なんなんでしょうか…胸がドラミングのように高鳴ってる… もしかしてこれが、ゴリ…?(ウホッ) シアターを出てからは言語崩壊 ゴリゴリウホ、ゴリー(訳:ゴリラ、すごい) |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
ミュラーさんに笑顔で「デートしよう」と言われたら、思わず後を付いて行ってしまうのだと。今回、解ってしまったのです。 だって、気が付いていたら何だか頷いていました、私。 着いてからゴリラさんだらけって気づきました。 はい、手を繋いで見て廻ります(楽しい)。 「某動物園にはイケメンのゴリラが居ると話題になりました。沢山居るからここにもイケメンさんが居るかも。捜しましょう!」とじっくり見て回りましょうか。 でも私、気が付いてらミュラーさんばかり見てます。 バナナもきゅもきゅ食べて。 ここだとミュラーさんがとっても綺麗というか美形って感じて。野生と文明の対比なのでしょうか。 ゴリラのぬいぐるみを買って帰りたいです。 |
●彼女がゴリラに変わるまで
「ゴリラってすげぇよな! どいつもこいつもB型なくせに、ストレスに弱いんだぜ、すげぇよな!!」
いきなりゴリラ豆知識を披露しつつ、ラルク・ラエビガータは瞳を輝かせて、早速パーク内のゴリラに魅入っている。普段のクールな雰囲気は見事に消し飛んでおり――アイリス・ケリーは、知られざる彼の一面を目の当たりにして、かなり困惑していた。
(こんなにも怪しい施設なのに、いつになくラルクさんがはしゃいでいます……彼は疲れているのでしょうか)
ふぅ、と溜息を吐くアイリスは、つい哀れみの目でラルクを見てしまっており。しかしテンションを上げたラルクは彼女の様子にも気にした素振りは見せず、ぎゅっと頼もしくその手を握った。
(ん……どうしたんだ? 変な目で見られてる気がするが、気のせいだな)
と、カップルでの来園に、ゴリラ・マスター・パークのマスコットキャラ――『ゴリマスくん』がウッホウッホと近付いて来る。ちなみに通の間では『GM』と呼ばれているそうだ。
「ウホッ」
「あ……風船、ですね」
記念に風船を手渡され、微かに頬を緩めたアイリスであったが――直ぐにその笑みが凍り付いた。その風船にはでかでかとゴリラの顔がプリントされており、遠目からでも異様に目立つ。もうこれは一種の罰ゲームだ。
「ほら、いくぞ、ゴリラが俺達を待っている!」
が、ラルクはそれを奇妙に感じる事も無く、意気揚々とテーマパークに突入していったのだった。
(ここまでラルクさんを理解できないと思ったのは初めてです……)
――そして。ふれあいコーナーで嬉々としてゴリラと戯れているラルクを、アイリスは死んだ魚のような目で見つめていた。どうやらラルクの溢れるゴリラ愛が彼らにも伝わったらしく、早速彼はゴリラに囲まれて揉みくちゃになっているようだ。
「どこまでやっていいゴリ? 握手やハグも大丈夫ウホか? ほら、アンタもどうだ?」
「いえ、私は遠慮します」
大興奮のラルクは徐々にゴリラ化しているらしく、語尾が怪しい。引き気味のアイリスはきっぱりと拒否したが、それにショックを受ける事も無く――彼は遠慮なく一人で楽しんでいる。
(ん……でもアイリスの様子がおかしいよな?)
いや、おかしいのはラルクさんの方です、とアイリスならば言っただろう。それでもふたりはベンチで休憩する事にして、ラルクは屋台で買ってきたバナナをアイリスに手渡す。
「ほら、バナナだ」
黄色い皮をむきむき、並んで座ってカップルっぽくバナナを頬張って。ふわりと口の中に広がる甘さに、ようやく強張っていたアイリスの顔が綻ぶ。
「美味しいバナナですね。チョコバナナも食べたいウホ……はっ! 私ったら、今何を……?」
思わず口を吐いたゴリラ語に、アイリスは驚いたようにエメラルドグリーンの瞳を瞬かせた。しかし、ラルクはゴリラ化した彼女を微笑ましく眺め、何処か遠くを見つめる瞳でぽつりと呟く。
「バナナはいい。ゴリラ達の気持ちを理解させてくれるからな」
「ゴリラの……気持ち」
――その言葉に、アイリスの胸がとくんと跳ねた。それは、彼女の中で何かが変わった瞬間だった。
(ドラミングを見るなんて嫌だったのに、目が離せなくなってきました)
どんどこどこどこと目の前で繰り広げられているのは、ゴリラのみなさんによるゴリラショー。ずらりと並んだゴリラ達が奏でる協奏曲は、アイリスの心を次第に虜にしていき――その肌が自然と熱を帯びていく。
(それに、なんなんでしょうか……胸がドラミングのように高鳴ってる……)
何かを掴みかけて徐々にゴリラ化していくアイリスを、ラルクは微笑ましく見守っていた。そう、ゴリラと言えばドラミングなのだ。ふたりは揃って大興奮し、歓声に包まれる中でアイリスはぽつり呟く。
「もしかしてこれが、ゴリ……?」
――ウホッ、と。その時、彼女の口から野生の雄叫びが零れた。
「ゴリゴリウホ、ゴリー(訳:ゴリラ、すごい)」
そして夢心地の内にショーは終わり、会場を後にするアイリスはすっかり言語崩壊――そんな立派になったアイリスをラルクは満足そうに見遣り、「眩しいゴリ」とただ一言囁く。
こうして絆を深め合ったアイリスとラルク――もといアイリス・ゴリーとラルク・ゴリビガータは、奇異の目にも負けずにテーマパークでのひとときを満喫したのだった。
●ゴリラは貴方を輝かせる
デートしよう、とフェルン・ミュラーは、神人の瀬谷 瑞希を誘った。微笑みを浮かべてそんな事を言われたら――思わず後を付いて行ってしまうのだと、瑞希は今回解ってしまったのだ。
(気が付いていたら何だか頷いていました、私)
考える事も無く、感情のままに動いてしまうこともあるのだと、瑞希はその時改めて気付かされて。それはもしかしたら、フェルンが誘ってくれたから――なのかも知れないけれど。
「どんな場所でも、君が居れば素敵なデートになるよ」
ああ、何てフェルンは思いやりがあるのだろう。透明感のあるターコイズブルーの瞳が、陽射しを受けて優しく輝いている。そんな彼の瞳に映るのは、少し緊張気味の瑞希と――その背後をのっしのっしと歩いていくゴリラだった。
(……着いてから、ゴリラさんだらけって気づきました)
瑞希らの頭上にでかでかと書かれているのは、『ゴリラ・マスター・パーク』の文字で。
「ミズキは動物好きだし、特殊な動物園だと思えば問題ないよな……」
いや、特殊過ぎるだろと言うツッコミが聞こえてきそうだったが、動物が好きだと言う自分の好みをちゃんと汲んでくれたフェルンの想いが、瑞希には嬉しかった。
「迷子になるといけないし、手……繋ごうか」
「はい、手を繋いで見て廻ります」
差し伸べられた手を取って、ふたりは楽しそうにテーマパークを歩き出す。それはとても微笑ましく、仲睦まじい光景だった。背後でウホウホ言っている声は聞かなかった事にしておこう。
「某動物園には、イケメンのゴリラが居ると話題になりました。沢山居るから、ここにもイケメンさんが居るかも」
「へえ、面白そうだな。……居るかな?」
捜しましょう! と意気込む瑞希に苦笑しつつ、フェルンもテーマパークのゴリラ達をじっくり見て回ろうと気合を入れた。
「イケメン、イケメン……」
岩山や森を思い思いに闊歩するゴリラの群れを、じーっと観察する瑞希。ゴリラ、ゴリラ、ゴリ……あ、あれは人間だ。で、またゴリラ――と思ったらゴリラの形をした岩だった。
しかし、イケメンゴリラの定義も良く解らず、見ている内にどれも同じ顔に見えて来て――ついでにお客さんまで服を着たゴリラに見えそうになってくる。その内に瑞希は、気が付けばフェルンの姿を追っている自分に気が付いた。
(あ。私、ミュラーさんばかり見てます)
とくん、と胸が高鳴る間にも、フェルンは屋台でバナナを買ってきてくれたようだ。はい、と瑞希に差し出したのは、カラフルなトッピングがあしらわれたチョコバナナ。
「バナナ買ってきたよ。歩いて疲れただろ」
「ミュラーさん……ありがとうございます」
ゴリラにもバナナをあげているフェルンを微笑ましく見守りながら、瑞希はチョコバナナをもきゅもきゅと食べていた。
(しかし、何だか今日はいつもより、ミズキの視線が自分に向いている気がする)
よく目線が合う事に、フェルンは少し照れつつも――その度に笑顔を見せると、はにかんだ微笑みを返してくれる瑞希を嬉しく思う。
そして一方で瑞希も、普段より五割増し程イケメンに見えるフェルンを、どきどきしながら見つめていた。何故だろう、ゴリラの中に居てこそ、彼はより美しく輝くのだろうか。
(ここだとミュラーさんが、とっても綺麗というか美形って感じて。野生と文明の対比なのでしょうか)
そうして一通りゴリラを満喫したふたりは、最後にゴリラのぬいぐるみを買って帰る事にした。
(彼女の笑顔が沢山見れて、良い日だ)
――こうして見事に彼女たちは、ゴリラ尽くしのテーマパークでのデートと言う、難易度の高いミッションをこなしたのである。
●ゴリラ系女子に締められて
「……ゴリラって」
「楽しめてますよ、動物は好きですから」
遠い目をして呟くディエゴ・ルナ・クィンテロに、ハロルドは涼やかな声で応えた。ふたりがやって来たのはゴリラ・マスター・パーク――柵越しにゴリラに手を振っているハロルドを複雑な表情で見守りながら、ディエゴはそっと吐息を零す。
「まあ、エクレールが楽しんでいるから良いか」
途中でハロルドはおやつに林檎を買い、テーマパークを満喫しているらしい彼女へ、ディエゴは何とか素敵な言葉を掛けようと頭を回転させた。
(……こいつは動物が好きなんだった。それに沿った誉め言葉を……えーと)
そして、彼の口から出た言葉はと言うと。
「エクレールも、ゴリラみたいに逞しいぞ」
「…………」
その時、ふたりの間に流れる時が止まり――柵越しに此方を見ていたゴリラが「ウホッ」と鳴いた。
(……嬉しそうではない、悪くとられたか)
いつにも増して無表情さに磨きがかかったハロルドの様子に、ディエゴは「むう」と髪を掻く。乙女心は難しいものだ。此処に居る、ゴリラ達の気持ちを推し量る以上に。なのでディエゴは、冷静に彼女が喜ぶ言葉を考えて、静かに唇を開く。
「違うぞ、良い意味でゴリラ系女子だ」
――再び、時が止まった。ふたりの様子に興味を惹かれたのか、此方を見つめるゴリラの数が増えているような気がする。
「ディエゴさん、良い意味とか悪い意味とか関係なく……」
ウホウホと興奮するゴリラ達を背景に、静かなオーラを漂わせたハロルドが林檎を手に取った。と、片手で握られた林檎が、一息でぐしゃりと粉砕される。
「ゴリラは好きですけど、ゴリラ呼ばわりは好きじゃないって言ってんですよ」
そう言えば、ゴリラの握力って凄かった筈――とディエゴはぼんやり思いながら、地面に滴る林檎の欠片を無言で見つめていた。
「……では、コンテスト参加しましょうか」
「え、何で」
「私はゴリラ系女子らしいですから、このたくましい腕で抱きしめてあげますよ、感謝してください」
半ば強引に、ハロルドはディエゴの首根っこを掴みながら――『なりきりゴリラコンテスト』へ飛び入り参加をする。カップル参加か、と会場がどよめく間もなく、引きずられてきたディエゴの様子を見て辺りがしぃんと静まり返った。彼の様子はラブラブなカップルと言うよりは、ゴリラに捕獲された哀れな犠牲者のように見えたからだ。
「……ふんッ」
そしてディエゴは、後ろからハロルドに頭を抱きしめられて――いや、絞められていた。これはあれだ、チョークスリーパーってやつだ。だって、片手でしっかりホールドされてるし。
「ぐ……あ……ああ……エクレール……時が見え」
「……あれ? ディエゴさん? ディエゴさーん!」
――次に気が付いた時、ディエゴは公園の芝生に寝かされていた。今まで幾多の任務に参加してきたが、今回が一番死にそうだった。と言うか、川の向こう側から先祖にまだくるなと怒られたような気がする。
「……ん? 俺は何を?」
「ディエゴさん、気が付きましたか」
ああ、自分を覗き込むハロルドの姿がやけに眩しかった。コンテストの結果がどうなったのか、少し恐ろしくなりつつも――ディエゴは精一杯の微笑みを浮かべて彼女に笑いかける。
「しかし見事なサブミッションだった。締め技で落とされたのは初めてだ……お前……才能あるぞ」
「えっ……締め落としたのは私が初めて……?」
初めて、と言う言葉にドキッとハロルドの胸が高鳴った。しかし彼女は慌てて首をぶんぶんと振って、今にも昇天しそうなディエゴの額をつんと小突く。
「そ、そんな事で褒めても親密度上がりませんよっ」
と、照れ隠しに変な言葉を口に出しつつも――雨降って地固まる、という訳で、ふたりはゴリラに囲まれてテーマパークでのデートを楽しんだのだった。
●間接キッスはバナナ味
八月一日 智はのっけからテンションが高かった。嫌がる水田 茉莉花を強引に誘って、先ずは入口にあるゴリラの顔出し看板で記念撮影。それからお土産屋に突入して、むきむきなゴリラの上半身がプリントされたTシャツを購入、嬉々として身に付けている。
「ドラミングじゃー! ゴリラと対決するんじゃー! うほっ、うほほっ!!」
そんな謎の奇声を上げながら、しまいにはゴリラショーに乱入して一緒になって胸を叩いて。すっかりテーマパークを満喫している智の姿は、うん、社会人には見えなかった。
「……何でそんなに馴染んでるんですか、ほづみさん?」
嗚呼、茉莉花の呟きは虚しく宙に溶けていく。ゴリラと一緒に並んでいても違和感のない智を見つめ、ああ任務じゃなければ家に帰りたい――と茉莉花は思った。
「意外とゴリラづくし楽しいなぁ。会社に掛け合って今度のネット動画配信、ここのリポートにするかなぁ?」
そうして思う存分ドラミングをしてすっきりした智は、今にも鼻歌を歌いだしそうな調子でスキップをしている。そんな自分とは対照的に、はぁと溜息を吐く茉莉花を気遣ってか――そこで智は、ちょいちょいと彼女の肩を叩いてにかっと笑った。
「……ホレホレみずたまり、ぶすくれてねぇで何か食おうぜ!」
そう言って彼が指差したのは、園内に設けられたレストラン。柔らかな日差しの降り注ぐオープンテラスに席を取ったふたりは、早速メニューに目を通す。
「バナナヨーグルト、バナナケーキ、バナナカレー、バナナ蒸し、バナナの味噌煮、シェフの気まぐれバナナ~ゴリラ風味……」
が、メニューを読み上げていった茉莉花の顔が徐々に険しくなっていった。『バナナ』の三文字が延々と続き、軽くゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
「何か食べるって言っても、バナナ料理しか無いじゃないですかっ!」
つい怒りに任せてメニューを叩き付ける茉莉花。しかし、『余り奇をてらわず』注文した焼きバナナを一口食べた彼女は、ぱちくりと瞳を瞬かせて思わず呟いていた。
「……って、結構美味しいのね、焼きバナナって。普通にランチになってる……意外」
「デッショー? バナナも立派なおかずになるのだよみずたまり君」
ドヤ顔でもぐもぐとバナナを食べる智は、一緒に注文したバナナパフェにフォークを刺して――ふんわりホイップクリームの乗ったバナナを茉莉花に向ける。
「ンでもって……はい」
「『はい』って……何してるの?」
「ミッション、ラブい事しろってミッションだよ、みずたまり君」
智のフォークに刺さった一口サイズのバナナが、ゆらゆらと揺れていた。この状況でラブい事と言えば、つまり。
「まさか……『あーん』って奴をやれっていうの! ヤダヤダヤダヤダ絶対イヤだぁ!」
過去二回ほどやらされた経験が脳裏を過ぎり、茉莉花は顔を覆ってぶんぶんと首を振った。しかし現実は非情であり――智はにまーりとしたイイ笑顔で、ずずいと身を乗り出す。
「ミッションだよ、仕事だよ、みずたまり君」
「……ううっ、しごと、あ、『あーん』……」
仕事仕事と自分に言い聞かせ、覚悟を決めて『あーん』をさせて貰う茉莉花。必死でもぐもぐ、ごくんと飲み込んだバナナの味は、良く解らなかった。
「食べた気がしないですー」
「うし、ミッション完了、飯の続きすっか!」
と、智はそのまま、茉莉花にバナナを食べさせたフォークを自然に使いながら食事を再開して。それを見た茉莉花の顔が、火がついたようにぼっと赤くなる。
「ほづみさん、今、普通にさっきのフォーク使ってましたよね! それって間接……ヤダもう恥ずかしくてご飯食べられない……」
「んあー、ナンダー? それだけで恥ずかしがってんの? ういヤツめ♪」
にまにまと笑う智の顔をまともに見られなくて、茉莉花はぷいとそっぽを向いて叫んでいた。
「ああもう、ここの支払い全部ほづみさんで!!」
「アレ……ちょっと待って、支払い全部って」
●ゴリ押しの恋バナ
「ヒャッハーッ! ゴリラの時代の幕開けだ!」
モヒカンの髪を風に靡かせて、ラダ・ブッチャーは雄叫びを上げながらふれあいコーナーに突撃する。ゴリラと思う存分戯れる事が出来るとなれば、じっとしている訳にはいかなくて――ラダの頭の中からは、一緒にテーマパークへやって来たエリー・アッシェンの存在が抜け落ちてしまっていた。
「うふふ、ラダさんはやけにゴリラを推してますね。これがゴリ押し……」
と、エリーも最初は駄洒落を零していたのだが、ラダはゴリラと触れ合う事に夢中で此方を放置している。仕方ないのでエリーは、女性のゴリラ(と思われるゴリラ)にそろそろと近付き、彼女と仲良くする事にした。
「うほほっ」
精一杯の笑みを浮かべ、バナナを差し出すエリー。友好の証の黄色い果実を、その女性ゴリラは「ウホゥ」と言って受け取った。人間とゴリラの間に友情が生まれた瞬間である。
「……うほぅ」
「ウホ? ゴリゴリ、ウホッ」
そのまま、まるで乙女が花占いをするが如くバナナの皮を剥いて、エリーは女性ゴリラに恋の弱音を零した。パートナーのラダに愛情を抱きつつあるも、彼はあくまで自分を友人だと思っていること。
「ほっほっ……うほほぅ……」
彼の好みの女性とはタイプが違うから、恋愛対象として見てくれないのでしょうか――そんな想いをゴリラ語に乗せつつ、エリーはひとつ、またひとつとバナナの皮を剥いていった。
これぞ恋のバナナ――略して恋バナである。
「ヤバイ! うっかり友達とはぐれちゃった……ってエリー!?」
と、ゴリラと恋バナ中のエリーの元へ、血相を変えたラダがやって来た。ようやく一息吐いたラダは、「なんかゴリラに殺された女の幽霊が出たらしい」と言う客の噂話を聞き、もしやエリーの事ではと思ったらしい。
駆けつけてみたら案の定其処には、負のオーラを放ちながらゴリラとバナナを剥いているエリーが居たという訳である。
「ごめんねぇ、ついついゴリラに夢中になっちゃって……!」
普段は見せない、何処か寂しげで弱々しい表情をエリーはしていた。その事に一瞬戸惑いつつも、ラダはぺこりと謝ってエリーに手を差し伸べて――彼女もバナナを置いて、その逞しいラダの手をぎゅっと握りしめる。
(置き去りにされて困りましたが、悪気はなかったようですし)
気持ちを前向きに切り替え、エリーはラダを慈しむような目で見つめて呟いた。
「気づいて探しにきてくれたんですよね。嬉しいです、ラダさん」
そうして話相手になってくれたゴリラに手を振りつつ、合流したふたりは『なりきりゴリラコンテスト』へ参加した。
「ウホホッ、ゴリィィ……ホホーイ!」
エリーが見守る中、ラダはとびっきりのパフォーマンスで観客を沸かせる。ゴリラを観察した事を活かして、のっしのっしと不完全な二足歩行をし――拳を使ったナックルウォーキングも交えた。そのまま一気に地面を駆けながら、ラダは素早くリズミカルにドラミングを披露する。
どこどこどこ! 音が良く出るように平手で胸を叩き、その余りに洗練されたゴリラっぷりに、会場のあちこちから「ナイスゴリラ!」の歓声が飛んだ――。
「疾走感のあるドラミングが、私の心にも響きましたよ。あんなに叩いて痛くはないんですか?」
そうして、見事にコンテスト優勝を果たしたラダにエリーは駆け寄り、少し照れつつ彼のマッシブな大胸筋に触れてみる。ちょっぴりひんやりとした、けれども確かなぬくもりのあるエリーの手に、ラダはドキッとして危うく優勝トロフィーを落としそうになった。
(ウヒャァ……友達相手にドキドキするのは変だよねぇ)
鼓動が早いのがバレないようにと祈りながら、ラダはエリーと手を繋ぎ、夕陽に染まるテーマパークを後にしたのだった。
ゴリラ・マスター・パーク――このゴリラ感マッスルなテーマパークで、見事ろまんちっくなデートをしたウィンクルムたちは、皆こう思った事だろう。
――とてもゴリラだった、と。
依頼結果:成功
MVP:
名前:アイリス・ケリー 呼び名:アイリス、アンタ |
名前:ラルク・ラエビガータ 呼び名:ラルクさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 柚烏 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 05月14日 |
出発日 | 05月22日 00:00 |
予定納品日 | 06月01日 |
参加者
会議室
-
2015/05/21-01:07
-
2015/05/19-13:18
ごりぃ、ごりごりぃ…ごりぃ…
ごり……うほほ、ごり…(バナナを求めて徘徊を開始) -
2015/05/17-20:58
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
……う、ウホー?
(恥ずかしさのあまり駆け出す)
『らぶらぶで甘々なでぇと』頑張ります! -
2015/05/17-19:01
うほほ……。エリー・アッシェンです。どうぞよろしくお願いします。うほぉ……。
ゴリラ・マスター・パークでのラブの行方、とってもとっても気になりますね。
(花占いをするような動作で、バナナの皮をむいている)
-
2015/05/17-00:36
ラルク・ゴリビガータとアイリス・ゴリーだ。
ゴリラってすげぇよな、どいつもこいつもB型なんだぜ!!
そういうわけでよろしくウホ。 -
2015/05/17-00:36
先生!ほづみさんが、ゴリラに向かったまま帰って来ません!
(PL:参加された皆様、よろしくお願いします、の、意。) -
2015/05/17-00:20
先生!バナナはおやつに入りますよね(断定)
(PL:よろしくお願いします)