【白昼夢】さよならを あなたに(上澤そら マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●フィヨルネイジャが見せるもの
 精霊は、不治の病に冒されていた。
 その病は神人にうつることはないが、他の精霊にうつる可能性があるために、彼は病院の一室で精霊は寝かされていた。
 
 直す術はもう、ない。

 入院した当初は多少具合が悪そうなだけだったけれども、日に日に衰えていく彼の姿。

 身体を動かすのも辛そうで。言葉を出すのも辛そうで。
 あんなにも生命力に溢れていた大輪の華、それが枯れてゆく様を見守らなければならない。
 これほど残酷な事は無いだろう。

 しかし神人は毎日彼の様子を見に行った。
 少しでも、元気が出るように。
 少しでも、長く彼の傍に居られるように。

 もう、戦いに出ることはなくて済む。
 2人だけの時間はたっぷりある。
 そう笑い合いながら、残された時間を2人は穏やかに過ごしていた。

 ある晴れた日の午後。
「今日はいい天気」
 貴方はそう言い、カーテンを開けば明るく暖かな光が病室に差し込んだ。
 眩しそうな瞳を見せる彼は、穏やかに笑む。

 その笑顔に……神人は予感を感じた。
 あぁ、今日はお別れを言わなきゃならない日なのだ、と。
 こういう時までウィンクルムの共感覚を感じてしまうとは……と不意に溢れそうになる涙を堪える。
 きっと彼も同じことを感じたのだろう。
 彼の笑みが消え、神妙な面持ちと変わっている。
「ちょっと花瓶のお水を変えてくるね」
 出来るだけ明るい笑顔を向け、貴方は一度病室から外へと出た。

 瞳から溢れる涙を拭い。花瓶の水を取り替えて。
 貴方は部屋へと戻る。
「……ありがとう」
 彼から差し伸べられる手を貴方はそっと取り、微笑んだ。
 彼は薬が効いているせいか、表情に痛みや苦痛の色は見えない。

 手を取り、見つめ合う時間。
 ロウソクのロウが溶け行くように。
 線香花火が最後に明るく輝くように。
 緩やかだが、彼は情熱を瞳の奥に灯しているのがハッキリとわかる。
 精霊は貴方に向け、口を開くのだった。

 精霊の最期の言葉。願い。想い。
 貴方はどう受け止め、何を伝えますか。

解説

●流れ
 最期の時間。
 覚悟を決めた神人と精霊。
 穏やかに、眠るようにこの世界と別れる精霊の様子。

 出歩くことは出来ず、病院の個室内、二人きりでの出来事となります。

 フィヨルネイジャの幻想が解けた後についてはプランによりけりです。
 2人共同じ幻想を共有しておりますぞ。

 幻想の中の二人はその状況を『現実』と思って過ごす事でしょう。
「最期の時間に何を伝えるか」もしくは
「辛い夢を見た後、2人は何を想うのか」 
 どちらに重きを置いてくださっても構いません。 

●幻想内での状況
 精霊は不治の病。助かる術はない。
 特に記載なければ精霊は己の病を自覚していることになります。

 精霊は神人に何を伝えるのか。
 神人は精霊に何を想い、伝えるのか。

●注意
 シリアスです。

「俺マヂ超元気!走り幅跳びだってできるしっ!病室飛び出てやるぜヒャホーイ!」
 等のプランはマスタリングされる可能性大です。
 しかしそう言ったノリは誠に大好きなので次の機会にお願いいたします。
 ちょっとした強がりレベルでお願いします。

ゲームマスターより

お世話になっております、上澤そらです。

こんな新緑の季節に! どシリアス!
バニーの後で! どシリアス!

怖い夢見た後って凄くホッとしたりしますよね。
そんなフワッとした具合でご参加いただけたら幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆最期を看取る
(精霊の願いを聞き)うん、必ず伝えるよ…っ、(手を握り、その冷たさと握り返してくる力の弱さに彼の最期が近いことを悟る)

私エミリオさんがいなくても頑張るから
貴方の分も生きて、生きて、しわくちゃのお婆ちゃんになっても生きるから…私にも『終わり』がきたら迎えに来てくれる?
…ありがとう、これからもずっと貴方を愛してる(精霊にキス)

(眠るように最期を迎えた精霊見て)…わ、私、ちゃんと笑えてた?
大好きな人の最期なんだもの、『笑顔でいなくちゃ』って、私…わたし…っ(泣き崩れる)

☆夢から覚めて
エミリオさん…?(悲しそうに微笑む精霊を不安げに見つめ)
(それは「自分は先に死なない」って意味だよね?)


クロス(オルクス)
  ☆心情
「はぁ…(溜息
日に日に病状が悪化してる様を見るのは、やっぱ辛い、なぁ(涙を浮かべる」

☆幻想
「(泣き終わってから戻る)
御免なオルク、直ぐに戻れなくて(苦笑
ちょっと目が痛くて洗ってたから…
えっ!?なっ泣いてなんか…
はは、やっぱオルクに嘘は通じないや(俯
謝んなよ、オルクは悪くねぇ
誰も、悪くなんか、無いんだ…
うん…(嫌、最期なんて、言わないでよっ)
(静かに耳を傾ける
俺も出逢えて良かったっ
バカ!(ぎゅっ
俺が幸せになれんのはオルクだけだ!
だからオルクっ愛してるよずっと…
もし来世や輪廻転生があるなら次こそは幸せになろ
約束、だ(泣微笑
ばぁか、此方こそだよ…
オルク、おやすみ…(口にキスの後抱締め暫く泣く」


ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  ●幻想
レオン…
レオン、お前何言ってるんだ
お前以外に精霊なんていらないよ

(抱きしめて)
馬鹿いうな
約束したじゃないか
ずっと護るって
どこにも行かないって

(耐えきれず泣き出す)
愛してるよ、レオン
愛してるよ…

●覚醒後
(まだ泣いてる。泣きながらレオンを抱きしめ)
馬鹿
(聞くだけ聞き、震える手で本気で平手打ち)
どれだけ私の事をなめてるんだ

私は
あの時、ギルティに襲われた時に
一度死んだと思ってる
私の魂をこの世に蘇らせたのはお前だ

無責任な事を二度と言うな
私とお前は一蓮托生だ
私の精霊はお前だけ
命を預けるのもお前だけだ

お前がまともじゃないなら
一緒に地獄へもどこへでも堕ちるさ
独りで逝くなんて、絶対に許さないから
(キス)



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  精霊の手元には煙管
臥せってからもずっと煙管の手入れだけは欠かさなかったのに、今日は…
何も言えず、精霊の煙管に右手を乗せる
温かいのに冷たく感じる手
ラルクさんに触れられていることを初めて意識するのが、今だなんて…皮肉ですね

右手の手袋を外された…どうしてですか…?
返事を聞いて笑おうとするけれど…涙が止められない
この人の時間はもうないのに、私は何もしてあげられないのに、この人は…
眠った精霊を見送ったら、煙管を引き取ります
私の一部を持っていくんですから、これくらいはいいでしょう…?

現実に戻ったら…右手を差し出して、言う
私の覚悟が定まったら…この枷を、外してくださいね
精霊のわざとらしい仕草に笑う



■
 暖かい日差しが病室に注がれる。
 その日差しは、精霊が左耳につけるピアスに反射した。
「ミサ……」
 ピアスの持ち主、エミリオ・シュトルツは愛しい神人の名をそっと呼んだ。
 彼の中性的な容姿は、病のせいもあり更に儚げな印象を与える。
「エミリオさん」
 精一杯の笑みを浮かべ、ミサ・フルールは彼へと近寄る。
 ベッドに横たわる彼の赤い瞳がミサを捉えるが、その輝きは弱々しい。
 柔らかく茶色い彼女の髪がふわりと揺れる。
 日差しを浴び、キラキラと光る彼女の姿は天使のようだと感じる。
 だが。彼女が天使だとするならば、自分は……。
 自嘲的な笑みを消し、彼女へ頼みを伝えるエミリオ。
「ミサ。ミサにお願いしたいことがあるんだ」
 ベッドの上で半身を起こす彼を、ミサはそっと支え手伝う。
 力を入れたことで咳が出る彼に、心配そうな表情を浮かべ。
「エミリオさん、無理はしないで」
 そう呟き、彼の背を優しく撫でる。
 咳が収まり、エミリオは残された時間の短さを己の身体で感じ、部屋に立てかけられた剣に視線をやった。彼の視線の先にあるのは、一本の剣。
 その剣の正当な持ち主は彼ではなく、エミリオの親友のものだった。
「アイツに伝えてほしい。『……あの剣は譲り受けたのではなく、いつか返す約束だった物だけれど』」
 片時も離さなかった、大事な預かり物。
「『俺がこのまま持っていってもいいかな?』って……頼める?」
 エミリオの、最後の頼みに、ミサは。
「うん、必ず……伝えるよっ」
 彼の手を優しく取れば。あんなに温かだった手はひんやりとし……握り返すその力は、あまりにも弱々しい。
「……この小さな手が、今まで何度も何度も俺を助けてくれたね」
 エミリオの柔らかな笑みに、ミサの心にも彼と共に過ごした日々が思い出される。
 手を取り合い、口づけを交わし、共に戦い、愛を伝え。
 ずっとずっと、永遠だと思っていた。
「最期の一瞬まで共にいよう……その約束は叶えられた……かな」
 ポツリ、とエミリオが呟く。彼のその覚悟に
「……私……貴方がいなくても頑張るから」
 ミサの言葉にエミリオは優しい眼差しを向ける。微笑みを浮かべるミサの目。だが、その瞳は十分に潤んでいる。
「貴方の分も生きて、生きて、生きて……しわくちゃのお婆ちゃんになっても生きるから……」
 あぁ、とエミリオが頷く。
「私にも『終わり』がきたら迎えに来てくれる?」
「分かった……ミサ」
 エミリオの手がミサの頬に添えられる。ひんやりとした彼の手にミサは自分の手を合わせる。
「必ず……お前を、迎えに……行く」
「ありがとう、エミリオさん。これからもずっと貴方を……エミリオさんを……愛して……る」
 ミサの唇がエミリオの唇に優しく触れる。今までで一番柔らかな、最期のキス。
 ミサは微笑んだ。
 光を受け、暖かな笑顔を浮かべる彼女の姿は、やっぱり天使のようで。
「ミサ……俺も……愛、して……」
 穏やかな笑みを浮かべながら、エミリオは眠るように目を閉じた。
 ミサは彼の手をギュッと掴む。
 だが、もう握り返してくることはない。
「エミリオさん……わ、私、ちゃんと笑えてた……?」
 堪えていた雫がミサの頬を伝う。
 身を震わせながら、涙が零れ落ちるのも気にせずに彼女は無理矢理に笑顔を浮かべる。
「大好きな人の最期なんだもの、『笑顔でいなくちゃ』って、私…わたし…っ」
 彼女が堪えていたものが決壊し、エミリオの胸に顔を伏せる。
「エミリオさんっ、エミリオさん……エミリオ……っ。嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁっっっ」
 彼女の悲痛の叫びは、いつまでも部屋に響くのだった。



 昨夜、アイリス・ケリーは夢を見た。
 アイリスの精霊、ラルク・ラエビガータ。彼は常日頃から和装を好み、着用していた。
 しかし病室に来てからはそうもいかず、やむなく病院服に身を包んでいる。
 見慣れていたラルクの和装姿を、アイリスは夢の中で久々に見ることが出来た。
 だが……その和装束の色は、全身が白い。
 明るさを微塵も感じさせず、覚悟を決めたその姿。
(嫌な夢、です……)
 彼がもう、助からないことは理解している。何者かに殺されるよりかは何十倍もマシだとさえ思う。
 だが……
「ラルクさん」
 病室のドアを開ければ、ベッドに横たわるラルク。手元には彼の愛用の煙管。
 いつもならば煙管の手入れをしている時間だが……今日はその身を起こすことさえも辛そうで。
 その様子に、アイリスは今朝見た夢を思い出す。
「……アイリス」
 彼女の気配に気づいたラルクが顔を向ける。
 アイリスの来訪に身体を起こそうとするも、いつも以上に身体が軋み、自分の身体ではないようだ、と思う。
 そして彼女の視線が彼の手元の煙管に注がれていることに気付いた。
「……今は手入れどころか……寝台に体を預けねぇと起きてられないんだからな」
 カーマインの輝きを放つラルクの瞳は真っ白な天井を睨む。
「ざまぁない」  深く息を吐き、視線をアイリスに向け。
 弱々しい笑みを見せる彼にアイリスは何も言えず。そっと彼の煙管に右手を乗せた。
 そんな彼女の右手にラルクも己の手を重ねる。
(温かいのに……冷たく感じる)
 手袋越しに感じる彼の体温。力の入らぬその手に
「……ラルクさんに触れられていることを初めて意識するのが、今だなんて……皮肉ですね」
 俯くアイリスに、ラルクはニヤりと口の端を上げる。
「アンタは初めてかもしれんが……俺は一応、あるぞ」
 2人で過ごした日々を懐かしむように、ラルクは新緑で溢れる窓の外を見る。
「まぁ……そん時は手を貸したりするのが当たり前になってることに気付いた、ってだけだが」
 そう言うと、彼はアイリスの右手の甲を包む手袋をゆっくりと引き抜いていく。
 アイリスのエメラルドグリーンの瞳が驚きに見開くが、それを拒むことをしない。
 露わになる、彼女の傷。
「……どうして、ですか……?」
「アンタが傷を隠している理由は知らんが……この手袋が枷になってることは知ってる」
 アイリスの問いかけに、視線は合わせず答えるラルク。
「だから、コイツは俺が貰っていく」
 精一杯の茶目っ気と笑みを見せるラルク。その笑顔に応えるように、アイリスは笑顔を浮かべようとするが……
(だめ……涙が……止まらな……い……)
 彼女の頬に涙が伝う。止めようとしても、幾筋も幾筋も彼女の頬を濡らしていく。
 そんな彼女の表情にも、ラルクは柔らかな笑みを浮かべ見つめる。
「本当は……アンタの心の準備が出来てから、と……考えていたんだが、な……。悪い、もう、時間が……ない」
 ぜぇぜぇと息継ぎをしながら、ラルクは声を振り絞り……彼女の手袋を力強く掴む。
(この人の時間はもうないのに……私は何もしてあげられないのに、この人は最期まで……)
 己のことよりも、アイリスの枷を外すことを優先する彼の姿。
 もっと自分に何かできなかったのか。後悔が彼女の胸を占めていく。
 姉の時のように、またこんな無力感を感じなければならないのか。
 そんな彼女を察するように、ラルクは笑った。
「アンタと居るの……悪くなかっ、た……」
 そう言い……彼の瞼は閉じられていった。どこまでも、どこまでも穏やかな笑みを浮かべたままに。
「ラルクさん……」
 傷跡のことなど気にもせず、アイリスは素手で彼の手をギュッと掴む。初めて触れ合う、布越しではない手と手。
 しかし、その手は握り返すこともなく……力なく揺れた。
「ラ……ルク……さ……ん……」
 わかっていたことだ。いつかこんな時間が訪れることを。
 しかしその気持ちとは裏腹に、重ねられた2人の手の上に雫が落ちる。
 彼女の雫が、彼が愛用していた煙管へと落ちる。それは柄を伝って、ラルクが掴む手袋へと滴った。 
 そっと、アイリスは煙管を手に取る。
「……私の一部を持っていくんですから……これくらい、いただいてもいいでしょう……?」
 両手でその煙管を大事そうに包む。
 手入れはされていても、いつも吸っていた彼の煙草の香りと……彼自身の香りが漂う。
 せめてもの彼の光を、自分の傍らへ。
 彼の香りと共に蘇る思い出。彼の笑み。
 アイリスは膝から崩れ落ちた。流れる涙は彼女の持つ煙管、そして彼女の傷跡に滴っていった。



 病室のベッドに横たわり、視界に入るのは空。雲一つないその空は澄み渡り見る者を穏やかな気持ちにさせる。
「ガーティー。……俺、今……すげー幸せ」
 外の景色を見て、おもむろに言葉を派するレオン・フラガラッハ。
 景色から視線を外さぬまま、側にいるガートルード・フレイムへと声をかければ、レオンの愛しき神人は彼へと近寄った。
 別れの時が刻一刻と近づいているというのに……なぜ彼はそんな風に言えるのだろう。
 今にも涙が溢れ落ちてきそうなダークレッド色の瞳が悲しみに歪む。
「レオン?」
 ガートルードの呼びかけに、レオンはそのアイスブルーの瞳を一度閉じた。一瞬の間の後、意を決したようにゆっくりと開き。
「でもな。……一つだけ心残りなのは、お前に次の契約相手が現れなかったことだ」
 真剣な表情で、彼は言う。
「レオン……お前、何言ってるんだよ。お前以外に精霊なんていらないよ」
 悲しげに俯き、歯を食いしばり。 
 ガートルードはそのダークレッドの瞳を伏せる。そんな彼女の様子に臆することなく、レオンは言葉を続けた。
「いいか、葬式が済んだら今度は俺よりマシな奴と契約するんだぜ。そんで、そいつの子供を産んで……あったかい家庭を築くんだぞ」
 本当ならば、自分が叶えたかったその夢。
 きっとガートルードならばいい男を見つけられるだろう、と確信が持てる。
 そして、きっとそんな幸せな家庭を築くガートルードを心から祝福できるだろう。
「だから……」
 そう言うレオンに、ガートルードが抱き付いた。彼女の黒髪が揺れる。
「……馬鹿いうな」
 震える彼女の唇。
「約束したじゃないか。ずっと護るって。どこにも……行かないって……」
「いるよ」
 彼女の呟きに、レオンは間髪入れず答えた。その言葉に、ガートルードは顔を上げる。
 そしてもう一度、彼女の瞳を見。そして彼女の胸元に軽く手を添えた。
「いるよ、ここに」
 ガートルードは己の胸元に在る彼の手に自分の手を重ねた。
「一生いるよ。ここで護るよ。……だから、怖いことなんてなんにもない」
 そう言い、笑うレオンの表情は優しく、暖かく、美しい。
 彼の笑顔と彼の想いと、彼への愛が溢れ、ガートルードは涙を流す。
 そんな彼女の黒髪をレオンは撫でながら、最期のその時を彼女と共に過ごせる歓びを噛みしめていた。
「……愛してるよ、レオン。……愛、してる…よ……」
 彼の身体にすがり、涙を見せるガートルード。
「俺もだよ。ずっと……ずっと、護り続けるよ。大好きな、ガーティ……」
 レオンのアイスブルーの瞳がガートルードに笑みを見せる。
 そのまま眠りにつくように、彼の灯火は消えた。
「レオン……愛して……るっ……」
 もう目覚めないとわかりながら。彼の魂を己の胸に宿すように、涙を流れるままにしながらガートルードは愛しい彼に口付けた。 



 切なげに睫毛を伏せ、クロスは大きくため息をついた。
(日に日にオルクの病状が悪化していく様を見るのは……やっぱ辛い、なぁ)
 我慢しようとしても、目には涙が溢れてくる。
 出会った頃、想いが通じた時、思い返せば返すほど、愛するオルクスとの思い出が蘇る。
 病院に入った当初は元気な笑顔を見せていた彼だったが、最近の笑顔は儚さを感じる。
 そんな彼を見るたびに、彼女の胸に痛いほどの悲しみが突き刺さった。
 ハンカチで目尻を押さえ
「……よし、戻るか」
 クロスは鏡の前でニッコリと笑ってみせた。

 病室で一人咳き込むオルクス。
 クロスの前では心配をかけまい、と弱い姿を隠してきたが……
「……ははっ……そろそろ、か……」
 己の全身の機能が麻痺して行く感覚に、むしろ笑みが零れた。
 その瞬間、カチャリとドアが開いた。視線を向ければ、そこにはいつものクロスの笑顔。
「……御免な、オルク。直ぐに戻れなくて」
「いや、平気だ。気にすんな」
 目じりを下げ、口角を上げ。オルクスは笑って見せる。
 彼女の目の赤さに視線をやれば、彼の視線に慌てるように
「なんかさ。目が痛くて洗ってたから」
 クロスは呟いた。そして心配を掛けぬようにと更に笑みを深めようとする。
「でももう大丈夫だか……」
「……クー。泣いてたろ」
 クロスが言い終わる前にオルクスが微笑む。
「えっ!?なっ、泣いてなんか……」
「嘘言うな、オレには分かる。どれだけ一緒にいたと思ってるんだ」
 今すぐに彼女を強く強く抱きしめてあげたい。安心させてあげたい。
 だが、身体は言うことを聞いてくれない。
「……はは、やっぱオルクに嘘は通じないや」
 俯く彼女。
 傍にいるのに、こんなにも近くに居るのに、己の手は愛しき人を抱きしめ、暖めることもできない。
 そう思うオルクスは思わず呟いた。
「……御免……な?」
 たくさんの想いと、たくさんの約束。全てひっくるめて、彼女に告げる。
「謝んなよ、オルクは悪くねぇ。誰も、悪くなんか、ないんだ……」
 己の瞳が熱くなるのを感じるクロス。
 彼女にそっと手を伸ばそうとするも……オルクスのその手は、彼女に届かない。
「……オレにはもう、キミの涙を拭う力さえ無い……」
 俯きながら、オルクスの言葉に耳を傾ける彼女。
 行き場のない思いに、彼女の両の握り拳は力が込められフルフルと震えている。
「……自分の身体は自分がよく知ってるさ。……オレは……もうじき、死ぬ」
 その言葉に、クロスは歯を食いしばる。
 聞きたくもない言葉。
「多分、コレが……オレの最期、だろう……」
 淡々と告げるオルクスに
(嫌っ……最期なんて……言わないでよっっ)
 心の中では、小さなクロスが子供の如く泣き叫んでいる。それを彼女は必死に押し込める。
「キミを初めて見た時から……運命だと感じた。クーや、仲間に出逢えたオレは幸せもんだな」
 微かに笑むオルクスに、クロスは震える声で精一杯に応える。
「俺も……出会えて……良かっ、た……」
 懸命に笑顔を作る彼女だが、その表情は今にも崩れ落ちそうな脆さを感じさせる。
 そんな彼女の雰囲気を認めつつ、オルクスは出来るだけ冷静に彼女に告げた。
「クー。オレの分まで生きろ。そして、オレを忘れて他の奴と幸せになるんだ……」
 その言葉にクロスは真剣な表情へと変わり。
「クーが幸せになるなら、オレはそれで良い……だから……」
「バカっっ!!」 
 愛しき彼女の身体がオルクスに被さった。強く、強く抱きしめる。
「そんなこと言うな……俺がっ、俺が幸せになれんのは、オルクだけだっっ!」
 彼女の頬を伝う涙は、彼の頬に温もりを与えた。
「クー……」
「忘れることなんてできるかっ!オルクの代わりなんいるもんかっ!オルク……オルクっ……愛してるよずっと……」
 回された腕の力と熱。彼女の言葉と、彼女の香り。……心から、愛した人。
 否、過去形ではない。
「……クー、オレの愛しい人……っ。オレも……愛してるぜ、ずっと……ずっと……」
 覚悟を決めた彼は、今まで涙することはなかった。
 だが、己の瞼が熱くなるのがわかる。
「オルク。……もし。来世や輪廻転生があるなら……次こそは、幸せになろ」
 クロスの呟きに、オルクスは頷く。
「あぁ……」
「約束、だ……」
 クロスの頬に涙が幾筋も伝っている。それでも、彼女は微笑んだ。
 そんな彼女に、オルクスも笑みを向ける。
「勿論だ、クー。次こそは幸せに……する。最後に、クーの…笑顔が見れて……良かっ……た……」
 クロスがオルクスの手をギュッと握る。
「ばぁか、此方こそだよ……」
 そう言い、クロスはオルクスの唇へキスを落とす。
「クー……好き、だ……。クー、愛してる……クー……」
 その言葉にクロスは涙を流しつつも笑む。彼の頬を両手で包み、彼の言葉に応えるように何度も柔らかなキスを贈った。
「クー、あ、りが……と……」
 オルクスは微笑み、瞼を閉じた。
 瞬間、彼の頬を伝う一筋の涙。
 繋いでいた手から、力がなくなるのを感じる。
「……おやすみ、オルク……」
 目覚めぬ彼。唇に、長く長くキスをする。
 唇を離せば、起きてくれるのでは……そう思うも、彼の瞳は穏やかに閉じられたまま。
「……オルク。……オルクっっっ……!!」
 彼の身体を強く抱きしめたまま、クロスはいつまでも泣きじゃくった。



 気がつけば、柔らかな芝生の上で寝転んでいた。
「おはよう、ミサ」
 エミリオの声がかかり、慌てて起き上がれば。先程の悲しみは夢であったことに安堵する。
 しかし、隣で微笑む彼は悲しい笑顔に見えて。
 不安そうに眉を寄せ、愛しい精霊の名を呼んだ。
「エミリオ……さん?」
 ミサを落ち着かせるように、彼はそっとミサの柔らかな髪を撫でた。
「大丈夫、俺は『あんな終わり方にはならない』から……」
(それは……『自分は先に死なない』って意味だよね……)
 ミサの心に不安がよぎる。
 彼女の視線から外れるように、彼は周りの風景に目をやった。
 天上に浮かぶ島は穏やかで、まるで天国のよう。
(この夢は……かつて自分がそうであってほしい、と思った願望だ)
 安らかで穏やかで……愛しの人に看取られる、夢。
(ミサの両親を殺した罪人には、あんな優しくて穏やかな終わり方は許されないだろう)
 悲しみを湛えた表情を浮かべる彼に、ミサの心は不安で覆われるのだった。



 温かな日差しを感じ、アイリスは瞳を開いた。
 手の中だと思っていた煙管が見当たらない。
 寝転んだまま太陽に手をかざせば、いつもの手袋と
「あ、起きたか」
 ラルクの、笑み。
 半身を起こし、見渡せば。ここは天国じゃないようだ。
「やっぱ、まだこれアンタに渡せない」
 煙管を見せるラルクに、アイリスはすっと右手を差し出した。
「ラルク。私の覚悟が定まったら……この枷を、外してくださいね」
 突然の申し出にラルクはやや驚きを見せるも、彼女の手を恭しく取った。
 そして自然な仕草で彼女の手の甲に手袋の上から口づけた。
 まるでウィンクルムの契約を思い出させるようで。
「仰せのままに、女王様」
 仰々しい彼の口調と、彼女を見つめる瞳。
(わざとらしい……)
 そう思うも、なぜか幸せな気持ちに胸が満たされるアイリスだった。 



 夢から目覚めても、その喪失感に勝てない。
 目を覚ましても、涙が止まらずないガートルードの背を優しく撫でてやるレオン。だが。
「今のは幻想だったが……俺は仕事柄、万一って事もある」
 その言葉に返答はせず、彼女はレオンをギュッと抱きしめた。
「……幻想の中で言ったことは、俺の本心だ。二人目が現れたら、俺に構わず契約しろ」
 夢の中と変わらぬスタンス。
「そいつの方がまともなら、そいつと一緒にな……」
「馬鹿っ!」
 言い終わるよりも早く、彼女の言葉と本気の平手打ちが彼を捉えた。
「どれだけ……どれだけ、私の事をなめてるんだ」
 涙の痕を残しながら力強い表情を見せる彼女に、レオンは押し黙る。
「私は……あの時、ギルティに襲われた時に、一度死んだと思っている」
 彼女の赤い右目は、それを十分に物語っている。
「私の魂をこの世に甦らせたのはお前だ」
 だから、と続く彼女の言葉。
「……無責任な事を二度と言うな。私とお前は一蓮托生だ。私の精霊は、おまえだけ。命を預けるのもお前だけだ」
 レオンの瞳を見据え、ガートルードは心の内を彼へ告げた。
「お前がまともじゃないなら、一緒に地獄へもどこでも堕ちるさ。独りで逝くなんて……絶対に、許さないから」
 そう言うと彼女は熱いキスをレオンへと落とした。
 激しい想いに触れ、口づけに応じる。その表情は苦笑交じりで。
(……気持ちは嬉しいが……彼女に幸せになって欲しい)
 命を失っていようとも、そうでなくても。ずっと自分は彼女の胸の中で護っているんだから。
 唇を離した彼女に表情を見られぬよう、レオンは彼女を抱きしめるのだった。
「ありがと……ガーティー」



 草原で風を受ける。
 クロスの頭が、オルクスの肩へともたれかかる。
 辛く、悲しい夢。
 その夢を乗り越え、オルクスは改めて愛しい彼女を見た。
「あんな思い、絶対にさせないから」
 そう呟く彼に、クロスは優しいキスで応えるのだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 上澤そら
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 04月29日
出発日 05月05日 00:00
予定納品日 05月15日

参加者

会議室

  • [9]アイリス・ケリー

    2015/05/04-22:19 

    つい求められている気がしてな…。
    プランはまともだぞ、うん、プランは。
    まあ、こういう状況だからこそ分かることもあるだろう。
    お互い、何かの糧に出来るといいな。

  • [8]アイリス・ケリー

    2015/05/04-22:16 

  • レオン:
    サナトリウムの話から唐突にファンタジーものになったな?!(笑)
    俺的には、こうマフラーを首に巻いて、眼鏡かけて「夏のアナタ」的な展開でな…

    ガートルード:
    レオン、だから雰囲気ぶちこわしてるってば(汗)

    レオン:
    やー俺、シリアスだと照れちゃうんだよ(はっはっは)
    他の精霊の皆は「これが最期」って時にどんなこと言うんだろうな。
    楽しみにしているな。

  • [6]アイリス・ケリー

    2015/05/03-00:02 

    アイリス・ケリーです。
    レオンさんが砂浜に打ち上げられていたところをガートルードさんが発見なさるものの、
    レオンさんの記憶は失われ、取り戻すためには8つの封印の鍵を探さなくてはいけないというドラマが始まると聞いておりましたが。
    …という冗談はさておき。
    最後の時が、ラルクさんの望む形になるよう、出来ることをするまでです。
    それでは、よろしくお願いいたします。

  • [5]クロス

    2015/05/02-23:06 

  • [4]クロス

    2015/05/02-16:23 

    クロス:
    見知った人が多くて、良かったよ…
    今回も宜しくな…(泣き笑い

    夢だとしても、大切な人が死ぬのはもう懲り懲りなんだけどなぁ(苦笑
    それが愛しい人なら、尚更…(俯いて涙を堪える
    でも、最期を看取れて傍にいられるなら…
    うぅっふぇっ(涙がポロポロ
    ごめっ、ちょっと風に当たってくるっ(泣きながら外へ

  • レオン:
    やっほー♪ 皆どうもよろしくな!
    俺らのところもすでにプランは提出済みだぜ!
    やーしかし、俺の病気ってこの場合定番の白血病だよな!?

    ガートルード:
    …いや、精霊にはうつるって…

    レオン:
    じゃ結核だ! 結核! 精霊専用サナトリウム!
    そんで死んだと思われていた俺が次のシーズンで生きていたものの記憶喪失にかかって発見されるんだよな!?

    ガートルード:
    (何の話だ…ていうかなんでこいつこんなにテンション高いの?)

  • [2]ミサ・フルール

    2015/05/02-08:20 

  • [1]ミサ・フルール

    2015/05/02-08:20 

    こんにちは、ミサ・フルールです。
    見知った人達ばかりですね。
    絡みはないですが、今回もどうぞよろしくお願いします(両手でスカートの裾を掴みお辞儀)
    『終わり』は誰にでも必ずくるものであって、いつか覚悟しなくちゃいけないのだろうけど…やっぱり辛いね(悲しげに微笑む)
    死と隣り合わせの仕事をしている以上どうなるか分からないけれど、大好きな人の最期には傍にいれたらと思うよ。


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