【白昼夢】渚のほとりの父子と、そして(京月ささや マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

(疲れた…結構歩いたなあ…)
 復活祭の儀式のため、愛の結晶「ピーサンカ」を探して
 あなたたちは聖地・フィヨルネイジャを歩いています。
 しかし、どこを探しても愛の結晶「ピーサンカ」は見つかる気配がありません。
 見回した目にうつるのは、見たことも無い幻想的な景色ばかり。
 ひたすらに歩き回ってはみたのですが、そろそろ足も疲れてきました。
 と…あなたの耳に微かに何かさきほどまでとは違う音が聞こえてきたのです。
(波の…音…?)
 そう、聞こえてきたのは微かな波の音。
 海を思わせるその音は、でも空に浮かぶ島にしては珍しく感じて、
 あなたたちはそちらの方に足を運ぶ事にしました。

 波音は、熱帯系の木々が茂っている場所の奥から聞こえてくるようです。
 木々や草をかきわけて進んでいると、不意に視界がパッと開けました。
 そこにはあったのは…海…に見えたのですが。
(これ…湖…?)
 そう、あなたたちは気づきました。このあたりには、潮の香りがしないのです。 
 足元を見ると、小さな砂利の浅瀬に、海のように波が打ち寄せては返していますが
 ためしにその水を口に含んでみると、塩辛くはありません。
 どうやら、ここは海のように大きな湖のようなのです。

「おや、どうしたんだこんな所まで!」

 綺麗…と目の前の光景に気をとられていたあなたたちは、
 不意に後ろから声をかけられて、驚いて振り向きました。
 そこには南国めいたシャツを着た男性が一人たっています。
 しかし、そこは先ほどまであなたたちが進んできた場所。
 今までは誰もそこにいなかったはずなのに…
 不思議に思う精霊でしたが、同時に、神人の様子がおかしいことにも気づきました。
 精霊の隣にいる神人はなんだか物凄く動揺しているのです。
「ああ、なんだ。この人は誰だ?友達なのか?」
 男性は親しげに神人に向かって話しかけてきますが、
 神人はひどく動揺してしまい、答えることもできないようです。
「まあせっかく別送に来たんだから、そこで話そう。さあ、こっちだ」
 そう言うと、男性は2人が付いてくる前提で勝手に歩きだしてしまいました。
 雰囲気に押し負けて、あなたたちはとりあえず付いていくことにしたのですが…

 あの男性は知り合いなのかと、精霊は神人にそっとたずねました。
 すると、小さな声で神人は驚くべきことを言ったのです。

 あれは、自分の父親だ…と。

 精霊は神人に『聖地・フィヨルネイジャに父親がいたのか』と尋ねましたが
 神人は首を横にふります。どうやらこんな所にいるとは思ってもみなかったようです。

 こんらんしながらも、あなたたちは男性の後をついていくうちに
 彼の別荘だという湖のほとりに建てられた小さな家に到着しました。
 別荘というよりも、まるで『海の家』のような雰囲気のそこは、
 波打ち際に建てられていて、湖の波音が小鳥の声と共に聞こえてきます。
 男性は部屋に入るように促すと、テーブルを挟んであなたたちと向き合いました。
「元気そうだな。まさかこんな所であえるなんて。
 ところで、その人は誰なんだ?知らない人だが…友達なのか?」
 どうやら…彼は、神人にとって精霊がどんな存在なのかを知りたがっている様子。
 しかし、神人は動揺と戸惑いでなかなか返答に困っているようです。
 精霊も、いきなり目の前に神人の父親が現れるとは思っていなかったので
 なかなかどう自己紹介をしていいものか、迷っていました。

 微妙に気まずい沈黙が流れていたのを心苦しく思ったのか、
 男性は、ふと何かに気づいたように手を叩いて立ち上がりました。
「まあなんだ…あんまり緊張してもアレだから、飲み物でも持ってこよう。
 この島で作られている特別な紅茶なんだが、少し時間がかかるから待っていてほしい」
 そう告げると、彼は部屋から出ていき、部屋の中にはあなたたちだけが残されました。
 飲み物ができるまでには、長くても15分もかからないでしょう。
 そして彼が戻ってくれば…神人は精霊の事を話さなければなりません。

 さて、どうしよう…? あなたたちは顔を見合わせました。
 あなたたちには、あの男性のことで共通して確信している事がありました。
 そう、さきほどまで目の前にいたあの男性はきっと…幻だということ。
 けれど、神人はいいます。『でもあれは、間違いなく自分の記憶の中にいる父親だ』と。
 もうすぐ神人の父親の幻が戻ってきます。
 さて、神人の父親に…神人は、精霊の事をどう紹介するのでしょうか。
 精霊は自分の事をどう話すのでしょうか…
 神人の父親の幻に2人が伝えるのは真実?それとも…ウソなのでしょうか…?

解説

■目的
 聖地・フィヨルネイジャの湖で遭遇した神人の父親の幻。
 その『神人の父親の幻』に、精霊を紹介するエピソードになります。
 神人と精霊は、神人が自分にとってどんな存在かをどう説明するか決めて
 神人の父親と様々な対話をすることになります。
 話す言葉に心からの『想い』がこもっていれば、愛の結晶「ピーサンカ」が入手できます。
 
■消費ジェールについて
 特性紅茶の代金として400ジェール頂戴します。

■神人の父親の幻について
 衣服は少し南国のような服(アロハシャツのようなもの)ですが、
 それ以外はまぎれもなく神人の実父の格好です。
 声や外見、喋りかたも神人の記憶そのまま。
 神人が過去に父親と早くに死別していたり父親を知らない場合も
 神人の実際の父親と同じ姿形、性格で目の前に現れます。
 この幻の父親は、神人に父親の記憶がなくても『この人は父だ』と直感させてしまいます。 父親の幻は、精霊の事が気になって仕方ないようでが、
 詳細を知ったところで何か危害を加えたり怒ったりするつもりはないようです。
 純粋に『親心』もしくは『好奇心』で気になっている様子です。
  
■精霊の説明について
 精霊が神人にとってどんな存在かは、幻へは神人が語るも精霊が語るもよし。
 そして説明内容は真実を話すもよし、嘘を話すもよし。
 ウソを話しても父親の幻はきちんとそれを信じてしまいます。
 本当の事を話すかウソを話すかは、彼が飲み物を準備している間に
 2人で相談して決めても、自己判断で決めてもOKです。

■説明後について
 精霊の説明父親に話せば、幻は納得して消えてしまいます。
 父親の幻が消えると、そこには別荘と紅茶だけが残ります。
 特性紅茶は、とても美味しいトロピカル風味。
 父の幻が消えた別荘でお互いの関係について改めて語らうのもアリです。

ゲームマスターより

こんにちは、京月ささやです。

神人と精霊が、神人の肉親『父親』の幻と出会い
お互いの関係を父の幻に説明する試練を与えられる
『お父さんに自分の好きな人をどう紹介しますか?』というエピソードです

プランには、必ず書いてほしい父親の外見の特徴や口調を書いてください。
また、キャラ情報に記載していない神人との特別な因果関係などがあれば
是非記載してください。

このエピソードで、皆様の絆が強まったり
関係の転機が訪れるような素敵な分岐点になるよう祈っております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  お母さんもいたり…しない、ですよね…
それでもお父さんにだけでも会えて本当によかった…

お父さんが相手のはずなのに緊張して
言葉が全然出てこないです…
私の口から伝えなきゃいけないことだと思うから、
私がやります…
でも、一人だと緊張はするので
お話する時はなるべく側に居てくださいね?

グレンはね、とっても大事な人なんです。
お母さんにとってお父さんがそうだったみたいに、
どんな時でも誰よりもそばにいて、
支えてあげたい人…です。

グレン、私こうしてあなたと一緒にいられることが
とても幸せなんです。
いつも側にいてくれてありがとう。
これからも側にいさせてくださいね?

父:
10年以上前に病で他界
20代半ば
天然
容姿口調お任せ



Elly Schwarz(Curt)
  ・父親は自由設定にある過去にて故人
・亡き父が居る事に動揺を隠せない
なんで父さんが…っ
(変わり果てた父の姿も家族も…あの光景は今でも覚えているはずです)
あ、えっと…。あ、ありがとう御座います…。

・クルトの質問に対して答える
…はい。僕は昔「私」でした。
でも…僕はあれから強くなりたくて、形から強くなろうと変えたんです。
それが「僕」の理由ですね。

・父には神人になり彼はそのパートナー、そして大切な人だと言う事を明かす
実は僕…じゃなくて私、神人になったんです。それでクルトさんとウィンクルムになって…。
今は…とても大切な方なんです!

幻…ですよ、ね。
今まで会いに行くのが怖かったんですけど
少し…勇気が出ました。



ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  と…父さんの幻…
幻って事は旅先で死んじゃったんじゃないだろうな(心配)

(父親、精霊を恋人と勘違いし心配
「私と同じ種類の人間に思える
娘よ恋人は顔で選んではいかんぞ」)

た、確かにレオンはいい加減だし
協調性あるようで身勝手だし
仕事は不安定な上危険だし
最近まで堂々と二股かけていたし…
でも、彼は

(父親に、自分が神人で彼が精霊であることを説明する)

父さん、私は彼を信頼している
その、恋人やつれあいとしては色々問題があるが
私がギルティに遭って病院送りになった時
父さんは傍にいてくれなかったけど
彼は傍にいてくれた
その後も私を支え励ましてくれた
だから…

(言い間違いにずっこける)
アホかっ!そもそも私が認めてないわ!



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  父は茶髪に緑の瞳
関係は冷え切っている
口調は~だ、だろうか

幻と分かっていても、あの人が私の周囲に興味を持つなんて
幻だからこそでしょうかと嘲笑
どういう関係か…
ウィンクルムとしてのパートナーですが、何か違う気も

考え込んでいる間に父が戻ってきてしまいました
代わりに答えてくれた精霊を見て、浮かんだ言葉は…『光』
パートナーで、私の足元を照らしてくれる光
それがラルクさんなんです、と言い添える

父が消えても驚かず、紅茶を飲んで「何か?」
…嘘は言ってません、本心です
ラルクさんには信じられないかもしれませんが、クスッと笑い
これからも、私を照らしてくださいね


メイリ・ヴィヴィアーニ(チハヤ・クロニカ)
  父:
パッと見頼りない感じ。一人称「僕」、呼び方は「メイちゃん」。
穏やかなしゃべり方。

心情:
たとえ幻でもお父さんに大切なパートナーを紹介できてうれしい。
それにいい機会だから今の自分の気持ちをチハヤに伝えたい。
一緒にお出かけ楽しみだなぁ。

行動:
自分で説明すると言っておく。
一番最初に「私の恋人なの」とチハヤの腕に抱きつき、
否定されたら「冗談だ」と正直に言う。

自分にとってチハヤは
・出会ったばかりだけどきっとすごくいい人
・もっと仲良くなりたい
・からかうと楽しい
・すごく年上だけど逆に安心して支えてもらえる
・いずれ自分も支えてあげられるようになりたい

二人きりになったらちゃんと「これからもよろしく」という。


●私が僕になったワケ

 EllySchwarzは、目の前にいる人物を見て驚愕の表情を浮かべていた。
 項あたりまであたる短い黒髪に、青瞳…身長はCurtより低いだろうか。
「なんで父さんが…っ」
 そう、その姿は自分の父親そのものだった。
 あの日、オーガに襲われて壊滅した村、そして変わり果てた家族の姿。
 でも、そんな痛々しい記憶の向こう側にも、平和だった頃の父の記憶は残っている。
 その姿が、今、エリーの目の前に立っているのだった。
(エリーの…父親!?)
 クルトはエリーの言葉に驚いて目を見開く。
「エリー、元気そうだね。今日は散歩でもしていたのかい?」
「えっと…、その、僕は…」
 エリーは動揺のあまり上手に答えることはできなかったが、
 そんな様子をクルトは少し緊張しながら見守っていた。
 爽やかそうな笑顔で語りかけてくるエリーの父親を、優しそうだとクルトは思う。
「さあ、どうぞ」
 そして別荘に到着し、居間に通される。
「あ、えっと…。あ、ありがとう御座います…。」
 2人は居間に腰を下ろす。父はテーブルに肘をついてじっとエリーを眺めた。
「随分雰囲気が変わったね」
 そんなエリーを、父は興味津々といったように見つめて問いかけた。
「自分の事を『僕』なんて…昔は「私」だったのに…父さん達が居なくなったからかな」
(ん?元々『僕』じゃなかったのか?)
 父の言葉に、クルトの眉がぴくりと動いた。
 まあ、お茶でも持ってくるよ、と言って父は居間を後にする。そして2人だけが残された。
「なあエリー…昔は自分の呼び方が違ったのか?」
 そっと聴いてくるクルトにエリーは小さく頷いた。
「…はい。僕は昔『私』でした。
 でも…僕はあれから強くなりたくて、形から強くなろうと変えたんです。
 それが、今自分を『僕』と言っている理由ですね」
 そんな思いがあったのか…とクルトは思う。
 エリーに何か言葉をかけようと思ったが、その矢先に父が紅茶を持って戻ってきた。
 紅茶を口にして、エリーは少し覚悟したように小さく息をつく。
「父さん、実は僕…じゃなくて私、神人になったんです。
 それでこのクルトさんという方とウィンクルムになって…。
 彼はパートナーで、今は…とても大切な方なんです!」
 エリーの言葉はとても必死だった。まるで、父に理解してもらいたいとでもいうように。
 その言葉を聞いて父の笑みは益々深くなった。
「エリーにも大切な人が出来たんだね。それで…」
 そして父の視線はクルトに向けられる。
「君もエリーを大切にしてくれてるようで良かった」
 見透かしているようなその瞳に射抜かれて、クルトは照れくささを覚える。
 きっと2人の距離感も…見透かされているだろう。
 そんな自分たちを眺めながら、エリーの父はゆっくりとその場から姿を消したのだった。
「幻…ですよ、ね」
 紅茶と自分たちだけが残され、エリーはポツリと呟く。
 そして、キュッと膝の上で拳を握り締めた。
「今まで会いに行くのが怖かったんですけど…少し…勇気が出ました。」
 その言葉に、クルトも今まで父がいた場所を眺める。
「墓参りか?…そうだな…俺も…エリーの家族に会ってみたいな」
 一緒にエリーの過去と向き合いたい。
 そんなクルトの気持ちが、波音が響く別荘の中でゆらめいた。


●大切な事だから、自分で
  
(まさか、お母さんもいたり…しない、ですよね…)
 別荘に通されて、ニーナ・ルアルディは少し落ち着きなさげに左右を見回している。
「それでもお父さんにだけでも会えて本当によかった…」
 10年以上前に病で他界した父とこんな所で再会できるとは思っていなかったからだ。
 一方のグレン・カーヴェルは少しニーナの様子に不安を覚える。
(それにしても揃って人が良さそうっつーか、騙され易そうっつーか…)
 ニーナの父親は20代半ばぐらいに見えただろうか。
 天然な雰囲気も口調もニーナそっくりだ。流石親子、というべきだろうか。
「…俺の父親とは全然違うな」
「そうなんですか…」
 グレンの言葉にニーナは反応するが、どうも口調が固い。
 父親は、のんびりと今頃キッチンで紅茶を淹れているだろう。
「お父さんが相手のはずなのに…言葉が全然出てこないです…」
 緊張しているのか、とグレンが聞くとニーナはこくりと頷いた。
「もし言い難いなら俺が言うぞ、契約相手だって言うだけだろ?」
 グレンがそっと助け舟を出してみるが、ニーナはふるふると首を横にふる。
「いえ、私の口から伝えなきゃいけないことだと思うから、私がやります…」
 膝の上で握り締めた掌が震えているのは気のせいだろうか。
 でも、とニーナは続ける。
「一人だと緊張はするので、お話する時はなるべく側に居てくださいね?」
 精一杯頑張ろうとしているニーナにグレンは仕方ないなというように笑う。
「…自分でやるって決めたんならいいけどな。ほら、深呼吸でもして心の準備しとけよ」
 やがて、良い香りと共に紅茶を持ったニーナの父が戻ってくる。
「で、話してくれる気にはなったかな?」
 そう言いながら此方を見つめてくる父の瞳の色も髪の毛の色もニーナそっくりだ。
 懐かしい父と向き合いながら、スウッとニーナは一呼吸おくと話しはじめた。
「グレンはね、とっても大事な人なんです。
 お母さんにとってお父さんがそうだったみたいに」
 そうなのか…と、グレンは思う。きっと…仲の良い夫婦だったんだろう。
「グレンは私にとって…どんな時でも誰よりもそばにいて…支えてあげたい人…です。」
 じっと父親の瞳を見て、ニーナは胸の中の思いを口にする。その頬は少し紅い…
 そんなニーナの様子を見て、父親は納得したようにゆっくりと頷いた。
「ニーナ…僕たちは君を置いていってしまった…だから、自分達の分まで幸せになるんだよ」
「はい…」
 涙目で頷く。ニーナに無言で頷き返すと、父はグレンの方を向いた。
「グレン君…自分の替わりにどうか娘を守ってくれないか」
 その言葉に、グレンも覚悟を決めた瞳で頷く。
「…ああ、言われなくたって、こいつのことは俺が守るさ」
 そう口にするグレンの横顔はニーナが今まで見たこともない程の決意と誇りに満ちていた。

 父親の幻が消えた後、紅茶を口にしながら2人は暫く無言で波音を聞いていた。
「…グレン、私こうしてあなたと一緒にいられることが…とても幸せなんです」
 そうか、と頷いてグレンはニーナの方を見る。その瞳は涙に濡れていた…
「お前、さっき親父さんとの話で支えたいだの何だの言ってただろ…
 …アレ、そう思ってんのお前だけじゃねーから」
 それは、気休めでもなんでもない、グレンの本心。
 グレンの言葉に、ニーナは涙ながらに笑う。
 そして、隣にいてあと目を合わせようとしないグレンの腕に寄りかかった。
「グレン…いつも側にいてくれてありがとう」
「あー!くっつくな笑うな、今こっち見んなっ!」
 言いながらも、グレンはニーナを引き剥がそうとはしない。
(ホント泣いたり笑ったり忙しい奴…)
 内心振り回されている気はする…けれど悪い気はしない。
「これからも側にいさせてくださいね?」
 見上げてくるニーナに、やっと落ち着いたグレンはニーナを見て誇り高く笑顔を見せる。
「おう、親父さんにお前のこと頼まれちまったからな、覚悟しとけよ?」
 静かな波音の中で、2人の絆はそっと強まっていくのだった。 


●暗闇を照らすあなた

「あの人が私の周囲に興味を持つなんて…幻だからこそでしょうか」
 通された別荘の居間で、紅茶が運ばれてくるのを待ちながら
 アイリス・ケリーは嘲笑気味に口にした。
 父との関係は冷え切っていた。だからこそ幻だと判っていても少し動揺する。
 一方のラルク・ラエビガータは予想外の出来事に頭をがしがしと掻いている。
 まさか、アイリスの父親が現れるなんて思ってもみなかった。
 しかし…ふとアイリスの方を見てみれば、彼女は不思議な顔をしていた。
 少しの動揺と自嘲の混じった表情…というのははじめて見る。
 そこで、ふと考える。
 さきほどまで父親と名乗る茶髪に緑の瞳の男性とアイリスが交わしていた会話。
 その雰囲気は、まるで親子というよりは他人と話しているような印象を受けた。
 あの人・この人と彼の事を呼んだ挙句、この自嘲的な笑みだ。
 おそらく、父子の関係はいいものではないのだろう…と考える。
「で…どんな関係だって言うつもりなんだ」
 と、ラルクに問いかけられてアイリスは少し困ったように眉根を寄せた。
「どういう関係か…」
 そう、説明しなければいけないのは自分とラルクの関係。
 ウィンクルムとしてのパートナーなのは確かだ。
 しかし、その言葉だけで片付けるのは何かが違う気がする…
 そう考えているうちに、扉が開く音がして父が居間に戻ってきた。
「で?君たちはどういう関係だ?」
 淡々と父に問いかけられ、アイリスは答えにつまる。
 まだ少し、関係についてどう言うべきか悩んでいるようだった。
(アイリス…悩んでいるようだが、別に難しいもんじゃないだろうに)
 そう、簡単に説明してしまえればこの場は切り抜けられるのだ。
 けれど、あのアイリスがここまでうまくやれないのも
 もしかすればこの親子関係が理由なのかもしれないとラルクは薄ら考えた。
「俺は、アイリスさんのウィンクルムとしてのパートナー、です」
 アイリスの代わりにラルクが先に口火を切った。
 そんなラルクをアイリスはそっと横目で見る。
 自分がどう答えるべきか迷っていた中、
 助けてくれた彼を見て浮かんだ言葉は『光』だった。
「そうか、パートナーか、成る程」
 と、父親が納得して頷きかけたのをみて、そっとアイリスは付け加える。
「そう。パートナーで、私の足元を照らしてくれる光…それがラルクさんなんです」
 アイリスのその言葉にラルクは驚いてアイリスの方を見た。
 これまでアイリスがそんな言葉を口にしたことがあっただろうか…
 気恥ずかしさよりも驚きの方が強い。
 慌てて父親の方を振り返ってみると、父の幻は消滅したあとだった。
 アイリスはというと、幻が消えても驚かず紅茶を飲んでいる。
「何か?」
 未だ驚きを隠せないラルクを見て、アイリスはさらりと言った。
「父に言った言葉…嘘は言ってません、本心です」
「…嘘だとは思わねぇよ…嫌だという訳でもないが、驚いただけだ」
 そう、アイリスはこういったことでウソはつかないというのはよく知っている。
「俺が…思ってたよりも俺の役割がアンタにとって重要そうなんでな」
「ええ、ラルクさんには信じられないかもしれませんが」
 照れくささや驚きも入り混じって、ラルクは少し紅くなった頬を掻いた。
 そんなラルクにクスッとアイリスは笑ってみせる。
「…これからも、私を照らしてくださいね」
 そう、ラルクはこれからも光となるだろう。この世で唯一、アイリスにとっての。
 渚の光を受けてきらりと紅茶に光ったのは、ラルクの放つ光、かもしれない。


●年の差なんて、気にならないほど

 メイリ・ヴィヴィアーニとチハヤ・クロニカの目の前に現れた男性は
 メイの事を「メイちゃん」と呼んだ。
「僕はメイちゃんの父だよ、どうぞよろしく」
 ちーは手を差し出されて慌てて握り返す。
 メイの父親だというこの彼は、どこかパッと見頼りない感じだが
 穏やかな喋りかたに落ち着きを感じた。
 そのまま少し動揺している2人を居間に残して、メイの父は紅茶を淹れに席を立った。
(お父さんに大切なパートナーを紹介できてうれしい…たとえ幻でも)
 メイはそう考えていた。
 自分の大好きなパートナーを紹介する子tができるのだ。
 それに…これはチャンスかもしれない。
 いい機会だから、居間の自分の気持ちを父親に話しつつ、
 チハヤにも伝える事ができるからだ。
「ちーくん、お父さんには私から話すから」
「ああ、わかった…」
 メイの言葉にちーも頷く。
 そうしているうち、紅茶を持ってメイの父が居間に戻ってきた。
 紅茶が目の前のカップに注がれ、
「で、この人はメイちゃんにとってどんな人?」と本題が切り出される。
 その言葉に、メイはちーの腕にガシッと抱きつく。
「私の恋人なの!」
「いや…それは、違います…違うから」
 大人しく聴いておこうと思っていたちーだったが、流石にそれはツッ込む。
 実の父親にまさかの誤解を与えてしまっては大変だ。
「ウソウソ、冗談です」
 否定されたメイはくすくす笑いながら、父親に事情を説明しはじめた。
「ちーくんは、出会ったばかりだけどきっとすごくいい人だと思ってます…」
「良い人、なんだけどな…?」
「そう、いい人です。もっと仲良くなりたいと思ってるし、
 それにからかうとすごく楽しくて…」
「人で遊ぶのはやめてくれないか…」
 静かに聴いていたちーだが、からかうと楽しいという言葉には
 さすがに父親からは見えないテーブルの下で
 そっとメイを突っついてツッコミを入れるのは忘れないちーである。
「すっごく年上ですど、不安はなくって、安心して支えてもらっているし
 いずれ自分も…支えてあげられるようになりたいな、って」
「そうか…メイちゃんがこの人といて幸せそうで、何よりだよ…」
 最後の言葉に父親は安心したように頷くと、陽炎のようにその姿は消えていった。

「これ飲んだら…ちょっと…外でも歩くか?」
 父親がいた余韻を楽しみながら紅茶を飲んだ後、ちーはメイにそうきりだした。
(一緒にお出かけ楽しみだなぁ)
 そう思いつつ、メイは紅茶をゆっくりと飲み干す。
 そして、別荘の周囲を2人は歩き出した。
 静かな渚の波音が、風にそよいで響いている。
 風に吹かれて髪をなびかせているちーの姿は、いつもよりどこか…凛々しい。
「ちーくん…これからも、よろしく」
 2人しかいない渚で、そっとまっすぐな瞳d見つめてくるメイの瞳。
 それは、父親に話した言葉がウソではないという事を物語っていた。
 ちーは笑うと、そんなメイの頭をそっと撫でたのだった。



●たとえそれが、幻であっても

「と…父さんの幻…」
 ガートルード・フレイムは父の幻を前に動揺を隠せなかった。
 まるで某アニメにでてくる緑色の帽子をかぶったあのキャラのような風貌。
 それががーディの父だ。
(幻って事は旅先で死んじゃったんじゃないだろうな…)
 ガーディはかなり不安になる。
 なぜなら、ガーディの一族は家族・親族でまとまって旅をしているからだ。
 数年に一度、一族の元に帰ってきてすぐまた去る事はあるのだが。
 一方のレオン・フラガラッハといえば、
 ガーディと同じ居間にいながら物凄い緊張感に苛まれていた。
(なんだ…この突然緊張するシチュエーションはっ…)
 そう、桃源郷のようなこの島でガーディの実父と対面なんて
 思っても見ない出来事過ぎて緊張でじっとり汗が滲んでくる始末である。
 そんな様子を見て、紅茶を運んできたガーディの父親は眉根を寄せた。
「ガーディ、私と同じ種類の人間に思える娘よ。恋人は顔で選んではいかんぞ」
 どうやらレオンを恋人と勘違いして心配しているようなのだった。
「た、確かにレオンはいい加減だし、協調性あるようで身勝手だし…!」
 必死に父に説明するガーディだが、自分たちが恋人同士だという事を否定するのを
 すっかり忘れている事に本人も気付いていないようだ。
「仕事は不安定な上危険だし、最近まで堂々と二股かけていたし…」
 今のままではレオンにとってかなり悪い印象になる言葉が並んでいるのだが
 当ののレオン本人はというと
(よかった…「最近まで二股」以外はバレてなかったんだ)
 と、逆にホッとしているという有様である。
 内心レオンが胸をなでおろしていると、でも、彼は…とガーディの声が続いた。
「パートナーなんだ。彼が精霊で、私が神人…ウィンクルムとしてのパートナー。
 父さん、私は彼を信頼している」
 そう、ハッキリと言ったのだ、ガーディはレオンを信頼している、と。
「その、恋人やつれあいとしては色々問題があるが…」
 そう言ったあと、ガーディは少し俯く。
「私がギルティに遭って病院送りになった時、父さんは傍にいてくれなかったけど
 彼は傍にいてくれた…その後も私を支え励ましてくれた…だから…」
 そこまで言ってガーディは言葉につまる。
 言いながら色んな記憶が思い出されたのだろう、その手は膝の上で少し強く握られている。
「ええと、お父さん」
 ひとつ咳払いをして、かわりにレオンが口を開く。
「色々お嬢さんに酷い事言われていますが…
 確かに、俺は真っ当な人間であると胸は張れません。
 でも、お嬢さんを護れるだけの剣の腕はあります」
 レオンは、父親のまっすぐな視線に動じることなく、まっすぐに目を見て告げる。
「それに俺がどこかに旅に出るなら…必ず彼女も連れて行きます。
 ですから、そのっ」
 レオンは深呼吸する。ここまでは上手に言えた。
 だから、ココからはきちんと言わなければいけない。
 緊張感に心臓がバクバク言うのを収めようと、大きく深呼吸する。
 そしてレオンは一際大きな声で宣言した。

「お父さんとの交際を認めて下さい!」

 その言葉に、盛大に隣でガーディがずっこけるのがわかった。
「アホかっ!そんな交際、そもそも私が認めてないわ!」
「いやその、これは、緊張したから…!!」
 思い切りガーディに突っ込まれているレオンに
 父親の幻はおかしそうに笑った。
「ああ、いいだろう…君は私と同じ種類みたいだからね…安心したよ」
「父さん………」
 ガーディの動きが止まる。幻とはいえ、2人の関係を父が認めた…
 呆然とする2人を残し、静かな渚の波音と共に、
 父の幻はそっとその場からゆらめいて消えたのだった。
 フルーティな紅茶の香りだけが、別荘に残された2人を祝福するように囲んでいた…



END



依頼結果:大成功
MVP
名前:Elly Schwarz
呼び名:エリー、良い子ちゃん
  名前:Curt
呼び名:クルトさん

 

名前:アイリス・ケリー
呼び名:アイリス、アンタ
  名前:ラルク・ラエビガータ
呼び名:ラルクさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月25日
出発日 05月01日 00:00
予定納品日 05月11日

参加者

会議室

  • [7]ニーナ・ルアルディ

    2015/04/30-23:08 

  • メイリさん、よかった、仲間がいて。
    アイリスさんのところはドシリアスなのではなかろうか…と思うが…(汗)
    GM様があまりジャンルわけに厳しくない方であることを祈るよ(汗)

  • メイリっていうの。すごく遅くなっちゃったけどみなさん初めまして。
    えっと、よろしくお願いしますです!

    シリアス…多分私の所も無理だと思う…。
    シリアスって入ってから気付いたの。

  • [4]アイリス・ケリー

    2015/04/28-18:49 

    アイリス・ケリーと申します。
    メイリさんは初めまして。他の方々は見知った方ばかりですね。
    どうぞよろしくお願い致します。

    ガートルードさん、ご安心ください。
    ここに息をしていることそのものがコメディとなっているラルクさんがいます。
    どうぞお気になさらず。

  • …入ってみてから、ジャンルが「シリアス」だと気がついた(汗)
    (周囲をキョロキョロ)みんな、シリアスな内容なんだろうな…。

    …いきなり済まない、ガートルードと、ロイヤルナイトのレオンだ。
    ええと、一人だけ「コメディ」になっているかもしれない…
    雰囲気ぶち壊していたら本当申し訳ない(汗)

  • [2]ニーナ・ルアルディ

    2015/04/28-00:45 


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