プロローグ
●ホテル「サンクトキャンサー」
ピーサンカを求め聖地フィヨルネイジャに訪れたウィンクルムたちであったが、清浄なる地を行けども行けども、その手がかりすら見つけられなかった。
そろそろ体力も尽きてきた……そう感じた時、濃い霧が発生した。
霧はあっと言う間に消滅し……目の前に、先ほどまでは無かったはずの豪奢な建物が現れた。
「ようこそ、ホテル『サンクトキャンサー』へ」
建物に入ると、恭しくお辞儀をする年配のディアボロの姿。地味ながらも仕立ての良い上品なスーツに身を包んでいる。
「皆様お疲れの様子です、当ホテルで休んでいかれてはいかがですか?」
一刻も早くピーサンカを見つけ出したい。
しかし、この疲労しきった体で歩き回るのも限界だ。
ウィンクルムたちは、ここは一旦、休息をとることにした。
●sideA
肌触りの良いシーツが敷かれた心地よいベッドに身を委ね、彼は眠りについた……はずだった。
目覚めればそこは、自分の部屋。
おや、おかしいな。
フィヨルネイジャへピーサンカを探しに行っていたはずなのだが。
夢だったのか。
ふと、シーツに目を落とすと、そこには1体の人形。
なんだ、これは。
ひょいと抱え上げて良く見れば、それは自分のパートナーに良く似ていた。
しかし大きさは、パートナーの4分の1程度であろうか。
彼は、パートナーの顔を思い出し微笑した。
どうやら今日は何の予定もない休日のようだし、これから「こいつ」とどう過ごそうか。
●sideB
目覚めれば、自分の体が動かない。
どこだ、ここは。
視線を動かすこともできないが、視界に入る風景からして、泊まったはずのホテルではないことは確かだ。
次に視界に入ってきたのは、自分を見下ろすパートナーの姿。
声をかけようとしたが、それもかなわない。
そのまま、パートナーにひょいと抱え上げられる。
「この人形、よく似てるなぁ……」
自分をみつめ、呟くパートナー。
人形?今、なんて言った?
混乱するが、だいたい状況は飲み込めてきた。
自分は今、人形になってしまっているのだ……!
解説
神人、精霊のどちらかが人形になってしまいます。
さあ、4分の1スケールのパートナー人形を、どう扱いますか?
いろいろ語りかける?ナデナデしまくる?抱きかかえて街(自分の住んでいる街になります)に出かける?
どうぞご自由に。相手は人形ですから!
ちなみに人形になった方は、体を動かすことも喋る事もできませんが、意識はあります。
一定時間が過ぎれば、元の姿に戻ることができるようです。
また、このエピソードでは、ホテル「サンクトキャンサー」の宿泊費として【一組500Jr】をいただきます。
ゲームマスターより
こんにちは!
大好きなあの人そっくりなお人形ですって!
あんなことやこんなこともできちゃいますよ!
だって人形だもん!
過激なプランには規制をかけさせていただきます。その場合、脳内補完でお楽しみください←?
リザルトノベル
◆アクション・プラン
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
体が動かないだと。 ……これは夢だな! 夢なら人形になっちゃうってのもアリか。 (と自分で勝手に納得) 人形のフリしてラキアの私生活に密着も面白そうじゃん。普段見れない姿が見れそうで。 …って、そんなにオレ(人形)ばっかりじーっと見つめててもつまんねーぞ? 肩震わせて笑いを堪えているってどーいう事だ。 庭の手入れか。 ラキアは本当に花達が好きだもんな。 庭先がいつも花で満開だ。 花を見る姿が凄く幸せそう。 花達にそんな笑顔を見せているのはちょっと悔しいぜ。 花の蜜を目当てに蝶や蜂や小鳥も……意外と賑やかだったんだ。猫も遊びに来ている。 花ばかりに目が行ってて他の生き物がそんなに居るなんて知らなかった。何か幸せなひと時。 |
アイオライト・セプテンバー(白露)
おはよー…パパいないの?お買い物かな? あ、パパのお人形さんがある…? いいこと思い付いたっ お人形さんをバスケットに入れて…ちょっと窮屈だけど、いいとこ連れてったげるから我慢してね…いってきまーす! じゃーん公園に着きましたっ あのねー、花壇のチューリップがすごく綺麗に咲いてるの 今度パパに教えてあげようと思うんだけど、パパのお人形さんかわいいから、先に教えてあげるね でも、本物のパパの方が可愛いけどー(お人形ぎゅっ あたしも可愛いよね?ねー?(お人形ぎゅぎゅっ ただいまー パパまだ帰ってないの? えーん、パパがいないと寂しいよー このままパパがいなくなっちゃったらどうしよう(お人形ぎゅーっ ぐすん…ねむねむ…Zzz |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
フィンに良く似た人形 どうしてこんなものがあるのか不思議だけど、何となく放っておく事は出来なくて …一緒に来るか? 抱え上げて…このままだと目立つな ちょっと窮屈だけど我慢してくれ 大きめの鞄に詰めて外へ やって来たのは練習スタジオ いつもここでバンドの練習をしている 無性に歌いたくなったんだ 鞄から人形を出して椅子に座らせ 俺はギターを抱えて座って 今日は俺一人なんだ。ちょっと付き合ってくれ 人形の頭を撫でたら歌い始める そう言えば、フィンの前でちゃんと歌った事は無かった気がする…子守唄ならあるけど 聞いてくれて、有難うな 人形を抱き上げてその額にキス 瞬間フィンが元に戻って大パニック な、ななな…何で き、記憶を失えー!! |
明智珠樹(千亞)
☆千亞とルームシェア中 ★千亞人形 おや、千亞さんそっくりの人形ですね。可愛いです、ふふ…! 「千亞さん、見てください。可愛い人形が…おや、いませんね。学校でしょうか」 人形の頬をプニプニ&赤ちゃん抱っこし 「パパですよー。こら、パパは母乳出ないですよ。千亞太郎君てば…大胆☆」 1人遊ぶド変態。 そして千亞人形を常に見える位置に置き、いつもの家事を。 掃除洗濯ご飯の支度 家事を終え、千亞との交換日記を書く 『千亞パパはお仕事遅くなりそう… 今日の晩御飯は我が息子、千亞太郎のリクエストでハンバーグ☆』 主婦的妄想日記 自室のベッドでゴロゴロ、人形と戯れ 「早く千亞さんと三人でおままごとしたいですね、ふふ」 ウトウトし眠り |
川内 國孝(四季 雅近)
・四季似の人形を見つけ、普段あまり出さない好奇心で近寄る ・とりあえず観察してみる な、なんでこんな人形が…。そう言えばアイツ…何処行ったんだ? 見れば見る程アイツだ…この尾羽、どうなっている?本物か?(震えつつモフッと触ってみる ・またもネガティブ発揮 やはり精霊は逃げ出したんだろうか。…落ちこぼれの俺では力不足と。 確かに俺は神人と言えどただの人間。仕方ない事なのかもしれない。 あの笑みを信じようと…思ってみたのだが…。 ・元の姿へ なっ…な、なななな!? さ、さっきの…っ!?うわぁあ繰り返すなぁっ!! …そう…か。 っ!お、落ちこぼれ相手によくそんな…アンタ、本当に物好きだ!! (だが、救われている自分も居る…) |
●逃げるなんて、もってのほか
(むぅ、動けんなぁ……。もしや、敵の術か……!)
ホテルで休んでいたはずが、気付けばボロボロのアパート。
四季 雅近は焦るも、その身体は微動だにしない。
そこへ、怯えたような表情の川内 國孝が視界に入る。
(お!國孝!おーい!)
雅近はパートナーの姿を見つけて安心し、声をあげようとするがそれも叶わない。
本当に、どうしたことだ!
そう思っているうちに、國孝がぐん、と接近してくる。
こんなに近づいてくれるなんて……しかも、フードをしていない!もしかして、國孝が心を開いてくれた?
(そう言えば國孝、心無しか大きいような?)
違和感を覚えたところで、國孝が口を開く。
「な、なんでこんな人形が……」
雅近は國孝にひょいと持ち上げられ、現状を悟った。
(……おお!人形になっていたか。これは驚きだ)
「そう言えばアイツ……何処行ったんだ?」
國孝はきょろきょろしてから、再度雅近に視線を落とす。
「見れば見る程アイツだ……この尾羽、どうなっている?本物か?」
國孝はおずおずと雅近の尻尾に手を伸ばし、もふん、と触れる。
雅近人形を不審に思いながらも、好奇心には勝てないようで、人形の雅近をひっくり返してみたり、つついてみたりの観察を始める。
少々くすぐったいが、ここは我慢だ。
至近距離で國孝を見つめることができるのだ、こんな良い光景はない。
雅近はここぞとばかりに國孝の顔を堪能する。しかし國孝の表情は暗い。
「やっぱりアイツは……逃げ出したんだろうか」
ぼそりと呟き、自嘲気味に笑う。
「……落ちこぼれの俺では力不足、と」
國孝は雅近人形に語りかけるように独白する。
「確かに俺は神人と言えどただの人間だ。仕方ない事なのかもしれない」
(逃げ出す等と思われているか。うむ……これでは國孝に全く気持ちが届いてないよう)
雅近としては、頻繁に國孝への好意を示しているつもりだったが、まだ足りなかったということか?
國孝の闇は雅近が思うよりもずっと深いようだ。
しかし。
そこで諦める雅近ではない。
(だからこそ、落としがいがあるというもの)
雅近の胸に、新たな闘志の炎が宿る。
「あの笑みを信じようと……思ってみたのだが……」
どんより暗く落ち込む國孝の姿が、却って雅近の心をそそる。
(俺はいつまでこの姿なんだ?早く元の姿に戻って、その下向きごと抱きしめたいものよ!)」
「……えっ?」
雅近のモノローグは後半、とくに「早く元の姿に戻って」のあたりから、肉声に変わった。
國孝が目を瞠ると、雅近人形はどんどん大きく重くなり、抱えきれなくなった國孝は、思わずベッドの上に雅近を落とす。ぐにゃりと空間が歪み、周囲の景色は泊まっていたホテルの部屋に。
「なっ…な、なななな!?」
目の前にいるのが本物の雅近だと理解した國孝は、素早くフードを被り顔を隠す。
隠された顔を、勿体ないと思いつつ、雅近はにっと笑う。
「驚いてるなぁ……」
「さ、さっきの…っ!?」
「ああ、聞いておったぞ。俺の笑みを信じようとしてくれたのは有難いが……逃げ出したというのは心外だ」
「うわぁあ繰り返すなぁっ!!」
頭を抱える國孝に、雅近は優しく微笑み、告げる。
「……だがな國孝、俺は逃げん」
その証拠に、ちゃんと今も、ここにいるだろう。
「……そう……か」
少し國孝が落ち着きを取り戻したところで、雅近は彼の手をとり、しっかりと握る。
「俺は逃げん。この手も離さぬ」
真剣な眼差しが、國孝を捉える。雅近の方から國孝のもとを離れるなんてありえないと、その眼差しが告げている。
「っ!お、落ちこぼれ相手によくそんな……アンタ、本当に物好きだ!!」
國孝は空いている方の手でフードをひっぱりさらに顔を隠す。
だが、雅近の手を振りほどくことはしなかった。
温かく力強いその手が、心地よくて。
……他人なんて、口でどう言おうと、内心何を思っているかわからない。だから、信じてはいけない。
他人の言葉はいつも、國孝の猜疑心を煽るだけだった。
なのに。
雅近の言葉には、救われた気持ちになるのはなぜだろう。
●楽しいおままごと
明智珠樹が目を覚ますとそこには、千亞の姿。
「千亞さん、私のベッドに入ってくるとは……積極的ですねふふふ」
寝ぼけ眼でそっと兎耳を撫でようとして、違和感に、脳がすっきりと覚醒する。
「おや、千亞さんそっくりの人形ですね」
珠樹は起き上がり、人形を抱き上げまじまじと見つめる。
「ふ、ふふ!可愛いです!」
この可愛さを本物の千亞と分かち合いたい。
「千亞さん、見てください。可愛い人形が……おや、いませんね。学校でしょうか」
家の中には、自分以外の人の気配が無い。
しかし千亞は、学校に行っているわけではなかった。
(な、なんだこれ……え?人形?)
そう、珠樹が抱え愛でている人形こそが千亞。
「ふふ、良くできた人形です。ほっぺたもこんなに柔らかい。ふふふ」
恍惚の表情で頬プニしている珠樹に(気付け、珠樹ー!)と念を送るも無駄であった。
「細かいところの作りはどうなっているんでしょう」
ぴら、と人形の衣服をめくる。
(こらーっ)
「おや、縫い合わされていましたか」
(助かった!)
「このサイズ……まるで赤ちゃんのようですね。ふふっ。もちろん、私と千亞さんの……ふふふっ」
何かいけない妄想が始まってしまったようだ。
「千亞太郎く~ん、パパでちゅよ~」
珠樹は千亞人形を「高い高い」する。
「おや、千亞太郎くん、お腹がすきましたか~?こら、パパは母乳出ないですよ。千亞太郎君てば……大胆☆」
(って何してんだド変態!)
珠樹は衣服の胸をはだけ、そこに千亞の顔を押し当てる。
千亞は人形ゆえ、避けることも目を逸らすこともできない。
「ふふ、お腹いっぱいですねぇ、ふふふふ」
やっと解放された千亞は、机の上に座らされた。
「いい子でいるんですよ、ふふふっ」
そう言い置くと、珠樹はてきぱきと家事をこなしはじめた。
タオルやシーツなど、家中の洗い物を集めて、汚れをチェックして洗濯。
散らかった物を片付けて、家具の埃を払って、掃除。もちろん窓を開けて空気の入れ替えも忘れない。
「美味しいごはんは綺麗なところで作りたいですからね」
キッチンの掃除も念入りに。
(そういや、僕が学校行ってる時、珠樹が何してるか知らなかったけど……色々やってくれてるんだな……)
清潔な衣服も、整理整頓された部屋も、心地の良い寝具も、満たされた食事も。
全部、自然に手に入るわけじゃない。
やってくれる人が、いるからこそ。
(珠樹……)
ひととおりの家事を終え、千亞が座る机にノートを広げる珠樹。千亞の胸に、感謝の念が湧き上がる。
「さて、交換日記でも書きましょうか」
珠樹がペンを握る。
『千亞パパはお仕事遅くなりそう……
今日の晩御飯は我が息子、千亞太郎のリクエストでハンバーグ☆』
(……だが交換日記を妄想日記にするのは止めてくれ。なんだその主婦的妄想は!)
「ふふ、千亞太郎くん、お待たせ。さあ、パパと一緒に遊びますよ~」
日記を書き終えた珠樹は、千亞を抱え上げ、自室のベッドに連れていく。
「早く千亞さんと三人でおままごとしたいですね、ふふ」
ベッドにごろりと横になり、千亞を高い高いしてみたり隣に寝かせてつんつんしてみたり。
「ふふ、千亞太郎くん……良い子……ふ、ふふふ……」
(……あ、珠樹寝ちゃった)
千亞を腕の中に抱いたまま、珠樹は寝息をたてていた。
(あれだけ色々家のことやってくれてたんだな……ありがと、珠樹)
千亞は微笑む。
……ん?顔の表情が動く?
きょろきょろと視線を動かしてみる。部屋の内装は、珠樹とシェアしている部屋ではなく、ホテルの部屋に変わっていた。
千亞はもぞもぞと身体を動かしてみた。
動く!
すると、どんどん千亞の身体は大きくなり、元の姿へ。
身体が元に戻って動けるようになったのだから、珠樹に布団でもかけてあげよう。
しかし、千亞の身体は珠樹の腕の中。
身体の上に乗る珠樹の腕をよけようと、千亞はそっと、珠樹の手首を掴んで持ち上げながら、自分の上半身をゆっくりと起こす。
「……ん……千亞さん……?」
珠樹が瞼を開ける。
「あ、珠樹、起こしちゃってごめ……」
「ふふ、ふふふふふっ」
「!?」
突如いつもの変態笑いを始める珠樹。
「千亞さんが遂に私に夜這いを……!優しくしてくださいね、ふふ」
確かに、今この瞬間の体勢は、千亞が珠樹の手首を押さえ覆いかぶさろうとしている図にも見える。が。
「してない!しかもまだ昼だド変態!」
「ふふ、ふふふふふふ!私はいつでもウェルカムですよふふふふふ!」
「人の話を聞けーーーーー!」
(……一瞬でも見直した僕が馬鹿だった……)
●幸せの庭
(体が動かないだと?)
それは非常事態だ。しかし、自分を抱え上げ見つめるラキア・ジェイドバインが柔らかく微笑み
「人形と一緒に寝てたんだ」
と発したことから、セイリュー・グラシアは今の状況を理解する。
自分は今、人形になっている。しかし、現実にそんなこと、あるはずがない。と、すれば。
(……これは夢だな!夢なら人形になっちゃうってのもアリか)
持ち前のポジティブ思考で納得する。
(人形のフリしてラキアの私生活に密着も面白そうじゃん。普段見れない姿が見れそうで)
セイリューは心の中で悪戯っ子のようにニヤリと笑う。
ラキアはセイリューをベッドの端にちょこんと座らせる。
「セイリューにそっくり……」
(……って、そんなにオレばっかりじーっと見つめててもつまんねーぞ?)
ラキアはいくら見ても見飽きないようで、セイリュー人形を見ては、くくくっと肩を震わせ、緩む頬を押さえている。
(肩震わせて笑いを堪えているってどーいう事だ!)
人形姿の自分がそんなにヘンなのか?と憤慨するセイリューであったが、そうではない。ラキアは、セイリュー人形が可愛くて仕方がないのだ。
なにしろ、4分の1スケール。ぎゅっとするのにちょうどいいサイズ。
普段の大きさのセイリューでさえ可愛く思える時があるというのに、このサイズになってしまうと可愛さもひとしおだ。
やっと笑いが収まると、ラキアはセイリューを抱え上げ、庭へ連れていく。
「今日は天気も良いし、庭の花達の手入れをしようね」
嬉しそうな笑顔だ。ラキアは本当に花が好きなのだ。
庭に出ると、満開の花々が出迎えてくれる。
ラキアは、庭に飾っていたミニチュアチェアの上に、セイリューを座らせる。
「……ぴったり過ぎ」
また肩を震わせるラキア。
(むむぅ……)
さすがにセイリューも、ラキアはセイリュー人形が可愛くて仕方なくて笑っているのだと理解したが、可愛いと思われるのも、それはそれで複雑だ。
「さて、花たちは元気かな」
ラキアは立ち上がり、
「今は薔薇と芍薬。アマリリス。アイリス。ガザニアやクレマチスも綺麗だよ」
と人形のセイリューに語りかける。
「薔薇は小ぶりな子も多いから花柄を小まめに取ってあげなきゃいけないんだよ。痛んだ花があると他の子も元気なくなるからね」
花のひとつひとつに異常がないか、優しい眼差しで確認していくラキア。
その姿は、とても幸せそうだ。
「うん、皆とても綺麗に咲いてくれてるね。嬉しいよ」
ラキアはにっこりと、本当に嬉しそうな顔をして花たちを褒める。
「ちゃんと褒めるともっと綺麗に咲いてくれるからね」
ラキアがセイリューを抱き上げる。
その笑顔は満ち足りていて、幸せいっぱいで。
セイリューの胸は、小さく痛んだ。
だって自分は、ラキアにこんな笑顔をさせてあげられているだろうか。
こんな笑顔を花達に見せているなんて、正直、ちょっと悔しい。
その時、セイリューの耳元を、ぶうん、と蜂が通り過ぎていく。
そこでセイリューは初めて、庭を包んでいる様々な音に気付いた。
花の蜜を目当てに蝶や蜂や小鳥も……静かで花しかないと思っていた庭は意外と賑やかだ。猫も遊びに来ている。
花ばかりに目が行って、他の生き物がそんなに居るなんて知らなかった。
そしてその中で、花を愛でるラキアと共にいる。
なんて穏やかで幸せな光景。胸の中に、温かい何かが広がっていく感覚。
セイリューは、ラキアが花を愛する気持ちが、わかったような気がした。
目が覚めたら、ラキアと一緒に花の手入れでもしようかな……。
●あなたがいないと
「おはよー……」
むくりと起き上がったアイオライト・セプテンバーはこしこしと目をこする。
いつもなら返ってくるはずの声がない。
「パパいないの?お買い物かな?」
きょときょとと部屋の中を見回すアイオライトは、良い物を見つけた。
「あ、パパのお人形さんがある……?」
にんまりと、顔に笑みが広がる。
「いいこと思い付いたっ」
アイオライトはベッドからぴょんと飛び降り、てててーっと走っていくと、その手にバスケットを持って戻って来た。
「ちょっと窮屈だけど、いいとこ連れてったげるから我慢してね」
白露の姿をした人形を、ぎゅぎゅぎゅっとバスケットに詰め込んで。
「いってきまーす!」
元気に外に飛び出した。
(私が人形とは。道理で体が強張ると思いました)
体が強張るのは人形だからということもあるけれど、無理やりバスケットに詰め込まれたせいもあるような。
アイオライトはなにやら張り切っておでかけをしたようだけれど、この姿ではとりあえず見守ることしかできない。
自分が動けない間に、何かやらかしたりはしないだろうか。そう思うと白露は人形の身でありながらも、きゅーっと胃が痛むのだった。
けれど、アイオライトが白露人形を家に置いていったのではなくて良かった。目の届くところにいてくれれば、多少は気が休まる。
バスケットの中はかなり狭いが、それも我慢だ。
(……あ、そんなに揺らさないでください)
アイオライトが元気よくぶんぶんとバスケットを振りながら歩いている様子を、身をもって知る白露だった。
「じゃーん公園に着きましたっ」
元気な声と共に、やっとバスケットから解放される白露。
「あのねー、花壇のチューリップがすごく綺麗に咲いてるの」
アイオライトは白露人形を片腕に抱いて、花壇の傍へ。
(おや、本当に綺麗なチューリップですね)
「今度パパに教えてあげようと思うんだけど、パパのお人形さんかわいいから、先に教えてあげるね」
アイオライトは白露人形の顔を覗き込み、にっこり笑う。
「でも、本物のパパの方が可愛いけどー」
ぎゅう、とアイオライトは白露人形を抱きしめた。さらに。
「あたしも可愛いよね?ねー?」
抱きしめる腕に力が増す。
(そ、そんなに、ぎゅうっとしないでください!)
白露人形、ぎゅうっとされすぎてなんだか形変わっているような。痛くはない。痛くはないけれどっ。
(アイは可愛いですからっ!)
いつも言わされている台詞が自然に出て来る。
しかし、当然ながら、声にはならない。
(世界一可愛いですからっ……と言っても、聞こえないんですね)
聞かせたい言葉が、聞かせられない。
胸をちくんと、切なさが刺す。
それはアイオライトも同じだった。
聞きたい言葉が、聞こえない。
いつも言ってくれている言葉が、聞こえない。
胸にちくんと、針の穴。
「ただいまー」
出発したときの元気をすっかりなくしているアイオライト。
「パパまだ帰ってないの?」
家じゅうを歩き回って白露の姿を探す。
白露がいないことは、家の中の静寂が物語っていた。
自分の足音と、時計の音がやけに大きく響く家。
「パパ……」
ぽろりと、涙の粒が頬に転がる。
「パパがいないと寂しいよー」
ついには声をあげてアイオライトは泣き出した。
(私はここにいますよ、泣かないでください)
語りかけても、届かない。人形とは、なんと無力なのだ。
「このままパパがいなくなっちゃったらどうしよう」
ひっくひっくとしゃくり上げながら、アイオライトは白露人形をぎゅうっと抱きしめる。
アイオライトの涙が白露の頬にも落ちて来る。
(今は無理ですけど、その分、戻ったらちゃんと傍にいてあげますから)
「ぐすん、くすん……」
アイオライトの涙は止まらない。白露人形を抱きながら、ベッドの端に腰かける。
(戻ったらアイの好きななでなでもしてあげますから、たくさんたくさん、してあげますから……アイ?)
くすんくすんという泣き声は、いつのまにかすうすうという寝息に変わっていた。
目じりには涙の痕が残っているが、どうやら疲れて眠ってしまったらしい。
(アイ……私はいなくなったりしませんよ)
こんな様子を見せられたら、アイオライトの前からいなくなるなんて到底できない。
アイオライトの寝息に誘われて、白露も睡魔に襲われる。
そして2人はまどろみの中へ。
●絆の証
「どうしてこんな物があるんだ?」
蒼崎 海十はフィン・ブラーシュによく似た人形を不思議そうに眺める。
あまりに似すぎていて、何だか放っておけない。
「……一緒に来るか?」
抱え上げて、このまま持ち運んではあまりに目立つことに気付く。
「ちょっと窮屈だけど我慢してくれ」
海十はそう言って、大き目の鞄にフィンそっくりの人形を詰め込んだ。
(って、やっぱり、俺本人だって気付かないよねー)
そう、その人形こそがフィン本人。
(まぁ、仕方ないよね。きっと元に戻れる筈だし!)
多少不便はあるけれど、前向きなフィンなのであった。
フィンは鞄から取り出され、椅子に座らされる。そこは、真っ白な壁の小さな部屋。片隅にドラムセットや音響設備が揃えられている。
ここはどこだろうというフィンの疑問を知ってか知らずか、海十が説明する。
「ここは練習スタジオだよ」
(初めて来たな……海十はここでいつも練習してるんだね)
そういえば、海十のバンド練習風景は見たことがない。
「なんだか、無性に歌いたくなったんだ」
海十はフィンの向かいに椅子を置くと、ケースから取り出したギターを抱えてそこに座る。
「今日は俺一人なんだ。ちょっと付き合ってくれ」
微笑んで、フィンの頭を撫でる。
(何だかいつもと逆の気がする)
動くことが出来たら、そのくすぐったさに身をよじっていたことだろう。
海十はひとつ息を吸い込むと、ギターをかき鳴らし歌い始める。
「♪ 哀しみを胸に抱き
募る想いに視界は曇っていた 」
(海十の歌をちゃんと聞くのは初めてだな)
子守唄と催眠の時に聞いたことはあるけれど。
今聞く歌声は、その時とはまた違う声。
「♪ 誰かの優しい声も
響かず通り過ぎていたけれど 」
(甘い声で歌うんだな……心地よい)
声が、言葉が心に沁み込んでいく。
フィンはうっとりとその歌声に聞き入った。
「♪ 君がくれた約束の言葉
温かな灯火となり
俺を照らしてくれる 」
(海十……これって、この歌って……)
今、人形じゃなかったら、フィンは顔がにやけてにやけて仕方なかっただろう。
「聞いてくれて、有難うな」
歌い終わった海十は気分の高揚が続いているのか、フィン人形を抱き上げ、その額にキスをした。
ところで、おとぎ話ではキスで魔法が解けるのは定番である。
「っ!?」
抱き上げていたフィン人形が突然ぐんっと重くなり、支えきれなくなった海十は、そのまま前に倒れ込む。
あわや、スタジオの床に激突か……!と思いきや。
ぼふん。
そこは、ホテルのベッドの上。
倒れた海十の下には、人形のフィン……ではなく。
「良かった、戻った!」
なんと、本物のフィン。
「フィン!な、ななな……何で?」
起き上がった海十はすっかりパニック状態。
「海十、さっきの歌、すっごい良かったよ!」
フィンも起き上がり、きらきらした瞳で告げる。
「な……っ!き、記憶を失えー!!」
「何で?絶対忘れないよ」
満面の笑みのフィン。
(だって海十、あの歌は、俺たちのことを歌った歌じゃないか!)
あの歌は、2人の気持ちが通じ合った証だと、思うから。
●終章
「ご利用ありがとうございました」
フロントのディアボロは恭しく頭を下げる。
宿泊費の500jrを払うと、すっとピーサンカが差し出された。
「え?これ……?」
疑問に思いつつもそれを受け取り外へ出ると、ホテル「サンクトキャンサー」はその姿を霧に変え、目の前から消えたのであった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アイオライト・セプテンバー 呼び名:アイ |
名前:白露 呼び名:パパ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月29日 |
出発日 | 05月05日 00:00 |
予定納品日 | 05月15日 |
参加者
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- 明智珠樹(千亞)
- 川内 國孝(四季 雅近)
会議室
-
2015/05/04-23:54
雅近:
出発間近だが改めて、俺は四季 雅近。
こちらもプランは提出済みだ。
人形になってしまうとは……愉快な経験もあったものだ。
皆も良い一時を。 -
2015/05/04-23:49
-
2015/05/04-22:20
改めまして、ポブルスの白露です。
こちらもプランを提出しました。
皆様、フィヨルネイジャで良い一日を過ごせるといいですね。
私としては、アイが何かやらかさなきゃ、もうそれで十分です(遠い目) -
2015/05/04-22:20
-
2015/05/04-21:59
改めてこんにちは、珠樹の精霊の千亞だよ。
…なんだかもうずっと悪寒を感じっぱなしなんだけど…
どうか皆に良い思い出できますように(にっこり)
可愛いお人形、楽しみにしてるね! -
2015/05/04-21:56
-
2015/05/04-21:42
こんばんは。挨拶すっかり出遅れた
セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ!
川内さんは初めまして。
他の皆は今回もヨロシク!
ラキア:
皆さんよろしくお願いします。
セイリューによく似たお人形…(くす。 -
2015/05/03-01:01
あらためまして、蒼崎海十です。パートナーはフィン。
川内さんと四季さん、アイオライトさんと白露さんははじめまして。
明智さんと千亞さん、セイリューさんとラキアさん、今回もご一緒出来て嬉しいです。
皆様、宜しくお願い致します!
どうしてこんな所に人形が…
しかもフィンに似てるような?
…何だか放っておけないんだよな… -
2015/05/02-10:49
こんにちはー、アイオライト・セプテンバーでーすっ。
女の子でーすっ(恒例のボケ)。
川内さんと蒼崎さんは初めましてでいいかな。
いいもん見っけたーーっ。
パパのお人形さん、ぎゅーっ。 -
2015/05/02-10:21
こんにちは、皆の明智珠樹です。
川内さん、四季さんははじめまして!ですね。何卒よろしくお願いいたします、ふふ…!!
ふ、ふふ、可愛いウサギさん人形が私の手元に…!ふ、ふふ、ふふふふふふふ!!
たっぷり可愛がりたいものです、ふふははは…!! -
2015/05/02-10:19
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2015/05/02-01:18
初めまして、だな。俺は川内 國孝。
こんな俺だが、宜しく、して……くれ。
何故アイツの人形が……。
(人形を抱える手元を震わせながら、それを凝視)
※誤字があった為改めさせて頂きました。すみません! -
2015/05/02-00:31