花酔いの桜(うき マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●春の街に流れた噂

 凍てつくような寒さが和らぎ、春の訪れを感じるようになってきた今日この頃。
 首都タブロスでは気温の暖かさとはまた別の、目に嬉しい春がやって来ていた。
 
 桜の開花である。
 
 桜並木はピンク色の光で溢れ子ども達がはしゃぎ、桜の名所として有名なプリメール公園にある銀色の桜には連日見物客が押し掛けているのだとか。

 さて、そんな桜ブームの中、一つの噂が街に流れた。
 曰く、市の中心部から西方に少し離れた、緑が多く残る所謂田舎町に『人を酔わす桜』があるというのだ。
 それはただ単に、花見をしてその場で飲んだ酒に酔う人が続出というわけではなく、単純に『花を見ているだけ』で酔うのだとか。
 怪奇と言われればそうなのだが、今の所大きな被害は出ておらず、聞こえてくるエピソードは、酔ってカラカラと笑っていると動物達が集まって来ていつの間にか囲まれていたとか、桜に見とれてクラクラしたまま次の日を迎え、探しに来た友人が引き摺って連れ帰ったとか、そんなどこか微笑ましいものばかり。
 その酔いの症状は酒を飲んだ時のものと似ているようで、記憶が残っている者もいれば忘れてしまう者もいるらしい。また、酒豪と呼ばれる人物が見事に酔っぱらったという話もあり、つまり酒の強さとこの桜の酔いは関係しないもののようだ。

 この噂話はA.R.O.A.本部にも届いたのだが、内容からして彼等が動くような案件ではない。
 だが、面白そうな話には仕事など関係なく誰だって惹かれるものだ。自分は一体どのように酔うのか、あの人が酔ってどんな姿を見せるのか――――色々な憶測が飛び交った結果、

「実際に確かめてみなきゃわかるわけねーだろ」

 受付の男性の鶴の一声で、急遽『噂の花見』開催が決定したのであった。


 さて、件の桜の力はいかほどなのか。
 あなたとパートナーはどのような酔いを体験するのか。

 あらゆる意味で予想のつかない花見のスタートである。

解説

●噂の桜の下でのお花見がメインのお話になります。桜の噂自体はかなり広まっているのですが、場所の特定が少し難しく、辿り着けない方も多いため、まだお店などは出ていません。見物客も少なく、花見の場所としては静かです。
●あなたとパートナーの双方が『どのような酔い方をするのか』を明記してください。
●花酔いとお酒の強さは関係ありません。ですが、酔わない、という選択肢もありですよ。

ゲームマスターより

お花見の季節ですね。
『酔い』の力を使って、普段とは少し違う自分を出してみてはいかがでしょうか?
皆様の素敵エピソードお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  桜吹雪がすごくてはしゃいでいたら
突然レーゲンに抱きしめられた
またかー!といつものようにじたばた逃げようとしたけど、無言で怖いぐらい力が強い。本気だ。

俺と誰かを間違えてるのか?
その「誰か」は本気で抱きしめたい人なのか?

俺も桜に酔ったのかな、
なんだかレーゲンをぎゅっとしてやりたくなった
ごめん、「誰か」の代りでしかないけど
今お前のそばにいるのは俺だから

正気に戻ったレーゲンが謝ってきたら
「暴れたからお腹へったー」とか言って
あえて何でもないふりしよう

「誰か」について聞く勇気は今はない、けど
うん、決めた
「俺」はずっとそばにいてやるから
悲しい顔なんてさせないから



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  ゼクの仏頂面を崩す! という野望に燃えているわけですよ。
お酒に強いのは知ってる。ならば桜だ。酔えー酔って醜態をさらしてしまえー。
……べつに仲悪いわけじゃないけど、ゼクって普段表情の変化があまりないから、
笑ったり泣いたりするとこ見てみたいなって?

噂を辿って件の桜を見に行こう。
他の桜とはどう違うんだろう。もぐもぐしながら観察。
そろそろ桜も見納めかなあ、とぼんやりしてたら眠く……ううん?
んー……なんか手足の感覚が曖昧、なんだけど……ぜくー?

酔い方:甘えん坊になる。ふにゃふにゃ。すりすり。ごろごろ。
記憶:忘れる……?

記憶の有無にかかわらず
僕は大人になってもお酒は飲まない方がいいと悟ることになりそうな。


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  酔う感覚に興味あったし、前回弁当駄目にしたっけ
仕切り直しにいいかもしれない

「そこまではしたくない
はあ…ゆっくりなら大丈夫」
息を切らせながら後ろを

「見事だね。壮観という意味で酔うなら納得だ
見ると酔うのなら…酔ったら自分を出せれるのかなって」
子供のように。もっとも笑わない子だったけど


「せにゃじゃない」
どうしよう…とひっぺがし
典型的で羨ましい、かな
僕は酔ってるのか…?心臓はうるさくて怖いけど
気持ち良いとか意識を放棄するのは難しいみたいだ
ほんのり赤く。苦笑

メイド特製お花見スペシャル弁当(5段)をぺろりのタイガに
「よく入るね。あ。おやつに果実大福もってきたんだ
!!…こら」
驚いた。手、洗いたいな…手拭き



アイオライト・セプテンバー(白露)
  桜ってきれいだねー。見に来てよかったあ。花びらをいっぱい頭から被ったら、ティアラみたいで、ドレスみたいで、お姫様みたい。それとも花嫁さんかな。ねえ、パパあたしがお嫁さんになったら泣いちゃう?
あ、みんなが桜を愉しんでるのに、あんまり騒がしくしちゃいけないね。静かにいい子にしてるから、パパ帰りにお菓子買ってねーねーねー(うるさい)。
(酔いに慣れてないので、たぶんすぐふらふらになります。甘え上戸で泣き上戸。「パパ、酔うってどんなかんじ?」「うわあん、パパはあたしが女の子じゃないから嫌いなんだーっ」「(えぐえぐ)パパがおんぶしてくれたら、許す」「(おんぶしてもらったら)ふにゃ、おやすみなさい……」)


相良・光輝(ライナス・エクレール)
  酔い方:あまり変化が無い、が少々甘くなる

「やれやれ、随分と厄介な場所にあるもんだな」

といいつつも、このような謎を調査するのは好きなのでかなり興味深々

ゆっくりと花見が出来るよう、鞄に甘味セット、酒、つまみを詰め込んでいる

かまって貰おうと来るライナスには膝枕をして撫でてやる
「まったく、普段もこんだけ可愛げがあればいいんだけどねぇ」
といいつつも、綻んだ表情でゆったりと過ごす

終わった後に、戻ったライナスにその時の様子をネタに弄り続ける
「いやぁ、あの時の坊主は可愛かったなぁ」


●道程

「なんつーかさ、今更なんだけど場所が曖昧すぎないか?」
森の中を進みながら、信城いつきは溜息をついた。その横を歩くレーゲンはそんな彼を見て苦笑する。
「発信源自体が確信のない『噂』だからね。曖昧なのも仕方ないよ」
「そーだよなぁ……」
いつき自身もすぐに辿りつくとは思っていなかった。だが、さすがに二時間も森の中を彷徨っていれば泣き事の一つも言いたくなるというものだ。
「やれやれ、確かに随分と厄介な場所にあるもんだよな。まぁ、気楽に行こうぜ、信城さん。こういうのは時間がかかった方が見つかった時の喜びが大きいもんだ」
そんな彼に、ニイッと笑って振り返ったのはいつきたちの前を歩いていた相良・光輝。謎を調査する事が趣味の彼にとって、今回の件はかなり興味をそそられるものだった。当然すぐにメンバーに名乗りを上げ、彼の相棒であるライナス・エクレールは自動的に参加が決まったのである。
「ほんっと、相良はこういうのが好きだよなぁ」
と言いながら、ライナス自身も楽しみなのか棒付き飴を舐めながらご機嫌だ。
そして、そんな彼の前を行くのがアイオライト・セプテンバーと柊崎直香である。
「一目見た時から思ってたんだけど、あなたのスカート、すっごく可愛い! ねぇ、どこで買ってるのー?」
「ここの服は僕もお気に入りなんだ。キミ、見る目あるね! よければ今度お店まで案内してあげるよ」
「本当!? やったぁ!」
「キミ、可愛いからきっと似合うのがいっぱいあると思うな」
「嬉しい! ありがとう!」
完全なる女子トークで盛り上がる二人は己と相手に同じ匂いを感じ取ったのか、会ってすぐに意気投合した。見た目も可憐な少女のそれなので、違和感というものが存在しない。
「気が合う子が出来て良かったです。あんなに楽しそうにして……」
少し離れた所でそんな二人を見守っていた白露がそう零すと、その隣を歩いていたゼク=ファルは、
「お前、父親みたいな事を言うな……」
と呆れ顔だ。アイオライト自身にも『パパ』と呼ばれる白露は苦笑を洩らす。
「あながち間違いでもないですが……」
「……まぁ、俺も似たようなもんだけどよ」
「お互い、苦労しますね」
「全くだ」
ここはここで同じような境遇に意気投合したらしい。
さて、そんな先頭組に対して最後尾を行くのがセラフィム・ロイスと火山タイガのペアである。肩で息をするセラフィムにタイガが声をかけた。
「平気かー? 体力つけねぇと絶景サバイバル5日間とか世界一周の旅いけねぇぞ」
「そこまではしたくない。はぁ……、ゆっくりなら大丈夫」
チラチラとセラフィムを見ながら、手を貸すべきか否か葛藤しているのか、タイガの手はフラフラと空を彷徨っている。
そんな気遣いに気が付いているのかいないのか、息を切らしながらも自力でなんとか歩を進めていたセラフィムだったが、前方から上がった歓声に落としていた視線を上げた。
瞬間、息を呑む。
そこには、彼等が求めていた景色が広がっていた。

桜は一見してどこにあるものとも変わらないように見える。
だが、散っていく花弁を見るとそれがキラキラと光っているのが誰の目にも明らかだった。
相良が手を伸ばしてその花弁を掴むと、掌に閉じ込められたのはなんとも淡い薄桃色の一片だ。それはもはや透明に近いほど透き通っている。
「成程、だからあんなに光って見えるのか」
光を通し、角度によっては反射する。
『酔い』とはまた別の幻想がそこにはあった。
「これが、酔いの桜……」
白露が呟いた瞬間、一陣の風が桜の花弁を巻き上げた。皆、息を止めてその光景に見入る。

――この時点で、既に殆どのメンバーが桜に酔わされていた。


●どこにもいかないで

「すっげ……、すっげぇ!!」
自分の目の前に広がる美しい景色に、我に返ったいつきは声を上げた。
思わず花の海の中に躍り出て、ヒラヒラと舞う花弁に手を伸ばそうとしたその時だ。
「うぇ!?」
急に動かすことの出来なくなった身体――その理由が嫌というほど身に覚えのあるいつきはすぐに身を捩った。
「ちょ、レーゲン! またかー!」
叫ぶも背後からの拘束は解けない。こんなふうに抱きつかれることはままあれど、どうにも慣れることの出来ないいつきだ。
いつものようにじたばたと手足を動かし逃げようとしたが、普段ならすぐに緩まる腕の力が今日は逆にきつくなるばかり。
「レーゲン……?」
常とは違う空気を感じ取って、いつきは振り返りながら恐る恐るその名前を呼ぶ。だが、「ごめんね」と微笑む彼はそこにはいない。いつきの肩に顔を伏せた彼は、何も喋らない。レーゲンのその様子に、いつきは彼の『本気』を感じ取った。
(俺を誰かと間違えてるのか?)
(その『誰か』は本気で抱きしめたい人なのか?)
浮かんだ考えに、何故か少しだけいつきの胸が痛む。その痛みを不思議に思いつつ、必死に自分に縋りつくレーゲンの背後から回された腕をギュッと抱きしめた。
(ごめん。『誰か』の代わりでしかないけど、今お前の傍にいるのは俺だから)
「俺も桜に酔ったのかな……」
キラキラと舞う桜を見ながら、いつきは小さく呟いた。


目を閉じて、腕の中にいつきを閉じ込めていたレーゲンはふと我に返った。
(しまった……!)
最初に浮かんだのはそんな言葉。桜を見ていたら本当に酔ってしまったのか、急にいつきがどこかへ行ってしまう気がして思わず本気で抱きしめてしまっていた。
(今のいつきは以前、想い合っていた頃のいつきじゃない。信頼はしてくれてるけど、愛情ではない)
記憶を失う前のいつきの笑顔がレーゲンの頭に過る。同じ彼でも、やはり今とは違うその表情。
今のいつきには、レーゲンの行動が理解できないだろう。彼を怖がらせたかもしれないとレーゲンは不安に駆られた。
「ご、めん……」
腕の力を抜き、いつきを解放したレーゲンが小さな声で謝るが、
「あー、暴れたからお腹減ったー!」
いつきは今までの行動に何一つ触れようとはしなかった。思わずキョトンと目を丸くしたレーゲンだったが、すぐにそれがいつきの優しさなのだと気付く。
「……お団子、用意してきてるよ。一緒に食べようか」
「おうっ!」

(前のいつきに戻って欲しいわけじゃない。でも、いつか昔のように笑いあえる日が来るといい)
(今はまだ、『誰か』について聞く勇気はない、けど―――『俺』はずっと傍にいてやるから。悲しい顔なんてさせないから。……レーゲンが悲しい顔してると、なんか俺まで苦しくなるよ)

それぞれの想いを抱えながら、二人は桜の中で笑ったのだった。


●ぜんぶみせてよ

舞い散る桜を前に、直香は頬を紅潮させてグッと手を握りしめていた。
(今日こそ、ゼクの仏頂面を崩す!)
彼は一人、密かな野望に燃えている。
(お酒に強いのは知ってる。ならば桜だ。酔えー、酔って醜態を晒してしまえー!)
直香はちらりと横に立つゼクを見る―――が、彼は手に取った花弁をまじまじと見つめ、「一応持ち帰るか」と呟いていた。
完全に仕事モードである。そして、桜を凝視しているにも関わらず、酔った素振りは微塵も見られない。
(……ま、まだ到着したばっかりだし! 時間はたっぷりある!)
内心熱くなりつつ、しかしそんな素振りは表に出さないのが直香だ。
取り敢えず、ゼクが真面目に調査をしている手前、直香も何もしないわけにはいかない。
(微笑ましいエピソードならまだしも酒乱なんて言葉もあるし、一応本部で案件だけは把握しておいた方がいいだろうしね)
そう考えて、団子片手に桜の木に近付いた。「花見と言ったら団子! あと軽食でも菓子でもいいから準備よろしく!」―――直香がそんな宣言したところ、律儀に手作りされた団子の味を楽しみながら高くそびえ立つそれを見上げる。
「花びら以外、他の桜とどう違うんだろ?」
呟きながら、満開の桜が散る様にそろそろ桜も見納めかなぁとぼんやりしていると、
「……ううん? んー……」
覚えのある感覚が直香を襲う。それが眠気だと悟るも、それ以上の事が考えられない。
(なんか、手足の感覚が曖昧、なんだけど……)
「ぜくー?」
「なんだ? って、おい!?」
ゼクが慌てて自分に駆け寄ってくる姿を最後に、直香の視界はブラックアウトした。


(なんでこうなった……)
「ゼクはぁー、なーんで酔わないんだよーう」
直香に頭の上にどっさりと桜の花弁を落とされたゼクは半ば現実逃避していた。
自分の名前を呼ばれて振り返ったゼクの目に映ったのは、フラーっと桜の絨毯の上に倒れ込みそうになっている直香の姿だった。慌てて駆け寄りその身体が地に付く前に支えたはいいが、閉じていた目をパチリと開いた直香は直後、ゼクに絡み始めた。完全に酔っている。
桜の噂は聞いていたし、だからこそ調査だと思って直香に付き添ったゼクだったが、こんな展開になるとは思っていなかったのだ。直香が、桜に酔って自分に絡んでくるなど。
(腕に擦り寄ってくるこの生き物は一体何だ?)
「たまにはさー、僕に笑ったり泣いたりするとこ見せろよー」
「なぜ」
そんな風に、酔っぱらいに対して率直にものを聞いてしまう程度には動揺しているゼクに、直香は「なぜ……」とその言葉を反芻して、そしてふにゃりと笑った。
「だって、僕、ゼクの事いっぱい知りたい」
(勘弁してくれ……!)
空を仰いだゼクの頬はほんのり桜色に染まっていた。


「ふあっ!? ……え、僕寝てた!?」
「……ああ、ぐっすりとな」
「嘘っ! どれくらい!?」
「ほんの一時間程度だ」
「なんか、ここに着いてからの記憶が曖昧なんだけど―――でもなんか思い出さない方がいい気がする。なんか僕は大人になってもお酒を飲まない方がいい気がするっ……!」
「……そうだな」
「いやでも気になるっ! ねぇ、僕なにかした!?」
「……」
「ゼクってば!」
「……さあな。俺も覚えていない」


●たまにはあまえて

一通り調査を終え、光輝は桜全体がよく見える場所に腰を下ろした。
手元には持参した甘味セット、酒、つまみを置き、寛げる体制を作ってから再度桜を見上げた。
「本当に見事なもんだな……」
思わず唸ってしまうほどには美しい光景。
だが、この景色があと少しで見納めになるだろう事を彼は悟っている。
この桜はここまで大樹となっているにも関わらず、今まで話題に上ることすらなかった。ということは、元々は普通の桜にすぎなかったのだろう。それが何らかの影響を受けて今回不思議な力を持つようになった。
この場の空気や水、土の何れかが年を経て変容したのか、それとも誰かが魔法でもかけたのか、―――理由は謎に包まれたままだが、ただ一つ光輝にもわかった事がある。
実際に樹に触れて感じた。この大樹は、もう限界なのだと。この桜が散ってしまえば、次の桜が芽吹くことはおそらくもう、ない。
「これが最後の奇跡ってか? 粋だねぇ、ほんと」
ここに立ち会ったのも何かの縁。存分に目を楽しませてもらおうと光輝が笑ったところで―――
「こーうきーー!」
ごろにゃんと猫が甘えるように膝に頭を擦りつけてきたのはライナスだ。
「おっとお!? 坊主、どうした?」
普段にない甘えた様子や名前呼びに光輝が驚きつつも、その頭をよしよしと撫でてやるとライナスはくふくふと嬉しそうに笑う。光輝が手を離そうとすると縋るように手を追って頭を擦りつけてくるし、構って欲しいオーラが全身から溢れ出ている。
「もっと撫でろよー」
しまいにはこの発言だ。
(これは酔ってんだろうなぁ……)
まさに猫にまたたび、ライナスに桜である。
「まったく、普段もこんだけ可愛げがあればいいんだけどねぇ」
こんな風に素直に甘えられれば悪い気はしない。甘やかな気分。自分もこの桜に酔ったのかもな、と光輝はクスリと微笑む。
「綺麗な景色、上手い酒、んでもって、膝には可愛い相棒。―――こりゃもう、いうことないね」
「ないねー」
ライナスの相槌に、光輝は声を上げて笑った。


「なんで俺、あんなこっぱずかしいことしてたんだよぉ……」
「いやぁ、あの時の坊主は可愛かったなぁ」
「言うなぁ! いっそのこと記憶が無くなってくれればよかったのに……!」
「こうきぃ、って甘えた声でー」
「だから言うなぁぁ!!」
「あれ? 坊主、顔真っ赤だぞ? 酔ったのか? また甘えたさんになる? お膝貸してやろうか?」
「酔ってないっ! ならない! いらないっ! 相良、もう黙れよぉぉーーーー!!」

酔いから醒めた彼等がそんな遣り取りをするまで、あと―――


●ほんねをのせて

(来る途中に見た桜も美しかったですが―――これはまた格が違いますね)
件の桜を見上げて、白露はほう、と息をつく。
「これで風呂があれば完璧なんですけど。……残念です」
思わずぽろりと零れたのは彼の本音だ。風呂好きの白露にとって、このシチュエーションを見ながら入浴が出来れば幸せの相乗だったわけだが―――
「でもまぁ、これだけ見事な桜を拝見する事が出来ただけでもありがたいことですね」
それもまた、心からの言葉だ。
噂の発信源か、もしくは噂を聞いて足を運んだ誰かが落としていったのだろうゴミを白露は拾っていく。こんなにも美しい景色を、彼は美しいまま残していたかった。そんな白露の頬を、花びらが礼を言うかのように優しく触れて落ちていく。自然と笑みが浮かんだ彼の耳に、そこで聞き慣れた声が響いた。
「みてみて、パパー!」
声のした方に白露が顔を向けると、そこには花びらを頭にいっぱいかぶったアイがいた。
「素敵でしょ? 花びらがティアラみたい! ドレス着てるみたい! ―――あたし、お姫様みたいに見えるかな? それとも花嫁さん?」
「おやおや、そんなに花びらをくっつけて―――」
くるりと回って笑うアイに白露が苦笑しながら近付き、「ほら、払ってあげますから」と手を伸ばしてアイに付いた花びらを優しく落としていく。なされるがままのアイだったが、徐に下から白露の顔を覗きこんだ。
「ねぇ、パパ。あたしがお嫁さんになったら泣いちゃう?」
「んー? どうでしょう? その時になってみないとわかりませんね」
「ぶーっ! またそういう曖昧な返事するーっ!」
頬を膨らませたアイは、だがすぐに口元を手で覆った。
「あ、皆が桜を楽しんでるのに、あんまり騒がしくしちゃいけないね」
「そうですね」
「静かにいい子にしてるから、パパ帰りにお菓子買ってね? ねーねー!」
「はいはい、わかりましたからいい子にしてましょうね」
「うんっ!」と頷いたアイは、また楽しそうに花びらと戯れる。
「桜ってきれいだねー。見に来てよかったぁ」
「……アイ?」
そこで白露は、アイの身体がふらふらと揺らいでいる事に気が付いた。
「パパ、酔うってどんなかんじ?」
「どんな、って―――どう表現していいのか……」
「またそうやってはぐらかす! うわあん、パパはあたしが女の子じゃないから嫌いなんだーっ」
唐突に泣きだしたアイに、ここでやっと白露は彼が酔っている事に気が付いた。
(困りました……。どうしましょう)
用心深い白露は自分が酔って醜態を晒さないように酒をセーブするし、絡まれる前に立ち去る。だからこそ、今この場をどう切り抜ければいいのかわからなかった。
(でも、誤解は解かなければ……!)
アイの事を嫌ってなどいない。それだけはきちんと伝えなければと思っていると、アイの上にハラリと桜が乗った。
「……アイ」
「なーに……?」
「泣きやんで下さい、お姫様。可愛い顔が台無しですよ?」
白露が涙を拭ってやると、アイの不安気に揺れていた瞳が徐々に喜色を取り戻す。
「あたしのこと、嫌いじゃない?」
「ええ、もちろん」
白露がはっきりと答えると、花が綻びるかのようにアイは笑って見せたのだった。


●なにもかんがえなくていいよ

息が止まる感覚。自分が先程まで息を切らしていた事も忘れて、セラフィムは目の前の光景に釘付けになっていた。
と、そこで隣にタイガが立った事に気が付き、ようやく息を吐く。
「見事だね。壮観という意味で酔うなら納得だ」
「だな。今にも酔っちまいそう。セラは?」
「どうかな。でも、見ると酔うのなら……、酔ったら自分を出せるのかなって思うけど」
そんな彼に、タイガがポツリと呟く。
「酔いたいのか? セラ」
先程の言葉の後でのその問いは、自分を出したいのかと問うているのと同じで―――
「どうなんだろうね」
本当の自分を見せてはいないのか―――それはセラフィム自身にもよくわからなかった。ただ、酔えば笑えるのかなと思ったのは確かだ。子どものように。最もセラフィムは、笑うことのない子どもだったのだけれど。


「せにゃーー! 楽しんでっかー!」
「せにゃじゃない」
それから程なくして、タイガは見事に桜に酔った。にゃははと笑う姿はまるでまたたびに酔う猫のようで、その典型的とも言える酔い様にセラフィムは羨ましさすら感じる。
そこで自分はどうなのだろうとセラフィムは考える。確かに心臓は怖いくらいに鳴っているけれど、気持ち良いとか意識を手放すのは難しそうだとどこか冷静に分析できてしまう自分に、完全には酔えていないかと判断した。
そんな彼の隣では、タイガが持参したメイド特性お花見スペシャル弁当(5段)をぺろりと平らげようとしていて、セラフィムは呆れたように息をつく。
「そんな量、よく入るね。あ、おやつに大福持ってきたんだ。……っ、こら!」
ごそごそと大福を取り出すと、タイガはセラフィムの手ごと大福に食いつく。流石に一緒に咀嚼される事はなかったが驚いたことには変わりなく、手を拭きながらセラフィムの心臓は先程よりもずっと早く鳴っていた。そして、そんな彼を見ていたタイガの目が光る。
「スキありーー!」
「えっ、うわっ!」
急に手を引かれ、二人はボフッと桜のカーペットの上に倒れた。にゃはははと笑うタイガに、またも驚きで心臓が跳ねあがったセラフィムが声を荒げる。
「酔いすぎだ……! 少しは限度を―――いや、酔っているのだからなんとかなるものでもないのか……?」
途中から声のトーンを落として一人で考えだしたセラフィムに、タイガは笑いを止めてその顔をグイッと自分に向け、強制的に視線を合わせた。
「いくな!」
「え?」
「俺を置いてくなよ……。一人で考えて思い詰めんな」
「タイガ?」
「うじうじじて爆発して泣いて。頭からっぽにしてれば、んな悩みとか湧いてこねぇよ。今の、気持ちを、さ、素直に―――」
そこでタイガの言葉は途切れた。セラフィムがぱちりと瞬きをして改めて彼を見る。タイガは気持ちよさそうに眠っていた。
「言いたい事言って、寝ちゃったよ……」
だけど、あの言葉が今まで口にはしなかった彼の本心だという事にセラフィムは気付いている。そして、そんなストレートな思いを嬉しいと思っている自分にも。
「……タイガが僕のパートナーで良かったよ」
小さな声で呟く。それが、今のセラフィムの紛れもない素直な気持ちだった。


「んー……?」
「気付いた?」
「あ、わりぃ、オレ寝てたんだ。……あれ」
「なに?」
「なんか、セラいい顔してるな。何かあった?」
「……忘れたの?」
「なにを?」
「……ううん、いいんだ。僕も、すっきりしたから」
「そっか? ……うん、お前がいいなら俺はそれでいいよ」

セラフィムは気付いているだろうか。
自分の口元が少しだけ、綻んでいる事に。
それを見たタイガが、本当に嬉しそうに笑った事に。


●酔い桜

その後、自然と全員が合流して、皆で桜を見上げた。
光輝の話を聞いて、この桜が今季限りだという事は既に全員が知っている。
桜は散るから美しいのだと言われる。散り際が最も儚く、最も美しいのだと。

「最高に酔わせてもらったよ」

それは誰の言葉だっただろう。
だが、皆の気持ちは同じだった。

ハラハラと、風に乗った桜が視界の奥に消えていった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター うき
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月04日
出発日 04月12日 00:00
予定納品日 04月22日

参加者

会議室

  • [3]柊崎 直香

    2014/04/09-01:13 

    相方のー仏頂面をーくずしたいー。

    クキザキ・タダカくんですよー。よろしくね!
    他の桜とは見た目も違うのかな。いろいろ楽しみなところだね。

  • 御挨拶遅れちゃってごめんなさい。
    あたしも酔ったことないから、ちょっと興味あるなあ。
    静かな場所なら静かにたのしむのがいいかなーって思ってるけど、それ以外はまだ全然決まってないけどね。

  • [1]セラフィム・ロイス

    2014/04/07-19:51 

    花酔い桜・・・だってね
    不思議なものもあったものだ。「酔う」って興味あったんだ
    どう花見するかは決めてないけれど・・・、遭遇したらよろしく


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