


「これはこれは、ちょうどいいところに……。ちょっと手伝ってもらえませんか?」
つきうさ農区の一角、とある農場の前を通りがかった時、不意にそんな声を掛けられた。
見れば、茶色のエプロンを身につけた、恰幅の良い男性ラビットが手招きをしている。
興味を引かれてそちらへと足を向けてみると、
男に近づくにしたがって、
最初は微かに感じるばかりであった甘く芳醇な香りが、だんだんと強くなってきた。
この香りには覚えがある。ブドウの匂いだ。
「手伝っていただけますか?それはありがたい。では……これを踏んでほしいのです」
男が指し示すのは直径1メートルほどの木桶。
ブドウの匂いの元は、どうやらこの木桶であるらしい。
……が、しかし。
百歩譲って、大きさはブドウと同じだろう。
巨峰とかマスカットとか、そういった種類のブドウの粒と同じくらいの大きさだ。
けれどもその見た目はというと……
グロテスクに表現するならば目玉。
控えめに表現するならばイクラの粒を大きくして白と黒にしたもの。
要するに、はっきり言ってかなり気味の悪い見てくれをしている。
戸惑っていると男性はやや不思議そうな顔をして言った。
「おや?救世主さま方はルナ・ヴィーニュをご存知ないのですか?
とても良い香りがするでしょう?
この果汁を醸造すると、ルナ・ヴィンというとても美味しいお酒になるんですよ」
確かにこの香りをかいでいる限りは、ワインのような飲み物が出来上がることは想像に難くない。
「試しに一粒食べてみますか?このままでも十分、フルーツとして楽しめますよ」
差し出された目玉、もといルナ・ヴィーニュを恐る恐る口にしてみれば、
なるほどその味もブドウとそっくりである。
ルーメンには地上とは少し違った植物や動物も多い。
きっとルナ・ヴィーニュもそういったものの一つなのだろう。
「とびきり美味しいルナ・ヴィンを作るには、ちょっとしたコツがありましてね。
それは、恋人同士にルナ・ヴィーニュを踏んでもらって果汁を絞ることなんです」
男が言うには、恋人同士の愛の力が美味しいお酒をつくるのだそうだ。
「収穫祭では、この果汁を樽に詰めて神殿に奉納するんです。
そうすると来年の収穫祭には、美味しいルナ・ヴィンになっているんですよ。
ところが今年は、この異変のせいで人手が集まらなくて、
神殿に奉納する果汁の準備ができていないんです」
木桶の中のルナ・ヴィーニュを踏んで果汁を搾り出してほしい。
男の頼みが収穫祭の準備のためのものであるならば、手伝わないわけにはいかないだろう。
「もしも手伝ってくれるなら、今年の収穫祭用のルナ・ヴィンを特別価格でお譲りしますよ。
通常1本600Jrのところを、何と半額の300Jrにいたします!
お酒が飲めないのでしたらルナ・ヴィーニュのジュースもありますので安心してくださいね」
ルナ・ヴィンやルナ・ヴィーニュのジュースをお土産に買って帰るのも悪くない。
男の指示に従って靴を脱ぎ、足を丁寧に洗って……。
いざ、作業開始である。


●目的
木桶の中の目玉、もといルナ・ヴィーニュを素足で踏み潰してください。
桶の中のルナ・ヴィーニュが全て潰れたら作業終了です。
●ルナ・ヴィーニュ
味も香りも大きさもブドウにそっくりです。
しかし見た目が目玉。白黒の大きなイクラです。
人によっては、ちょっと気味悪く感じるかもしれません。
●お土産
ルナ・ヴィン(お酒)またはルナ・ヴィーニュのジュースのご購入をお願いします。
それぞれ1本300Jrです。
片方だけでも構いませんし、両方購入しても構いません。
また本数も1本以上であれば何本でもOKです。
ただし飲料ですので、あまり大量に買ってしまうと非常に重くなります。
●プランに書いていただきたいこと
ルナ・ヴィーニュを見た時のリアクションや、踏み潰した時の感触に対するリアクション
その他、作業中に2人で交わしそうな会話や、
起こしてしまいそうなハプニングを書いていただけると助かります。
プロローグを読んで下さってありがとうございます。
収穫祭ということでブドウ踏みをモチーフにしたエピソードを作ってみました。
わいわいきゃあきゃあ、あるいは黙々と、少し気味の悪いブドウを踏んでみてください。
楽しんでもらえれば幸いです。よろしくお願いします。


◆アクション・プラン
ロア・ディヒラー(クレドリック)
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何々?ブド…ウじゃない!?め、目玉みたいなんですけどこれは…ルナ・ヴィーニュ?果物なんだ… こ、恋人じゃないんですけどどうしようクレちゃん…(うわっじっとルナ・ヴィーニュ見てる。興味津々って感じ)ウィンクルムだから少しは美味しくなるかな ぷちっとしてじゅわーと来る液体の感触が面白い。けど精神衛生上、下は見ない方がいいかもね。 (クレドリックを上から下まで見て)クレちゃんがとんでもない極悪人に見える… (よろけて思わずクレドリックの肩につかまる)わっとご、ごめん。(顔が近いっ思わず顔そらしやったけど不振じゃ無い…よね?) 肩につかまったまま足を動かしてるとダンスみたいだね。踊った事無いけど |
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葡萄……?(知ってるものと違い、やや戸惑う ルシェに倣い上着は脱ぐ。 葡萄とルシェを交互に見て、そっと手を取り怖々と足を入れる。 潰した感触と果汁の冷たさにぞわっと。(敏感肌 足の感触に戸惑い、握られたままの手でバランスを取り踏む。 途中バランスを崩す。 「!?」 思わぬ事態にビクリと硬直。 ルシェの言葉で状況を認識。離れようとするが動けない。 「る、ルシェ?」 握られた手とルシェの顔を再び交互に見る。 バランスが取り易くなり、踏む感触にも少し慣れ順調に潰す。 (いっつもルシェから手、握ってくれる)チラリとルシェを見上げる。 (愛の力……、は知らないけど) 「……美味しくできたらいいな」とぽろりと呟く。 ジュース1本購入。 |
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あら…随分変わった葡萄ですね 私は平気ですが、確かにこれは苦手な方も多いでしょうね なんですか、ラルクさん? この程度で怯んでいたら姉に叱られ…いえ、なんでもありません 余計なことを言いかけてしまいました、いけない 折角の機会ですから踏ませていただきましょう 恋人ではないというのはこちらのラビットさんには黙っておきましょうか しーっとラルクさんに黙秘を促しておきましょう 潰した感触、なかなか面白いですね ふふっ、楽しい 大丈夫です、慣れてきましたから 正直、支える気でいるラルクさんが意外です 私が倒れたら避けるような気がしていましたから お酒とジュースを一本ずつ頂きますね お酒はラルクさん、ジュースは私に |
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アドリブ歓迎 うわぁ・・・(ドン引き) なにこれ怖い これ踏むとか無理ムリ ルー君、一人でがんばって うわあぁ、やっぱり気持ち悪・・・くわないけど、見た目的にグロイ! 目玉が、目玉がぐちゅって・・・!? そうだ、見なきゃいいんだよね 見なきゃ・・・ダメだ 想像しちゃって、もっと気持ち悪くなってきた… ルークは楽しそうだねぇ (そっか。温室育ちだもんね。こんなこと、やったことないか) (目玉を見下ろして)・・・うん、普通の人でもこれはないと思うけどね (まぁルークが楽しいならいいか) そういえば恋人同士じゃないんだけど良かったのかな ま、お土産ももらえたし それじゃあ乾杯♪ ん?潰すのと飲むのとは、また別問題だよ ジュース1本購入 |
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※アドリブOK! 心情: ウサギさんからのお願いなら叶えないとね! 何だかんだでロヴィ君も乗り気だし! わぁ、ほんとに目玉みたいだねぇ。 でもブドウなんだよね。見た目が目玉っぽいだけで。 それじゃあ早速作業に移ろっか! 早くおいでよ、楽しそうだよ! 行動: ふふ、プチプチ潰れて面白いね。 孤児院にいた時も、こんな風に足で踏むような洗濯とかしたんだよ。 懐かしいなぁ〜。 っと、うわっ! あ、危なかったぁ……。 ちゃんと気を付けないとだね。 ごめんね。 あ、そうだ!ねえ、向かい合ってさ、両手繋いでもいいかなぁ? ロヴィ君の手、あったかいから好きなんだ。 一石二鳥だね! 帰りにはジュース買って、一緒に飲もうね。 |
●ノリノリ黒猫とドン引き女子
「め、目玉!?じゃなくて、ブドウ?」
のどかな農場にルークの叫びが響く。
先日の野菜ヴァーミンに続いて目玉のブドウ。何だか最近、叫んでばかりだと思うのは気のせいだろうか。
「うわぁ……なにこれ怖い」
その隣ではユラが引きつったような声を出して軽く口元をおさえている。いわゆるドン引きというやつだ。
男性ラビットにルナ・ヴィーニュの試食を勧められ、半ばルークの後ろに隠れるようにして首を横に振るユラ。
一方ルークは「目玉だ目玉だ」と騒ぎつつも、どこか楽しげにルナ・ヴィーニュに手を伸ばす。
「……すげぇ!ほんとにブドウだ!」
ルナ・ヴィーニュを口に含んだ瞬間、大きく目を見開くルーク。そしてその表情はすぐに満面の笑みへと変わった。
「しかもこれ……すげぇ美味いぞ!」
舌の肥えているルークが太鼓判を押すのだから味は確かなのだろう。それでもルナ・ヴィーニュを食べてみる気にはなれないユラの横で、ルークがノリノリで靴を脱いで準備をしている。
「で、これを潰せばいいんだな。よーし……」
ジーンズの裾を捲り上げていたルークが、不意に手を伸ばしてユラの手をつかんだ。
「って、おい。何逃げようとしてんだ」
さりげなく逃げ出そうとしていたところを捕まってしまったユラ。
「これ踏むとか無理ムリ。ルー君、一人でがんばって」
そう言って振りほどこうとするも、ルークが手を離す気配はない。
「二人でやらなきゃ意味ないんだろ。ほら、さっさと終わらせようぜ」
結局、手をつかまれたままルークに引きずられるようにして木桶の中に踏み出すユラ。
「うわあぁ、やっぱり気持ち悪……くはないけど、見た目的にグロイ!目玉が、目玉がぐちゅって……!?」
足の下で果実が潰れる感触は想像していたものに比べれマシだったが、やはりその見た目がユラの顔を引きつらせる。
一方ルークはというと……。
「おぉ面白れぇ!ぷちぷちして変な感触だけど、冷たくて気持ちいいー」
まるで少年のようにはしゃぎながら、狭い木桶の中で足踏みをしている。
「そうだ、見なきゃいいんだよね。見なきゃ……」
妙案を思いつき、ルークにつかまりながら目を閉じたユラであったが。
「ダメだ。想像しちゃって、もっと気持ち悪くなってきた……」
どうやら失敗だったようだ。
肩を落とすユラの横で、ルークが不思議そうに首を傾げる。
「つーか、そんなに嫌か?まぁ確かにちょっとグロイけど」
「ルークは楽しそうだねぇ」
「こんなこと、したことないからな」
満面の笑みで答えるルーク。
(ルークは温室育ちだもんね。こんなこと、やったことないか)
普通のブドウ踏みならば、やっている場所ではやっているだろう。しかし……。
「……うん、普通の人でもこれはないと思うけどね」
目玉なんぞ、そうそう踏む機会のあるものではない。
「それに……」
「それに?」
「いや、何でもない」
まさか「普段動じないユラが困惑してるのが見てて面白い」とは言えずにルークは軽く笑って誤魔化した。
そんなルークの笑顔を見上げ、ユラは諦めたようにため息をつく。
少しは慣れてきたものの、やはり気味の悪いルナ・ヴィーニュ。それでも……
(まぁルークが楽しいならいいか)
ルークの笑顔を見ていたら、なんとなくそう思えてきた。
その日の夕刻。夕食を食べ終えた二人の前にはルナ・ヴィーニュのジュースのボトル。
「そういえば恋人同士じゃないんだけど良かったのかな……」
そんな事を呟きながらユラは栓を抜く。
「ま、お土産ももらえたし……いいか」
その横では少し不満げなルーク。
「ちぇっ、未成年は酒がダメなんて誰が決めたんだよ。ちょっとくらいいいじゃねぇか」
最初はルナ・ヴィンが欲しいと言ったのだが、ユラに「未成年飲酒は禁止」と一刀両断されたのだ。
頬を膨らませて横を向くルークに、ユラがジュースを注いだグラスを渡す。
「それじゃあ乾杯。……ん、美味しい」
芳醇な香りと甘みに顔を緩ませるユラを見て、ルークが不思議そうに首を傾げた。
「つーか、あんなに嫌がってたのに飲むのは平気なのか」
「ん?潰すのと飲むのとは、また別問題だよ」
にっこりと笑って答えるユラ。
(よく分かんねぇ……)
まだまだ互いに未知の部分を残しつつ、楽しかった一日が更けてゆく。
●波立たない二つの心
木桶いっぱいの目玉も、この二人にとってはただの『ちょっと変わったブドウ』でしかない。
「あら…随分変わった葡萄ですね。私は平気ですが、確かにこれは苦手な方も多いでしょうね」
「確かに、なっかなかエグい見た目だな……」
木桶を覗きこみ、淡々と感想を述べるアイリス・ケリーとラルク・ラエビガータ。とはいえラルクは少しげんなりした表情を浮かべている。何故ならグロテスクなものは見慣れているとはいえ今回はあまりにも量が多いし、何より……。
「なんですか、ラルクさん?」
アイリスが平然としてるのが、ますますラルクを萎えさせるのだ。
「少しは怯えるなりなんなりすれば可愛げってものがあるっていうのにアンタと来たら……」
「この程度で怯んでいたら姉に叱られ……」
言いかけたアイリスが、はたと口を閉じる。
「いえ、なんでもありません」
ピシャリと扉を閉ざすような物言いの、その先が少し気になったがラルクだが問いただしはしない。聞いたところで答えないことが分かりきっているからだ。そんなところも可愛げがないと感じられる。
一方アイリスは。
(いけない、余計なことを言いかけてしまいました)
姉の事について口にしてしまった己が軽率さを静かに叱咤していた。そんな胸のうちを悟られぬよう、いつもと同じ穏やかな調子で話題を変える。
「折角の機会ですから踏ませていただきましょう。恋人ではないというのはこちらのラビットさんには黙っておきましょうか」
しーっと人差し指を立てるアイリス。
「やりたいっていうなら仕方ない……」
肩を竦めて頷くラルク。
フリとはいえアイリスと恋人同士になるのは良い気のするものではなかったが、ラルクはとりあえず黙っておくことにした。それらしく見えるよう手を差し出し、共に木桶の中に足を踏み入れる。
「潰した感触、なかなか面白いですね。ふふっ、楽しい」
ルナ・ヴィーニュで満たされた木桶の中で、自分の足元を見ながらそんな事を言うアイリス。
「満足そうなのは結構なことだが、頼むから転ばないでくれよ。巻き込まれて倒れるのはごめんだからな」
アイリスの様子に一応の注意は払いつつも、ラルクはそう冷たく言い放つ。
「大丈夫です、慣れてきましたから」
ニコリと笑ってそう答えるアイリス。しかしその心の中には軽い驚きがあった。
ラルクは面倒ごとに巻き込まれることを非常に嫌う。だからアイリスが倒れたとしても避けるだろうと思っていたのだが、どうやら支える気でいるらしい。まさかこの男にも、他人を気遣ったりできる部分があったのだろうか。
そんな思いが少しだけ顔に出ていたのだろう、アイリスの表情を見たラルクが不愉快そうに眉を寄せた。それでもやはりアイリスに向かって理由を訊ねることはしない。
(俺が非常に不愉快になる気がするからな)
アイリスがもし倒れた場合には支えようと思っているのは、あくまでも、アイリスがルナ・ヴィーニュまみれになったら益々面倒が増えるからという理由だけだ。それ以外の何ものでもない。そのはずだ。
「お酒とジュースを一本ずつ頂きますね。お酒はラルクさん、ジュースは私に」
無事にルナ・ヴィーニュ踏みを終え、男性ラビットからお土産を買うアイリス。
今日はうっかりと、本当にうっかりと、姉のことが口から滑り出てしまった。ラルクがそれ以上のことを突っ込んでこなかったのは、不幸中の幸いというべきだろう。姉の事には誰も踏み込ませるつもりはない。たとえそれがパートナーのラルクであっても、だ。一緒にいるのは、ただの義務なのだから……。
●甘くなあれ美味しくなあれ
知らないものを目にした時の反応は、その人や場面によりいくつかに分かれる。驚きや、恐怖、あるいは興味。
そして今ここで、最上ひろのが示したのは戸惑いという反応であった。
「葡萄……?」
首を右に傾けつつ呟くひろの。その目の前にはルナ・ヴィーニュで満たされた木桶がある。私の知ってる葡萄とは違う、ひろのの表情がそう語っていた。
一方、興味や喜びといった反応を示したのはルシエロ=ザガンである。
「月のワインか、楽しみだ。色彩には目を瞑るとしよう」
鮮やかな色合いのコートを脱ぎ、ためらいもせずに木桶の中に足を踏み入れるルシェ。足の下で果実が潰れる感触と、溢れ出た果汁の冷たさに少しだけ目を細めた。
「オマエも来いよ。意外と気持ち良いぜ」
木桶の中から右手を差し出し、ひろのを誘うルシェ。
ルシェに倣ってまずは上着を脱いで脇に置き、それから葡萄とルシェを交互に見るひろの。そっとルシェの手を取ると怖々と木桶の中に片足を入れる。プチっとした感触。次いで液体が足下で広がるヒンヤリとした感触。敏感なひろのの肌はそれらの感触にぞわりと軽く粟立った。
「ほら……そっちの手も、よこせ」
木桶のふちを乗り越えようとするひろのをサポートするように、ルシェは空いていた左手も差し出す。向かい合うようにして両手をつなぎ、ひろのの両足が木桶の中に着地したことを確認してから、ゆっくりと右手だけを離した。
「はじめるか」
ひろのの右手をルシェの左手が握ったまま、向かい合わせで足踏みを開始する二人。足元に集中しているためか、若干眉を寄せ少し口を尖らせているひろの。その表情を優しい視線で見下ろすルシェの頬には、知らぬ間に笑みが浮かんでいる。
(こういったところは子供だな)
ルシェがそんなことを思った時だった。桶の底に溜まりはじめた果汁に足を滑らせたのだろう、不意にひろのがバランスを崩し後ろ向きに倒れかかる。
「!?」
目を見開くも、とっさの事に何もできずにいるひろのにルシェの右腕が伸びた。ひろのの背中を支えて自分の身体に引き寄せる。
間に合った……と安堵の溜め息をつきつつ、ひろのを抱きしめるルシェ。一方ひろのはというと、思わぬ事態にルシェの腕の中でビクリと身体を硬直させている。
「オマエな、気を付けろ」
ルシェの言葉でようやく状況を認識したひろの。しかし離れようとするひろのの背中をルシェはそのまま拘束する。
「る、ルシェ?」
困惑の表情を浮かべながら、ひろのはルシェの顔を見上げた。その表情に、息を吐くような軽い笑いを漏らすルシェ。
(もう少し慣らす必要がありそうだ)
背中の拘束を解き、向かい合ったまま、今度は両の手でひろのの両手をそれぞれ握る。困惑したように握られた手とルシェの顔を交互に見るひろの。さっきと同じ反応だ。
「また倒れそうになっても面倒だ」
両手をつなぎ合ったことでバランスが取り易くなったのだろう。また踏み潰す感触にも慣れてきたのかもしれない。順調に潰れてゆく目玉、もといルナ・ヴィーニュ。ゆっくりと足踏みを繰り返しながら、ひろのはルシェの顔をチラリと見上げる。
(いっつもルシェから手、握ってくれる)
手を繋ぐことには慣れたけど、さっきのように抱きしめられるのはまだ戸惑う。何故ルシェはいつも自分の手を握ってくれるのだろう……。
(愛の力……、は知らないけど)
「……美味しくできたらいいな」
そう呟いたひろのを見て、ルシェがまた優しい瞳で笑った。
作業を終え、ルナ・ヴィンを3本も購入したルシェに、1本だけのジュースを手にしたひろのが少し目を丸くする。
「……多いね」
「オレに1本。家族に2本だ」
ひろのがルシェの事に興味を示した。さり気ない会話だったが、そのやりとりは、ひろのの変化を確かに伝えていた。二人の関係が本当に甘くなるには、もう少し時間が必要そうだ。
●手に手を取り合って
「早くおいでよ、楽しそうだよ!」
木桶の中からまるで子供のようにはしゃぎながら手招きをするアリス・アンドレア・ロー。
その少しの偽りもないその笑顔を見て、ロヴィン・クラッソは複雑そうな顔をする。
「なんでそう平気なんだよ……」
「だってブドウなんだよ。見た目が目玉っぽいだけで」
こんな気味の悪いブドウ、俺は知らない。
とはいえ今更断ることもできないし、アリスは先に行って待っているし……「こんなの踏めるか!」そう叫びたいのをぐっとこらえて、ロヴィンは恐る恐る木桶の中に足を踏み入れた。
「それじゃあ早速作業に移ろっか!」
果汁で汚さぬようワンピースの裾をつまんで、木桶の中でゆっくりと足踏みをするアリス。狭い木桶の中では自然と互いの顔も近くなる。至近距離から顔を見られることで浮かぶ照れを隠すように、ロヴィンはムスッと顔をしかめた。
「ふふ、プチプチ潰れて面白いね」
そんなロヴィンの気持ちを知ってた知らずか、口を開くアリス。
「孤児院にいた時も、こんな風に足で踏むような洗濯とかしたんだよ。懐かしいなぁー」
孤児院という単語に、ほんの少しだけロヴィンの眉が揺れる。
親も兄弟もオーガに襲われ孤児院で暮らしていたというアリス。どれほど辛かっただろう、寂しかっただろう。今はこうして本当に、心からの屈託のない笑みを浮かべているけれど、こうやって笑うことができるようになるまでには、どれだけのものを越えてきたのだろう。触れることのできぬものの重さに、ロヴィンは少し複雑な気持ちになった。
「もし、寂しいって思った時は……」
俺が傍にいてやらないこともねえ。そう続けようとした時だ。
「っと、うわっ!」
足を滑らせてひっくり返りそうになるアリス。咄嗟に腕を伸ばしアリスの腰を引き寄せるロヴィン。
「あ、危なかったぁ……」
転倒をまぬがれて、互いに安堵の溜め息をもらす。
「気を付けろバカ!」
思わず飛び出してしまったロヴィンの罵声にアリスが眉を下げた。
「ちゃんと気を付けないとだね。ごめんね」
そのしゅんとした表情に怒鳴ってしまった事を後悔するロヴィン。しかしアリスは何かを思いついたらしく、落ち込んだ顔からぱっと笑顔を見せて言う。
「あ、そうだ!ねえ、向かい合ってさ、両手繋いでもいいかなぁ?」
「……繋いでやるよ」
気恥ずかしさを誤魔化すため唇をへの字に曲げながら、ロヴィンはアリスに向かって手を差し出した。その手を取り、嬉しそうに笑うアリス。
「ロヴィ君の手、あったかいから好きなんだ。一石二鳥だね!」
ロヴィンがますます照れるような台詞を平気で口にする。この世で無自覚ほど恐ろしいものはない。
「帰りにはジュース買って、一緒に飲もうね」
「ジュース、楽しみだな」
手に手を取り合ってルナ・ヴィーニュを踏みながら笑いあう。
ウィンクルムとして共に歩き出してから日の浅い二人。アリスの孤児院時代の話のように、踏み込んで行けぬ部分もまだまだ多いけれど。アリスのこの曇りのない笑顔がいつまでも続くように……。
「俺が傍にいてやらないこともねえ」
●戦々恐々興味深々
「何々?ブドウ……じゃない!?め、目玉みたいなんですけど」
戦々恐々のロア・ディヒラー。
「見た目は面妖だが、これは果物なのかね?」
興味深々のクレドリック。
「ルナ・ヴィーニュ?果物なんだ……」
男性ラビットの説明にようやく落ち着いた様子を見せるロア。ルナ・ヴィーニュを勧められると素直に受け取り、パクリと口に入れる。
一方クレドリックはというと……手のひらに乗せられた果実をしげしげと様々な角度から観察し、日に透かし、軽くつついて手触りを確認し、手で仰ぐようにして匂いを嗅ぎ、それからようやく口に入れ、ゆっくりと噛みしめながら、染み出す果汁の味と香りを念入りに吟味するという、何だかとても面倒な工程でルナ・ヴィーニュを試食していた。
傍から見ると馬鹿馬鹿しく見えるかもしれないが、研究者としてはこれが当たり前の姿勢であるとクレドリックは考えている。
だから当然、踏み潰すように頼まれれば……。
「ふむ……ようはブドウ踏みと似たようなものか」
「こ、恋人じゃないんですけどどうしようクレちゃん……」
「未知なる果物の感触、是非とも足裏で確かめてみたい」
恋人ではない事の是非よりは探求欲が勝って、そういう事になる。
真剣な面差しで木桶の中に熱視線を注ぐクレドリックの横顔を盗み見るロア。
(うわっじっとルナ・ヴィーニュ見てる。興味津々って感じ)
こういう時のクレドリックは誰にも止められないと既に知っているロアは、軽く溜め息をついて呟いた。
「ウィンクルムだから少しは美味しくなるかな」
薄汚れている白衣を脱ぎ、木桶から少し離れた場所に置くクレドリック。それから二人で目玉の中に足を踏み入れる。
「わっ、ぷちっとしてじゅわーと来る液体の感触が面白い」
「潰れると果汁が染み出てくるのだな。潰す感触が存外面白い」
口にする言葉は別々だが、抱く感想は同じだ。
「けど精神衛生上、下は見ない方がいいかもね」
そんな事を言いながら足で果実を潰していたロアが、ふとある事に気づいてパートナーの姿を上から下まで凝視する。
「やはり興味深いな。実験用にルナ・ヴィンを1本多く買っておかねば」
「クレちゃんがとんでもない極悪人に見える……」
「……何故だね?私はただ果物を潰して果汁を抽出しているだけなのだが」
「何故って……」
クレドリックの楽しげなその表情が主な原因だろう、と言いかけたとき。
「!?」
ロアがつんのめるように前に倒れかけ……ちょうどそこにあったクレドリックの肩をがしりと掴んだ。
「わっとご、ごめん」
謝罪しようとしてクレドリックの顔を見上げたロアだったが、相手の顔が想像以上に近くにあったことに焦り慌てて横を向く。
(思わず顔そらしちゃったけど不審じゃ無い……よね?)
そんなロアの心中には全く気づいていないのか、クレドリックが淡々と言った。
「よろけては危ないのでこのまま肩につかまったまま踏みたまえ。私の作業には特に支障ない」
いつもと変わらぬその声音に、ロアの中の焦りがすっと解けてゆく。
落ち着きを取り戻し、果実踏みを再開するロア。少し慣れてきたからだろう、足踏みのペースがゆったりとしたリズムを刻みはじめ、いつしか二人の身体は同じペースで左右に揺れはじめる。
「ふふっ。肩につかまったまま足を動かしてるとダンスみたいだね、踊った事無いけど」
と、ロア。
「ふむ、踊ったことなど無いがロアとなら楽しいのかもしれないな……」
応じるクレドリックの顔には笑みが浮かんでいる。自分の顔が自然と笑みの形になっていることと、肩に乗るロアの体温を感じつつ、足踏みを続けるクレドリック。
興味深々。ロアに対しても、未知の果実に対しても、そして自分自身の変化についても……なクレドリックだった。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 白羽瀬 理宇 |
| エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | イベント |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ノーマル |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | とても簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
| 報酬 | なし |
| リリース日 | 09月28日 |
| 出発日 | 10月04日 00:00 |
| 予定納品日 | 10月14日 |

2014/10/03-23:47
2014/10/03-23:46
2014/10/02-07:44
初めまして!
僕はアリス、こっちがパートナーのロヴィン君だよ。
よろしくね〜。
ふふ、美味しいのができるといいね。
2014/10/01-22:34
皆さん、はじめましてだね。
どうも、ユラです。よろしくお願いします。
目玉・・・
2014/10/01-21:05
ひろのちゃんとルシエロさん久しぶりだね。
初めましての方は初めまして、ロア・ディヒラーと申します。
パートナーはディアボロのクレドリックです。どうぞよろしくお願いいたします。
・・・恋人同士じゃないけどが、がんばります。これ、あんまり足元見ないほうが精神的ダメージは少ないかも。白と黒・・・
2014/10/01-11:16
初めまして、アイリス・ケリーと申します。
こちらはラルク(後ろのパートナーを示し)
どうぞよろしくお願いいたします。
2014/10/01-07:07
ロアさん、と、クレドリックさんは、お久しぶりです。
他の人は初めまして。ひろの、です。
よろしくお願いします。

