


タブロス旧市街、東部にて。
パートナーである精霊が握る剣が、オーガを斬りつける。
それは敵の皮を裂き、肉を断つのに十分な一撃だった。
だが、奴はまだ、ぎりぎりで息をしている。
あと1匹、あれさえ倒せば、周囲に動く敵はいなくなるのに。
あなたは木の陰から、相棒を見守っていた。
当初は一緒に、戦うつもりであった。
しかしパートナーに、言われてしまったのだ。
「今回は、敵の数が多い。守れる自信がないから、出てこないでくれ」
「私……私だって、守られるばかりじゃないわよ。今まで一緒にいて、それもわからないの?」
「わからなくはないさ。だが、万が一のことがあったら俺は、どうしたらいいんだ」
吐き捨てるような台詞と、彼に似合わぬ怯えの色を映した眼差しに、逆らうことなんて、できるはずがない。
息を止め、パートナーの最後の一撃に、見入る。
血に濡れた刃が敵の体を裂き、毛むくじゃらの身体が、どん、と地に伏した。
「勝った……勝ったのね!」
あなたは声を上げ、肩で息をしているパートナーのもとに走り寄る。
――そのときだ。
「まだだ、くるな!」
あの敵が、最後ではなかったのだ。
あなたの眼前に、別の敵の前足が向かってくる。
尖った爪が、肌をかすめる直前に。
ざくり。
パートナーの剣が、敵の腹を貫いた。
「大丈夫か!?」
目の前で、絶命する敵。
声をかけてくれるパートナー。
だが、あなたは――。


あなたたちは、目の前の戦いに勝利しました。
精霊には多少の傷はあるものの、命に別状はありません。
あなたは無傷です。
ただ、気持ちの方はどうでしょうか。
この戦いの後ふたりはどうするのか、プランに記載してください。
【注意】
・リザルトは戦闘終了後からになります。戦いの描写はいたしません。
(新たに敵が現れる等、新展開はございません)
・敵については、とくにオーガ(もしくはデミオーガ)の種類を想定していません。
・上記精霊は、イメージとして『剣を扱っている描写』をしておりますが、該当ジョブに制限したものではございません。ご了承ください。
・また、こちらエピソードは、基本的にウィンクルムごとの執筆になります。他の方との絡みを希望の方は、掲示板で相談の上、話を合わせてプランにご記載ください。
こんにちは、瀬田です。
戦闘描写のない、アドベンチャーエピソードです。
こちら、相談期間が長めになっております。ご注意ください。


◆アクション・プラン
夢路 希望(スノー・ラビット)
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(…もう少し、で…) 想像して青ざめ 思わずその場に座り込む …大丈夫、です…ちょっと、腰が抜けただけで… 心配してくれる彼の様子とあちこちに作られた傷を見て胸が痛む …こんなに必死に守ってくれた…助けてくれたのに…私は… 何もできなくて、ごめんなさい ぎゅっと胸元の服を掴み 謝られれば首を横に …私が、もっとしっかりしていたら… 彼だけがこんなに傷を負うことも、こんなに悲しい顔をさせることも、なかったのに そっと身を離し 彼の涙を指で拭う 戦うのは怖いけど…私もスノーくんを守りたい …大切だから 失いたくないって気持ちは一緒 今日みたいなことにならないようにちゃんと気を付けます だから…頼ってください お願いには微笑み 受け入れ |
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あ…大丈夫です はい、と呆然として、言われるままに右手を差し出す いえ…誰かにこんな風に心配されるなんて思ってもみませんでしたから、驚いただけです そのままの意味です エリアスさんの様に心配をしてくれたのは、姉様だけでしたから はい、する訳がありません。そういう人です されたいとも思いません 姉様が心配してくれるだけで、良かったんです 他の人からは心配されたくない、守られたくないと思ってましたし、今も思ってます でも…こうやって助けていただいて 心配されて、嫌だとは思えなかった そう思った相手がラルクさんではなく貴方だということは皮肉ですね …貴方が望むままに 貴方の意思を変える方法なんて、私には分かりませんから |
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ずっと隠れていて終わってから傍に これで終わりですね 怪我、しちゃいましたね 大丈夫ですか? そうですか。それならよかったです。 帰ったらすぐに病院に行きましょうね 私が前に出たところで私に出来る事はたかがしれています むしろ邪魔でしょう 判断は間違っていない、そう思います でも 割り切れない事というのはあるのですね 私は怪我をしていないはずですが、なぜしょうか 針で刺すような、ちくちくとした痛みを感じます 今後もこんな感じの事が続くのでしょうか もっと、強くなりましょうね 私も、貴方も こんな事もあったね、って将来笑って済ませられるような そんな未来が欲しいです だって私達はまだまだ駆け出しですから きっとこれから伸びますよ |
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へたり込む まずは安堵 次に来るのは非力さからくる口惜しさ イリオンと違って戦力にもならず、人々どころか、自分の身を守ることすらままならない 鼻の奥がツンとして、泣きそうになるのをへにゃっと笑って誤魔化す これでウィンクルムだなんて、なんかおこがましい気がしてきた… 笑顔が消え、長い溜息 沈黙 精霊の呟きに顔を上げる 続く言葉にムッとして 私だって落ち込むことくらいあるんです、私と違って強いイリオンさんには分かんないですよ! 当たり前ですよ、こんな非力なのに 現にさっきだって… 項垂れ …ウィンクルムの力… イリオンの言葉に、自分を認めてくれていると感じて嬉しくなる 見慣れない笑顔に跳ねる心臓 うわっちょっと、なにすんっ…!! |
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お疲れさまでした…カイさん は、はい。私なら全然…… 精霊の脇腹が血で滲んでいることに気付き もしかしてカイさん…怪我、 え? で、でも血が…! (カイさんはいつでも自分のことは後回し……でも、それじゃあ…) 駄目です …カイさん 私って頼りない、ですか…? 頼りないから守らないといけない、とか思ってますか…? もしそうなら、私を守らないください… 私は、守られるだけの存在になりたくない …なにかしたいです どんなに些細なことでも良い。なんだって良いからなにかしたいんです…! だから、怪我をしたなら私を頼ってください……! 私はあなたを背負う力はないけど、敵の気を逸らしたり、簡単な手当てくらいならできますっ えっ? あ…はい…! |
●あなたと、並ぶ
血のにじむ左腕を押さえながら、柳楽 源は足元を見下ろす。自身を守っていた光輪は、敵に十分な一撃を与えてくれた。
絶命した体から視線を上げて、周囲を見回すも、動くものは見えない。ほっと安堵の息をついた。
すべてが終わるのを見守り、シェリー・アトリールは、やっとパートナーの傍に寄った。
「これで終わりですね」
源がゆっくりと、シェリーを見る。
普段の彼よりもずっと緩慢な動きに、シェリーは桃色の目をわずかに細めた。
その視線が止まったのは、彼の手が押さえているところ。
「怪我、しちゃいましたね。大丈夫ですか?」
「大丈夫、そんなに深くはないようだから」
いつもの口調、いつもの笑顔を意識して、源は口角を上げる。
当然、痛みを感じないわけではない。だが、不安げなシェリーを、これ以上心配させることはできなかった。
その気持ちを察してか、それとも温厚な性分だからか。彼女も慌てた様子を見せはしない。ただ、帰ったらすぐに病院に行きましょうね、と言った。
「そうだね、帰ったら」
それで話は終わりかと思ったのに。
シェリーは彼の、左側に立った。
怪我をして下ろしたままになっている手の指先に、そっと触れる。
「汚れるよ」
つっと流れた赤いものが、彼女の白い指にうつるのではないか。
そう判断して言ったのだが、彼女は離れることはしなかった。
まだ、シェリーを守りながら戦うには、経験も余裕も足りていない。
だから身の安全を第一としたのだけれど、本当は彼女は、そうしたくなかったのではないか。
源は、離れぬ彼女に、ふと思った。
「大人しく隠れてくれていてありがとう」
だからそう言ったのだが、彼女は「いいえ」と首を振る。
「私が前に出たところで、私に出来る事はたかがしれています。むしろ邪魔でしょう。判断は間違っていない、そう思います」
それならどうして、こんな――指が触れる距離に、近付いているのか。
問うていいのかわからずに口を閉じれば、「でも」とシェリーが続けた。
「割り切れない事というのはあるのですね。私は怪我をしていないはずですが、なぜでしょうか。針で刺すような、ちくちくとした痛みを感じます」
今後もこんな感じの事が続くのでしょうか、と。
まっすぐな瞳に見上げられ、源は怪我から、左腕を離す。
押さえていてもいなくても、痛みが変わるわけではない。それよりはと、一瞬だけ、シェリーの指に、意志を持って触れた。
「お互い無傷ではすまなかったね」
唇に浮かべるのは苦笑。
自分も怪我をして、実力不足を実感したし、シェリーも苦しめた。
だが、この経験は苦くはあれど、初めてお互い同じ感情を共有できた気もしている。
「もっと、強くなりましょうね。私も、貴方も」
シェリーが大きく一歩、踏み出し、そこで、くるりと振り返る。
「こんな事もあったね、って将来笑って済ませられるような、そんな未来が欲しいです」
「そうだね。いつかそうなれば嬉しい」
……まだまだ先は、長そうだけど。
思いながらも、源は彼女を真似て、歩幅いっぱいに前に出た。
「だって私たちはまだまだ駆け出しですから。きっとこれから伸びますよ」
「うん」
シェリーに並び、ふたりはいよいよ歩きだす――も。
地面を踏む振動が、腕の傷に伝わったのだろう。
じくじくと痛みだした箇所に、源は再び手を添えた。
それを、シェリーは見逃さない。
「早く……でも、傷に響かないように、帰りましょう。武器とか私、持ちますから」
「ごめんね。ありがとう」
源は、穏やかな笑みを返す。
そう、ふたりはまだ、ウィンクルムとして、始まったばかり。
伸びしろは、十分すぎるほどにある。
●あなたを、支える
「お疲れ様でした……カイさん」
天崎 美琴はそう言って、カイの正面へと立った。武器をおさめた彼が、顔を上げる。途端、細い両肩を、がしりと掴まれた。
「お前は? お前は、大丈夫だったのか」
「は、はい。私なら全然……」
答えながらも、問う勢いに驚いて、身を引きかける。
その距離が、それに気付くきっかけになった。
カイの脇腹に、赤い染みが広がっていたのだ。
美琴は目を見開いた。
「もしかしてカイさん……怪我」
尋ねる声が、震えそうだ。だってこんなに血が出ているなんて、きっと相当深い傷がある。しかしカイは、それを、一瞥しただけだった。
「怪我? ああ……別に、これくらい大した傷じゃない」
「え? で、でも血が……!」
重ねて言うも、彼はきつい視線で、美琴を見やり、言い放つ。
「大したことない。そう言ってるだろ。俺なんかに気遣うな」
さっき、私を心配してくれた。
それなのに、カイさんはいつでも自分のことは後回し……。
でも、それじゃあ、と美琴は俯き、首を振った。
「駄目です」
「は? ……なんだよ急に」
普段は大人しい美琴が、急に凜とした声を出したことに、カイは驚いたようだった。
その金の瞳を、意を決して、美琴は見上げる。
「……カイさん。私って頼りない、ですか……? 頼りないから守らないといけない、とか思ってますか……?」
声が、震えそうになる。だがそれは、カイも同じだった。
「なんで……」
呟く彼に、美琴はさらに、言葉を重ねる。
「もしそうなら、私を守らないでください……。私は、守られるだけの存在になりたくない」
「守るなってお前、なんだよそれ……!」
思わず一歩、足を出しかけて、カイはそれをやめた。
大丈夫と言った脇腹に、鋭い痛みが走ったからだ。
これがなければ、彼女の細い腕を掴んで、理由を問いただしていたことだろう。
美琴は、苦しそうに顔を歪めた。
そして、胸に詰まったものを吐き出すように、思いのすべてを絞り出す。
……なにかしたいです、と。
「どんな些細なことでも良い。なんだって良いから、なにかしたいんです……!」
なんだっていいから、なにか?
まったく、意味がわからない。
だが、彼女の本気だけは伝わってくるから、性質が悪い。
「なんなんだよ……急に……いつもはオドオドしてるくせに、こういう時だけハキハキ喋るとか」
赤い髪をくしゃりとまぜて、カイはため息をついた。
「頼りないとか思ってるわけじゃない。それが理由で守るとか、そんなんじゃない。……けど、お前の意志、全然考えたことなかった、な……」
自分が彼女を守るのだと、そのことばかりに夢中になっていた。
そんな彼の手を、泣きそうな顔で、美琴がとる。
「だから、だからですね、カイさん。怪我をしたなら、私を頼ってください……! 私はあなたを背負う力はないけど、敵の気を逸らしたり、簡単な手当てくらいならできますっ」
繋いだ手を握り締めると、カイは、小さく呟いた。
「頼れ、か……」
見上げる美琴と、見下ろすカイの、視線が合う。
「じゃあ支えろ」
「えっ? あ……はい!」
美琴はすぐに手を離すと、彼の隣に寄り添った。傷に触れないように注意して、カイの背中に手を回す。
一方カイの方は、体重をかけないように気を付けながら、美琴の肩に手を置いた。
傷は痛む。しかしこれならば、帰るまではもつだろう。
美琴が無事に隣にいて、自分を支えてくれているのだから。
●あなたと、ふたり
目の前で、敵の体が地に伏した。
それを見、藤城 月織の足から力が抜ける。
地面にぺたりと座り込み、足の上に置いた手を見下ろした。
そこにはいつもの明るい彼女はいない。
私はイリオンさんと違って、戦うこともできない。街の人どころか、自分の身を守ることすらままならない……。
目が熱くなり、鼻の奥がつんと痛くなる。
でも、ここで泣いては駄目だと、無理やりに口角を引き上げた。
笑え、笑え。
しかし歪な笑顔は、長続きはしない。
だってこれでウィンクルムだなんて、なんかおこがましい気さえする。
視線の先には、汚れひとつない、きれいな手の甲。
武器をとってもいないから、傷のつきようもない。
いつしか笑顔は消えて、細く長い、息を吐く。
そんな彼女を、イリオン ダークは黙って見下ろしていた。
「珍しいな」
呟けば、月織の顔がゆるりと上がる。
ふたりの視線がかち合って、口を開いたのは、イリオンのほう。
「いや……泣いているのは見たことがあるが、こうやってへこんでいるのを見るのは初めてだと思ってな」
淡々と語られる言葉に、月織の中に、明確な怒りが生まれる。
「私だって落ち込むことくらいあるんです、私と違って強いイリオンさんには分かんないんですよ!」
勢いのままに吐き出して、イリオンを睨み付けた。
イリオンの金の瞳がみるみる大きくなっていく。そして彼は、月織の隣にしゃがみ込んで言うのだ。
「アンタ、自分が弱いと思ってんのか?」
イリオンは、月織の素直さを、強さだと思っていた。それなのに月織は、当たり前ですよ、と唇を尖らせる。
「こんな非力なのに……。現にさっきだって」
飛び掛かってくる敵を前にして、なにもできなかった。
月織は項垂れ、再び地面に視線を落とした。その表情は、長い髪が隠してしまい、よく見えない。
だからイリオンは、頭上から声を投げかけた。
「なあ、敵を屠るだけが、ウィンクルムの戦いか。力だけあればオーガは退けられるのか。ウィンクルムの力ってなんだ、忘れたのか」
「……ウィンクルムの力……」
「どちらかだけじゃウィンクルムは成り立たない、わかっているだろう」
月織は、足の上に置いた手を、握り締める。
そんなこと、わかってる。
――いいえ、今、思いだした。
ウィンクルムは、選ばれたふたりがパートナーとなっていること。
私がいなくても、イリオンさんは戦える。でも、ウィンクルムとして強くはなれない。
はっと顔を上げると、イリオンが、月織をまっすぐに見つめていた。
「俺には俺の、アンタにはアンタの戦い方があるはずだ」
自分を認めてくれている。その言葉だけでも、嬉しかったのに――。
「焦るなよ、相棒」
イリオンが、ふっと笑い、月織の心臓が跳ねた、直後。
「うわっちょっと、なにすんっ……!!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫ぜられて、月織は声を上げた。
でたらめに動き回る色黒の手首を掴もうとするも、それはさっさと離れてしまう。
ちなみにその持ち主も、文句は効かないとばかりに立ち上がった。
「帰るぞ」
短く一言そう言って、歩き始めたイリオンは、もう今まで通りの無表情。
「ちょっと、イリオンさん!」
慌てて腰を上げ、追いかける月織は知らない。
柄にはないことをしたと少々困惑していた、イリオンの胸の内を。
●あなたを、守る
倒れた敵から顔を上げ、スノー・ラビットは周囲を見回した。
視界の端で、夢路 希望が地面に座り込むのが見える。
血の気の失せた、いつも以上に白い顔。すぐにでも駆けて行きたいが、まずは、安全を確認することが先決だ。
足元の敵は、動かない。周囲にも、妖しい影はない。
そこでやっと、スノーは希望へと足を向けた。
しかし俯いている希望は、それに気付かない。
……もう少し、で……。
希望は、敵の攻撃が自らに届いた瞬間を想像し、唇を噛みしめた。
足が、いや、全身が震えている。
落ち着くために胸に手を当てて、深呼吸をした、そこに。
「ノゾミさん……!」
慣れた声に、ノゾミは顔を上げた。
「大丈夫? 怪我は? どこも痛くない?」
スノーに矢継ぎ早に尋ねられ、小さく口を動かす。
「……大丈夫、です……ちょっと、腰が抜けただけで」
「……よかった……本当に、よかった……」
彼は希望の前に、座り込んだ。距離が近くなったからこそ、あちこちに、傷を負っているのがよくわかる。
命にかかわる大きなものは、なさそうだ。だけど、白い肌についた赤い筋は、一度気付けば、ひどく目立って見えて。
……こんなに必死に守ってくれた……助けてくれたのに……私は……。
「何もできなくて、ごめんなさい」
希望は、ぎゅっと胸元の服を掴んだ。
スノーがわずかに小首をかしげる。
「ノゾミさんが無事なら、それでいいんだ」
そう言って柔らかく微笑すると、彼はノゾミの頬にそっと触れた。
さっきまで武器を手にしていた手に、少しだけ埃にまみれた、でも柔らかい温もりを感じる。これは、彼女が無事に生きていることの証だ。
ただ、生きているからいいだなんて、とうてい言えるはずがない。
スノーは頬から手を離し、今度は両腕で、彼女を包み込んだ。
「……怖かったよね……ごめん、ごめんね……」
希望はゆるゆると、首を横に振る。
「……私が、もっとしっかりしていたら……スノーくんだけがこんなに傷を負うことも、こんなに悲しい顔をさせることも、なかったのに」
「僕がもっと上手く立ち回れていたら、もっと強ければ、こんなことにならなかった」
互いの肩に額を当てて呟く言葉が、見事重なり、ふたりは揃って顔を上げた。
希望の黒い瞳が、不安に揺れて、スノーの赤い瞳は、涙に濡れる。
すん、と鼻を鳴らしたスノーから、希望はそっと身を離した。
何も言わず、指先で、頬にこぼれた彼の、涙をぬぐう。
彼女の前で泣いたのは、何度目だろう、とスノーは思う。
瞬きをすると滴は再び流れ落ち、視界がにじまぬことはない。
なぜ泣いているのかは、わからなかった。
自分の不甲斐なさと、彼女を守れたという安堵が、胸をぐるぐる巡り、これじゃ格好悪いと思うのに、希望から、顔を背けることができない。
だからスノーは眉尻を下げつつも、彼女の瞳をじっと見る。
そして彼女も、スノーから視線を外さない。
流す涙が止まる頃、希望はやっと口を開いた。
「戦うのは怖いけど……私もスノーくんを守りたい。……大切だから、失いたくないって気持ちは、一緒だから」
「……うん」
「今日みたいなことにならないように、ちゃんと気を付けます。だから……頼ってください」
スノーは濡れた頬のまま、微笑む。
「じゃあ……手当、お願いしてもいいかな。それから……もう少しだけ、抱きしめさせてくれる?」
「……はい」
そう答え、希望は、彼の背中にそっと手を回した。
自身の背に触れる手のひらを感じながら、スノーは目の前の彼女を抱く腕に、少しばかり力を込める。
絶対に、この温もりを失わない。それは今後変わることのない決意、誓いだった。
●あなたを、案じる
「大丈夫!? 怪我はないかい?」
問われ、アイリス・ケリーは顔を上げる。
呆然としたまま、唇だけを動かして、「はい」と答えた。
そのたった一言に、エリアスが、心の底から安堵したように、眉尻を下げる。だが声には、緊張が残ったままだ。
「さっきやられそうになった手、そっちだけ一応見せて」
差し出された手に、アイリスは言われるままに、右手を載せる。
その白い甲にある傷が目に入り、エリアスは、痛ましそうに目を伏せた。
傷跡は過去と連動し、消えぬ記憶となっている。
だが今は、それを引っ張り出す時ではないと、あえてそれには蓋をした。今は、今の怪我だけを確認すればいいのだ。
そちらは、大きな問題はないようだった。よかった、と今度こそ安心するも、この間、アイリスは一言も発しないままである。
「……どうかした? やっぱり何かあった?」
言いながら、エリアスは、アイリスの全身に視線を這わした。
ぱっと見る限り、他に傷はなさそうだけど。
そう思い怪訝な顔で見つめれば、アイリスは、いえ、と呟く。
「……誰かにこんな風に心配されるなんて思ってもみませんでしたから、驚いただけです」
エリアスは目を瞬いた。
「どういう意味かな?」
問いかけるも、アイリスは平然と。
「そのままの意味です。エリアスさんの様に心配をしてくれたのは、姉様だけでしたから」
そう言って、差し出していた右手を引く。
右の甲に左手を重ね、エリアスを見上げるアイリス。
その頃には、もういつもどおり、はっきりと意志を持った彼女だった。
美しく、落ち着いていて、そう、まるで――。
「彼は……ラルクは、君を心配したり――するわけないか」
「はい、する訳がありません。そういう人です。されたいとも思いません」
表情一つ変えず、アイリスは口にした。そして、傷のついた甲を撫で、目線を落とす。
「姉様が心配してくれるだけで、良かったんです。他の人からは心配されたくない、守られたくないと思ってましたし、今も思ってます」
――やはりか、とエリアスは、内心で頷いた。
『彼女』は、それを心配していた。
両親と妹はお互いに情なんてないし、心配もしない……それを当たり前だって思ってることが、不安だと。
しかしそれを思いだしたからと言って、目の前のアイリスを今、自分が変えられるわけではない。
さて、どう返事をしたものか。考えていると、不意にアイリスが、顔を上げた。
「でも……」
「……ん?」
「いえ」
アイリスは、何かを言いかけた唇を、閉ざしてしまう。
本人に伝えるのは、どうかと思ったのだ。
エリアスに助けてもらって、心配されて、嫌だとは思えなかったことを。
そう思った相手が、ラルクさんではなく貴方だということは――。
「……皮肉ですね」
ぽつりと発した言葉を、エリアスがどう思ったのかはわからない。
ただ彼は、アイリス、と低く呼んだ。
「はい」
返事をする彼女の耳元で、陽の光を受けた赤いピアスが、わずかに輝く。
「俺は、二度目はごめんだ。君が心配だし、守りたい。我儘かもしれないけどね、これだけは譲れない」
風に舞う、茶色の髪。それを手で押さえながら、アイリスは答えた。
「……貴方が望むままに。貴方の意思を変える方法なんて、私には分かりませんから」
それ以外に、どう返事ができるだろう。
人は、誰の意思も変えられない。
誰もが、アイリスの心を曲げられないように。



エピソード情報 |
|
|---|---|
| マスター | 瀬田一稀 |
| エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
| 男性用or女性用 | 女性のみ |
| エピソードジャンル | 戦闘 |
| エピソードタイプ | ショート |
| エピソードモード | ビギナー |
| シンパシー | 使用不可 |
| 難易度 | 簡単 |
| 参加費 | 1,000ハートコイン |
| 参加人数 | 5 / 3 ~ 5 |
| 報酬 | 少し |
| リリース日 | 05月18日 |
| 出発日 | 05月26日 00:00 |
| 予定納品日 | 06月05日 |

2016/05/25-01:54
2016/05/24-23:00
シェリー・アトリールです。
どうぞよろしくお願いします。
のんびりしていたらすっかり挨拶が遅くなってしまいました。
残り時間の関係もあり、私達は単独で参加する事にしますね。
2016/05/22-00:31
アイリス・ケリーと、エリアスと申します。
エピ内でのお話しするのは好きなので、ウィンクルム間で絡みたいという方がいらっしゃいましたら応じたいと思っております。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
2016/05/21-12:42
2016/05/21-00:15

