スノウ・キャンディを探して(如月修羅 マスター)

プロローグ

●スノウ・キャンディを探して
「だれか、ミミといっしょにいってくれませんか?」
 街角で少女がそういって道歩く人々に声をかけていた。
 たまたま用事があってきていた貴方方は足を止めて少女に声を掛ける。
「あ、あのね、ミミね、ママのたんじょうびぷれんぜんととりにいきたいの!」
 話を詳しくきくと、この街から少し離れた山に、スノウ・キャンディと呼ばれる小さな白い花の群生地があるのだという。
 それは料理やお菓子の材料に使われるそうだ。
 蜂蜜を思わせる味がする花らしく、ミミの母親はこの花が大好きなのだ。
「おはなも、くきも、はっぱもあまいのよ!」
 全部使って料理出来るし、そもそもその花は可憐で愛らしく観賞用にもいいという。
 そのため、乱獲をされぬよう大人の両掌ぐらいの籠に入る分……ようは花が2~3株ぐらい分だけ、自由に採ることができる。
「ママのつかってるかご、かりてきたの」 
 もしも一緒に行ってくれるのならば、この街にある役所で籠を借りることもできるという。
 一緒にお花を摘もう? と少女が言った。
「でもね、ママがいってたの。うるふさんがいるんだって!」
 詳しくは役所での話になるだろうか。
 一人で行ってはいけない、必ず大人と行くんだよ、と言い含められていたミミは、内緒で花を採ってきたいらしく家の人たちには絶対に言いたくないという。
「だからね、あのね、いっしょに、いってくれませんか?」
 ミミはお願いします、と頭をさげた。


●役所にて
「では申請を受け付けます」
 名前を書いた後、役所の女性は籠を人数分出してきた。
「それなんですが……どうも普通のではないみたいで。去年と違ってちょっと大きいのだとか」
 まだ詳しく調べてはいないのだが、ひょっとしたらそれはデミ・ウルフの可能性もあるかもしれないという。
「そのウルフは、スノウ・キャンディの群生地の近くで見られたようです」
 そのため、今回向かう際に、出会う率は高いだろうと女性はいう。
「貴方方が大丈夫であれば、軽く調査と場合によっては退治をしてきていただけませんか?」
 調査だけになるのか、それとも戦闘になってしまうのかは行ってみないと分からないだろう。
 勿論ただではない。
 わずかではあるのだがお礼を出すという。
 にこっと微笑み、怪我に気をつけて下さいね、と念を押した。
 暫し後、話し合いが終わったのを見計らい女性が声をかける。
「了承してくださるのでしたら、此方にサインをお願いいたします」
 了承するサインを受け取った女性は、お気をつけて、と皆を送り出した。


「おにいちゃんたち、てつづき、おわった?」
 ウルフさんは怖いから、お兄ちゃんたちの指示にしたがって、迷惑をかけないようにするね! と約束を交わし、山にと歩き出した……。

解説

 山には雪が積もっていますが、うっすらとなので戦闘にも歩くのにも支障はありません
 スノウ・キャンディ群生地まで、一時間程の道のりです


・ミミ
 6歳ぐらいの少女です
 今日誕生日であるお母さんのために、スノウ・キャンディを手に入れたいと思っています
 皆様の指示に従います
 また、危険が迫った場合は自分の意志で、逃げたり隠れたりします


・デミ・ウルフ
 血気盛んなウルフが3匹固まって行動しています
 通常のウルフより一回り大きく、丈夫な毛皮が印象的です
 執拗に追いかけまわし、獲物が弱った所で食い付きます
 また、弱いものを察知する能力は高いのでお気を付け下さい
 今回は3匹のみで、他にはいません


・スノウ・キャンディ
 白い可愛らしい花をつけます
 その花や茎や葉っぱは蜂蜜のように甘く、お茶やお菓子に使われます
 花からは仄かなあまい香りが漂います
 自然を壊さないためにも、2~3株籠に入れる程度にしてくださいますようお願い致します

ゲームマスターより

初めまして、如月修羅と申します。
今回は少女のささやかなお願いをお届けにまいりました。
是非、力をお貸しください!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀

  花も茎も葉も甘いとは珍しいのもあるもんだ
狼さんにはさくっとお引き取り願おうかね

*道中・戦闘
一番後ろから周囲を警戒しつつ目的地へ
足跡などがないか調査もしておく
デミウルフと接触し戦闘になったら後方から援護
突出しない様にしつつ戦う
ミミに攻撃がいきそうになったら庇う

*戦闘後
怪我がないか確認
可能ならデミウルフを埋葬
改めて群生地へ
現場に着いたら自分もスノウ・キャンディを採取
数が獲れねえとなるとさすがに店のメニューにはできんな……
まあいいか、記念ってことで
仕事お疲れさん、後でうちの店で珈琲の一杯でも奢ってやるぜ?

ミミは無事に街まで送り届ける
おうちに帰るまでが依頼だからな
よく頑張った、きっとママも喜ぶだろうよ


羽瀬川 千代
  目的と動機:
安全に、楽しく誕生日プレゼントが渡せるようお手伝いをする
大切な人を想うその気持ちを後押ししたい

持物:
地図/籠/筆記用具

行動:
マフラーと手袋で防寒対策を
ミミちゃんの少し前を歩く
段差や足元が悪い場所は声を掛けたり手を貸すよ
獣の足跡や木々が倒れた場所を見つけたら皆に知らせよう
地図へ印を付けるのも忘れずに
群生地では花を摘みたいけど、ウルフの事が気に掛かるし収穫はできそうにないな

戦闘:
ミミちゃん達と距離を取ってからウルフと対峙
精霊や仲間と連携しその場に足止めする
此処から先へは絶対に行かせないよ

可能ならミミちゃんを家まで送り届けるよ
約束を守って大人と一緒に採集へ行った事、口添えしてあげたいな


スウィン
  母親思いの可愛いお嬢ちゃんのためにも
お仕事頑張りますかぁ

敵さんがどっからくるか分からんから
皆でお嬢ちゃんを囲む形で進もうかね
おっさんとイルドは前の方にいるわ

奇襲に気をつけつつ狼の痕跡がないか調査…
倒すまで安心できないし
いっそさっさと出てきてもらって倒しちゃいたいわ
危険な狼をほっとけないしねぇ

狼が出たらおっさんとイルドは前で戦うわ
無理は禁物よ
お嬢ちゃんからは少し離れて
狼をお嬢ちゃんの方に行かせないようにしたいとこ
神人も「弱いもの」って見られるかもしれないし
お嬢ちゃんじゃなくてこっちを狙ってくれるといいねぇ

狼を倒したらお待ちかね
スノウ・キャンディを少し貰って帰るわ
よかったねぇ、お嬢ちゃん


栗花落 雨佳
  『ママを喜ばせるために1人で…か。可愛いね。ねぇ、僕達もお手伝いしてあげようよ
僕もスノウ・キャンディ見たいな。可愛い白い花なんだって
絵に起こせたらいいな
ミミちゃん、はぐれない様に僕と手をつないで行こう?』

母の為にと張り切るミミを微笑ましく思うが、自身の母親を思い出して少し憂鬱
其れを出来るだけ表に出さない様努めながらミミの歩調に合わせてゆっくりと手をつないで歩く

『お花を摘みに行くのにデミ・ウルフには会いたくないよね…出会いません様に』

不安を口にしつつ、敵と対峙した時はミミを守る様に背後に隠す
襲われそうになったら雪や砂を掴んで投げ目潰し

『絵にすればずっと思い出に残るからね』

花の絵を描きミミにあげる


アイオライト・セプテンバー
  かっこいい男の人ばっかりだから、A.R.O.A.のお仕事好きだよ。まあ、それはさておいて…。
あたしミミちゃんの手を繋ごうかな。
女の子同士だしおんなのこどうしだし(大事なこと・略)。遠足みたいで楽しいでしょ。
それに、いざってときミミちゃんを落ち着かせることもできるかもしれない。
羽瀬川さんに譲ってもらった役だしがんばるっ。
調査って、他にウルフがいないか様子を探ればいいのかな。
もし自然が荒らされてたら、大変だもん。
戦闘はあまり手を出さない。ミミちゃん守らないと。
邪魔にならないよううしろのほうへ行こう。
スノウキャンディはいらないや。
あたしの分をミミちゃんが持ってけばいいや、あたしは雪を持って返るんだ☆


●初めましてのご挨拶
「よろしくお願い致します」
 パタンと閉じるドアの向こうからの言葉を背に、役所を離れる。
 ぽかぽか暖かな陽気が、そろそろ春がくることを伝えてはいるものの、その身に当たる風はまだまだ冷たい。
 そんな気候を好んで咲くスノウ・キャンディは今咲き誇っている事だろう。
 とはいえ、人の身には寒さは堪える。
「ミミちゃんはどこかな?」
「あちらで待ってると言っていたが……」
 羽瀬川 千代が手袋をつけ直しながらきょろきょろと辺りを見渡せば、隣を歩く精霊のラセルタ=ブラドッツが視線を動かす。
 同じように探す二人の視線の先に、ぴょこぴょこと籠を揺らして待っている少女が見えた。
 大勢が動く気配を感じたのだろうか?  
「おにいちゃん、おねえちゃん、てつづきおわった?」
 籠を手に戻ってきたウィンクルム達を見つけてミミが駆け寄ってきた。
 手に持った籠がぶんぶんと振り子のように揺れる。
 そんなミミにとスウィンが視線を合わせた。
「あぁ、終わったよ」
「よかった、ミミ、ちゃんとまってたよ!」
「偉いなー」
 わしわしと頭を撫でてやればミミが嬉しそうに笑う。
 なんだか親子……いや、仲のいい兄弟のように見えなくもない。
 そんなスウィンの様子を見ながら、ちょっと遠くに離れているイルド。
 何も子供が嫌いというわけでも、ましてやミミが嫌いというわけでも勿論ない。
(俺はミミってやつにはあんま近付かない方がいいだろうな。
怖がって泣かれでもし たら厄介だし……)
 ただただそこに居るだけで怖がられる彼は、ミミを余計に怖がらせてはならないと考えているのだ。
 厄介だなどと言いながらも、気遣いに満ちているイルドの行動は、多分伝わっていくだろう。
(スウィンはああいうの相手のするの得意そうだよな……精神年齢同じだからか?) 
 楽しげに笑いあっているスウィンには口が裂けても言えないだろう。
 また、子供扱いされるだろうし。とこれまた心の中で思うに留める。
 同じようにそんなミミとスウィンのやり取りを見つめながら、栗花落 雨佳が微笑つつ隣に居るアルヴァード=ヴィスナーにと問いかける。
「ママを喜ばせるために1人で……か。可愛いね。ねぇ、僕達もお手伝いしてあげようよ」
 問いかけ る、というか、ほぼ強制的なお願いに聞こえなくもなかった。
 僕もスノウ・キャンディ見たいな。
 なんてさらに言葉を紡がれれば、無下には出来ない。
「スノウ・キャンディか……近くで採れるって噂には聞いていたが実際見に行くのは初めてだ」
「可愛い白い花なんだって」
 どうかな、見たくない? と雨佳が小首を傾げて見詰めれば、アルヴァードが今から向かう山の方へと視線をやったあと……今一度自分と契約した神人を見つめる。
「……まぁ、仕方ねぇから付き合ってやる」
 仕方ない、と言いつつも料理人としては気になる様子だ。
「まだ雪積もってんだから暖かい服着ろよ」
 その言葉に雨佳が頷く。
「アルもね?」
 ほわり、と微笑んだその笑顔はとても嬉しそうだった。
 じぃ……とそんな様子を見つめているのは一人の少女……、少女? だった。
(かっこいい男の人ばっかりだから、A.R.O.A.のお仕事好きだよ)
 ということで、心なしか嬉しそうであった。
「まあ、それはさておいて……」
「何がです?」
「あたしミミちゃんの手を繋ごうかな。女の子同士だし、おんなのこどうしだし」
 さらっと問いかけに答えず、大事なことなので二度言ったようだが、少々何か引っかかる感じである。
 さらりと金の長い髪を揺らし笑うアイオライト・セプテンバーにパパ、と呼ばれる白露は知らず溜息をついた。
(……おかしい……。私の人生設計はいったいどこで狂ったのでしょう)
「パパ、どうしたの?」
「アイ……」
 あえて言葉にはしなかったが、お前男だろ、と白露の視線がその答えを伝えていた。


 やがて、楽しげに笑う二人にと雨佳とアイオライトが近づいた。
 そろそろ山へ向かうのならば、ミミの身の安全を図らなければならない。
「ミミちゃん、はぐれない様に僕と手をつないで行こう?」
「そうそう、それに遠足みたいで楽しいでしょ?」
 ミミはアイオライトと雨佳、二人からの申し出に、じゃぁ、二人とも! と答えた。
 右にアイオライト、左に雨佳。
 両手に花とはこのことだろうか。
 なんだか楽しげに鼻歌でも歌いだしそうな三人のさらに後ろ……。
 まだ森ではないが、周囲を警戒しつつ歩くのは初瀬=秀だ。
 のんびりと隣を歩く精霊に聞かせてるわけでもなく呟く。
「花も茎も葉も甘いとは珍しいのもあるもんだ」
「甘い植物……楽しみですよね!」
 イグニス=アルデバランが大きく頷く。
 それに合わせて金色の髪が光を受けて煌めいた。
「楽しみなのはいいが……」
 きらきらと輝いているイグニスの瞳は、自信に溢れている。
 が、しかし秀は少々不安だった。
「張り切るのはいいが無茶と怪我だけはしてくれるなよ……」
「秀様もお気をつけて」
 これから何が起こるか分からない。
 改めてその事実に身が引き締まる思いを抱え、森へと向かっていく……。

 
●スノウ・キャンディへの道
 白い雪が道を彩り、足元からさくさくと雪を踏む音が聞こえてくる。
 鳥の囀りや時折何かが木々の間を駆け抜ける音も。
 リスか何かだろうか?
「こっちのが狐で、あれが……鳥、小鳥か」
 ラセルタが雪の上にある足跡を見て呟けば、同じように見ていたアルヴァードが声をかけた。 
「だと思うぜ。ひょっとしたら狸とかいう可能性もあるけどな」
 ちょこんちょこんとついている足跡は愛らしい。
 千代は不自然に倒れた草木はないかと見てみるが、今の所不自然な所はない。
「これは……狼かな? でも普通の大きさのようですね」
 それっぽい足跡は見つけた物の、それはどうともない普通の物で。
 まだ大丈夫そうか、と地図に書き込みつつ先に進むんでいくそんな中、ミミは楽しげに歌を歌っていた。
「ミミ、楽しそうだな」
「ん、たのしいよ!」
 スウィンの笑顔に、楽しそうな声音が返る。
「パパ、疲れたよ-。おんぶーだっこー」
 そんな二人の様子を見ながら、ついついそう漏らすアイオライトに白露が苦笑を零す。
「ミミちゃんだって歩いてるでしょう?」
「ミミ、ママのおたんじょうびぷれんぜとのためなら、がんばるよ!」
「ほら……アイも頑張りましょう」
 はぁい。とアイオライトもまた元気に歩き出す。
 左の手をぎゅっと握る雨佳は、ほんの少しだけ己の母を思い出した。
(…………)
 少々憂鬱になったのを表にあまり出さないように気をつけたため、気がついたのは一緒に居たアルヴァードぐらいだったかもしれない。
 その視線に気がついたのか、はんなりと微笑み雨佳が囁く。
「このまま、デミ・ウルフに出会わなければいいのだけれど」
「今の所居ないな」
 後ろから警戒している秀が言葉を漏らせば、同じく警戒していたイグニスが気がかりなことを漏らす。
「狼っぽい足跡、結構前からないですね」
「別の場所の方にいってるのかもしれんな」
 イグニスの言葉にラセルタが答える。
 調査なんてめんどくさい……。
 それよりもさっさと狼でもなんでも現れてくれないか、と辺りを警戒していたイルドがふと何かを見つける。
「おい、あれ……」
「ん?」
 それにすぐに反応したのはスウィンだ。
 雪と土が抉り取られたような足跡は、どうも三体程のようで。
「どうも……数は少ないようですね」
 狼の足跡であろうものが数個残っていた。
 だがしかしなんだかそれにしては大きい。
「注意して進んでいった方がいいかもな」
 アルヴァードの言った言葉に、皆再度気を引き締めて歩いて行くのだった……。


 甘い香りとともに、スノウ・キャンディの群生地が目の前に広がる。
 白、白、白……そして甘い、でも嫌な甘さでないどこか清々しさも感じる甘い香り。
 そんなスノウ・キャンディの群生地から少し離れた草木が茂るその場所の違和感に、千代が気がついた。
「待って下さい。あの草……」
 雪の中でも気丈に生えている草が、何か動物が通ったのだろう、倒されていた。
「なんだか……やけに大きいものが通ったようですね」
「あの倒れ具合だと、何度か頻繁に通ってるのかもな」
 ラセルタが己の武器にと手を伸ばしたその瞬間!
 ガサガサと複数の足音が聞こえ、重量があるそれは緊張感をあおってくる。
「お出ましのようですね」
 あとはぶん殴るだけ、と白露も己の武器にと手をかける。
「一体に何に誘われてきたのやら……」
 出会いませんように……その願いは叶うことはなかったけれど。
 雨佳がミミを背後にへと匿う。
 少し怯えたミミをアイオライトがぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫よ。パパも、お兄さんたちも強いんだから!」 
 絶対、守るからね。
 その言葉はここに居る全員の思いそのもの。
「…………」
 イグニスの鋭い視線が、やがて何かの影を捕えた。


●出会ったのは?
 最後まで普通のウルフである可能性も捨て切れていなかったが、姿を現したウルフ達は体が明らかに大きかった。
 デミ・ウルフだ!
「何かあったら俺よりもミミを守れよ」
 騎士っていうのは女性と子供の味方だろ? という言葉と共に走りだしたイグニスの背に、秀の言葉が掛る。
「頼りにしてるぜ?」
「はい!」
 ダークブルーの射程範囲、なによりもミミを守るためにもミミよりも前へ。
 ミミを守るということは、秀を……そして仲間を守る、それこそ騎士道に乗っ取ることになるだろう。
 一番弱いのは、あの中心に居る……一番小さい生物。
 それを見てとった一体がミミに照準を定め、その後ろから二体が援護しようと立ちはだかるウィンクルム達に向かっていく。
「ま、おっさんと遊ぼうよ」
 ずいっと前にでたスウィンの剣が丁度飛びかかってきたデミ・ウルフの胴体部分に当たる。 
(守ってやんねーとな……)
 絶対口にだしてなんか言わないが、そう思うイルドの剣がもう一体のデミ・ウルフを捕える。
「やられんなよ!」
 おう、と答えが返ってきた。
 援護するように白露とラセルタの銃撃が当たれば、キャン! と悲痛な声があがる。
「喜べ駄犬、待てが出来るまで直々に躾けてやる」
 そして、最後の一体。
 なかなかの手誰と気がついたのか。
 どこか隙はないかとうろうろと走り回れば……花を踏み散らす。
「俺の前で食いモン踏み躙るとはいい度胸だ犬っころ! あの世で後悔しなっ!」
 踏み荒らすのを我慢できるものでもない。
 ロッドでぶん殴ってはいけないと誰が決めた、とばかりにアルヴァードが深紅の宝玉が埋め込まれたダークレットでぶん殴っていく。
 その姿を同じく殴ろうとしてたイグニスが小さく笑う。
「……その杖は、殴るもんじゃねぇだろ」
 秀の突っ込みが程良く決まったと同時に、一体が地面と倒れた。


「……」
 雨佳の視線が倒れた一体にと注がれる。
 アイオライトに抱きしめれらたミミが、どうしたのだろう、と覗こうとした所で、雨佳の優しい声音がそれを阻止した。
「ミミちゃん、もうちょっとだからね」
「そうよ、大丈夫……皆を信じよう?」
 小さく頷き、ぎゅっとアイオライトと、伸ばされた雨佳の手を強く握る。
 もうちょっと、この時間が終われば楽しい時間が待っている……。


 ウィンクルムソードがその額に当たれば、二体のうち一体の足元が覚束なくなった。
「ほら、もう一撃いきますよ」
 千代の声音とともに、銃撃が、魔法弾が当たっていく。
 そんな仲間の様子に、自分の不利を悟ったのだろう。
 グルル……と喉を鳴らし、威嚇をしながらもじりじりと下がっていく。
「スノウ・キャンディを持って帰ってもらうのが目的だもの、深追いはしなくてもいいよね?」
 ミミがそんな状況に気がついて声をかける。
「壊滅したいところだが……」
 ラセルタの言葉を受けてスウィンが言う。
「んじゃ、間をとってこいつの命だけ貰っておこうか!」
 すでにふらふらの一体を狙う。
 その隙にまだ体力があった狼が逃げていく。
「俺様が此処までお膳立てしてやったんだ、一撃で仕留めて当然だろう?」
 そんな言葉とともに、額に銃弾を受けたデミ・ウルフが地面にと体を沈めたのだった。


 それからしばしのち。
 今まで調べてきたのを書きこんだ地図を見ながら、皆と話し合っていた千代が結論をだした。
「あの足跡の数と、今出会ったデミ・ウルフを考えますと少なくともこの付近にいるのは三体だったようですね」
「今は倒されて一匹って所か」
「そうだな……」
 倒れた二体のお墓を作っていた秀が立ち上がった。
「そんぐらいで話し合いもいいだろう、ゆっくりと採らせてもらおうか」
 その言葉に、本来の目的のスノウ・キャンディ採るために歩きだす……。


●スノウ・キャンディと戯れの時間
 それは、白い小さな花達だった。
 所々荒されてしまった所もあるが、それは出来るだけ綺麗になおしてやる。
 自然の力は強い。
 きっとまた根付いて育っていくだろう。
 甘い香りが空気を満たす中、雨佳が道具を取り出し絵を描き始めた。
(数が獲れねえとなるとさすがに店のメニューにはできんな……)
 痛んでなくて、これから……というスノウ・キャンディを探しつつ秀が呟く。
「まあいいか、記念ってことで」
 さくっとスコップを地面にと突き刺した。
 一株ずつ丁寧に収穫するのはラセルタだ。持っていくためにメモを書きなおしている千代のために、籠の中へ一つ。
「……まったく、年寄りは世話が焼けるな」 
 次に入れる花を探し、ゆっくりと歩けば、未だに千代は顔も上げない。
「気負うのも結構だが、可憐な花を愛でる余裕位は持てるようにしろ」
 その言葉に苦笑を零していたが、籠に入ったスノウ・キャンディの白さに微笑みを零した。
 採ったスノウ・キャンディをジャムにとするのはアルヴァード。
 邪魔にならぬよう道具は小さい物を持ってきたのか……。
 すぐに出来たそれをジャムの小さな瓶に入れる。
 ちらりと視線をやった先には、ミミがとてつもなく真剣に花を吟味している姿があった。
 その近くでは、スノウ・キャンディよりも雪が欲しい、とアイオライトが雪をせっせと集めている。
 白露が自分達の分をミミに上げようとそっと籠の中へスノウ・キャンディを入れていく。
「採るのも、料理も全部任せる」
 というわけで、スウィンがイルドの分のスノウ・キャンディを採っていく。
 そんな隣で採っていたのはイグニスだ。
「……そろそろ、いいですかね?」
 その言葉に、皆が集まってきた。


 それぞれの籠の中にはスノウ・キャンディ達。
「ミミちゃん、受け取ってくれると嬉しいな?」
 白露経由でアイオライト達のスノウ・キャンディはミミへのプレゼント。
 吃驚したように瞳を瞬くミミに、どうせならスノウ・キャンディだって大切に扱われたいでしょうし? と微笑む。
 ありがとう! と元気に受け取った。
「思い出に残るからね」
 使ってしまったり、時期が終わってしまったらまた次の年まで見ることもできない。
 けれども絵に残れば、それは残るから……。
 雨佳が差し出した絵を受け取り、ミミに嬉しそうな少し照れくさそうな笑顔が広がる。
「量はそんなに作れねぇけどな。紅茶に一匙溶かせばきっと美味い。母ちゃんに雨佳の絵と一緒にプレゼントしてやれ」
「うん、ありがとう! ミミね、きょうのこと、ぜったいわすれないよ!」
 お兄ちゃんとお姉ちゃんたちが、ミミのこと守ってくれたんだもんね! と今日あったことを確かめるようにゆっくりと言い切った。
「さぁ、そろそろ戻ろうぜ」
 お母さんの誕生日なんだろう? イルドの問いかけに頷く。
「そうですね、もう一度きちんと片づけをしてから帰りましょう」
 白露の言葉に、皆が帰路につく準備を始める……そう、素敵な誕生日にするために! 


●スノウ・キャンディと甘い時間
 全てが終わって、今一度お墓に手を合わせたその後。
「おにいちゃんたち、ありがとう!」
 ミミがしっかりと籠に入っているスノウ・キャンディを確認したあとにっこりと微笑んでお礼を言った。
「ミミちゃん、お家まで送ってもいいかな?」
(約束を守って、大人と一緒に採集へ行ったこと、伝えてあげたいな)
 その千代の思いが伝わったのだろう。
 ミミが大きく頷いた。
 それを受け、皆がまた来た道を……今度はただただ楽しい時間を共に過ごしながら帰っていく……。


 街に無事つき、ミミが送ってもらったその先には、朝から姿を見せない娘を心配していた母親が娘の姿を見て安堵したように微笑んでいた。
 とても似通った亜麻色の髪に、穏やかな光を宿した瞳がウィンクルムの面々を見つけて不思議そうに瞬く。
「ママ、これ!」
 小さな籠からぴょこんと見える白い花と、そして数株だけとはいえ漂う甘い香りに、それがすぐに自分の大好きなスノウ・キャンディだと母親が気がついた。
 そんな様子に千代が微笑みを零す。
「ミミちゃんはちゃんと大人の言いつけを守って、大人を探していたんですよ。そして俺たちが一緒にスノウ・キャンディを採りに行ったんです」
 千代から説明を受けた母親が大きくお辞儀をした。
「ありがとうございます」
「ミミはいい子だな……俺達の願いを聞いてくれたおかげで、助かったぜ」
 アルヴァードがそう言えば、ラセルタも頷く。
「まぁ……ふふ、ミミ、とても素敵なお兄さんとお姉さんに手伝ってもらったのね?」
 アイオライトは女性ではないのだが、やはり気がつかれなかった。 
 白露が天を仰いだように見えたのは、気のせいではないかもしれない。
「……」
 とはいえ、わざわざ訂正するほどでもないかと息を吐く白露。
 なんだか苦労が絶えない精霊です。
「もしよろしければ、お菓子とケーキをご馳走したいわ」
「ママのつくったけーき、とってもおいしいんだよ!」
 ミミもきらきらと皆を見つめる。
 それはもちろんスノウ・キャンディを使った自慢の一品だ。
「邪魔させてもらうかね」
 秀がそんな二人の視線に微笑を零した。
 お店で珈琲を奢るつもりが、逆に頂くことになりそうだ。
 それもまた楽しい思い出になるだろう。
「どんな感じでしょうね」
 イグニスがわくわくを隠せずにそう言えば、スウィンがまぁ御馳走になったら分かるんじゃね? と笑う。
「……」
 入っていいものか、と自問するイルドの肩を叩いて促す。
「雪、溶けないかなぁ……」
 雪見風呂をしようと持ってきた雪を心配げに見るアイオライトにと気がついた母親が、冷凍庫があるからそこに入れれば大丈夫でしょう、と微笑んだ。
「良かったですね」
 雨佳が言えば、安心したようにアイオライトが微笑む。
 すでに先に行った仲間達が、早くおいでと手招きしていた。


 やがて、一歩足を踏み入れたその先に、甘い香りと暖かなお菓子と温もりが広がって。
 そうやって暫しの時間、楽しく甘い時間を過ごしたのだった……。
 それは、きっとスノウ・キャンディのように甘く、とても楽しい時間の思い出となっただろう。
「また、らいねんね!」
 きらきらしたミミのその笑顔が、依頼の成功を伝えていた……。



依頼結果:成功
MVP:なし

エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 少し
リリース日 03月06日
出発日 03月14日 00:00
納品日 03月22日

 

参加者

会議室

  • [18]初瀬=秀

    2014/03/13-23:58 

    ギリギリになったが俺も提出済みだ。
    当日はよろしく、良い誕生日にしてやろうぜ。

  • あたしもプラン書いたよーっ♪
    もうちょっとだけ直すかもしれないけど、これでひとまずは大丈夫…だといいなあ。

  • [16]スウィン

    2014/03/13-20:20 

    珈琲楽しみにしてるわ~♪

    おっさんもプラン提出済み。頑張りましょ~ね。
    今日が最終日よね。出し忘れないように注意よ!

  • [15]栗花落 雨佳

    2014/03/13-03:09 

    一応、プランは提出したので白紙は免れました…。

    やっぱり戦闘は難しいので、殆ど心理描写ですけども…(文字数的にも厳しいですし)

    >秀さん
    はい……無茶するなって言って聞き入れてくれるかどうかは分かりませんけども…(苦笑)

  • [14]初瀬=秀

    2014/03/11-02:05 

    あん?俺みてえなおっさん構ってる暇あったら若い子と遊んどけってのスウィン。
    ま、店くりゃ珈琲くらいは奢ってやるよ。

    あれだな、やられる前にやれ。
    他で牽制しつつエンドウィザードが火力で仕留めるのが安定ってことか?
    とりあえずうちのイグニスは後衛やらせとく。
    俺も前出ようかと思ったがそれやると多分ついてくるからな……
    移動の時点から最後尾で警戒してようかと思ってるわ。

    栗花落んとこの相方はまあ無茶しねえようにな。防御力は大体みんなどっこいだ、気にすんな。

  • [13]羽瀬川 千代

    2014/03/11-01:59 

    少ない手数で攻撃が決まるように、何かしらお手伝いできたらいいんだけど…。
    網とか、大きな音の鳴るような道具があったら少しは隙が作れるかな?

    あ、ラセルタさんも前衛で迎え撃つそうですが体力、防御力共に低めなので
    ある程度ウルフを弱らせたら攻撃力特化の精霊さんにパスするかもしれない、との事です。

    アイさん>
    此方こそ引き受けてくれて有り難う、当日は宜しくお願いします!

  • [12]栗花落 雨佳

    2014/03/11-00:18 



    特にエンドウィザードとハードブレイカ―は防御力を犠牲にした攻撃力特化のジョブですからね…。寧ろもう一撃で決める位の勢いで行かないと……。

    僕の相方も防御力2(!!)とかなので、前衛はちょっと心配なのですけど、食材の事になると張り切っちゃうみたいで…。

    でも今回はオーガで無く、デミ・ウルフなのでトランス状態にならなくても戦闘できますし、何とかなる……かな…(自信なさ気)

  • あ、本当だ。うちのパパも装甲が紙だ……(今気が付いた)

    羽瀬川さん>
    気を遣ってくださってありがとうございます。
    実はミミちゃんちょっと気になってたんで、嬉しい、素直におことばに甘えることにするね♪

  • [10]スウィン

    2014/03/10-20:21 

    あら~。初瀬の旦那は、同じおっさん同士仲良くしてちょ~だい♪

    陣形はりょーかいよ。お嬢ちゃんの事はよろしくお願いね~。

    そんじゃおっさんは木の上でお昼寝…ってのは冗談で。
    今なら精霊より神人の方が防御力あるし
    おっさんも前に出ようかと思ったけど…体力が少なかったわ。まあ、大丈夫かねぇ?
    神人も「弱いもの」と見られるかもしれないし
    逆にお嬢ちゃんから少し離れて、敵の狙いを分散できたらいいかね~と思ってるわ。
    イルドも前衛よ。装甲紙だけど。

  • [8]羽瀬川 千代

    2014/03/10-16:01 

    アイさん>
    もし良かったら、俺の代わりにミミちゃんを護る役をしてもらえないかな。
    立候補はしたけれど、幸い体力はあるし攻撃側に回ろうかと思って。
    それに、年齢の近そうなアイさんが側に居てくれると
    ミミちゃんも安心できるんじゃないかと思うんだ……どう、かな?

  • あーなるほどー。<調査 教えてくれてありがとう
    戦闘も調査もちゃんと出来るようがんばるね、パパが。

  • [6]栗花落 雨佳

    2014/03/10-00:17 



    調査は花を荒らした跡が無いかとか、デミオーガの痕跡が無いかってところじゃないですかね?
    調査する前に戦闘になる可能性もありますけども……。

  • 遅くなってごめんなさい、アイオライト・セプテンバーだよ。短く「アイ」でどうぞ♪
    あたしも初瀬さんの案に賛成。うーんと、ミミちゃんの側の立候補の人がもう二人いるんだね。じゃ、あたしは別にしよっと。かといって前線ってタイプでもないから……どうしよ、パパを応援してればいいかなあ。でも深入りは禁物かなーうーーん?

    ところで調査って具体的になにをすればいいのかな?

  • [4]栗花落 雨佳

    2014/03/09-22:49 

    こんばんは。栗花落雨佳です。

    みなさんはじめまして。スウィンさんは今回もよろしくお願いしますね。

    わぁ……。やっぱり警戒しないといけませんよね…。
    僕はあんまり戦闘は得意じゃないのですが、ミミちゃんを守る為にも頑張らなくてはいけませんね。
    出来れば僕もミミちゃんの側で守る役が出来れば良いなと思います……。

    あ、僕の相方は前の方がいいみたいです。スノウ・キャンディーに凄く興味があるみたいで、
    そこに出没する様なデミ・ウルフは駆除してやるって凄く乗り気なので…。

  • [3]羽瀬川 千代

    2014/03/09-22:29 

    こんにちは、羽瀬川 千代と申します。宜しくお願いします。

    お二人の仰る通り、戦闘の心構えはしっかりとしておきます!
    調査だけで済めばそれでも構わないけれど、備えあれば憂いなしですよね。
    スノウ・キャンディ群生地への道のりは事前に下調べしておこうと思います。

    ミミちゃんを不安にさせたくないし、回復役も居ないから長期戦は避けたいですね。
    隊形は初瀬さんの案に賛成です。
    もし良ければ、俺はミミちゃんの側で護る役に立候補します。

  • [2]初瀬=秀

    2014/03/09-17:09 

    まさかのおっさん被りか……世間狭いな
    初瀬だ。初瀬 秀。よろしくな。

    後衛が多いな、というかほとんどディアボロか……まあそれはいいとして。
    戦闘があるもんだと思って備えた方がいいだろうな。
    デミなら俺ら神人でもギリギリ相手できそうか……?

    どっから来るかわからんからな、ミミを真ん中に囲む形で向かって、
    戦闘中はスウィンが言ってるみてぇな感じで2人くらいが護ってやりゃいいんじゃないかね。

  • [1]スウィン

    2014/03/09-14:25 

    こんちは。おっさんはスウィンって~の。
    お初のやつもそうでないやつもよろしくぅ。

    こっちの戦力は
    エンドウィザード2
    プレストガンナー2
    ハードブレイカー1

    敵はデミ・ウルフ3
    戦闘になるかは分からないってことだけど、出会う確立は高いみたいだし
    倒しとかないと安心できないかね~。
    弱いものを察知する能力が高いってことだから、お嬢ちゃんが心配だわ。
    神人か、あんまり動き回らなそーな精霊がお嬢ちゃんの傍にいるといいかね?


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