【バレンタイン】真夜中の迷路を二人で(雪花菜 凛 マスター)

プロローグ


真夜中の巨大迷路へようこそ!

タブロス市近郊にある、とある貴族の屋敷にある広大な庭園。
その生け垣を迷路に改造したテーマパークがあります。
真夜中の0時にスタート。
3ヶ所のチェックポイントでスタンプを押し、夜明けまでにゴールを目指すアトラクションです。

ただ、この迷路、少しばかり特殊な仕掛けがありました。

迷路へは、必ず二人一組で入るようになっています。
迷路の中は、電飾により明かりが確保されていますが、人工的に発生させた濃い霧で、数メートル前が見えません。
このため、迷路に入る二人の手は、逸れないように手錠で繋がれます。
この手錠は、ゴールまで外してはいけないルールです。(外した場合は失格となります)

また、丸太や縄で作られた木製遊具が行く手を阻みます。
ネットの壁をつたう綱渡り、丸太の橋やトンネルを、パートナーと協力しながら切り抜けてください。

迷路の壁となる生け垣には、電飾が飾られ、幻想的に闇を照らします。
遊具を避け、のんびりとお散歩気分で、迷路を楽しむのもいいでしょう。
疲れた時は、所々に設けられている木製ベンチで一休みも可能です。

3ヶ所のチェックポイントにはスタッフがおり、チェックシートにスタンプを押してくれます。
併せて、高台が設置されています。
高い程、霧は薄くなっていますので、高台からは順路を確認することができます。

迷路を抜け、無事にゴールすると、お屋敷で美味しい食事が楽しめます。
ゴールの余韻に浸りながらの食事は、格別に美味しいものとなるでしょう。

万一、夜明けまでにゴールできなかった場合も、スタッフが助けに行きますので、ご安心ください。

なお、迷路内は濃い霧で、数メートル前が見えません。数メートル前が見えません。
(大事な事なので、重ねてご案内しました)
周囲の目を気にせず、パートナーにバレンタインのプレゼントを渡すには、絶好の機会です。

真夜中の迷路で、楽しい一時をお楽しみください!

解説

・手錠は、比較的簡単に壊せる作りですが、明らかに故意に壊したり外したりすると失格となりますので、ご注意ください。

・事故で手錠が壊れた場合は、手を繋いで行動してください。
 また、チェックポイントのスタッフにご申告をお願いいたします。
 スタッフで手錠の状態を確認し、新しいものへ交換します。

・生け垣はかなりの高さがありますので、肩車やジャンプでは対応できません。
 また、生け垣を飛び越えていくような行為は反則と見なされ、すぐに退場させられます。

・木製遊具は、基本プロローグに記載したものが登場しますが、こういった遊具で遊びたいという案があれば、奮ってプランへお書き添えください。可能な限り、反映させていただきます。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、雪花菜 凛(きらず りん)です。

迷路って、とってもワクワクしますよね!
迷子になって、焦ったり心細くなったりもありますが、ゴール出来た時の感動はプライスレスです♪
今回は、是非、パートナーさんと協力して、絆を深める切欠にしてください。
複数人で、ワイワイしながら進むのも大歓迎です!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイヤ・ツァーリス(エリクシア)

  こんな時間まで起きてるのって初めてだなぁ……。
母様や父様からは身体が出来上がっていないうちは早めにねなさいっていわれているから。
えへへ、でもエリクと一緒なら大丈夫だよね。
ちゃんと迷路、クリアできるように頑張る……。

んと、巨大迷路って左手側に手を置いて行くと迷わないんだよね……?
あぅ、でもそうやると全部回っちゃう可能性もあるんだよね。
だとするとやっぱり遊具がある道の方が当たり、かなあ。
苦手な人でもクリアできるかな。あたってくだけろ?

無事にクリアできたら甘い物を食べたいなっ。
あとね、ごはんもたべたいなっ。

※緊張したりエリクシアや家族以外の年上を前にすると「~、です」というぎこちない敬語になります。


ライ クロスロード(ルドルフ ガルキュリア)
  現地に辿りつくと想像以上の巨大迷路に若干怯むが、弱音を吐けないメンドクサイ神人なので
「ふん。まぁ余裕だな!俺が華麗に攻略してやるし」とライは方向音痴の癖に強がったり

そんな様子をニヤニヤと笑いながら
「ま、お手並み拝見してやるよ」とルド

しかし案の定道に迷い涙目に
「くそ!霧が濃いせいだ!!」
引きずられる様に付き合わされているルドは、
「華麗に攻略するんじゃなかったのかよ」とクスリ
「あー…腹減ったわ。早く出たいんですけど」と
からかいながら、焦るライを面白そうに眺め
「……は、腹減ったなら、これでも食ってろ!」
とカカオの精霊から受け取っていたチョコそのまんまをルドの胸に押しつける(彼なりのプレゼント方法)。


ファウスト・アルジェント(リュシアン・シュヴァリエ)
  準備:
非常食のチョコやキャンディ、ポケットにINしてるのを確認。
非常食だから。常備じゃないから。チョコはラッピングされてるけど時期ものだから。

迷路:
遭難はしない。しないってば。努力目標。
片手を壁から離さずに歩いていけばいつかは出口に出るって聞いた。

手錠の長さ確認。壊さないように気をつける。リュシィもあまり引っ張らないで。
分岐はカンで選ぶか、片手法に挫折してなければ道なりに進む。リュシィにも意見を聞く。
黙って歩くのも何だし障り無い範囲でお互いの事を軽く雑談。
遊具は回避(面倒くさがり)

疲れてきたら非常食。糖分摂取大事。
リュシィにも渡す。自分一人で食べるのは気が引けるし美味しくない。いいから食え。


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  ・心情
ちょっと眠いけど迷路楽しそう! はりきるよー。
あとゼクへサプライズできたらいいな。
僕に付き合ってくれてる彼へ、僅かながらの感謝を籠めて。

・行動
ゼクと二人一組で迷路攻略。
手錠を掛けたらレッツゴーであるー!
とはしゃいでいたら予想以上に脆い作りの手錠が壊れちゃったり?
その時はスタッフさんごめんなさいと新品交換へ。
それまで手繋ぐわけなんだけど……いや繋いでくれるのか……うーむ。

遊具は避けないよ全力アタックだよ。
あえてトンネル等の高身長には辛いものを選択だ。
小柄な体躯が役に立つときだってあるんだからなっ><

ゴールの暁には「参加賞です、お疲れさまー」とチョコをゼクへ押し付け。
いつも通りの調子でね。


ノクト・フィーリ(ミティス・クロノクロア)
  ミティスといっしょにゴールをめざすよ。いっしょに美味しいごはん、たべたいなあ。
でも視界もよくないし、ケガしないように安全にいかなきゃねっ。

迷路をすすんでいるあいだは、黙々と進むんじゃなくて、いろいろお話しながらいきたいなあ。
どんなものが好きとかまだそんなに知らないし、これからいっしょに過ごすことも多くなるだろうから、ちゃんとミティスのこと知っておきたいんだ。


★メイスフィールド家主催★
 真夜中の迷路のルール

 ルールその1.
 迷路へは、必ず二人一組で入る。

 ルールその2.
 迷路へ入る二人は、手錠でお互いの手を繋ぐ。
 手錠が壊れた場合は、手を繋いで行動する。

 ルールその3.
 手錠を故意に壊したり外したりすると、失格とする。
 手錠が壊れた場合は、必ず申告の上、チェックポイントにて、新しい手錠に交換する事。

 ルールその4.
 生け垣の壁を飛び越えるような行為は、反則とみなし、退場とする。

 以上。


 0時を知らせる時計の鐘の音が、澄んだ夜空に響きます。
 それがはじまりの合図。

 さぁ、真夜中の迷路のスタートです!


●1

 チョコにキャンディ……うん、ちゃんと入ってる。
 ファウスト・アルジェントは、ごそごそとポケットを確かめて小さく頷いた。
 準備は万端だ。
 視線を上げると、視界には濃い霧。
 生け垣へ設置された電飾の光が、幻想的に淡く輝く。
 彼の隣では、パートナーであるリュシアン・シュヴァリエが、二人の手を繋ぐ手錠を眺めていた。
「リュシィ。手錠、壊さないようにあまり引っ張らないで」
 手錠の鎖は長くない。
 おまけに強く引っ張ると壊れそうで、ファウストはそう声を掛ける。
「あぁ、分かっている」
 リュシアンは瞳を細めると、手錠が嵌る手を下ろしファウストへ視線を向けた。
「で? どう動く」
 二人の前には分かれ道。
 右へ行くか、左へ行くか。リュシアンの青色の瞳が尋ねる。
「片手を壁から離さずに歩いていけば……いつかは出口に出れるって聞いた事がある」
 だから、ファウストの自由な右手は、スタートからずっと生け垣に触れていた。
「では、右か?」
「……リュシィはどう思う?」
 逆に尋ね返すと、リュシアンは思案するように分かれ道へ目線を投げる。
「片手法は悪くない方法だ」
「よし、じゃあ、右へ行こう!」
「了解した」
 二人は右の道へ歩を進める。
 進んだ先も、同じような生け垣が続いていた。
 本当に、こっちの道でよかったのか?
 もやもやとファウストの胸に不安が立ち込める。
「遭難はしない。しないってば」
 思わず目標を口に出せば、リュシアンがクスリと笑った。
「遭難はしないさ」
 少しドキリとする。励ましてくれたのだろうか。
 そう彼を見上げると、リュシアンは淡々とこう述べたのだ。
「ゴール出来ない場合は、スタッフが救助に来ると説明があっただろう? だから、遭難はしない」
「……確かにそうだけどさ」
 そういう問題じゃないだろうと、ファウストは唇を尖らせたのだった。


 もう一組。同じく片手法を使い、迷路に挑む二人が居た。
「エリク、どうしよう……」
 セイヤ・ツァーリスは不安げに紫の瞳を揺らし、執事服に身を包むパートナーを見上げた。
 二人の目前には、網のネットが広がっている。
 その下は池になっており、どうやらこれを伝っていかないと、向こう側には行けないようだ。
「セイヤ様、一旦道を引き返しましょうか」
 柔らかく微笑んで、パートナーであるエリクシアはそう彼を促した。
 『網から落ちたりして、セイヤが濡れたり怪我をしては大変だ』と、顔に書いてある。
「でも、エリク。そうしたら、迷ってしまわない?」
 ここまで折角左手側に手を置いて回って来たのに、その行為が無駄になってしまう。
 セイヤはきゅっと拳を握ってから、真っ直ぐにエリクを見た。
「あのね。手錠に繋がってるから、エリクの足を引っ張っちゃうかもしれないけど……僕、挑戦してみたいんだ」
 エリクシアとの初めての巨大迷路。ちゃんとクリアしたい。
 そんな想いを込めて、彼を見つめる。
「勿論、エリクがよければ……なんだけど……」
「……仕方ないですね」
 エリクは小さく息を吐き出してから、セイヤに手を差し伸べる。
「私がお守りいたします。行きましょう」
 彼の青色の瞳は、とても温かく感じた。
「ありがとう、エリク!」
 パァッと花が咲くようにセイヤは微笑み、その手を取ったのだった。


●2

「ふん。まぁ余裕だな! 俺が華麗に攻略してやるし」
 ライ クロスロードは、ビシッと迷路の入り口を指差し、そう宣言した。
「ま、お手並み拝見してやるよ」
 そんな彼を面白そうに眺め、ルドルフ ガルキュリアは二人を繋ぐ手錠を楽しげに撫でた。

 それから一時間。
 ライは心から、己の発言を後悔していた。
 正直、強がってた。
 方向音痴なのは……不本意ながら自覚がある。
 けど、ちょっとだけ舐めてた。所詮アトラクションだし、と。
 いざとなれば、他の客に付いていけばいいか……などと考えていたが、濃い霧はそんな彼の希望も阻んだ。
「くそ! 霧が濃いせいだ!!」
「華麗に攻略するんじゃなかったのかよ」
 涙目になっているライに、ルドルフは意地悪く揚げ足を取る。
「……霧さえなければ、こんな迷路、楽勝だったんだよッ」
「もう過去形にする気か?」
 ヤレヤレとルドルフは肩を竦めた。
「もう少し頑張ってもいいんじゃね?」
「そんなコトないし! 言われなくても、ちゃんとゴールするしっ」
 余裕のあるルドルフの態度が、ライの闘争心に火を付ける。
 再び迷路へ立ち向かうライを眺め、ルドルフは喉を鳴らして笑うのだった。


 手錠を掛けたらレッツゴー!の筈が……。
「こ、壊れちゃった!?」
 柊崎 直香は、鎖の切れた手錠を目を丸くして眺めた。
「壊れたな」
 直香のパートナー、ゼク=ファルは眉間に深く皺を刻む。
「ったく……直香がはしゃぎ過ぎるから」
「壊れたら、手を繋がないといけないんだっけ?」
 直香はじっとゼクの手を見つめた。
「繋がないと、失格になっちゃうんだよね」
 直香の視線がゼクに突き刺さる。
「……ホラ、貸せ」
 ハァーと大きめの溜息を着くと、ゼクは直香に手を差し伸べた。
「ゼク、ありがとう!」
 直香は差し出されたゼクの手に、己の手を重ねて歩き出す。
「次はどっちへ行くんだ?」
「ルート選択はゼクへお任せだよ」
 あっけらかんとした答えに、再びゼクの眉間に皺が刻まれた。
「お前が来たいって言ったんだろうが」
「だって、僕に任せるとタイムオーバーコースだよ? ずっと手繋いだままだよ?」
「……」
 ゼクはこめかみ辺りを指で押さえた。
「チェックシートも寄越せ。お前に任せたら……忘れそうだ」
 深い溜息と一緒に、直香からチェックシートも受け取ったのだった。


●3

 ノクト・フィーリは、のんびりと迷路を楽しんでいた。
 視界が良くないため、ケガしないように安全にゆっくりと、パートナーとゴールを目指している。
「見て、ミティス! あの電飾、すっごく可愛いね」
 生け垣に犬や猫を象る電飾を見つけ、指差しパートナーへ教える。
「えぇ、本当に。霧の効果でぼんやりと浮かぶ様も、実に美しいね」
 ミティス・クロノクロアは、柔らかな微笑で頷いた。
 迷路をただ歩くだけなら、少し退屈だったかもしれない。
 しかし、迷路の壁となる生け垣には、様々な彩りの電飾が設置されており、そのイルミネーションで視界を楽しませてくれていた。
「このような素敵な仕掛けを用意した、この庭の主はどのような方なんだろうね」
「ゴールしたら、会えるかな?」
「そうだといいね」
「うん。……っと!」
 頷いた瞬間、ノクトが小石に躓き、軽くたたらを踏んだ。
「ノクト! 大丈夫?」
「へ、平気。驚かせてごめんね。視界が悪いから……」
 恥ずかしそうに笑った後、ノクトは恐る恐る言葉を続ける。
「あんまり前が見えないのってちょっと不安で……。あのね、できたら手を繋いで欲しいなって」
 言いながら、ノクトは自分の顔が熱くなるのを感じた。
「手を繋いでたら、手錠が壊れる心配もないでしょ?」
「なるほど、一理あるね」
 ミティスは頷くと、ノクトへ手を差し出す。
「ノクトが転ぶと、私も転ぶ事になるからね」
「……うん!」
 二人の手が重なった。


「これで、スタンプ3つ目!」
 チェックポイントで、セイヤが華やいだ声を上げた。
「あとはゴールするだけですね」
 喜ぶセイヤを見て、エリクシアも穏やかな微笑みを浮かべる。
「おめでとうございます! あと少し、頑張ってくださいね」
 黒尽くめの執事服に身を包んだ男性スタッフが、セイヤのチェックシートにスタンプを押した。
 花マルのスタンプが三つ並ぶ。
「ありがとう、です!」
 セイヤはスタッフにお辞儀をして、チェックポイントを後にした。

「エリクが助けてくれたから、ここまで来れたよ。ありがとう」
 ゴールを目指し歩を進めながら、セイヤは感謝の眼差しをエリクシアへ向ける。
「セイヤ様が頑張ったからですよ」
 ゆるく首を振るエリクシアの金色の髪が、電飾に照らされて光った。
 綺麗だなぁと思ってから、よしとセイヤは小さく頷く。
「……エリク、少し待って」
 セイヤはそう言って立ち止まると、鞄から可愛くラッピングされた袋を取り出した。
「これ……エリクに。中身はクッキーだよ。母様と一緒に、お世話になった人に渡そうって思って作ったんだ」
「私に?」
 驚いたようにエリクシアの目が軽く見開かれた。
「うん、エリクに。ま、まだ好みもわからないから……ふつーにふつーのクッキーしか作れなかったんだけど」
「……ありがとうございます。セイヤ様」
 エリクシアの手がクッキーの入った袋を受け取る。
 セイヤは頬を紅潮させ、ニコニコとエリクシアを見つめた。
「あのね、よかったら……エリクの好きな食べ物とか、教えて欲しいな」
「私の好きな?」
「うん、エリクの好きなもの!」


●4

 狭い木製のトンネルの中、ゼクは大きな身体で難儀していた。
 思った以上に狭い。兎に角狭い。
「ゼク、早く早くっ」
 しかし、対照的に小柄な直香は、どこ吹く風で先へ進む。
「ゼク、見た? 小柄な体躯が役に立つときだってあるんだからなっ」
 木製のトンネルを無事に抜けて、直香はエッヘンと胸を張った。
「あーハイハイ。次行くぞ、次」
「ちょっと、ゼク! 身ちょ……体格差があるから気を付けて」
 チェックポイントで無事に手錠を交換して貰え、今は二人の手は手錠で繋がっている。
「無駄口叩いてないで、後少しでゴールだ。とっとと歩け。遅いぞ」
「もう! 歩幅も違うんだからね? 遅いってゆーな!」
 直香は、ずんずんと歩くゼクに小走りに付いて行く。
 すると、少しゼクの歩幅が小さくなった。
 どうやら合わせてくれたらしい。嬉しくなる。
 ニヤける顔が霧で見えなくてよかったと思う。
 気付くと、目の前に大きなお屋敷の入り口が見えていた。
「ゴールだ!」
 やったー♪と、直香は飛び跳ねて喜ぶ。
「よかったな。お疲れさん」
 ゼクの表情も和らぐ。
「ゼクもね。はい、これ、参加賞です、お疲れさまー」
 ポンと、直香はゼクの胸元へチョコレートを押し付けた。
「ナンダコレ」
「参加賞だって。さ、中でご馳走が待ってるよー!」
 不思議そうなゼクを引っ張るようにして、直香はゴールしたのだった。


「ノクト、大丈夫?」
 丸太の橋を頼りない足取りで歩くノクトを、ミティスが心配げに気遣う。
「大丈夫……だけど、手は離さないでね?」
 丸太の表面は想像よりツルツルとしていて、滑らないよう慎重に足を運ぶ。
「離さないよ。ゆっくり行こう」
 ミティスにリードして貰いながら、何とか無事に丸太を渡り終え、ノクトは安堵の吐息を吐いた。
「ありがとう、ミティス」
「気にしないで。さぁ、ゴールも間近なようだし、次へ行こう」
「うん」
 ノクトは頷き、再び二人で生け垣の迷路を歩き出す。
(ミティスのこと、頼っちゃってるなぁ……)
 頼りになるパートナーの横顔を見やって、ふと心配になった。
(ミティスは楽しめてるのかな?)
「あのね、ミティス」
「どうかした?」
「ぼく、ミティスのこと頼っちゃってるけど、あんまり無理しすぎないで欲しいんだ。一緒に楽しんで欲しいから」
「……」
 ミティスは少し驚いたように瞬きして、それから微笑む。
「私も楽しんでるよ」
「本当?」
「勿論」
「……よかった」
 二人で顔を見合わせて、クスクスと笑う。
 その先にゴールの光が見えていた。


●5

「疲れた……!」
 ファウストは大きく息を吐き出した。
 まだチェックポイントは一つ残っているが、休憩したい欲求に勝てそうにない。
「リュシィ、ちょっと休憩しよう」
 リュシアンを促すと、休憩用に設置されている木製のベンチに並んで腰を下ろす。
「あと一箇所なんだけどな……」
「ファウストが遊具を回避しなければ、もう少しショートカット出来たと思うよ」
「ぅぐっ……」
 痛い所を突かれ、ファウストは明後日の方向を見た。
 木製の丸太の綱渡りに、網ネット……出会った遊具を全て避けたのは、ファウストの意志だ。
 面倒くさそうで嫌だったのだから、仕方ない。仕方ないったら、仕方ない。
「疲れた時は、糖分摂取大事」
 話題を逸らすように、ポケットからチョコとキャンディを取り出した。
「ホラ」
 その中から、ラッピングされたチョコレートをリュシアンに差し出すと、彼は不思議そうな顔をする。
「……これは?」
「チョコレート。これは非常食だから。常備じゃないから」
「非常食を僕に?」
「俺一人で食べるのは気が引けるし美味しくない。いいから食え」
 ぐいぐいと押し付けると、リュシアンはチョコレートを受け取った。
「やっぱり、疲れている時は、糖分だよな」
 ラッピングしていないチョコレートの包装を解き口に入れながら、リュシアンの様子を伺う。
 彼はラッピングに使われているリボンなどを興味深く見つめ触った後、
「随分と手の込んだ非常食だな」
 一言、笑みを含んだ声でそう言ったのだった。


 一方、もう一組、迷路を彷徨っている二人が居た。
「あー……腹減ったわ。早く出たいんですけど」
 焦りキョロキョロしながら歩いているライを、からかうようにルドルフが覗き込む。
 ギギギとライが口をへの字にし、それから懐に手を入れると、取り出したソレをルドルフの胸に押し付けた。
「……は、腹減ったなら、これでも食ってろ!」
「チョコレート?」
 押し付けられたラッピングされていないチョコレートに目を丸くしてから、フッとルドルフは口の端を上げる。
「ナニこれ。お前、何だかんだ言って俺のコト好きなんじゃねーか」
 ひょいとチョコレートを受け取りながら、ニヤニヤとライを見つめる。
「ち、違うしッ」
「違うのか?」
 思わず立ち止まって真っ赤になったライへ、ルドルフが怪しげな微笑みを浮かべる。
「素直に『好きです、ルドルフ様』って言ったらちゃーんと可愛がってやんのに」
 間合いを詰め耳元で囁かれた言葉に、ライの顔が更に赤く染まった。
「おっ、お前なんか大嫌いだー!!」
「顔に好きって大きく書いてあるぜ?」
 ハハハと、心底楽しげにルドルフは笑う。
 からかってる!
 滅茶苦茶面白がってる……!
「もう、いいし! さっさと行くし!」
 肩を怒らせて歩くライの足元がフラフラしているのを見て、ルドルフは小さく呟いた。
「しゃーねぇな……そろそろ出っか」
 次の瞬間、ライの身体がふわりと宙に浮く。
 ルドルフの肩に担ぎ上げられたと気付くのに、たっぷり数秒掛かった。
「わー!! ば、ばか!! 余計なコトすんな!!」
「ハイハイ。暴れたら落ちるぜー」
 暴れるライを宥めつつ、ルドルフは悠々とゴールを目指し歩き始めたのだった。


●6

 ゴールの先には、庭の持ち主である貴族の屋敷があった。

「迷路クリア、おめでとうございます!」
 辿り着いた参加者達に、黒尽くめの執事服を来たスタッフ達がお辞儀をする。
 そのスタッフの間から、スーツに身を包んだ青年が前へ出てきた。
「皆様、本日はようこそおいで下さいました」
 朗々と明るい声が響く。
「ご挨拶が遅くなりました。私、この屋敷と庭園の主、メイスフィールドと申します」
 メイスフィールドと名乗った屋敷の主は、黒髪に悪戯っぽい光を宿す青い瞳が印象的な、まだ年若い青年だった。
「どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」
 そう彼が一礼した後、スタッフ達が、参加者達を二人掛けのテーブル席にそれぞれ案内してくれた。
「お食事はビュッフェ形式となっております。どうぞ、お好きなものをお召し上がりくださいませ」
 席の周囲を囲うように、所狭しと様々な料理と、それを調理するコックが並んで参加者を出迎える。
 ドリンクバーも完備されており、飲み放題だ。

「美味しそうだね、ゼク! 茸とピーマンは除くけど」
「直香。お前は好き嫌いを直せ」
 ゼクは半眼でツッコミを入れた。

 ビュッフェには勿論、甘いスイーツも並んでいる。

「甘い物を食べたいなっ。あとね、ごはんもたべたいなっ」
「セイヤ様、きちんとお野菜も食べましょうね」
 早速エリクシアが、セイヤのために食べるものを見繕い始めた。

「何から食べるか迷っちゃうね、ミティス」
「折角だから、少しずつ色んなものを食べたいね」
 ノクトは、ウンウンと頷いて同意する。

「さっき貰ったチョコレートで胸いっぱいだけど、これは別腹だなー」
「も、もう、その話はいいしッ。しつこいし!」
 ライは真っ赤になって抗議した。

「今、『ビュッフェ形式、ちょっと面倒臭い』とか、思わなかったか?」
「お、思ってない!」
 ちょっとだけ思ったとかはない。たぶん、ない。
 だって歩きっぱなしだったし……と、ファウストは心の中で言い訳するのだった。

 
 日の出の光が生け垣の迷路を照らす頃、参加者は全員、迷路のゴールのお屋敷で、美味しい食事を楽しんだのでした。


Fin.



依頼結果:大成功
MVP:なし

エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月18日
出発日 02月26日 00:00
納品日 03月07日

 

参加者

会議室

  • [6]ライ クロスロード

    2014/02/24-00:47 

    む。ホントだ。
    出発日の前日ってコトは……2月25日一杯までにプランを書いておかないとだね。

    26日まで良い様な気が何となくしてたけど注意した方が良さそう。
    教えてくれてアリガトな~。

  • [5]ノクト・フィーリ

    2014/02/23-20:04 

    ノクトだよー、よろしくねっ。

    おっきな迷路楽しみだね。
    いまからわくわくしちゃう。

  • ファウスト。宜しく。
    遭難はしない。しないってば。

    締め切り、出発日の前日なんだね。
    気をつけないと…。

  • [3]ライ クロスロード

    2014/02/23-00:28 

    最後に滑り込みさせて貰った、ライ クロスロード。

    俺は今回、方向音痴の汚名を返上すべく全力でゴールを目指すつもり(ふふん!)

    巨大迷宮ってコトで参加するみんなと出会うかは分からないけど、
    どうかよろしくね?

  • [2]柊崎 直香

    2014/02/22-18:36 

    数メートル前が見えません。数メートル前が見えません。
    ……さらに繰り返してやるっ。
    どうなるのか他のひとたちの様子も含めて楽しみだねー。

    っと。こんにちは、柊崎直香といいます。
    今のところ精霊と一緒に至極まっとうに迷路に挑戦するつもりだよ。
    遭遇してしまったらよろしくね。

  • [1]セイヤ・ツァーリス

    2014/02/22-07:10 

    えと、セイヤ・ツァーリス、です。
    よろしくおねがいします、です。

    えと……今日はねエリクと迷路にいくんだ。えへへ、うれしいなー。
    あ……迷路の中ではあんまり人と会わない(見えない)みたいだけど
    どこかであったりしたらよろしく、です


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