リザルトノベル【女性側】第二監獄『黒縄』防衛部隊
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リザルトノベル
●「殺せ!」
「殺せ!」
第二監獄『黒縄』を覆う狂気に満ちた歓呼。
ウィンクルム達は、唇を噛みしめてそれぞれの武器を握り直す。
黒縄は直径300メートルほどの巨大な監獄であり、壁の高さは5メートルほどだ。
壁の内部は牢屋になっており、狂った殺人鬼や事件を起こしたマントゥール教団員達が投獄されている。
今回のマントゥール教団の企みは、その囚われた教団員達を脱獄させること。そして、囚人達をギルティ・シードを利用してオーガへの生贄にすること。
ウィンクルム達はそれを阻止し、オーガを討伐するためにこの第二監獄へトランスやコンフェイト・ドライブ、ハイトランス、らぶてぃめっとトランスを終えて突入したのだった。
そのウィンクルム達を出迎えたのが、目の前のDスケールオーガやデミ・オーガを率いたマントゥール教団員達。
……そして、監獄全体から浴びせかけられる、囚人達の罵声であった。囚人達の中には犯罪を犯した教団員も多く、彼らを中心に、ウィンクルム達は悪意と殺意にさらされた。
「真神さま……」
アンジェリカ・リリーホワイトは前に立つ精霊の真神の着物の裾をつかんだ。彼女はこれほどの人数に下卑た視線や歓声を向けられた事は生まれて初めてだった。
「あんじぇは我から離れるな。作戦通りに行くぞ」
真神はまだしも冷静だったが緊張の面持ちである。
その緊張はウィンクルムとして年数を重ねて来たリヴィエラとロジェも変わらなかった。
どちらも目前に立ちふさがる薄笑いを浮かべたマントゥール教団員やオーガを睨み据えながら、生唾を飲み込んでいるのが分かる。
「リヴィー、耳栓を」
「はい」
リヴィエラは精霊のロジェに準備してきた耳栓を渡した。他の目的で持ってきたのだが、こう罵声を投げかけられては戦闘に集中出来ないかもしれない。
「酷い……」
エセル・クレッセンは短剣「コネクトハーツ」を敵にかざしながらそう呟いた。それは、並み居るデミ・オーガの群れに向けられたものだった。
精霊のラウル・ユーイストも苦々しげな表情である。あるいは、オーガへの憎しみを募らせていたかもしれない。
そのデミ・オーガ達の多くは犬や猫だった。兎も割といた。かつてはペットとして変われていたらしく、首輪がついているものも多くいる。
身勝手な人間達により捨てられて、瘴気に当てられ、デミ・オーガとなってマントゥール教団に操られ、こうして人間を害しに来たのである。何ともやりきれない話であった。
「マントゥール教団……これだから……!」
ツェラツェル・リヒトは私怨に流されないように自分を抑える。その隣でシャルル・アンデルセンは心配と戸惑いの眼差しをツェラツェルに向けたのだった。
「愚かなるウィンクルム達よ! 貴様らがどう悪あがきをしようが、世界は我らマントゥール教団とオーガ様が手にするのだ! 全ての進化の頂点にあるオーガ様に逆らうなっ!」
指揮官らしいマントゥール教団員の一人が叫んだ。
すると、邪眼のオーブに操られたDスケールオーガが戦意を高揚させるように吠え立て始めた。
ヤックドーラ。
ヤグズナル、ヤグルロム、ヤッグドロア・アス。
ヤグアート、ヤグナム。
いずれもDスケールとはいえ、れっきとしたオーガである。戦闘力を侮ってはいけない。
「オーガが統べる世界など破壊しかない。貴様達の目的はここで止めさせてもらう」
リーヴェ・アレクシアが凜々しくも言い返した。
その隣で精霊の銀雪・レクアイアも草食系の面にはっきりした戦意を浮かべている。
リーヴェの反撃にあった指揮官が顔色を変え、邪眼のオーブに何事か命じた。その途端に、ヤックドーラが叫んだ。
「殺せ! 殺せ! 殺しあえ!」
周囲の牢獄からの罵声も一斉に高まり、ウィンクルム達は逃げられない事を確信する。ならば、作戦を成功させるのみ。
零鈴がA.R.O.A.から支給された懐中電灯を闇に振りかざす。
また、ミヤ・カルディナはA.R.O.A.から給付されて持ち込んだ大量の携帯ランタンを、近くの壁に一つずつ並べ始めた。
ウィンクルム達がオーガ包囲を突破していくごとに、どんどん壁に滑らせて並べていくつもりである。
その隣にはミヤの精霊ユウキ・アヤトも気合いの入った表情で大剣「テーナー」の柄を握りしめていた。
零鈴の精霊、ゼロイムも日頃の無気力さを振り払い、ターゲットシールドを掲げて前へ出た。――戦闘開始!
●
リーヴェが アヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」を放つ。
御神 聖はオルガスコープを巧みに操りながら魔弓「バチューン」を打ち鳴らす。スコープが次第にDスケールオーガの密集している場所を特定。
同じくアデリア・ルーツはオルガスコープを用いて、念のためにCスケールオーガが紛れ込んでいないか確認をしていた。
さらに零鈴がゼロイムとともに踏み込んで懐中電灯で辺りを明るく照らす。
一方、真衣は宝玉「魔守のオーブ」を取り出して念を傾ける。
紫月 彩夢もまた、「魔守のオーブ」を掲げる。
「この戦いを勝利に……!」
魔守のオーブを中心に半透明の力場が展開される。直径1メートルの範囲内だが、防御力アップの力付与された。
彼女の精霊ベルンハルトは目を凝らして黒縄の中心の闇に、銃を向けている。
「リーヴェさん、あそこよ!」
御神 聖はオーガの群れている場所をスコープで見いだし、指差して叫んだ。
同じ頃、偵察していたアヒルが役割を果たし、リーヴェの方に玩具の羽根を振って鳴いてみせる。
リーヴェは槍「緋矛」を構えるとそちらへ向かって突進していく。
止めようと立ちふさがる教団員を、素手で殴り倒す。
銀雪の方はその場でアプローチIIを放ち、リーヴェに近づこうとする敵を自分の方へ引き寄せる。
「僕もたまにはいいところを見せなくちゃ……」
リーヴェに勝てない銀雪はそんなことを呟いている。
緑野・聖の精霊、姜・花欖は彼女が特定した場所へと、リーヴェを追いかけて急行する。リーヴェは足を止めずに槍でデミ・オーガを蹴散らしながら走る。
ゼロイムもアプローチを駆使して零鈴を守り、デミ・オーガを斧で叩き払う。
何しろ零鈴は灯りを持っているため目立ち、敵が群がってくるのだ。零鈴自体も、剣を使って襲ってくる敵を切りつける。
彩夢はリーヴェ、桂木 大樹についていき、オーガの密集地帯に向かう。
片っ端から槍で切り伏せていくリーヴェの隣で、大樹がヤックドロア・アスにアプローチIIを撃つ。
ヤックドロア・アスが鋭い爪で大樹に斬りかかれば、大樹はバックラー「タルタルーガ」で防御。
その背後から、彩夢は短剣「コネクトハーツ」でヤックドーラの急所を切りつける。
倒れるヤックドロア・アス。
それを見たヤグアートが蝙蝠の羽根で羽ばたきながら、目にも止まらぬ速さで彩夢に襲いかかる。
そこに、彩夢についてきた精霊神崎 深珠がエトワールで回避を上げきった状態で双剣「ダイヤモンドダスト」で舞うような攻撃を当てた。
ヤクアートが瞬殺される。
さらに豚のように肥満したヤグナムがホラ貝のような鳴き声を立てながら彩夢と深珠へと突進してくる。
好戦的なオーガに対して、深珠はオスティナートで迎え撃つ。あまりの高速に分身したような動きで、豚のオーガを叩きのめす。
向坂 咲裟は大樹がアプローチIIで集めた敵を、遙か後方から鉱弓「クリアレイン」で射撃して仕留めていく。
その精霊ギャレロ・ガルロは大樹とゼロイムがアプローチで敵を集めた場所に接近。
ローズガーデンを使い、食人植物の力を借りて防御力を高めると、両手斧「バロール城の守り手」を振るいまくる。
「頭から叩き潰してやるぜ!」
バイオレンスな彼は戦闘中にかなり楽しそうだ。
咲裟は戦闘を切って突進していくリーヴェの動きに合わせて矢を放つ。
「向坂咲裟はみなと連携したいのよ」
そんな咲裟の台詞を聞いて、ギャレロも、ゼロイムがアプローチを撃ってヤグズナルを引きつけたタイミングに合わせて、カウンターのように斧で殴った。
ベルンハルトはそんな咲裟やギャレロ達を援護するように、中央にとどまったままナブサ・M206ジャイロライフル「マリーナ」による攻撃を繰り返す。
闇に目を凝らしながら、零鈴のかざす懐中電灯の光を頼りに、ロイヤルナイト達に群がるヤグルロムやヤッグドロア・アスを叩く。
その彼にデミ・オーガの犬猫が近づいてくると、魔守のオーブを持った真衣がステッキ「素敵な南瓜頭」で殴りつけて追い払う。
そのたびにステッキから青白い光が飛ぶ。
「ハルト! これで少しは明るいでしょ?」
「ああ、助かるよ」
(ハルトにもっと頼ってもらうんだから……!)
真衣は、ステッキを握ってデミ・オーガを睨みながらハルトのために頑張る。
オーガの数がある程度減ったところで、ファルファッラとレオナルド・グリムも殲滅戦に参加する。
「できるだけ気を引いてみよう……」
リーヴェや彩夢の攻撃から逃れ、牢屋に接近し始めるヤックドロア達。そちらにレオナルドは大きな猫のぬいぐるみをパペットマペットで出現させてぶつける。
「その猫のぬいぐるみは俺の人形だ! 攻撃しないでくれ!」
面倒がらずにレオナルドは周知する。
そのぬいぐるみの周辺でファルファッラはコネクト・タクトで優雅な一閃を放つ。
ヤックドロアは全身を硬い鱗で覆われており、多少の攻撃は受け付けない。
「硬いわね……」
自分で防御力の高い敵を選んだのだが、ファルファッラは顔をしかめている。そんな彼女の性格を知っているレオナルドは、二人で相談して決めたのになとため息をつく。
●
先行したオーガ戦部隊が成果を出した。
そう判断したところで、教団員戦部隊が闇の中に走り出した。
銀雪やベルンハルトがとどまる中央から、ずっと奥の闇の方へ突撃する。
まずはリヴィエラがマグナライトを振り上げてかざし、辺りを照明で照らし出す。
フィーリア・セオフィラスがオーガ・ナノーカのアヒルを放って教団員達を探し始める。
リヴィエラもオーガ・ナノーカで探索開始。
「む、向こう……です」
フィーリアは即座に教団員達が固まっている場所を割り出して指差した。
「こっちにも……!」
リヴィエラはそこからいくらか離れた場所を指差した。
主に精霊達がそちらに向かって走り出す。
フィーリアの精霊ジュスト・レヴィンがサンクチュアリを展開して傷ついた前衛達を回復し始める。
華彩 輝はマジックワンド「ダークアイ」で防御バリアを張り巡らせる。
さらにシャイニングアローで光の輪を浮遊させ、敵の反撃に備える。
スマラグドは闇に踏み込んで、「朝霧の戸惑い」の呪文を唱えて、教団員達の視界をさえぎる。その霧はウィンクルム達には無害なのだが、敵の視覚を確実に奪うのだ。
「ガルヴァンさん!」
「分かっている!」
走るガルヴァンにアラノアが声をかけると、彼はすかさずブラッディローズを使った。
突撃してきたウィンクルムに対して、反応するオーガやデミ・オーガ。
それに向かって食人植物の力を借りたガルヴァンがルールブレイカーを構えて走り、敵を薙ぎ倒す。
襲いかかってきたデミ・オーガの牙に反撃するブラッディ・ローズ。
仮にデミ・オーガの牙や爪が彼を攻撃したとしても、デーモンズアイを使用し潜在能力を高めている彼は、攻撃を受ければ受けるほど抵抗力を増していくのだ。
また、アラノアも、その彼を身近から片手剣「トランスソード」で援護していく。
襲ってくるかつてのペットたちに悲しそうな顔を見せながらも、ガルヴァンの足手まといにならないように仕留める。
その二人を中心にロジェがラピットファイアを使いながら【小型銃】スイートキラーで援護射撃。
巧みな銃使いで教団員を守るデミ・オーガを瞬殺していく。
「お、おのれっ……貴様ら下等なウィンクルムなどっ……!」
喚き出す教団員。
ロジェは、冷ややかな目をその教団員に向け、その教団員の持っている邪眼のオーブへとワイルドショットを行った。
粉々に破壊されるオーブ。
唖然とする教団員。
「みずたまりはデミ相手してろ。おれはオーブぶち壊しに行ってくる」
水田 茉莉花の精霊八月一日 智は、双剣双桜でオスティナートを行い、デミ・オーガを瞬殺。そのまま教団員に近づいて行くと、スタッカートでオーブを破壊。
茉莉花の方は、封樹の杖で襲いかかってくるデミ・オーガを片っ端から叩き伏せていく。
「……無理しないで行ってきてくださいね」
露払いの五人達が特攻していくのを追いかけて、シード阻止遊撃班も薄闇の中を駆け、教団員達を追う。
(なんとしても、シードを投げ入れさせる訳にはいかない……!)
明石・灯代と精霊の前花・瑞樹を始めとする遊撃班達の顔は真剣そのものだ。
「目の前の敵をひとりでも多く シンプルな作戦だね」
リデルが言うと、精霊のエイルは微笑んでうなずいた。
「さあ ここで食い止めよう」
リデルはマントゥール教団の指揮官を特定すると、そちらに向かって走る。
リデルを追うデミ・オーガをエイルがトルネードクラッシュで排除。
「来るなァッ!」
叫ぶ指揮官をリデルは短剣「コネクトハーツ」の柄で殴りつけて気絶させた。
「さあ、オーブを破壊しよう」
「そうだな、急ごう」
リデルとエイルは声をかけあって次の教団員を探す。
その頃、ガルヴァン達が取り漏らした教団員を、レーゲン・アーカムは軽くダブルダガー「ハイ&ロー」の柄で殴りつけて気絶させていく。
「こっちだ! こっちにもいるよ! マントゥール教団員だ!」
葵 竜胆が大声を張り上げて、他のウィンクルムに教団員の位置を教える。
その頃には、ミヤの並べるランタンも牢獄の広い範囲を照らし出し、教団員の暗い影を見つけるだけならそれほど苦ではない。
竜胆の声に導かれてレーゲンは次々武器の当て身で気絶させていく。
「オーガ討伐に参加したいところだが、実力が追いつかんのでな……」
「レーゲンさん、気をつけて」
シエル・アンジェローランはいつサクリファイスしてもいいように彼の後を冷静にそっとついていく。
アンジェリカと真神も、ガルヴァンとアラノアが打ち漏らした教団員に襲いかかり、ショートボウの柄で叩いて気絶させていく。
そして、教団員の衣服を探っていると、一色 真黒が近づいてきて懐中電灯で二人の手元を照らした。
「オーブ探しているんでしょ? 早く」
つっけんどんな口調だが、任務の事は分かっているらしい。
「あ、ありがとう……」
アンジェリカ達は急いで教団員の懐からオーブを取り出すと、近くから矢で射て破壊する。
そのとき、往生際の悪い教団員が真黒を背後から襲った。
「黒!」
輝が叫ぶ。
その声に反応した真黒は、懐中電灯を一瞬消し、次の瞬間、教団員の目の位置に向けて光を放射。
目くらましをもろに喰らった教団員は目を押さえて動けなくなる。
そこに、輝が走り寄ってきて素手で教団員を殴りつける。
精霊の腕力に、あえなく気絶する教団員。
「大丈夫か?」
「余計なお世話です」
真黒は自分の精霊にもそっけない。
その頃、スマラグドの方は「朝霧の戸惑い」が一回切れたのでかけ直しをしていた。敵の命中率、回避率を下げるためであるから、限界まで唱えるつもりでいる。
そのスマラグドからわずかに離れた位置で、鬼灯・千翡露は神符「詠鬼零称」を持って奮戦。
淡い光を放つ札には拘束力があり、教団員の動きを封じる。
しかし、舞い踊る光る札が薄闇の中で目立つのか、デミ・オーガが次々襲いかかってくる。
千翡露はデミ・オーガを振り払いながら、それらを操る邪眼のオーブを持つ教団員の手元を狙う。しかし、頑なに抵抗を続ける教団員。
「くっ……」
顔を歪める千翡露。
「千翡露、そろそろ、サクリファイスした方がいいよ」
どこか生意気な口調でスマラグドがそう言った。千翡露はデミ・オーガに傷つけられている。
それに気がついてジュスト・レヴィンが千翡露に近づき、ファストエイドを唱え始める。
ツェラツェルはダブルシューターIIを駆使して教団員を次々追い詰めていく。
その後方にはシャルルが控えている。
「ウィンクルムだと!? 許さないっ、許さないぞっ……!」
醜く顔を歪めて叫ぶ教団員。
シャルルはその邪気に当てられ、身を竦めてしまう。その教団員の耳すれすれを狙撃するツェラツェル。
「動揺するな、戦闘中だ」
すくみ上がっているシャルルにツェラツェルは冷たく言い捨てた。
そして教団員の持つオーブにダブルシューターIIを決める。
(めんどくせぇ……来ちまったからにはやらねえとな)
ミヤにくっつくようにして、灯りを頼りに教団員への誘導を続ける竜胆を見ながら、精霊のステファノはパペットマペットを固まっているデミ・オーガに当てて蹴散らしていく。
(あのウサギは『やるべきことはやる』がモットーなそうだが、経験積んでないのにこんな危なっかしいところに……大丈夫かよ、まあ俺がついてるけどよ)
ステファノは面倒そうにもう一発パペットマペットを繰り出して教団員に当てる。
そのとき、後方で悲鳴が上がり、ステファノは勿論、大多数のウィンクルムが後ろの銀雪達の方を振り返った。
かと思うと、全く逆の方向でまた悲鳴が上がった。
●
アンジェリカやツェラツェル達が教団員のオーブを破壊する一方で、灯代達は牢屋にシードを投げ入れようとする教団員達を止めようとしていた。
灯代と瑞樹、緑野・聖と姜・花欖、星宮・あきのとレオ・ユリシーズはオーガや教団員の包囲網を突破すると近くの牢屋の方へ駆け寄り、次々に巡回をし始める。
その三人をすぐ後ろから、エセルがついてきて懐中電灯をつけ光を灯す。
そのエセルの後方、中心部近くに精霊のラウルがいて、近づいてくるデミ・オーガを両手銃「ガンスリンガー」で撃ち落としていた。
采女 澪も中心部から牢屋の方に手を伸ばしてA.R.O.A.支給の懐中電灯を灯し、灯代や緑野・聖達の行く手に光を投げている。
そのすぐ側にはいつでもサンクチュアリを発動出来る状態のヴァーリ=ウルズ。
また、近くにはランタンで横から光をつけて回っているミヤもいた。
「あ……あれは!」
懐中電灯を持ちながらエセルが叫ぶ。
「ギルティ・シードだ!」
澪も、種を構えて牢屋に近づく教団員の群れを見つけた。
あきのがフェアリーボウを構え、教団員の種袋を持つ手を狙う。袋を狙ったのだが外れて手首に当たり、悲鳴を上げて飛び下がる教団員。
瑞樹が罰ゲームを行って教団員を打ち倒そうとする。
同じく花欖も罰ゲームで別の教団員を狙う。
他の教団員達が何事か喚きながら、ギルティ・シードを牢屋に投げ込もうとする。
「殺せ! 殺せ!」
牢屋の中では、白熱する戦闘に当てられ、興奮状態の囚人達が暴れ続けていた。
灯代と緑野・聖は全速力で走ってその教団員を阻止しようとする。
あきのも次の矢を弓につがえる。
しかし、教団員は四人いる。そのうち二人が罰ゲームを受けて動けないでいるが、残り半分が牢屋に走り寄って行って、種の入った袋を振り上げる。
「そうはさせないわ!」
そこで、ランタンを持って回っていたミヤが、大声で叫んで教団員に飛びかかった。ちょうど体当たりのような形になり、一人の教団員はミヤごと地面に転ぶ。
それに驚いて最後の一人の足が止まった。
その隙に灯代と緑野・聖が残った一人に両腕を両側から掴み上げて押さえ込む。
「ギルティ・シードを出しなさいっ!」
神人達は種袋を取り上げようとするが、教団員達は罵声を上げながら暴れる。精霊達が走り寄って、当て身で気絶させようとした。
そこに、中型犬サイズのデミ・オーガが4~5匹、一斉に飛びかかって来た。
ラウルがガンスリンガーを撃つ。
あきのも矢を撃つ。
「痛いっ!」
しかし、灯代が噛まれて悲鳴を上げた。
「前花さん!」
ミステリアスな瑞樹が焦りを顔に浮かべる。
すかさず駆けつけたレオがファストエイドで彼女の体に触れる。
アヤトがトルネードクラッシュⅡで残ったデミ・オーガにトドメを刺す。
瑞樹、花欖が当て身を入れて教団員を気絶させ、神人達がやっとの思いで種袋を取り上げた。
袋を開き、神人達が種に触れると、ギルティ・シードはごく自然と浄化されて消滅していった。
「大丈夫。他にライフビショップがいるから……」
レオがそう言った時、采女に言われてウルズが遊撃班の方に駆け寄ってきた。
周囲全体にサンクチュアリをかける。
●
オーガ撃破部隊の方は、ロイヤルナイト達のアプローチの使い方がうまくかち合い、確実にオーガの数を減らしていった。
しかし、まだディスペンサの使えない神人も多い。
やがてMPが尽きてきた時、残されたオーガ達が一斉に牙を剥いて襲いかかってきた。
大樹は盾で防御しつつ、弱った敵から順番にトドメを刺すようにして攻撃していく。しかし、どうしてもアプローチIIを使ってきたため、彼は目立つ。そのため攻撃を受ける。
「くっ!」
ヤグズナルの骨片カタパルトを受けて、思わず地面に膝をついてしまう大樹。
「大樹! 無理しないで!」
慌てて御神 聖が大樹に後ろから飛びついて、サクリファイスを行った。
「ええ、聖さん。まだまだ平気ですよ。戦いはここからですからね……」
痛みを分かち合いながら、大樹は敵を睨んでそう言った。
その頃、銀雪は中央にとどまり、最後のとアプローチIIをかけてその場にとどまる味方を守っていた。
井垣 スミは魔守のオーブを持ってその銀雪の側に立ち、防御力を高める。
「そうちゃん、あまり前に出ちゃだめよ」
御年73歳のスミはひ孫の精霊、雨池颯太にそう声をかけている。しかし10歳の颯太は暴れたい盛りであるらしい。
どうしてもアプローチIIの力でデミ・オーガに囲まれる形になってしまう銀雪の隣から、トルネードクラッシュで自ら敵にぶつかりに行く。
「くらえーっ!」
正にトルネードのようにくるくる回転しながらゾンビのような犬猫達を蹴散らしていく颯太。
「あれあれ……」
スミはひ孫の暴れぶりに、困ってしまったようだった。それからおっとりと近づいて行ってオーブの範囲内にベルンハルトと真衣を入れた。
「すみませんが、あのヤックドーラを撃ってもらえませんかねえ……」
「ああ、やってみましょう」
ベルンハルトは快く、懐中電灯の灯りを頼りにヤックドーラを特定するとダブルシューターIIで狙撃した。
「ギャアアッ!」
悲鳴を上げて倒れるヤックドーラ。
しかし、ベルンハルトもここでMPが尽き、焦りを表情に出した。
最後の敵はヤグルロムだった。この一匹が最後でアル。
今まで守られてきた方が、守る側になる。
アプローチが使えなくなったゼロイムの影から飛び出る、アデリアの精霊シギ。
陽炎で分身の術を使いながら、迫ってくるアンコウの頭部を持つオーガ、ヤグルロムへと手裏剣「サクリティ」で攻撃。
周囲の景色と同化する手裏剣は、回避が難しく、ヤグルロムはもろに額に受けてしまう。それでも、ヤグルロムは「ラ・カイテル」で幻影のオーガ達を次々と二体生み出した。
それはヤグルロム本体そっくりであった。
それからヤグルロム達は犬のようにうろつき周りながらウィンクルム達に迫ってくる。
壁を背にして小鳥遊光月は固唾を飲む。
その精霊、甲・アーダルブレヒトが双葉をヤグルロムの幻影に放った。
自爆するヤグルロム。
遠隔攻撃であるため、甲は攻撃を受ける事がない。
同じくシギも手裏剣でもう一体の幻影を攻撃して倒す。
本体は不気味な雄叫びを上げながらウィンクルムの方へ突っ込んで来る。
通常攻撃でベルンハルトや銀雪は奮戦。
スミはやんちゃなひ孫の手を引いて壁の方に回避。
真衣はスミと颯太を庇って立つ。
同じ事を考えた甲が真衣の前に出る。
「きのえさん!」
光月が叫ぶ。
前に出た甲がヤグルロムの爪で頭部を抉るように引っかかれたのだった。
たまらず甲は地面に崩れ落ちる。
そこにシギが再び陽炎を使いながら接近、手裏剣を当てていく。
今度はオーガが地面に膝をつく。
そこにベルンハルトと銀雪が同時に攻撃を行い、オーガにトドメを刺した。
光月は甲に横から抱きついてサクリファイスを行う。
ジュストが教団員を捕らえた方角から戻って来て、サンクチュアリを展開しながらファストエイドを行った。
「……大丈夫。この程度の傷なら、すぐに治るから。心配しないで」
ジュストは淡々とした口調でそう言った。
甲は簡潔に礼を言い、光月も頭を下げる。
「怪我人は多少出たが、これで作戦終了……か?」
ロジェが周囲の牢獄を見渡しながら言った。
監獄は不気味なぐらい静まりかえっていた。
先程まで、熱狂と言って良いような歓呼でオーガとマントゥール教団を応援していたのだが、今は水を打ったように何の音もしない。
ただ、得体の知れない視線で、ウィンクルム達を眺めている。
「オーガも倒したし、オーブも破壊したし、シードの投げ入れも阻止出来たわ。あと何かある?」
彩夢が指折り数えながら言った。
「作戦はうまくいった。だが……全面戦争は開始されたばかりだ」
そのリーヴェの言葉に、シエルはびくりと肩を震わせた。
その事には、まだ契約して間もないウィンクルム達でさえ、気がついていた。用意周到に練った上での作戦であっても、怪我人は否めない。
そんな戦いが、今、始まったばかりなのだと。
「マントゥール教団の狙いはなんなんだ……」
緑野・聖がそう呟いた。
世界を破壊しようとするオーガの正体は、かつての精霊だったという。何故、精霊達はオーガにならなければならなかったのか。
そしてそんな歪な存在を、何故にマントゥール教団は、進化の形と崇めるのか。……そして、氷の塔オベリスク・ギルティには何が待ち受けているのか。
今、ウィンクルム達の倒したオーガ達の瘴気は、正にオベリスク・ギルティへと向かって登っていく。
何が真実なのか見極めなければ、この戦いは終わる時が来ない。そう感じ取りながら、ウィンクルム達は、はじまりの戦いを勝利で終わらせたのだった。
(執筆GM:森静流 GM)
戦闘判定:大成功