リザルトノベル【女性側】ゼノアール・ミーシャ討伐部隊
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リザルトノベル
●「ウィンクルム……コロス……」
ゆらりと金属の擦れる音を立てて目の前に立ちはだかったのは、両手足を鎖で拘束された異質なる者。
顔の右半分以上を包帯で覆い尽し、どこか陰鬱で、どこか狂気じみたそれは、例えるならば虜囚。
それが、ゼノアール・ミーシャという、デミ・ギルティ。
●
A.R.O.A.本部を背に庇うように、ウィンクルムたちはトランスし、ゼノアール・ミーシャの前へと布陣する。
さらに、ひろのとルシエロ=ザガン、リチェルカーレとシリウス、ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツがハイトランス・ジェミニへ。
クロスとオルクス、かのんと天藍がらぶてぃめっとトランスへと移行した。
「らぶてぃめっとトランスなんて初めて使うわね」
少し恥ずかしい、と言いながら月野 輝とアルベルトが続いてらぶてぃめっとトランスへと突入する。
「ミサさん、護衛は任せて」
ひろのがミサのそばで周囲を警戒する。
「うん、よろしくね」
ミサは古文書ウィクネスを開くと、即座にゼノアール・ミーシャの弱点解析を始めた。
デミ・ギルティを相手にする以上、その身を包む絶望色のオーラはウィンクルムの消耗を速めるだけだ。
一刻も早く、そして確実に弱点を突きたい。
「リチェルカーレ、行くぞ!」
「はい、任せてください」
クロスとリチェルカーレがタイミングを合せて初手を仕掛けた。
神符「詠鬼零称」をゼノアール・ミーシャへと放ち、拘束を試みる。
リチェルカーレの神符をかわしたゼノアール・ミーシャを、クロスの放った神符が捕らえ、拘束する。
「ジャマ……」
纏わりつく神符を煩わしそうに払おうとするゼノアール・ミーシャへ、輝が攻撃を仕掛ける。
「少しでも隙を……!」
輝の槍「緋矛」はゼノアール・ミーシャのオーラに阻まれた。
しかし、アルベルトが意識の逸れた好機を逃さず、ローズソウルを撃ち込む。
次手へと繋げるため、ルシエロはアルベルトの動きに合わせてユニゾンを発動させる。
「――ッ!」
ゼノアール・ミーシャのオーラを貫通し、わずかな傷を作る。
「効きそうですね、なによりです」
アルベルト即座に距離を取って場を開くと、天藍がすぐさまゼノアール・ミーシャへと斬りかかった。
「……だめか」
オーラに阻まれて攻撃は達しなかったが、ごくわずか怯んだゼノアール・ミーシャを逃すまいとエミリオが攻撃を仕掛けた。
「これならどう?」
レクイエムからトーベントへの多段攻撃を重ねたが、その攻撃はゼノアール・ミーシャの両手を拘束する鎖で防がれる。
「ウィンクルム……コロス……コロス……」
鎖でエミリオの剣を弾くと、断罪の鎖で反撃へと転じた。
「――断罪します!」
不自然な言葉を発していたゼノアール・ミーシャが、唐突に流暢な言葉を紡ぎ出す。
断罪の鎖のカウンター攻撃が直撃したエミリオは、膝をついて薄く笑う。
「なんだろう……知ってる気がする」
以前、交戦した時に見た、ミーシャというデミ・ギルティに雰囲気が似ている気がしたのだ。
先ほどまでは、まるで陰鬱とした風情だったというのに。
「私はあなたを存じ上げませんが、敵だということは、分かります」
「そう……俺も、敵だってことは分かるよ」
ゼノアール・ミーシャが再度エミリオに攻撃を仕掛けようとした刹那、シリウスがアルペジオIIでその攻撃を阻み、遁甲を発動させたラルクがエミリオの盾となった。
「エミリオ、一度下がれ」
「平気だよ……」
「すぐに動けないくらいの傷なんだろう……?」
シリウスの言葉を否定するエミリオに、諭すようにラルクが声をかける。
「……分かった、ごめん」
ゼノアール・ミーシャが再度、攻撃態勢へと移る。
シリウスがエミリオに手を貸し、後退を始めるとラルクは自らを盾にその攻撃を引き受ける。
わずかでも軌道を逸らすためにオルクスが後方からゼノアール・ミーシャの足元を狙った。
「ウィンクルム……シネ……」
大きく振り上げられた鎖がラルクを目掛けて落ちてくる。回避行動を取ったところで、それは間に合わず、高強度を誇る鎖がラルクに直撃した。
「ぐっ……!」
シリウスが追撃を阻止するようにアルペジオIIでゼノアール・ミーシャの意識をラルクから自分へと向ける。
弾かれるように後方へと飛ばされたラルクは、すぐに体勢を立て直した。
「ラルク!」
オルクスがスナイピングでゼノアール・ミーシャを下がらせるように足下を狙い、ラルクの後退を援護する。
さらにシリウスがアルペジオIIで追撃すると、天藍とルシエロが波状攻撃を展開していく。
「ちょっと乱暴ですけど……」
歌菜がウィップ「ローズ・オブ・マッハ」でラルクを捕らえると、前線から後方へと引き寄せた。
すぐにアイリスが駆け寄ってラルクを後方へと下げた。
「ラルクさん、大丈夫ですか!?」
「ああ……なんとか」
ひと目でその傷が浅くないことは分かる。
「……ラルクさんが、少しでも戦えますように」
なにもしないでいるよりかは、少しでもラルクを守るためにとアイリスは地脈結界を張り巡らせた。
「無理はしすぎるなよ、ラルク」
羽純がチャーチで回復の拠点を作り、ラルクに念を押す。盾になる以上、直撃は避けがたい。
癒し手である羽純が懸念するのも無理のないこと。
ラルクは頷くと、すぐに前線へと戻った。
「……ごめん、解析失敗しちゃったみたいだよ。もう一度試してみるね」
ミサが宝玉「伊焚荷ノ勾玉」の効果で再度ウィクネスでの解析を試みる。
「大丈夫」
ひろのが頷いて、周囲の警戒を続ける。
ゼノアール・ミーシャの攻撃がいつ、解析に集中するミサに向けられるか分からない。
けれど。
「……っ、ごめん……、解析は失敗だったよ」
悔しげにミサが顔を歪ませる。
「それなら、怪しそうなところを狙っていけばいいだけだ」
ルシエロが剣を構えると、天藍が並ぶように構えた。
「包帯を狙ってみようと思う。崩してもらえるか?」
「ああ、任せておけ。――行くぞ」
ルシエロが先にゼノアール・ミーシャの間合いへと踏み込み、剣を振り上げる。
けれどその攻撃はかわされ、ルシエロの攻撃軌道から外れた。
「……天藍!」
それも計算のうち。
軌道を逸れはしたが、天藍の軌道上に上手く誘い込めた。
天藍が顔の右側を覆う包帯目掛けて斬りつけると、ゼノアール・ミーシャは露骨に回避行動を取った。
しかし、完全回避にはいたらず、包帯が裂けて露出する。
手のひらに足りる程度の、小さな弱点がその顔に覗いて見えた。
「あれか!」
「右頬を狙え、一気に形勢が変わるぞ!」
絶望色のオーラは、ウィンクルムの攻撃をほとんど通さない強固な防御。けれど、それが壊せるなら攻めへと転じることができる。
「俺が行く。援護をお願いするね」
「はい、任せておいてください」
下っていたエミリオがかのんに声をかけると、その速さを生かして攻撃へと打って出る。
その攻撃を援護するように、かのんが【呪符】五行連環をゼノアール・ミーシャへと放つ。
オーラの消滅効果は発動させられなかったが、弱点の位置はすでに分かっている。
そして弱点の露見から、回避行動を大きくするゼノアール・ミーシャに、エミリオがオスティナートIIで弱点を目掛けて斬りつけた。
「……ア、……グ、アアァァ!」
絶望色のオーラが掻き消えていく。
仰け反り、後方へと下がるゼノアール・ミーシャに八神 伊万里はすぐに鉱弓「クリアレイン」を構えた。
「隙は逃しません」
クリアレインを放つと、アスカがグラビティブレイクで攻める。
「もらった!」
「ウィンクルム……許さない……!」
気配を変えたゼノアール・ミーシャが攻撃を回避すると、怒気を含んだ瞳をぎらつかせて攻撃へと転じた。
「瘴気断罪――!」
手刀に瘴気を纏わせると、地面を砕く黒い斬撃を放った。
「まずい、本部に直撃する……!」
軌道の先にはA.R.O.A.本部がある。
ラルクが遁甲を発動させ、衝撃波の軌道から外れるようにアスカを突き飛ばし、さらに自らその攻撃を受けに行く。
「ぐ、ああっ!」
その一撃はラルクの身体から止め処ないほどの鮮血を舞わせる。
「ラルクさん!」
アイリスが飛び出すように駆け寄る。
「シエ、注意を引くぞ」
「はい、援護します」
ゼノアール・ミーシャの注意を向けるため、翡翠がトルネードクラッシュIIを繰り出す。
さらにシエテが翡翠の後方から槍「緋矛」でゼノアール・ミーシャへと攻撃を仕掛けるが、それを流れるようにかわすと、ゼノアール・ミーシャは一度ウィンクルムから距離を取った。
それを幸いにウィンクルムも一度戦線を下げると、羽純がインベル・ヴィテでエミリオとラルクの傷を癒す。
「ラルクさん、しっかりしてください……!」
不安げなアイリスに、ラルクは小さく頷く。かなりの深手だが、ラルクの無事にアイリスはひとまず胸を撫で下ろした。
「急所を外しているとはいえ、ラルクはこれ以上戦うと危険だ。下がったほうがいい」
「……ああ、悪い」
「私はラルクさんの介抱をしながら、皆さんが動けなくなったら救助に向かいますね」
アイリスの提案に羽純が頷くと、歌菜に目を向ける。
「歌菜、前へ出るぞ」
「――うん」
*
ゼノアール・ミーシャの絶望色のオーラがなくなった今、その攻撃は格段に通りやすくなった。
歌菜と羽純がらぶてぃめっとトランスへと移行する。
「少しでもダメージに繋げる」
天藍がゼノアール・ミーシャへ攻撃を通りやすくするためアレグロで斬り込む。
「いい手応えだ」
阻むオーラがない分、わずかでも傷を負わせられるなら形勢がずいぶんと変わる。
天藍の攻撃に続いてアルベルトがスネイクヘッドIIで追撃をする。
「さっきより深い、ですね」
アルベルトの攻撃も先ほどより深く貫通している。
うまく撹乱し、隙を作って攻めていけば畳みかけられるかもしれない。
なにより、らぶてぃめっとトランスで底上げしているウィンクルムたちには時間が限られている。
一気に攻めていく以外の方法は、今のところない。
「ミサ、俺に力を貸して」
エミリオの言葉に、ミサは一度見上げて、深く頷く。
「うん。私の力、エミリオが使って」
「ありがとう」
ミサの負担を考えて、できるなら使わずにおきたかったものだったが、エミリオにも力が必要だ。
単調な攻撃では容易く見破られてしまうだろうから、変化はいつも必要――。
エミリオがソウルトレーサーを使い、ミサの力を奪うように自らへと吸収すると、ゼノアール・ミーシャへと距離を詰めた。
「隙がないなら、作ればいい」
レクイエムからトーベントへの多段攻撃をエミリオが仕掛ける。
その攻撃を避けずに、ゼノアール・ミーシャは受け止めると、すぐに攻撃へと転じた。
「死ね、ウィンクルム!」
ミーシャのような雰囲気とはまた違う空気を纏って、ゼノアール・ミーシャが咎人ノ殴打を繰り出した。
「くっ……直撃す、――」
「エミリオ!」
シリウスが即座にゼノアール・ミーシャの腕へと攻撃を仕掛けて軌道をわずかに逸らしたあと、シャイニングスピアを自らにかけた羽純がエミリオの盾となってその攻撃を受けた。
「っ、く……ぐ……」
軌道が逸れたとはいえ、強烈な一撃が羽純に命中し、吹き飛ばされる。
さらに、その一撃の重さを物語るように衝撃波が生じ、周囲にいたシリウス、エミリオ、ルシエロ、アルベルト、天藍らにも痛撃を与える。
「つっ!」
「すごい衝撃……だな……」
シャイニングスピアが攻撃の一部を反射すると、ゼノアール・ミーシャにも微小な傷を作った。
なんとか踏み止まってはいるが、ルシエロのダメージは大きく、エミリオも蓄積されたダメージによって看過できない傷になっている。
「少し下がって仕切り直したほうがいい!」
体勢を立て直すまでの時間を作るように、オルクスが後方からワイルドショットを打ち込む。
それに合わせて、最前で奮戦し、衝撃に巻き込まれた精霊の傷を羽純がインベル・ヴィテで癒す。
「隙を作ってくれ。こっちに意識を向ける」
「援護します!」
翡翠が飛び出すのと同時にミサがバニッシュメント・ボウをゼノアール・ミーシャへと向けて放つ。
ミサに目を向けたゼノアール・ミーシャの隙を狙って翡翠がトルネードクラッシュIIを仕掛けた。
「コロス……、シネ……」
ゼノアール・ミーシャが鎖で絡め取るように翡翠の大剣「アルマグラティウス」を防ぐと、背後からシエテがタイミングを逃さず槍で突く。
「ダンザイ……スル……」
翡翠に向けてすぐに攻撃へと転じたゼノアール・ミーシャは、その鎖で翡翠を強打する。
「ぐああっ……!」
「翡翠さん!」
重く、強い鎖は並大抵の力では切ることもできず、攻防一体で隙の少ない鎖は翡翠へと直撃し、深手を負わせた。
「くっ……、しくじったな……」
「無理はしないでください」
泣きそうなシエテに、翡翠はそっと目を閉じた。
さすがに、血が止まらない翡翠を見て不安にならないはずはない。
「アイリス、翡翠を救助してやってくれ」
「はい!」
クロスが神符をゼノアール・ミーシャに放って拘束を試みるも、それには至らない。
けれど、天藍がトーベントでゼノアール・ミーシャへと攻撃を繰り出し、その隙にアイリスが翡翠のそばまで駆け寄ると、シエテと二人で翡翠を後方まで下げた。
追撃しようとするゼノアール・ミーシャに、オルクスがワイルドショットを撃ち込む。
「行かせられないな」
「グ、アアアッ!」
後方で動きを観察していた伊万里とひろのが顔を見合わせる。
「オルクスさんの攻撃が、効いているかもしれませんね」
「私も、そう思った」
たしかに、他の攻撃も当たってはいるし、傷は増えている。
けれど、オルクスの一撃はゼノアール・ミーシャの動きを止めるほどの威力がある。
戦線を一度下げたウィンクルムたちは、羽純のインベル・ヴィテで傷を癒す間に情報の共有をおこなう。
「それなら、オルクスが狙いやすいように前で注意を引けばいいか」
ルシエロがひろのと羅針盤「運命の羅針盤」と羅針盤「宿命の羅針盤」を重ねて、さらに傷を癒しながら提案する。
「幸い、後衛の援護も見込めるから、立ち回るには十分だろう」
その力を得るため、天藍もかのんと羅針盤を合わせて傷を癒す。
「オルクスが標的にならないように、手数で攪乱して行こうか」
エミリオの言葉に頷くだけに留めたシリウスを、リチェルカーレが見遣った。
「シリウス、大丈夫?」
「ああ」
元々シリウスは口数が多いわけではないが、こうも黙り込んでいると傷を隠しているのではないかと懸念してしまう。
「本当に?」
「大丈夫だ。そこまで深刻そうか?」
「……ううん。しっかり援護するわね」
最前線に立つのだ。心配しないはずはない。
羽純が再度インベル・ヴィテをかけたあと、神人たちはそれぞれの精霊を前線へと送り出すと、すぐに攻撃へ移った。
伊万里がクリアレインを構え、閃光効果を狙って矢を放つ。
ゼノアール・ミーシャはそれをかわしたが、タイミングを合わせたアスカがグラビティブレイクを打ち込む。
その攻撃をも回避したゼノアール・ミーシャに、リチェルカーレが拘束を試みる。
「ジャマ……」
神符を払うように避けた瞬間を狙って輝が槍で攻撃する。
「ジャマ……、ジャマ……、――ぶっ殺してやる!」
「今度はまるで、ゼノアールみたいだな」
羽純が雰囲気を変えたゼノアール・ミーシャを見て呟く。
どうにも、このゼノアール・ミーシャには複数の人格が共存しているように見えた。
あくまでも、憶測ではあったけれど。
ゼノアール・ミーシャが拳を構えると、羽純がすぐさま前に出ようと動いた。
しかし、その肩をぐっと引き止められる。
「っ!?」
振り返るよりも先に天藍が羽純の前に飛び出した。
「お前が崩れたら、あとは全員が倒れるのを待つだけだ。俺に任せろ」
最後まで動くための力を与えるのが癒し手の役目。
羽純の傷は決して浅くない。それを察して天藍が前に出ると、ルシエロがタイミングを合わせて多段攻撃を仕掛け、オルクスから引き離すようにエミリオとシリウスが連携して攻撃する。
「アイリス、下がれ!」
衝撃波に備えて羽純がアイリスに声をかけると、すぐさまアイリスはラルクと共に距離を取った。
「相手はてめぇか!」
「不足か?」
「面白れぇ――!」
咎人ノ殴打が天藍を目掛けて繰り出される。
一撃を見舞われ、体勢を崩した天藍は弾かれた勢いで身体を捻って体勢を立て直す。
さらに衝撃波は周囲に広がり、アスカ、輝、ルシエロ、エミリオ、シリウスを巻き込んだ。
「う、ぐ……っ」
それぞれに受け身を取って立て直したが、衝撃波によってアスカとエミリオが弾き飛ばされて地を転がる。
「アスカ君!」
「エミリオ!」
伊万里とミサがそれぞれに駆け寄る。
仲間の救援のため、シリウスはレクイエムでゼノアール・ミーシャへと斬りかかり、時間を稼ぐ。
天藍とルシエロがそれに続いて波状攻撃を仕掛け、距離を取る。
「天藍、傷は?」
「思うほどじゃない。意外と耐えられそうだ」
ルシエロの問いに天藍は笑みを見せるだけの余裕があった。
「ルシエロのほうが深刻そうだな」
「下がったほうがいいのかもしれないが、攻撃への好機だ。前線に残る」
ルシエロの傷も蓄積されて深くなっている。次の攻撃に耐えきれるかどうかも怪しい。
けれど、ルシエロが引けば撹乱の手が緩む。ルシエロの言うように、まさに攻撃には最適なのだ。
押し切れるかもしれない。無理でも深手を与えられる可能性がある。
だから。
「なにかあれば俺たちが庇う」
「俺もまだ余裕があるしな」
シリウスと天藍の言葉に、ルシエロが頷く。
*
「アスカ君、しっかりして!」
一撃でアスカは満身創痍になった。しかも、衝撃波で、だ。
アスカは伊万里に目を向ける。
「大丈夫、ちょっと戦うのは無理だが……、生きてる」
「うん。良かった……」
「引いた距離が……浅かったな」
攻撃後は即座に離脱したアスカだったが、十分な距離を取るより前に衝撃波が到達してしまった。
「アイリスさん、アスカ君のこと、お願いします」
「はい、必ず守ってみせます」
アスカの無事を確認すると、伊万里はすぐに戦線へ戻る。
そのそばで、ミサがエミリオに駆け寄り、手を取っていた。
「エミリオ……」
「そんな顔しないで、ミサ……戦えそうにないだけで、動けるから……」
「でも……っ」
エミリオはミサの頭を撫でる。
「大丈夫だよ。ちょっとだけ……休んでくるね」
「うん……、気を付けてね」
「ミサも」
エミリオが戦線を離脱する背中を見送って、ミサも戦線へと戻った。
羽純がインベル・ヴィテで戦線に残った者たちの傷を癒す。
「回復に専念するから、俺は次、行動に参加はできない」
今立っていても、皆ダメージが蓄積されている。
「私たちはいつトランスが切れてもおかしくない状況です」
アルベルトの言葉に、開始直後かららぶてぃめっとトランスを行使していたウィンクルムたちには時限が迫っていると再認識する。
「無理をしない程度に、かつ攻めていこう」
「俺たちのスタンスは変わらない。オルクスの射撃進路を開けることに専念する」
天藍とルシエロが確かめるように言葉にすると、ゼノアール・ミーシャとの距離を詰めて攻撃をしかけ、クロスが後方から神符でゼノアール・ミーシャの拘束を試みる。
「――ッ」
「やった! 今だ!」
クロスの声に、シリウスがレクイエムで斬りかかる。
さらにルシエロが斬りつけて体勢を崩すと、連携して天藍が追撃し、着実にダメージを重ねていく。
「畳みかけましょう!」
ミサが声を出し、弓を放つ。
拘束をされているとはいえ、ゼノアール・ミーシャの身体能力は劣ることを感じさせないほど俊敏だ。
矢をかわし、攻撃に転じようしたところを、アルベルトがコスモ・ノバで封じる。
「輝、今です!」
「これで――!」
輝がコスモ・ノバの収束を待って、槍で突く。
「まだだ! かのん、援護を!」
「はい!」
かのんが呪符を放ち、天藍の攻撃を援護すると、タイミングを計って天藍が斬りつけた。
怯むゼノアール・ミーシャを足場に身を返して軌道を開けると、その軌道上をオルクスがワイルドショットで狙い撃つ。
「グ……ゥ……、ウィンクルム……コロ、ス……」
「殺させたりしませんよ!」
伊万里がクリアレインを放ち、リチェルカーレが神符を放って挟撃する。
しかし、そのどちらもゼノアール・ミーシャは回避。
そこへシリウスとルシエロが呼吸を合わせて同時攻撃をおこなう。
「これなら――!」
ゼノアール・ミーシャが鎖で攻撃を受け止めると、ルシエロを目掛けて振り下ろした。
「ルシエロ、悪い……!」
退避する跳躍を利用して、シリウスがルシエロを蹴り飛ばして庇う。
振り下ろされる鎖をシリウスが受け、後方へと弾かれたシリウスは身体を捻って体勢を立て直した。
「シリウス!」
「大丈夫だ、俺には――軽い」
衝撃こそ強いが、シリウスの傷は浅い。
これなら、一撃で致命傷になることはなさそうだ。
「シエテさん、私たちも行きましょう!」
「――はい」
歌菜が距離を詰めて鞭をふるってゼノアール・ミーシャの注意を逸らすと、シエテが反対側から槍で突く。
二人が作ったゼノアール・ミーシャの隙をつくように、シリウス、天藍、ルシエロが同時に攻撃を繰り出して撹乱する。
「オルクスさんは、守る」
その動きに合わせてひろのがオルクスの位置までさがって呪符を展開し、盾を作る。
「まとめてぶっ殺してやる――っ!」
ゼノアール・ミーシャが咎人ノ殴打を仕掛けると、天藍がその攻撃を引き受けた。
「つ……っ!」
受けられるとはいっても、無傷ではないのだ。耐えられるだけであって、天藍の傷は一撃を受けるごとに深く、ひどくなっていく。
さらに、その一撃を凌いでも、衝撃波が周囲のシリウス、ルシエロ、シエテ、歌菜を巻き込んでいく。
「きゃああっ!」
「っ……!」
シエテとルシエロが衝撃波に飛ばされ、立ち上がれずにいる。
「シエテさん!」
アイリスがすぐに救助へと駆け寄り、守るようにシエテを抱き起す。
「すみません……、失敗、してしまったようです」
「私が安全なところまで運びますから、頑張ってください」
シエテを連れてアイリスが下がる一方で、ひろのはルシエロには駆け寄らなかった。
「行かないのか?」
狙いを定めながら、オルクスがひろのに声をかけると、ひろのは呼応するように返事をしただけだった。
「オルクスさんを守る、から」
途切れがちな言葉が紡ぎ出される。
「ルシェが、全身で守ったこと、無駄にしない」
ルシエロには下がるという選択肢があった。
けれど、そうせずに前線に立つことを選んだ。それは、オルクスの攻撃を通す道を作るため。
駆け寄りたくないわけではないし、もちろん心配だったが、どうしてか、ひろのはその場所を動けなかった。
「そうか。……だったら、絶対当ててやる」
狙いすまして、オルクスはゼノアール・ミーシャへワイルドショットを撃ち込んだ。
*
時間経過とともに、らぶてぃめっとトランスが効力を失っていく。
底上げされていた力は元に戻り、そしてそれはウィンクルムたちをさらに戦線から離脱させていく。
動けずにいたルシエロをシリウスが助けて後方まで下げると、天藍も前線で力を失くしたように倒れ込んだ。
「天藍!?」
かのんが急いで駆け寄ると、天藍は身動きがままならないほどの傷を負っていた。
「天藍……、しっかりしてください……!」
「かのん、天藍を安全な場所まで連れて行こう」
羽純が駆けつけて、天藍をチャーチの内部まで運ぶと、戦線をゼノアール・ミーシャから大きく離した。
「天藍……」
「かの、ん……俺は、大丈夫だから……」
「大丈夫なわけが……!」
大丈夫なわけがない。
普通では受けきれないほどのダメージを受けていたのだから。
「かのん……、――」
「……はい……」
言いかけて、意識を手放した天藍にかのんは頷くことで応えた。
退くにも進むにも、いずれにしてもまだ戦場に立っていなくてはならない。
だからかのんは立つことを選ぶ。
「私はこのまま戦線を離脱するわ」
輝がらぶてぃめっとトランスの効力が切れたタイミングで戦線を離脱する。
無理を強いるものではないから、その提案に全員が頷いたあと。
「どちらにしても、ゼノアール・ミーシャの攻撃を凌ぐ手が必要だ」
羽純が次手の手掛かりを探す。
今までは耐えられていたものも、次は耐えられないかもしれない。
オルクスの攻撃も、効果は見込めないかもしれない。
ならば、凌ぐ戦いが必要だ。
あの、強力な攻撃を凌ぎ切る――。
「俺なら、耐えられるかもしれない」
シリウスが静かに提案する。
「ですが……」
アルベルトの懸念を、シリウスは首を振って否定する。
「俺はずっと今の状態で戦ってきてる。その上で、耐えられる確信がある」
たしかに、羽純は次の一撃を凌げるか分からない。それほどに受けるダメージが大きい。
アルベルトは輝と共にトランスが切れてダメージの如何が分からない。
賭けるにはどちらも危険だ。
「私も、シリウスの提案でいいと思います」
リチェルカーレがシリウスに賛同する。
それは、シリウスなら大丈夫だという安心から、というよりも、彼の意見を尊重し、信じているからこそのようだった。
「二人がそれでいいなら、俺は従うけど」
クロスが不安そうに二人を見遣る。
「私も、二人がいいなら……」
「異存はありませんが、心配ですね……」
ミサと伊万里も頷いてはみたが、不安は隠せない。
「――本当なら、みんなを回復させるべきなんだろうが、シリウスを守るために力を使いたい」
羽純は思案したあと、そう提案した。
重傷者が続出し、戦線を離れている今、羽純が回復に力を裂きたいのはもっともだが、今はなによりもシリウスを守る必要がある。
「今度はオレがシリウスを援護する」
オルクスが後方へ位置を取り、羽純がシャイニングスピアをシリウスにかけると、布陣を展開する。
「後ろは頼む」
「無理しないでね、シリウス」
「……ああ」
言葉を交わすと、リチェルカーレは後方へ位置を取った。
ミサが弓でゼノアール・ミーシャを狙い、ひろのが呪符で隙を誘うように攻撃を仕掛けた。
タイミングを合わせてシリウスが飛び出し、ゼノアール・ミーシャに斬りかかると、その攻撃をゼノアール・ミーシャは回避する。
「――だめか」
すぐに攻撃へと転じたゼノアール・ミーシャはシリウスに鎖を打ち付ける。
「っ!」
来ると分かっていても、受ける覚悟があっても、その衝撃に眉根を寄せずにはいられない。
シリウスが後方へ弾かれながら身を翻す。
シャイニングスピアが攻撃を反射してゼノアール・ミーシャへのダメージを狙ったが、やはり簡単に傷は作れそうにない。
「羽純、もう一度だ」
「……無理はするなよ」
再び羽純がシリウスにシャイニングスピアをかけると、それに合わせて伊万里がクリアレインを放つ。
さらにリチェルカーレが動きを止めるべく、拘束を試みるが、それらのことごとくをかわされる。
オルクスが後方から射撃するも、それをもゼノアール・ミーシャは回避する。
「外したか……!」
注意が逸れた一瞬をついて、シリウスがゼノアール・ミーシャへと飛びかかった。
「コロス……!」
「殺されてやるわけにはいかないんだ」
シリウスの攻撃を避けたゼノアール・ミーシャは、反動を利用して咎人ノ蹴りでシリウスを蹴り飛ばす。
「くっ……!」
殴るか、鎖だろうと予測していただけに、蹴り技はさすがに不意打ちだったが、それでもシリウスは後方へ弾かれながらも耐えた。
シャイニングスピアの反射は見るまでもなかったが、攻撃をすることが目的ではない。
「凌ぎ切る……」
よろめきながら立ち上がるシリウスに、羽純は制止をかけた。
「シリウス、これ以上は……」
「やれる。大丈夫だ」
「下がってくれ、シリウス。これ以上傷付いたら……」
リチェルカーレにそっと目を向けた羽純に、シリウスは我に返ったかのように息をつめた。
賛同こそしてはいたが、リチェルカーレが心配していないはずがない。現に、泣きそうな顔でシリウスを見つめている。
「だが、まだあいつは攻撃してくる。どうやって凌ぐんだ?」
「可能性に賭けて、私が囮になろうか?」
アルベルトが提案するが、そんな危険は冒せない。
「オレが突っ込んでみてもいい」
オルクスの提案にも、賭ける要素は大きい。シリウスも頷くことを躊躇っている。
「あ、あの、羽純、くん……」
「歌菜……?」
「私が、行くよ」
この提案にはその場にいた精霊全員どころか、後方にいた神人たちですら驚いた。
「今の私なら、攻撃を受けきれると思うの。だから、行かせて」
「らぶてぃめっとトランスもあるし、凌ぐだけなら、たしかに……」
神人たちが駆け寄ってくると、真っ先に口を開いたのはクロスだ。
「たしかに、じゃない。歌菜に行かせるのは危険だ」
「もともと最前衛に位置を取っているわけではないので危険かもしれません……」
伊万里の意見にも一理あったが。
「大丈夫です。私も、皆さんをちゃんと守れます。そのための、力があるんですから」
曲げるどころか、反対するほど強くなる意思に、その場にいた全員が提案を受け入れて引き下がった。
「気を付けて」
ひろのの言葉に励まされ、再度、ゼノアール・ミーシャへと攻撃を仕掛けるため、羽純が歌菜にシャイニングスピアをかける。
「歌菜。……頼んだ」
シリウスのその言葉に頷くと、歌菜はゼノアール・ミーシャを目掛けて走り出す。
「少しでも桜倉さんから意識を逸らしましょう」
「分かった」
アルベルトとシリウスが歌菜の援護のために先陣を切ると、かのんが呪符を放ち、守りを固める。
「オルクスさん、今です!」
かのんの声にオルクスが射撃すると、ゼノアール・ミーシャが回避のために動いた。
「行きますよ!」
アルベルトの掛け声とともに、シリウスとタイミングを合わせ同時に攻撃し、即座に離れた。
そこへ歌菜が鞭をふるうと、ゼノアール・ミーシャはそれを受け止め、振り上げた鎖が歌菜を襲う。
「きゃあっ!」
シャイニングスピアが攻撃を反射し、ゼノアール・ミーシャを後方へと下がらせる。
後方へと勢いよく弾き飛ばされた歌菜へ向かって羽純が走り出し、その身体を抱き止めると最小限のダメージに留めた。
「羽純くん……、ありがとう」
「心臓に悪い」
歌菜の傷は幸いにも浅く、全員が胸を撫で下ろした。
*
「しかし……押し切れなかったか」
倒すまでには至らなかったが、眼前にいるデミ・ギルティの身体は血に染まり、傷が浅くないことを物語っている。
ゼノアール・ミーシャは満身創痍に近い。
けれど、その善戦の分だけ、この場にいるウィンクルムたちも疲弊していた。
(執筆GM:真崎 華凪 GM)
戦闘判定:成功