リザルトノベル

●会食と記念植林 執筆:雪花菜 凛 マスター

 煌めく星座が地下の空洞の天井を埋め尽くしている。
 ウィンクルム達のオーガとの戦いで疲弊した身体が、温泉の効果でじんわりと癒やされていた。
「あー気持ちいー」
 柊崎 直香は、『流星の湯』と呼ばれる湯船に浸かっていた。
 暗い室内は、温泉の床が仄かに光っており、周囲を照らしている。
 真上に一筋の流星が流れているを見上げてから、直香は隣を見遣った。
「僕より深手なんだからしっかり浸かりなよ」
「お前こそ、ちゃんと浸かってろ」
 直香のパートナー、ゼク=ファルは、即座にそう言い返すと手を伸ばして直香の頭を撫でる。
 労られてる?
 オーガとの戦いで食糧輸送班として参加した二人は、予想外のオーガの妨害にお互い怪我を負っていた。
「えいっ」
 直香は手で水鉄砲を作ると、お湯をゼクの顔に掛ける。
「……大人しく浸かってられないのか、お前は」
「それだけ元気になったってことー」
 ゼクの渋い顔を見ながら、直香は朗らかに笑ったのだった。

「癒されますね……」
 直香とゼクのお湯の掛け合いを眺めながら、一ノ瀬 蒼夜は大きく伸びをする。
 その隣で、彼のパートナーのステラ・リュインスもやんわりと微笑んだ。
「本当に素敵な温泉だね」
 身も心もゆっくりと溶けていく感覚。
 ウィンクルム達を温泉は存分に癒やしたのだった。 


 ルミノックスで温泉を楽しんだウィンクルム達は、凱旋式とパーティに出席するため、スペクルム王宮へ向かう。
 会食と記念植林に参加するウィンクルム達が通された『孔雀の間』では、立食形式で豪華な食事が準備されていた。
 室内楽団が穏やかな音楽を奏で、彼らを歓迎する。
 ウィンクルム達は早速、思い思いに食事を楽しみ始めた。

「肉だけじゃなくて、野菜も食べてね、セイリュー」
 ラキア・ジェイドバインは、山盛りの皿を抱えたパートナーにそう声を掛けた。
「勿論! 野菜もちゃんと食べるよ。植物達の恵みだものな」
 セイリュー・グラシアは笑顔で頷くと、皿へ野菜を追加していく。
「い、入れ過ぎなんじゃない?」
 こんもりと盛られた皿を見て、ラキアは思わず目を瞠った。
「育ち盛りだし! ほら、ラキアももっと食べないと」
 セイリューはキラリと瞳を輝かせると、ラキアの返事を待たずに彼の皿に料理を盛る。
「あ、ありがと……ね、セイリュー。記念植林の樹木は何を選ぶ?」
 どうしよう、この量。
 さりげなくセイリューに食べさせようと考えつつ、ラキアは話題を変えた。
「ん? そうだなー」
 セイリューはサラダを頬張りつつ、並ぶ見本の樹木を見遣った。
「スター・アップルかな。万一の時に国民達の飢餓を救うかも、だし」
 スター・アップルは、栄養価が高く、病後の栄養食などとしても珍重されている樹木だ。
「ラキアは?」
「俺は……そうだね、シルバームーン・オークを選ぶよ。長寿の樹木に末長くこの国を見守って貰えるように」
「ラキアらしいな」
 セイリューとラキアは顔を見合わせて微笑む。

「ラセルタさん、お疲れさま」
「む、酒か? 気が利くではないか」
 ラセルタ=ブラドッツは、パートナーの羽瀬川 千代が差し出したグラスを上機嫌に受け取った。
 千代はその様子にクスリと笑って首を振る。
「残念ながらジュースだよ。すぐ酔っ払うでしょう」
「ぬ……」
 少し無念そうにしつつ、ラセルタはグラスに口を付けた。
「千代、何を考え込んでいる?」
 ふと思案顔になっている千代に、ラセルタが首を傾ける。
「樹木のプレートに、何を書くか悩んじゃって……」
 少し照れ臭そうに微笑む千代を見つめ、ラセルタはふむと頷いた。
「木の成長が4、5年……ならば、その時の自分に恥じない目標でも書けばいい」
 ぐいっとグラスの中身を呷る。
「なんなら俺様が書いてやってもいいが」
「有り難う、でも折角だから俺が書いてもいい?」
 千代は大事そうにプレートを抱き締めるとそう言った。
「そうか」
 頷いて、千代は彼から隠すようにしてプレートに文字を書いた。
 ラセルタはそんな千代を瞳を細めて見つめ、彼が書き終わると同時に空のグラスを差し出す。
「千代、おかわり。それ、持っといてやる。大丈夫だ、見ないから」
 プレートをグラスを交換し、千代が離れるのを確認すると、ラセルタはそっとプレートを見てから、その裏側へペンを走らせた。
 『期待している』と一言、気付かれないように小さく。

「流石は王宮。勉強に色々食わせて貰うぜ」
 アルヴァード=ヴィスナーは、並ぶ料理に瞳を輝かせ、次々と手を伸ばした。
「王宮に呼ばれる事なんてそう無いからね」
 そんなパートナーの様子を眺め、栗花落 雨佳は瞳を細める。
(アルが楽しそうでよかった)
「雨佳、お前も食べろ」
 アルヴァードは、皿に料理を載せると雨佳に差し出した。
「しっかり食べて、少しは体力付けろ。直ぐ体調崩すしな」
「ありがとう」
 雨佳は眉を下げて、彼から料理の載った皿を受け取る。
「いただきます」
 料理に口を付ける雨佳をじっと眺めてから、アルヴァードは先ほど受け取った樹木のプレートを見遣った。
 雨佳は、戦闘を行った次の日など、必ず熱を出す。
 だから、メッセージに書く事はもう決まっている。
「アル?」
 こちらの様子を不思議そうに見ている雨佳に、アルヴァードは慌てて顔を上げた。
「上手いだろ? それ」
「うん、美味しいよ」
 二人は味わいながら、料理を楽しむ。

「んがが……!」
「タイガ、大丈夫?」
 凄い勢いで料理を掻き込んだと思ったら、喉を詰まらせたパートナーの背中を撫でて、セラフィム・ロイスは小さく笑った。
「もう、慌て過ぎだよ」
「助かった……」
 セラフィムから水を貰い、ぐっと飲み干して、火山 タイガはふぅと息を吐く。
「それにしても……本当に凄い料理。あと、国王も国民も凄い歓迎だよね」
 改めて周囲を見渡し、セラフィムは大きく瞬きした。
「すっげえよな~!」
 タイガは同意してコクコクと頷く。
「ただ飯食えるなら頑張らねぇと!」
「……タイガらしい」
 ぐっと拳を握った彼の言葉に、セラフィムはクスクスと笑った。
「僕も国民の笑顔を見れるなら……ウィンクルムになってよかったって、そう思うよ」
 貢献し続けないといけないけれど。
 少しの不安を感じつつ、微笑むセラフィムの服の裾を、タイガがぐいぐいと引く。
「セラは何書く? 俺はスター・アップルを選ぶぞ」
 植林のプレートを掲げた。
「内緒」
「えー見せっこー」
 タイガは不服そうに頬を膨らませる。
「ねぇ、スター・アップルを選んだ理由って?」
「セラの体や、病人の役にたつかなってさ……」
 逆に聞き返されて、タイガは少し照れ臭そうにそう言った。
「うん、わかってた」
 セラフィムの顔には、穏やかな笑顔が浮かんでいる。

「お前びっくりするほど場に馴染むよな……」
 ルイード・エスピナルは、パートナーのドルチェ・ヴィータを眺め、感嘆の吐息を吐いた。
 礼装した彼には、そこらの貴族には負けない気品がある。
「こーいうとこ初めてだからめっちゃ緊張するんだけど……!」
 ルイードはそう言って、キョロキョロと周囲を見渡した。
「でも……スイーツとか超気になる」
 テーブルに並ぶスイーツへ視線を向ける。
「これ何だろ? 美味いかな?」
 見たことのない、美しい色のゼリーを見つけ、ドルチェを振り返った。
「ちょっとドルチェ食べてみてよ。美味しかったらオレも食う!」
「仕方ないな~」
 ドルチェは長い指でゼリーの入ったグラスを手に取ると、スプーンで掬って口に運ぶ。
 何の障害も躊躇もなく食べ終えると、空の容器を給仕に手渡した。
「どう? 美味かった? あ……でも辛いのは勧めるなよ? 絶対だぞ?」
 身を乗り出して尋ねると、ドルチェはにっこり微笑む。
「とても美味かった。ルイードも食べてみるといい」
「ホントか?」
 ルイードは瞳を輝かせると、早速ゼリーのグラスを手に取った。スプーンで掬って一口食べる。
「……!!? 辛……ッ 辛……!!!」
 予想外の辛さに涙目になる彼を見つめ、ドルチェは瞳を細めた。
「ちゃんと最後まで食べるんだよ?」

「アーノ、これを」
 ヴァレリアーノ・アレンスキーは、パートナーのアレクサンドルの差し出した皿を無言で見つめる。
 皿には、アレクサンドルが選んできた料理が載っている。
 その中には、彼の好物であるピロシキもあった。
「……有難う」
 礼を言い、皿を受け取る。
 ピロシキを手に取って頬張ると、香ばしい肉汁が口の中に広がった。
 衣はふっくらさっくりしており、噛みごたえがある。
「おかわりもあるから、どんどん食べるといい」
 ピロシキを食べる姿は歳相応で、微笑ましく思いながらアレクサンドルは微笑んだ。
「野菜もきちんと食べるように」
 サラダの皿を押し付けることも忘れなかった。
「アーノは、プレートに書くメッセージは決めたかな?」
 食後のコーヒーを飲みながら、アレクサンドルはプレートを掲げて尋ねる。
「願いではなく自ら叶えるつもりだがな」
 ヴァレリアーノは一言そう答えると、プレートを指先で叩いた。
「そうか」
 頷いて、アレクサンドルは自分の書いたプレートに視線を向ける。
 この自分の願いも、願いとは言えないものなのかもしれない。
 何故ならば。
(この力ある限り、汝は我から離れる事は出来ないがね)

(今日は頑張ってエリクに心配かけさせないようにするんだ)
 セイヤ・ツァーリスは、緊張した面持ちで礼装に身を包んでいた。
 この場には、王族や貴族、政財界の高官などの賓客が集っている。
 くれぐれも粗相は出来ない。
 エリクシアの隣に、胸を張って居れる自分で居たい。
 笑顔で礼儀正しく。
 セイヤの努力は実を結んでおり、エリクシアはそんな彼を微笑ましく見つめていた。
「セイヤ様。プレートを頂きましたよ」
 植林のプレートを手に、エリクシアが声を掛ける。
「どの樹木にするか、お決めになられましたか?」
「ありがとう、エリク。うん、決めたよ」
 プレートを受け取り、セイヤは笑顔を見せた。
「シルバームーン・オークにしたいな……って」
「セイヤ様。しかし、その樹はトレントになりやすいと言います」
 エリクシアが僅かに眉を寄せて、心配そうにセイヤを見つめる。
 シルバームーン・オークは、成長に連れ魔力を帯びて行く樹木だ。
 魔法の道具などを作るのに向いているが、一方、トレントになる確率が高い樹木でもある。
「でも、エリクと二人で一緒に植えるんだもん、大丈夫だよ」
 セイヤは真っ直ぐにエリクシアを見上げた。
「きっと優しい樹になるよ」
 にっこりと微笑まれれば、返す言葉などなく。
 エリクシアはセイヤに微笑みを返したのだった。

「やっぱり美味しいもの食べてると幸せになるよねぇ」
 叶は、料理を口に運びながら、至福の表情でそう言った。
「ねぇ桐華、ちょっとずつ味見したいからさ、大きいものは半分こしようよ」
「……まぁ、構わないが」
 叶のパートナーである桐華が頷くと、叶は早速、彼の皿にあった白身魚のムニエルを切り分ける。
「あ」
 ムニエルを口に運んで、叶は思い付いたとばかりに桐華を見遣った。
「より取り見取りなこの機会に、君の好きとか嫌いとかも教えてよ」
「好き嫌い?」
 桐華は眉を上げてから、少し考えるように宙を見上げる。
「……特にない」
「……え、無いの? ご飯作るのが僕だからって遠慮してない?」
「そ、そんな事を言われても、無いものは無い」
 桐華の答えに、叶はふにゃりと表情を緩ませた。
「……そっか……嬉しいなぁ」
「…………」
 桐華は少し照れ臭そうに視線を逸らす。
「そうだ、植林なんだけどさ、スター・アップルにしようと思ってるんだ。食べられる実がなるし、やっぱりこれかなって」
 プレートを取り出して、叶は微笑んだ。
「桐華も何か書く? 食べながら考えようよ」

「プレート……何を書くかな」
 初瀬=秀は、植林のプレートを前に悩んでいた。
 樹はスターアップルを選んだ。
 しかし、肝心の書く事が思い付かない。
 チラリと、隣で同じくプレートを見ているパートナー、イグニス=アルデバランを見遣る。
 彼はミラクルパインを選んでいる。
 真剣な横顔を眺め、何を書くつもりなんだろうかと少し気になった。
 一方、イグニスは、樹が成長した未来に思いを馳せていた。
(これが育って実がなる頃には私たちは何をしてるんでしょうか)
 今はまだ想像が出来ない。
 ただ、思う事は……。
 一つ頷くと、イグニスはペンを取って、さらさらとメッセージを書き込んだ。
(あいつ、頑張ってたからな)
 ペンを走らせるイグニスを見て、秀もまたペンを動かした。
(これくらい個人的なことでも許されるだろ)
 書き込んで、ペンに蓋をする。
「秀様、なんて書いたんです?」
 不意にイグニスが覗き込んできて、秀の肩が跳ね上がった。
「っておいこら人のを見るな! 内緒だ!!」

「俺の植えた木が1000年も生きるって考えたら、なんだか妙な感じがするな」
 天原 秋乃は、植林のプレートを撫でてそう呟いた。
 秋乃が選んだ樹はシルバームーン・オーク。
 1000年以上生きている老木も少なくない、長寿の樹だ。
「長生きしてくれたらいいね」
 イチカ・ククルはニコニコと笑顔で頷き、自分の書いたプレートを眺める。
 イチカもまた、植林する木はシルバームーン・オークに決めていた。
「秋乃は何を書いたの?」
「別に、いいだろ」
 秋乃はプレートを素早く隠す。
「そういうイチカは何を書いたんだ?」
「僕? 僕はこれ」
 じゃーん!とイチカは秋乃にプレートを見せた。
「ふぅん。……で?」
 秋乃が呆れ顔で首を傾ける。
「秋乃、冷たい……」
 しくしくと泣き真似してから、イチカは顔を上げると笑顔で秋乃の手を引いた。
「メッセージも出来たし、ご飯食べよう、ご飯!」
 全くめげてないパートナーが、秋乃には不思議でならなかった。

「スターアップルうえるんだ!」
 植林のプレートを手に張り切るパートナーを眺め、ダニエレ・ディ・リエンツォは首を傾けた。
「ジョル、どうしてスターアップルなんだ? 他にも……」
「なんでもいいでしょ!」
 キッと、ジョルジオ・ディ・リエンツォはパートナーを見上げる。
「スターアップルうえるの!」
「はいはい……」
 ジョルジオに押し切られる形で、ダニエレは両手を上げた。
「メッセージは……」
「ぼくがかく! おとーさんはみちゃダメッ」
 ジョルジオはプレートを胸に抱え、会場の隅っこへ移動する。
 ダニエレに向け、こっちに来るなオーラを発しながら、プレートにメッセージを書き込んでいった。
(からだにいいっていうから、おとーさんののどがはやくよくなるようにって)
 丁寧に願いを込めて、メッセージを入れる。
(おとーさんにはないしょ)
「……反抗期かね?」
 少し寂しく思いつつ、ダニエレはジョルジオの好きにさせておく。
 しかし、どうしても気になるのが保護者というもの。
 ジョルジオがトイレに行った隙に、こっそりとプレートを覗いた。
 その結果、ダニエレは感涙に咽ぶ事となったのだった。

「樹はそうだね、シルバームーン・オークにしようか」
 木之下若葉は、プレートを手にそう言った。
「どうしてですか?」
 パートナーのアクア・グレイが首を傾げると、若葉は微笑む。
 さらさらとその場プレートにメッセージを書き込んで、ワカバに見せた。
「平和で何気ない日々が一番ってね」
 照れ臭そうに微笑む若葉に、アクアの顔がパァと笑顔になる。
「それならまず、ワカバさんが幸せでなくちゃですねっ!」
「俺が?」
 思わぬアクアの言葉に、若葉は大きく瞬きした。
「はい!」
 アクアは大きく頷いてから、大事そうに若葉の書いたプレートを撫でる。
「そっか……」
 若葉は少し照れ臭いような気持ちが湧き上がるのを感じながら、アクアの髪を撫でた。

 アキ・セイジは、迷わずシルバームーン・オークを選んだ。
「俺達の樹がトレントになったら、『あの村に移殖したい』って上に頼みたいんだ」
 セイジの脳裏に一番に浮かんだのは、以前関わったデミ・トレントの事件だった。
 居なくなったエント様に代わりにはならないし、なれないけれど。
 想いは繋げる筈だから。
 何年掛かるかは分からなくても、出来る事はしたい。
「特別な樹なんだが、一緒に頼みに行ってくれるか?」
 パートナーのヴェルトール・ランスを見つめる。
 彼は力強く頷いて微笑んだ。
「ああ、一緒に行こう。俺たちの樹は、きっと子供達と仲良くなって村と森を守ってくれるさ」
 セイジとランスは、プレートにメッセージと二人の名を書き込み、大切に眺め合う。
「……あれ?」
 ふと気付いて、ランスは大きく瞬きした。
 さっきセイジは『一緒に』と言った。それって……。
(五年後までは俺と組んでるってことじゃん)
「セイジ!」
「ッ!? うわ、ら、ランス?」
 ランスはセイジを抱き締め、満面の笑みを浮かべたのだった。

「雅ちゃん、今日は俺の奢りだっ」
 不束 奏戯は、テーブルに並ぶ料理を背に両手を広げる。
「かなちゃん、これは王様の奢り、ですよね」
 パートナーの艶村 雅は、すかさず扇子で突っ込みを入れた。
「す、すみませんでした……!」
「それより、植林の方に興味があるんだけれども」
 雅は植林のプレートを眺める。
「シルバームーン・オークなんて素敵じゃない? この植えた木で、いつか装飾具が作れたら素敵だよね」
「そうだね、素敵だねっ」
 直ぐ様復活した奏戯は、うんうんと頷いて同意した。
「では、早速プレートを書きましょう」
 二人並んで、プレートにペンを走らせる。
 奏戯の書く事は一つ。
 迷いなくペンを走らせてから、チラリと雅のプレートを覗き込んだ。
「かなちゃん」
 めっ。
 雅の扇子がパッと開かれて、奏戯の視界を遮る。
「ちぇー」
 唇を尖らせる奏戯に、雅ははんなりと微笑んだ。

(仕事もしてねぇのにこんな事していいのかよ……)
 エントは少し戸惑った様子で、周囲を見渡した。
 ウィンクルムになったばかりのエントは、少し気後れのようなものを感じている。
「エント」
 植林のプレートを手に、彼のパートナーであるファーレス=カルロッタが歩み寄ってきた。
「ミラクル・パインを植林したいなって思うんだ」
「植林か……」
「似たお花をよく積んで花束に入れてたから近親感湧いちゃった」
 エントはじーっとプレートを眺めてから、ニッと笑う。
「付き合ってやるけどよ、木だってパワーがなくちゃ育てねぇしな!」
「うん、ありがとう。じゃあ、プレートにメッセージを書こう」
 ファーレスはふわりと微笑んで、ペンを取り出した。
「これ、5年後に食えるのか」
 樹の説明文を読み、エントは目を丸くする。それから、チラリとファーレスを見遣った。
「……カルロもろくでもない人生を送ってきたんだ。精々五年後にはましになってっといいな」
「……うん」
 ファーレスは小さく頷き、プレートにペンを走らせる。
(ここにきて……まだまだ不安しかないけど、戦いもお友達もきっとなんとかなるよね?)

「これ植えた後も見に来れるのかな」
 ゼク=ファルがプレートに書き込む様子を眺めながら、柊崎 直香がふと呟いた。
「五年後の僕たちか……背は追い越してるから」
 もやもやと想像してから、にっこり笑顔で直香はゼクを見上げる。
「そうだろうな」
「むー……」
 ゼクの棒読みに、直香は頬を膨らませた。

「植林が行われる森って……『記憶の森』って言うんだよね?」
 信城いつきは、植林のプレートを見つめてそう言った。
「シルバームーン・オークを植えようと思うんだ」
 真っ直ぐにパートナーのレーゲンを見つめ、微笑む。
「この木がトレントになって……遠い未来の人達に『めでたしめでたし』な昔話を語れるようになったらいいな、って」
 いつきらしい言葉に、レーゲンはふわりと笑みを返す。
 きっといつきの植えるトレントなら、優しい昔話を語るだろう。
 いつきがぐっと拳を握った。
「『めでたしめでたし』な昔話を語れるように頑張ろう!」
「そうだね」
 レーゲンは頷いて、
「遠い未来は分からないけれど、せめてこの先、生きている限り……『めでたしめでたし』な未来を掴めるよう、一緒に頑張ろう」
 いつきの拳に自分の拳をコツンと合わせた。
 いつきの顔に満面の笑みが浮かぶ。
 それを見つめながら、レーゲンは心で誓った。
(ずっと、いつきのそばにいると誓うよ)

「プレートか……あー……」
 カミナ=ヴィグリヤは、植林のプレートを前に唸っていた。
 突然何かメッセージをと言われても、さっぱり気の利いた言葉が浮かんで来ない。
「カミナ」
 ウインナーを齧りながら、パートナーの霧亜がひょいと手元を覗き込む。
「なんだよ霧亜?」
「植林のプレートに書く内容、考えてたんだ」
「そう。けど、何書いていいやら……」
 ウインナーを飲み込んで、霧亜は口元に手を当てた。彼の耳元へ唇を寄せ、囁く
「……とかで良いんじゃないかい?」
「ま、良いんじゃねえか?」
 なるほど、とカミナは頷く。
「樹木は……」
「樹木……『ミラクル・パイン』にしようか」
「あー…んじゃ、これはお前に任せる」
 カミナは、プレートを霧亜に押し付けた。
「カミナは書かないの?」
「お前に任せた方が良さそうだし」
「分かった」
 霧亜は頷くと、ペンを手に取ったのだった。

「りく!これ、美味しい!」
 料理を次々と口に運びながら、琥珀・アンブラーは瞳を輝かせてパートナーを見上げた。
「はく、持って帰りたい!」
「琥珀ちゃん、気持ちは分かるけど……持ち帰りはダメなんだよね~」
 鹿鳴館・リュウ・凛玖義が眉を下げて言うと、
「……え? ダメ?」
 琥珀はしょんぼりと肩を落とした。
 そんな琥珀に目を細めながら、凛玖義は植林のプレートを琥珀に見せる。
「琥珀ちゃん、樹は何を植えようか?」
「木? えーっとね、スター・アップル!」
 琥珀は即答した。
「なまえがきれいでかわいいから」
 何て可愛い答えなんだ!
 凛玖義は緩む頬を抑えられず、ニコニコしながら頷いて、スター・アップルの説明文を読む。
「栄養価が高いって事は食べられるよね? コレ」
「はく、食べたいっ」
「5年後くらいに、一緒に食べようね」
 5年後に思いを馳せ、凛玖義は琥珀を指切りをしたのだった。


 皆がそれぞれメッセージを記載したプレートが集められ、国王ヨーゼフⅦ世がウィンクルム達の前に姿を現した。
「勇敢なるウィンクルムの皆さん、この感謝の宴に集まってくれてありがとう。余は、皆さんが楽しんでくれる事を願います」 
 国王は、ウィンクルム達を見渡し、穏やかに言葉を紡ぐ。
「植林された木は王家が責任を持って永劫に管理します。未来の人達が皆さんの言葉を聴き、勇気を得ることでしょう。
 思い起こせば、多くの犠牲を出した……ルミ、ルミ……ううう」
 老王の身体がぶるぶると震え、その頬をつぅっと涙が伝った。
 涙が止まらなくなってしまった王を侍従達が抱え、王は退席する。

 それから、ウィンクルム達は、王宮から車で移動し、植林の森『記憶の森』へ向かった。
 そこは、王宮から車で一時間程の距離にある、丘陵地。
 周囲を針葉樹林の森に囲まれた、開けた地である。
 ウィンクルム達は小さなスコップで穴を掘り、高さが30cm程に育った苗木を植えていった。
 植えた苗木を眺め、アクアは祈る。
(この樹がお爺さん、お婆さんになるくらいまでの変わらぬ平和を。
 そしてこの木々と、隣に居るワカバさんに幸福を)

 この苗木が成木になる頃、世界はどのようになっているだろうか。
 ウィンクルム達の胸に、それぞれの想いが交差する。
 どんな未来が待っているとしても、今日というこの日の事は、決して忘れない。
 願いを乗せた苗木が、風に揺れた。

「ルミノックス戦記念植樹」

 植樹者一覧です。
 記憶の森植樹林は、王家が責任をもって維持管理します。
 植樹者(ご家族、子孫)はいつでも訪問可能です。

 ご参加ありがとうございました。
(順不同敬称省略) 

■植林者名
セイリュー・グラシア  ▲スター・アップル 「沢山の幸運を世界に!」
ラキア・ジェイドバイン  ▲シルバームーン・オーク 「千年後も立派な森が国の自然を支えますように」

■植林者名
羽瀬川 千代  ▲シルバームーン・オーク 「どんな時も背中を預け合えるパートナーになる」
ラセルタ=ブラドッツ  裏側へ「期待している」

■植樹者名
栗花落 雨佳  ▲シルバームーン・オーク 君の戦闘が少しでも有利になる様に
アルヴァード=ヴィスナー  ▲スター・アップル 雨佳が人並みに健康になります様に

■植樹者名
セラフィム・ロイス  ▲スター・アップル 「たくさんの笑顔を願い」
火山 タイガ  ▲スター・アップル 「二人で色んなもん見たい」

■植樹者名
ルイード・エスピナル  ▲スター・アップル 「おいしくなぁれ」
ドルチェ・ヴィータ

■植樹者名
ヴァレリアーノ・アレンスキー  ▲シルバームーン・オーク 「全てのオーガ達を倒す程の力を得て更に強くなる」
アレクサンドル  ▲スター・アップル 「これからもアーノの傍で成長を見守る」

■植樹者名
セイヤ・ツァーリ  ▲シルバームーン・オーク 「何年先も長い時をずっと一緒に」
エリクシア

■植樹者名
叶  ▲スター・アップル 「世界が飢えのない幸せに満たされますように」
桐華

■植樹者名
初瀬=秀  ▲スターアップル 「イグニスの願いが叶いますように」
イグニス=アルデバラン  ▲ミラクルパイン 「秀様がいつも幸せでありますように」

■植樹者名
天原 秋乃  ▲シルバームーン・オーク 「みんなが幸せになれるように」
イチカ・ククル  ▲シルバームーン・オーク 「相棒ともっと仲良くなれますように」

■植樹者名
ダニエレ・ディ・リエンツォ  ▲スターアップル 「たたかうみんなに、はやくおとーさんのうたをとどけたい」
ジョルジオ・ディ・リエンツォ

■植樹者名
木之下若葉  ▲シルバームーン・オーク 「変わらぬ日常が明日、そのまた明日と続きますように」
アクア・グレイ

■植樹者名
アキ・セイジ  ▲シルバームーン・オーク 「アキ・セイジ ヴェルトール・ランス(二人の名前が並んで書かれています)」
ヴェルトール・ランス

■植樹者名
不束 奏戯 ▲シルバームーン・オーク「雅ちゃんに会えて嬉しいかった。でも雅ちゃんが女の子ならもっと好きになれた!」
艶村 雅   「貴方へ会えた事への喜びは測り知れず」

■植樹者名
ファーレス=カルロッタ  ▲ミラクル・パイン 「皆にほどほどの幸あれ」
エント

■植樹者名
一ノ瀬 蒼夜  ▲ミラクル・パイン
ステラ・リュインス

■植樹者名
柊崎 直香  ▲スター・アップル 「空に星を。地にも星を。いついつまでも輝きを。」
ゼク=ファル

■植樹者名
信城いつき  ▲シルバームーン・オーク 「幸せな記憶が一杯の森になりますように」
レーゲン

■植樹者名
カミナ=ヴィグリヤ  ▲ミラクル・パイン 「人民が安心して暮らせる世の中」
霧亜

■植樹者名
鹿鳴館・リュウ・凛玖義  ▲スター・アップル 「釣りが上手くなりますように、琥珀ちゃんとずっと一緒にいられますように」
琥珀・アンブラー  ▲スター・アップル 「もっと強くなりたい、あと、もっとおさかな食べたい」


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