リザルトノベル
◆アクション・プラン
紫月 彩夢(紫月 咲姫)
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×2
撮影はお断りよ。うちの姉は撮影NGなの
カフェバーで甘めのカクテルを
あたしだって成人してんだからたまにはお酒くらい飲むのよ
水着はショートパンツ系にキャミソールの付いたやつ
ビキニとか似合う気がしないし
咲姫はパーカー着てなさいよ
あんた、男物着ててもナンパされるんだから目立たないようにしてなさい
ほんっと、角で精霊って気付きなさいよって感じよね
嫉妬してたわよ。昔はね
なんで男のあんたの方がって、そりゃ思ったわよ
今はどっちかって言うと、払うのがあたしだから面倒くさいって感じ
それに…変なのより、あたしに構ってよね
なによ。真顔になるんじゃないわよ
はいはい酔っ払いですよーだ
たまにはいいじゃない。甘えさせてよ
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●兄からの忠告
コーラルベイは白い町並みが印象的な、パシオン・シーでもリゾートホテルなどが立ち並ぶ豪華で大人な雰囲気の一帯だ。
『紫月 彩夢』と『紫月 咲姫』は、リゾートホテルのプールサイドに併設されたカフェ・バーでくつろいでいるところだ。高級感のあるテーブルには、日よけのパラソルも設置されている。
「撮影はお断りよ。うちの姉は撮影NGなの」
パシオン・シーには、ウィンクルムをぜひ撮影したいというTVクルーがきているが、もちろんこの撮影は任意のものだ。
なお、正確には咲姫は彩夢の姉ではない。兄である。
ウィンクルムは男女のペアだと認識しているTVクルーは、女性二人の組み合わせに見える彩夢と咲姫に、若干混乱したようだ。
だからといって彩夢は、事情をしらない第三者にいちいち咲姫のこと全部を説明する気はない。それに紫月家の両親は、咲姫が女子たることを今もなお望んでいる。対外的にはなるべく姉として通す方が、紫月家の意向に沿うのだろう。カメラマンが抱いた疑問に答えることなく、彩夢はとにかくクールな態度で撮影お断りの旨を告げるだけだ。
彩夢のやや手厳しいセリフでシッシッと追い払われていくTVクルーを、咲姫は社交辞令的ではあるが柔和な会釈で見送る。
カメラマンがいなくなったところで、彩夢と咲姫はカフェ・バーでの落ち着いた時間をすごすことができた。
兄妹水入らずの一時だ。その貴重な時間を彩夢と仲良く親密にすごせるか、咲姫はほんの少しだけ気がかりだった。
咲姫は彩夢が手にしているグラスに目を留めた。
「彩夢ちゃん、それってジュースじゃなくてお酒?」
「あたしだって成人してんだからたまにはお酒くらい飲むのよ」
そう言ってストローに口をつける。
甘めのカクテルを、という彩夢からのオーダーに、バーテンダーはマイタイをオススメした。パイナップルやオレンジのフルーティで甘い口当たり。このバーでは飾りにハイビスカスに使っていて、いっそう夏らしい雰囲気を盛り上げていた。
カクテルを手にしている彩夢の出で立ちも、キャミソールとショートパンツのといった爽やかな水着姿だ。健康的な手足が伸びている。
咲姫はうっとりした顔でこんなことを思っていた。彩夢ちゃんの水着姿マジ天使!
「ビキニとかも似合うと思うけど……いつか着てくれないかなぁ」
「ビキニとか似合う気がしないし」
咲姫の提案は無碍に却下された。
蒸し暑さを感じて、咲姫は着ているパーカーを羽織り直して風を取り込んだ。
それを見た彩夢が注意する。
「咲姫はパーカー着てなさいよ。あんた、男物着ててもナンパされるんだから目立たないようにしてなさい」
「あ、はい、脱ぎません」
妹の彩夢の言うことに素直に従い、暑い中でもパーカーをきちんと着込み直す咲姫だった。
夏の海は人を開放的な気分にするのか、ナンパをしてくる不埒な輩も少なくはない。
咲姫がナンパ男に声をかけられはしないかと、彩夢は少しピリピリしながら周囲に気を配っていた。
「一応はっきり男物って判るようにしたけど……」
咲姫は改めて、自分の身なりが男性的に見えるように精一杯の工夫をする。
彼はれっきとした男性なのだが、ある事情で女性的な振る舞いをするように両親から求められている。それは趣味の女装というレベルではなく、咲姫はけっこう重いものを背負っているようだ。
「今日は角もちゃんと目立つように髪整えたし、髪は服の中で……ほら、これで結構男の子でしょ?」
ディアボロの角が目立つように、咲姫はヘアスタイルをアレンジしてきた。
確認されている精霊は男性のみで、女性の精霊というのは存在しない。だからこうして角をアピールするのは、咲姫が男性であることを周囲にしらせる効果が期待できた。
それでも咲姫自身の顔立ちは変わらない。
彩夢は常々、咲姫は女の自分よりも美人で可愛いと感じていて、一種の反発感すら抱いている。
「ほんっと、角で精霊って気付きなさいよって感じよね」
そのせいか、キツイ言い方になってしまった。
咲姫は悲しげな微笑みを浮かべたまま、沈んだ声で謝った。
「……ごめんね。彩夢ちゃんに変な気を遣わせて」
「……」
彩夢は黙ってマイタイをストローで吸い上げる。明るいトロピカルな香りがふわりと漂う。陽気な南国フレーバーは気まずい空気に陥った二人にはどことなくミスマッチだが、この甘いカクテルは彩夢の冷ややかな態度をじょじょに緩ませていた。
「嫉妬してたわよ。昔はね」
ぽつり、と。沈黙の後で彩夢が切り出す。
「昔のお話、かぁ……」
「なんで男のあんたの方がって、そりゃ思ったわよ」
ジッと咲姫を見つめる。彩夢のその眼差しに込められている思いは、一言では言い表せない複雑なものだった。まるで彩夢と咲姫、二人の関係そのものであるかのように。
もやもやとして定まらない気持ちにケリをつけるように、彩夢はパッと自分の黒髪をかき上げる。腕を上げたので、水着のキャミソールの紐がクッと引っ張られた。
「今はどっちかって言うと、払うのがあたしだから面倒くさいって感じ」
「ふふ、そうね、いつも彩夢ちゃんが追い払ってくれた」
昔を思い出して、咲姫が朗らかに笑う。
二人の間に先ほどまで漂っていた気まずい空気は、ひとまず払拭されたようだ。
「精霊って判らせれば早いのにね、いつもありがとう」
テーブルにもたれた姿勢で、彩夢はくてっと首を傾けた。その動きに合わせて、黒髪が流れて顔にかかる。その髪の隙間から、彩夢の赤い瞳がのぞく。視線の先には、咲姫がいる。
「それに……変なのより、あたしに構ってよね」
「って、え、どうしたの……?」
思いもしない言葉に、咲姫は完全に虚を衝かれた。
まさか普段はあんなにツンツンとしている彩夢が自分に対してそんな言葉をかけたとはすぐに飲み込めず、つい真剣に驚いてしまう。
「なんか、彩夢ちゃんから大胆な台詞が……」
テーブルにもたれていた彩夢が顔を上げる。
「なによ。真顔になるんじゃないわよ」
その声に、咲姫はかすかな違和感を覚えた。普段の彩夢と違っている。家族だからこそわかる変化だった。
「もしかして、酔ってる?」
彩夢が飲んでいるマイタイは、他のトロピカルテイストの甘口カクテルであるピニャ・コラーダやチチに比べて、アルコール度数が高い。
「はいはい酔っ払いですよーだ」
ふてくされたようにそう言った直後に、いつもよりも小さく、頼りなげな声でこう付け加える。
「たまにはいいじゃない。甘えさせてよ」
咲姫は笑顔で彩夢の願いを受け入れた。
「酔って、かぁ……ふふ、じゃあ酔いに任せて目一杯甘えて」
彩夢は酔いと家族関係ならではの気安さの両方で、咲姫の肩に自分の頭を乗せる。咲姫は彼女の頭が落ちたりしないように気をつけた。
咲姫は彩夢の黒髪を手櫛で優しくすいてやる。
「その方が私も嬉しいし……変な目の牽制にもなるし、ね」
咲姫の声のトーンと口調が、わずかに変わった。
彩夢の耳元で、低く、ささやく。
それはまぎれもなく男性としての声で。
「彩夢はもっと、自覚しようよ」
柔らかな視線を彩夢に向けた後、咲姫は意味ありげな眼差しでプールサイドを見渡した。
「寄せ付けてないだけで、見られてるよ、結構」
可愛い妹に、兄はそう忠告した。
依頼結果:大成功