【月野　輝の夏休み】（雪花菜　凛　マスター）

プロローグ

「ウィンクルムの皆様に、是非パシオン・シーでの素敵な夏休みをプレゼントしたいのですよ！」
　その日、A.R.O.A.へやって来たミラクル・トラベル・カンパニーの職員アルバは、拳を握り締めて力説しました。
「それがこの企画書ですか」
　A.R.O.A.職員は、くいっと眼鏡を上げながらアルバの持ってきた書類をぱらりと捲ります。
「ウィンクルムの皆様全員に楽しんで貰えるよう、三つコースをご用意したんです♪」
　アルバは満面の笑顔で、職員の手元の書類を指差しました。

　※

　パシオン・シー！
　皆様もご存知の通り、タブロス市から自動車で一日程で辿り着く、南国の海です。
　目に鮮やかなコバルトブルーの海。
　透明度が極めて高く、浅瀬で泳いでいると空中に浮いているような極上の感覚が味わえます。
　海岸沿いにはヤシ林。
　周囲に極彩色の南国の花々が咲き乱れ、皆様を出迎えます。

　そんなパシオン・シーで、ミラクル・トラベル・カンパニーが皆様の夏の想い出作りのお手伝いを致します！

　■コース1　ゴールドビーチでエンジョイ☆

　　ゴールドビーチは、パシオン・シーの代表的な海岸です。
　　南北数キロに渡る真っ白な砂浜。
　　波も穏やかで、泳ぎが苦手な方も浅瀬でのんびりと楽しめます。
　　また、夕焼けが海を黄金色に染める美しさは、息を呑む程です。
　　夏空の下、美しい海を思い切り堪能出来るコースです。

　・浅瀬
　　　泳ぎは初心者な方向け。
　　　のんびりと波間を漂うだけでも楽しいでしょう。浮き輪も借りられます。

　・砂浜
　　　スイカ割り、ビーチバレーを楽しめます。
　　　泳ぐのはちょっと……という方も、ベンチで海を眺めながら甲羅干しが楽しめます。

　・海の家
　　　夏の味覚が揃っています。海を眺めながらの、食事とお喋りはきっと楽しい筈です。

　■コース2　リゾートホテルで大人な休日を。

　　ゴールド海岸にあるコーラルベイは、真っ白な壁の家並みが印象で、パシオン・シーの中心的な町です。
　　ヨットハーバーを中心に、リゾートホテルや土産物店が立ち並んでいます。
　　泳ぎたいけど、日焼けや暑いのはちょっと……という皆様向けに、リゾートホテルでの一時をご用意致しました。

　・室内プール
　　　最上階にあり、大きなガラスの窓から見えるゴールド海岸の景色は格別です。日焼けを気にせず泳げます。

　・プールサイドカフェ・バー
　　　プールサイドに併設された優雅な雰囲気のバーで、お酒とドリンク、スイーツが楽しめます。

　・ジャグジー＆サウナ
　　　吹き出る泡で全身をマッサージ＆疲れを汗と共に落としましょう。水着着用で男女一緒に楽しめます。

　■コース3　泳がなくてもいいじゃない！

　敢えて泳ぎたくない、水着だって着ない！という方向けに、このコースをご用意致しました。

　・ムーングロウ「月明かりの散歩道」
　　　ゴールドビーチの海岸沿い、ヤシ林の中にある散歩コースです。
　　　日中は分かりませんが、夜、月がでると道がぼんやりと輝きます。
　　　道は月の満ち欠けで変化し、毎日違う道が現れるとか。

　・カプカプビーチ
　　　静かで澄んだ空気の小さな海岸。
　　　神様の使い「カプカプ」が住んでいる巨大な岩「カプカプロック」がある聖地で、散歩に最適です。
　　　「カプカプ」は、「幸運をもたらす」神様の使いです。
　　　真っ白な小さな男の子の姿をしており、恋人達を見つけると好奇心から近寄ってきます。
　　　カプカプを抱きしめると良いことが起こると言われていて、
　　　二人で抱きしめれば二人にとって良いことが起きるとか。

　・酒場「シャーク船長」
　　　昔コーラルベイがパイレーツベイ（海賊港）と呼ばれていた時代の名残を残す酒場です。
　　　海賊気分でお酒や軽食が楽しめます。

　※

　書類に目を通したA.R.O.A.職員の眼鏡がキラッと光りました。
「これを無料で提供していただける、と」
「はい！　日頃の感謝を込めて！　今ならなんと！　水着もレンタルさせて頂きますので♪」
　アルバはにこにこと頷きましたが、
「話がウマすぎる気が……」
　職員の小さな呟きに、僅か頬を震わせます。
「……えーっと……実は、一つだけ条件があるんです」
「条件？」
「そんな大した事じゃないんですよ、ホントですよ！」
　アルバの額に汗が浮かぶのに、職員は確信しました。
　ウマイ話には必ず裏がある。タダより高いものはない、と。

「ちょっと、ちょーっとだけ、テレビの撮影にご協力いただけたら……」

「テレビの撮影？」
　職員の眉間に皺が寄ります。瞬間、アルバの瞳からぶわっと涙が溢れました。
「だって仕方ないじゃないですか！　モデル達がみーんな、食中毒で倒れちゃったんですからぁ！！」
「えーっと……アルバさん？」
「代わりのモデルなんて直ぐに見つからないし！
　けど、撮影しないと番組に穴が空くし！　そんな訳で私は考えたんですっ！
　ウィンクルムの皆さんなら、モデルにぴったりだと！　これはもう、行くしか無いと！」
「……成程、事情は分かりましたが……」
「分かっていただけますか！？」
　アルバはがしっと職員の手を取ります。
「番組は『ミラクル・トラベル・夢気分』という旅番組なんですけど、
　今回は『カップルで行くパシオン・シーの魅力』特集なんです」
「『ミラクル・トラベル・夢気分』……毎週観てますよ！」
「有難う御座います！
　今回は三つのコースをウィンクルムの皆さんに楽しんで貰い、その様子を我々が撮影させて頂くという寸法です！」
　アルバは鼻息荒く、企画書を職員に突き付けます。
「勿論、中には撮影なんて……というウィンクルムさん達もいらっしゃると思うので、無理強いはしません。
　けれど、きっと心優しいウィンクルムの方々は協力してくれると、
　イチャイチャして見せてくれると、信じています！」
「……まぁ……募集してみるだけ、してみましょうか」
　妙な自信のアルバに、職員はずり落ちる眼鏡をくいっと上げながら、
　ウィンクルム達へお知らせを出すべく立ち上がったのでした。

（シナリオ：雪花菜　凛ＧＭ）

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野　輝（アルベルト）

×３ ビーチで綺麗な夕陽も見れたしもう帰る時間 ちょっとロマンチックな気分になってたからまだ帰りたくない… え、散歩？ 月明かりの散歩道…行ってみたいわ 誘ってくれたのが嬉しくて即座に返事 月明かりの中道が浮かび上がってくるのが不思議で綺麗で 浮かび上がる道を見つめながらほーっと溜息 少し先へ小走りで進んで ね、とても綺麗よね 微笑みかけたら突然抱き締められて硬直 でも…嫌じゃない むしろ嬉しいから、そっと腕を回して抱き返したの どうして…？ 目を見つめて問いかける 私の、名前…？ 言われてみれば…でも私は月に帰ったりしないわ だって私の望みはアルの隣にずっといる事だもの え、今の…！？ 真っ赤になりつつ幸せそうにそっと寄りかかる

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　太陽が静かに沈んでいる。
　赤く染まる海と空を、月野　輝は瞬きも忘れて眺めていた。
　白い砂浜に、夜の帳が落ちようとしている。
　青かった空は青と赤の美しいグラデーションに染まって、海へ沈んでいくよう。
「綺麗ね……」
　一言、心から感想を口に出して、上手く感動を表現できない事をもどかしく思った。
「ええ、綺麗だ……」
　隣で、全く同じ感想を返してくれたパートナーを見上げる。
　アルベルトが同じ空と海を見ていた。
　夕陽に照らされた彼の翠の髪は、いつもと違う夕焼け色に染まっていて、綺麗だと輝は思う。
「輝？」
　視線に気付いたアルベルトは、金色の瞳を輝に向けた。
　その瞳もやっぱり夕焼けの色で。
「綺麗ね」
　もう一度そう言って、輝は微笑んだ。
「……綺麗だ」
　アルベルトも瞳を細めた。
　夕焼け色に染まって微笑む輝は、何ものにも代え難い美しさで息を呑む。
「ああ、日が沈んでいく」
　最後の眩い光を残し、太陽が海に溶けるように姿を隠していく。
「名残惜しい、な」
「そうね」
　完全に赤い光が沈むまで、二人で地平線を眺めた。
「さて、そろそろ帰ろうか」
　暗くなった浜辺を見渡し、アルベルトが微笑む。空には星が瞬き始めていた。
「うん……」
　頷こうとして、輝は瞳を揺らした。
　まだ、帰りたくない……。もう少し、もう少しだけ彼と一緒に居たい。
（夕陽があんまり綺麗だったから、余韻に浸りたいのかも）
　自己分析して、自嘲の笑みが浮かんだ。でも、アルだってきっと疲れている。昼間、あんなにはしゃいで彼を連れ回したから。
「月明かりの散歩道と言う所があるらしい」
　アルベルトの声に、思考に沈んでいた輝はハッと瞳を上げて彼を見た。
「行ってみないか？　少しゆっくり散歩しよう」
「え、散歩？」
　優しく微笑むアルベルトに、輝は瞬きしてから笑みを返す。
「行ってみたいわ」
　即答し嬉しそうな彼女に、アルベルトはにっこり笑った。
（昼間はビーチではしゃいでたようだから、ゆっくり散歩でもと思ったが……誘って正解だったようだ）
　それから、優雅に手を差し出す。
「では、お手をどうぞ」
「……」
　輝は彼の顔と手を交互に見て、ほんのり頬を染めて、彼の手を取る。
　二人は手を繋いで、月明かりの散歩道──ムーングロウへと歩き出した。

　段々と周囲は暗さを増していく。
　空には満点の星。キラキラ輝く星は、驚くほど近く見える。
　空に浮かぶ二つの月──ルーメンとテネブラは、純白と濃紺色の輝きで、地上を照らしていた。
「暗くなったから、足元に気を付けて」
「ええ、大丈夫よ」
　アルベルトは輝の返事にクスッと笑う。
「？　何？」
「いや、何も……」
　輝は意外とそそっかしい所もある。それは近しい者だからこそ、知り得る彼女の年相応の一面で。
　そんな彼女を知っている己は、特別なのだと……今更ながら嬉しくなった。
「ほら、輝。月明かりの道が見えた」
　こちらを訝しげに見てくる輝へ、アルベルトは前方を指差す。
　ヤシの木々が挟む道、ぽぅっと明かりが灯るように、輝きに包まれている。
「わぁ……」
　輝は黒の瞳を瞬かせた。
　道そのものが光っているような、不思議な光景だった。
　決して人工の明かりには出せない、何処か神聖で、温かな光。
　ほーっと溜息を一つ。
　導かれるように、アルベルトと二人、その光の中へ足を踏み入れる。
　光の中へ入ると、何だか心も温かくなるような、そんな感覚を覚えた。
　言葉もなく、景色に見惚れる輝の横顔を、アルベルトは満ち足りた想いで見つめている。
（こういうロマンチックな場所は好きだろうと思ってた）
　輝く彼女の表情が全てを物語っていた。
（まあ、いつまでも人目に輝の水着姿を晒しておくのもどうかと思ったのもあるんだが……）
　彼女の水着姿を誰にも見せなくない。独占したい。
　輝が身に纏う、『ムーンライトプリンセス』の名を冠した水着は、アルベルトの『ムーンライトナイト』とお揃いの水着。
　ブルーサンクチュアリ産のオーダーメイドの水着で、漆黒に月の光を織り込んだようなデザインが、上品ながらも艶やかで、とても彼女に似合っている。
　昼間も眼福で眺めたものだが、やはり誰かに見られるのは……嫌だった。
　水着から覗く素肌は、眩し過ぎる。
　我ながら子供っぽい独占欲だと自覚がある分、きっと質が悪い。
（輝は知ったら、どんな顔をするんだろうか）
「アル、見て。ここから見上げると、星が更に光ってみえる気がするわ」
　繋いだ手を一旦離して、輝が両手を空に広げた。
　星の光を全身で浴びるような仕草に、愛おしさが込み上げる。
　そのまま輝は、小走りにアルベルトの前を行き──こちらを振り返った。
　艶やかな黒髪が、月明かりにしなやかに光る。
「ね、とても綺麗よね」
　後ろで手を組んで、上目遣いにこちらを見て笑う、可愛い人。
　闇色の瞳も、月の光に煌めいていて。
「……」
　不意に、アルベルトの胸に言いようの無い不安が込み上げた。
　聖なる月の光に照らされた輝が、そのままその光の中に溶けて消えてしまいそうで──。
（駄目だ。行かせない──！）
　アルベルトの足が砂を蹴って。
「え？　アル？」
　強く強く、アルベルトが輝の身体を抱き締めた。
　目を見開いて、輝は硬直する。
　突然どうして？　アルの体温。呼吸、心臓の音まで聞こえる。
　強く抱き締めてくる腕が熱くて。
（でも……嫌じゃない）
　ドキドキドキ……どんどん鼓動が速くなって、眩暈がしそう。
　幸せで、嬉しくて。
　輝はそっとアルベルトの背中に手を回した。逞しく広いその背中を抱き返す。
　そうすると、もっと身体は密着して、月明かりの中、一つになったみたい。
「どうして……？」
　──突然抱き締めたの？
　抱き合ったまま、輝が尋ねる。腕の中、微かにアルベルトの身体が震えた。
「輝の名前の通り、月明かりの中へ溶けて月へ還ってしまうかと……」
　僅か掠れるアルベルトの声が、輝の耳朶を擽る。
「静かな月の光は輝に似ているから少し心配になった」
「私の、名前……？」
　輝は抱き締める手を緩めて、アルベルトの胸の中、彼の顔を見上げた。
　アルベルトの金の瞳が、何処か切なげに揺れている。胸がぎゅっと締め付けられた。
「言われてみれば……でも私は月に帰ったりしないわ」
　輝は真っ直ぐに彼の瞳を見る。
「だって、私の望みは……アルの隣にずっといる事だもの」
　だから離れたりしない。
　誓いのように告げれば、アルベルトがふわりと微笑んだ。
　彼の顔が近付いて、唇に甘い熱が降りる。
　痺れるような甘い、甘い。
　それは、一瞬の、掠めるような、優しい口付けだった。
　輝は何度も瞬きした。
　こちらを見下ろしてくるアルベルトに浮かぶのは、甘く艶やかな笑み。
（え、今の……！？）
　漸く何が起こったか理解した輝の顔が、みるみる赤く染まっていく。
　そんな彼女を愛おしげに見つめ、アルベルトは柔らかい頬に触れた。熱を持った頬。愛おしい温度。
「誰にも……」
「え？」
「月にだって渡さない……」
　見つめてくる金色の瞳に浮かぶ色に、輝は見惚れた。
　言葉の意味を咀嚼すると同時、全身を熱が巡って、心臓が爆発しそうにドキドキする。
「……離さないで」
　微笑んで彼を見つめ返せば、もう一度彼の顔が近付いた。
　先ほどより、少し長く唇を重ねて。
　唇を離すと、アルベルトはもう一度、強く輝を抱き締めた。
　輝も背中を抱き締めてくれる。その温かさを絶対に離すものか。
「私も……」
　ぽつりと輝が呟く。彼女の声が全身に響いて、アルベルトは瞳を細めた。
「私も……アルの事、離さないから……」
　只、守られるだけじゃない。
　一緒に歩いていきたい。
　最近、不安に思っている事が輝にはあった。
　輝の為ならば、アルベルトは平気で命を投げ出すのではないか──人魚姫の為に、自ら死を選んだ王子様。
　けれど、そんなのは嫌。
　一緒に生きていきたい。
　一緒に、歩いていきたい。
　想いを込め、彼を抱き締める。
（ああ、輝……どうして、いつもこんなに──）
　こんな幸せをくれるのは、彼女しか居ない。
　何と得難き愛おしい存在なのか。

　離れない。
　離さない。

　月明かりの下、二人の誓いは密やかに輝いたのだった。

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依頼結果：大成功

名前：月野　輝 呼び名：輝

名前：アルベルト 呼び名：アル

参加者

• 月野　輝（アルベルト）