リザルトノベル
◆アクション・プラン
出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
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精霊から借りたパーカーを羽織ったままホテルのプールサイドへ
ひと泳ぎしようと思いパーカーを脱ごうとするが止められる
どうしたのレム?
だって着たままじゃ泳げない…え、水着そんなに派手だったかしら
こういうのは好みじゃなかった?
問答しているうちにいつの間にか壁に押し付けられていた
まさかレムに壁ドンされる日が来るなんて…じゃなくて
ええっ!?この体勢で水着を見るって…
まさか、ノンアルコールで酔っちゃったの!?
パーカーの前を開け、目の前のレムにだけ水着が見えるようにする
は、恥ずかしすぎる…ねえ、もういい?パーカー着ても
もう泳ぐ気なくなっちゃったわ…
だからこの中はレムにしか見せてないし見せない
あ、機嫌直った…
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コーラルベイに建つリゾートホテルに、『出石 香奈』と『レムレース・エーヴィヒカイト』はやって来ていた。
というのも、A.R.O.A.からウィンクルムに向けて、『ミラクル・トラベル・カンパニーが素敵な夏休みを提供します』という旨の通知があったのだ。
だが、「ただ夏休みを満喫しませんか」というお誘いではない。提供元であるミラクル・トラベル・カンパニーは、ある条件を提示した。――ウィンクルムに『ミラクル・トラベル・夢気分』という旅番組に出演ほしいというものだ。なんでも、『カップルで行くパシオン・シーの魅力』特集に出るモデルが全員が食中毒で倒れてしまったらしい。そこで、美形揃いのウィンクルムに協力を仰ぎたい、ということだった。
さて。
そんな条件を了承した香奈は、ホテルの最上階にある室内プールを満喫すべく水着へと着替えていた。精霊から借りたパーカーを羽織り、プールサイドへと向かう。大きなガラスの窓から見えるゴールド海岸は、太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。贅沢な絶景に口元を緩めながら、香奈はパーカーに手をかけた。
早速、ひと泳ぎしようかしら。
そう思ったのだが
「香奈」
合流したレムレースにとめられ、香奈はきょとんと彼を見上げた。
「どうしたの、レム?」
もしかして、まだ疲れが残っているのだろうか。ホテルに到着してから、彼も十分に休憩をとったと思ったのだが……そんな心配をした香奈だが、次の瞬間、耳に届いたのは予想外の言葉だった。
「待て、脱ぐな」
「だって着たままじゃ泳げない」
レムレースは眉間にしわを寄せた。香奈の言っていることは正しいと理解しているのだろう。しかし、発言の撤回はない。
数秒、二人の周りは沈黙に包まれる。
「周りに人もいるんだ、そんな破廉恥な姿を晒すわけには……」
小さな声でそう言うレムレースに、香奈は「え、水着そんなに派手だったかしら」と目線を下げた。
「こういうのは好みじゃなかった?」
ひょいと胸元に手をかけ尋ねる香奈から、レムレースは慌てて視線をそらす。
「い、いや、派手ではないし特に好みでないということもないが……とにかく嫁入り前の娘がむやみに肌を晒すものではない」
そこまで口にして、レムレースは自分自身に呆れてしまった。
(……何を言っているんだ俺は……)
香奈が言っていた通り、泳ぐ時、水着姿になるのは当然だ。――なのに、香奈のその姿を誰にも見せたくないと思ってしまった。
「でもほら、せっかくホテルに来たんだし。日焼けを気にしないで泳げるって贅沢、味合わないともったいないじゃない?」
「だが、だからといって肌を晒すのは」
「レムは晒してるじゃない」
「俺は男だからいいんだ」
「それはずるいんじゃないかしら」
……しかし、わかっているからといって、香奈が水着姿になるのを許せるかと聞かれたら、答えは否だ。
香奈もなんとか納得してもらおうと言葉を尽くすが、レムレースの頑なな態度に眉尻をさげる。だからといって、押し問答が止まるわけではないのだが。
そんな二人の様子を、じっと見つめる一向がいた。
重たげな機材を手にあちこちへ目を走らせる彼らは――ミラクル・トラベル・夢気分の撮影クルーである。何やらおいしいイベントが発生している気がする! という勘に従いやって来たのだが、正解だったようだ。
隠し切れない笑みを口元に浮かべながら、彼らは香奈とレムレース、二人の様子をそっとカメラにおさめている。会話は聞こえないが、見ている限り、彼女がパーカーと脱ごうとしているのを彼がとめているようだ。
と、一向は息をのんだ。
――壁ドン! これは今流行りの壁にドンする壁ドンじゃないか!
「あら?」
とん。背に固い何かがあたり、香奈は不思議そうな声をあげた。何があたったのだろう。お店とか、ましてや人だったりしたら申し訳ない、なんて思ったが、壁であったことにほっと安堵の息を吐く。
(……って、安心してる場合じゃないのかしら)
まさかレムに壁ドンされる日が来るなんて……じゃなくて。
香奈は壁に手をつきこちらを見つめるレムレースを見上げた。
「あの、レム?」
声をかけるも、どうやら彼は今こうしている間、自分たちがどんな目で見られているのかまったく自覚がないようだ。まあ、いつでも生真面目な彼のことだ、『壁ドン』なんて状況も言葉も知らないのかもしれない。
そんなことを考えていると、「香奈」と名前を呼ばれた。
「新調した水着を見せたい気持ちは分かるつもりだ。だが見せるのは俺だけにしてくれないか」
どこか切羽詰まったような、彼の声。まさかそんなことを言われるなんて思っていなかった香奈は、ぱちりとまばたきをする。
「レムだけに」
「ああ。こうしていれば、香奈の水着姿は俺以外に見えないだろう」
こうしていれば。それはつまり、この体勢のままパーカーを脱げといっているわけか。
……。
「ええっ!?」
数秒の沈黙の後、香奈は小さく悲鳴をあげた。
「この体勢で水着を見るって……」
それはいくらなんでも恥ずかしい。たまらず、香奈は頬を染めた。
そもそも、レムレースは何故こんなことを言い出したのだろう? どこか、いつもと様子が違うような……。そこまで考えて、香奈は「あっ」と小さく声をあげた。ある一つの可能性にたどり着いたからだ。
「まさか、ノンアルコールで酔っちゃったの!?」
「いや、呑んではいないが」
「何、じゃあ香り?」
プールサイドに併設されているカフェバーでは、お酒も提供されている。先ほど近くを通ったが、かすかにアルコールの香りがした。
レムレースは下戸で、匂いだけでも潰れてしまうほどお酒に弱い。だからか、と納得する香奈に、レムレースは微妙な顔をした。
(別に、酔ったわけじゃないんだが……)
……けれど、だからこそ、自然と口をついて出る言葉が不思議で仕方がなかった。
「変なことを言っている自覚はある……だが見せたくないんだ」
頼む。
どこか熱を持った漆黒の瞳に射抜かれ、香奈の心臓はどくりと跳ねた。
「そ、それで、レムが満足するなら……」
すがるような目に負け、香奈はそっと手を伸ばした。
(は、恥ずかしすぎる……)
パーカーの前を開け、目の前のレムにだけ水着が見えるようにする。せっかくプールに行くのならと――レムと一緒に行くのだからと選んだ水着だ。
一方、レムレースは他の誰かに彼女を見られるものかと、しっかり自分の体で香奈を覆いこみ、水着姿を堪能していた。
彼女を見ているのは、今この時、自分だけ――。
レムレースは不思議な満足感に満たされながら、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「ありがとう、よく似合っている」
いつも難しい顔をしている彼にしては珍しい、柔らかな笑み。
「ねえ、もういい? パーカー着ても」
目の前が肌色で埋まるというこの状況に、香奈はたまらずそう聞いた。レムレースが頷いたのを確認して、そっと前を閉める。
水に浸かってもいないのに、なんだかすごく疲れたような。
「もう泳ぐ気なくなっちゃったわ……」
ぽつりと零した言葉に、レムレースは驚いたようだった。
「いいのか?」
「ええ」
香奈はこくりと頷くと、ふっと笑ってこう続けた。
「だからこの中はレムにしか見せてないし見せない」
「!」
レムレースは目を丸くしたが、すぐに「そうか」と穏やかに返事をした。
(あ、機嫌直った……)
彼の気持ちを敏感に感じ取った香奈は、「ふふっ」とふきだした。穏やかに笑う香奈を見て、レムレースも頬を緩めると、この後何をしようかと話し出すのだった。
――そして。
撮影されていたことに二人が気づいたのは、ミラクル・トラベル・夢気分で件のシーンが流れたからで。
改めて自分が何をしたかを見せつけられたレムレースは額を手で覆い、香奈は楽しそうに笑い声をあげるのだった。
依頼結果:大成功