リザルトノベル
◆アクション・プラン
リゼット(アンリ)
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海の家を出て浅瀬へ
波打ち際で足を水につけながらビーチを散歩
アンリのことは放って一人で先を歩く
アンリったら人の失敗をいつまでもネタにして…!
私だって料理くらいできるようになる…はずなんだから
水を蹴り上げ勢い余って転ぶ
「アンリの…バカー!って…きゃっ!
海へ放り込まれて更に怒り
精霊に水をかける
「バカって言った方がバカなのよこのバカー!
疲れたら波打ち際当たりまで戻って座って休憩
「ほんと、バカの相手は疲れるわよ
「あんたと契約してから何度バカって言ったかわからないわ
抵抗しようとするが
撮られていると言われ大人しくなる
「誰のせいで怒ってると思ってるのよバカ
「絶対に見返してやるんだから。待ってなさいよね
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「アンリったら人の失敗をいつまでもネタにして……!」
海の家を後にし、波打ち際を早足に歩くリゼット・ブロシャール。
「私だって料理くらいできるようになる……はずなんだから」
しかしその歩調とは裏腹に、紡がれる言葉は途中から勢いを失って足元に落ちてゆく。
料理ができないことを気にするリゼットをなだめるように、白い波が彼女の白い足を撫でていった。
「できるようになるはずなんだから……」
自分にできないことはない。できなければ出来るようになるまで勉強すればいい。
だからきっとできるようになるはずなのだ……。料理だって、きっと。
颯爽というには少し気迫のこもったリゼットの波打ち際のウォーキング姿を後ろから追いかけて歩きつつ、アンリ・クレティエは軽く肩をすくめた。
「撮られてること忘れてんな?」
そしてアンリは傍らでビデオカメラを抱えている青年にそっとささやく。
「極力リズの顔は撮らず俺の顔だけ映るように撮れ。音声なしでなら最高にいい絵を撮らせてやる」
リゼットからは年中バカだの犬だの罵られてはいるものの、見た目は文句なしの王子様なアンリ。
人前でパフォーマンスをする事を好む彼は、自分という素材も自分の見せ方も、更にはリゼットという素材もよく心得ている。
自信に満ちたアンリの言葉を受けた撮影スタッフは、カメラを抱えなおすと少し離れたところから二人を狙いはじめた。
背後でのそんなやり取りには気づかずに足を進めていたリゼット。
ずっと同じ場所をグルグルと巡回し続ける思考は、やがて出口を求めて爆発する。
「アンリの……アンリの、バカーーー!!」
突き上げる衝動に任せて、リゼットは足にまとわりつく海水を勢いよく蹴り上げた。
が、万感のこもった一蹴りはリゼットが予想していたよりも強い威力を持っていたらしい。
軸足のかかとに体重が乗ったところを、引き波に足元の砂をすくわれて、リゼットは白い波の中にしりもちをついてしまった。
「……きゃっ!」
波打ち際に座り込んだまま、水しぶきに濡れて顔に張り付く前髪をこめかみに撫でつけるリゼット。その眼前にアンリの手が差し出される。
「ったく。文句があるならちゃんと顔見て言えよな」
バカだと叫ばれていたにも関わらず、怒るどころか笑顔を見せるアンリ。金色の髪が夏の日差しを受けてまばゆく輝く。
「……もうっ」
眩しげに目を細めつつアンリの手を取るリゼット。
その手を掴んで引き上げると、アンリは反対の手をリゼット足の後ろに回し、そのままリゼットを抱き上げてしまった。
いわゆる俗に言うお姫様抱っこである。
「ちょ……っと、何するのよっ!」
ウィンクルムとして契約してからそれなりの時間を過ごしてきた二人。
身体を寄り添わせることも一度や二度ではなかったが、今日はアンリもリゼットも水着姿だ。
アンリのむきだしの肩や胸が直に肌に触れ、リゼットは思わず赤面する。
そんなリゼットを抱えたまま、お構いなしに浅瀬を沖に向かって走るアンリ。
そして水が腰上ほどまで来て十分な深さがある場所まで来ると、アンリはいきなりリゼットを水面に向かって放り投げた。
「頭を冷やせこのバカ姫様ー!」
「きゃぁっ!」
短い悲鳴を残して美しい海に落下したリゼットが、少しの間の後に、水しぶきを立てながら憤怒の形相で立ち上がる。
「何するのよ!バカー!」
「あはは。バーカ、驚いたか?」
人魚姫の怒りを受けつつもアンリは楽しげに笑った。
その様子に益々怒りを増したリゼットが、手で水を跳ね上げながら叫ぶ。
「バカって言った方がバカなのよこのバカー!」
「今バカって言ったな?やっぱリズもバカじゃねぇかー!」
水を掛けられて楽しそうに笑いながら応戦するアンリ。
夏の日差しの中で、水しぶきが二人のまわりでまるで宝石のように輝く。
その様子を「いいねいいねぇ」などと言いながらカメラに収める撮影スタッフ。
後日、放映された二人の様子を見て「リア充爆発しろ!」と叫んだ寂しき若者達は、二人がバカだ何だの罵りあいをしていようとは夢にも思わなかっただろう。
もっとも、仮に音声が入っていたところで、カップルのただのじゃれ合いにしか見えなかったに違いないが。
「アンリだってバカって言ったじゃない!やっぱりアンリはバカよー!」
水を跳ね上げて叫ぶリゼット。その顔をアンリが掬い上げた水が濡らす。
「またバカって言ったな!リズもバカ決定ー!」
二人の水掛合戦はリゼットが息を切らせて「バカとは付き合いきれないわ」と言うまで続けられた。
「ほんと、バカの相手は疲れるわよ」
波打ち際に座り込み、時折押し寄せる波をつま先でもて遊びながらリゼットはため息をついた。
並んで座るリゼットとアンリの前には、太陽の光を受けて黄金色に輝く海がゆれている。
「あんたと契約してから何度バカって言ったかわからないわ」
陸からの風になびく髪をおさえつつ言うリゼット。
それを右から左にはいはいと聞き流していたアンリが、不意に悪戯っぽい笑みを浮かべてリゼットの肩に手を回した。
迷いのない力で引き寄せられて密着する肌と肌。
さっき抱き上げられた時よりも互いが止まっている分、アンリの体温や筋肉の凹凸が鮮明に伝わってきて、リゼットの頬が朱に染まる。
「ちょっ……アンリ!」
腕を突っ張り逃げようとするリゼット。その耳元に唇を寄せてアンリは甘く囁いた。
「忘れてるだろうが今撮られてんだぞ?」
甘い仕草と声で告げられる、逃げられない現実。
一旦動きを止めたリゼットは、やがてしぶしぶといった様子で、引き寄せられるがままにアンリの肩に頭を預ける。
「誰のせいで怒ってると思ってるのよバカ」
密着することへの照れと、いまだくすぶる怒りが入り混じった複雑な表情でリゼットはそう呟いた。
そう、元はといえばリゼットの料理の失敗をアンリがネタにしたのが原因なのである。
リゼットの言葉を受けたアンリは小さく笑みを漏らした後、不意に真面目な顔になって言った。
「……からかって悪かった」
一騒ぎして乾いた喉に染み渡る水のように、リゼットの心に吸い込まれてゆくアンリの謝罪。
「お前がいつも一生懸命なの、ちゃんとわかってるから」
カレーは酷いものだったけれど、それとてリゼットは本気で作ってくれたのだ。
類を見ない強気ゆえに、何事にも全力であたるリゼットの姿勢をアンリはとても可愛いと思っている。
それにバレンタインにリゼットが作ったクッキーは、とても美味しかった。
「絶対に見返してやるんだから。待ってなさいよね」
アンリに身体を預けて海を見つめたまま、そう宣言するリゼット。
そのアメジストのような瞳には、決して消えることのない強い意志の光が宿っている。
「分かった。楽しみにしてる」
時にリゼットの食べ物すら奪うほどに食い意地の張ったアンリ。
けれども、リゼットの美味しい手料理を待ち望むアンリの胸には、ただ単に食事を待ち焦がれるのとは違う、温かな期待があった。
知らず穏やかな笑みを浮かべるアンリと、その表情を盗み見るリゼット。
アンリの顔を見るうちに、リゼットの心を固くしていた、料理ができない、やったことがないことへの不安や焦りが不思議なほどに剥がれ落ちてゆく。
波の中に紛れ泡となって溶けていくそれらを、リゼットはアンリにもたれたまま、ただ静かに見つめていた。
依頼結果:大成功