リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
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2プールサイドカフェ・バー
バーとか行くの初めて
来たのはいいけど、注文とか以前に飲み物の種類もわかんなくて戸惑う
行きたいって言ったの俺なのに…
体調が悪いわけじゃないよ…笑わないでね
…その……子供っぽいの自覚あるから。少しは「大人」っぽくなりたくて。
現実でも、この前の本みたいに「こいびとどうし」みたいな事がしたかったんだ。でもさすがに押し倒すのは無理なんで…
レーゲンの場合
ご近所さん達に酒場に引きずられて、みんなが騒ぐのを楽しそうに見ながら飲んでて、みんなが酔いつぶれた後始末までする感じ
…この前実際あったけどね(苦笑)
ゆっくり色んなこと経験積んでいこう
俺が成人したら二人でお酒のみに行こうね、約束だよ
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●大人と子供の間
喧騒に紛れ、潮騒の音が聞こえる。
浜から離れたコーラルベイのホテルででも聞こえるのか、とぼんやり思いながらレーゲンは向かいの席に座る信城いつきを見た。ドリンクメニューを眺めるいつきには戸惑いの色。
ここに――ホテルのプールサイドに併設されたカフェバーに行きたいと言い出したのはいつきだった。表情にこそ出さなかったものの、予想外のリクエストにレーゲンは驚いた。何故とも思った。
レーゲン自身はこういった場所に馴染みは無い。けれど、いつきが望むならと来ては見たものの、落ち着かない様子のいつきが気になった。
「大丈夫?」
びくり、いつきの細い肩が小さく跳ねた。心配そうなレーゲンの視線に気付き、苦い表情のいつきの瞳が揺れる。右へ、左へ。数度の往復の末、いつきは俯いた。
「体調が悪いわけじゃないよ。……笑わないでね」
分からなくて……。店内の雑音で潰されてしまいそうなほど小さな声でいつきは言った。言葉の意味が分からず、レーゲンは小首を傾げる。
「……その……子供っぽいの自覚あるから。少しは『大人』っぽくなりたくて」
レーゲンは目を丸くした。けれど、それも一瞬。すぐに慈しむような笑みが浮かぶ。いつきは、少しだけでも背伸びしたかったのだ。だからここに来たがったのだと、レーゲンは納得した。
「現実でも、この前の本みたいに『こいびとどうし』みたいな事がしたかったんだ」
おずおずと見上げてくるいつきにレーゲンは目の高さを合わせる。気まずそうに揺れるいつきの青玉のような瞳。そんな姿が愛おしくて、レーゲンは目を細めた。
「でも、さすがに押し倒すのは無理なんで……」
「いや、押し倒すのはいいから……」
レーゲンは苦笑いを零し、いつきの茶色の髪を撫でる。その手の優しさが心地よくて、肩からゆっくり力が抜けていく。
「急がなくていいんだよ」
「でも……」
「私はその『子供っぽい』のも含めたいつき全部が好きだよ。いつきという存在だから、好きなんだ」
優しい声音に嘘の影は無い。嬉しくて、いつきは奥歯を噛み締めながら笑った。そうしなければ涙を零してしまいそうで。
「それに、年を重ねたからって『大人』になれる訳じゃないよ」
言いながらレーゲンは肩をすくめ、くすり、と悪戯っぽく笑って見せた。
「私もこんな上品なバーは初めてで、緊張してたんだから。私がこんな雰囲気のバーで、かっこいい服着てグラス傾けてる姿、想像つく?」
いつきも釣られて小さく笑う。確かに、落ち着いて見てみるとレーゲンも落ち着かない様子。
暗めの照明に照らされたレーゲンの顔に、いつもより『大人』を意識してしまっていた。けれど、レーゲンはレーゲンなのだ。
「レーゲンの場合……ご近所さん達に酒場に引きずられて、みんなが騒ぐのを楽しそうに見ながら飲んでて、みんなが酔いつぶれた後始末までする感じ」
「でしょう?」
「というか……この前実際あったけどね」
いつきとレーゲンは揃って苦笑いを浮かべた。あの時は大変だったんだよ、と言うレーゲン。いつきは知ってる、と返す。
顔を見合わせて数秒の沈黙を挟み、二人は同時に小さく噴出した。クスクス、声を堪えながら笑い合う。些細なやり取りだからこそ自分達『らしさ』を感じて、落ち着く。
深く息をしながら笑いの波が引くのを待ち、レーゲンはいつきの手を取った。自分よりも一回り以上も大きな手の温もりに、いつきは安らぎを覚える。
「無理して大人にならなくていいよ」
レーゲンの言葉が胸に広がる。初めて会った時から、レーゲンはそうだった。ぽつり、ぽつり、零した言葉を拾い上げてくれた。いつきが壊れないように、いつきのままでいられるように待っていてくれた。
急かされることも無ければ、レーゲンが無理をしている様子も無かった。
「まずはゆっくり『こいびとどうし』になろう。それから世間でいう恋人になればいいよ」
「……うん、そうだね」
ゆっくり、色んな経験を積んでいこう。急がなくていい。自分のペースで『大人』になって、二人のペースで『恋人』になればいいのだ。
自然な、いつきらしい微笑みが浮かぶ。レーゲンも彼らしく微笑むと、手を上げて近くにいた店員を呼ぶ。
「店員におすすめを聞いて、カクテルを作ってもらおうよ」
「俺、未成年だよ?」
「大丈夫、ノンアルコールのカクテルもあるから」
「そうなんだ。じゃあ、うん、いいと思う」
やってきた店員にお勧めを聞くと、いつききが持つドリンクメニューを受け取ってノンアルコールカクテルのページを開いて見せた。
「どういう味がお好みですか?」
「えっと……暑い時期だし、すっきりするのがいいかな」
「俺もそういうのがいい、です」
では、と店員は二つのノンアルコールカクテルを示した。
「ライムとグレナデン・シロップ、ソーダを合わせた爽やかな甘さの『サマーディライト』。夏の喜びという意味で、この時期のお勧めです。甘さが抑えられたものがお好みでしたら、こちらもライムを使ったものですが、ジンジャーエールと合わせた『サラトガ・クーラー』がお勧めです」
いつきとレーゲンは目を合わせると、無言のまま頷き合う。決まりだ。
「じゃあ、私はサラトガ・クーラーを」
「俺は、サマーディライトをお願いします」
「かしこまりました」
一礼して店員が離れると、いつきとレーゲンは同時に溜息をついた。再び顔を見合わせ、声を堪えて笑う。二人だけならまだしも、店員が来るとどうしても緊張してしまうのだ。
間もなく飲み物が運ばれてきて、やはり二人とも緊張し、店員が離れると同時に笑いあう。背伸びした場所で、背伸びしない自分でいられる心地良さ。
それじゃあ、とレーゲンが先にグラスを持ち上げる。同じようにいつきも持ち上げる。
「初心者の二人に乾杯」
「乾杯」
慣れていない為、ぎこちなさのある初心者らしい乾杯。カチリ、グラスとグラスがぶつかる涼しげな音が鳴る。
いつきはグラスに口を付け、舌の上に運ぶように軽く口へ流し込む。尾を引かない爽やかな甘さが口内に広がった。
「あ、美味しい」
「こっちも美味しいよ。すごくすっきりしてる。飲んでみる?」
「うん、交換しよ」
一度グラスを置いて、コースターごと交換する。いつきの柔らかな赤いカクテルはレーゲンの下へ。レーゲンの淡い黄緑のカクテルがいつきの下へ。
「ホントだ、すごくすっきりしてる。暑い日にはいいね」
「いつきのはリゾート気分がすごく出てるね」
「リゾートだしね」
ふふっと笑い、再びグラスを交換する。レーゲンのカクテルも美味しかったが、いつきはこちらの方が好みかもしれない。
「あ、後でカナッペ? っていうの頼んでみたい。こういうところならあるんでしょ?」
「アルコールのお供のイメージだもんね。他にも何か頼んでみよう」
メニューを広げ、これもいい、それもいいと話し合う。馴染みのある軽食もあれば、名前からでは何か推測出来ないものもある。
ふいにいつきが顔を上げ、レーゲンに視線を投げた。気付いたレーゲンもいつきを見る。
「俺が成人したら二人でお酒のみに行こうね、約束だよ」
「勿論。……その時はもっと入りやすいお店にしよう」
声を潜めた、悪戯っぽく聞こえるレーゲンの言葉にいつきは楽しげな笑みを浮かべた。
ゆっくりで、急がずに、いつきのペースで『大人』になるつもりだけれど。『その時』が既に待ち遠しくなる。
いつきの誕生日に合わせるのであれば、夏だろうか。いつきは思う。違う場所でも、ここと同じように潮騒の音が聞こえる店がいい、と。
依頼結果:大成功