リザルトノベル
◆アクション・プラン
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
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3×
飯も終わったし、ムーングロウ歩くか
イェルがそれなり楽しいっつっても、半分はそうじゃねぇだろうな
(解らねぇ訳じゃねぇが…生きてる奴は、生きなきゃなんねぇ)
月が綺麗だな
…いきなりどうした
甘えたい年頃か?
仕方ねぇ奴(したいようにさせる)
寂しくないか?
顕現する程度には色々あるぜ?
が、誰かを責める気はねぇ
あの時俺も傍にいなかった
※父の日のプレゼント購入帰りの悲劇
どうしてそういられる?
バカだバカだと思っていたが…
逆の立場だったら、何を望むか考えろよ
…手間が掛かる奴(頭を引き寄せ優しく撫でる)
は?
娘じゃない?
当たり前だろうが、てめぇはてめぇだ
ったく、バカな奴
けど、案外可愛いかもな?
(撫でまくって笑う)
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●二人歩き
パシオン・シーの酒場にて夕食を済ませたカイン・モーントズィッヒェルは、パートナーのイェルク・グリューンと共に、ムーングロウへと訪れていた。
誘ったというよりは、声をかけた程度だったけれど、イェルクは特に何を言うでもなく同行したのだ。
「別に、ついてこなくても良かったんだぞ?」
「ついて来てはいけないわけでも、ないでしょう?」
だから、夜道をいくらか進んだ頃合いで、カインはそれとなく尋ねたのだけれど、イェルクは小首を傾げて問い返してみせる。
頭を掻いて肩を竦めたカインは、それなら好きにすればいい、と零して再び歩き出した。
その、隣に。歩を進めて並んだイェルクは、ちらり、カインの横顔を盗み見る。
(この人には――)
何が、見えているのだろう。
気になったのは、そんな事。粗野なくせに、変に察しが良く思えるカインという男。
見透かされていると言うべきか、理解して貰っていると言うべきか。曖昧なラインで行ったり来たり。
同じ目線で物を見てみれば、少しは、知れるだろうかと、イェルクはささやかに思案していた。
そんなイェルクを、カインもまた盗み見て。首の後ろを掻く素振りで、思案に視線を背ける。
カインの目に映るイェルクという男は、どうにも薄っぺらい。
深い部分に押し込んで、人の目に映らぬように閉じ込めたものが多すぎて、表に出ている感情的な物が、取り繕ったように味気ないのだ。
カインに付き合って遊び事に興じてみたり、今日だってのんびりとバカンスに来ている。
そんな日常を、それなりに楽しいと、イェルクは言うけれど。
(半分はそうじゃねぇだろうな)
取り繕ったような、味気のない相槌。
言葉だけは愛想よく、人当たりの良い笑顔を作りながら、イェルクはいつだって、亡くした恋人との思い出に縋り、叶うならその後を。なんて思っている……気がする。
本人に面と向かって聞いた事なんてないから、気がするだけだけど。
(解らねぇ訳じゃねぇが……生きてる奴は、生きなきゃなんねぇ)
それは残された者同士だからこそ理解できる部分。
そして、カインとイェルクの、決定的に違う部分。
溜息を、小さく一度吐き出して、カインは顔を上げた。すぃと見上げたそこには、月が煌々と照っていた。
『ミラクル・トラベル・夢気分』とやらの撮影クルー同行は丁寧かつ全力でお断りしたが、こういった風景くらいなら、見せてやりたいものだと思った。
「月が綺麗だな」
ぽつり。何の気なく呟いたカインの腕を、唐突にイェルクが掴んだ。
目を丸くして驚いた顔をするカインを、似たような動揺を湛えたイェルクが、見つめてくる。
「……いきなりどうした。甘えたい年頃か? 仕方ねぇ奴」
「いえ、別にそう言うわけじゃ……」
幸い周囲には誰もいないようだし、少しくらいなら許容しないでもないが、と首を傾げたカインの問いに、困ったような台詞を返して視線を泳がせるイェルク。
彼自身も、衝動的にカインの腕を掴んでいたのだ。何故そうしたのかは、自分にも良く解っていない。
ただ――。
ほんの少し、訝るように眉を寄せたイェルクが、掴んだ腕を引き寄せて、カインを見つめる。
「……寂しいと思ったことはないのですか?」
少しの間を置いてから切り出された問いに、イェルクのしたいようにさせていたカインは、不思議そうな顔で瞳を瞬かせた。
「寂しくないか? そりゃ、顕現する程度には色々あるぜ?」
神人が、その素質に顕現する理由は様々で。
カインの場合は、オーガを根絶やしにしたいと思ったゆえの顕現だった。
そう、自分の家族を殺した存在そのものへの恨みが、動機。
だけれどそれは、イェルクは知らない事だ。だからこそ、カインは己の感情を己一人の内側に押し込める事が出来ていた。
「色々あるが、誰かを責める気はねぇ。あの時俺も傍に居なかった。強いて言うなら、傍に居られなかった俺の責任だ」
可愛い娘が買ってくれた父の日のプレゼントは、父親の手元に届く事は無かった。
母親と二人、驚くかな、なんて言い合って笑っていただろうことは容易に想像がつくと言うのに、ついにその笑顔を迎える事は無かった。
あの日、彼らの傍に居たならば、救う事が出来たかもしれない。
だけれどそれも、所詮は仮定で、ただの願望。
全てはとうに起こってしまった事で、今更誰にもどうにもできない事なのだと、カインは言う。
「どうして……」
「ん?」
「どうしてそういられるのですか?」
イェルクの声は、少し震えていたかもしれない。
だって、イェルクの目には、確かに、確かに見えたのだ。
月を見上げるカインの横顔に、言い得ない寂しさを、見つけたのだ。
亡くした家族を思い、一人残された悲しみを抱えていながら、カインは真っ直ぐに立っている。
カインとイェルクは、同じ町で同じオーガの襲撃を受け同じように大切な人を失っていながら、決定的に違っていた。
イェルクの予想を遥か飛び越える形で、カインは真っ直ぐに前を向き、カインの想定する範囲内でかつ庇護できる範囲内で、イェルクは過去に縋っている。
――それを理解しているのは、カインだけだった。
「バカだバカだと思っていたが……」
はぁ、と大きくため息をついたカインが、ほんの一瞬怪訝な顔をした。
「逆の立場だったら、何を望むか考えろよ」
例えば自分が、残して行かなければならない側だったら。
あぁ、当然、悲しみを乗り越えて生きていてほしいと願うだろう。
だからこそ、カインは己の思う家族の想いに応え、生きているのだ。
ほんの一瞬の表情は、どうしてそれが判らないと言いたげで。イェルクは、思わず口を噤んだ。
けれど、咎められるような視線はほんの一瞬で。苦笑を湛えたカインは、おもむろに手を伸ばし、イェルクの頭を引き寄せ優しく撫でた。
「……手間が掛かる奴」
撫でる手つきは、庇護する者のそれで。イェルクは、撫でられる動きのままで視線を落とし、揶揄するように、ぽつり、零した。
「私はあなたの娘ではありませんが」
「は?」
微かにむくれたイェルクの頭上から、呆れたような声が降ってくる。
「当たり前だろうが、てめぇはてめぇだ」
何を当たり前のことを言っているのだろう。心底不思議そうな顔を、驚きが見上げる。
「ったく、バカな奴。けど、案外可愛いかもな?」
くく、と喉を鳴らして、気を良くしたようにぐしゃぐしゃと頭を撫でてくるカインに、イェルクは払いのけようと手を伸ばす。
「ちょ、やめてください。恥ずかしいです。可愛くありませんから!」
しかし、払っても払ってもやめてくれないカインに、次第に顔が熱くなるのを抑える方に気が行ってしまっていた。
(……止めてくれない……)
優しく撫でる手のひらは、繰り返し、繰り返し、心地よさをくれる。
てっきり、娘はこんなにでかくない、とかそんな軽い親バカ回答を想定していたというのに。
――てめぇはてめぇだ。
あんなに真っ直ぐに言われては……あぁ、また、顔が熱くなる。
だけれどきっと、抵抗するだけ無駄なのだ。
月がとっても綺麗だから。
だから、当てられたことにして、暫くこのままでいることにしよう。
依頼結果:大成功