リザルトノベル
◆アクション・プラン
柊崎 直香(ゼク=ファル)
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○3
カプカプビーチで優雅な休日を演出
太陽は中天を過ぎ、日暮れは遠く
陽射しが白浜に照り返すのが眩しくて
傍らの精霊の大きな身体を盾にしようと
彼にじゃれつき微笑む
……何だいその表情。格好?
麦わら帽子に白いワンピースだよ定番でしょ
カプカプ様を見たくてさ
企画書読んだらこう書かれていたのだよ
『恋人達を見つけると好奇心から近寄ってきます。』
僕とキミとの関係を言ってご覧?
そう。僕達は恋人じゃない
だから恋人に見えるよう不本意ながらイチャついてるわけだ
手を握ったりさ
好奇心で恋人達に近寄るカプカプ様に好奇心で近寄るゼクの図?
通報されそうだね
いいもん、見つけらたら一人でぎゅーするもん
ゼクの分の幸運も吸い取っておくもん
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●幸福な幸運
柊崎 直香はカプカプビーチで優雅な休日を過ごしていた。
照りつける太陽は中天を過ぎたころ。日暮れまでまだまだたっぷりと時間がある。
ここにくるまでにすれ違った沢山の人々も、この長く短い夏の昼を目一杯満喫しようとしていた。
賑やかを横目に辿りついたこの場所は、何とも静かだ。人の気配はない。同行を許可した撮影クルーと、傍らのパートナー以外は。
だから、直香は精霊であるゼク=ファルにじゃれつき、微笑んだ。
身長差およそ30センチ。腕に腕を絡めて見上げれば自然と上目使いになる。
愛らしさ満点の所作に、しかしゼクという男は丸っきり無反応だ。
「カメラ用の“絵”かそれは」
小さく、小さく、窺うような声が、頭上から降ってくる。
その顔は正しく窺うようで、ゼクの顔にははっきりと、「今度は何だ」と書いてあった。むしろ口に出ていた。
「……何だいその表情」
残念ながらカメラサービスというよりは、白浜に照り返す日差しの眩しさから避ける為の盾としてゼクを選んだだけという浪漫とは縁遠い理由が大半である。
知ってた。
だよね。
心の会話が展開された気がするのは当人の間だけ。
後ろからカメラを回している撮影クルーは結構喜んでた。残念ながら喜んでいた。完全に騙されている。
ちらとそんな様子を振り返ってから、ゼクは再び直香に視線を落とす。
「自然にここまで歩いてきてしまったがその格好も何だ」
「格好?」
言われて、直香は改めて己の姿を振り返る。
白いワンピースに、麦わら帽子。至って定番な夏の装いだ。
至って定番な、少女の、夏の装いだ。
「普通でしょ?」
知ってた。(二回目)
ゼクとて言いたいことは色々あった。しかし今更な気がしてきた。
なにせサマードレスコンテストの為にわざわざ自前のワンピースを着ていく神人だ。
そもそもが少女のように可憐な神人だ。
ゼクの格好が白シャツにジーンズと至って普通の青年テイストであるゆえに、遠目から見れば男女にしか見えないだろう。
むしろ近くに寄っても男女にしか見えない可能性も否めない。
そのくらい、傍らの神人は夏の装いが似合う美少女だった。
実際は少年だが、似合っているから問題ない。
似合っている事はある意味問題だけど問題ない。
思考、終了。
ふ、と。ゼクは小さな溜息を零した。肩に入りかかっていた力を、するりと抜く。
カプカプビーチは静かな海岸で、日陰を探して読書でもしていたいほど落ち着く空間だった。
だが、しかし。いかんせん同行者がこのトラブルメーカーだ。しかもゼク限定のトラブルメーカーだ。
今はやたらと大人しい直香だが、何か企んでいるに違いないと、ゼクは考えていた。
警戒は、直香には当然伝わっている。何せ、いつもの事なのだ。この警戒をするすると掻い潜って、面白い事に至るのが、二人の常。
だからこそ、呆れがじんわりと滲み出て来ているようなゼクを見ても、直香は特に意に介することなく腕を絡めて引いた。
引かれるまま、ゆったりとした歩調で二つ分の足跡が浜辺に連なる。
ざぁ、と寄せては引く波はどこまでも穏やかで、日差しは強い者の、潮風ははたはたと服の裾をはためかせては通り過ぎ、心地よさをくれる。
大きな岩が作る影を横切りながら、その巨岩を見上げる。ここは、そうだ、伝説のある場所だ。
「カプカプ様を見たくてさ」
幾らか歩いたところで、きょろりと視線を巡らせた直香が切りだす。
幸運をもたらす神様の使い、カプカプ様。
その存在に興味を惹かれて企画書を読み込んでみたところ、こう書かれていたのだ。
恋人達を見つけると好奇心から近寄ってきます。と。
「さぁここで、僕とキミとの関係を言ってご覧?」
「関係……相棒、か」
「そう。僕達は恋人じゃない」
はたから見れば男女カップルでも、腕を絡めてじゃれついて、笑顔を向けて見せたとしても、二人は恋人ではない。
――いつかの時に、このリゾート地で、関係を示す問いをした時には、仕事仲間でウィンクルム。ただの名義的な繋がりしかなかったのも、覚えてはいるけれど。
面白い方が好ましい、ウィンクルムという契約関係にある仕事仲間は、いつの間にか、相棒になっていたらしい。
それは、喜ばしい事だっただろうか。
判らない。けれどそれは、今この場で欲しい関係性とは異なっている。
ゆえに、直香は今この場で欲しい関係を、演じようとしているのだ。
「だから恋人に見えるよう不本意ながらイチャついてるわけだ。手を握ったりさ」
「さらっと不本意とか言うな」
言いつつも、ゼクが直香の手を振り払う事はしない。
したいようにさせながら、また、呆れを含んだ顔をする。
「こんな騙し討ちのような方法で呼べるわけないだろう。見るだけならその辺の恋人達のお零れにでも与れ」
今のところ、恋人らしい二人連れと遭遇してはいないけれど。
直香とは違うものを探してくるりと視線を巡らせたゼクは、ああ、と思いついたような声を上げる。
「それとも抱きしめたいのか? 良い事が起こると聞いたが」
「そうだよ。ゼクも興味ある?」
ゼクがジンクスや言い伝えに聡い方だとは思っていない。自ら率先して獲得しに行くとも、思っていない。
自身のゼクに対する認識を確かめるように見上げ、問うてから、しかし直香は答えを待つことなく、自分たちではなく偶然居合わせた恋人たちと戯れるカプカプ様の図を想像した。
「好奇心で恋人達に近寄るカプカプ様に好奇心で近寄るゼクの図?」
「なんでそうなる」
「通報されそうだね」
「しそうなのはお前だけだ」
頭痛が痛い状態で額に手をやったゼクは、それに、と続けた。
「お前にとって良いことが俺にもそうとは限らん気がする」
それは、そうかもしれないけれど。
二人で見つける『良いこと』に、少しくらい興味を持ってくれてもいいじゃないか。
――知ってた、ことだけれど。
「いいもん、見つけらたら一人でぎゅーするもん」
少しむくれてそっぽを向く直香と、宥めるでもなく嘆息するゼク。
いつも通りの、やり取り。
それは恋人同士とはかけ離れても見えたけれど、仲は、良さそうで。
カメラ越しの視線が微笑ましくなったのを感じたのかもしれない。は、とした様子で、直香は唸る。
「撮影の人もいるからなおの事でてこないのかもしれない……」
ちょっと失敗したかなー、なんて小さく呟く直香を横目に見て、ゼクは再び、カプカプビーチへ視線を巡らせる。
「まあ、いいさ」
「なにが?」
「別に」
問う視線から視線を外したゼクは、そのままビーチをゆるりと見渡す。
直香の求めているそれが、もしかしたらその辺から覗き見ていないかなんて探してやっているわけだが、見つかる気配はない。
カプカプ様とやらに興味がないわけでは、無い。
だけれど居合わせたそれを、彼が一人で抱きしめようと言うのなら、それで構わなかった。
(二人分の幸運がお前にすべて向かうというのなら)
お前の幸せが俺の幸せだとかそんなロマンチックな言葉を吐くわけでもないけれど。
直香が素直に笑う顔を想像すれば、それは、随分と悪くない光景だったのだから。
依頼結果:大成功
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