リザルトノベル
◆アクション・プラン
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
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×3
夜、夕涼みにムーングロウ、月の出て居る道を
カガヤと歩きたいです。
迷子にはなりませんよ…。
それはカガヤもでしょう?
お互い様という事で…手繋ぎましょうか。
月の満ち欠けで道が変わるのでしたっけ。
綺麗な道ですね…抜けてしまうのが勿体無いです。
…カガヤってこんなに歩くのゆっくりでしたっけ?
…もしかして足を怪我していたりしませんか?
成長…ですか…
なるほど…カガヤ、しゃがんで下さい。
しゃがんだカガヤの頭を撫でます。
カガヤはわたくしの成長を認めて下さったでしょう?
一方だけなんてずるいので
わたくしからも認めさせてください。
貴方もウィンクルムとして確実に成長していますよと。
もう一度カガヤの手を握り直します。
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●月影が照らす温もり
「夜は、さすがに昼より涼しいね」
「そうですね、夕涼みには丁度いいです」
月照らす道の入り口に響いたカガヤ・アクショアの声は、既に耳に馴染んださざ波寄せる音の如くにしっとりと柔らかかった。カガヤの言葉にそっと目元を和らげて応じた手屋 笹の長い髪を、涼やかな潮風がさわりと撫でる。2人が立っているのは、ゴールドビーチの海岸沿いに位置するムーングロウ『月明かりの散歩道』目前。南国らしいヤシ林も今は静けき夜闇の中、月影の元に今宵限りの道筋を示すのみだ。静かに降る月光が誘う小道に最初の一歩を進めて、カガヤが少し笑った。
「なんかさ、毎日違う道が現れるって聞くと、ちょっと特別な感じがするよね」
向けられた笑みの悪戯っぽさに、思わずくすりと音を漏らす笹。カガヤが、くるりと目を丸くした。
「笹ちゃん? 何で笑うの?」
「いえ……何でもありませんよ」
緑の双眸を煌めかせる様子がまるで未知の冒険に心を躍らせる子供のようだったから、なんて言ったら、カガヤはどんな反応をするだろうか。だってわくわくするでしょ? と屈託なく笑うか、笹ちゃんが子供扱いすると拗ねたように口を尖らせるか。そんなことを考えていた笹の耳に、
「笹ちゃん」
と当のカガヤの声が自身の名前を呼ぶのが聞こえた。その顔を見上げれば、頭上から射す月の光のように優しい笑顔がそこにあって。武器を握り慣れた逞しい手が、笹へとそっと差し伸べられる。
「ね。迷子にならないように手、繋ごう?」
「カガヤ、流石に迷子にはなりませんよ……」
カガヤを子供みたいだと思っていたところに降った、その当人からの子供扱いじみた提案。勿論本気で気分を害しこそしないものの、呆れ混じりの冗談混じりでじとっとした視線を寄越してみせれば、
「でも、迷子はなくても誘拐とかあるかも。実際あったしね」
と僅か慌てたようにカガヤが付け足した。自分が凶暴化した兎たちに攫われた時のことを思い出し、笹は寸の間ぐっと言葉に詰まったが――その思考はすぐに、教団員にカガヤが拉致された事件の記憶へと辿り着く。
「って、それはカガヤもでしょう?」
「うっ……」
今度は、カガヤが言葉を失う番だった。笹の黒耀の眼差しにはもう冗談の色は残っておらず、事件の時のことを思い出してだろう、ひたすらに真剣な、それでいて僅か痛みを帯びたような彩がその瞳に揺れている。
(心配されてる……誘拐されたの俺も前科があるから仕方ないけども……)
笹にそんな表情をさせてしまっているのが申し訳なくもあり、事件のことは今思い出しても何だかちょっとカッコ悪い気がしていたたまれなくもあり。犬耳をぺたりとして尻尾をしゅんと垂れてしまったカガヤの姿に、笹は苦い微笑を漏らした。
(……これは、おあいこですね)
心配を掛けたのも、掛けられたのも。カガヤが笹の身を案じるのも、逆に笹が、彼に同じことを思うのも。だから笹は、俯くカガヤへと静かに手を伸ばす。ハッとして、カガヤの眼差しが笹を捉えた。緑の視線に返すのは、優しい微笑み。
「お互い様という事で……手、繋ぎましょうか」
目元を柔らかくしてそう伝えれば、カガヤの尻尾がしゃんと立った。そのかんばせに、常のカガヤらしい、懐っこいような笑顔が輝く。
「うん、そうだね。離れないように」
笹の手を、カガヤの手のひらがそっと包み込んだ。互いの手に互いの温もりを携えて、さあ、月が誘う夜の散歩へと出掛けよう。
●共に歩む月の路
「月の満ち欠けで道が変わるのでしたっけ」
手を繋ぎ互いの温度を連れて、2人は月が生み出す道を行く。仄か光り放つ散歩道の幻想的な美しさに、笹の唇から密やかな感嘆の息が漏れた。
「綺麗な道ですね……抜けてしまうのが勿体無いです」
「そうだね、俺も笹ちゃんとおんなじことを思うよ」
潜めた声で囁き交わすのは、夢の世界の物のようなかそけき光の道が、大きな音を出して驚かせたら途端に幻の如くに消えてしまう、そんな気がしたから。ゆっくりとゆったりと、2人は月影の道筋を辿っていく。そのうちに――笹はふと、ある違和に思い当たって胸の内に首を傾げた。
(……カガヤって、こんなに歩くのゆっくりでしたっけ?)
一度気が付いてしまったら、違和感というのは気になって仕方がないもので。傍らを歩くカガヤは、密かに見上げれば穏やかな笑みをその顔に浮かべてはいたけれど、ひょっとしたら、と笹はあれこれ考えずにはいられない。
「あの、カガヤ」
「ん? どうしたの、笹ちゃん?」
名を呼べば、こちらへと向けられるあたたかな色の眼差し。笹が神妙な面持ちをしているのを見て取って、カガヤは足を止めた。
「その……もしかして足を怪我していたりしませんか?」
「え、怪我?」
唐突な問いに、瞳を瞬かせるカガヤ。その反応にどうやら心配は杞憂だったようだと感じ取って、笹は一つ安堵の息を吐いた。そんな笹の様子に、カガヤが僅か首を傾ける。
「えっと、笹ちゃん、俺のこと心配してくれたんだよね? 特に何もないけど……どうしたの?」
「いえ、その……歩くのが、いつもよりゆっくりのような気がしたので……」
「ああ、そっか、それでか」
返る答えに、カガヤは腑に落ちたとばかりに表情を明るくした。そうして陽だまりのような温もり纏った笑顔で、
「特に意識はしてなかったけど……笹ちゃんを置いていきたくないから、自然とゆっくりになってたのかも」
なんて、少し照れたように声を零す。
「カガヤ……」
「ほら、俺気をつけないと自分の思うままに動いてる事あるから」
だから、これは。
「ウィンクルムとしての俺の成長……かな」
「成長……ですか……」
どこか誇らしげに笑うカガヤの言葉を、笹は小さく繰り返した。それから一つ息をつくと、そのかんばせに大切なことを思い決めたような表情を乗せる。
「なるほど……カガヤ、しゃがんで下さい」
「え? しゃがむの?」
何だろう? とは思いながらも、笹があまりに真摯な面持ちをしていたので、カガヤは彼女の指示に迷うことなく従った。すぅと手が頭の方に伸びた気配を感じたと思ったら、次の瞬間には、笹の手の温もりがカガヤの頭に触れていて。優しく優しく、その手はカガヤの頭を労わるように撫でる。
「ええっと……笹ちゃん、これは?」
「……カガヤは、わたくしの成長を認めて下さったでしょう?」
例えば、手紙に託した想いに真っ直ぐな信頼を返してくれたこと。カガヤは笹を信じ、認め、共に歩んでくれている。だから笹も、きちんと想いを伝えたい。
「一方だけなんてずるいのでわたくしからも認めさせてください。貴方もウィンクルムとして確実に成長していますよ、と」
笹の言葉が、カガヤの胸に穏やかに染み渡る。嬉しくて、けれど何だかこそばゆいような心地もして。自然、その顔を緩く綻ばせるカガヤ。
「えへへ、何かくすぐったい。でも……ありがとう、笹ちゃん」
面を上げれば、笹とぴたりと目が合った。曇りのない笑顔と一緒に零される心からの感謝の言葉を、笹も柔らかな微笑を以って受け止める。
「よし、これからも益々頑張らないとね!」
言って、カガヤが元気良く立ち上がった。そんな彼の手を、笹はぎゅっと握り直す。カガヤが少し驚いたように笹を見て――そのままその表情が、屈託のない満面の笑みに変わった。握り返された手の温もりが、どうしようもなく心地良い。
「じゃあ、行こっか」
「はい、行きましょう」
再び手と手を重ねて、2人はまた月の道の散策を再開する。
(この光を辿り終えても、この先も)
共に歩みを重ねていけたらいいと、笹はその胸の内に想いを沈めた。
依頼結果:大成功