リザルトノベル
◆アクション・プラン
叶(桐華)
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撮影隊同行のデートですってよ桐華さん
まぁだからって特別なことするわけじゃないのが僕らでしょう
というわけで桐華さんの事は華麗に撒いちゃいます
暗がり夜道だから撒きやすいね!
さてさて、フリーな時間を作った所でムーングロウの道を紹介しようよ
お月様に照らされて仄かに光る道は、日ごとに顔を変えるらしいね?
テレビの前の皆は僕らと同じ道は歩けないって事なら。せめて映像でお届け
ほら、見て見てとても綺麗
ロマンスに溢れてるね
あ、桐華さんお帰り。最近早いね
はいはい、仕方ないから繋いであげる
…ま、飽きたらその内勝手に諦めるよ
ちゃんと考えて旅レポしてたもん
…だって
追いかけてくれる君が好きなんだから
当分、無理だよ
内緒だけど
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ムーングロウ・ハイド・アンド・シーク
●鬼さんこちら
叶は笑顔で撮影隊を見やる。
ここはゴールドビーチのヤシ林の中。時間は夜のまっただ中。
ムーングロウの『月明かりの散歩道』を二人がデートする様子を、撮影隊は撮りたいとのことだ。
「撮影隊同行のデートですってよ、桐華さん」
振り返って精霊に言った叶の言葉に、桐華からの返事はない。だが特に叶も返事を期待していないから気にしない。なぜならこれは『話題の提供ではなく合図だから』である。
「まぁ、だからって特別なことするわけじゃないのが僕らでしょう」
叶は微笑んだ。
そして夜闇に消える。急に叶が動き出したので、撮影隊も慌てて彼を追いかける。
ざざっと真っ暗なヤシ林に消えていった彼らを見て、桐華はため息を吐いた。置いてけぼりをくらったが、特に驚くことはない。特別なことではなく、文字通り日常茶飯事なのだ。
「撮影協力にオッケーしたんじゃねぇのか……」
しかし、どうせ叶にそれを抗議したところで『僕はちゃーんとスタッフの皆さんと視聴者の皆さんをムーングロウにお連れしたんだから、きっちり協力してるよ!』と得意気に言い張るだろうから、面と向かって言うつもりはない。徒労だ。
いつものことだ。どこへ行くにも、彼を探すところから始まる。
バザーイドラでは鳥籠片手に、鳥の役の彼を探した。青い鳥よろしく。
にわか雨の中では、彼が飛び込んだ喫茶店を探した。迎えに来て、とわざわざ叶から電話までよこされて。
また、桐華はため息を吐いた。追いかけてばっかりだ。いつもいつも。彼と出会った時から、いや出会う前から。ずっと、桐華は叶を追いかけている。
ただ本気で叶が逃げていた昔に比べ、こんなもの児戯である。デートのための儀式のようなものだ。叶が逃げて、桐華が追いかけて、捕まえて、ようやく二人で行動できる。
「出会った頃からの名残なんだろうな、きっと」
いつまで彼の背を追い続けるのだろう。いつか隣に並ぶことが出来るのだろうか。
ため息をまた吐きかけて、やめる。ここで肩を竦めている暇があるなら、神人を探さなければ。カップルのデートを映像に収めたいスタッフも困るだろうし、何より――叶が落胆する。追いかけなければ、叶は桐華に失望するのだ。だから、絶対に追いかける。
それに別にうんざりはしていない。それが二人の関係なのだと分かっている。もちろん、叶が逃げなくなれば、嬉しいのだが。
ふと桐華が上を向けば、月明かり。
さてさて、隠れんぼを始めよう。もういいかい、なんて聞かずとも、十分時間は過ぎたはず。
桐華は、自分の神人の思考をトレースする。
「月を眺めるのは好きなんだよな。でも、明るすぎるところは嫌いなんだろ」
桐華はヤシ林の中へと足を踏み出した。
今日の隠れんぼはまだ簡単な方だ。だってこんなにも月が明るい。
「さてさて、ムーングロウの道を紹介するよー」
精霊をおいてきてしまったことに今更気づいて、おろおろするスタッフをよそに、叶はさっさと旅レポートを始める。
せっかくしゃべりだしたのだから、と慌ててカメラマンがカメラを構えた。
「お月様に照らされて仄かに光る道は、日ごとに顔を変えるらしいね?」
日中はなんでもないヤシ林だが、月が出る夜は、道がぼんやりと輝く。月の満ち欠けによって変化する道は、毎日コースが違うという。
「テレビの前の皆は僕らと同じ道は歩けないって事なら。せめて映像でお届け」
サービスいいでしょ? 君たちの要求に見事に答えるいいウィンクルムだと思わない、僕?
などと叶はうそぶき、ぼんやりと光る道を指さす。
「見て見てとても綺麗。ほら、ちゃんと撮って! ほーらロマンスに溢れてるねぇ」
道はいいのだ。それよりその道を仲睦まじく歩くカップルの画がほしいのだ。とスタッフは言いたげなのだが、なかなかどうしてそんな隙を与えてくれないのが叶だ。
「ほら、ここからのアングルなら綺麗にヤシと道と月がファインダーに収まるんじゃないかな!」
と道の脇に立った叶が天を指さした時、ガサリとヤシが揺れ、救世主が現れた。
「ほら、やっぱり」
案の定だ。茂みから現れた桐華は、ニと微かに笑う。
でしゃばりのくせに隠れるのが大好きないい大人は、もっとも美しい場所で自分ではなく、景色ばかりレンズに収めさせていた。
「あ、桐華さんおかえり。最近早いね」
何でもなさそうに、叶は桐華に声をかける。だが瞳の奥は、誰にも気づかれないほどわずかに喜びに光った。
「早いね、じゃねぇよ」
やれやれと呟きながら、桐華は叶に近寄って左手を差し出す。
「ほら、手。寄越せ。子供じゃないんだからふらふらはぐれるな」
すると叶は仕方なさそうに右手を伸ばして、桐華の手を掴んだ。
「はいはい、仕方ないから繋いであげる」
ほら、つかまえた。だからもう叶は今日は逃げない。
スタッフ達も一様にほっとしたらしく、空気が緩む。
桐華はスタッフに会釈もせず、ぼうっと光る散歩道を叶と一緒に歩き出す。ようやく叶も光る散歩道を踏んでくれた。
その背をカメラが追っていく。
つないだ手はいわゆる恋人つなぎ。手の甲と手の甲がくっついている。
叶が右手にある契約の紋章を、他人に晒したくない気持ちを桐華は知っているから、自然な形で隠したつもりだ。叶は人前で頑なに肌を晒したがらない。故に、今回も水着を着ずに済むプランを選んだ。
彼の気持ちを尊重したいという桐華の気持ちが、当の彼に伝わっているかどうかは定かではないが、素直に手をとったから嫌ではないのだろう。
「迷子ごっこもそろそろ諦めろよな」
「ま、飽きたら、ね。その内勝手に諦めるよ」
二人、前を向いたまま淡々と言い合う。
「あと、ついでに視聴者の事考えろ」
「失敬だな。ちゃんと考えて旅レポしてたもん」
むっと頬をふくらませ、桐華の小言に叶は反論した。しかし桐華も言い返す。
「バカ。旅レポだけなら俺らいらないだろ」
ぐ、とほんの一瞬つまった叶だが、飄々と返した。
「……そんなこと言いながらさ、どうせ桐華、僕を見つけて追いつくじゃない」
「……」
眉をひそめ、黙り込んだ桐華に、にやんと笑って叶は追撃する。
「ちゃんと今日も見つけて追いついたでしょ。だから問題なーい」
ここまでの応酬はかなりの小声だ。おそらくマイクには拾われていない。
叶は月を見やる。遠くにありすぎるルーメンは、まるで歩く二人を追いかけるようにずっと視界に映り続ける。
月とも追いかけっこか、と考えが巡って、叶は思わずクスリと笑った。ずっと追いかけられてばっかりではないか。もちろん、全く嫌ではなくて寧ろそれを望んでいるわけだけれど。
桐華はもう諦めろ、と言ってくるが、叶はまだまだ諦めるつもりはない。飽きればやめる、なんて口先では言ったものの。
(当分無理かな。追いかけてくれる君が好きなんだから……内緒だけど)
桐華はちらりとカメラが映そうとしている先を確認して、満足そうに頷く。
叶の左手には、桐華の『アンウーの息吹』と対になる『サラリスの涙』が光っている。それが映るようにさり気なく桐華は、立ち位置を調整する。
(左手の指輪が、映るといい。紋章を見せたがらないから俺の手の甲で隠すなんて言い訳だ。……ただ見せつけたいだけ)
月明かりの下、ただ静かに二人が歩く姿。抱く思惑はばらばらでも、見つめる先は同じ。
依頼結果:成功
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名前:叶 呼び名:叶 |
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名前:桐華 呼び名:桐華、桐華さん |