【白昼夢】君、覚醒す……!(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

紅い夕日の差し込むリビング。
君はテーブルの上に一枚の紙を見つける。

『今まで楽しい時間をありがとう。あなたとの日々は一生の宝物です』

それはあの人が残した置手紙だった。
几帳面な文字が所々震えているのは、きっと、こみ上げる嗚咽を堪えながら綴ったのだろう。
落ちた涙を拭った跡に差出人の署名が霞み、
それがそのまま、今まさに君の元を去っていったあの人の姿に重って見えた。

「あんの……バカっ」

握った君の拳の中で置手紙がクシャリと乾いた音を立てる。

そして君は走り出した。
靴をつっかけ、玄関を飛び出し、大通りまで駆けて、ちょうど通りがかった空きタクシーを捕まえる。

「く……空港まで、大急ぎで!!」

かぶっていた帽子を少し持ち上げて君を振り返ったタクシー運転手のオヤジは、
それだけで何となくの事情を察したらしい。

「若いっていいねぇ……。ちょっと飛ばすぜ」



空港のロータリーに滑り込むタクシー。
後部座席から転げ落ちるようにして、再び駆け出す君。
そうしてセキュリティーチェックゲートの手前に、あの人の姿を見つけた。

「待てよ……!!まだ伝えていないことがあるんだ……!!」

ふりかえるあの人の姿はスローモーション。
そして君は言う。

「本当は、ずっと、ずっと、お前のことが……」





と、まぁ、主人公は何かによって心を突き動かされ、心に秘めていた想いや行動を起こすシーン。
言ってしまえばベタとも言えるクライマックス。
ドラマを見ているならば「あー、こう来たか」何て言いながら
それでも、息詰まる展開にドキドキして目が離せなくなるような、そんなシーン。

が、これはドラマではない。
現実にあなたが体験している世界での出来事なのだ。
100年に一度現れる「ウィンクルムにしか視認できない天空島」フィヨルネイジャを訪れていたのだが、
どうやらそこで起こると言われている「現実ではありえない不思議な現象」白昼夢に遭遇したらしい。

夢のように見慣れぬ光景の中、君はドラマの主人公としてこの場にいる。
そして、何かによって強く心を突き動かされ、心の奥に秘めていた想いを叫ぶ。
あるいは、勇気が出ずにずっと迷っていた事柄をついに行動へと移す。
共通するのは、それが相手を想う気持ちであったり、自らの状況をプラスに変えるものだという事。
世の中に「闇落ち」という言葉があるならば、闇落ちの反対の「陽覚醒」とでもいえるシーン。

そんな瞬間が訪れた時、
君とあの人はどんな行動を取るだろうか?



ちなみに君が遭遇するドラマには、こんな案が用意されている

1.暴れん坊ジェネラル
かつて存在していたとされるEDO(エー・ディー・オー)という街で
ジェネラルが無職の町人に扮して悪を斬ったり困った人を助けたりするお話

2.はみだしちゃってる刑事は情熱系
規律からはみだしてしまう事は多いものの、情熱的に捜査に取り組む刑事のお話
元妻が上司だったり、離婚で別れた一人娘とは「親友」という間柄だったりする

3.大夜叉
戦国時代にタイムスリップした女子高生と、大妖怪・夜叉の物語
ラブコメあり、戦闘ありで恋敵の美しい巫女も出てくる

4.君に届くかな?
学園ものの王道ラブコメ
引っ込み思案な女子高生と爽やか系イケメンの甘酸っぱい恋物語

誰がどの役をするかも自由だし、他の作品を選んだり、オリジナルでも勿論良い。
フィヨルネイジャの白昼夢。
それはどんな物語なのだろうか。

解説

●解説
天空島、フィヨルネイジャを訪れたあなた達は白昼夢のような不思議な現象により、
何かのドラマの主人公達となっており、今まさにクライマックスのシーンが展開されています
この現象は長くても数時間で自然と収まり、普段の2人に戻ることができます

●目的
熱い衝動に突き動かされるままに、心の奥に秘めていた想いを、言葉や行動として表してください
心の奥に秘めていたものは、それを実行に移すことで状況をプラスに変えるものとします
闇落ちの反対バージョンだと考えていただけると分かりやすいかもしれません

●プランに書いてほしいこと
・どんなドラマか
・覚醒するのはどちらか
・どんな想いを秘めていて何をするのか
・それに対する相手の反応
・Jr消費

●白昼夢
フィヨルネイジャで遭遇する現実ではありえない不思議な現象
今回は何かのドラマのクライマックスシーンです
フィヨルネイジャでウィンクルムの親密度が上がると愛の結晶「ピーサンカ」が生まれ、
これを集めることでギルティガルテンにある破壊された教会の力を回復させることができます

●ドラマ
今回は各ウィンクルムで個別の描写となります
どのようなドラマの中でどのようなシーンなのか、各自でご指定ください
外見や職業などの設定はドラマ内のものが適用されますが、
秘めていた想いは、そのキャラクターが日ごろから抱えていたものとしてください

●消費Jr
各自白昼夢の中で800Jrほどのお金を使うシーンを挿入してください
プロローグの例ならば、タクシー代などです
実際の金額と使用用途はお任せします

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

闇落ちエピが人気なら、その逆もいけるハズ……と、柳の下のドジョウを狙ってみます。
……というのは冗談ですが。
心の奥底に秘めた思いはあるキャラクターさんは多いと想いますので、
この機会に、ドーンとぶつけてみてはいかがでしょうか?

ご参加、お待ちしております

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  ・ドラマ『シンデレーラ』
いじめられていた少女が、いじめに耐え、王子様からの迎えを受ける話。

姉1:ちょっとリヴィエラ。アンタ、どうせ神人でしょ?
どうせオーガに狙われて長生きできないんだから、精々部屋にでも籠ってなさいよ。

姉2:生まれつき神人だなんて、気味が悪い…この、忌み子!

母:貴方達、お止めなさい。…でもリヴィエラ、部屋の中にいた方が良いわ。

リヴィエラ:

忌み子…そうですね。迷惑をかけてごめんなさい…
あ、貴方は…! 窓の外からこちらを見てらした…(王子に抱き抱えられ、屋敷を飛び出す)

・夢の後
(忌み子と呼ばれていた事をロジェに知られてしまっ…ロジェは私を嫌いになったでしょうか?)


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  遂にこの時が来たな。
この戦いが終わったら・・・。

ドラマ・大夜叉

覚醒はリオ、秘めていた想いはアモンへの気持ち

<行動>
・タイムスリップした女子高生役
・いよいよラスボスとの最終決戦、道中に現れた不思議な神社で縁結びのお守りを二つ買う(一つ400Jr)
・ラスボス戦、途中でボスに捕えられ無理やり心を奪われそうになる
・自分に呼びかけるアモンの声に反応、お互いのお守りが光り無自覚だったアモンへの恋心に気付く
「アモンは私の・・・大切な人だ!」
・浄化の力に覚醒
・戦闘後、この時代に残る事を決意する
「ずっとキミのことを・・・」
・現象終了後、改めて思いを自覚
(そうか・・・私はアモンのことが・・・)←照れ

アドリブOK!



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  1.暴れん坊ジェネラル

早くに両親を亡くし、EDOの(悪徳)大商人ECHIGO屋に拾われ奉公人として働いていた
ある日旦那様に連れられ高級料亭へ行くと悪大臣との会合の場だった
(食事代800Jr)

だ、旦那様…その山吹色の菓子はお店のお金では…
それにあたしが大臣のお妾にだなんて、そんなの嫌よ!
誰か助けて!レム!

大臣に連れて行かれそうになった瞬間誰かに引き戻され背に庇われる
あ、貴方は遊び人のレム?どうしてこんな所に…?
レムの正体を知り戸惑うが頼もしい背中にドキドキ

どうしてあたしなんかを助けに…えっ!ジェネラルがあたしを…?
いいえ、嬉しいです…ジェネラル、いえ、レム

これ、夢よね
でもレムの気持ちは本物…?



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  覚醒する方

ドラマ:花盛りの私達
双子の兄が大怪我で入院
このままでは落第
兄の窮地を救うべく、双子の妹・歌菜は男装して学園へ
待ち受けるは男子寮
同室は先輩男子(羽純)
その先輩に一目惚れしてしまった歌菜
彼の抱えるトラブルを解決したりで育まれる友情
縮まる距離
他校の恋敵が登場。揺れる恋心
兄が回復し別れの時は来て

彼に何も言わずにお別れしていいの?
けど、言ってしまったら…積み上げた友情が崩れるかも
言わなければ、偶に兄に交代して貰って彼と友人として会える

想い:私は貴方が好き…友達じゃ嫌なの! 貴方に女の子として見て貰いたい…

行動:別れの日、空港からタクシーに乗って学園へUターン
羽純に女である事を明かし、愛を告白


100000774(驟雨)
  覚醒

・ドラマ:お嬢様とボンビーメン
・あらすじ:何不自由ない環境で育ったワガママ令嬢・ナナシと極貧生活を送る前向きな青年・驟雨のラブコメ
・内容:驟雨はひょんな事からナナシの専属付き人になる。彼女は無理難題な事を押し付けてきたが、驟雨から様々な事を学び更正した彼女は、もっと外の世界を知る為に留学を決意する
・ナナシの役:令嬢

・思いへの行動:孤独から断ち切る
※思い告白についてナナシは覚えていない
「親から愛されてない事にいつまでも皮肉ってばかりではダメだな」
「この孤独に勝てたら…自分に正直になろうか」
…何か不思議な夢を見た気がする。
…何故そんな事を?まぁそうだな…真実だ。勿論応援してくれるだろう?(照笑



●シンデレーラ

 昼下がりのその時間。
 リヴィエラはこっそりと部屋を抜け出し、通りに面した2階の窓に駆け寄った。
 通りを行きかう人々の姿を見下ろすことしばし。
 哀しみを湛えたリヴィエラの碧い瞳が、目的の人物を見つけて、僅かな明るさを取り戻す。
「あ……いらしたわ」
 そこには、マントに身を包み、ローブを目深に被ったポブルスの青年が一人、佇んでいた。
 その青年の姿を垣間見ることが、不自由な日々を強いられているリヴィエラにとって、唯一の心の慰めなのだ。

 そんなリヴィエラの『心の君』だが、今日は少し様子が違った。
 普段、彼がいる場所は通りの向こう側なのに、何故か今日は通りのこちら側、しかもリヴィエラがいる窓の真下にいる。
「……」
 ほんの少し、好奇心が頭をもたげて、リヴィエラは通りに面した窓を押し開けた。
 窓が開いたことに驚いたのだろう、青年が紫の瞳を見開いて、真っ直ぐにリヴィエラを見つめる。
「……」
 その時だ。
 その場に、リヴィエラが最も恐れるものが割り込んできた。
「ちょっとリヴィエラ。アンタ、どうせ神人でしょ?どうせオーガに狙われて長生きできないんだから、精々部屋にでも籠ってなさいよ」
 刺々しく突き刺さる言葉は、リヴィエラの一番上の姉のものである。
 お茶会に行っていたと思ったが、今日に限って帰りが早かったようだ。
 開いたままの窓に手をかけたままビクリと身を竦ませるリヴィエラ。
 そこに二人目の姉の言葉が追い討ちを掛ける。
「生まれつき神人だなんて、気味が悪い……この、忌み子!」
「貴方達、お止めなさい」
 二人の姉をたしなめる優しい声は、母のもの。
 だがそれが紡いだ言葉は、リヴィエラの心を更に深い奈落へと突き落とした。
「……でもリヴィエラ。あなたは部屋の中にいた方が良いわ」
「忌み子……そうですね。迷惑をかけてごめんなさい」
 悄然と肩を落とし、窓辺から離れるリヴィエラ。
 彼女に残された道は、傷ついた心を抱えたまま一人部屋に戻ることだけだった。

 普段ならば邸の中に閉じ込められ、誰も聞くことのないその遣り取り。
 しかし今日はそれを耳にした者がいた。
 窓の外にいたリヴィエラの『心の君』ことロジェである。
「忌み子だと?ふざけるな!あの少女の気持ちも考えずに、何が忌み子だ!」
 激怒したロジェはローブを取り払い、リヴィエラの邸へと押し入った。
 ローブを取りその身分を明らかにしたロジェに逆らう者はない。
 畏れ入り平伏する家人達を無視して邸の奥へと足を進めながらロジェは呟く。
「リヴィエラ。俺だけの神人。俺は君をひと目見た時から愛してしまった」
 オロオロとするリヴィエラの母と姉達。
「彼女を忌み子扱いする形だけの家族など……俺の邪魔をする家族など、断じて許さん!」
 怒りを込めて睥睨すれば、王子という身分を持つロジェに逆らえるはずもなく、彼女達は容易く道を譲った。
 バタンと乱暴にリヴィエラの部屋の戸を開けるロジェ。
 驚いて振り返ったリヴィエラがロジェの顔を見て目を丸くする。
「あ、貴方は……! 窓の外からこちらを見てらした……」
 リヴィエラを姫のように横抱きにして邸から連れ出したロジェは、通りに出ると、すぐそこに用意されていた白馬の手綱を引いた。
 邸の中にいる間、馬を見てくれていた男に礼金を支払って、リヴィエラと共に馬に乗る。
「リヴィー。君は忌み子なんかじゃない」
 身体の密着する馬上で、耳元で甘く囁くロジェ。
「辛い思いをしてきたんだな。これまで気づいてやれなくてごめん……ごめんな。もう忌み子だなんて呼ばせない」
 そしてロジェはリヴィエラの顎に手をかけて優しく上を向かせた。
「俺が君を幸せにしてやる……!」
 リヴィエラの桜色の唇にロジェの唇がゆっくりと降りてゆく。

「……!!」
 白昼夢の終わりは唐突だった。
 いわゆる『キス顔』で突っ立っていた二人がはっと我に返り、バツが悪そうに目を逸らしあう。
(忌み子と呼ばれていた事を知られてしまって……私を嫌いになったでしょうか?)
 心配するリヴィエラ。
(そうさ。もう忌み子だなんて呼ばせない)
 しかしロジェの決意は既に固く、リヴィエラの心配は無用のものであるようだった。



●大夜叉

 戦国時代にタイムスリップした女子高生リオ・クライン。
 そしてリオのパートナーである、大妖怪・夜叉ことアモン・イシュタール。
 宿敵、奈羅狗の居場所を掴んだ二人はその日、決戦の場所へと赴いていた。
(遂にこの時が来たな。この戦いが終わったら……)
 道中、先を歩くアモンの背を見つめ思いを巡らせるリオ。
 その気配を感じたのか、あるいはただの偶然か、不意にアモンが訊ねた。
「お前は全てが終わったら元の時代に帰るのか……?」
「私は……」
 咄嗟には答えられず、リオは言葉を詰まらせる。

 その時だ。

「……っ!!」
 道端の木立の影から不意に伸びてきた黒い蔦のようなものが、リオの細い胴にクルリと巻きつきリオの身体を易々と持ち上げたのだ。
「……リオっ!!」
 慌てて伸ばしたアモンの指先を虚しくすり抜け、木立の中へと姿を消すリオ。
 リオを追ってアモンは木立の中へと飛び込んでゆく。
「リオを離しやがれー!」
 例えそれが敵の罠だと分かっていても……アモンはそうせざるを得なかった。

 待ち構える大量の雑魚敵に苦戦しつつ、アモンがリオを追いかけていた頃。
 リオもまた孤独で厳しい戦いを強いられていた。
 黒い蔦に囚われて連れて行かれたその先で、身動きもできぬまま奈羅狗に心の深淵を覗き込まれていたのである。
 澄んだ水に一滴ずつ墨汁を落とすように、ゆっくりと侵略されてゆくリオの心。
 そしていよいよ全てが闇に染まると思われたその時。
 ある音がリオの鼓膜を揺らした。
「目を覚ませ!リオ!」
 ボロボロに傷つきながらも、必死にリオを追うアモンの声である。
 ほんの僅か、自由になるリオの指先が何かを求め宙を掻く。
 そしてそれが服のポケットから垂れる白い紐に触れた。

「……!!」

 カッ!
 巨大な稲光のような閃光が闇を白く塗りつぶしてゆく。
 心を取り戻し、驚きと共に光の元を手に取るリオ。
 それは、ここに来るまでの道中の神社で購ったお守りだった。
「何故これが……?」
 呟くリオにもう一つの光が近づいてくる。
 アモンが手にしているお守りもまた、光を放っているのだ。
 だが奈羅狗が黙ってそれを見過ごすはずもなく、闇がうごめき光を塗りつぶそうとする。
 リオの元へ急ごうとするアモンの姿が再び闇に消えてゆく。
 光るお守りを握り締め、リオは自問した。
 このお守りは縁結びのお守り。それが何故今輝くのか。何故なら……。
「アモンは私の……大切な人だ!」
 その想いに気づいた瞬間、お守り……否、リオ自身から爆発的に光があふれ出した。
 闇を払い全てを清める浄化の光だ。
 圧されたじろぐ奈羅狗。
 その隙に逃げ出したリオをアモンの腕がしっかりと抱きとめる。
 リオの放つ浄化の光を受け力を増すアモン。
「これで……終わりだああっ!」
 放たれる必殺技に、奈羅狗から断末魔の叫び声が上がった。
 
 静けさを取り戻した決戦の地。
 目覚めを知らせるやわらかな光の中で、アモンはリオに尋ねる。
「オレと共に生きてくれるのか?」
「ずっとキミのことを……」


「……」
「……」
 白昼夢から目覚めたリオとアモン。
 先程までの盛り上がりまくったテンションから不意に我に返り、どちらからともなく目を逸らしあう。
(そうか……私はアモンのことが……)
 奈羅狗に囚われた闇の中で自覚した想いは、決して幻などではない。
 そう気づいたリオが頬を染める一方で……。
(まあ、このお嬢様の場合『大切な相棒』って意味だろうな)
 アモンはリオの真意には気づかない……いや、敢えて気づこうとしないようであった。
 リオの気持ちが伝わるには、もう少し時間が必要そうだ。



●暴れん坊ジェネラル

「上様。少々お耳に入れたいことが……」
 不意に天井から降ってきた鬼輪番の声に、上様ことEDOのジェネラル、レムレース・エーヴィヒカイトは執務の手を止めぬまま答える。
「何なりと申せ」
「はっ。ECHIGO屋が、本日料亭にて大臣と密会をするとの情報を」
「そうか、ご苦労であった」

「ちょ、ちょっと!旦那様!どうしてあたしをこんなところに?っていうか、えぇっ!自腹なのっ?」
 料亭の入り口でなけなしの800Jrを財布から取り出しつつ騒ぐ、お香こと出石 香奈。
 香奈は早くに両親を亡くし、途方に暮れていたところを何故かECHIGO屋の主人に拾われた。
 以来、この年になるまで奉公人として仕えてきたのだが、このような場所に連れられてくるのは初めてのことである。
 戸惑うばかりの香奈を連れたECHIGO屋の主人は、慣れた様子である部屋へと入っていった。
「待ちかねたぞECHIGO屋」
「お待たせしてしまい申し訳ございませぬ、お大臣様。少々用意に手間取りまして」
 へつらった笑みを浮かべて平伏する主人に倣い、とりあえず三つ指をついて香奈は挨拶をする。
「して……首尾はいかがじゃ?ECHIGO屋」
「それはもう。細工は流々、あとはお大臣様のお言葉一つ……でございます」
 そう言いながら主人は紫の風呂敷に包まれていた菓子箱を大臣の前に差し出した。
 大臣が蓋を開ければ、そこにはまばゆく輝く山吹色の菓子。
「ECHIGO屋、お主もなかなか悪よのぅ」
「いえいえ、お大臣様ほどでは」
「はっはっは……」
 笑い合う二人の横で、香奈は一人狼狽する。
「だ、旦那様。それはお店のお金では……?」
 そんな香奈を「しっ。お前は黙りなさい」と叱りつけ、主人は大臣の方へと香奈を押し出した。
「そしてこちらが……かねてよりお大臣様がお妾にとご所望されていた我が家の奉公人です。さ、香奈。ご挨拶を……」
「なに、かしこまることもあるまい。近こう寄れ」
 ねっとりと脂の乗った手で香奈の手を引く悪大臣。
「あ、あたしがお大臣様のお妾にだなんて。そんな……」
 嫌だ、そう言いたかったが身分の高い相手にどうして良いか分からず硬直する香奈を、大臣は半ば強引に隣の部屋へと連れて行こうとする。
 何故か都合よく、細く開いた襖の隙間から見えるのは一つの布団に並べられた二つの枕。
(誰か……誰か助けて!……レム!!)
 きつく閉じた瞼の裏に浮かぶのは、街で度々出会う『遊び人』のレム。
 素性は分からないが、不思議な気配を持つレムに香奈は心密かに魅かれていたのだ。
「おやめ下さいませ。お大臣様」
「よいではないか、よいではないか」
 大臣が香奈の着物の帯に手を掛けたその時だ……。
「待てぇい」
 不意に男の声と共に、一枚の扇が部屋に飛び込んできた。
「な……何奴!?」
 扇で強かに額を打たれ、怯む大臣。
 その隙に香奈は庭へと逃れる。
「レム?どうしてこんな所に……!?」
 突然現れた胸中の人物に驚きつつも安堵する香奈を背中に庇い、レムレースは言った。
「ECHIGO屋、そして大臣よ、そなた等の悪巧み。しかと聞き届けた」
 堂々としたその態度にいきり立った大臣。
「遊び人風情が知った口を。何者だ」
「うつけ者。俺の顔を見忘れたか」
 一瞬はっとした大臣だったが、すぐに悪どい笑みを浮かべると叫んだ。
「このような場所に上様がいらっしゃるはずもない。よってこやつは上様を騙る偽者じゃ。ものども出会え、斬り捨てい!」
 わらわらと飛び出してくる下っ端。
 レムレースの背中に庇われた香奈は、その正体に戸惑いつつも、
 レムレースの頼もしい背中に胸の高鳴りを抑えることができずにいた。

 しばらくの間、大立ち回りを演じていたレムレースだったが、程なくして……。
「成敗」
 そんな声と共に最後の一人の敵を袈裟懸けに斬り伏せた。
 配下を失い、観念したように膝をつく大臣とECHIGO屋の主人。
「二人とも、追って厳しい沙汰あるものと覚悟しろ」
 連行されてゆく二人にそう言い渡すと、レムレースは改めて香奈に向き直った。
「大事ないか?」
「どうしてあたしなんかを助けに……」
 レムレースの正体を知り、平伏しながら言う香奈の手を引いて立ち上がらせながらレムレースは言う。
「お前を一目見た時、天命だと思った」
「えっ!ジェネラルがあたしを……?」
 驚く香奈にレムレースはふふりと笑った。
「何故かな……誰にも渡したくない、だから俺のもとにいてほしい」
 照れて顔を伏せつつも香奈は頷く。
「それから俺のことはいつも通りレムでいい……そう呼ばれるのが一番心地良い」
「嬉しいです……ジェネラル、いえ、レム」
 不意に景色が白く霞んでゆく。
 白昼夢の終わりが迫っているのだ。
(これ、夢よね?でもレムの気持ちは本物……?)
 そう、紛うことなき本物、だ。



●花盛りの私達

 空港の出発ロビーのベンチに座り、桜倉 歌菜はじっと自分の膝を見つめていた。
 大怪我をした双子の兄の身代わりとなって過ごしてきた男子寮での生活も、もう終わり。
 これからは自分の生活に戻るのだ。
「色々……あったな」
 ポツリと呟く歌菜。
 同室だった月成 羽純の事ばかりが思い浮かんでは消えてゆく。
 新学期、同じ部屋だと知らされた彼に一目ぼれをしたこと。
 その後、彼が抱える問題を一緒に解決したり、学校行事をこなしていく中で二人の間に友情と呼べるものが芽生えたこと。
 他校の学生が二人の仲を邪魔しようと画策したこともあった。
 その度に羽純と二人、力を合わせながら乗り越え、友達としての絆は深まってきたけれど……。
(彼に何も言わずにお別れしていい、の……?)
 歌菜は一人自問する。
 耳に届くのは搭乗者にチェックインを促すアナウンス。そろそろ行かなければならない。
(私は本当は兄じゃないって言ってしまったら……積み上げた友情が崩れるかも)
 羽純が友達だと思っているのは、男性の『歌菜』だ。女性として見た上で仲良くしてくれた訳ではない。
(言わなければ、偶に兄に交代して貰って彼と友人として会える)
 でも……それでは、いつまでも羽純は『歌菜』を歌菜としては見てくれない。

 一方、歌菜が去った男子寮の部屋では、羽純もまた一人葛藤の中にいた。
 新学期に同室者だと言ってやってきた歌菜。
 早い段階で彼女が女性であることには気づいていたが、
 その懸命な様子に、何か重大な理由があるのだろうと、敢えて気づかぬフリを続けてきたのだ。
 着替えのタイミングには何かしら理由を付けて部屋を出るなど、さり気なく歌菜をフォローしてきたのだが、歌菜はそれには気づいていないようだった。
「……これで、終わりなのか?」
 呟いて羽純は机の横のギターケースに手を伸ばす。
 ギタリストとしてスランプに陥っていた羽純を救ってくれたのは、歌菜だった。
 歌菜の真っ直ぐな心根に触れ、共に時間を過ごすことで音楽の楽しさを思い出すことができたのである。
 今朝、歌菜は「じゃあ、ちょっと実家に帰ってくる」と言い置いてこの部屋を出て行った。
 その時の歌菜の表情に、羽純は歌菜がもうこの部屋に戻って来ないことを直感的に悟ったのである。
「……」
 行かないで欲しい。
 その気持ちの理由が分からず、羽純は何度目になるか分からない溜め息を苛立たしげに吐き出した。

「部屋の中で腐っていても仕方がない。散歩でもするか……」
 夕刻。そんな事を言いながら寮を出ようとした羽純は、学園の門の前に一台のタクシーが滑り込んでくるのを見た。
 そしてそのタクシーから転がり出るようにして降りてくるのは……。
「歌菜?」
 驚く羽純に歌菜が気づく。
 その表情は、今朝部屋を出て行った時の苦しげな表情とは打って変わって、はっきりとした意志に満ちていた。
 正面から羽純を見つめ、歌菜が言う。
「ずっと黙っていてごめんなさい。私、本当は女なの。兄が怪我をしてしまって……身代わりとして来たの」
「……そうだったのか」
 女であることには気づいていたが、その理由をはじめて耳にして、羽純はそう頷いた。
 胸の前できつく手を握り、真っ直ぐに羽純の目を見つめる歌菜。
「私、貴方に女の子として見て貰いたい。……友達じゃ嫌、貴方が好きなの!」
 好き。その言葉を聞いた瞬間、羽純の心に落ちてくるものがあった。
 何故、歌菜との別れがこれほどまでに己の胸をさいなんだのか。
 一つの答えを手にした羽純はふふっとわらって言う。
「お前が女だって事、知ってたよ。知らないフリをしていたんだ。……お前と一緒に居る為に、その方が都合が良かったから」
「え?き、気づいてたの?!」
 驚く歌菜。
 羽純が既に歌菜の性別に気づいていた事に意識を取られ、『一緒に居たかった』というメッセージには気づいていない。
 その様子にひとしきり笑い、羽純は言った。
「戻ろう、俺達の部屋に」



●お嬢様とビンボーメン

 何不自由ない環境で育ったワガママ令嬢・ナナシ、こと100000774。
 そしてひょんな事からナナシの専属付き人となった、前向きな極貧青年、驟雨。
 裕福な家庭で物質的には恵まれていたものの、親からの愛情は手にすることができず心に鬱屈した思いを抱えていたナナシにとって
 常に明るく真っ直ぐな性格をした驟雨は、どこか疎ましく感じる存在だった。
 そのため事あるごとに、やれ大量のゴミの中から小さなイヤリングを探せだの、
 やれ大雨の降る中で何時間も立ちんぼをして自分を待っていろだの、
 驟雨に無理難題を押し付けてきたのだが、驟雨はそれらを全て笑顔で乗り越えて見せた。
 どんな仕打ちをしても雑草か何かのように這い上がってくる驟雨の姿に刺激を受け、
 ナナシもまた、ゆっくりとではあるが更正への道を歩み始める。

 そしてある日のこと。
「私は留学しようと思う。もっと外の世界を知りたいんだ」
「留学、ですか?応援、はします。が」
 普段の明るさとは打って変わり、どこか闘志の見える瞳で頷く驟雨に、ナナシはあくまでも明るく続ける。
「あぁ、そうだ。モヤかかっていたが、きっと私好きな人が出来たんだ!」
 ナナシの中で鬱屈していた思い。
 その一つが、親からも愛されないこんな自分では、あの人には見合わないのではないかという恐怖だった。
「……好きな、人……ですか?」
(一体どなたなんでしょう? 僕に言うくらいですから、僕……ではないんでしょうが……無性にモヤモヤします、ね)
 そのモヤモヤを世は嫉妬と呼ぶのだが、生憎と自分の事に疎い驟雨はそれに気づくことなくナナシに問うた。
「あぁそうだ。親から愛されてない事にいつまでも皮肉ってばかりではダメだな」
 好きな人に見合う自分になるためにも、もっと多くの事を学び、よりしっかりと更正したいのだと言うナナシ。
「この孤独に勝てたら……自分に正直になろうか」
 つまり、更正が完了したと感じた時が想いを告白する時だということらしい。
 モヤモヤした思いを抱えたままの驟雨をよそに、数日後、ナナシの乗る飛行機は無事に外国へと飛び立って行った。

 白昼夢から覚めたナナシと驟雨。
「……何か不思議な夢を見た気がする」
 首をかしげつつ、そう呟くナナシに驟雨がどことなく恐ろしげに訊ねる。
「あの、本当に好意を持っている方が?」
 驟雨は夢の中の内容を覚えていたようだが、ナナシの方は覚えていなかったようだ。
「……何故そんな事を?」
 突然の驟雨の質問に心底不思議そうに聞き返す。
「いえ、まぁ何となく」
 誤魔化しつつも、驟雨は気づいてしまった。
 ナナシが好意を持っているという相手。
 夢の中では咄嗟には思い出すことができなかったが、驟雨よりも年下のナナシの部下だった男がいたはずだ。
 きっとその男だろう。
 確信と嫉妬を抱く驟雨をよそに、ナナシはポッとほのかに頬を染めて俯きながら告白した。
「まぁそうだな……真実だ。勿論応援してくれるだろう?」
「……そうですか。ええ、応援しますよ」
 夢の中と同様のモヤモヤを押し隠し、作り笑いで頷く驟雨。
 だがその胸の裡は黒い。
(とは言ったものの、こちらの方が有利なはずです。だってウィンクルムですから)
 恋のシーソーゲーム。
 驟雨の思い描く通りに事が運ぶ……ことを、今は祈るしかないようだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月22日
出発日 04月28日 00:00
予定納品日 05月08日

参加者

会議室

  • [13]リオ・クライン

    2015/04/28-00:00 

  • [12]桜倉 歌菜

    2015/04/27-23:58 

  • [11]100000774

    2015/04/27-22:09 

    驟雨:

    有りがちなネタになりましたが、一覧にないネタでプラン完成させました。
    一応現代ものになりますかね。どうなるのでしょう……。

    それでは皆さん、良い一時を。

  • [10]100000774

    2015/04/27-07:46 

    うむ……。
    「3.大夜叉」で考えていたが、どうも後ろが苦戦しているようだ。
    なので、路線変更になると思う事をこの場で発言しておくな。

    後ろは楽しそうだった故考え続けていたようだが……まぁ仕方ない。
    いつまでも思い浮かばない事を考えて、不足なプランを書いてもダメだと思ったようだ。
    被っていたリオ達は存分に楽しんで来ると良いぞ!
    決まり次第また発言出来ればと思う。すまないな。

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/04/27-00:12 

    ドラマのネタを決めましたので、ご報告なのです!
    「花盛りの私達」というドラマで、
    男装した私が、男子校に潜入して男子として生活するってお話です。
    学園ものですねっ

    無いかとは思うのですが、被りも大歓迎です♪

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/04/26-01:20 

  • [7]桜倉 歌菜

    2015/04/26-01:19 

    ご挨拶が遅くなりました!
    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、よろしくお願い申し上げます!

    ドラマの内容にすっごく悩んでます…!
    たぶん、一覧にはないものになりそうです。
    今から皆様のドラマが楽しみで仕方ありません♪

  • [6]100000774

    2015/04/25-21:19 

    驟雨:

    >リオさん
    ああ!返答が遅れてしまい、申し訳ありません!
    被り禁止と言う事でもないですし、僕達の方も大丈夫ですので問題ないと思います。

  • [5]リヴィエラ

    2015/04/25-12:45 

    リヴィエラと申します。どうぞ宜しくお願いします(ぺこり)
    ええと、私達は何をやるかは考え中です。
    どうやら、テンションが低くなってから高くなるらしいです…?

  • [4]リオ・クライン

    2015/04/25-11:51 

    みなさん、久しぶり。
    ナナさん達は初めまして。
    リオ・クラインという。

    私達も3の「大夜叉」を希望しているが・・・。
    かぶってしまっても大丈夫なのだろうか?

  • [3]100000774

    2015/04/25-06:59 

    驟雨:

    おや、皆さん初めましての方ばかりでしょうか?確認不足でしたら申し訳なく。
    僕は神人100000774ことナナさんのパートナー、驟雨と申します。
    以後お見知り置きを。

    僕達は3「大夜叉」でしたかね……女子高生と夜叉……。
    ……少し嫌な予感がしますね。(苦笑)

  • [2]出石 香奈

    2015/04/25-06:16 

  • [1]出石 香奈

    2015/04/25-06:15 

    レムレース:
    初めましての者もいるようだな。マキナのレムレースとパートナーの出石香奈だ。
    よろしく頼む。
    俺達は1「暴れん坊ジェネラル」とやらをやることになりそうだ。
    なんでも香奈が言うには俺にピッタリとか、なんとか…


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