【白昼夢】卒業のふたりのように(京月ささや マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 復活祭の儀式のために聖地・フィヨルネイジャを歩いていたあなたたち。
 愛の結晶「ピーサンカ」を集めることで教会が復活する…と聞いていたあなたたちは
 どこに「ピーサンカ」があるのだろう…とこの不思議な島を歩いていました。
 すると…あなたたちの耳に、遠くから不思議な音が聞こえてきます。

 リーン…ゴーン…リーン…ゴーン…

「教会の鐘の音…?」
 あなたたちは顔を見合わせました。
 けれど、まだ教会は復活していないはず。なのに何故…?
 不思議に思って周囲を見回した途端、
 ゴウッという強い風と共に、あなたたちの周囲に桜の花びらが舞い散りました。
 その突風はとても強く、視界をピンク色で覆い隠してしまったのです…





 ふと目を開けると、あなたは見知らぬ教室にいました。
 さっきいた、フィヨルネイジャとは違います。
 夢…?と思っていましたが、温度も触感もあります。
 なんだろう、と思って体を起こしたあなたはギョッとしました。
 それは…あなたが昔卒業したはずの学校の制服を着ていたから。
 けれど、体も髪型も今現在のままなのです。
 そして、あなたとさきほどまで一緒にいたパートナーの姿は見えません…

 リーン…ゴーン…リーン…ゴーン…

 一体どうなっているのか?と焦るあなた。
 すると、先ほどと同じ、鐘の音が聞こえてきました。
 どうやら、これは教会の鐘ではなく、学校のベルだったようです。
 教室には誰もいないのですが、窓の外を見てみると
 沢山の学生が歩き回っています。そして、学校のそこかしこには、桜の木。
 驚いていると、校内放送が流れてきました。

『卒業生の皆さんは、1時間以内に体育館に集合してください。1時間後、卒業式を行います…』

 卒業式?なんのことだろう?と思っていると…
 ガラッ!と音がして教室のドアが開きました。
 そこには自分と同じ制服を着た見知らぬ人間。目がかすんでカオはぼやけて見えませんが
 どうやら、雰囲気からして同じクラスメイトのようです。

「もう!はやくいかないと卒業式はじまっちゃうよ!
 それにいいの?あの人と卒業後どうするかって約束をしないと
 離れ離れになっちゃうって言ってたのはあなたなんだよ!
 こっちは先に行ってるからね!ああ、遅刻しちゃう!急がないと!」

 早口にまくしたてると、その学生はすぐにいなくなってしまいました。
 どういうことだろう…とあなたが机を見ると、そこには小さな封筒が。
 しかもそれは…あなたが書いた手紙のようです。
 誰かに渡そうとして、渡し忘れてしまったのでしょうか。
 封筒を開けて、あなたはびっくりしました。そこにはあなたの字でこう書かれていたのです…

『○○○様。この学園では本当にお世話になりました。
 あなたとこの学園で過せたこと…とても幸せに思います。
 けれど、卒業したらもう、きっとあえなくなるかもしれないと思って…
 前にもこんな話をしたような気がするけれど、やっぱりちゃんと言わないと、と思って。
 だからこうして手紙を書きました。
 卒業したあとも、ずっと、一緒にいてほしいんです。
 学生だけじゃない、ひとりのパートナーとして…
 卒業式が始まる前に【約束したあの場所】で待っていてください。
 そこで、この手紙を読んで…答えがききたいんです』

 書いた覚えのない、自分の手紙…そして、記憶にない【約束したあの場所】。 
 けれど、卒業式まであと1時間。それまでにその場所に行って手紙を渡さないと
 自分達は離れ離れになってしまうと書いてあります。
 そして…あなたは、直感するのです。
 この手紙を、本当に時間内に渡さないと…離れ離れになってしまうかもしれないと。
 あなたは走り出しました…【約束したあの場所】にいる、その人を探しに。



 一方、そのころ。
 手紙に書いてあった【約束したあの場所】で、あなたのパートナーはじっと待っていました。
 あなたのパートナーの手の中にも、小さな1つの封筒。
 そしてその中には、手紙が入っています。
 けれど、違うことが1つだけありました。
 手紙には【約束したあの場所】ではなく【約束した”この”場所】と書いてあったのです。

 約束の場所で、あなたを待ち続けるあなたのパートナー。
 果たして、卒業式が始まる前に、あなたは、パートナーのもとにたどり着き
 手紙を渡すことができるのでしょうか…?

解説

【解説】
 約束した場所であなたを待つパートナーを探して手紙を交換してください。
 教室で目を覚ましたのは神人・精霊のどちらでも可能。
 年齢は不思議なことに2人とも同じ年齢になっているようです。
 互いの気持ちを確認できると、愛の結晶「ピーサンカ」が手に入ります。

■消費ジェールについて
 卒業証書代として400ジェールを頂戴いたします。

■学園と学園内施設と【約束したあの場所】について
 学園内は、卒業式間近になり、廊下にも他の教室にもたくさんの生徒がいます。
 全力でダッシュしようとしても、ぶつかってしまったり
 人がたくさんいる場所ではなかなかパートナーは見つけにくいかもしれません。  
 それでも、人の少ない場所はいくつかあります。
 もしかするとそこを約束した場所にあなたは選んだかもしれません。
 もしくは、学園内であれば自由に約束した場所を設定して頂いても構いません。
・図書室
  校舎の1Fの一番片隅にある大きな図書室です。沢山の本棚と本があります。
・体育館裏
  卒業式が行われる体育館の裏手。用具入れの近くには大きな桜の木があります。
・食堂
  卒業式が行われるので休業中でガランとしています。
・理科室
  いろんな実験器具が置かれた清潔感あふれる教室。

■卒業式とその後について
 無事に手紙を交換すると、卒業式に出席することができます。
 卒業式に出席すると、新しく以下の場所にゆけるようになります。
 そこで2人で語り合ったり休憩したりするのもいいかもしれません。
・裏門前
  学園の正門とは全く逆方向にある学園の裏手の門のそば。学園理事長の銅像が立っています。
・校舎屋上
  学園の校舎の屋上。金網ごしに、学園に広がる満開の桜を見下ろすことができます。
・学園ベルタワー
  学園の鐘が設置されている高いタワー。鐘のある場所には大きな時計があります。

ゲームマスターより

こんにちは、京月ささやです。
急に現れた、記憶の中の過去の学園の中で
卒業式が始まるまでの1時間の間に、学園のどこかにいるパートナーを探し出して
手紙を交換して互いの思いを確かめ合うエピソードです。

ひとときの学園生活をどうぞ満喫してくださいませ。
年上のお相手も、あなたの年齢にあわせて若くなっていたり…と
いつもと違う日常が楽しめるかもしれません。

どうぞ宜しくお願いいたします!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

エリザベータ(ヴィルヘルム)

  教室

心情
制服とか何年ぶりだ?
と、とにかく手紙渡さねぇと…!

式前
何処にいるだろう、全く想像がつかねぇ
…服飾系に詳しいけど家庭科室は違う気がする
もっと綺麗な物…桜か?体育館裏に行こう
一階まで降りて昇降口から体育館裏に回り込めるか?

見つけたらまずは手紙を渡すぜ
てめぇだけあたしの事ばっか知ってんのは公平じゃねぇ
少しくらいてめぇの好みも教えろよな!

式が始まる前にあっちの手紙も読めたらいいな

式後
なんだ、屋上行くの?

風が気持ちいいな
あ?なんだよ謝りたいことって
(別にあたしの好みが解ってた訳じゃないんだ、ちょっとショック

あたしをそんな奴らと一緒にするとは何も解っちゃいねぇな
これからはあたしの人柄もよく見ろよ?


ルン(テヤン)
  (変なテディ、なんでこんな手紙出したの?
しかも家庭科室で待ってろ、なーんて)

それまで家庭科室から窓の外を眺めていた。
落ち着かず、ふと調理机の引き出しを引く。
目に映った包丁を見た途端、この間の失敗が襲う。
あの場所で自分が見逃したゆえの、大きな失敗。
思い出す内に口が渇き、体が震え、涙が止まらない。
(あたし、人を死なせちゃった……!)

「だってこの手紙!」
テディに渡して、泣き叫ぶ。
「あたしが何の罪悪感もないと思って……きゃあ!」

睨みつけるテディの顔が近かった。
沈黙の空気を破るように、時計が何時か見る。

卒業式の後、校舎の屋上に向かった。

ねぇ、テディ。
来年もまた一緒に桜を見に行こうよ。

約束……してくれる?


エメリ(イヴァン)
  これって高校の時の制服だよね?
何が起こってるのかはよくわからないけど…
もう会えないなんていやだな
急がなくちゃ

どこで待ち合わせしたんだろう…
私だったら…食堂かな、お腹すいても安心だし

あ、いた!…いや、いない?
え、もしかしてイヴァンくん?
印象変わるね…。うん、格好よくてびっくりしちゃった

…あ、そうだ!手紙は読んでくれた?
何だか自分で書いた気がしないけれど
私の気持ちがそのまま載ってる感じなんだよね
ここで終わりなんてやだよ
というよりね?まだ始まってすらいない気もするんだよね…
もうちょっと一緒にいてみない?

手紙交換して卒業式へ

あ、そういえば卒業式といえばあれだよね?
第二ボタン
欲しいなー



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  教室で目を覚ます

セーラー服
高校には通ってないので中学生時
失った村の制服に感傷的な想い
けど、羽純くんを探すのが何より優先

人目は避ける筈だよね
浮かんだのは、桜と羽純くん
きっと凄く綺麗で…

最上階にある音楽室へ向かいます

良く弾いていたピアノ
窓から入る風が気持よくて
春には桜が咲いて

懐かしい校舎
辿り着いた音楽室
窓辺に…羽純、くん?
目線が近い
同い年の羽純くん
どうしよう、ドキドキする

羽純くんに渡したいものがあるの
手紙を交換し、読んだら安堵と同時にドキドキと

「羽純くんとずっと一緒に居たい」

溢れる想いが口に出て
彼の返事に嬉しいと思うと同時に
我儘になってる自分に気付く

「有難う」

失いたくない
今は傍に居れるだけで十分


水瀬 夏織(上山 樹)
  慌てて廊下に出、急いで相手を探そうとするも人波に流されてしまう
結局、学生時代に通い慣れていた事もあってか図書室へ辿り着く

こんな調子で本当に上山さんを見つけられるんでしょうか

人を避けて図書室の奥へ歩を進め、溜息をついて項垂れるも、ゆっくりと視線を上げれば相手の姿が
驚いて近寄ると

上山さん、良かったです。こちらにいらしたんですね

相手の持っていた本に気付き

上山さんも読書がお好きなんですか?

手紙を交換し卒業式へ
その後屋上へ移動

上山さんが見つかって良かったです
私、人混みとかあまり得意でないので…

その事なんですが…
私、上山さんともっと親しくなりたいです
普段の上山さん、何だか近寄り難くて…

悲しげに瞳を伏せる


●ただ、今は互いに傍に

「これ…なんだか、なつかしい…」
 手紙を手に、桜倉歌菜はしみじみと呟いた。
 視線の先には自分が着ている衣服…セーラー服。
 過去に失った村の中学校の制服だ。
 あの頃は何の問題もなく平凡な生活を送っていたはずだったのに…
 歌菜の心を感傷的な感覚が過ぎる。
 しかし、教室に入ってきたクラスメイトらしき女性の言葉は…
(とにかく、羽純くんを探すのが先…)
 きゅ、と拳を握りしめると歌菜は教室の扉をあけた。

 同じ頃、月成羽純も見知らぬ空間に立ち尽くしていた。
 ピアノや楽器が置かれた部屋。おそらくここは…音楽室だ。
 手紙の内容を見て、そっと瞳を閉じる。きっと…歌菜はここにたどり着くはずだ。

 歌菜は考え込んだ。約束した場所はどこなのか…
 きっと、羽純がすきそうな場所を選んだに違いない。
(人目は避ける筈だよね…)
 自分がいた中学校と、校舎から覗いた光景を思い出し考える。
 そして脳裏に浮かんだのは、満開の桜とそこに立つ羽純の姿。
(あの桜も羽純君も…とても綺麗だった…だったらきっと…)
 そうして、歌菜は校舎の最上階にある音楽室に向かった。
 人ごみをかきわけ、階上に行くにつれて人は少なくなる。
 進んでゆく途中、思い描くのは中学生時代の自分。
 よく自分が弾いていたピアノ、そこは静かで窓から入る風も気持ちよかった。
 この学校では春には桜が咲いて…
 音楽室に向かいながら、目に入る景色はなつかしいあの校舎そのもの。
 そしてたどり着いた音楽室のドアを開けると…窓辺には、羽純がいた。
「羽純…くん…?」
 教室の入口の歌菜を見て、羽純は微笑む。
「間に合ったな…来ると思っていた」
 互いに近づく。歌菜にとって同い年の羽純は新鮮で…そして目線も近い。
 心臓が高鳴る歌菜と同じく、羽純も目線の近さが新鮮に感じていた。
 互いにどうしても照れくさい…。
 そして、子供の自分は歌菜にどう映っているのだろうか…。
「あの…羽純くんに渡したいものがあるの」
「俺も、歌菜に渡すものがある」
 互いに手にしていたのは、手紙。中に何が書いてあるのか…交換し、そっと封を開ける。
 2つの手紙は、両方とも互いに一緒にいたいという内容。
 読み終えた歌菜は安堵した。同時に羽純への更に愛おしさがこみ上げる。
「羽純くんとずっと…一緒に居たい」
 胸の中で溢れた思いが口からこぼれる。
「ああ、俺も安心した。離れ離れにならずに済みそうだ」
 羽純も安堵したように息をつき、微笑む。
「…なんだか、我侭、言ってるかな…」
 羽純の返事は嬉しいが、自分の思いは羽純を束縛しているようで。
 不安げな表情歌菜に羽純は安心させるように優しい微笑みを浮かべた。
「そんな事を確認しなくても…俺とお前はパートナーだろう?」
 その言葉は紛れもない真実だ。しかし、ふと羽純は考える。
 共にいたいというこの気持ちは、ウィンクルムとしてなのか、そうではないのか…
 その答えを出す事に、羽純は内心戸惑いをかんじていた。
「有難う…」
「行こう、式が始まる」
 嬉しそうな歌菜の手を取り、2人は卒業式に向かった。
 歌菜は思う。
 ウィンクルムとしてもそうでなくても…今の自分にとっては彼の答えは嬉しかった。
 わかることはたったひとつ。彼を失いたくはない。
 だから、今は傍にいられるだけで充分なのだ。

 式が終わり、2人は学園ベルタワーに向かった。
「この学園はね…大切な思い出の場所なの。このセーラー服も学ランも…凄くなつかしい」
「そうか…俺の学校はブレザーだったからな。学ランはなんだか新鮮だ」
 羽純が答えると、歌菜は照れくさそうに頬を染めた。
「あのね…今日は卒業式だし折角の学ランだから…羽純くんの第二ボタンが…欲しいな、って」
 それは、あまりにも学生らしく、歌菜らしいピュアな願いだった。
 歌菜の純真さに羽純は笑うと第二ボタンを渡す。
 春風に吹かれ、舞い散る花びらがベルタワーの上の2人を祝福するように舞い踊っていた。


●桜よりも綺麗な

「制服とか何年ぶりだ…?」
 目覚めた教室でエリザベータはしみじみしていた。
 が、そんなことをしている場合ではない。
(と、とにかく手紙渡さねぇと…!)
 そう、ヴィルヘルムに手紙を渡さないと2人は離れ離れになってしまう。
(くっそ…何処にいるんだ…全く想像がつかねぇ…)
 手がかりは、自分が普段知っているウィルのこと。
 ウィルは服飾系に詳しい。しかし、家庭科室は違う気がした。
「もっと綺麗な物がある場所…」
 その時、目に入ったのは敷地内に花開くピンク。
(ひょっとして…桜か?)
 桜とウィル。トランスした時も白薔薇の花弁が舞い上がる彼。
 そんな彼と桜はとてもマッチングしているように思える。
 そう考え、エルザは桜が大きく咲いている体育館裏に向かったのだった。

 エルザの考えどおり、ウィルは体育館の裏手にいた。
「学生服なんて久しぶりね…」
 頭上の桜を眺め、ウィルはエルザを待つことにした。
(ワタシはこの手紙の内容…彼女にどう伝えようかしら)
 見上げた先の桜のピンク色を見て思う。
(桜よりあの子の髪色は赤みが強かったわね…)
 そして髪色と共に思い出すのは、明るい笑み。
「…なんであの子の笑顔にグラッときたのかしら…」
 そうしていると、昇降口の方からバタバタと走ってくる足音が聞こえた。
 そして見えたのは、エルザの鮮やかなピンク色の髪。
 彼女は一階まで降りて、昇降口から体育館裏に回り込みここへたどり着いたのだ。
「エルザちゃん、来るような気がしてたわよ。この桜を見てたら」
 たどり着いたエルザにウィルは微笑む。
 エルザは少々不満そうな顔をしつつも
 ポケットから手紙を取り出し、ウィルに渡した。
 ウィルもエルザに手紙を渡し、交換する。
 ひととおり読むと、エルザは少し不満そうにウィルに詰め寄った。
「この桜を見てたらあたしが来るって思ってた、だと…」
 以前からウィルはエルザの好みに敏感に気づいていた。
 ここにウィルがいると思ったのも、自分が可愛いもの好きだという事もあったからだ。
 そんな自分を見透かしておいて、自分の事は何も語らないウィルに
 エルザは少し悔しさを感じる。
「てめぇだけあたしの事ばっか知ってんのは公平じゃねぇ…
 少しくらいてめぇの好みも教えろよな!」
 エルザの言葉にウィルは豆鉄砲を食らったような顔をした。
「ワタシのことを、教えろ?
 …あなたは自分の好み通り振舞って欲しい訳じゃないのね…」
 しかし、口を開く前に卒業式が迫る校内放送が流れた。
 詳細は後から話すことにして、2人は卒業式に向かう。
(ホント、おかしな子だわ…)
 会場に向かいながら、ウィルは心の中でぽつりと呟いた。

 式が終わった後、エルザは屋上にいた。ウィルに呼び出されたのだ。
 そこには一足先に待っていたウィルがいた。
(風がきもちいいな…)
 心地良い風を感じているとウィルがそっと口を開いた。
「エルザちゃん、一個だけ謝りたい事があるのよね」
「あ?なんだよ謝りたいことって」
「ワタシ、実は女の子が苦手なのよ」
 いきなりのウィルの告白に、エルザは目を見開く。
「…昔、女性にうんざりさせられたことがあってね
 女の子に対しては、女の子が普通に好みそうな事に合わせれば満足すると思ってたわ」
 それはウィルの正直な言葉だった。
(別にウィルはあたしの好みが解ってた訳じゃなかったんだ…)
 少しショックを隠せないエルザだったが、ウィルはそんなエルザの表情をまっすぐに見た。
「…でも、あなたは我侭な子達と違うように最近思えるの…
 これからも、仲良くしてくれる?」
 その言葉に、少し傷ついたエルザの心は瞬く間に癒えて行く。
 そう、ウィルは自分と共にいたいと思ったからこそ本当の事を告げてくれたのだ。
 それが嬉しくて、エルザは心底からの笑みを向ける。
「あたしをそんな奴らと一緒にするとは何も解っちゃいねぇな…
 なあウィル、これからはあたしの人柄も、よく見ろよ?」
 春風の吹く学校の屋上で、ウィルが心を掴まれた桜よりもまぶしい
 エルザの笑顔が輝いたのだった。


●春風に隠れた真実

 上山樹は目を開くと少し驚いた様子で周囲を見回した。
 周囲には沢山の本棚。おそらくここは図書室なのだろう。
 窓に映る自分を見てみると、今の自分は制服を着ており、
 そして随分と姿形が若返っている事に気付いて、上山は少し驚いた表情を浮かべた。
 手にした手紙を開いてみて内容を確認する。そこには、『この場所』の文字。
「…ひとまず、この場所で待つか」
 そう判断し、上山は水瀬夏織が到着するまで時間をつぶし始める。
 本棚をめぐるうち、上山の手は、自然と解剖学の本へと伸びていた。

 一方、教室で目覚めた水瀬は必死に上山を探していた。
 しかし、教室を飛び出したものの廊下は人だらけで、
 あっという間に人波に流されてしまった。
 人ごみがただでさえ苦手な水瀬は、人波に翻弄されながら上山を探して歩き回る。
(こんな調子で上山さんを見つけられるんでしょうか…)
 不安にかられうなだれつつも、水瀬はなんとか人波から抜け出し、
 上山がいそうな場所を探して歩いていた。
 …そしてたどり着いたのは図書室だった。
 そこは、水瀬が学生時代によく通い、使い慣れていた場所だ。
 また、ここにもいないかもしれない…項垂れながらそっと扉を開ける
 だが、項垂れた顔を上げたその視線の先には本を読む若い上山の姿があった。
 姿形も自分とさして変わらないほど若返った上山の姿に、水瀬は息を呑む。
「上山さん、良かったです…こちらにいらしたんですね」
 水瀬は驚き、上山に近づいていく。
「ああ、水瀬か」
 上山は本を読みふけっていたが、近づく気配を感じるとそっと本を閉じ、
 本のタイトルを見られないようそっと本棚に戻した。
 上山が本を読んでいたことに水瀬は気付く。
「…上山さんも読書がお好きなんですか?」
「特にそういう訳じゃないんだけどね…少し気になったものだから」
 それより、と言われて水瀬は慌てて手紙を差し出す。
 そして、上山も同じく手紙を渡したのだった。
「行こう、卒業式が始まる」
 手紙には互いの気持ちを伝える内容が書かれていた。
 卒業式に出席している間、水瀬は上山の事を考えていた。
 自分の趣味は読書だが、上山はそうでもないらしい。
 まだ、自分には上山の事は知らない事が多いのだ。

「水瀬、屋上にでも行こうか」
 上山にそういわれて、式が終わると2人は人ごみをさけ、屋上に足を進めた。
 屋上は階下の喧騒から離れて静かで、穏やかに吹く風に身をまかせて、
 ホッと水瀬は息をつく
「上山さんが見つかって良かったです…私、人混みとかあまり得意でないので…」
 恥ずかしそうに水瀬は呟いた。実際、人ごみに流されたときは
 焦るあまり、上山がこのまま見つからないのではとまで思いそうになったのだ。
「はは、水瀬らしいね」
 薄く笑って上山は水瀬を見ると、手紙に視線を移した。
「…でも、変な手紙だね。僕達はウィンクルムというパートナーなのに」
「その事なんですが…」
 上山の言葉に、少しいいにくそうに、そっと水瀬が口を開いた。
「私、上山さんともっと親しくなりたいんです。
 普段の上山さん、何だか…近寄り難くて…」
 それは水瀬の正直な印象の告白だった。
 近寄りがたいという言葉を聞いた途端、上山から表情が一瞬消える。
「…水瀬がそう感じていたなら申し訳ない」
 しかし、そのすぐ後には上山はいつもの穏やかな表情に戻っていた。
「いえ、そんな」と小さく俯く水瀬を、上山はじっと見つめる。
「でも…水瀬。人間には2種類いるんだ」
 それは、殺す人間と殺される側の人間。でも、その真実は上山は口にしない。
「水瀬は、僕とは違う種類の人間なんだよ」
 そして水瀬に言い聞かせる上山の言葉はとても穏やかで…優しい。
(水瀬は、殺される側…だ)
 上山の優しい笑みと、暖かな春の風と。
 静かな屋上で、上山の言葉は水瀬にそっと真実を隠して届けられたのだった。 

 

●そしてまた、次の桜を

「やべぇ、転寝しちまったか!?」
 がば、とテヤンが起きたのは教室。
 しかも校内放送にクラスメイトとおぼしき女性の言葉…
(卒業式だってぇのに、どんだけ春眠暁覚えずでぇい!)
 そうなのだ。卒業式だというのに寝ているというのはかなりオッチョコチョイ。
 しかも…
「っていうか、何なんでぃ。この手紙!」
 そうなのだ。この手紙は書いた覚えはないし、そもそも約束自体した覚えもない。
(ルンの行く所なんて知ったこっちゃねぇし!)
 しかし、テディには理解できていた。ルンを探さないと問題解決にはならないという事に。
 てやんでぃ!と口癖を口にしつつ、テディはルンを探しに教室を飛び出したのだった。

(変なテディ、なんでこんな手紙出したの?…しかも家庭科室で待ってろ、なーんて)
 一方のルンはというと、家庭科室でテディを待っていた。
 この手紙は書いた覚えが無い…だからテディが自分に書いてくれたと思ったのだ。
 ぼんやりと家庭科室から窓の外を眺めていたルンだったが、
 人気の無い教室でただ静かにテディを待つのはどうにも落ち着かない。
 てもちぶさたになり、ルンはふと目に留まった調理机の引き出しをあけた…のだが。
 そこにあったのは…包丁。
「あ…」
 その銀色に光る鋼を見た途端、先日の経験が頭をフラッシュバックする。
 記憶が次々と蘇ってきて、口の中が急速に乾いていく。
 蘇る記憶は…あの場所で自分が見逃したゆえの、大きな失敗。
(あたし、人を死なせちゃった……!)
 その恐ろしい失敗の記憶にルンの記憶は苛まれる。
 静かな家庭科室で、ルンはひとり震え、大粒の涙を流し続けるのだった。

 テディは、そんなルンの惨状も知らずひたすらにルンを探し続けていた。
 好きそうだと思った音楽室も見てみたが誰も居ない。
「ん?するってぇと……」
 ふと思いつき、別の方向へと足早に駆け出す。
 そして走った先に家庭科室の文字が目に飛び込んだ。
 まさかココに…と扉を開くと、そこには、目を真っ赤にしたルンの姿。
「テディ…」
 ルンはか細く呟くと、震える手で手紙を渡す。
 テディも同じように手紙を渡して交換した。
 しかし、次にルンの口から出た言葉は意外なものだった。
「テディ…あたし、ウィンクルムを辞めたい…」
 その言葉を口にした途端、こらえきれなくなったルンは泣き叫びだす。
「だってこの手紙!この内容…あたしが何の罪悪感もないと思って……きゃあ!」
 涙まじりの叫び声は驚きの叫びに変わった。
 取り乱し泣くルンの胸倉をテディが掴み、そのまま平手打ちしたのだ。
「……ってやんでぃ。まだ、始まったばかりだろ!」
 それは単なる暴力ではなかった。睨みつけるテディの顔はとても近い。
「あ…」
 言葉を返せずルンは呆然とテディを見る。
 しかし、その沈黙の空気を破るように、あと少しで式が始まるという校内放送が流れ、
 2人は教室の壁にかかげられた時計を見たのだった。

 式は何のトラブルもなく終わった。
 ルンが式の間、考えていたのはテディの家庭科室での行動の意味。
 そう…まだ、自分たちは始まったばかりなのだ。
 式が終わり、2人は屋上に向かう。
 桜が咲いている校庭を見下ろしながら、ルンはテディを振り返る。
 ルンの瞳は、平手打ちしたテディを責めるそれではなかった。
「ねぇ、テディ。来年もまた一緒に桜を見に行こうよ。約束……してくれる?」
 そのルンの手をそっとテディは取る。そして、ちいさな小指をそっと自分の指に絡めた。
 それは、自分がパートナーである何よりの証。
「男に二言はねぇ。ルーンヌィ・カーミェニのパートナーは、この、テヤン・ディアマンテだからな!」
 さわやかな晴天の中、桜が咲き誇る学校の屋上にテディの力強い宣言が響いたのだった。


●こうして2人は続いてゆく

(急がなくちゃ…もう会えないなんて、いやだな…)
 エメリは急いで教室から出る準備をはじめた。
 目覚めた時は教室、そして…着ていたのは高校の時の制服。
 何が起こっているのかはわからない。
 けれど、イヴァンと離れたくはないのは、確かだった。

 そのころ、食堂にイヴァンはいた。
 ガランとした食堂の中で、随分と変化した自分の姿を眺める。
 外見はおそらく…かなり変化している。おそらくエメリと同じぐらいだろうか。
「19歳といったところですかね…」
 目線もかなり高くなっている。成長したといっていいのかもしれない。
 そして自分は見知らぬ制服を着ているのだ。
「手紙もそうですが一体なにが起きているんでしょうか…」
 戸惑いながらも、手元にあった手紙を見て、イヴァンはエメリがここに来るのを
 じっと待ち続けることにしたのだった。

「どこで待ち合わせしたんだろう…」
 人ごみをかきわけ、校舎の中をエメリはイヴァンを探していた。
 家庭科室、音楽室…校舎裏…待ち合わせできそうなところは沢山ある。
 とにかく、まずは自分だったらどこを待ち合わせに指定するかを考えることにした。
(私だったら…食堂かな、お腹すいても安心だし…)
 もし自分ならそこにする。
 そう考えてエメリは食堂に駆け足で向かった。
 そしてたどり着いてみると…食堂の中には人の姿があった。だが…
「あ、いた!…いや、いない?」
 そこにいたのはイヴァンのようで…けれど、なんだか随分外見が違って。
 思わず似た別人かと思いエメリはくるりと背を向けようとしてしまった。
「ち、ちょっとまって…!」
 慌てたのはイヴァンだ。エメリが駆け込んできた!と思ったら
 ドアを開けた途端にいないもの扱いをされてしまいそうになったのだから。
 背を向けようとしたエメリを慌てて引き止める。
「え、もしかしてイヴァンくん?」
「そうです、僕ですよ」
 目の前にいる成長した制服姿のイヴァンを見てエメリはじーっと見つめた。
「印象変わるね…。うん、格好よくてびっくりしちゃった」
 エメリの素直な言葉はもっともだ。こんなに身長も外見も変化していれば無理もない…
 とは思うんだが、かなりエメリに凝視されてかなり恥ずかしいのも事実で
 イヴァンはその頬が少し熱くなるのを感じた。
「…あ、そうだ!手紙…!」
 そんなイヴァンの気持ちを知ってかしらずか、エメリは手紙を差し出す。
 お互いに交換して、そっと目を通した。
「…何だか自分で書いた気がしないけれど…
 私の気持ちがそのまま載ってる感じなんだよね」
 エメリの言葉をイヴァンはじっと聞いていた。
「ここで終わりなんてやだよ…
 …というよりね?まだ始まってすらいない気もするんだよね…わたしたち」
 その言葉にイヴァンもそうだね、と答えた。
 確かに、彼女と一緒に行動する事は多いものの、流れでそうなったという事は多い。
 エメリに自分は今まで散々振り回され続けた。
 けれど…このままお別れというのは、少し寂しい気もするのだ。
 それに自分は、気付けばすっかり騒がしい日々に慣れてしまったようにも感じる。
「ねえ、イヴァンくん…もうちょっと一緒にいてみない?」
 それは、エメリの素直な願いだった。
 その願いに、イヴァンはそっと静かに頷いたのだった。

 2人は交換した手紙を手にし、卒業式へと向かった。
 その途中、あっ、とエメリが声を上げる。
「そういえば卒業式といえばあれだよね?第二ボタン…欲しいなー」
 じっと見つめてくるエメリの瞳は無邪気そのものだ。
(こういうのって請求するものなんでしょうか…)
 半ば呆れながらイヴァンはボタンを外すと、エメリの掌にのせた。
「わー!!嬉しい!!!」
 本当はあげたい相手に第二ボタンはあげるものなのだが…
 きゃっきゃっと喜ぶ姿は悪意も他意もないに違いない。
 だから、なんだか悪い気はしないのだ。
 こんな関係が続くのも悪くないかもしれない…
 喜ぶエメリを見ながら、卒業式のざわめきのなか、イヴァンはそっと思ったのだった。



END



依頼結果:大成功
MVP
名前:エリザベータ
呼び名:エルザ、エルザちゃん
  名前:ヴィルヘルム
呼び名:ウィル

 

名前:ルン
呼び名:ルン
  名前:テヤン
呼び名:テディ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月16日
出発日 04月22日 00:00
予定納品日 05月02日

参加者

会議室

  • [6]エメリ

    2015/04/21-00:17 

    エメリだよ、よろしくね。
    制服なんて久しぶりだなぁ。
    どんな夢になるんだろう。

  • [5]ルン

    2015/04/20-21:47 

    ルンと、シノビのテヤンです。よろしくお願いします。

    実は制服を着た覚えがなくって……なので、突然の事でビックリしてます。
    そのうち思い出すかもしれないけど、今はテディに会う事だけを考えます。

  • [4]エリザベータ

    2015/04/20-16:33 

    ちーっす、エリザベータだぜ。
    精霊はヴィルヘルムだ、よろしくな。
    制服、制服……うーむ?

  • [3]水瀬 夏織

    2015/04/20-07:37 

    こんにちは。
    水瀬 夏織と申します。
    パートナーはライフビショップの上山さんです。
    どうぞよろしくお願いいたします。

  • [2]桜倉 歌菜

    2015/04/20-00:14 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願いいたします!

    制服って新鮮だな~♪(うきうき
    折角の学園生活、満喫しちゃいますよっ

  • [1]桜倉 歌菜

    2015/04/20-00:13 


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