プロローグ
●大自然の中で
「こんにちは、A.R.O.A.ツアーコンダクターです。本日はツアーの説明会に参加いただきまして、ありがとうございます」
会議室のモニター前で、A.R.O.A.職員の男は柔らかに微笑する。
職員はリモコンを手に取ると、電源ボタンをポチリと押した。ピッ、という発信音の後、モニターが映像を映し出す。
透き通るような青い空の下、タンポポやチューリップなど、春の花が咲き乱れる草原が視界に広がった。
草原の向こうには森と青い山々が見え、山の頂は冬の足跡を残すように白く染められている。
カメラはゆっくりと移動し、草原に佇む煉瓦造りの建物を映した。
青空によく映える赤い屋根の下、木製の看板には『フェザー牧場』と白いペンキで書かれている。
建物の周囲には、牛や馬、羊たちが放牧され、思い思いに茂る牧草を食んでいた。
『自然の中で動物と触れ合おう! フェザー牧場!』
画面中央に文字がフェードインすると同時、ナビゲーションの音声が響く。
『牧場のふれあいエリアでは、牧場の動物たちと遊ぶことができます! 餌をやったり撫でてみたり……』
木で作られた柵の内側、広いスペースに放された馬と、子どもたちが和やかにふれあう光景が流れた。
数秒後、建物の内部だろうか、カントリー風の内装が飛び込んでくる。
『レストランでは、焼き肉を楽しめます。お肉だけでなく、牧場産の作物を使ったサラダ、新鮮な牛乳から作ったデザートも楽しめます! 神人と精霊のお2人様ドリンクバー付きで、500ジェールです!』
美しい木目が印象的なテーブルに、炭火焼き用の網と装置が設置されている。
レストランの中央にはドリンクバーやサラダバー、ケーキバーが並ぶ。
数秒後、レストラン内部から羊の群れの一角に映像が切り替わった。
『ふれあいエリアの隣、羊放牧スペースにいる牧場一の暴れ者、ヴェリー君を手なずけると、お食事が100ジェール引の400ジェールに! 我こそはという猛者をお待ちしております!』
群れの中央で歯を剥き出しにした一匹の羊が、あたかもオーガのように瞳をギラつかせ、カメラを睨み付けていた。
『ヴェリー……そう、そう、いい子に』
『ヴェエエェエエエエエ!!』
ドドドドド!!!
羊が猛スピードで突進し、カメラにぶつかる。
ゴッ! ……バツン。
白いモコモコで画面全体が覆われた瞬間、映像は途切れた。職員はどこか遠い目でモニターの電源を落とす。
「……ヴェリー君は元々気性が荒い子だったようですが、仲間たちが出荷される様子を見続けたことで、さらに人間不信に陥っているとの噂です。まあ、ふれあうかどうかはご自由に」
職員は気を取り直し、手元の資料をテーブルに広げた。
「それと、これは追加の情報ですが、牧場近くの森には妖精がいるとされる泉があります。森の中には案内板もあるので、それを目印に行けば迷わないでしょう」
資料の写真には、色とりどりの花が咲き誇る森と、森に囲まれた小さな泉が写っている。
エメラルドグリーンの泉は水底まで透き通り、魚の姿をはっきりと浮き立たせていた。
ふと写真の中に、他では見たことがない奇妙な植物を見つける。
ハート型にねじ曲がり、曲がった部分が緑から桃色に変色している不思議な草だ。
「ああ、これはコロコロ草という植物です。特殊な成分が含まれているらしく、動物に食べさせると恍惚状態になるらしいです。猫でいう、マタタビのようなものですね」
淡々と説明して……ハッとしたように職員は顔を上げる。
「……間違っても、食べてみようとか思わないでくださいね。人間や精霊が食べた場合の効果はわかりませんが、危ないですから」
念を押すように告げて、職員は資料を閉じた。
説明を聞き終えたあなたたちは、牧場産の食事を堪能するため、もしくは動物たちとふれあい、和やかな時間を過ごすため、もしくは泉や森で心癒されるため、フェザー牧場を訪れることだろう。
暴れ羊のヴェリー君との刺激的なふれあいを楽しむというのも、一つの手だ。
解説
■ツアーの基本料金について
基本料金は30ジェールです。
牧場の入場料としていただきますので、こちらは必ずかかります。
■焼き肉レストラン
牛肉、ラム肉、鳥肉など、牧場産の肉を食べることができます。
焼き肉の他にも、牧場産の食材を使ったサラダやデザートをいただけます。
メニューは現実世界にも存在するような、一般的な食材から作られたものとなります。
料金は500ジェールです。
■ふれあいエリア
牛や馬、羊(ヴェリー君以外)など、様々な動物とふれあうことができます。
叩いたり、執拗に追いかけるなど、動物を怯えさせるような行動はご遠慮ください。
動物用のエサは、10ジェールで購入することができます。
■暴れ羊のヴェリー君
体長120センチほどで、巻き角が生えた雄の羊です。
モコモコの白い毛で覆われています。
ヴェリー君に手から餌をやれた段階で、手なずけ成功となります。
単独で行っても良いですが、皆で力を合わせて手なずける、という手段もアリです。
その場合は、1回成功で力を合わせた全員が成功とみなします。手なずける方法はお任せします。
手なずけ成功時、焼き肉レストランの代金が400ジェールになります。
■森の中の泉
牧場からそう離れていない森の中に存在します。
運が良ければ、兎やリス、もしかしたら妖精にも会えるかもしれません。
森の中の動植物を持ち帰ることはできませんので、ご了承ください。
ゲームマスターより
こんにちは、還源水(かんげんすい)と申します。プロローグをご覧くださり、ありがとうございます。
今回のハピネスエピソードでは、自然や動物とのふれあい、美味しいお食事をお届けいたします。
皆様のご参加を、心よりお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
肉もよさそうなんだがコロコロ草ってのが気になるな… 折角だから行ってみるかな! まずは焼肉レストランで弁当が売ってないか見てみるぜ 弁当が売ってたら買って森に行きたい ピクニック気分だな! 「いやー空気が澄んでて気持ちいいな!」 綺麗な空気を沢山吸っておこう! 泉についたら弁当を買ってたら食べよう! 「よしアイン。ここで弁当食べようぜ!」 それからコロコロ草の採取だ 「何処にあるかなー折角だしどんな物か興味あるな」 そそくさと探すぜ 途中で妖精とか動物に会ったら感動だよな! 肉とか食べるのかな…? あとコロコロ草取ったら…食べてみるぜ! どんな味だか楽しみだな! |
シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
心情 ヴェリー君にチャレンジ! 行動 草原はのどかだし、抜けるような青空。空気は綺麗だし…来て良かったなマギ! ご機嫌で相棒に声を掛け、早速ヴェリー君を探す。 あ、いた。映像より実物の方が目つきヤバイなー! 柵の外から見学 作戦は、とにかく走り回らせて疲れさせて喉が渇いたり、お腹をすかせた所で クローバーを食べさせようという目論み。体力勝負だな! 同じ目的の人がいれば協力 追いかけたり追いかけられたり柵の上に乗ってからかってみたり(怒られそう) して疲れさせる なかなかやるなヴェリー君、この辺で手打ちにしないか? もしヴェリー君がコロコロ草を食べてしまったら、酩酊して転がるのに 巻き込まれるかも、それでもオレは肉を喰う! |
スウィン(イルド)
おっさん達は動物用の餌を買って、ふれあいエリアで動物とふれあいましょ でも、イルドはあんまりこういうのは好きじゃなさそうかね? 普段動物とふれあうなんてしてないから、どうしていいか戸惑ってるみたい? 依頼受けて戦ってる時の方がいきいきしてるわ たまにはこうやってのんびりするのもいいもんよ? ほら、触ってみなさいって(イルドの手をとって羊に触らせる) …ふふ、なんだかんだで気に入ったみたいね 羊もイルドもか~わいい♪怒られるから口には出さないけどね 笑顔になるのはしょうがないわよね!ん、どしたの? おっさんも羊もふもふ!馬なでなで! おっきいわね~(牛を軽くぽんぽん)は~、癒されるわ これで明日からまた色々頑張れるわ |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
焼肉か動物観察か… ランスはどちらに行ってみたい? ◆ 森林浴が気持ち良いと思う ランスの話は興味深くて先を促す 何か話せと言われたら趣味の話をしよう 「俺は旅行が好きだ」 「作品や遺跡から感じる歴史も好きなんだよ」 「カメラもいつもほら…」と小型のデジカメを出す 動物に会えたら静かに撮る 「コロコロ草をヴェリーに食べさせて宥められないかな」 皆と協力して草を食ませたい 相棒と協力して諦めず走る 「お前は賢いな。仲間が食べられるのが解ったのか…」 とヴェリーの首筋を撫でたい 悩みはどうもしてやれないが…(ごめんな 焼肉に行くかはランスの希望による(散策したい気持ちもあるしさ) ★ところでコロコロ草を俺が誤食したら、どうなる?w |
大槻 一輝(ガロン・エンヴィニオ)
へー、仲間たちが出荷される様子を見続けたことで人間不信って。んな頭が良い動物だったんだ。てかそれなら隠すとかそれなりの対処しとけば良かったんじゃ(焼肉じゅー&綺麗に野菜を避け肉食べる ガロンは行かへんの? 安くなるって話だぜ?(もぐもぐ 俺? やる訳ないじゃん。 危険な橋は叩いて壊す、触らぬ神に祟りなし、ってな。 (ケーキうまー 牛の乳搾りとかやってんのかな?馬とかなら乗ってみたいわ。 俺それやってみてーわ。修学旅行とかは時計塔だけでガッカリだったからな コロコロ草? には興味ない訳じゃないけどな。 ばっかお前、妖精とか人間に効くかもしれないマタタビとかそんなのが許されるのは漫画の中だけだっつの! |
●レストランにて、昼
タブロスから馬車で数時間。ちょうどお昼前に到着したそこは、清涼な空気に満ちていた。透き通るような青空、穏やかな風に葉を揺らす草原が、ウィンクルムたちの前に広がっている。
動物たちがくつろぐ草原の中には、赤い屋根の大きな家が佇んでいた。焼き肉レストランがある建物だ。
「レストランって弁当売ってたりするのかな……アイン、一緒に探しに行かないか?」
高原晃司はレストランを見据えながら、アイン=ストレイフに問いかける。アインはとくに渋ることなく頷いた。
「このような施設ですし、もしかしたらあるかもしれませんね」
「そうと決まれば、行ってみようぜ!」
晃司とアインは青空の下、焼き肉レストランへの道を歩き出す。
レストランでは、ひと足早く入店していた大槻一輝とガロン・エンヴィニオが食事を堪能していた。
「仲間が出荷される様子を見続けたことで人間不信って。んな頭が良い動物だったんだな」
「動物は殺される前に、感覚でわかる個体がいるというが……そういった生態を、甘く見ていたのかもしれないね」
一輝と話しつつ、ガロンは一輝の皿に肉と野菜をバランス良く入れていく。
「隠すとか、それなりの対処しとけば良かったのにな」
一輝は野菜を綺麗に避けて、肉だけを口に入れる。避けられた野菜が皿の隅で寂しそうにかたまっていた。
「カズキ、野菜は食べないのかい?」
「いいんだよ、ここは肉がメインなんだから」
ガロンがそれとなく問うと、一輝はさらりと返す。即座に答えが出てくるとは、相変わらず頭の回転が速い。そんなことを思いつつガロンは席を立つと、ケーキを皿に入れて持ってくる。
「そういえば、ガロンはヴェリーんとこ行かへんの? 安くなるって話だぜ?」
一輝の問いに、ガロンは窓の外へと目を向けた。隔離されたエリアの中心に、昼寝中のヴェリーの姿が見える。
「俺は見学に徹するよ。カズキこそ、羊の手懐けには行かないのか?」
「俺? やる訳ないじゃん」
迷いなく答える一輝に、ガロンはどこか納得したように返した。
「まあ、余裕で払える額だからそんなに気にする事は無いのかもしれないけどな」
「危険な橋は叩いて壊す、触らぬ神に祟りなし、ってな」
ショートケーキの苺をフォークに突き刺し、ぱくりと食べる。ケーキを堪能する一輝に、ガロンが思案するように顎に手を当てる。
「危険を緩和する知恵の一つ……という意味では、コロコロ草とやらを使うのも手なのかもしれないが」
「コロコロ草な……興味ないわけじゃないけど」
「食べてみるかね? 動物と同じ反応がでるかもしれないが」
僅かに口元を上げ、どこか悪戯っぽく笑うガロンに、一輝は思わずフォークを落としそうになる。
「ばっかお前、妖精とか人間に効くかもしれないマタタビとかそんなのが許されるのは漫画の中だけだっつの! ……まあ、危ないし食べないからな」
「……そう言うと思ったよ」
何か思わしげに間を置きつつも、楽しそうに微笑むガロンに、一輝は軽く息を付いた。
「ったく……。そういやここ、牛の乳搾りとかやってんのかな? 馬とかも乗ってみたいし」
「フム……それならば後でできるかどうかは聞いておくよ」
「任せた。修学旅行とかは、時計塔だけでガッカリだったからな」
一輝の言葉にガロンは頷いて……再び、窓の向こうへと目を向けた。
「どうやら、挑戦者が動き出すようだね」
●暴れ羊とふれあい動物
シルヴァ・アルネヴは、柵の外からお昼寝中のヴェリーを観察していた。
覚悟を決め、柵の内側へと足を踏み入れる。スイッチが入ったように、ヴェリーの目がカッと見開いた。
「映像より実物の方が目つきヤバいなー! マギ、手分けして……」
相棒のマギウス・マグスへと振り返って……そこに誰もいないことに気付く。
「あれっ?」
さっきまで、「来て良かったなマギ!」なんてご機嫌に声をかけながら、会話していたはずだ。なのに、気付いたらいないとはどういうことだ。
「連れの子なら、少し前に森に行ったわよ~」
隣のエリアで他の動物たちとふれあうスウィンが、ひらひらと手を振った。
「な、なんだって!」
「ヴェエエエ……」
ヴェリーが地面を片方の前足で掻いている。一人でやるしかない。ヴェリーが走り出すと同時、シルヴァも地面を蹴った。
「頑張るわねえ」
ふれあいエリアからシルヴァを眺めつつ、スウィンは売店で購入した動物の餌を地面に撒く。餌につられ、動物たちがぞろぞろと近寄ってくる。
餌を食べる羊の背を撫でながら、少し離れた場所にいるイルドに声をかけた。
「イルドもこっち来たら? かわいいわよ~」
「……動物触ってる暇あったら、依頼の一つでも受けたらいいんじゃねーか?」
イルドは困惑したように眉を寄せながら渋る。
「たまにはこうやってのんびりするのもいいもんよ?」
顔を寄せてきた馬に頬ずりしつつ、スウィンはイルドを手招きした。イルドは難しい表情のまま、渋々歩み寄る。
「……俺が動物に好かれるとは思えねーぞ」
チラ、とイルドは動物たちに視線を向けた。動物たちは興味津々にイルドを見つめ、鼻を近づける。どうやら遊んで欲しいようだ。
「大丈夫よ。ほら、イルドも触ってみなさいって」
スウィンはイルドの手をそっと掴み、羊の背へと導いた。
「あ、おい……」
触れられた手に、イルドは僅かに動揺する。しかしその直後、手のひらに感じた柔らかな感触にハッとする。
(も……もふもふ、だ……もふもふ、もふもふもふ……)
「……気に入った?」
イルドは我に返り、目をぱちくりさせながらスウィンを見る。羊の背を撫で続けるイルドに、スウィンはにこにこと満足そうな笑みを浮かべていた。
人懐こい笑顔に、胸の奥が温かくなる。
「まあ、たまには悪くはないな。……楽し、そうだし」
「ん? どしたの?」
ボソボソと呟くように付け足すイルドに、スウィンは首を傾げる。
「なん! でも! ない!」
イルドは首を横に振り、もふっと羊の毛に顔を埋めた。なんとなく照れくさいような、そんな感覚をイルドは感じた。
「速い、速いぞヴェリー君! 負けてたまるかああ!!」
スウィンとイルドがくつろぐ中、シルヴァの覇気に満ちた声とヴェリーの突進音が、青い天に響き渡る……。
●森の泉にて
森の中を散策していたマギウスは、ふと立ち止まりうしろを振り返った。森の木々が、風にさわさわと音を立てている。
シルヴァの声が聞こえたような気がするが、きっと気のせいだ。
「……何をやってるんでしょうか、僕は」
自分の行動に呆れつつも、泉を目指す。泉には予想よりも早く到着した。透き通る水面を覗きこむと、光が反射してキラキラと輝いている。
ふと、肩に感触を感じて目を向ける。いつの間にやら、リスが肩の上で木の実を食んでいた。
「……僕は木じゃないですよ」
マギウスは表情を和らげ、リスの頭を撫でる。もう少し散策してから帰ろうと思いつつ、リスを肩に乗せたまま泉をあとにした。
マギウスと入れ違いに、アキ・セイジとヴェルトール・ランスが茂みの間から姿を現す。
「森の中は気持ちいいな」
アキは泉の傍まで歩み寄ると、森の清涼な空気を吸い込んだ。
「セイジ、何か話せよ。空気を味わってるだけってのも暇だ」
ランスは泉を眺めながら、退屈そうに口を開いた。
「そうだな……趣味の話とか?」
「趣味? 聞きたい!」
興味を示したランスに、アキは話し始める。
「俺は旅行が好きだ。遺跡観光とか、博物館に行ってもいいな」
「へえ。真面目な感じの趣味だな」
「作品や遺跡から感じる歴史も好きなんだよ。旅行先では記録や想い出を残すために、必ず写真も撮ってる。今も、ほら……」
小型のデジタルカメラを取り出し、ランスに見せてやる。ちょうどそのとき、ガサリと草が揺れる音がした。
「おっ、セイジ。リスだぜ」
泉の縁で、リスが水面に鼻を近づけている。次の瞬間、リスは水の中に飛び込み、対岸へと泳ぎ始めた。
「リスって泳ぐんだな」
「泳ぎが得意な種類のリスもいるんだ」
興味深げに呟くアキに、ランスが答える。
「なるほど……よし、と」
アキはカメラのピントを合わせると、泉を泳ぐリスを写真に収めた。
「そろそろ戻るか?」
ランスの問いに、アキは周囲をぐるりと見渡した。木陰にコロコロ草が群生しているのを発見する。
「コロコロ草を採取していこう。これをヴェリーに食べさせて、宥められないかな」
「最初は手からじゃなくて、投げて与えた方がいいかもな」
「その作戦で行ってみようか」
アキはコロコロ草を何本も抜いて、ハンカチで包み胸ポケットに入れた。
「おーい!」
ふと声がして顔を上げると、左手の対岸で晃司が手を振っていた。隣には連れのアインもおり、どうやら二人も森林浴を楽しみに来たようだ。
「君らも泉を見に?」
「ここで弁当食べようと思ってさ!」
アキが問うと、晃司は明るく笑いながら頷く。
「なるほど。お昼時だもんな。俺たちも戻るか……ランス、ヴェリーの所に行って、そのあとにレストランでも行くか?」
「そうだな。腹も減ったし、食べるなら少しでも安くしたいしな」
幾度か言葉を交わしたあと、アキたちは泉から立ち去った。
晃司はアインからビニールシートを受け取り、泉の傍に広げる。
「よしアイン。ここで弁当食べようぜ!」
晃司の言葉にアインは預かっていた弁当を取り出し、シートの上に広げた。元々レストランのメニューにはなかったが、レストラン側が料理を容器に入れてくれたのだ。
お値段は二つで200ジェールである。
マイナスイオンが漂う中、二人は料理を思いきり味わう。
「肉の味が口に広がる……! 空気は澄んでて気持ちいいし、弁当もうまいし、最高だな!」
口内で柔らかに広がる牛肉の食感に、晃司は舌鼓をうつ。
「ふむ、ちょうどいい味ですね」
一口食べて、アインは感心したように呟いた。食べ終わったところで、二人は当初の目的だったコロコロ草を探し始める。
「どこにあるのかなー、せっかくだし、どんな物か興味あるな」
「この草ですよね?」
草むらを掻き分けながら探す晃司にアインが見せる。
「それだ! それ、ちょっと貸してくれよ。近くで見たい」
「どうぞ」
あっさりと差し出されるそれを受け取り、晃司はアインを見上げた。
「アイン、俺にもし何かあったら、介護してくれな」
「は……」
アインが返事をしかけ、言葉を止めた直後。晃司はぱくりとコロコロ草を噛みちぎった。ごくり、と一口飲みこんだ数秒後。
「あれ、なんか、体が……」
体が心地良い熱を帯び始めた。思考がぼやけ、目の前の景色もぼんやりと揺らぐ。
「晃司」
アインの冷静な声を最後に、晃司は強制的に意識を手放したのだった。
●ヴェリーとの決着
皆が牧場に着いてから早数時間。
ヴェリーの柵では、未だシルヴァが戦いを繰り広げていた。
「その程度か? オレを捕まえてみろよ!」
「ヴェエエエ!!!」
柵の上に乗って挑発すると、ヴェリーが猛スピードで突進する。メキィ! と音を立てながら柵が折れ曲がった。
「なかなか、やるなヴェリー君……、この辺で、手打ちにしないか?」
突進を回避し、肩で息をしつつ話しかける。ヴェリーはフンフンと鼻で息をしながら、シルヴァを睨んでいた。お互い、体力を消耗しつつあるようだ。
「大丈夫か!」
ふいに、背後から声が響いた。見れば、アキとランスが駆けてくるではないか。アキはコロコロ草を取り出すと、ヴェリーに向かって数本投げた。
走り続けたことで腹が空いたのか。ヴェリーは投げられた草を見た瞬間、即座に食い付く。もしゃりと噛み砕き、ごくりと飲み込んだ。
ほどなくして、ヴェリーの瞳から凶悪な光が消える。
「や、やった……」
シルヴァが荒い息のまま、嬉しそうに口元を緩ませた。
アキはホッとしたように息を付いて、ヴェリーに近付く。首筋に手を伸ばすと、優しく撫でてやった。
「お前は賢いな。仲間が食べられるのが解ったのか……こんな方法で手なずけるのもアレかもしれないが、許してくれな」
「ヴェエ……」
ヴェリーは気持ち良さそうに鳴いた。アキが手に持ったコロコロ草を食めば、ゴロンと転がる。転がる体に巻き込まれ、シルヴァの視界が白いモコモコで覆われた。
「おっと、よしよし……気持ちいいか、よーしよしよし」
「シルヴァ、これは一体……」
ふとシルヴァのすぐ傍で、マギウスの声がした。森から帰って来たのだろう。見上げると、マギウスが少々驚いたような顔をしている。
「お、マギ、おかえり。いやあ、ヴェリー君が可愛くてさ……」
戯れる姿に、マギウスの脳裏にある人物の名が思い浮かぶ。
「聞いた事がある……ムツ=ゴ老師という、伝説のビーストマスターの話……どんな凶暴な動物でも手なずけてしまうという……あ、これお土産です」
シルヴァの姿を老師と重ねたところで、コロコロ草の存在を思い出し、シルヴァに手渡した。森から抜ける途中に、一つ摘んだのだ。
「へえ、こういう形してんだ」
シルヴァは奇妙な形状を、まじまじと見つめる。と、ヴェリーの口が迫り、草をむしり取っていった。
「うおっ草が! ……あ、これ手なずけ成功じゃね」
「! せっかく持ってきたのに……」
残念そうにマギウスが呟く。シルヴァは立ち上がると、マギウスの肩をぽんと叩いた。
「今度、機会があったら一緒に取りに行こうぜ。やっぱ二人の方が楽しいしな!」
「二人で……」
「そ。また黙って行くんじゃないぞ? まあ、一人になりたいときは別だけどさ」
シルヴァの素直で飾らない言葉に、マギウスは僅かに口元を緩ませるのだった。
「四人とも、おめでとさん」
相変わらずたくさんの動物と触れ合いながら、スウィンが祝辞の言葉を投げる。彼とイルドの周りには動物たちが群がり、まるでビーストマスターのようである。
食後にふれあいエリアで乗馬体験をしていた一輝も、馬の上からヴェリーと戯れる面々を眺める。
「へー、うまくいったんだ」
「色々と大変だったようだがね」
一輝の乗馬体験を見守りつつ、ガロンが言葉を返す。一輝は動物とふれあい賑わう様子を遠目に眺めながら、静かに息を吐いた。
「……さて、と。そろそろ降りるかな、っと。牛の乳搾りしにいこうぜ」
一輝は係員に馬を止めてもらい、馬から降りる。ガロンがそれとなく、一輝の体を支えた。
「ああ、ありがと」
一輝は複雑そうな表情を浮かべた後、小さく礼を言ってそそくさと歩き始める。その隣に、ガロンが肩を並べた。
「カズキ」
「んー? なんだ?」
一輝が横目でチラリと見れば、ガロンの穏やかな笑みが映る。
「残りの時間、楽しもうじゃないか」
柔らかに告げられた言葉。一輝は瞬いたあと、ふっと苦笑じみた笑みを零した。
「……そうだな。時間は無駄にしたくないし」
二人はどこか軽い足取りで、ふれあい広場から立ち去るのだった。
「乗馬もいいわねぇ」
一輝が馬に乗っているのを見ていたのだろう。スウィンが表情を輝かせつつ馬を見ていると、間に牛がのっそりと入りこんできた。
「あら、ヤキモチ妬いてるのかしら? かわいいわね~」
「……牛もヤキモチ妬くのか?」
「牛もけっこう頭が良いのよ。ん~おっきいわね~」
牛の背中を軽くポンポンと叩きながら、スウィンはあやすように牛に話しかける。
牛はブモーと鳴き声を上げながら、何を思ったのか、イルドの服の裾をはむはむと噛み始めた。
「おい、ちょ、はなせ!」
イルドが服を引っ張るが、離してくれる気配すらない。
「気に入られたんじゃない? もう完全にお友達ね♪」
「だからって服は……」
慌てふためくイルドに追い打ちをかけるように、他の動物たちも、わらわらとイルドに群がる。完全に仲間であると思われているようだった。
動物たちに文字通りもみくちゃにされるイルドを眺めつつ、スウィンはへらりとゆるい笑みを浮かべた。
「は~、癒されるわ……これで明日から、また頑張れるわ」
動物たちも可愛いし、動物たちと戯れるイルドも可愛い。スウィンは心の内でそう思いつつも、口に出すことはしない。
自然と零れる幸せそうな笑顔だけが、それを物語っていた。
●レストランにて、夕方
西に日が傾き、空が青から茜色に染まる頃。柔らかいソファの上で、晃司は目を覚ました。起き上がり周囲を見回すと、向かいのソファにアインが腰かけている。
「気が付きましたか?」
「アイン……あれ、ここは」
「レストランの中です」
店から暇つぶし用に借りたのだろう、アインは本から顔を上げた。
「あー……ここまで抱えてきてくれたのか。ありがとな」
晃司は申し訳なさそうに、頭を掻きながら礼を言う。アインはいつもの落ち着いた表情を崩さぬまま、晃司に問いかけた。
「どこか変なところはありませんか?」
アインの声に従うように、己の体の状態を確かめる。
「んー、なんというか、よく寝たって感じだ。とくに変なところはないな」
おそらく、即効性の催眠作用がコロコロ草にあったのだ。念のため、病院で検査でも受けた方がいいだろうか……そんなことを考えていると、アインがソファから立ち上がった。
近付いて、座る晃司の額に手を触れさせた。意外に温かい手のひらが、少し心地良い。
「ふむ、熱はありませんね」
「だよな? やっぱり寝てただけっぽいな……」
考え込むように腕を組んでいると、僅かに棘を含ませた声音が頭上から降ってくる。
「晃司、あのようなことをする際は、もっと安全な場所で試してください」
「……やるなとは言わないんだな」
忠告するような言葉。しかし否定形ではないそれに、晃司はアインを見上げ、首を傾げる。
「人生たるもの、ちょっとした冒険も大事ですからね」
アインは本をぱたりと閉じて、僅かに口元を上げる。どこか、意味深げな微笑だった。
一方、晃司やアインが休憩しているフロアとは別のフロアで、シルヴァとマギウスがテーブルを囲み、焼き肉を味わっている。
「おおっ、ラム肉! 味付けも食感も最高!」
脂がのった柔らかな肉を頬張れば、タレの甘みと肉の旨みが舌にじわりと広がる。大喜びのシルヴァを横目に、マギウスもどこか機嫌良さそうに箸で肉をつついた。
アキもランスと共に見晴らしのいい窓際の席に腰かけて、食事を楽しむ。
ランスがうっかり水をこぼしてしまい、ハンカチを取りだして軽く拭いてやった。
「この店は肉も野菜も美味しいな」
野菜スープを口にしながらアキは感心したように言って……突然、スプーンを持ったまま動きを止めた。
「? どうした?」
ランスが肉を焼く手を止めて、不思議そうにアキを見る。
アキは突如、奇妙な感覚に襲われていた。夢の中にいるような、ぼんやりとした感覚だ。以前赴いた任務の情景が、視界に飛び込んでくる。
頭で考えるより先に、口が動いていた。
「前の依頼で、お前が少年を助けたときのこと……感謝してる。だけど、悔しかった」
「セイジ?」
「お前はすぐに動けたのに、俺はそれに頼るばかりで……男として、負けたなって……」
あのときの想いが一気に押し寄せて、心に留めることに苦しさを覚える。
「…………」
ランスは驚きに目を丸くしたまま、アキを見つめている。
苦しい。もっと、聞いて欲しい。
「気取られたくなくて黙ってたけど、俺、ランスの相棒として誇れるような存在に……」
捲し立てるように続けて、そこで突然パチンと音がした。実際にしたわけではない。頭の奥で、風船が割れるような音がした。
「……、……今、俺はなんて言った?」
急速に視界がクリアになる。夢のような感覚が消え失せた。
「なあ、なんて言ったんだ!? 今! 勝手に口が滑ったような気がしたんだが!?」
顔面蒼白で身を乗り出しながら、ふと視界の隅に桃色の物体を捉える。
野菜スープの上……きっとハンカチから、何かの拍子にちぎれた部分が落ちたのだろう。桃色の草が、ぷかぷかと浮かんでいた。
「……大丈夫だ、セイジ。前回負けても、次があるだろ?」
爽やかな笑みを浮かべ、まだまだこれからだぜと告げるランス。アキは頭を抱え、テーブルに突っ伏すのだった。
こうして、各々の時間を過ごしながら、フェザー牧場での一日は幕を閉じるのであった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 還源水 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月15日 |
出発日 | 03月23日 00:00 |
予定納品日 | 04月02日 |
参加者
会議室
-
2014/03/22-23:08
っと折角なんで俺もちょっと変えて森でピクニックにいってくるぜ
手懐ける人は頑張ってくれ! -
2014/03/22-22:33
>スウィンさん
了解ー。
もふもふも楽しそうだし、楽しんできてな。 -
2014/03/22-00:27
あ~…悪い。プラン書いてたんだけど
「仲間が出荷される様子を見続けて人間不信」ってとこでしんみりしちゃって
ハピネスから遠くなりそうだったわ…。
予定を変更して、おっさん達はふれあいエリアで
ヴェリー君以外の動物をひたすらもふる事にするわ。悪いねぇ。
ヴェリー君に挑戦する人は頑張って!応援してるわ! -
2014/03/21-23:52
噛んでる噛んでる……
>スウィンさん
の間違いだし!(反省) -
2014/03/21-23:50
おっ
ちょっと出掛ける準備してる間に、賑やかになってた!
>スィンさん
>晃司
二人ともヴェリーに挑戦するみたいだし、もしいい感じに
協力出来そうだったら、よろしくな~。
こっちには最初に書いた通り、協力しよう!という人がいたら
協力するって書いておくつもりだけど、数人で作戦練りたいって
感じのプランがあるなら、乗るつもりもあるから
明日の出発1時間前くらいまでなら、対応できると思う。
ちなみに草の事はオレも気になるけど
持って帰れないんだよなぁ、残念。 -
2014/03/21-02:54
晃司だよろしくな!
折角なんでヴェリーに挑戦してみようかと思ってるが
肉も上手そうだよな…
コロコロ草もなんか面白そうだよな! -
2014/03/21-00:08
スウィンよ、よろしく~。
おっさん達もヴェリー君に挑戦するつもり。500ジェールはたっけぇわ。
協力するって人はよろしくぅ♪
コロコロ草はすご~く気になるけど、残念な結果になりたくないからやめとくわ…。 -
2014/03/19-01:07
そうだな。
暴れ羊にいくとしたら、自然とその場でタッグかな。
ちなみにこの草、人間や精霊が食べたらどうなるか
一寸やってみたいなんて思ってないぞ( -
2014/03/18-21:50
シルヴァだ、よろしくな!
そうだなー
オレはヴェリー君にチャレンジするつもりだけど
色々遊べる所が多そうなハピネスだし
がっちり協力体勢じゃなくても問題なさそうだと思う。
一応、ヴェリー君の所に行く人で協力しよう!という人がいたら
その場でタッグを組むのOKという感じの一文入れておくので
それぞれの、プランの流れに任せてみてもいいかなと思ってる。 -
2014/03/18-13:52
セイジだ。よろしく。
といっても、協力して何かする要素があるとすれば暴れ羊くらいか…。
俺達が羊に関わるかどうかはまだ未定なんだが、チームを組んで何か対処する心積もりはあるか?
ハピネスエピソードでもあるし、PC単位でバラでやっても問題無いとも思うんだよな。