【白昼夢】天使 or 悪魔?(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「もう独りはいや……いやなの!私は、この橋を渡ります……!」
「どうして!?独りなんて言わないで……私たちがいるじゃない!」
「そうよ!いつだって貴方は大事な友よ?!なのにどうして橋を渡るなんて……!」

 光のような影のような不思議な揺らめきを見せる橋の前。
今まさに、一人の天使がその小さな橋に足を踏み出そうとするのを、後から追いかけてきた天使数人が必死に止める。
後ろを振り返った一人の天使。
その表情は寂しさ纏う美しい笑顔。

「私の心を満たしてくれるのは……あの人だけなの。本当に、ごめんなさい」

 最後に、大好きよ、と言の葉にした後は二度と振り返らずにその天使は橋の上を歩き進めた。
その橋の向こう側には、悪魔の羽根を背負う男性の姿。
天使は微笑む。友へ向けた笑顔と違う顔で。
橋の半分を過ぎた頃、変化は起きた。
橋を歩く天使の背、純白の翼が花びらが散るように欠けていく。
散った白の下に現れたのは、漆黒の翼。
橋の向こうの悪魔は、切なそうにそれを見つめ耐え切れず声を放つ。

「俺が……そちらへ行けば済んだものを……なんて馬鹿なことを……っ」

 あと数歩で橋の終点。
ずっと、今にも橋を渡ろうとしていた悪魔の両脇を抑えていた友の悪魔たちは彼を離す。
待ちきれず手を伸ばした元天使のその手を取り、悪魔は思い切り抱きしめた。
悪魔の頬から流れた涙に、元天使は指で触れて同じく涙を流す。笑顔の涙を。

「私は何も後悔していないわ……これでずっと、貴方と一緒にいられるのだもの」

 友の悪魔たちは、新たな悪魔の誕生を、そして二人の未来を祝福した。
橋の向こうで、天使たちは静かに泣いた後その姿を花の楽園へと消していった。


* * * * * * * 


「……変な夢だったわね」
「全くだ」

 フィヨルネイジャから戻ってきたらしい、とあるウィンクルム。
そんな関係じゃないのに!なんてぶつぶつ言いながら本部エントランスを歩いていると、ミーハーな受付職員に掴まって
洗いざらい話す羽目になっていた。

「私が自分の仲間を捨ててアンタを選ぶなんてありえないわ。むしろアンタが来なさいよ」
「おまえな……」

 それなりに絆の深いと知れてるこのウィンクルムの、そんなやり取りをニヤニヤしながら受付職員は見守っていたとか。

解説

●生まれ変わるは天使、または悪魔。種族を捨て橋を渡るのはどちら?

 プロローグは一例です☆
神人、精霊、どちらかが天使・悪魔となって互いに恋焦がれる仲(らしい)という
ピーサンカを集める為やってきた天空島・フィヨルネイジャにて、件の白昼夢発生。

●種族を捨て向こう側の種族に生まれ変わるという伝説の橋の前。どちらかが渡ろうとしている所からスタート!

基本は天使=神人、悪魔=精霊、としますが逆が良ければプランにご記載下さい(『天』『悪』などで)
どちらかが天使・悪魔、は決定です(※両方が天使、などはNGとします)

橋を渡ろうとする際、友の天使や悪魔が止めます。
(各々個々で描写予定ですが、友天使・友悪魔役で他参加者様が友情出演予定☆)
※全ての参加者様の描写に友情出演となるわけではありませんので、ご了承下さい。

友の制止を振り払って橋を渡りますか?
友へ、橋の向こうの焦がれるヒトへ、どんな想いを抱いていますか?
どちらが渡る渡らないで、橋の両端で会話も可能。
(橋の上は霧がかっていて橋両端からは相手の姿はほぼ見えず。声だけ聞こえます)
最終的に友をとって、渡らないという結論もOK!(笑)
天使・悪魔・橋を渡る渡らないのやり取り、の基本があれば『恋焦がれ』以外のウィンクルム本来のらしさあふれる設定も歓迎!

天使と悪魔の、それぞれの小さな物語を紡いで下さい☆

●白昼夢から覚めた後。
記憶バッチリ。
(まだフィヨルネイジャに居ても、本部にワープしてきてもどちらでも可)
今体験したことに、2人でどんな感想が飛び出るでしょうか。
慣れない設定でドキドキが静まらないかもしれません。
プロローグのように、そっちが渡れよ!と喧嘩になったりも?

お互いの距離が縮まる、ささやかなきっかけになるといいですね☆

●そういえば天使・悪魔として橋に行く前、友たちと飲食してたような…あれ!本当にお金減ってる!?
 一組【300Jr】消費。

ゲームマスターより

この脳みそにはこんな妄想ワールドネタがいつでも満開!
いつも本当にお世話になっております。頭がお花畑なGM、蒼色クレヨンでございます!

べ、別に友情出演が書きたくて練ったわけじゃないですよっ?

会議室で「こういう設定で行く」など他の方に話したりして
「じゃあもしもそっちに出演の時は、全力で殴ってでも俺はお前を止める!!」などお話されて大いに結構です!
採用の可能性は高いと思われますっ(期待)←

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ひろの(ルシエロ=ザガン)

 

私に天使とか、無理だよ。
(天使側は眩しくて渡る勇気が出ない
ルシェはきれいだから。天使のままの方が、きっと良い。
なのに。

止め、なきゃ。
「ルシェ、駄目だよ」(首を振る
私の所為で、悪魔になんて駄目なんだよ。

一緒じゃなくても、大丈夫だから。(強がり
でも、ルシェが変わったら嫌だよ。

(目が合い、逸らせない
なんで「白い方が似合ってた、のに」
ルシェ、全然変わらない。(翼だけの変化に安堵

あったかいのも、変わらない。
(羞恥で、顔を隠そうと抱きつき返す



「今の……?」
(見上げ、首を振る
でも、「ルシェは、どっちでもきれい」だと思う。

(なんで、かな。夢だと胸がきゅってした)
(やっぱりあったかい)(ルシェの服をそっと掴む



アマリリス(ヴェルナー)
 


この橋を渡ればずっと一緒…

踏み出そうか悶々としている内に橋向こうから声
ちょっとそこまでな雰囲気の気安さで渡ろうとしてきたので思わず制止
本当にちゃんと橋を渡る事がどういう事なのか考えているのか気になる

止まって下さいませんか
貴方も天使なら悪魔に騙されているとかそういう考えはありませんの?
直接顔を見て話たくて橋を進む
真っ直ぐ目を見て言われた言葉に顔が熱くなり、すぐ言葉が出てこない

だからちょっと待ちなさい!
迷惑ではありませんわ
…貴方がこなければわたくしが行きましたもの
言ってて恥ずかしくなり足早に踵を返す

現実
開口一番がそれですの?
…それを真顔で言える貴方ですもの
配役は間違っていませんわ



紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  悪魔側
咲姫は、今まであたしの為に何でもかんでも捨ててきたから
今だって、あたしの為に友達も種族も捨てるくらい簡単だし
これからも、あたしが望まなきゃあたしを捨てることだって簡単なんだ

…ふざけんじゃないわよ
欲しがりなさいよ、欲張りなさいよ
いつまでもあんたの妹じゃないのよ
対等にさせろ!隣に並ばせろ!
つべこべ言わず、黙ってそっちで待ってなさいよ、バカ咲姫!

渡り切ったら勢いよくグーパン
友達は大事よ。でも、あたしにだって覚悟はある
最高の美女になってあんたを超えるの
あたしの覚悟を折るなんて、あんたでも許さない
腰抜かすくらい綺麗になって見せるわよ。覚悟なさい

友情出演時は言葉よりも少し強めに引く手で制止を訴える



ユラ(ルーク)
  アドリブ歓迎

いるよー
(声が聞こえて、ちょっと安心)

…だめだよ!
君は一度大切なものを失くしたでしょう
これ以上何かを捨てる必要はないよ
種族を捨てるって、これまでの自分を否定するみたいで怖いけど…
でもそれで一緒にいられるのなら、喜んで橋を渡れるから
だから、待ってて

友人へ:
というわけで、行ってくるね~
もう後悔はしたくないんだ
ごめんね、ありがとう

って、えぇ!?何で来ちゃっ、た…!?(抱きしめられて硬直
もう何も、失う必要なんてないのに…ばかだなぁ

いるよ、私はどこにもいかない
だからお願い、傍にいさせて(抱きしめる

本部:
いやぁ…なんていうか……照れるねぇ
………なんか、ごめん
(忘れるのはちょっと無理かなぁ)



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  【魔】
天使のミュラーさんはとても綺麗。
いつも素敵な笑顔を見せてくれる。
それに天使達は皆とても仲がいいと聞くわ。
悪魔は仲が悪いって訳じゃないけど。
個々がとても大切よね。
相手の気持ちに寄り添う事が邪魔な事も多いでしょ。
(と自分は考えている)
でも天使は皆の気持ちを大切にして、一緒に喜んだり、悲しんだりするのよね?
私の事を色々と気に掛けてくれるミュラーさんに、同じ事を返せていないと思うの。
天使になれば、きっと理解できるようになるんじゃないかしらって。だから、私、そちらに行きたいの。

醒めた後:
やん、考えている事が色々と赤裸々に!?
感情豊かな人達に憧れているとか、とかとかじゃなく(混乱!
色々恥ずかしいっ。



●白き翼に迷いは無く

「うん……分かってる。私に天使とか、無理だよ」
「ひろの……」

 橋の前で、悪魔・ひろのは ただ霧の向こうを切なく見つめる。
仲間の悪魔たちは、安堵すると同時にその悲しみ灯る言葉を、静かに聞いていた。

(天使側は眩しくて渡る勇気が出ない。ルシェはきれいだから。天使のままの方が、きっと良い)

せめて、最後に一目会いたいとここまで来たけれど……
踏み出せない自分が情けなく、もどかしく、もう 会う資格すらないんじゃないかとすら思えて。
ひろのは瞳を閉じ、焦がれる相手の姿を浮かべた。
どうか渡らないで。私は、大丈夫だから
ルシェがルシェで在り続けてくれること
それで私はきっと幸せを感じられるから

なのに。
小さな黒き祈りごとまるで自分の物にするかのように、橋の向こうでは躊躇うことなく進もうとする天使が一人。

「アイツが来ないなら、オレが行く」

 紅蓮色の髪は、その意志の強さを示すかの如く。
肩に手をかけ制止をするものの、仲間たちは内心ではもう分かっていた。
翼から放たれる光に迷いはない。きっと、生まれ変わったとてこの男は、放つ光の色すら自分で決めるのだろうと。

「悪魔だろうと何だろうと関係無い。オレがアイツを欲しいんだ」

 肩にかかる手たちを鬱陶しそうに払おうとしながら、天使・ルシエロ は強く言い切った。
それでも、易易と大事な仲間を悪魔にするわけにはいかない、と必死にルシエロの肩を掴んでいた手たちに
一歩下がった距離で見つめていた天使が口を開いた。

「全く。相変わらず言いだしたら聞かないヤツだよな」
「何を今更。知っているだろう?ルーク」
「……ああ」

 苦笑いを浮かべ、ルークはやんわりと他の天使たちの手をルシエロから外してやる。
ようやく解放されれば、躊躇なく橋に足をかけ。
最後の最後、ルシエロは振り返っていつもの調子で一言、声を響かせた。

「またな」

 返す間もなくあっという間に霧の向こうへ姿を消した紅蓮の天使へ、ルークは肩をすくめ
もはや届かない言葉をかけた。

「もうこっちには二度と戻れないっつーのに……『またな』じゃねぇだろう……」

 それでもアイツなら、『オレが会うと決めたら会う』とか何とか言うんだろうなと。
仕方無さそうに寂しさ含んだ笑みを浮かべては、他の友天使たちを連れて引き返すのだった。

種族など些末事だ。オレはヒロノが居れば良い。
そんなものは自分を遮る壁にはなりえない。今それを証明してやろう。
足早に橋を突き進むルシエロの姿を、まさか……とその瞳に映して、ひろのは困惑した。
――止め、なきゃ。
ルシエロの方も、すでに立ちすくむひろのの姿を捉えていた。
真っ直ぐ自分を目指す天使へ、ひろのは振り絞るように声をかける。

「ルシェ、駄目だよ」
「何が駄目なんだ」

 弱々しく振られる首を見つめながら、それでもルシエロの足が止まることはない。
(私の所為で、悪魔になんて駄目なんだよ)
一歩。
(一緒じゃなくても、大丈夫だから)
また一歩。
(ルシェが変わったら、嫌だよ)
白き翼がさぁっと光を散らせて、その色を一瞬で黒く染めた。
今まさに種族を超え目の前までやってきたルシエロの、出会った時と変わらぬ強い眼差しから、ひろのは目が逸らせなかった。
まるで、内にひた隠している強がる思いを全て見透かされている気がして。
ひろのは今にも消え入りそうな声で呟いた。

「白い方が似合ってた、のに」
「オレは何でも似合うから良いんだよ」

 ひろのの憂いなど丸ごと払うように、ルシエロは鼻で笑った。
すっかり色を変え、今や自分と同じ漆黒帯びた翼をひろのはチラリと見つめる。

(ルシェ、全然変わらない)

種族を捨て新しい姿になる。
それは生まれ変わるも同じ気がして、ルシエロ自身が以前と変わってしまうんじゃないかと、ひろのはどこか恐れていた。
しかしルシエロはどこまでも自分を真っ直ぐ見つめる、以前と変わらぬルシエロで。ひろのはひっそり安堵する。

「これで同じだ。もう何も憚る事は無いな」

 視界に映る影が揺らめいたと思うと、気付けばひろのはルシエロの広い腕の中にいた。
天使が悪魔に変わる一部始終を見守っていた一人の悪魔が、我慢できないとばかりに口を開く。

「覚悟は見せてもらったけれど……私たちの可愛いひろのを泣かせたら、許さないんだからねっ?」
「これからずっとオレが傍にいるんだ。泣かせるはずがないだろう」

 ふん、と。当然と言わんばかりにひろのを抱きしめる手に力を込め言い放つルシエロに、
悪魔・ユラが、むぅっと口を曲げた。
更に続けようとして、ユラはひろのの変化に気付く。
恥ずかしそうにしているものの、ひろのの手はおずおずと、ルシエロの背中に回されたのだ。
それは、いつだって一歩身を引いて、自分を後回しにするひろのの、意思そのものの行動だと友の悪魔たちは驚く。
そして、次にはもう二人を見守る眼差しへと変えていた。諦めたように、ユラも同じに。

―あったかいのも、変わらない。

どんどん頬に集まる熱。とても上げられない顔を必死に隠すように、ルシエロの胸に顔をうずめるひろの。
その反応に、口の端を上げルシエロは更にひろのを抱き込む腕に力を込めるのだった。

●種族を超える以上に大切なコト

 兄妹でありながら運命のイタズラにて、天使と悪魔に分たれた2人は
再び導かれるように伝説の橋へと行き着く― 。

「咲姫、本当に行かれるのですか」
「ええ。私の心はもう決まっているの」

 橋の入口を塞ぐように立つ天使たちの一人、ヴェルナーが静かに言葉をかけた。
天使の翼に艶やかな黒髪をなびかせ、咲姫は笑顔で答える。
その顔から、どんな言葉も聞く気はないのだと読み取れてしまい、ヴェルナーは一度目を伏せ。
そしてスッと道を開けた。
両脇の天使たちから驚いたように「おい、いいのかっ」と言葉が飛んでも、ヴェルナーはむしろそれを制するように片手を横に広げた。

「ありがとう」
「お元気で」

 胸に手をあて頭垂れるその姿に微笑を返して、咲姫は真っ直ぐ橋へと進む。
仕方ない。天使として此方に来た時からもうずっと、あの人の心を占めていた存在は一つだった。
咲姫の口から聞いた言葉を反芻して、ヴェルナーは友のその白き背中が見えなくなるまで見送るのだった。

 何も心配しなくていいのよ、彩夢ちゃん
今、そっちに行くから
早る気持ちを抑えながら橋を突き進む咲姫の視界から、霧が薄れていく。
そしてその向こうに佇む愛しい人影に気付くのだ。

 やっぱり。
咲姫ならきっとそうすると思っていた。
橋の反対側で予期していた 悪魔・彩夢 は霧の向こうから見えてきた姿を驚くことなく見つめ。そして―

「……行ってしまわれるのですね」
「アマリリス……」

 橋へと身を乗り出した瞬間かけられた言葉に、一度ぴたりと動きを止め彩夢は振り返った。
憂う笑みすら美しく称える、友である悪魔の眼差しに真っ直ぐ応える為に、彩夢はしっかりと頷いた。

「貴方の生きていく道ですもの。わたくしたちに止める権利はありませんわ」
「そうだけれど……っ、でも……!」
「ただ一つだけ、我が儘を聞いてくれませんか」

 他の仲間たちがまだ引き止めたがるのを遮るように、アマリリスは言葉を被らせた。
橋に足をかけたまま、彩夢は黙ってアマリリスの言の葉を待つ。

「時折……ほんの一瞬でも構いません。アナタの未来で、わたくしたちのことを少しでも思い出して頂けたらと」
「そんなの、当然だわ」

 微笑みを交わし合う。
二人のこのやり取りで、他の悪魔たちは止めようと上げていた手を静かに下ろした。
友たちに背を向け、もはや立ち止まることなく彩夢は急いで橋を駆け出した。
あの白き翼が染まってしまう前に。

咲姫は、今まであたしの為に何でもかんでも捨ててきたから
今だって、あたしの為に友達も種族も捨てるくらい簡単だし
これからも、あたしが望まなきゃあたしを捨てることだって簡単なんだ

「……ふざけんじゃないわよ」
「え?彩夢ちゃん?」

 どんどん大きくなる人影、ついには自分の目の前に現れた妹の姿に、咲姫は目を丸くし歩調を緩め、
橋のちょうど半分程の位置で立ち止まった。
その背中にはまだ、淡く光纏う白い翼が揺れている。

「欲しがりなさいよ、欲張りなさいよ。いつまでもあんたの妹じゃないのよ」
「だって、彩夢ちゃんの為ならなんだってできるもの。……それが、いけなかったの?」
「対等にさせろ!隣に並ばせろ!つべこべ言わず、黙ってそっちで待ってなさいよ、バカ咲姫!」

 確かに年の差も、兄と妹という立場も変えられないけれど。いつまでも咲姫から奪うばかりだなんて冗談じゃない。
どうしてそれが分からないのかと弾けた思いをぶつけた後、彩夢は勢いよく咲姫の手を引いて
今咲姫が歩いてきた道を進んでいく。
悪魔の翼が変化する― 黒から瞬く間に純白へ―― 。
橋を渡りきった所で、彩夢の泣き出しそうな叫びを聞いて未だ驚いたままの咲姫の横顔へ、思い切りの良いパンチが飛んだ。

「!?」

 呆気にとられるのは可愛い妹からパンチを受けた咲姫と、見送ったはずの咲姫が戻ってきたかと思うと盛大な兄妹喧嘩(に映った)を目の当たりにしたヴェルナーで。
全く予期していなかったグーパンに流石によろめき片膝ついた咲姫は、恐る恐る視線を上げた。
そこには自分と同じ、いや、それ以上に綺麗な白い翼を背負った彩夢の、清々しい顔があった。

「友達は大事よ。でも、あたしにだって覚悟はある」

 ひと呼吸置いて、彩夢は咲姫を見下ろし告げる。

「最高の美女になってあんたを超えるの。あんたの隣りで。あたしの覚悟を折るなんて、あんたでも許さない」

 有無を言わせない力強い言葉。
そっと気をきかせ姿を消したヴェルナーには気付くことなく、二人は見つめ合い、そしてどちらからともなく手が差し出され。

そこで、橋の上の霧が広がるように意識にカーテンがひかれた ― 。

●想いは行動した者勝ち

 決意を胸に訪れた橋の前。悪魔・ミズキ は橋を見つめた状態で友たちへ思いを伝えていた。

「天使のミュラーさんは、本当にとても綺麗。いつも素敵な笑顔を私に見せてくれるの」
「でも……ミズキが、行ってしまうのは、寂しい」

 切なげな瞳を向ける悪魔・ひろの へ、優しく笑みを浮かべそれでも控えめに首を振るミズキ。

「天使達は皆とても仲がいいと聞くわ。悪魔は仲が悪いって訳じゃないけど。個々がとても大切よね」
「確かに、そう、だけれど」
「相手の気持ちに寄り添う事が邪魔な事も多いでしょ」

 少なくとも私はそう考えているの、と付け足して再び橋へ視線を移しながらなおもミズキは紡ぎ続ける。
本来の現実ではこれほどミズキが語る姿は珍しいであろう。
しかし、ここは優しく儚い夢の世界。『気心知れている友』相手には、きっとこんな本来の気質が顔を出すのかもしれない。

「でも天使は、皆の気持ちを大切にして、一緒に喜んだり、悲しんだりするのよね?ミュラーさんは、いつだってそうだったわ。
 ……天使になれば、私にもきっと理解できるようになるんじゃないかしらって思えるの」
「だから、行くの?」

 小さく頷くミズキの姿を見て、そっか……、と呟いた後、ひろのは一歩下がり見送る姿勢となった。
まだ寂しさ纏いながらも、それでも自分の意思を尊重してくれた友へ、最後の別れを惜しむように手を握って。

そんな悪魔たちが会話する橋の反対側では、すでに片足を橋にかけて少々気まずそうに頬をかく一人の天使の姿。
(全部聞こえてるんだよなぁ)
向こうの悪魔たちの姿は霧で見えないけれど。その霧が声を拾い響かせ、まるで届けてくれるようで。
盗み聞きをするつもりは無かったのだが……。天使・ミュラー はミズキの声についと耳を澄ましていたのだった。

人知れず逢瀬を重ねてから気付いてはいた。彼女が自分へ劣等感というものを感じていることに。
だから早目に橋へやってきたつもりだったが、予想より彼女の行動も早かったようだ。
漏れ聞こえてくる会話から、まさに渡ろうとしているらしい様子を受け、
ミュラーは先程まで自分を止めていた友たちを振り返った。

「ミズキはそのままのミズキが良いと思うんだ。『ありのままの君で居ていいんだよ』と俺が教えてやらないと」
「行ってこい。あそこまで言わせてるんだ。ここで進まねば男として立つ瀬が無いだろう」

 さわやかな笑顔を見れば、もはや止める気も引いている 天使・ルシエロ。
にやり、とミュラーへ最後の皮肉まじりな言葉を送る。
笑って視線を交わした後、ミュラーは足を踏み出す前に、すぅっと大きく息を吸い込むとそれに声をのせて橋の向こうへと放った。

「ミズキ!聞こえるか!」
「え!?ミュ、ミュラーさんっ?」

 驚いた声色が響き返ってくる。
早く教えてやりたい。翼の色とか、形とかがミズキの価値じゃないから。
君が何を感じで、何を思うかが大切なんだ、と。
すぐに駆け出したい気持ちを一度落ち着けて、ミュラーは穏やかに言葉を続けた。こっそり歩み出しながら。

「俺はどっちに居ても変わらないから、俺が君の所へ行くよ」
「ま、待って!私の事をいつも色々気に掛けてくれるミュラーさんに、私はまだ同じ事を返せていないの。
だから、私がそちらに行きたいのっ」
「もう来ちゃったよ」

 戸惑って必死に説得しようとしていたミズキの視界に、橋の上、霧の中からたった今言葉を交わしていた声の主が姿を現す。
その背には、いつも眩しく見つめていたあの白い翼はすでに無く、自分と同じ漆黒の翼が在った。
呆然と見つめてくるミズキに、イタズラが成功したように空色の瞳を片方瞑って見せる。
ほら。こんなに簡単で、俺にとっては何でもないことなんだ、とミズキを安心させるために。

「ど、どうして……」
「案ずるより産むが易し、ってね。行動してしまえば、後はなるようになるものさ」
「私が、変わらないといけなかったのに……っ」
「ミズキ」

 震える両手が伸ばされ、ミュラーはしっかりと自身の両手でそれを握った。
聞いて?と、額と額をコツンと合わせる。

「そのままの君が一番素敵だろ?」

 ミズキの頬を、一筋の涙がつたった。
ミュラーは微笑みを称える。顔を上げたミズキの、自分へ向けられた笑顔の泣き姿を受け止める為に。

●夢の真実はあくまで夢か、はたまた……

「ユラ、いるのか!?」
「いるよー」

 隣に居たはずの気配がいきなり消えた気がして、思わず声を張ったが。
――何故自分は今ここにいるのだっけ。
――そうだ。大事な者のそばに、これからずっといる為に……この橋を渡りにきたんだった。

 悪魔・ルークは混乱していた頭を整理した。
今した声は、そう、ユラだ。俺とは違う白い翼の種族、ユラだ。

「俺が行くから、ちょっと待ってろ」

 ここを渡るだけでユラといつ会えなくなるかという不安が無くなるのだ。
ルークは迷いなく霧の向こうへ言葉を届ける。

(声が聞こえて、ちょっと安心。だけど……)

自分と同じことを考えてくれて、橋に来てくれたルークの存在に安堵はしたものの。
続いたルークの言葉には、咄嗟に叫んでいた。

「だめだよ!君は一度大切なものを失くしたでしょう。これ以上何かを捨てる必要はないよ」
「ユラ……だけど俺は」
「種族を捨てるって、これまでの自分を否定するみたいで怖いけど……でもそれで一緒にいられるのなら、喜んで橋を渡れるから」

 だから、待ってて。
きっと今、ユラは微笑んでそう伝えてくれているのだろう。
すでに橋の上を数歩進んでいたルークは、そんなユラの顔を想像してふっと切なそうに笑みを作った。
優しいユラ。天使故か、いや、きっとユラ自身の性格なのだろうな。
だからこそ、お前に変わってなんて欲しくないんだ。

「ルーク!ああ言ってくれてるんだ!まだ間に合う、戻ってこい!」

 友である悪魔・ミュラーの声が背後から響いてきた。
振り返ったルークの表情に、全く迷いは浮かんでいないのを見てとれば、ミュラーは眉を寄せる。

「悪魔としての、これまでの生を捨てるんだぞ。怖くはないのか……?」
「そりゃ怖いさ」

 大切な友へ、誤魔化すことなく心をさらけ出す。それはルークの真摯なる思い。

「でも知らないだろ?大切なものを失うのは、体の一部をもがれたんじゃないかってくらい痛いんだ……
痛くて苦しくて、いっそ死んでしまえればいいのにって。そこから救ってくれたのが、アイツだったんだ」

 無意識に胸へと手をあて、ルークは絞り出すように紡ぐ。

「ユラだけは手放すわけにはいかない」
「俺たちと、もう二度と会えなくなっても、か」
「悪い!でも俺も、もう後悔はしたくない」
「……分かった」

 友であっても相手の全てを知っているわけではない。
本来なら話すつもりは無かったことなのだろう。
それでも、ルークは言葉にした。言葉にし、思い出すことで例え己の心が血を滲ませても。
どんなにこの橋を渡ることに意味があるのか、ミュラーに伝わるには充分だった。

「その代わり、絶対手放すなよ」
「……ミュラー、ありがとう。じゃあな!」

 ルークは真っ直ぐに橋の向こうを目指す。
霧の中に飛び込めば、ユラと天使たちの声が聞こえてきていた。

「というわけで、行ってくるね~」
「というわけで、じゃないです……ユラッ」

 天使・ミズキが意義を唱える。

「私たちだって、あちらの悪魔に負けないくらいユラのことが大好きなんです……。どうか、もう一度考え直して」
「もう後悔したくないんだ。ごめんね、ありがとう」
「……言うと思ったけれど。本当、ユラらし……、ユラ!」
「? ……、えぇ!?」

 ミズキの驚いた声色に首を傾げ振り返ったユラの瞳に、橋の入口をまさに今下りたルークの姿が飛び込んできた。
ユラ、思わず二度見。

「何で来ちゃっ、た……!?」

 ユラの言葉はルークの腕の中でかき消された。
肩で息をするその様子に、抱きしめられ硬直していた体の力を徐々に抜き、ユラはルークの顔を覗き込む。
走って来た、来てくれたんだ。

「もう何も、失う必要なんてないのに……ばかだなぁ」
「惚れた女に同じ思いをさせるほど、落ちぶれちゃいねぇよ」

 腕に込められた力強さ、紡がれる言葉の純粋さに、ユラの心に苦しさと愛しさの両方が満ちていく。
大切なヒトを失う痛みを知っている彼だからこそ、この決断が出来たのかもしれない。

「でもお前はいてくれるんだろ?」
「いるよ、私はどこにもいかない。だからお願い、傍にいさせて」
「……なら、それだけで十分だ」

 自分の背へと回される小さくも温かい手を受け、新たに宿った白き翼から祝福の光が煌めいていた。

●試される覚悟 応える想い

 白き翼を翻し、天使・ヴェルナーは橋に一歩を踏み出す前に今一度、故郷を振り返る。
己の決意を最後確かめる為に。
心の天秤は正直だ。
故郷を、仲間を見つめたとてそこに重なり浮かぶのは、ずっとお仕えし守っていこうと決めた漆黒の翼を背負う彼女の姿。

(出会ったのが運命だったのでしょう)

己が心に迷いがないことを確信すれば、ヴェルナーは再び橋へ向き直り、霧のむこうへ「今からそちらに」と声を送った。
踏み出した瞬間、ヴェルナーの袖がくいっと控えめに引かれる。
ヴェルナーはしっかりと視線を合わせた。友である天使・咲姫へ。

「本当に……良いのね?」
「はい」
「やぁね。その迷いのない瞳……これ以上止められないじゃない」

 溜息をついて微笑む優しい友へ、ヴェルナーは一礼する。
何の憂いも沸かない自分を、薄情だと罵ってくれてもいいのに。

「今までありがとう、貴方もどうか幸せに」
「ヴェルナーも。幸せにならないと許さないわよ?」

 袖から手が離されれば、ヴェルナーの足はもう自分の意思では立ち止まることは無かった。
その足を止めさせたのは他ならぬ彼女だった――。

「この橋を渡ればずっと一緒……」
「アマリリス。迷っているなら、どうか行かないで」

 静かに告げられた言葉とは裏腹に、ぎゅっと強く、悪魔・アマリリス の手を掴んでいる友である彩夢。
この手を振り払って、私に進む覚悟はあるのでしょうか……
まだ動こうとしない自身の足をちらりと見下ろした所で、橋の向こうから聞き知った声を耳にした。

「今からそちらに」
「……ヴェルナーっ?」

 随分あっさりとした言葉。
しかして霧の中から本当にその姿を現したのを見て、アマリリスは咄嗟に制止をかけた。
種族を捨ててこちらに来るという割に、いくらなんでも『ちょっとそこまで』な雰囲気じゃないだろうかと。

「止まって下さいませんか」
「どうかしましたか?」

 もはや条件反射的にアマリリスの希望を体が聞き、足を止めるものの。
ヴェルナーは不思議そうに問いかけた。

(どうかしました、じゃないでしょう……本当にちゃんと、橋を渡る事がどういう事なのか考えているのかしら)

あの光溢れた世界を捨てて来るというのに。
わたくしに、そうまでしてもらう価値があるのか分からないのに。
ヴェルナーの口調からは、重々しさは微塵も感じ取れずアマリリスの口から、試すような言葉が紡がれてしまう。

「貴方も天使なら悪魔に騙されているとかそういう考えはありませんの?」

 声色だけじゃヴェルナーの真意が読み取れないと、アマリリスはヴェルナーの顔を直接見たくて、
語りかけながら橋を進んでいこうとして、彩夢の手がまだ握られているのに気付き。

「……ちょっと行ってきますね」
「でも」
「行かないと確かめられないんです」

 自分の覚悟も、相手の覚悟も、と飲み込まれた言葉を、友は汲んでくれた。腕が解放される。
ありがとうと微笑んで、アマリリスはつかつかと橋を進んでいった。
橋の半ばで出会う天使と悪魔。

「種族が変わっても私が私である事には変わりありません」

 真っ直ぐアマリリスへ向けられた言の葉。
アマリリスは、ささやかな戸惑いや変化を見逃さないよう、ヴェルナーの表情をしっかりと見据える。

「だから騙されているなんて事はありません、私が望んだ事です」

 ヴェルナーの表情からは一切の変化は見て取れない。
心から、そう告げているのだとアマリリスはじわじわと確信して。

「貴方の傍にいさせてください」

 言葉が出なくなった。
真っ直ぐ目を見て言われて、顔が熱くなったのを自覚する。
動揺を隠すのに必死で、ヴェルナーから視線は逸らさないものの顔は真顔のままになってしまう。
そんなアマリリスの態度を誤解したらしい。
ヴェルナーの迷い無き表情に、若干の影が落ちた。
アマリリスには確かに聞こえた。しゅん、という音が。

「迷惑でしたでしょうか……」

 困らせてしまったのだろうか。
アマリリスをそうさせるのはヴェルナーも本意ではない。
自身の希望を引いてでも、あくまでアマリリスの気持ちを優先させるつもりで、肩を落としたまま踵を返した。
その様子に慌てたのはアマリリスである。

「だからちょっと待ちなさい!迷惑ではありませんわ」

 引き返しかけたヴェルナーの腕が強く引かれた。
驚き振り返ってきたヴェルナーへ、パッと手を放してアマリリスは呟く。

「……貴方がこなければわたくしが行きましたもの」

 ほとんど独り言のように囁いた言葉は、自分に跳ね返ってきて頬の火照りが一層増した。
居ても立ってもいられず、足早に元来た道へクルリと反転するアマリリス。
ヴェルナーは目を見開いていた。
驚きの表情から小さな笑みへと変えて、遠ざかろうとする黒き翼を追いかける。
同じ気持ちだった事、それをアマリリスが口にしてくれたのが何より嬉しくて。
白の天使は喜びと共に翼を黒へと染め上げていた。

●夢の跡

「今の……?」
「ほお……面白い夢だった。オマエが悪魔か」

天空島フィヨルネイジャ。
たった今現実に起きたようで、意識がハッキリしてくるとそれは夢だったと二人は把握する。
ワープしてきた瞬間に見た景色と同じ。静かな森に佇み耳を凝らすと滝の音が聴こえてくる。
記憶が朧な普段の夢と違い、こんなにもありありと先程までの夢の情景が思い出せて、ルシエロ=ザガンは愉快そうに笑んだ。
その視線をひろのへ落とす。

「天使でも似合うだろうに」

ぷるぷる。
見上げ、あっさり首を振るひろの。
その反応すら楽しそうにルシエロは眺める。無反応より断然良い。

「ルシェは、どっちでもきれい」

 だと思う、と控えめに続いたひろのの言葉に、ルシエロはまた小さく笑い「当然だ」と返した。
そして、ふとついさっきまで腕の中に居た、その感覚が蘇る。
衝動に誘われるがまま、ルシエロはさり気なくひろのへと手を伸ばし、そして抱きしめた。
それはひろのにとってはやはり唐突に思える行動で、ビクリと体が硬直する。
が、ひろのの中でも夢の続きにも似た感覚が広がって、その硬直は自然とすぐに解かれていた。
夢か?
そう思える程、ルシエロにとってこの短い間で緊張解いたひろのは意外なものだった。

(なんで、かな。夢の中だと胸がきゅってした)

ずっと傍にいると、居て良いのだと、また言葉にしてくれたルシエロをひろのは思い返す。
夢の中のルシエロへ、確かめるように身を寄せた自分自身が少し羨ましくなったのかもしれない。
ひろのは無意識にそっと、ルシエロの服を掴んで、その身を僅か寄り添わせた。

(やっぱりあったかい)

今、確かに現実なんだ。ひろのは、自分の居場所を実感する。肩の力を抜き吐息を漏らした。
ひろのからの、こんな些細な返しすら初めてで、衝動を堪えようとルシエロの腕の力が微かに強くなる。
欲しくて堪らない。
そう自覚すればするほど、激しく、乱暴な衝動に身を委ねそうになる己を律する。
(早く俺に慣れろ)
オレにお前が必要であるように、お前にもオレが必要だと自覚すれば良い。強める力に、胸の熱を密やかに込めた。

* * * * * * * * * * * *

「……私の可愛い彩夢ちゃん。これでも私、精霊だからね……私を超えるって、難しいわよ?なんて」

 たった今見てきた夢、もはや体験と言えるそれを嬉しそうに語る紫月 咲姫。
頭が痛そうに指でこめかみを抑える紫月 彩夢。
天使と悪魔だなんて、そんな乙女チックな設定に自分が登場するのもさる事ながら。
あまりにリアリティがあり過ぎて、彩夢は夢だと割り切れずにいた。
いや。割り切る必要なんてないのかもしれない。
夢で告げたことは自分の本心なのだから。それを咲姫も覚えているなら、願ってもないことなのかもしれない、と。

「腰抜かすくらい綺麗になって見せるわよ。覚悟なさい」
「ふふ、そのお手伝いは、私にさせてくれるのよね?」

 否定も肯定もせずプイッと顔を背けた彩夢の気持ちを、ウィンクルムとしての絆以上に特別な繋がりにて咲姫は受け止めた。

……俺の可愛い彩夢
大好きな妹を俺色に染めるなんて

その背徳的感情に、咲姫は男の顔に戻って微笑する。
まだ逸らされたままの彩夢の耳元に、先程までと違うトーンの兄の声が響いてきた。

「彩夢をエスコートする役目は、きっと、俺に頂戴ね?」
「っ……ず、ずるい……!」

 望んだのは自分だけれど。
好きだと告げた「兄」の顔も「姉」の顔も見事に使い分ける咲姫にこれから挑むと決めたのに、もう負けた気分になってしまう。
照れか怒りか、頬を赤くしてますます向こうを向いてしまった彩夢を、どこまでも温かな眼差しで見守る咲姫の姿。
自分以上に彩夢を愛する者が現れたら、それを受け入れるという覚悟は嘘ではないけれど。

 裏を返せば、俺以上に彩夢を愛していない奴には可愛い彩夢をやるわけにはいかないよ。

いつか訪れるかもしれないその日まで、ずっと隣で守っていくのだと
妹の機嫌を取りに横へと並びながら、彩夢と同じようでどこか熱帯びた深紅の瞳は、一度静かに閉じられるのだった。

* * * * * * * * * * * *

「みゅ、みゅ、みゅ……っっ」
「ミズキ、落ち着いて」

 なんだかスゴイ夢を見た気がするの……!と、天空島から本部へワープしてきて思わず声にした 瀬谷 瑞希。
するとパートナーのフェルン・ミュラーから、ほぼ同じ夢を見ていたことが告げられ、
瑞希の顔が一気に赤く染まった、現在そんな最中である。
同じく当事者なミュラーは、うんうん猫みたいでそれはそれで可愛いけどね、と現実の瑞希の反応をすでに楽しく眺めている。

(やん、考えている事が色々と赤裸々に!?)

感情豊かな人達に憧れているとか、とかとかじゃなく!わ、私、夢の中で何話してた……!?と
パニックに陥りながらも、必死に夢の出来事を思い起こす瑞希。

(ミズキは感情表現苦手なのか。まぁ、言葉に出来なくても顔に出ちゃってるんだけれど)

なんと微笑ましい、とすっかり見守り体勢のミュラーである。

「あの、ミュラーさん……?」
「うん?」
「そ、その……夢で、私が言ってたこと……。は、橋の向こうでの、とか……」
「うん。しっかり聞いてたし今も覚えてるよ」
「~~~~~!!」

わー。こんなに取り乱すミズキ初めて見たかも。
あまりの恥ずかしさに、今すぐどこか穴に埋まりたい心中のミズキが、両手で顔を隠す様子を見て
「気にすることないのに」とミュラーは優しく宥める。
そんな二人に挟まれて、瑞希の首元で淡い桜のペンダントがキラリと光った。
お互いを大切に想う気持ちが伝わり合いますように。そんな願いをささやかに叶え満足したかのように ――。

* * * * * * * * * * * *

 我に返った瞬間本部にワープしてきて、気まずそうに視線を泳がせ合っているユラとルーク。
お互いの反応からして、全く同じ夢を見ていたことは暗黙だった。

「いやぁ……なんていうか……夢とはいえ照れるねぇ」

 照れ隠しで笑顔を向けるユラを見れば、ますます腕の中に先程まで在った温もりが思い出されて。
ルークは後頭部をかく。

「夢……?そ、そうだよな……ははは……」
「えへへ」
「頼む、忘れてくれ……」

 ばしっ。
後頭部に回っていた手の平が、顔面に持ってこられた音がした。
惚れた女……惚れた女……惚れ………
夢の中で自分が言った言葉が盛大に反芻される。

(し……羞恥で死にそう)

わぁ。ルー君、赤っ。
顔を両手でなくどうにか片手のみで覆っているのは、ルークの、なけなしの男としての諸々だろうか。
つられて自分の頬に熱が集まっていくのを感じる。

「………なんか、ごめん」

 突っ込んじゃだめだ。ルー君だけでなくこれは自分も追い詰められる気がする。
本能的に悟ったユラは、一言、そっと謝るに留めた。
顔を覆っているルークに見えないように、横を向いて自分の頬に手をあてながら。

(忘れるのはちょっと無理かなぁ)

夢の中でルークにかけた言葉は、本当といえば本当ではあるけれど。
――ちょ、ちょっと意味合いというか関係が違ってたような……
頬をぺちぺちしながらユラの脳裏に夢の内容が再び過ぎる。
ルークに、過去に何かあったのだろうということは薄々気付いてはいたけれど。
あの夢の中のルークが言っていたのは、あくまで夢なのだろうか……。
それとも――
ちらりと振り返って、こちらに背を向け黒い尻尾がまだ力なく垂れている彼を見つめた。
いいよね。約束は守るタイプだよって、もうハッキリ伝えてあるし。
話したくなったら話せばいいし、その時、私はちゃんと聞くから。
夢で聞いた一部はこっそり胸にしまって、ユラはまだ赤く染まっているであろうその顔を覗き込みに
いそいそと寄っていくのだった。

* * * * * * * * * * * *

「配役、おかしくないですか?」
「開口一番がそれですの?」

 夢か幻か現実かを判断するより先に、アマリリスが目の前におり無事である、と確認したヴェルナーは
天空島フィヨルネイジャの木漏れ日溢れる森の中で首を傾げた。
そのヴェルナーの第一声で、アマリリスは同じ夢を見ていたとすぐに判断しながら。

(夢であっても、ヴェルナーはヴェルナーですのね……)

まさかあそこで橋を引き返すなんて。
ちょっとは雰囲気を察して欲しかった、と思う程度にはアマリリスにもそれなりの想いがあったが。
それが出来ないのがヴェルナーであることも、もはや重々承知しており文句など言いようが無かった。

「天使役ならアマリリスが適役ではないですか」

 名が花であるように、いつかの、自分が贈った夕焼け色の薔薇を持ったアマリリスは毅然と美しかったことを
ヴェルナーはいまだ記憶新しく覚えている。
そんな彼女に、純白の翼はどんなにか映えるだろうと。大真面目である。

「……それを真顔で言える貴方ですもの。配役は間違っていませんわ」

 真っ直ぐ過ぎて無垢ですらある。それは天使にピッタリだとアマリリスは正直に思った。
あの橋の真ん中で、縋るように思わずその手を掴んだくせに、自分が自分であることを選んだのだから
やはり悪魔役で合っていたのだろう、とも。
それでも、そんな自分と共に在ることを選んでくれたヴェルナーの姿を見れたのは、ちょっぴり得した気もする。
さ、帰りますわよ、と未だ首を捻るヴェルナーの前をあっさり通り過ぎながら、
アマリリスの表情はどこか天使のように光を帯びていた。



 日はバラけつつも、5組ものウィンクルムが「天使と悪魔」という白昼夢を見た。
乙女妄想大好きな、本部受付職員(女性・彼氏いない歴=実年齢)を食いつかせるには充分なネタだった。
しばらくの間、ピーサンカを持ち帰ったウィンクルムたちが、「ねえ!なんの夢見てきたの!?」と
瞳輝かせた受付職員に捕まる光景が続いていたとか。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ユラ
呼び名:ユラ
  名前:ルーク
呼び名:ルーク、ルー君

 

名前:瀬谷 瑞希
呼び名:ミズキ
  名前:フェルン・ミュラー
呼び名:フェルンさん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 山神さやか  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月08日
出発日 04月14日 00:00
予定納品日 04月24日

参加者

会議室

  • [5]アマリリス

    2015/04/12-21:48 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    配役はわたくしが悪魔でヴェルナーが天使の予定です。
    友情出演は…、どうなるのでしょうね。
    ヴェルナーはともかく、わたくしはあまり踏み込まないかと思います。
    では、どうぞよろしくお願いいたします。

  • [4]瀬谷 瑞希

    2015/04/12-16:16 

    こんにちは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    配役は、ミュラーさんが天使で私が悪魔かなって。
    だって天使の翼はミュラーさんの方が似合いそう。
    よろしくお願いします。

  • [3]紫月 彩夢

    2015/04/12-10:40 

    紫月彩夢と、姉の咲姫。
    何だか不思議な夢の予感、ね。
    多分、あたしが悪魔で、咲姫が天使になると思う。

    あんまり、ご一緒したことの無い方ばっかりだから、
    友情出演の時もそんなにぐいぐいしたりはしないと思う。
    なんにせよ、お互い、良い目覚めになったらいいわね。どうぞ宜しく。

  • [2]ユラ

    2015/04/11-20:51 

    どーも、ユラとパートナーのルー君です。
    一応、配役は基本通りの予定だけど・・・(予定は未定

    どっちかっていうと友情出演の方が楽しそうで気になってたり(笑)
    なにはともあれ、よろしくね。

  • [1]ひろの

    2015/04/11-18:46 

    ルシエロ=ザガン:

    オレはルシエロ=ザガンだ。よろしく頼む。
    こっちはヒロノだ。(頭を軽く撫でるも硬直される

    なかなかに面白い夢のようだな。
    配役はオレが天使で、ヒロノが悪魔になるらしい。


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