【白昼夢】どきどき! 学園うぃんくるむ(柚烏 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 百年に一度現れる、ウィンクルムにしか視認できない天空島――フィヨルネイジャ。
 其処は女神ジェンマの庭園だとされ、清浄な空気に満ちているものの、訪れたウィンクルムたちに『現実ではありえない不思議な現象』が起こるのだと言う。
 突如タブロス上空に現れたその島へ向かった彼らは、案の定と言うべきか、摩訶不思議な体験をする事になる――。

「ちこくちこくー!」
 あれ? フィヨルネイジャへ足を踏み入れたと思ったのだけど。気が付けば自分は、可愛い制服を着て校門目掛けて猛ダッシュしていた。
 瀟洒な煉瓦作りの校舎――うん、間違いない。それは自分の通う学園で。今は、そろそろ予鈴が鳴るか鳴らないかと言うどきどきの時間だった。
「……せーふ!」
 同じく急いで登校する生徒のみんなに混じって校門を抜けて、何とか玄関まで来て「はあはあ」と息を整えつつ、自分の下駄箱を見ると。
(あれ……?)
 靴の上に置いてあったのは、見慣れない封筒。けれど宛名には、確かに自分の名前が書かれてある。訝しげに思いつつ封を切ると、そこには。
『どうしても君とふたりきりで会って、伝えたい事があります。今日の放課後、この場所に来て下さい』
 ――え。これってもしや。果たし状、じゃないよね。そう思って署名を見れば、少し気になるあのひと――精霊の名前がはっきりと書かれてあって。
(どどど、どうしよう!)
 それは、隣に住む幼なじみのあいつか、もしくは先日運命的な出会いをした転校生か。或いは生真面目な委員長、生意気な後輩、憧れの先輩――それとも、運動部のキャプテンだったり、何なら学園のアイドルの彼と言う事だってあり得る。あ、雨の日に子猫を拾っていた、学園一の不良という可能性も。
 ――それとも彼は生徒ではなくて、皆に絶大な人気を誇る先生なのかもしれない。
(で、彼の言う場所って……ええと)
 放課後の教室、はたまた学園の屋上。ふたりきりになるなら、特別教室の準備室だとか図書室なんて言うのもありだろうか。
 屋外ならば、校舎裏とか。そう言えば校庭には伝説の木もあったなぁ、なんてぼんやり考えてみる。
 そして運命の時間はあっという間に訪れる。手紙に記された場所で、気になるあのひとと会う為に――どきどきしながら彼女は向かうのであった。
 ――しかし、彼女は知らない。相手の精霊にも全く同じ手紙が届いており、それは何かありそうでないふたりの関係にやきもきした友人が、悪戯で出したものであったのだと言う事を。

 それは、フィヨルネイジャが見せる白昼夢のようなもの。けれど此処でふたりの絆を深める事が出来れば、愛の結晶――ピーサンカが生まれる事だろう。
 と、それはそれとして。不思議な学園生活を、あなたも楽しんでは如何だろうか――?

解説

●今回の目的
聖地フィヨルネイジャでの不思議な現象を楽しみ、パートナーと絆を深めてピーサンカを手に入れる。

●学園もの!
聖地を訪れたウィンクルムの皆さんは不思議な現象に巻き込まれ、気が付けば周囲が学園ものの世界に変わってしまっていました。学園へやってきた神人さんは、下駄箱に『放課後、ふたりきりで会いたい』と言う精霊さんからの手紙を見つけ、そしてその通り放課後ふたりきりで会う事に……と言う流れです(放課後、指定された場所に二人がやって来た直後から始まります)。

●お二人の設定
神人さん、そして精霊さんがどんな生徒(もしくは先生)なのか、設定を教えて下さい。一例がプロローグにもありますが、勿論これ以外の設定でも問題ありません。そして、二人が放課後何処で会うのか、会ってどう過ごすのかを書いて頂ければ、と思います。
(設定例・精霊は植物好きの先輩で園芸部の部長。神人は花に興味があって、ちょくちょく部活を覗きに来ている。放課後は植物園でふたりきり)
※なお、この手紙は友人の悪戯です。二人はその事を知らず、本当に相手が二人きりで会って大切な事を伝えたいのだと思っています。

●補足
不思議な現象は数時間で自然と収まります。この現象を通して新密度が上がれば、愛の結晶『ピーサンカ』を手に入れる事が出来ます。

●参加費
フィヨルネイジャへ向かう準備やら色々で、一組300ジェール消費します。

●お願いごと
今回のエピソードとは関係ない、違うエピソードで起こった出来事を前提としたプランは、採用出来ない恐れがあります(軽く触れる程度であれば大丈夫です)。今回のお話ならではの行動や関わりを、築いていってください。

ゲームマスターより

 柚烏と申します。何でもありな不思議な聖地で、いきなりの学園ものに巻き込まれた……と言う感じで始まります。
 よろしければ、この白昼夢を存分に楽しんで下されば嬉しいです。学園ものの世界でなら、お二人はどんな関係を築くのでしょうか? 心もち、少女小説のような雰囲気で、青春ちっくな胸きゅんらぶを描写していけたらと思っています。それではよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  ※幼馴染の先輩後輩、からかわれたり心配されたり妹のような扱い

待ち合わせ場所…公園ですね。
まだ来てないみたいです…少しほっとしました。
待ってる間に心の準備しておかないと…
全然待ってませんよ、気にしないで下さい。
グレン、今年からはテストとかやることいっぱい
あるじゃないですか、忙しいところごめんなさい。

この公園懐かしいです…お祭で来たの覚えてます?
あの頃は一緒に居る時間すごく多かったけど、
最近は帰りの時間も違うし、勉強の時間だってあるし…
仕方ないことだって分かってますけど
やっぱり少し寂しいです。
私は…もっとグレンと一緒にいたいです。
好きだから…あ、幼馴染としてじゃなくて、その、
もっともっと大事な…っ


月野 輝(アルベルト)
  ■設定
剣道部部長の真面目女子
顧問の先生を密かに慕っているが、生徒を相手にしてくれる訳はないと、一生徒として振る舞っている
恋愛事に慣れてないので挙動不審になる事も多く
傍目からは一目瞭然(本人自覚無し)

■呼び出し場所
道場(部活は休み)

■心情
靴箱に手紙…先生が私になんてそんなはずない
きっと部の事で何か…今度の大会のメンバー決めの相談とか
そう、きっと!

先生、遅いな……
もしかしてからかわれた!?
何だか悲しくなってきちゃった

え?なな泣いてませんっ
気のせいです

え、私じゃなくて先生が話があるって…どういう事??

今は話せない……私が生徒だから?
それって、私が生徒じゃなくなったら話してくれるって思っていいですか?



手屋 笹(カガヤ・アクショア)
  ・設定
カガヤの幼馴染で後輩(高1)。
呼び出し場所:屋上。

何の話があるのでしょうか…?
先輩ー来てますか?
誰か横になってますね…

こんな所で寝てたら風邪を引きますよ!
アクショア先輩起きて下さい…!
肩を揺らして起こします。

学校なんですから弁えて下さい…
…でも、まあ他に人も居ないようなので…
カガヤ…で良いです?

話があるのはカガヤの方ではないのですか?

(隣に腰掛け)
進路…カガヤはもうそんな時期でしたか。
小さい頃から外遊び…というか運動が好きでしたよね。
具体的な職業が浮かばなければ
体育大学を色々調べてみるのも手では?

あまり大した事は言えてませんけど…
折角奢ってくれるというなら一緒に帰ります。
(手を取り)


ロア・ディヒラー(クレドリック)
  設定
高校3年生
図書委員、化学実験部(半強制的に所属)と演劇部(メイク係)を兼部。
クラスメイトが誰も話しかけない中、物怖じせず話しかけそれから放っておけず振り回されながらも友情を築く

放課後は誰もいない理科室。
「クレちゃんー?いるー…?」
後ろ振り返ったら立っててびっくり。
「がちゃん…って何で鍵しめてんの」
いや、うん突飛すぎて吃驚するなあ相変わらず。
話したい事って何だろうと思ってたらなんかクレちゃんの様子がおかしい。
い、いきなり必死な表情で何を…照れるんですけど!!
「私もクレちゃんと一緒で学園生活楽しかったよ。まだ卒業まではちょっと先だけど、一緒がいいな…ちょ、ああのなんで抱きしめてるの!?」


水田 茉莉花(八月一日 智)
  あれー…あっれぇ?…何で学園モノ?
でもまあいっか、状況確認しなきゃ


教育実習生

…八月一日先生からの呼び出しか
またお小言かなぁ?
指導教官だからって細かいところまでねちねちと五月蠅いんだからあのチビ教師(一息で言った)

八月一日先生?
ええと…何のご用でしょうか?
え?来いって手紙置いたの八月一日先生じゃないんですか?
…ふざけてるなら帰りますよ、八月一日先生

はい、打ち上げの話なら他の実習生からも聞いてますよ
その話とは違うんですか?

…はい?(目玉まん丸)
それって4月からまた八月一日先生のお小言聞くってコトですか?

…えええ?!
単位出る前にそんな事言って良いんですか?
そんな事言ったら…って、え?だ、抱きつかれた



●思い出の指輪、これからの二人
 聖地フィヨルネイジャを訪れたウィンクルムたちは、突如不思議な現象に巻き込まれ――気付いた時には、何と其処は学園ものの世界。
 ちこくちこく、とお決まりの台詞と共に下駄箱に辿り着けば、気になるあの人からの手紙が入っていて。
『どうしてもふたりきりで『あの場所』で会って、伝えたい事がある』
 それが悪戯だとは知らぬまま、二人は高鳴る胸を抑えながら約束の場所へと向かう。学園の鐘が放課後の訪れを告げる中、彼らはどんな時間を過ごすのだろうか――。
(待ち合わせ場所は、と……)
 大事そうに手紙を握りしめながら、ニーナ・ルアルディは学園の近くにある公園へとやって来た。そこは幼馴染の先輩――グレン・カーヴェルとの思い出の場所。
 からかわれたり心配されたり、彼からは妹のような扱いを受けているけれど、今なら違うのだと言えるだろうか。
「まだ来てないみたいです……少しほっとしました」
 其処に居るのが自分だけなのを認め、ニーナはそっと安堵の吐息を零す。待っている間に、心の準備をしておきたかったから――ニーナは公園のベンチに腰掛け、はらはらと舞う桜の花弁を見つめていた。
 ――やがて何処か懐かしい夕陽が、彼女の金色の髪を鮮やかに燃え上がらせる頃。小走りで此方へ向けてやって来る、見知った顔にニーナは気付いた。
「悪い、進路のことでセンセに捕まってた」
 そう言って無造作に黒髪をくしゃりと掻くのは、ずっと待っていたグレンその人で。ニーナは大丈夫、と言うようにゆっくりとかぶりを振ってみせる。
「全然待ってませんよ、気にしないで下さい」
 お前なぁと、しかしグレンはニーナの嘘に気付いたようだ。彼女の手の中の缶コーヒーが、ぬくもりを失ってから久しい事など、グレンにはちゃんとお見通しなのだ。
「缶一つ空っぽにしておいて、全然待ってませんでしたってことはねーだろ?」
「でもグレン、今年からはテストとかやることいっぱいあるじゃないですか。忙しいところごめんなさい」
 気にするな、と言うようにグレンは昔のままの、何処か不器用な笑みを見せた。そのまま彼はベンチに鞄を置いて、自分もニーナの隣に腰掛ける。急に近くなった距離に、そして二人並んで座った時の身長差に、ニーナの鼓動は知らず知らず高鳴っていく。
「この公園懐かしいです……お祭で来たの覚えてます?」
 ――だから、だろうか。つい昔の、無邪気に過ごしていた頃の思い出を口にしてしまったのは。しかしグレンにとってもその思い出は懐かしかったようで、彼はそっと目を細めて吐息と共に記憶を紡いでいく。
「そういえばあったな、あれ食べたいこれ欲しいって食べ物やら玩具やら色々買わされたっけ」
 と、そこで。グレンはニーナの鞄から覗く携帯に、見覚えのあるものがぶら下がっている事に気付いた。
「……って、お前。あの時の玩具の指輪まだ持ってたのか。ストラップにしたんだな……」
「あ、はい……!」
 少し顔を赤らめつつ――それでも大事そうに指輪のストラップを撫でるニーナに、グレンは彼女に聞こえない程度の声で、ぽつりと呟きを漏らす。
「ふぅん……そんなに大事にしてもらえるんなら、当時の小遣い半分以上使った甲斐はあったな」
 そんな昔の思い出に浸る、穏やかな時間がこのまま過ぎていくのだと思われたが――やがてニーナは、意を決したようにグレンに向き合い、その可憐な唇を開いた。
「……あの頃は、一緒に居る時間すごく多かったけど、最近は帰りの時間も違うし、勉強の時間だってあるし……」
 ざあ、と春風が吹いて、ニーナの長い髪を揺らす。俯くその相貌に揺れる瞳は、微かに潤んでいるようにも見えた。
「仕方ないことだって分かってますけど、やっぱり少し寂しいです。私は……もっとグレンと一緒にいたいです」
 ――今なら、言えるだろうか。思い出の場所で、彼に伝えたいと思う言葉を口に出来るだろうか。
「好きだから……あ、幼馴染としてじゃなくて、その、もっともっと大事な……っ」
 感極まったように想いを吐き出したニーナの頭を、その時不器用な手が優しく撫でた。見ればグレンが、昔みたいな悪戯っ子の顔で、にやりと微笑んでいる。
「……よく言えました、昔みたいに我侭言えたじゃん。迷惑かけないようにって言ってお前、あんま俺のとこ来なくなったけど、頼られないっつーのも寂しいもんだぞ」
「え、えっと……その」
 ぱちぱちと瞬きを繰り返すニーナが、余りにも愛らしくて――照れ隠しも混ざっているのだろうか、グレンは「あー」と唸りながら己を叱咤する。
「つか言うの先越されたじゃねーか! こう言うのは俺からだろ……」
 大仰に空を仰いで、それからこほんと咳払い。そうしてグレンはニーナを真っ直ぐに見つめ、彼女の想いに応えた。
「俺もお前のこと妹とかじゃなく、ちゃんと大事に想ってるから」

●幼馴染の相談ごと
 地平線の彼方に、ゆっくりと夕陽が沈んでいく。学園の屋上からは、その雄大な光景が一望出来て――手を伸ばせば、その輝きをすくいとってしまえそうだと噂される程だ。
(何の話があるのでしょうか……?)
 きちっと制服を着こなした手屋 笹は、屋上への階段を駆け上がりながら、手紙の差出人――近所に住む幼馴染である、カガヤ・アクショアの顔を思い浮かべる。
 たん、たんと軽やかに靴音を響かせ、笹は屋上まで辿り着いて。錆びついた扉を軋ませながら開くと、優しい春風が彼女の頬をくすぐっていった。
「先輩ー来てますか?」
 屋上を見渡しながら笹はカガヤを呼ぶが、ぐるりと見回してもそれらしき姿は――あ、端の方に誰かが横になっているようだ。
 しかもその誰かは、規則正しい寝息を立てているようで、そのマイペースな佇まいは間違いなく探している彼だ、と笹は確信した。
「こんな所で寝てたら風邪を引きますよ! アクショア先輩起きて下さい……!」
 幸せそうにむにゃむにゃ言っているのは、やはりカガヤその人だ。笹は屈んでゆさゆさと、微睡むカガヤの肩を揺らして起こそうとする。
「あ、おはよー笹ちゃん。笹ちゃんまだ居なかったから寝ちゃってね……」
 と、やがてカガヤはゆるゆると目を開けて、大きく伸びをして――ぱちり、と澄んだ翠の瞳を瞬きさせながら、目の前の幼馴染の少女を見つめた。
「……笹ちゃん、二人きりなんだからいつも通りカガヤって呼んでよ」
 気さくな感じで声を掛けたというのに、彼の眼差しは奇妙な程に真剣な感じがしたから。笹は虚を突かれた様に一瞬言葉に詰まり、直ぐに慌てて生真面目な表情を作る。
「学校なんですから弁えて下さい……でも、まあ他に人も居ないようなので……」
 幼馴染の二人は、学園では二学年離れている。律儀に先輩と後輩の関係を保とうとする笹であったが、先輩であるカガヤが良いというならと言う事で折れた。
「カガヤ……で良いです?」
「うん。で、話って何?」
「え……話があるのはカガヤの方ではないのですか?」
 よいしょ、とカガヤは起き上がり、貰った手紙の事を思い出す。手紙を置いたのは笹なのだと思っていたのだが、もしかして違ったのだろうか。
(でも、話したい事あったから丁度良かったけど)
 実は、とカガヤは少し表情を曇らせて、屋上の柵に背を預ける。茜色の空をゆっくりと雲が流れていくのに、何となく郷愁を覚えながら。
「進路相談が進まなくて……何に向いてるのかな。笹ちゃんは小さい頃からの俺を知ってるし、ヒント貰えないかなって」
(進路……カガヤはもうそんな時期でしたか)
 静かにカガヤの隣に腰掛けた笹も、彼と一緒に夕焼けを眺めて吐息を零した。ずっとこうやって、二人で居られるのだと思っていたけれど――いつか別れの時はやって来るのだと、彼女は改めて実感する。
「カガヤは小さい頃から外遊び……というか運動が好きでしたよね。具体的な職業が思い浮かばなければ、体育大学を色々調べてみるのも手では?」
「うん、今でも運動好きだけどそれだと範囲が広くて……って体育大学?」
 そっか、とカガヤは瞳を輝かせ、早速メモを取って嬉しそうに頷いた。
「これで大学とか調べてみるよ! ありがとうー目標が漠然とし過ぎてて、体育大学とすら絞れてなかった……」
 これから頑張ると言うようにカガヤはすっくと立ち上がり、笹に向けて手を伸ばす。ああ彼は、昔と変わらずに幼馴染として接してくれるのだと、笹は思った。
「お礼に何か奢るから、一緒に帰ろ!」
「あまり大した事は言えてませんけど……折角奢ってくれるというなら、一緒に帰ります」
 ――そして笹もその手を取り、二人は夕暮れの屋上を後にする。遠くから聞こえて来る、部活動の音に耳を澄ませながら――笹は何を奢ってもらおうかと、ゆっくり考えを巡らせるのだった。

●教育実習生の約束
(あれー……あっれぇ? ……何で学園モノ?)
 突如として変わった情景に、水田 茉莉花が戸惑ったのは最初だけ。直ぐに、まあいっかと思い、これは夢のようなものなんだと思う事にした。
「……ええと、八月一日先生からの呼び出しか。またお小言かなぁ?」
 そうそう、自分は学園にやって来た教育実習生で、謎の手紙を教師である、八月一日 智から受け取ったのだった。
 ちなみに智は、良く言えば生徒に間違えられる位若々しく――ぶっちゃけると童顔であり。そのくせ、教師としては中堅どころだと言うから、世の中分からない(本人は若手だと思ってるらしいが)。
「指導教官だからって細かいところまでねちねちと五月蠅いんだからあのチビ教師」
 すたすたすたと小走りで廊下を急ぎつつ、一息で言い切った茉莉花であったが。それでも何だかんだ言って、彼の事は嫌い――ではないと思う。
「八月一日先生? ええと……何のご用でしょうか?」
 そして、約束の場所の扉をノックして、恐る恐る足を踏み入れた茉莉花を待っていたのは、やはりと言うか智であった。ポットで淹れた茶をずず、と啜りながら、彼は手を挙げて茉莉花の入室を促す。
「おう、何だ水田……放課後一人で教員控え室で待ってろって」
「え? 来いって手紙置いたの、八月一日先生じゃないんですか?」
「おれは水田が待ってろっていうからここに」
 ――あれ、と二人はかみ合わない会話に首を傾げる。教員控え室の椅子に座っていた智は、「あいつか」とこの悪戯の主に見当を付けたらしく、ううむと唸っていたが――一方の茉莉花は眉根を寄せ、用が無いならと踵を返した。
「……ふざけてるなら帰りますよ、八月一日先生」
「あああ、ちょい待ち! ちょっと待て!」
 と、余り冗談の通じない茉莉花を、智は慌てて引きとめる。このまま此処で別れてしまうのは避けたいし、それに元々は悪戯だったとは言え、彼は本当に茉莉花へ伝えたい事も在ったのだ。
「えーっとあのだな、あと三日で実習終わるよな?」
「はい、打ち上げの話なら他の実習生からも聞いてますよ。その話とは違うんですか?」
 きりっとした茉莉花の眼差しが、真っ直ぐに智へと向けられる。いや、と彼は首を振り、思い切って彼女に用件を切り出す事にした。
「いや、その事じゃないんだって! ……あのさぁ、来年四月からひと枠開くんだよ、ウチの学園」
 ちょっと定年で辞める人がいて、と智は言って、ぽりぽりと頭を掻く。いざ覚悟を決めても、その先の言葉がなかなか言えなくて――「あー」と彼は軽く咳払いをしてから、先を続けた。
「それでさ、もーちょっとの間さ……あのーウチの学園で働いてみねぇ?」
「……はい?」
 ――比喩では無く、その時本当に茉莉花の目玉はまん丸になった、と思う。
「それって四月からまた、八月一日先生のお小言聞くってコトですか?」
「だからそれもちっげーし! じゃなくて、お前の生徒に対する真摯さと……水田が良い奴だって事は買ってるって事だよ」
 おかしい。何時も小言を言う筈の智が、自分を褒めるなんて。突然の事態にすっかり動転した茉莉花は、少しの間心ここにあらずといった状態で――やがてびくん、と身を竦めた。
「……えええ?! 単位出る前にそんな事言って良いんですか? そんな事言ったら……」
「だーもーこんにゃろお前鈍感だな!」
「……って、え?」
 次の瞬間、茉莉花は智に抱きつかれていた。また、会いたい――ここで待ってるから。そんな想いを、ぬくもりと共にひしひしと感じた茉莉花は、ゆっくりと強張っていた身体の力を抜いて――少々照れながら微笑んだ。
(うん、来年の桜が咲く頃。あたしはこの学園に帰ってくる)

●教師と生徒では、伝えられないこと
 剣道部部長の、月野 輝は困惑していた。周囲からは真面目な女の子だと思われているだろうが、彼女だって年頃の恋する乙女なのである。
(靴箱に手紙……先生が私になんて、そんなはずない)
 指先にかさりと触れた、その手紙の主の名はアルベルト。いつも白衣を着て、静かに微笑を湛える生物教師であり、輝の剣道部の顧問でもある。生徒を軽くからかったりもするが、そんな所も素敵だと人気があって――そんな彼は、輝が密かに慕う相手でもあった。
「きっと部の事で何か……今度の大会のメンバー決めの相談とか。そう、きっと!」
 ――そうだ、大人の教師が生徒を相手にしてくれる訳はないのだと、輝はあくまで一生徒として振る舞っている。しかし、彼女は恋愛事に慣れていないので挙動不審になる事も多く、傍目からは一目瞭然なのだが――生憎本人には自覚が無い。
(待たせちゃいけないから、早く行かないと)
 手紙に書かれていた呼び出し場所は、剣道部の道場だった。今日は部活が休みなので、誰にも見られる事は無いだろうが――道場の片隅で所在なく待っていると、時間の流れが酷くゆるやかに思えてくる。
 そして、その一方で。輝の署名の入った手紙をまじまじと見つめるアルベルトが、「ふむ」と言う様子で首を傾げていた。
「手紙の字……彼女の字はこんな字でしたかね?」
 眼鏡を押し上げて彼は吐息を零したが、そっと覗いた道場には、見覚えのある黒髪の女生徒が立っている。ああ――とその時、アルベルトの金の瞳が嬉しそうに細められた事に、勘の良い者ならば気付いただろうか。
「でもいますね、彼女」
 真面目すぎて、いつも貧乏くじを引いている部長。しかし、頑張り屋の輝の事が、アルベルトは密かに気になっていた。本心を隠すのは得意なので、彼自身は隠し仰せてるつもりでいるが――何かの拍子に裏のない笑顔を彼女に向けている事に、彼は気付いていない。
 そんな二人だからこそ、周りでやきもきした者たちが今回の手紙を思いついたのかもしれないが、当然彼らには全く知らぬ事で。
「先生、遅いな……もしかして、からかわれた!?」
 心細さもあって、何だか悲しくなって来た輝の瞳が、じわりと潤む。と、其処でようやく、道場に入るタイミングを窺っていたアルベルトが彼女に駆け寄った。
「泣く程待たせてしまいましたか。すみません、職員会議が長引きまして」
「え? なな泣いてませんっ、気のせいです」
 ぐす、と慌てて涙を拭う輝を守ってあげたい衝動に駆られながらも、アルベルトは努めて冷静に用件を切り出す。
「どうしましたか? 何か相談事でも?」
「え、私じゃなくて先生が話があるって……」
 私が? と首を傾げるアルベルトは、やはりあの手紙は――と大体の事情を察したが、誰かが背中を押してくれたのならと覚悟を決めた。
「話したい事が無くもないのですが、今は教師と生徒ですから話せません」
「今は話せない……私が生徒だから?」
 手紙に書かれてあったのは、ふたりきりで会って伝えたい事がある、とだけ。それが、今の二人では話せないと言う事は――夢を見ても、いいのだろうかと輝は思う。
「それって、私が生徒じゃなくなったら話してくれるって、思っていいですか?」
 澄んだ瞳で此方を見上げる輝は、はっとする程に美しくて。それでも自分は、彼女の規範となる教師でありたいと――アルベルトは柔らかく微笑み、彼女の頭をそっと撫でる。
「そうですね、貴女が卒業したら……その時まで待ってくれますか?」
 その時はまた、今と同じこの場所で。本当に伝えたかった事を伝えようと、彼は思った。

●二人きりの部活動
 放課後の理科室は、ちょっぴり不思議な感じがする――とロア・ディヒラーは思う。斜めに差し込む夕陽に照らされて、鈍い光を放つ実験器具。つぅんと漂う薬品の匂いと、今にも動き出しそうな人体模型。
 誰も居ない理科室は、成程――とっておきの秘密を伝えるには相応しい場所なのかもしれない。
「クレちゃんー? いるー……?」
 カラカラと扉を開き、恐る恐る中へ向かって声を掛けるロア。たん、と言う自分の足音だけがいやに響いて――何気なく後ろを振り返ったら、其処にはクレドリックが立っていた。
(わ!)
 気配も無く、いきなり後ろに居たと言うのにロアが悲鳴を上げなかったのは、彼の事を良く知っていたからだ。一年生の頃から同じクラスで、ずっと隣の席。クレドリックはその悪人っぽい風貌で恐れられ、クラスメイトが誰も話しかけない中、ロアだけは物怖じせずに話しかけていた。
 それから何だか放っておけず、ロアは彼に振り回されながらも友情を築き――今はクレドリックの所属する科学実験部に、半強制的に所属させられている。いや、図書委員と演劇部のメイク係との兼部なのだけれど。
 ――と、そんな風にロアが思い出に浸っていると、不意にがちゃんと無情な金属音がした。
「……って何で鍵しめてんの」
「部員は私とロアしかいないとはいえ、誰かが入ってくる可能性もある」
 うん、突飛すぎて吃驚するなあとロアは素直に思ったが、まあクレドリックなら相変わらずだと頷いて気にしない事にする。
(それでも……話したい事って何だろう)
 いつもの部室でいつもの部活と言えばそれまでだけど、それにしてはクレドリックの様子がおかしい気がする。そして――クレドリックはクレドリックで、ロアの署名の入った手紙の事を思い、気が気ではなかった。
(もしやロアは、私に愛想が尽きたのだろうか)
 どうしても伝えたい事、と言えばそんな最悪のケースも思い当り、クレドリックは険しい顔でひたすらに悩む。しかし、コンプレックスがあり人間不信だった自分を変え、感情を取り戻すきっかけになってくれたロアに、せめて最後に想いを伝えたかった。
「……ロア、私はロアと会えてよかった」
 だから――クレドリックは、意を決してロアに向き直り、その瞳を見つめて真っ直ぐに切り出した。
「い、いきなり必死な表情で何を……照れるんですけど!!」
「初めて私に話しかけて来た時、それはそれは嬉しかったのだよ。私は感情表現が苦手で表情に出ないが。卒業してもその後も、ずっとずっと……傍にいたい」
 一息で言い切ったクレドリックを、ロアはびっくりしたような顔で見つめていたものの――やがてその表情が、蕾が綻ぶようにふわりと微笑みに変わった。
「あの、ね……私もクレちゃんと一緒で、学園生活楽しかったよ。まだ卒業まではちょっと先だけど、一緒がいいな……ちょ、あの、なんで抱きしめてるの!?」
 そう、ロアの言葉に感極まったクレドリックは、思わず彼女を抱きしめていた。けれどロアも戸惑いつつも、嫌だと言う訳では無くて。何故だろう、こうしていると動悸が激しくなるような――。

「夢だったか……」
 次の瞬間、彼らは何事もなかったかのようにフィヨルネイジャの草原に立ち尽くしていた。さっきまでの学園生活は、この聖地がもたらしたささやかな夢のようなものだったのだろう。
「しかし、何処か懐かしい思い出を貰った気分だ」
 そうクレドリックが呟き、掌を見つめてみれば。其処には愛の結晶であるピーサンカが、陽光を受けて淡い光を放っていた。
 ――それが例え幻だったとしても、彼らは確かに絆を深め合ったのだ。そう優しく告げるように春風が吹き抜け、遠くで桜の花弁が舞ったように見えた。



依頼結果:成功
MVP
名前:ニーナ・ルアルディ
呼び名:ニーナ
  名前:グレン・カーヴェル
呼び名:グレン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 柚烏
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月05日
出発日 04月13日 00:00
予定納品日 04月23日

参加者

会議室


PAGE TOP