ゆめうつつ(こーや マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●ゆめうつつ
 黒、黒、黒、黒、黒。
どこを見ても真っ黒な世界が広がっている。一面の闇と無音。
 気がつけば、パートナーと二人でここにいた。何故こんなところにいるのかは見当もつかない。
隣にいる君のパートナーも困惑している。パートナーにもやはり理由は分からないようだ。
 とりあえず二人でその場に留まり、様子を窺うも変化は一向に訪れない。
それならば、と歩き出してみたものの、やはり変化は無かった。
 どうしようか――君が考えを巡らせようとした時。
「オーガ……!」
 パートナーの呟きに、君は顔を上げる。
さっきまでは何もいなかった、ただ黒いだけだった空間にオーガの姿があった。
幻覚ではないことは明白。確かな存在感を持ってそこにいる。
 何時の間に、なんて言っている余裕はない。
オーガが敵意を、君を捕食しようとしているのは疑いようが無かった。
 すっと、パートナーが武器を構えた。
君を一瞥すると、小さく頷いて見せる。戦おうという意思の表れだ。
応じるように、君も武器を持ち、戦闘に備える。
 慎重にオーガとの距離を確認してから、君はインスパイア・スペルを唱えた。
素早くパートナーの頬へと口付ける。
 今は、このオーガを倒さなくてはいけない。
脱出する為にも、生きる為にも、だ。

解説

●目標
各組で、オーガ一体ずつを討伐

●状況
ウィンクルム達は知りませんが、『夢の中』での出来事です
が、このオーガとの戦いに負けるわけにはいきません
オーガに勝てば、この夢から脱出できます
仲間との共闘は望めません
また、何か妨害があるのか、ハイトランスは出来ません
アイテムの申請は一切通りません

●敵
敵は下記の中からお選びください
ただし、選べる範囲は各組のレベルで変化します

~Lv3 デミ・ワイルドドッグ×2
~Lv5 デミ・ベアー
~Lv8 ヤックハルス
~Lv10 デミ・シルバーウルフ
~Lv13 ヤグルロム
~Lv15 デミ・トロール
Lv16~ ヤックドロア・アス

デミ・ワイルドドッグ:デミ化した野犬。
デミ・ベアー:デミ化した熊。スキルなどはありませんが攻撃力・防御力ともにそこそこ
ヤックハルス:素早い。牙と爪で鋭い高速切りをしかけてきます。複数回攻撃が怖い
デミ・シルバーウルフ:デミ化した、なんかすごい狼。攻撃力・防御力ともに高め
ヤグルロム:防御力高い嫌なオーガその1。攻撃を受けると自爆するっていうやらしい分身作ります
デミ・トロール:防御力高い嫌な(デミ・)オーガその2。硬い・回復する・攻撃力も高めという嫌な奴。ただし命中低め
ヤックドロア・アス:防御力高い嫌なオーガその3。ただでさえ硬いのに、さらに防御力上げる力場を張る。攻撃力も高め。ただし攻撃は当てやすい

嗅覚がいいだとかそういう特徴は除外してます、今回関係ないので

ゲームマスターより

夢の中の出来事なのに報酬もらえるの?とかつっこんじゃだめだよ!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  選択オーガ:ヤックドロア・アス

この場所は一体…?
わたくし達だけかと思ったらあれはアス…ですね…
トランスしましょう。

カガヤ、気をつけて、
相手も一体のようですがこちらにもわたくし達しか居ません。
倒れれば終わりですよ。

わたくしは必ずカガヤの後ろに離れて位置取り、杖(ジェンマ)と盾を構えます。
アスと直接対峙しない様にします。
カガヤが左右に動くならばそれに合わせてわたくしも移動します。

カガヤのMPが尽きたようなら
わたくしの方まで下がるよう声を掛け
ディスペンサを使用します。

様子を見てオ・トーリ・デコイを使用し
アスの注意をアヒルの方へ向けさせましょう。
アスの注意が逸れたらカガヤにスキル攻撃して貰います。



紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  対峙者は、ヤックハルス
オーガ相手は、二度目かしら
今のあたし達が、どれくらい頑張れるのか…試すわよ、咲姫

トランス後は、魔守のオーブを展開して最低限の自衛
それでもあっちの射程ぎりぎりの距離を取って、避けることに専念
攻撃喰らったら詰みだもの
咲姫を軸にあたしが動き回って、可能ならあたしと咲姫で挟撃する形に
咲姫のフォローは入らなくなるけど、攻撃を確実に決める為に咲姫から気を逸らすのがあたしの目標よ

咲姫の攻撃で隙が出来たら、コネクトハーツで追撃。更にダメージを重ねて貰う
攻撃後は離れて回避専念
繰り返しで、一気に畳みかけるわよ!

勝てたら、ハイタッチ要求
兄妹じゃなくてさ、たまには相棒らしいことしてもいいじゃない



ハガネ(フリオ・クルーエル)
  敵:デミワイルドドッグ×2

敵を前に笑うはずが笑えない
自分が倒れたら誰が坊主を家に帰らせる?

火力の無いRKと神人なら狙い所は致命的な場所
坊主のアプローチで二匹釣れたらコートを脱ぎ片方の頭に被せて視界をふさぐ
注意の外からなら隙ができるだろうしな

デミ化してようが生物
骨に覆われていない皮越しに内臓…腹を爪先で抉るように蹴られりゃ怯むさ
動きが止まったら武器で首等太い血管を狙い突く

坊主の側はどうだ?
視線がかち合えば自分の顎を指差し狙う場所示唆(脳震盪狙い)

カッコ悪い……か
泥臭くても最後に二本の足で立っているのが一番だと思うけどね

生意気いいやがって

あんなボロどうなろうがどうでもいいだろう
…なんだそりゃ



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  対ヤグルロム

トランス化
羽純くんと二人なら、きっと何とかなるよ!

魔守のオーブで魔法力場を盾に
羽純くんの背中は、私が守る!
常に彼から離れない

短期決戦
一箇所に留まらず、駆け回り幻影と本体の攻撃を避け、本体を炙り出す

合図で共に駆け出す
本体の位置を特定する為、オーガ・ナノーカを放っておく

幻影のオーガへ、私が鞭で攻撃
成る可く距離を開け、当てていく
爆発はダッシュで避け+オーブの魔法力場で耐える

幻影のオーガを全て仕留める頃に、オーガ・ナノーカが本体の位置を掴めていれば
羽純くんと共に総攻撃!

頭部光体を狙い幻影封じです!
へし折る!

羽純くんのMP補給にディスペンサ
素早く額にキスを
私の力を貴方に

形勢不利でも諦めない



名生 佳代(花木 宏介)
  何だしぃ、この世界?
…真っ暗で変なの…なーんて。
こ、怖がってないしぃ!
マジで、マジで!

暫くここで様子を見るしぃ。
何かに巻き込まれたって話なら、
下手に動くより救出を待ったほうがいいんじゃん?
…あれ、デミ・ベアー!
こっちに来るしぃ!
宏介、「メガネで殴れ!」。
何も隠れるところもないし、小細工は効かないじゃん。
ってことは、攻撃あるのみ!
目や顔を狙って動きを封じろしぃ!

ヤバっ、デミ・ベアーがこっちに来た!
ちぇっ、護衛用の片手剣で応戦するっしょぉ!
元ヤン、ナメんなしぃぃッ!

…ふーん、バカ眼鏡は義務だから心配してたんだ?
ふふ、心配ありがとうね。
ただの喧嘩とは違うってこと分かったし、
後で剣の使い方教えろしぃ。


●黒
「ほんっとうに何だしぃ!?真っ暗だしオーガはいるしぃ!」
「佳代、トランスだ、急げ!」
「分かってるしぃ!」
 闇の世界に包まれているというだけでも名生 佳代の緊張は高まるというのに、正面に現れたデミ・ベアーの存在がさらに緊張を煽る。
佳代の口元は引きつり、うっすらと冷や汗が浮かんでいるが、そんなことに構っている余裕は無い。
「メガネで殴れ!」
 口早にインスパイア・スペルを唱え、僅かに身を屈めた宏介の頬に口付ければ二人の体から光が迸る。
見知った光が体を包んだことが佳代の心を宥める。視界ははっきりしているが、光があるというだけで違う。
「佳代は危ないから俺の後ろに居ろ。作戦は任せたぞ」
 宏介は利き手に手裏剣を、逆の手に短剣を携えて腰を落とした。額からつぅっと冷や汗が伝わり落ちる。
頼れるのは自分達二人だけ。そのことが宏介の不安を掻き立てる。
ざわざわざわざわと、不安という名の闇が足元から宏介へ忍び寄っていることに佳代が気付くことはなかった。


 オーガと対峙するのは二度目だったか。紫月 彩夢は記憶を遡りながらも、紅玉髄の視線は真っ直ぐにヤックハルスを貫いている。
「今のあたし達が、どれくらい頑張れるのか……試すわよ、咲姫」
 彩夢は短剣を鞘から抜き放つと、空いた手でオーブを握り締める。
妹を見て紫月 咲姫が浮かべたのは少しの苦さを含んだ笑み。
こういう時に剣を持って彩夢の前に出ることが出来ればと思うが、考えても詮無いこと。
四の五の言わずに彩夢が助けてくれると信じるだけだ。
「運命を、嗤おう」
 妹からの口付けを受け、咲姫の頬は緩みかけるも、そんな状況ではないとすぐに引き締める。
オーラを身にまとった咲姫はぱらり、魔導書のページを捲った。
「いくわよ」
「ええ。お願いね、彩夢ちゃん」
 言い終えるや否や、ヤックハルスが向かってくる速度を上げた。
ヤックハルスを迎え撃つべく、パッと二人は跳ぶように散開する。
 絶対に、負けてなるものか。


 ハガネとフリオ・クルーエルの正面には二匹のデミ・ワイルドドッグ。
いまだ距離はあるものの、明確な敵意が二人へ向けられている。
 ハガネは口角を釣り上がる。けれど、自身が望んだようには嗤えない。どうしても引きつる。
ここで自分が倒れれば、フリオはどうなる?誰がフリオを家へ帰すのか?
周囲の闇が伝播してしまったのだろうか、不安がハガネの胸に根を下ろす。
 不安はフリオにも手を伸ばしている。
二匹を相手に、自分一人で倒せるのか……?いや、やらなければいけない。
フリオは魔手を振り払い、強い光を宿した瞳でデミ・ワイルドドッグを睨みつけた。
「ハガネ、さっさと終わらせよう!」
 フリオが自身を叱咤する為にも声を上げた。
ハッとハガネは我に返ると、フリオの言葉と同じインスパイア・スペルを唱え、頬に口付けてトランスする。
二人が光を纏うと同時に、二匹のデミ・ワイルドドッグが二人へと牙を剥いた。


「茜さす」
 桜倉 歌菜の唇が月成 羽純の頬から離れた。
インスパイア・スペル通り、茜色の光が闇に差し込む。
 一瞬だけ目を合わせ、どちらともなく強く頷くとすぐにヤグルロムへ向き直る。
歌菜は鞭を、羽純は魔導書と短剣をそれぞれ構えた。二人の顔に不安は無い。
「歌菜、お前の力も借りる。二人で倒すぞ」
 羽純が言うと、歌菜は笑った。
分かってる、大丈夫。青い瞳が煌く。
「羽純くんと二人なら、きっと何とかなるよ!」
 歌菜の言葉に羽純もうっすらと笑みを浮かべた。
そうだな、羽純が呟く横で歌菜はオーガ・ナノーカを走らせようとして、思い留まった。
ヤグルロムが身を隠しても位置を特定できるようにとの考えだったが……オーガの有無や数を把握する為の道具だ。狙った効果は得られないだろう。
 残念がる歌菜に羽純は小さく頷いて見せ、駆け出す。その合図を受け、歌菜も駆け出した。
走り出した瞬間、言いようもない不安が歌菜を襲った。
足を止めそうになったものの、気にするべきではないと、歌菜が足を止めることはなかった。


「わたくし達だけかと思ったらあれはアス……ですね……」
 この世界は一体なんなのか?何度目かの疑問を、手屋 笹は現れたヤックドロア・アスを優先して頭の隅に追いやった。
並び立つカガヤ・アクショア共々、二人の目は鋭い。カガヤの唇が弧を描く。
「丁度良かった」
 今まで何度もヤックドロア・アスと戦った。楽に勝てたことはない。
しかし、強敵とはいえDスケールなのだ。ヤックドロア・アスよりも上位のオーガはギルティだけではない。
そろそろ手こずっている場合ではないとカガヤは思っていた。
だから、試してみよう。今の自分達を、これまでの宿敵だった相手で。
「笹ちゃん」
「私達の全ては、ただ潰滅の為にある。」
 ハードブレイカーであるカガヤに相応しいインスパイア・スペル。
カガヤは腰を落とし、頬に笹の唇を受け入れた。風が笹の髪を巻き上げ、闇を切り裂き吹きぬける。
 橄欖石の瞳が、色は違えど構えた十字の斧と同じように爛々と輝いていることに笹は気付いた。
「カガヤ、気をつけて。相手も一体のようですがこちらにもわたくし達しか居ません。倒れれば終わりですよ」
「大丈夫、分かってるよ。無理せず、確実に行く」
 切っ先が地面に触れていた斧を持ち上げる。
ずしりと手に掛かる重みは慣れたもの。唇を一舐めし、カガヤは武器を構えた。



●黒、そして黒
「きゃあっ!」
 爆発音と共に歌菜の悲鳴が上がる。
立ち込めていた煙が消えた先には、無傷の歌菜の姿。
 一体目の自爆でもそうだった為、分かってはいたが羽純はほっと息を吐いた。
歌菜がオーブの力で展開した力場が爆風を阻んだのだ。
 唇を噛み締め、歌菜は再び鞭を構えた。
力量に合わぬ鞭は、重い。威力どころか、軌道すら思い描いた通りにはいかない。
なまじ一箇所に留まらない様と駆け回っていたことも相まって狙いは定まらない。
 先の爆発は何度目かの攻撃の末に幻影を打ち吸えた瞬間に起こったもの。
攻撃すれば幻影が自爆すると知っていたが、走れば避けられるのではないかと考えていた。
しかし、爆発よりも早く駆ける事は精霊の身ですら至難。神人の歌菜では言うまでも無いこと。
「……歌菜、このままでいこう」
 駆け回るのは止め、このまま迎撃しようと羽純は作戦の変更を告げた。
応じた歌菜は大きく息を吐いた。パシン、感覚を確かめるべく地面を打つ。一度、二度、三度、四度。
トパーズの瞳でしっかりと幻影を捉え、定めた狙いのままに歌菜は鞭を振るった。
 三度目の爆発が歌菜を襲う。
瞬く間に煙が晴れると、黒い闇からぬらり、ヤグルロムが姿を現した。
 歌菜と羽純は視線を交わすと、すぐに走り出した。
羽純は駆けながらも魔導書のページを捲り、自身の技が効果を及ぼす範囲にヤグルロムを捉えると足を止めた。
魔導書が眩い光を放ち、ヤグルロムの視界を白く塗りつぶす。
 足でしっかりと地面を踏みしめ、歌菜も鞭を振るう。
頭部は狙わず、打ち据えることだけを意識した鞭はどうにかヤグルロムの体を打つ。
動きが鈍いヤグルロムは、幻影よりも狙いやすかった。
 目が眩んだヤグルロムが闇雲に爪を振るう。視力が利かないながらも、その爪が羽純の体を掠める。
視界を奪ったとはいえ、瞬発力に乏しい羽純だ。攻撃を避けるのは容易い事ではない。
 羽純は輝きを宿したままの魔導書を抱えなおし、短剣を持つ手を一振り。
再び現れた光輪が仄かに羽純の周囲を照らす。ぐっと羽純は大きく踏み込み、短剣を振るった。
ヤグルロムの体を覆う粘液により刃が滑るものの、一本の線を刻み込む。
「羽純くん!……私の力を貴方に」
 歌菜がかけより、羽純の額に口付ける。
歌菜の魔力が羽純へと流れ、その体に行き届く。
 素早く歌菜が離れると、羽純へヤグルロムの爪が振るわれる。
羽純を守る光輪が動いた。


 カガヤは自身の一撃に目を見張った。
ヤックドロア・アスの体を見なくとも分かる、確かな手応え。
硬い鱗に攻撃を拒む強固な防御力場。それらですら、装甲を砕くグラビティブレイクを跳ね除けることはできなかった。
初めて対峙した時は岩のようだったが、今は違う。確かに『肉』を立つ感触が斧から伝わっている。
「いける……!」
 カガヤの背後に立つ笹は手に持った杖を強く握り締めた。女神の加護により、築き上げてきた絆に応じてカガヤに力を与える杖だ。
これをあの頃に握っていたなら……そんな考えがちらつくも、頭を振って打ち消す。
 違う。
重ねてきた経験と積み上げてきた絆。その両方があるからこそ今があるのだ。
 元来、呑気なヤックドロア・アスにも危機感が芽生えたのだろう。
雄叫びを上げ、ヤックドロア・アスは爪を振るう。カガヤの肩に文字通り爪痕を残すが、それだけだ。
 カガヤは大きく斧を振りかぶった。並みのオーガなら避ける以外に術を持たない一撃でも、ヤックドロア・アスは血を流しながらも耐えてみせる。
ぽたぽたと、斧に付着した血が流れ落ちる音を聞きながらカガヤは思案した。
 ジョブスキルを使わなくともダメージはある。が、やはり防御力場で殺されている威力は大きい。
効果が切れるまで防戦に徹するべきか。しかし、バンカーの持続時間の間、耐え切れる気はするが確証は無い。
 悩むカガヤにヤックドロア・アスは再び爪を振り上げた。
あえて片手で斧を振り、勢いに身を任せる。爪が鼻先を掠め前髪に触れたのを見て、カガヤは決めた。
「笹ちゃん」
「はい」
「倒すよ。俺達の全力で」
 見えないと分かっていても、笹は強く頷いた。
乗り越えるのだ。宿敵を、闇を、今を――


 鮮血が舞う。
宏介は呻き声をかみ殺し、手裏剣を投げる。左右からデミ・ベアーの顔へ迫ろうとするものの、襲い掛かることなく通り抜けていった。
 かたかたと唇が震えるのを佳代は止められなかった。
何がいけなかった……?
 蒼白になった佳代を気にかける余裕も無い宏介に、デミ・ベアーが腕を振り下ろした。
爪が宏介の体を抉り、その身を赤く染めていく。
「宏介ぇ!」
「くそっ……!」
 傷に構うことなく宏介は手裏剣を放とうとして、刹那動きを止めた。
佳代の指示に基づき、先程から頭や目を狙って攻撃を続けていたが、そのことごとくを外している。
続ければ、先にやられる。
 思考を切り替え、宏介は手裏剣を放ちなおした。単純に当てることだけを考えた投擲。
力量に合わぬ武器ではただ攻撃するだけでも命中しないことも多いのだ。三度放った手裏剣は、どうにか二度がデミ・ベアーに傷をつける。
狙いにくい頭部を、目を狙うのであれば今の自分の命中精度ではとても無理だと宏介は歯噛みした。
 ただ……不幸中の幸いは、近くにいる神人である佳代よりも血に塗れた自分へ注意が向けられていることか。
ずれた眼鏡を直すことなく宏介はデミ・ベアーを見据える。
衝動的なデミ・ベアーは、血の臭いにより眼前の『肉』へ執着していた。
 血で濡れたままでは滑る。宏介は服で手を拭う。
「バ佳代!」
「な、何だしぃ……!?」
「お前を守るのが俺の義務だ。ウィンクルム以前に、佳代は俺の相棒なんだから」
「……っ!」
 佳代は震えっぱなしだった唇を噛み締めた。
大丈夫なのなんて、聞かなくとも大丈夫じゃないことは分かる。
だと言うのに、宏介は自分に声をかけてくれた。
「……あ、当たり前じゃん!さっさとそいつやっつけろしぃ!!」
 ふっと宏介は笑った。
乱暴な物言いながらも、その声が潤んでいることはすぐに分かった。
「いつもの強がりも程ほどにな」


 フリオの気迫の言葉に誘き寄せられ、デミ・ワイルドドッグ達はその身に飛び掛る。
が、アプローチで防御を固めたフリオには、デミ・ワイルドドッグの爪も、牙も掠り傷すら生み出せない。
 二匹の注意がフリオに向いていることを確認し、ハガネはコートを脱ぐべく手をかけて、止めた。
脱いだコートをデミ・ワイルドドッグの頭部にかけようにも、相手は激しく動いているのだ。
かけても一瞬で振り払われるのがオチだろう。隙というには程遠い。
 ハガネは短剣を握り締めたまま、デミ・ワイルドドッグの腹を蹴り上げた。蹴りつけた一匹は高い悲鳴を上げたが、靴越しに伝わる感触は堅い。
皮膚が薄い場所を狙ったのだが、神人の力では怯ませるどころか――
「ぐっ!」
「大丈夫か!?」
「……これくらい、なんてことはないさ」
 自身の腹部を狙った足にデミ・ワイルドドッグが牙を立てた。血がハガネの足を伝う。
いくらフリオが注意を引き付けているとはいえ、衝撃が最もよく伝わる部位を攻撃されたのだ。
デミ・ワイルドドッグの敵意の対象が、フリオだけでなくハガネへも向けられる。
「……くそっ!」
 攻撃対象がフリオだけでない以上、こちらを先に倒す必要がある。
フリオはハガネに噛み付いたデミ・ワイルドドッグへメイスを叩きつけた。
攻撃力においては他のジョブに劣るロイヤルナイトだが、デミ・ワイルドドッグ相手で決め手にかけるということは無い。
 打撃に怯んだデミ・ワイルドドッグに畳み掛けるべくハガネも短剣を振るう。
相手が動いている以上、首などの太い血管を狙うことはしない。動いていなくとも、すぐに切り付けられるほど分かりやすく血管が浮かんでいないので無理だっただろうが。
 血走った目で飛び掛ってくるデミ・ワイルドドッグ達をフリオは盾でいなす。
爪と牙が盾に触れる音が耳障りで、ハガネは眉を顰めた。
「坊主」
 ハガネは指で顎を叩く。意図することはフリオにも理解できたが、フリオは頭を横に振った。
力量に合わぬ武器を振るっていると言うことを抜きにしても、顎をピンポイントで狙える自信は無い。
ハガネはそれ以上何も言わず、肩を竦めた。
 フリオは柄を握りなおし、武器の感触を確かめた。
扱いきれない武器ではあるが、この事態を打開出来ない程に経験が足りていないという訳ではない。
 フリオは大きく振りかぶり、メイスに勢いを乗せる。
その一撃で闇を切り開こうとするかのごとく。


 彩夢は避けようと試みたものの、身軽なヤックハルスは。
避けられない。彩夢の体が衝撃に備えるべく強張る。
 しかし、彩夢を引き裂くべく振るわれた爪が彩夢を捉えることは無かった。
オーブの力で展開した防御力場が、完全にその攻撃を遮断してみせたのだ。
 彩夢は詰まっていた息を吐き出す。
一撃二撃でどうにかなるとは思えないが、攻撃を喰らえば詰みだ。彩夢の役目はヤックハルスの隙を作ること。
畳み掛けられれば、作戦を放棄せざるを得なくなる。
 彩夢に怪我がないと分かった咲姫は、内心安堵しながらも魔導書の一文をなぞる。
咲姫の背丈ほどもある巨大なタロットカードが、くるりと咲姫の周囲を浮遊する。
 軽い足音を立て、ヤックハルスとの距離を詰めた咲姫は仕込み刀で切りつけた。
ぴっと赤い線を引き、刃が離れると同時に血が踊る。
 刹那、ヤックハルスが気を取られたことを彩夢は見逃さなかった。
すぐさま攻撃を仕掛ける。咲姫を軸にヤックハルスを挟みこんだことで、一撃離脱が容易なものになっている。
 どちらを攻撃するか悩み、ヤックハルスの目が揺れるが、すぐに咲姫へと向けられる。
風斬り音と共に爪を振るうが、逆さになった女帝のカードがヤックハルスの前に立ちはだかる。
「愛も感情も傷さえも、何もかも過剰に注がれて満たされぬまま朽ちていくだろう!」
 咲姫の叫びに呼応するかのように、カードから上半身だけが抜け出した女帝が錫杖でヤックハルスを薙ぐ。
不吉な予言と、パートナーの攻撃威力を増す短剣の効果も相まって、大きな一打となった。
 ヤックハルス越しに彩夢は咲姫を見た。咲姫は彩夢に頷きを返す。
油断でも慢心でもなく、この流れを維持すれば無理なく勝利を手にすることが出来るという確信が二人にはある。
「一気に畳みかけるわよ!」
「ええ、彩夢ちゃん!」
 応じた咲姫の眼前には戦車のカードがあった。
正位置の意味は、『勝利』。



●黒から白へ
 見慣れた窓、見慣れた壁紙、見慣れた床。日常を感じる場所、二人の自宅だった。
佳代は目を瞬かせる。さっきのは、なんだったのだろうか。もしかして、立ったまま夢でも見ていたのだろうか。
「今のは……」
 宏介の呟きが聞こえ、佳代はハッと振り返った。
目が合うと、宏介がデミ・ベアーと戦ったことを佳代に確認した。佳代の記憶と相違ない。
 訳が分からず、宏介は口元に手を当てて考え込む。
夢と言うには生々し過ぎたし、二人して同じ夢を見るものだろうか?一体、何があったのだろうか?
「……ごめん」
 宏介が顔を上げると、佳代は項垂れていた。
謝った理由はすぐに分かった。宏介は小さく息を吐き、眼鏡を持ち上げた。
「佳代だけが悪かった訳じゃない。二人とも甘かったんだ。それに、今の俺はなんともないんだ。気にするな」
 戦いの流れは生き物だ。自分達の思うままに動かせないということを二人は思い知った。
今回はどうにか勝てたものの……次も上手くいくとは限らない。戦いと喧嘩は別物だと、佳代はその身で学んだ。
「……後で剣の使い方教えろしぃ」
 このままではいけない。その為にも、自分達のことを理解しなくては。
佳代は部屋の隅に置いてある短剣を見つめる。それはさっきよりも重そうに見えた。


 彩夢と咲姫も、自分達が同じものを見ていたのだと認識をすり合わせた。
とはいえ、意味が分からない。何か変わったことをしたわけでもなく、変わった所に足を踏み入れたわけでもない。
ただ二人で町中を歩いていただけだ。
「なんだったのかしら?」
 咲姫は首を傾げる。そんな咲姫に、彩夢は手を上げて見せた。
咲姫は意味が分からず、ぱちくりと瞬きをする。
「ほら、ハイタッチ。兄妹じゃなくてさ、たまには相棒らしいことしてもいいじゃない。
よく分かんないけど、ちゃんと勝てたんだから」
 妹の要求に咲姫は笑みを零しながら応じる。
パンッと小気味良い音が響いた。
「相棒…ふふ、ありがと、彩夢ちゃん」


「クソ」
 ハガネはガシガシと頭を掻いた。
訳の分からない体験をしたこともそうだが、倒しはしたものの上手く戦えた気はしない。
それが腹立たしい。
 隣で同じようにもやもやしたものを抱えていたフリオがふいにハガネを見上げた。
成長期真っ只中とはいえ、フリオの背はまだまだハガネには届かない。
「どうした?」
「やっぱりさ、コート着てた方がハガネらしくてかっこいいって思ってさ」
「……なんだそりゃ」
 戦いの最中、ハガネがコートを脱ぎ捨てようとたからこそ意識しなおす。
裾が破れたコートを着ているハガネが、いかにハガネらしいか。
 呆れた様子の神人にフリオはヘヘっと笑ってみせた。


 諦める気は毛頭なかった。
諦めかけても、勝てたかもしれないとは思う。
「まだまだだな」
「うん、もっと頑張らなきゃ」
 自分達の力量への理解と、作戦にあった技の選択と行動。
ちぐはぐしていて、噛み合っていなかった。どうにか積み上げたものの、少し手で触れただけで崩れてしまいそうな危うさだった。
 二人だけで戦わなくてはいけないことが、もうないとは言えない。
ウィンクルムである以上、その可能性からは逃れられないことを二人は理解していた。
 諦め無い為にも、二人で明日へ向かう為にも。
強くなろう。そう呟いたのは、どちらだっただだろうか――


「わたくし達だけではないと?」
「ええ、そうなんです。お二人以外にも同じ夢の中で、オーガと戦ったという方々がいるんです」
 ただの夢ではないと判断した笹とカガヤはA.R.O.A.へ報告にやって来た。
信じてもらえないかもしれないと思っていたが、受付娘の様子を見る限りでは二人の予想以上にA.R.O.A.は事態を重く見ているようだ。
「ハロウィンの件もありますので、ただの白昼夢ではないと私たちは考えています。
ですが、トラオム・オーガと違って本体らしきものの目星も予兆も無いので、調査は難航しそうです」
 申し訳ありません。そう謝ってから、受付娘は報酬を取り出した。
驚きを見せる笹とカガヤに、何かしらの形でオーガが関わってるのに違いないのでと言い、報酬を手渡したのであった。



               「あーあ、皆失敗しちゃった。つまんないのー」






依頼結果:成功
MVP
名前:紫月 彩夢
呼び名:彩夢ちゃん
  名前:紫月 咲姫
呼び名:咲姫

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 03月31日
出発日 04月07日 00:00
予定納品日 04月17日

参加者

会議室

  • [13]手屋 笹

    2015/04/06-23:52 

  • [12]紫月 彩夢

    2015/04/06-23:11 

    ヤックハルス相手に頑張ってみる感じで、プランは、送信できたわ。
    一応文字数に入れられるだけの余裕はあったから、トランスの文字は入れてみてる。
    咲姫がトリックスターで、あんまり一人戦闘には向いてないから、ちょっと不安だけど…
    どれだけサポートできるか…あたし自身も頑張り所なのかも。うん、頑張る。

  • [11]桜倉 歌菜

    2015/04/06-22:34 

  • [10]桜倉 歌菜

    2015/04/06-22:33 

  • [9]桜倉 歌菜

    2015/04/06-00:48 

    悩みに悩みましたが、限界に挑戦する意味でも、ヤグルロムと戦ってみようと思います!
    プラン書き上げましたが…わりと不安でガクガク中です…!(ぁ

    が、がんばりましょうねっ

    文字数何とかなったので、こちらはトランス化、一言入れておく事にしました(心配症←

  • [8]ハガネ

    2015/04/05-23:00 

    ああ、そうだ。
    今回だが、プロローグでトランスしたとあるからトランスはすでに入った状態から始まっていると判断していく予定だ。

    だからトランスのタイミングはプランに入れていないが…少し博打になっちまうかね。

  • [7]名生 佳代

    2015/04/05-01:57 

    おほほ、わたくし名生佳代ですわ。
    コチラは連れの花木宏介。
    歌菜お姉さまと笹お姉さまはお久しぶりですわ。
    彩夢お姉さまにハガネお姉さまははじめまして、ですわね。

    ゲフン、うちらはデミ・ベアーだねぇ。
    そんなに強くないと思うけど、油断は禁物って感じぃ?
    パートナーしか居ないから、危なくなっても助太刀は来ないってね。
    強敵と戦う姐さん達は気をつけて欲しいしぃ!

  • [6]ハガネ

    2015/04/04-23:08 

    なるほど。小細工や罠はなし。
    身1つと装備品でやりあうってことだね。

    お互い夢の中で会うことは無いだろうが、すっきり闇の中から脱出出来るといいな。

  • [5]手屋 笹

    2015/04/04-15:39 

    一面闇、についてはわたくしも何も無いから、の認識でした。
    特に光源等は無くても大丈夫ではないかと。

    床があるだけで他には何も無い不思議空間というイメージを持っていました。

  • [4]桜倉 歌菜

    2015/04/04-00:51 

    桜倉歌菜と申します。
    パートナーはライフビショップの羽純くんです。
    皆様、宜しくお願いいたしますっ!

    『一面闇』の解釈は、私も彩夢さんのご意見と一緒でした。
    何もない故の闇かなって。

    戦うオーガは、まだちょっと迷ってます。
    羽純くんの攻撃手段が、敵の攻撃反射特化になるので、
    良い練習相手になる相手を選びたいところですねっ
    折角だから、オーガと戦いたい所ですが…
    もうちょっと悩みます!

  • [3]紫月 彩夢

    2015/04/04-00:16 

    紫月彩夢と、姉の咲姫。
    手屋さんと桜倉さんは、おひさ…お、久し、ぶり……かな?
    他の方は、初めまして、よ、ね…報告書とかで見かけていた名前だから、何だか会っているような気分。
    えっと、今回は一緒に戦うってわけじゃないけれど、どうぞ宜しくね。

    あたしたちはヤックハルス…なのかな。
    デミじゃないオーガとの戦闘経験って、そう言えば殆どないのよね…
    二人だけで、上手く立ち回れるか、色々考えていこうと思う。

    一面闇、の解釈は、あたしは単純に、何もない故の闇、だと思っているわ。
    とても、単純に、小細工不要。二人の絆の見せ所……って言うと少し格好良く聞こえるかしら。
    そんな風に、捉えているわ。

  • [2]ハガネ

    2015/04/03-23:54 

    ハガネと坊主だ。手屋は久しぶりだったか。

    フリオ「坊主じゃない!オレ、フリオって言います!よろしく!」

    さて、今回はそれぞれで戦うことになりそうだな。
    共通認識は手屋が出した通りであたしらも同じ認識だよ。
    レベルによって好きなのを選べるって事だから
    LV4のあたしらはデミベアーかデミワイルドドッグ二匹のどっちかを相手にすることになるね。

    一面闇、向こうには見つかってる。
    あるかもわからない身を隠せる場所を探したりの小細工難しそうだね。

    この一面闇の空間が何もない故に闇なのか、視界が悪いから闇に見えるのか……あたしは前者で考えてるが後者だと見えない障害物があったら厄介だね。

  • [1]手屋 笹

    2015/04/03-15:11 

    手屋 笹です。
    よろしくお願いします。

    各組毎にオーガ戦を行う事。
    装備欄以外の物の持ち込みは出来ない事。
    現在のレベルに合わせて出現オーガを選択出来る。
    共通認識はこの辺りでしょうか。

    後は各ジョブと選択したオーガに合わせた作戦立案ですね。
    プラン上での協力は出来ませんが、出発の間まで
    不安な点や疑問点の相談はできると思います。
    何かありましたら遠慮なく会議室へお越しください。

    カガヤ:
    ヤックドロア・アスの選択不可避!
    さーて、頑張るぞ!


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