プロローグ
ある日曜日。
人魚姫伝説が伝えられる地域に建設された遊園地『マーメイド・レジェンディア』。
改装された古城の周りをさまざまなアトラクション施設がぐるりと囲っており、恋人同士や家族連れ、仲良しグループなどが楽しそうに行き交う。
と、そこへ、悲鳴があがった。
「2人で散歩していたら、突然後ろからパァンって紙袋を割られて……」
このカップルのほかにも、あちこちから被害が報告されている。
「持っていた風船にいたずら書きされたわ」
「お弁当にタバスコをかけられた!」
「彼と一緒に観覧車に乗ろうと思っていたのに、私が乗った後、彼が変な着ぐるみにまとわりつかれて、結局、私一人で乗ることになっちゃったの」
「記念写真を撮っていたら、いきなり乱入してきたんです!せっかくの2人の記念写真が、変な着ぐるみキャラクターとのスリーショットになってしまいました」
変な着ぐるみ?どれどれ。
あぁ、これ、シカモノハシくんですね。
鹿とカモノハシのハーフなんです。
子供向けのマイナーなアニメの脇役キャラでして。
今日はアニメの着ぐるみライブがあったんです。 風船も配ってたので、結構人が集まったんですよ。
おや、今、予備用のシカモノハシくん着ぐるみが紛失したとの情報が入りました。
どうやら、誰かがシカモノハシくんを着ていたずらしているみたいですね。
シカモノハシくんのいたずら被害にあっているのは、いずれもカップル。
目撃者の話によると、シカモノハシくんは背が低かったので、子供なのではないかとのこと。
カップルに恨みを持った子供?
正体は未だ不明。
なお、シカモノハシくんのいたずらは、上記のように
・散歩中後ろから大きな音をたてて脅かす
・風船にいたずら書き
・食べ物にタバスコをかけて逃げる
・観覧車など乗り物の二人乗りを阻止
・記念写真に乱入
などがあります。
この他にも、まだ確認されていないいたずらがあるかもしれません。
本日『マーメイド・レジェンディア』にお越しのカップルの皆さまは、シカモノハシくんに妙ないたずらをされぬよう、十分お気を付けください。これから日の暮れる時間ですから、油断できません。
当方もシカモノハシくん捕獲に尽力する次第です。
解説
『マーメイド・レジェンディア』は、入場料580Jrで内部アトラクションすべてを利用できます。
代表的なアトラクションは
・立体映像を見ながら馬に乗る『シアター・メリーゴーランド』
・咲き乱れる月光華を楽しむ石畳の道『ムーンライト・ロード』
・マーメイド・レジェンディアを一望できる観覧車『ブルーム・フィール』
などです。
他にもアトラクションはありますので、ご希望のアトラクションがあれば探してみてください。
ゲームマスターより
シカモノハシくんは、どうやらデートの邪魔をしたいみたいですね。
でも、ハプニングは2人の距離を急接近させるスパイスでもあるんですよ。
どのアトラクションでどんないたずらをされてしまうか、ちょっと楽しみじゃありませんか?
もし、利用したいアトラクションや、シカモノハシくんにされたいイタズラがあれば教えてくださいね。
シカモノハシくんの正体を暴きたい!とお考えの方もいらっしゃるかと思います。
でも、相手は子供のようですから、手加減してあげてくださいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
順花(ロビンフッド)
遊園地は小さい頃に行ったきりなんだよなぁ 懐かしいや とりあえず、どんなアトラクションなうか歩き回ってみよっか ロビィが来た事あるかわかんないし、案内も兼ねてだぜ 一般スキル「記憶術」で地図と実際の配置はきっちり覚えておくぜ 手は繋げると良いなぁ 絶叫マシーン、乗ってみたいな あったら行ってみよっか おなか減ったら遊園地の喫茶店に行ってみたいな 美味しいものあるといいな? 腹ごしらえが終わったら二人で観覧車『ブルーム・フィール』に行ってみよっか 悪戯っ子に会ってみたくないか? ロビィは悪戯されるよりもする方だしちょっかいかけそうだなぁ 楽しめればいいし構わないけどさ どっちへの言葉になるのやら 「あんまり悪戯しずぎるなよ」 |
リヴィエラ(ロジェ)
リヴィエラ: 【心情】 遊園地に行くなんて初めてです。 と、とととても緊張しています。 ロジェ様、私なんかとでは楽しくないに違いないわ…。 【行動】 『ムーンライト・ロード』を歩きたいなと思っています。 他にご一緒される方がいたら、ご挨拶します。 月光華を楽しんで、歩き疲れたら、ベンチに座ったりして… いつも忙しいロジェ様の疲れを癒して差し上げたいから…。 シカモノハシ様と出会ったら、どうしましょう。 私、驚かされたら、ビックリして転んでしまうかもしれません。 ロジェ様に激突してしまったら、もう謝るしか…(顔を真っ赤にし涙目) そ、そうだわ。 帰り際にロジェ様に「今日はありがとうございました」と伝えなきゃ。 |
雨宮 沙夜(白影)
【心情】 着ぐるみさんどこかしら… 【行動】 何でも可愛らしい着ぐるみがいるらしいから、シロさんと二人でその子を探しながら、遊園地を散策するわ。場所はムーンライト・ロードで。 今回はある目的の為に、悪戯されやすいよう敢えて風船を用意しておこうかしら。 それで着ぐるみさんが風船を割りに来たら…抱きつくわ!着ぐるみに!これが目的だったのよ! 「一度でいいからギューッとしてみたかったのよ」 でも捕獲する気はないから、抵抗されたらすぐに解放してあげるわ。 その後はシロさんと手でも繋いで、のんびりとお散歩しようかしら。 「着ぐるみさん可愛かったわね…でも抱き心地はシロさんの(尻尾の)方が良かったわよ」 |
キャロル・エテュアン(ジスカルド)
初めての遊園地楽しみですの ジスも一緒ですもの、きっと素敵な一日になりますわ 色々なアトラクションがありますのね 全部に行ってみたい気持ちはありますが時間には限りがありますものね 私は特にブルーム・フィールに行ってみたいですの 観覧車ってとっても高いところまで上がるのでしょう? きっと地上からは見えなかったものが見えてとても素敵だと思いますの 聞いた話だと着ぐるみさんが悪戯するのはデートしている人にですわよね? 私とジスはカップルに見えるのかしら 悪戯されたら見えたって事ですわよね そうだったらちょっと照れちゃいますの とっても楽しめたらきっとまた遊園地に来たいなって思いますの 勿論その時はジスも一緒ですわ |
黒山 メイ(ルズ・スピネル)
ルズくんと一緒に遊園地をまわります。 折角パートナーになったのですから、友好を深めましょう? ルズくんの好きそうなところは『シアター・メリーゴーランド』でしょうか。 遊園地内に着ぐるみを着た悪戯っこがいるみたいですけれど…、怪我に繋がるような危険な悪戯でないならそこまで気にしないでおいていても大丈夫かもしれませんね。 |
「なかなかに混んでいるなぁ」
にぎやかな園内を見回すロビンフッド。
「懐かしいなぁ。遊園地なんて、小さい頃に来たきりだ」
と、スポーティな外観の少女、順花。
「広くて迷いそうさ」
「俺の『記憶術』に任せておいて」
順花は案内板の前に立ち、園内地図を隅々まで目を通す。
「絶叫マシンとか、あれば乗ってみたいね」
「いいね、それ!よし、今日は絶叫マシンめぐりだ~!めざせ全制覇!」
一番近くにあるジェットコースターに向かって歩き出す順花。
「あ、お嬢。結構人が多いし、はぐれたら困るよ」
そう言って順花に手を差し出すロビンフッド。
(こ、これは……!手を繋ごうって、ことかなぁ)
差し出された手を見て固まる順花。しかし、その手をとる勇気が出ない。
「そ、そうだな、はぐれないよう、気を付けよう!」
ロビンフッドの意図に気付かないふりをしてしまう順花だった。
「たまには遊園地もいいですね、ルズくん」
遊園地の喧騒の中でも優雅さを失わない笑みで、黒山メイは隣に立つテイルスのルズ・スピネルに話しかける。
「ルズくんが行きたいアトラクション、当ててみましょうか」
「当たるッスかねぇ、結構難しいッスよ」
にやりと笑うルズだが。
「シアター・メリーゴーランドでしょうか」
「えっどうしてわかるッス!?」
一発で言い当てられてうろたえる。
「ふふ、私最近、どんどんルズくんのことがわかってきてるみたい」
「そんなにオレ、わかりやすいッスか?」
「さぁ。私がルズくんのこと、知りたいって思っているからかも」
「……!」
メイの言葉の真意をはかりかね、うろたえるルズ。メイはくすくす笑いながら、
「さ、シアター・メリーゴーランドに行きましょう」
と歩き出す。
「からかってるんッスね!」
ルズもメイに並んで歩き出す。そんなルズを見ていたら、メイはもう少し、ルズをからかいたくなってしまった。
「ね、ルズくん、手、繋ぎませんか」
「えぇぇっ?」
またも盛大にうろたえる。
「あら、イヤですか?じゃあ腕を組んだ方が良いかしら」
「いや、ちょ、ちょっとそれは……!」
身を引くルズ。
「ひどいわ。私、人込みでルズくんと離れるのが怖いのに……」
わざと悲しげな声を出し、顔を伏せて目元を押さえるメイ。
「あ~、いや、その」
顔を見なくても、ルズがあたふたしているのがわかる。もう少しからかってしまおうかしら。
「いいんです、私がちょっとわがままだったんですよね」
メイは顔を伏せたまま、足早に歩く。
すると、後方から、するりとメイの腕に何かが絡む。
(あら、ルズくんったら積極的……)
でも、感触がおかしい。
(なんだか、もふもふ)
腕だと思ったが尻尾でも絡んでいるのだろうか?
メイが顔をあげて腕を見ると、そこにいたのは。
「シカ?カモノハシ?」
奇妙な着ぐるみキャラクターが、そこにいた。
「こらっ、その着ぐるみ!メイさんに何してるッス!」
着ぐるみはぴょんと飛び跳ね、すたこらと逃げ出した。
「なんだったんでしょう、今の」
呆気にとられているメイとルズの周りで、
「あー、シカモノハシだ!」
「なんかあいつ、あちこちでいたずらしてるらしいぞ」
という声が聞こえてきた。
「私、遊園地って初めてですわ」
マーメイド・レジェンディアの門を前に、瞳をきらきらさせるキャロル・エテュアン。
「キャロル様、楽しみなのはわかりますが、走らないように。遊園地は逃げたりしませんよ」
連れ添うジスカルドは、体があまり丈夫ではないキャロルを心配する。
門を抜けると、遊園地での休暇を楽しむカップル、家族連れ、友人グループなどの人々で賑やかな園内。
「はぐれないように注意しないと……」
(手をつないだほうが安心かな……、いや、それはさすがに……)
キャロルは、ジスカルドの主人の大切な娘。そんな彼女に触れるのは、ジスカルドにとってハードルの高いものだった。
「あ、あれは何かしら」
キャロルは、遠くに見える観覧車を指さす。
「ブルーム・フィールという観覧車ですね」
ジスカルドが案内板を見つつ説明する。
「観覧車ってすごく高いところまで上るのでしょう?きっと地上からは見えなかったものが見えてとても素敵でしょうね」
「では、そちらへ行ってみましょうか」
2人はブルーム・フィールに向かいながら、途中にあるアトラクションや催し物も楽しんだ。
「ここはたくさん人が並んでいますわね」
「この遊園地で一番人気のシアター・メリーゴーランドですね」
「あら、メイさんですわ」
列の中に、知った顔を見つけるキャロル。
「こんにちは」
「あら、キャロルさん」
声をかけると、メイもにこやかに挨拶を返す。
「キャロルさんたちも、着ぐるみさんに会いましたか?」
きょとんとするキャロルとジスカルド。
「シカモノハシっていう着ぐるみが、園内に出没するらしいッス」
と、ルズ。
「話によると、カップルを狙っているそうですよ。私たちもデート中にいたずらされたの」
「えっ、デート?えっ?」
さらりと言ってのけるメイにうろたえるルズ。そんなルズをちらりと見て微笑むメイに、ルズは「またからかわれたッス」と独り言ちる。
「お二人も気を付けてくださいね。では」
どうやら、園内に不届き者がいるらしい。
これは気を付けなければ、とジスカルドは気を引き締めるのだった。
「ここは景色が綺麗で、歩いているだけでも楽しいね、シロさん」
雨宮沙夜は園内にそびえたつ古城を眺める。
「お嬢が楽しそうでなによりだぜ」
沙夜のパートナー、白影も満足そうに尻尾を揺らす。
「シロさん、お散歩していたら、いろんな人が『シカモノハシ』さんのお話していたのが聞こえたんだけど」
「ああ、俺も聞こえたぜ。なんでも、あちこちでいたずらしているとか」
「会ってみたいね!そしてもふもふの着ぐるみさんを、ぎゅーっとしたい!」
まだ見ぬ着ぐるみの姿を想像してうっとりする沙夜。
「お嬢はそういうのに弱いからなぁ」
「どうしたら着ぐるみさんに会えるかしら」
「風船を割られたって人もいるみたいだぜ」
「じゃ、風船持ってたら着ぐるみさん来てくれるかしら」
「仕方ない。俺が風船を探してきてやるぜ」
「ありがとう、シロさん!」
いたずらシカモノハシは、今や園内で噂の的だった。
はじめはそのいたずらに戸惑っていた客たちだったが、そのうち、「楽しそう!」「会ってみたい!」という声もあがりはじめていた。
「リヴィー、気を付けて歩けよ」
「は、はいっ」
リヴィエラと共にマーメイド・レジェンディアに来ていたロジェは、着ぐるみの噂に警戒していた。
おかしな着ぐるみがリヴィエラにいたずらしないとも限らない。
ロジェの本業はA.R.O.A.での警備、武器開発。それに加えて、リヴィエラと出会ってからは彼女の身を護るために日夜気を張っている。
そんな彼を見かねてか、彼の上司から「たまには休暇をとってこい」と命令された。そこで、リヴィエラに行きたいところはないかと尋ねたところ、マーメイド・レジェンディアに行ってみたいということで、今に至る。
2人とも遊園地は初めてなうえ、未だ距離のある関係であるが故、会話もぎこちないものになる。
いや、2人の間に距離があるのは仕方のないことなのだ。ロジェが故意にリヴィエラと近づきすぎないようにしているのだから。
そんなロジェの態度が、リヴィエラを不安にさせているのだが。
いくつかアトラクションを利用したりもしたのだが、リヴィエラには、どうにもロジェが楽しんでいないように見えて仕方ない。
(ロジェ様、私なんかとでは楽しくないに違いないわ……)
気落ちするリヴィエラに、ロジェが声をかける。
「リヴィー、なぜマーメイド・レジェンディアに来たかったんだ?」
「あ、あの、それはですね。『ムーンライト・ロード』を歩いてみたくて……。月光華という花に照らされて、昼も夜も、とても美しい遊歩道だそうです」
控えめに微笑むリヴィエラ。美しい景色で、少しでもロジェが癒されてくれたら……。リヴィエラには、そんな考えもあってのことであった。
「だったら、先にそれを言ってくれ。君の行きたいところに行かないんじゃ、今日来た意味がないだろう」
ロジェはムーンライト・ロードに向けて歩き出す。
「ご、ごめんなさい」
リヴィエラも、ロジェの後を追った。
「いやぁ~久しぶりに絶叫マシン乗りまくったぜ」
満足した順花たちは、喫茶店で遅めの昼食をとっていた。
「この後、ブルーム・フィールに行ってみよっか。悪戯っ子に会ってみたくないか?」
シカモノハシの噂は、2人の耳にも届いていた。
「ブルーム・フィールで会った人も多いらしいね」
ロビンフッドがにやりと笑った。
「もし会えたとしても、あんまり意地悪するなよ」
「するわけないさ」
「どうだか……」
ブルーム・フィールに到着するまでに、あちらのアトラクション、こちらの催し物と歩き回っていたキャロルとジスカルド。
ずっとはしゃぎ回っていたキャロルは、疲れてきているようだった。
「キャロル様、少し休みませんか」
「そんな、休んでいる時間がもったいですわ」
「ブルーム・フィールにたどり着く前に倒れないでくださいね。でも、キャロル様が楽しそうでなによりです」
「ええ、楽しいですわ。ジスと一緒だから尚更楽しいんですわね」
キャロルはにっこり笑う。
「それは光栄です」
そして、ブルーム・フィールにたどり着く。
「キャロル様、足元にお気を付けくださいね」
ゴンドラには先にキャロルを乗せ、安全に乗り込んだのを確認してから、ジスカルドが乗ろうとする。
そこへ飛び込んできたクリーム色の塊。
塊は、ジスカルドに体当たり。一瞬よろけるジスカルド。
その隙をついて、シカモノハシがゴンドラに乗り込む
「あっ、キャロル様!」
無情にも、ゴンドラはジスカルドを地上に残し上っていった。
「キャロル様……」
ジスカルドは、やはり手を繋いでおくべきだったか、と悔やむのだった。
「ジスカルド、大丈夫でしたか?」
やっとゴンドラが一周して、キャロルが戻ってくる。
「キャロル様こそ!」
「私は、楽しかったですわよ」
素直な笑顔でキャロルが言う。
「キャロル様が無事で、楽しかったのならいいですけど……でも!」
ジスカルドは、そろりそろりと逃げようとしているシカモノハシの手を掴む。
「あなたが何者かわかりませんが、こんないたずらばかりしていてはいけませんよ!楽しんでくれる人ばかりではありません。もしかしたら、悲しんでる人だっているかもしれない。そんなの、あなただって嫌じゃないですか」
シカモノハシは、ジスカルドのお説教を聞きつつだんだん項垂れていった。
「ジスカルド、相手はまだ子供ですわ。あまり強く責めては可愛そうですわ」
キャロルに言われ、ジスカルドはシカモノハシから手を放す。
「とにかく、こんないたずらはもうやめて、みなさんに謝って……って、こらーーーーーっ」
シカモノハシはぱっと走り出し、ちょうど地上に到着して扉が開いていたゴンドラの中に逃げ込んだ。
「困ったものですね」
「ねぇジスカルド」
「なんですか、キャロル様」
「あの着ぐるみさんが現れたということは、私たち、デートしてるって思われたんですのね」
「!?」
「なんだか、照れてしまいますわね」
と、キャロルは無邪気に笑うのだった。
ジスカルドは咳払いをひとつしてから、
「おかしなことを言ってはいけませんよ。さ、キャロル様、陽も落ちてきました、今日はそろそろ帰りましょう」
「残念ですわ。ブルーム・フィールからの景色はとても素敵でしたのよ。もう一度、今度はジスカルドと一緒にあの景色を見たいですのに」
「わかりました。ではもう一度ブルーム・フィールに乗ってから、帰りましょう」
さてシカモノハシが逃げ込んだ先は、なんと順花とロビンフッドが乗るゴンドラだった。
「いや~、なんだか可愛いのが乗ってきたなぁ」
ロビンフッドはシカモノハシの頭をぐりぐりなでる。
「そういや悪戯っ子が出るって聞いていたけど、君のことかな」
ロビンフッドがあまりに激しくなでるので、シカモノハシの頭部がとれそうになるほどだ。
「や、やめろ~」
シカモノハシの顔の中から、幼い少年の声が聞こえる。が、ロビンフッドはお構いなし。
「いたずらなんて、誰かの気を引きたいお子様のすることさ。で、アンタは誰の気を引きたいのかな」
図星をついたらしい、シカモノハシが短い腕をぶんっと振り上げる。ひょいと避けるロビンフッド。
「おお怖い怖い。こんな怖い悪戯っ子は、窓から落としちゃおうかな」
ゴンドラの窓を開けるロビンフッド。
「こらロビィ、やめろって、怖がってるだろ」
「落としちゃうぞ~」
順花がだしなめるのも聞かず、ぐいぐいとシカモノハシを引っ張るロビンフッド。
「やめろって~~」
「あっはっはっはっは。落とすわけないさ。なんてね。やっぱり落としちゃおうかな~」
「ロビィ!」
そんなやりとりをしつつゴンドラは1周し、地上へ降りてくる。
ゴンドラの扉が開いたとたんに、シカモノハシは脱兎のごとく逃げ出した。
「もっと遊びたかったなぁ、シカモノハシ君と」
「向こうはそう思ってないと思うぞ……」
「着ぐるみさん、どこかしら」
月光華が揺れるムーンライト・ロードを歩く沙夜。隣には、風船を持った白影。
風船はイベント会場でスタッフからゲットしたものである。当初、沙夜が風船を持ちたがったのだが、風船のせいで沙夜がシカモノハシに襲われてはいけないと、白影が持つことにしたのだ。沙夜は、風船ではなく白影の尻尾を握りしめて彼の隣を歩く。
「着ぐるみが出たらどうするんだ?捕まえてやってもいいぜ」
「捕まえるなんて!私はただ、ぎゅーっとできればいいの。ああ、着ぐるみさんをハグするのが楽しみ」
「ん?」
白影が、耳をぴくりと動かす。
「お嬢、後ろから、妙な足音が聞こえてくるぜ」
「妙?」
「ああ、靴とはまた違う音だ」
「着ぐるみさんね!シロさん、気付かないふりして、普通に歩くのよ」
「承知してるぜ」
わくわくしながら歩く沙夜。
沙夜の耳にもはっきり足音が聞こえるくらい近くに来た。
白影の持つ風船がちょんと引っ張られる。その瞬間を白影は見逃さない。
「こらっ」
風船が割られると共に振り返る白影。びくっとして飛び跳ねるシカモノハシ。逃げようとするも、白影が回り込む。
立ち往生するシカモノハシの背後から
「着ぐるみさ~~~んっ」
と抱き付く沙夜。
「きゃあ、思ったとおりもふもふっ。ふかふかっ。抱き心地良いわ~」
うっとりとしつつ、シカモノハシをなでる。じたばたするシカモノハシ。
「は~な~し~て~」
シカモノハシの中から、男の子の声が聞こえる。
最後に頬ずりしてから、沙夜はシカモノハシを解放した。
シカモノハシはその途端ぴゅーっと逃げていく。
「あ~満足したわ」
すっきりした笑顔の沙夜。
「お嬢は本当に、ふわふわしたのとかもふもふしたのが好きだねぇ」
「だって、抱き心地がいいんだもの。もちろん、一番抱き心地がいいのはシロさんの尻尾よ」
「…へへっ!家帰ったら好きなだけハグさせてやるよ」
「あら、尻尾になにか、ついてるわ」
見ると、割れた風船の破片が、白影の尻尾についている。
それを取ろうと、沙夜と白影が同時に手を伸ばし、それがぶつかる。
「おっと……っ」
お互い手をひっこめて笑い合う。
「せっかくだし、たまには尻尾じゃなくてこっちでどうだい」
と、白影は手を差し出す。
しかし躊躇する沙夜を見て、
「というのは冗談だけどな」
と、手をひっこめ、2人は並んでムーンライト・ロードを歩き始める。
陽が落ちかけて、月光華は少しずつ輝きを増す。その光に照らされた石畳の遊歩道、そして白影の尻尾は美しく輝いていた。
沙夜ははじめ、白影の尻尾を掴んで歩いていたが、やがて、そっと白影の指先に触れた。
「お嬢?」
「ふふ、手を繋ぐのも、いいものですね」
「あ、ああ、だよな」
手を繋ぐというより、指先をからめる程度ではあったが、それでも、2人の中で大きな進展だった。いつもよりほんの少し、大胆になってしまったのは、月光華の光のせいかもしれない。
「あら、あそこにいるの、リヴィエラさんたちだわ」
沙夜が、前方にリヴィエラとロジェを見つける。
「こんにちは」
リヴィエラも沙夜たちに気付いたようで、挨拶を交わす。
「白影さん、それは?」
白影が片手に風船の破片を持っているのに気付いたロジェが訊く。
「ああ、これかい?ついさっき、着ぐるみにやられたんだよ」
「とーっても、抱き心地良かったわ」
沙夜が満足そうな笑みで言う。
「オマエらも会うかもな、じゃあな」
「沙夜様、楽しそうでしたね」
沙夜たちを見送って、リヴィエラが呟く。
「ふむ。シカモノハシね。楽しんでいる人もいるようだし、害のあるものでなければ放っておこう」
「はい」
石畳を照らす月光華の光はますます輝き、その光に照らされたリヴィエラは月の女神のごとく美しく見える。
リヴィエラの美しさはロジェの心をひきつける。けれど、だからこそ。ロジェはリヴィエラと距離を取らねば、と思うのだ。彼女を自分のそばに置いて、万が一にも危険な目に遭わせてしまうのが、怖い。
「ロジェ様?」
「なんだ」
「綺麗ですね、月光華。来てよかった」
リヴィエラが微笑む。
ロジェがいくら突き放しても、リヴィエラはロジェに笑いかける。
「そうだな……」
遠くに視線を馳せるロジェ。と、その視界に、クリーム色の塊が紛れ込んでくる。
「……」
どう見ても、着ぐるみ。
街路樹の影に隠れているつもりらしいが、バレバレである。
(こんなわかりやすいものに気付かない奴がいるものか)
ロジェはシカモノハシにかまわず、そこを通り過ぎるつもりでいた。
ところが。
「ばぁっ」
飛び出してきたシカモノハシに
「きゃああっ」
見事に驚かされ、その拍子に小石につまずきロジェの背中に顔から突っ込むリヴィエラ。
(こんなわかりやすいものに気付かない奴が……いた)
「待てっ」
ロジェが怒鳴るも、シカモノハシは短い脚を懸命に動かして走り去る。
ロジェも、座り込んでしまったリヴィエラを置いて追いかけるような真似はしない。
「まったく……大丈夫か」
「は、はい。ご、ごめんなさい」
真っ赤な顔で謝るリヴィエラ。
「あんなものに驚かされるなんて、不注意もいいところだぞ」
「ごめんなさい……」
「立てるか」
「は、はいっ、立てます」
ロジェが手を差し伸べるまでもなく、リヴィエラは立ち上がり膝についた砂をほろう。
(本当に……目が離せないな……)
「今日は楽しかったですね。シアター・メリーゴーランドも素敵でしたし」
「人魚姫の話……すごく良かったッス」
「また来たいわね」
園内に帰り足の客が増えたころ。
メイとルズも、そろそろ家路につこうかと出口に向かって歩いていた。
「あら?あれは……」
メイとルズは、ごみ箱の後ろでうずくまっているシカモノハシを発見する。
「着ぐるみさん、どうかなさったの?」
メイはシカモノハシに近づく。
「帰れない」
シカモノハシの中から、少年の声がする。
「え?」
「帰りの電車賃、落とした……」
メイとルズは顔を見合わせる。そして、シカモノハシをマーメイド・レジェンディアの事務室に連れていくことにした。
シカモノハシの正体は、マーメイド・レジェンディアの従業員の息子だったそうだ。
彼は、憧れの先生が結婚することに大変ショックを受け、先生がデートでマーメイド・レジェンディアに来ていると知り、いたずらを決行。
標的がカップルばかりだったのは、カップルの姿に先生たちの姿を重ねて見てしまったから、とのことだった。
これにて、シカモノハシ騒動は終結。
しかし、シカモノハシのいたずらは意外と好評だったため、マーメイド・レジェンディアでは、いたずらする着ぐるみが園内に出没するイベントを考えているとかいないとか。
ともあれ、マーメイド・レジェンディアを訪れた皆さまにとって、今日の出来事が良い思い出になりますように。
依頼結果:普通
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月20日 |
出発日 | 03月30日 00:00 |
予定納品日 | 04月09日 |
参加者
- 順花(ロビンフッド)
- リヴィエラ(ロジェ)
- 雨宮 沙夜(白影)
- キャロル・エテュアン(ジスカルド)
- 黒山 メイ(ルズ・スピネル)
会議室
-
2014/03/29-21:38
まあ、満員になりましたのね。
ますます当日が楽しみになりましたの。
私達は『ブルーム・フィール』に行くことにいたしました。
着ぐるみさんはデートの邪魔をしてくるとのことなので逆に遭遇してみたい気持ちがありますの。
他の方から見てデートに見えるのかしら…。どきどきしますの。
もうすぐ出発ですわね。
みなさまが素敵な一日を過ごせますように。 -
2014/03/27-18:02
わっ、ご一緒できるなんて嬉しい!
もしかしたら、シカモノハシ様に抱き付く沙夜様を見られるかもしれないのですね。
素敵な休日になりそうです。
ロジェ:
…誤解を受ける表現はやめておけ、リヴィー。
俺は、シカモノハシを泳がせておくつもりだ。
沙夜さんは存分に、奴に抱き付いてやって欲しい。大きな音については心配するな。 -
2014/03/27-17:12
最初は私しか参加者がいなくてドキドキしましたが、無事に満員御礼になりましたね。
改めて、皆様よろしくお願いします。
私達はムーンライト・ロードに向かいます。
捕獲する気はありませんが、私が着ぐるみに抱きつきたいので、誘き寄せる為にも敢えて風船を持っておくことにします。
大きな音がするかもしれませんが、その時は御容赦下さいね…
皆様、楽しい遊園地デートになると良いですね -
2014/03/27-10:51
はじめまして、俺は順花っていうんだ。
相棒はディアボロでトリックスターのロビンフッドだ。
よろしくなー。
俺は遊園地は初めてではないけれど、楽しみだな。
シカモノハシの悪戯はあれだけど、面白そうだよな。
俺らはぶらりと歩きつつ、アトラクション探してようかなーと思ってるぜ。
あ、『ブルーム・フィール』に行ってみたいんで、そっちにいるかも。 -
2014/03/26-17:06
初めまして、リヴィエラと申します。
パートナーはプレストガンナーのロジェ様です。
今回、『たまには休暇を取ってくるように』との事で
ご一緒させて頂きます。宜しくお願いします。
実はキャロル様と同じく、遊園地は初めてでドキドキしています。
どうやらシカモノハシ様にイタズラされてしまうかもしれないのですね。
ふふ、何だか楽しみです。
『ムーンライト・ロード』を歩きたいなと思っています。
ご一緒される方いらっしゃいましたら、宜しくお願いしますね。 -
2014/03/24-23:58
初めまして、キャロル・エテュアンと申します。
パートナーはマキナのジスカルドですの。
今回はよろしくお願いいたします。
遊園地は初めてなので楽しみですの。
着ぐるみさんの正体も気になりますがそれも含めて楽しめたらなと思っていますわ。 -
2014/03/24-20:03
黒山 メイです。どうぞよろしくお願いしますね。
私としましては、危ない悪戯でなければされても構わないのですけれど、
着ぐるみの中身がどんな方なのかは気になりますねぇ。 -
2014/03/24-13:48
一応ご挨拶しておきましょうか…
雨宮 沙夜と申します。パートナーはテイルスのシロさんです。
ご一緒される方々がおられましたら、よろしくお願いしますね。
それにしても着ぐるみ…捕獲とまではいかなくても、抱きつくぐらいはしたいわねぇ…