アロマカフェ「ジュレッタ」(草壁楓 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●アロマカフェ「ジュレッタ」
 タブロス郊外、家族の憩いの場であるとある公園近くにあまり目立たないカフェがある。
 外観は白を基調にした建物に、全面ガラス張りの窓、窓側には観葉植物が並び更に4人掛けのテーブル席が5つ並んでるのが伺えた。
 出入り口付近にウェルカムボードがあり、店名「ジュレッタ」とオススメのメニューが書かれている。
 更に小さく、

『思いの丈をぶつけてみませんか?』
『普段言えないことを打ち明けてみてはいかがですか?』

 などと書かれている。

 そのボードを見た一組のカップルは少し不安げに中を覗き込んだ。
 どうやら来店予定者のようだ。
 カップルは意を決しガラスの扉をそっと開ける。
 中に入ると緑のエプロンを着て、顔の横で髪を結っている優しそうな40代の女性が立っている。
「いらっしゃいませ、ジュレッタへようこそ」
 落ち着いた声で来客を迎え入れた。
 入店したカップルは辺りを見回した。
 外観と同じく内装も白を基調としており、椅子にテーブル、壁に床、天井までも白で統一されている。
 その内装の中に観葉植物が壁など所々に配置されていて、落ち着いた雰囲気だ。
「お好きな席にどうぞ、お水お持ちしますね」
 にこやかに店主は席に促すが、カップルは動こうとしない。
「お客様?」
 するとカップルの女性は話し出す。
 彼女はどうしても彼に話したいことがあるが、勇気が出ずに大事なことが話せないでいると話した。
 それを聞いた店主は話を聞き終わるとにこやかに笑顔を向け、
「では、こちらへどうぞ」
 と言い店内の奥へと案内した。
 奥に進むとランプの明かりだけの少し薄暗い個室へと通す。
「こちらになります、それとこちらの紙に記入をお願いします」
 カップルを席に座らせると、1枚の紙を手渡した。
「こちらの質問にご記入ください、後ほど取りにきますね」
 そう言うと店主はそっとその場から離れていった。

 
 それから数分後、店主は再び奥の個室へと赴いた。
「失礼致します、ご記入終りましたでしょうか?」
 そう問われたカップルは店主に紙を手渡した。
「準備してまいりますので、少々お待ちください」
 カップルにそう告げて再びその場から立ち去った。
 紙に目を通すと店主は考え出す。
(えーと、気分は落ち着いて、雰囲気は少しロマンチック、アフターティーは笑顔になれる、デザートが紅茶シフォンとガトーショコラね)
 思考しながら厨房へと入っていく。
 厨房に入ると棚からいろいろな機器を取り出し、小さい茶色の瓶をいくつか選別し机に並べた。
「まず落ち着けるように、ネロリにクラリセージ、更にローマンカモマイルを入れて」
 言いながら小さい茶色の瓶の中身を違う瓶に入れていく。
「雰囲気が……ロマンチックで」
 机に並べた瓶を見ながら思考を繰り返す。
「ローズにサンダルウッド、イランイランをほんの少しっと……精油の準備は大丈夫ね」
 混ぜ合わせた精油をガラス棒で混ぜていく。
 次に店主は違う棚に行きハーブを数種類取り出した。
「笑顔になるか……元気になる感じかな……デザートは紅茶シフォンとガトーショコラだから」
 店主の独り言は続いていく。
「少し酸味をと思うから、ローズヒップにハイビスカスを少しずつにオレンジピールを入れようかな」
 少し鼻歌を交えながら作業を進めていく。
「デザートも準備できてるし、これで大丈夫ね」
 そう言うと店主は精油の入った瓶をまず持って再びカップルの下へと向かった。


「お待たせ致しました」
 そう言うと置いてあったランプに水を注ぎ、さらに精油を数滴たらす。
 置いてあるランプにそれを済ませると、店主はにこやかに微笑み、
「ここは防音になっておりますので、気兼ねなくお話くださいませ」
 と言ってその場から去っていった。
 それから1時間すると店主はハーブティーとデザートを運ぶ、個室ではカップルは穏やかに過ごしているのを見て、安堵の息が漏れる。
「お時間はまだございますのでごゆっくりしていってくださいね」
 カップルに視線を合わせながらそう言うとまた個室から離れていく。


 店内が少し賑わい始めたころ個室からカップルが出てきた。
 店主の下へと駆け寄ると彼女はにこやかにお礼を言い、また彼氏も落ち着いた表情で軽く会釈をする。
 思っていたが話せなかったことがスムーズに落ち着いて、全て話せたと彼女は言う。
「それは何よりです、お役に立ててよかったです」
 彼女の言葉に優しい微笑みで店主は言う。
 会計をすませ、また来たいということを店主に伝えるとカップルは仲良く店を後にした。
 店主はカップルの手を繋ぐ後ろ姿に安堵し、2人の背中を見送った。

解説

●いつもは言いづらいことをパートナーに打ち明けてみましょう
 ・打ち明ける内容は、愛の告白、懺悔、ちょっとした文句、などどのようなことでもいいです。
 ・打ち明けるのは神人か精霊のどちらかとなります。
 ・個室は完全防音ですので、他者には聞かれることはありません。安心して打ち明けてください。

●店主がその内容を見てアロマとハーブティーを作成します。
 ・希望の精油などが御座いましたらそれを考慮し作成も可能です。
 ・好きなハーブティもあればそれを入れて作成します。

●アロマとハーブの調合代(飲食付き)
 ・1組600jr

●プランについて
 ・話すときにどんな状態でいたいか。
 ・雰囲気はどうするか。
 ・アフターティーでどのような気分になりたいか。
 ・デザートは、紅茶シフォン、ガトーショコラ、ティラミス、季節のシャーベット、フルーツゼリーからお選びください。

 ・打ち明けた方はどのような内容か、またそれを打ち明けられてどう反応をするかもお書きください。

 上記5点はプランにお書きくださいますようお願いします。

ゲームマスターより

お世話になっております、草壁でございます。

趣味でアロマをしているのでそこから思い付いたエピソードです。
普段言えないようなことを話してみましょう!!
よろしくお願いしますm(__)m

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  お互いに心境の変化で変えたことがあります
私は髪を伸ばしましたし、ディエゴさんは髭を揃え始めました

ディエゴさんが言うには「いつまでもウィンクルムとして新人ではいれないから見た目だけでも威厳を」との事ですが…

……似合わないです、口髭は
いってしまった…まあ、本当のことなのではっきり言います
尚更老けてみえる
髪型もいじらないで、単にだらしなく見えるだけですから
全剃りか…髭は残したいなら、口髭は剃って髪型も変えてください

服装に困ったらスーツ着るディエゴさんより、私はセンスあると思います。

それに
はっきり言うのは私で、相手はディエゴさんだからですよ
普通は似合ってないねそれ、とか言える人いないでしょう。



テレーズ(山吹)
  話す状態:落ち着き
雰囲気:和やか
アフターティー:余韻
ティラミス
打ち明ける

私がしたいのは…宣戦布告、でしょうか

あら、お気づきでしたか
昔の夢を見たら色々と感情が沸きあがってきまして
今となっては何で忘れていたのでしょうと不思議ですが…
乙女心は繊細という事ですね

でも不幸といえば不幸でしたね
失恋したり、顕現したり、適合相手だったり、ね?

それで本題ですが
一度ふられたら諦めなければいけないなんて事はありませんものね
ここ一年一緒にいて改めて考え、やはり勘違いではないと至りました
特定の方がいる訳でもないのも把握済みです
諦める道理はどこにもありませんね

では、今度ともよろしくお願いしますね
時間はいっぱいありますから


ペシェ(フランペティル)
  アロマ大好きなのでワクワクしてます
フランってばうるさいです
でも、何だか空元気のような…

緊張してるようなのでリラックス状態にして
穏やかな雰囲気で肩の力を抜かせましょう
アフターは晴れやかになれるように
デザート:ティラミス(神人)ゼリー(精霊)

見せられた写真の女の子可愛いですね
誰かに似てるような?
女物の服や歩き方に詳しい理由に納得です

え?良く聞こえないです
この一言のためにあんな緊張してたんですか?

私もフランのお陰で服飾やデザインとかの本も読むようになって視野が広がりました

ありがとう

お互い良い刺激がある関係って、素敵だと思いませんか?

これからもよろしくって言いたいんですよね
素直じゃないんだから…ふふ



●言えない一言 

 タブロス郊外のとある公園近くをペシェとフランペティルは歩いている。
「アロマ大好きなのでワクワクしてますね」
 2人はその公園近くにあるアロマカフェを目指し歩いていた。
「今日は天気がいいなぁ~~~」
 ペシェの言葉を聞いていないのか突如として天気について話し出すフランペティルの様子に少々困り顔になる。
 確かに天気は雲一つない快晴ではあるが、普段のフランペティルはそのようなことは言わない。
(なにか話さなくては!!)
 彼はそう、ペシェに緊張を気付かれないようにしているだ。
 ある日フランペティルは何気なく雑誌に目を通していた、その横に居たペシェはアロマカフェの記事に目が止まり、
 「行ってみたいです」
 と言い出したのだが、その記事を読んでいるうちにフランペティルが行く気満々になった。
 記事には『普段言えないことを打ち明けてみてはいかがですか?』と大きい見出しが付いていたからだった。
(ペシェに普段言えないことか……よい機会かもしれないな)
 それで来たのはいいのだが、フランペティルは緊張のせいかどうも落ち着かないのである。
「鳩もよく飛んでいて、本当に良い日だな!」
「フランってばうるさいです」
 話す言葉一つ一つの声が大きく、その声にペシェは注意をする。
 そんなペシェの言葉を無視しているのか、聞こえていないのかそのままフランペティルは話しが止まらない。
「ペシェも楽しみにしているカフェだ!行こうではないか!」
 フランペィルも緊張はしているものの、少し楽しそうな顔をしているのは確かである。
(でも、何だか空元気のような…)
 少しの不安を胸に2人はカフェの中に入っていった。

 店内に入ると2、3組の先客がいる。
 2人が店内を見渡しているとそこに店主が現れた。
「いらっしゃいませ!」
 穏やかに2人を迎え入れると席を案内しようとするが、
「普段言えないこととやらのをだな」
 遮るようにどう説明していいのか分からずフランペティルは必死に身振り手振りを交えながら言う。
 そのなんだか必死な様子にペシェはいつもとは違うなと感じている。
「あ、はい、それではこちらへどうぞ!」
 そんな様子のフランペティルをスルーするかのように店主は2人を店内奥へと案内した。
 その案内された部屋は薄暗く、最初に居た店内とはまるで真逆の雰囲気である。
「随分暗いですね」
「そうだな……」
 通路には所々ランプがあり、けして足元が見えない程でもない。
「こちらになります」
 通された部屋はオレンジ色のランプが数個置いてあり対面する形で椅子が2脚ある。
「こちらにお掛けになって少々お待ちください」
 店主はそう言うと2人を置いて部屋のドアを静かに閉めて居なくなった。
「雰囲気悪くないですね」
「そ、そのようだな」
 ペシェは室内にあるランプやその他装飾品を見てにこやかである。
 フランペティルといえば室内は見ているもののどことなく落ち着かない。
「今日のフランなんだか……」
「な、なにがだ!」
 じっと見つめてくるペシェにフランペティルはそそくさと視線を逸らす。
「お待たせしました。お水どうぞ、あとこちらに記入お願いします」
 やり取りをしているとそっと店主が中に入り、水の入ったコップを2つと紙を2人の前に差し出した。
「ありがとうございます」
 ペシェは軽く会釈をすると紙を見る。
「こちらに記入していただければ、あとはこちらで用意しますね」
 店主のにこやかな笑顔にペシェは「はい」と優しく答えた。
「では、また後ほどきますので」
 また店主は静かに2人のいる部屋を後にした。
 
「我が書こう!」
 なんだか勢い良く取ろうとするフランペティルだが、すぐさまそれをペシェが止める。
「フラン、待ってください!」
「うむ……」
 少し強気に出てきたペシェに直ぐに怯む、やはりなんだかおかしいと思いながらもペシェは紙に書いている内容を読み出した。
「気分、雰囲気、アフターティー、デザート、項目は4つみたいですね」
「4つか」
「まずは気分は……フランが緊張しているみたいなので、『リラックス』にしましょう」
 フランを見ながらペシェは決めていく。
「次は雰囲気ですね、『穏やかで肩の力が抜ける』」
 ちらちらとフランペティルの様子を見ながら笑顔を浮かべながらスラスラと書いていく。
「アフターティーは『晴れやかになれるように』。デザートは何がいいですか?」
 そう言うとペシェはデザートが書かれたメニューをフランペティルに渡す。
「ゼリーが良い」
「ゼリーですね、じゃあ私はティラミスで」
 記入欄に全てを記入し終わると2人は同時に水を口に含んだ。
(今日は本当にどうしたんでしょう……緊張し過ぎな気がします)
(ちゃんと伝えなければ)
 お互いそう思いながらもいつも通りに振舞う。
 ドアがノックする音がし、店主が中に入ってくる。
「記入終りましたでしょうか?」
「えぇ、よろしくお願いします」
 記入済みに紙を受け取ると店主は足早に去っていった。
「どんな香りがくるか楽しみですね……フラン?聞いてます?」
「……あ、あぁ楽しみだな」
 普段は偉そうなフランペティルが落ち着きがなく、あまりペシェとも視線を合わそうとしない。
 ペシェは首を傾げながらそれを見守っていた。

 それから程なくして2人の下へと店主がやってきてランプに精油を垂らしていく。
「説明させていただきますね」
 そういうと『リラックス効果』と『穏やかで肩の力が抜ける雰囲気』の精油について説明を始めた。
 2人にブレンドされた精油は
 
 ・ラベンダー
 ・ベルガモット
 ・カモミールローマン
 ・ゼラニウム
 ・クラリセージ
 
 の5つである。
 ラベンダーには安らぎ、ベルガモットにはリフレッシュ、カモミールローマンには鎮静効果、ゼラニウムには情緒不安定への効果、クラリセージには気持ちを静め明るい気持ちにする、
 という効果があると説明する。
 説明し終わると店主は会釈をして、
「では、ゆっくりとお寛ぎください」
 と静かに部屋を後にした。

 数分経つと部屋の中には花の香りに青りんごとマスカットのような爽やかな香り、そして柑橘系のすっきりした香りが充満し始める。
「いい香りですね」
「そうだな」
 ペシェは目を瞑り鼻から吸い込む。
 フランペティルはその様子のペシェを見ながら深呼吸をする。
 その後に一つ息を吐くとペシェの前に1枚の写真を差し出した。
 そこには可愛らしい姿のモデル体系の女の子が写っている。
「この写真の女の子可愛いですね」
 それがペシェの率直な意見だった。
「誰かに似てるような?」
 更にペシェは写真をまじまじと見るとそう呟く。
「我が父がデザイナー、母が女優をしてた影響でモデルをしていた頃の写真だ」
 数回ペシェはフランペティルの顔と写真の女の子を見比べる。
「女物の服や歩き方に詳しい理由に納得です」
 笑顔でペシェは答える。
「成長と共に限界を感じて廃業した。まぁ今も似合う自信はあるが仕事には背が足りない」
 フランペティルの話に黙ってペシェは聞く。
「以降は何事も打ち込めず高等遊民をしていた」
 そういうと天を仰ぐ。
「ペシェが好きなものや拘りに堂々とする様が羨ましく思っていた」
 その言葉にペシェの大きな瞳はさらに見開かれる。
「ペシェがデザインや服選びで信頼してくれた事で自分が本当に好きなものや、やりたいことが見付けられた事に我は感謝している」
 言葉にはけして気負いはなく、フランペティルの素直な言葉だった。
「だからその……ぁり……とぅ」
「え?良く聞こえないです」
 フランペティルのその小さい言葉をペシェは少し身を乗り出して再度聞く。
「…も、もう一度だけ言ってやるから良く聞け!」
 フランペティルは勢い良く、身を乗り出しているペシェに向かって一つ息を吸い込むと、

「ありがとう!」

 とはっきりという。
「この一言のためにあんな緊張してたんですか?」
 感謝の言葉を聞いたペシェは少し驚いたように返す。
「なっ!?」
 フランペティルは赤い顔を手で顔を覆う。
 普段感謝の言葉など言わないフランペティルからすればこの告白は恥ずかしいのだ。
 またその後のペシェの言葉に羞恥心が増したのも事実である。
「私も……フランのお陰で服飾やデザインとかの本も読むようになって視野が広がりました」
 その言葉もペシェの素直な言葉。
「フラン、ありがとう」
 フランペティルとは反対に素直に感謝の言葉をペシェは笑顔で伝える。
「お互い良い刺激がある関係って、素敵だと思いませんか?」
 ペシェの言葉に顔を覆っていたフランぺティルは顔を上げ彼女の目を見る。
「ふはは、今後も吾輩に仕えるが良い!」
 さっきまでの緊張はどこにいったのか、もうそこにいたのはいつもの姿のフランぺティルだった。
「これからもよろしくって言いたいんですよね……素直じゃないんだから……ふふ」
 そう言われ少しまた顔を赤くするフランペティルだった。


 その後2人には晴れやかな気分になるアフターティーが届く。レモングラスとフルーツのハーブティーだ。
 レモンの爽やかさとりんごやベリー系のフルーツが口の中をすっきりさせてくれる。
 また、ペシェにティラミス、フランペティルにはフルーツゼリーが添えられる。
「一仕事したあとの茶はうまいな!」
 その言葉に苦笑を浮かべるペシェは静かにハーブティーを口に含む。
「爽やかな中にフルーツの甘みですね」
「ゼリーもいけるな」
 2人にこやかに静かな時を過ごした。


●はっきり言います!!

 その日ハロルドと ディエゴ・ルナ・クィンテロはアロマカフェ「ジュレッタ」に来ていた。
「ここか?」
「はい、ここです」
 ハロルドはそのまま中へと入る。ディエゴはその後ろを付いていく。
「いらっしゃいませ!」
 店主はにこやかに2人を迎えいれた。
「この『思いの丈をぶつけてみませんか?』をお願いします」
 店主の後ろに貼ってあるポスターを指差しながらハロルドは言った。
「ありがとうございます」
「思いの丈?ハル?」
「ディエゴさんに言いたいことがあります」
 不思議そうにしているディエゴにハロルドはたんたんと言い放った。
(エクレールが俺に?なんだ??)
 ディエゴの疑問に今はまだ答えず店主に案内される。
(今日こそ言います)
 ハロルドの決意は固いようだ。
「足元気をつけてくださいね」
 店主は優しくそう言うと2人を店の奥の部屋へと案内した。
 青いランプが数個室内には点っている。内装はいたってシンプルで机が1つに椅子が2脚に壁や天井は白一色で統一されている。
「こちらにお掛けになってお待ちくださいね」
 店主は2人が座るのを確認すると丁寧にお辞儀をして部屋から出て行った。
「それで、エクレール」
「今日こそは……」
 ディエゴの言葉は今のハロルドには聞こえていないようだ。
(いつもとエクレールの様子がおかしい……俺に隠し事でもあるのだろうか)
(ディエゴさんに伝えなくては)
 ハロルドからなにやらオーラのようなものが見え隠れしていることにディエゴは気付いていた。

「失礼します」
 店主がそう言って部屋の中に入ると、ハロルドを探るディエゴとそのディエゴを黙って見つめるハロルドがいた。
「お待たせしました、お冷です。あとこちらに記入お願いします」
 この雰囲気を察し店主は水の入ったグラスと記入用紙をそそくさと置いて部屋を後にした。
「気分に雰囲気は」
 ハロルドはディエゴの意見も聞かずに早々と書いていく。
 気分、雰囲気『真剣に』
 アフターティー『和やかに』
 デザート『ガトーショコラ』
 と書き込む。するとハロルドはディエゴに声を掛ける。
「ディエゴさんはデザート何がいいですか?」
 そう言ってメニュー表を差し出す。
「紅茶シフォンで頼む」 
 デザート欄に『紅茶シフォン』を追加し、全てを書き終えると机の上に記入用紙を置くハロルド。その紙をディエゴは確認するがどうやら変更箇所はないらしい。
(真剣にか……エクレールは何を)
(これで準備はできました……言います)
 そこに見計らったように店主がノックの後に部屋に入ってくる。
「記入はお済でしょうか?こちらですね」
 机にある紙が記入してあることを確認すると手に取った。
「準備してきますので少々お待ちくださいませ」
 軽くお辞儀をして静かに再び部屋を後にした。
「エクレール、ここでないと言えないようなことなのか?」
「……その」
 一瞬ディエゴを見るがすぐに視線を逸らすハロルド。
(まだ、言えない)
 何を言われるのか検討もついていないディエゴを思えば直ぐに言うのが良いのはハロルド自身知っている、がそれはそれ。
 自分の気持ちも整理は付かない。
「ちゃんと言いますから、待ってください」
「……わかった」
 急く気持ちを今は抑えるしかないことが分かったディエゴは何度か頷き、ハロルドの言葉に従った。

 それから数分後店主は準備を終え2人の下へとやってきた。
「今精油をランプに垂らしますので、5分も経てば香りますので芳香浴をお楽しみください」
 そういいながら青いランプ1つ1つに精油を垂らしてく。
 では、と言って笑顔で店主は精油の説明が書いた紙を机に置き去っていった。
 ハロルドはその説明に目を通す。

 ・ティーツリー
 ・ペパーミント
 ・ロージウッド
 ・ローズマリー
 ・グレープフルーツ
 
 の5点のブレンドだった。
 効能の説明に更に目を通すと、ティーツリーには気持ちをはっきりさせて冷静にする、ペパーミントにはリフレッシュ、ローズウッドには落ち込みの改善、ローズマリーには気分の改善、グレープフルーツにはリフレッシュ効果の以上である。
 室内には徐々に少しスーッとした落ち着きある香りが充満し始める。
 ディエゴは自分が何かしたのか、それともハロルドに何かあったのかと考えてはいるがそこは顔には出さずにじっとハロルドが言葉を発するのを待っている。
「ディエゴさん」
 待っていたディエゴはハロルドの言葉を真剣な眼差しで聞き出す。
「なんだ?」
(ちゃんと話すために来たのですから……話します!)
 決意を更に強く心にしハロルドは話し出す。
「お互いに心境の変化で変えたことがあります。私は髪を伸ばしましたし、ディエゴさんは髭を揃え始めました」
 ディエゴはその言葉に頷きながら納得している。
「ディエゴさんが言うには『いつまでもウィンクルムとして新人ではいれないから見た目だけでも威厳を』との事ですが…」
 その続きの言葉を少し躊躇いながら、ハロルドは一旦口を閉ざす。
「……」
 それがどうしたのかとディエゴは不思議そうにハロルドを見つめる。少し落ち着こうとディエゴは水を飲もうとする。
 その行動に目を瞑りながらハロルドは意を決し話す。
「……似合わないです、口髭は」
「……えっ、似合わない?」
 飲もうとしていた水の入ったグラスの手を止める。
「朝聞いたときに似合ってるって言ってなかったか?」
 机の上に勢いよくグラスを置くと前のめりになりながらハロルドに訴える。
「……似合わないです」
 ハロルドの追い討ちである。
(いってしまった……まあ、本当のことなのではっきり言います)
「それに、似合ってないって誰も言わなかったぞ」
 ディエゴは焦ったように右手で口髭を触りながらハロルドに言う。
 明らかに焦っている。まさかそう言われるとは露とも思っていなかったからだ。
「ディエゴさん……それ嬉しそうに言いませんでしたか?」
 そのハロルドの指摘に硬直する。
「いや……確かに嬉しそうに話されたら否定はしにくいが……」
 ハロルドの指摘は当たっていたようである。
 ディエゴは髭が似合っているかと聞くたびに笑顔で尋ねていたらしい、それだと誰も否定はできない。
「尚更老けてみえます」
 ディエゴは一つ落胆する。
「髪型もいじらないで、単にだらしなく見えるだけですから」
 ディエゴの頭がさらにもう一段階下がる。
「全剃りか……髭は残したいなら、口髭は剃って髪型も変えてください」
 はっきり言うと決めたハロルドの口からはどんどんディエゴの身なりについて語られていく。
「服装に困ったらスーツ着るディエゴさんより、私はセンスあると思います」
 追い討ちをどんどん打っていくハロルド。
 一通り聞いたディエゴは垂れている頭を上げると口元に笑みを浮かべる。
「……じゃあ口髭剃って、髪型変える」
 ハロルドを真っ直ぐに見つめる、ディエゴの瞳には柔らかなランプの青い光が映り金色の瞳と綺麗なコントラストを帯びる。
「誰だってな……パートナーにかっこわるいと思われたままはは嫌なもんだ」
 先ほど飲もうとしていた水の入ったグラスを手に取り一口飲む。
「似合ってたら『かっこいい』の一言はくれよ」
「もちろんです」
 ディエゴの言葉に柔らかい笑顔をハロルドは向けたのだった。

 時間を見計らったように店主は2人の下へとアフタティーとデザートが運ばれる。
 2人のアフタティーは『和やか』である。
 店主が選んだハーブはルイボスティーとベリーのブレンドティーだった。
 2人は一口飲む。口の中にはルイボイスティーのスッキリした味の中に甘酸っぱいベリーの香りが鼻から抜ける。
「美味しい」
「紅茶シフォンとの相性も良さそうだ」
 ディエゴは目の前にある紅茶シフォンにフォークを指し口に運ぶ。
「甘みも控えめでいいな」
「ガトーショコラも丁度良い甘さです」
 そう言いながらハロルドも自身が頼んだガトーショコラを口に運ぶ。
 程よい苦味と甘さが口の中でほどける。
「エクレール、どうしてここで言ったんだ?」
「普段だと少し言いづらかったんです」
 そうか、と言うようにハーブティーを口に含む。
「それに……」
 手に持っていたティーカップをソーサーに置くとディエゴに視線を合わせる。
「はっきり言うのは私で、相手はディエゴさんだからですよ」
「俺だから?」
 紅茶シフォンを口に運ぼうとしていた手を止めてハロルドと視線を交差させる。
「普通は似合ってないねそれ、とか言える人いないでしょう」
 それはハロルドの素直な気持ちだった。
 ディエゴだからこそ素直に自分の気持ちを伝えられると。
 相手がディエゴだからこそ言える言葉、行動があるのだと。
「まあ、どっちにせよ髪はそろそろ切ろうと思っていたし、気分を変えてみる」
 その気持ちを汲んでいるのかディエゴも納得したように優しい微笑みをハロルドに向ける。
「そんなに似合っていなかったとはな……」
「……似合っていません」
 ハロルドは上目遣いでディエゴを見つめながらガトーショコラを口に運んだ。
 そのハロルドの口元には微かな微笑みを浮かんでいる。
「今度は普通に来よう」
「はい」
 少し恥ずかしそうにしているディエゴにハロルドは先ほどの微笑みを顔いっぱいに浮かべる。
「帰り次第、髭を剃るとするか」 
 口髭を触りながらディエゴは言う。
 穏やかにまた和やかに2人の時は過ぎていった。


●宣戦布告

 テレーズと山吹はタブロス近郊の公園にいる。
「今日は天気は良くて良かったです」
「そうですね……」
 2人は空を見上げながら歩き出す。
「それで今日行きたい店というのは」
「アロマカフェです」 
 山吹を見上げながら笑顔で答える。
「アロマカフェですか?あまり馴染みがないですね」
「あそこです!」
 テレーズはにこやかにアロマカフェ「ジュレッタ」を指差した。
 少し小走りに店へと駆け寄っていくテレーズに山吹は歩を早めつつ後を付いていく。
「混んではいなさそうですね」
 山吹は店内の様子を外から眺めながらテレーズを見る。
 と、そこには何やら気合を入れている状態のテレーズがいる。
「テレーズさん?」
「はい?」
 気合を入れていたテレーズは不意に声を掛けられて苦笑いを浮かべた。
(気合入れすぎるものでもないですね、ちゃんと宣言するからここに来たんですし)
「山吹さん中に入りましょうか」
 テレーズの言葉に頷き店の中へと入る。
 中は清潔な白の一色の壁や床に木製の机や椅子が置いてある。店内には3組の先客がいた。
「いらっしゃいませ」
 店主の女性が2人を笑顔で迎えいれる。
「あの、思いの丈というものをですね……」
 それを聞いた店主はにこやかに「かしこまりました」というと2人を店内奥へと案内する。
 山吹はなんのことかわからないのか首を傾げつつも前を歩く2人に付いていく。
「雑誌のこちらのお店を見まして、丁度話したいことがありましたので来てみました」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「ここの会話とかは他に聞こえないと書いてましたが」
 テレーズはこれから話す内容を他者には聞かれたくないため、確認をする。
「大丈夫ですよ、完全防音となっておりますので」
「安心しました」
 女性2人の会話を聞きながら、山吹は黙って付いていく。
(テレーズさんが私に……)
 会話を弾ませていると奥の1部屋に案内された。
「では今お水お持ちしますのでお待ちください」
 そう言って店主は2人を置いて部屋を後にする。
 室内には薄暗い中にもピンクに近い赤いランプか数個点してある。
「落ち着いた雰囲気ですね」
 室内を見渡しながら山吹は机に置いてあるメニューを手に取り目を通す。
「なんだか幻想的にも見えますね……座りませんか?」
 テレーズの言葉に従い山吹も同時に着席する。
(ここなら落ち着いて言えるかもしれません)
 着席後もメニューに目を通している山吹をそっと見つめるテレーズ。
「これは、普通のメニューとは違うのですか?」
 メニューに目を通しながら疑問に思ったことを尋ねてくる。
 それにテレーズは「はい」と落ち着いた返事だけを返すだけだった。

 少しの会話をしていると、そこに店主が水と用紙を持ってくる。
「お待たせしてすみません、こちらに記入お願いします」
 水を2人の前に置くと同時にテレーズの前に用紙を差し出した。
「後で取りにくるので、記入しておいてくださいね」
 そう言って店主は部屋からいなくなった。
「記入とはなんですか?」
「ここの部屋に来た場合にアロマの芳香浴ができるんです。気分や雰囲気に合わせて」
「なるほど」
「あとはセットにアフターティーとデザートが付きます」
「それをするだけに、この部屋にくるんですか?」
 山吹の単純な疑問にテレーズは意を決したように話し出す。
「自分の思いの丈を、誰にも聞かれること無く相手にぶつける場所です」
 それに山吹は目を見開いて軽い驚きを見せる。
「思いの……丈」
「今日は山吹さんにお伝えすることがありますので、よろしくお願いします」
 なんだか改まってしまうテレーズに反射的にこちらもなぜか軽い会釈をする山吹。
 記入欄を確認しつつ、テレーズは考えながら書き込んでいく。
 気分、雰囲気『落ち着きと和やか』
 アフターティー『余韻』
 デザート『ティラミス』『ゼリー』
 一通り書き終わると山吹に差し出す。
「ゼリーでいいですか?」
「大丈夫です」
 山吹は何を話されるのかと考えつつもテレーズの記入を確認し承諾する。
(心の準備もできました……)
(さて、どのような話しでしょうか……)
 お互い胸の内は話さずに笑顔で視線を合わせる。
 そこに店主は現れる。
「失礼します、用紙の記入お済ですか?」
「よろしくお願いします」
 丁寧に返事をするとテレーズは用紙を店主に手渡す。
 用紙を受け取ると店主はそそくさと部屋を後にする。
「あの記入でどんな香りが来るか楽しみですね」
「初体験なので楽しみです」
 楽しみと言いつつも2人はどこか緊張している面持ちを隠せずにいた。

 数分後店主は精油を手に部屋へと入ってくるとランプ一つ一つに精油を垂らしていく。
 その作業を終えると精油の説明が書かれた紙を置いていき、足早に部屋から店主は出て行く。
 テレーズはその説明書きに目をやった。
 
 ・フラキンセンス
 ・サンダルウッド
 ・イランイラン
 ・ベルガモット
 ・メリッサ
 
 のブレンドになったようだ。
 フラキンセンスには迷いを消させ落ち着く、サンダルウッドには気持ちを安からに、イランイランにはゆっくり、ベルガモットにはリフレッシュ、メリッサにはリラックス、と効果があるようだ。
 5分ほど経つと徐々に室内に、森林にいるような木のぬくもりのある香りとベルガモットのスパイシーな柑橘の香りが充満する。
「森林浴のような気分だな」
「私がしたいのは……宣戦布告、でしょうか」
 山吹が目を閉じ香りを嗅いでいると、ふとテレーズが話し出す。
 それに反応するように山吹は驚いたようにテレーズを見る。
「宣戦布告……ですか?」
 面を食らったのか顔は少し苦笑いをしている。
「突拍子もないのはいつもの事ですね」
 半ば慣れた、というように苦笑いのままテレーズに言う。
 最近山吹は薄々感じていたが雰囲気がいつもと違う気がすると思っていた。
 まるで記憶が欠ける前の彼女のような落ち着きのある佇まいに記憶が戻ったのかと思えるほどに。
「テレーズさん……もしかすると記憶が?」
 その山吹の問いにテレーズが軽く頷き、微笑みつつ山吹をみながら話し出す。
「あら、お気づきでしたか……昔の夢を見たら色々と感情が沸きあがってきまして」 
 テレーズの瞳は山吹から離れることはない。
「今となっては何で忘れていたのでしょうと不思議ですが……乙女心は繊細という事ですね」
 山吹を真っ直ぐに見つめる瞳は昔の彼女そのままというよりは、より一層強い意志を感じる。
「記憶が戻ってよかったです」
 山吹はそういうと微笑んだ。表面上は………
(これは……もしや)
 何をこれからテレーズが話し出すのか検討が途端につき山吹は額に冷や汗を垂らす。
「でも不幸といえば不幸でしたね。失恋したり、顕現したり、適合相手だったり、ね?」
「ま、まあ……」
 その言葉に山吹は更にこれから言われる言葉に確信を得る。
 以前山吹はテレーズから『好きです』と告白された。しかし憧れを恋情と勘違いしていると思い断った事があったのだ。
 また 山吹にとってテレーズは元教え子であってそれ以上でも以下でもなかった。
「それで本題ですが」
 テレーズは一回も山吹から視線を逸らすことをせずに力強い瞳を、そして想いをのせて見つめる。
 そのテレーズに更に冷や汗を流す山吹。
「一度ふられたら諦めなければいけないなんて事はありませんものね。ここ一年一緒にいて改めて考え、やはり勘違いではないと至りました」
 山吹の予想は的中した。
「特定の方がいる訳でもないのも把握済みです!諦める道理はどこにもありませんね」
 微笑を浮かべながらテレーズはその間本当に山吹から目を逸らすことはなかった。
 その眼差しに冷や汗を流しつつも、山吹は内心喜びも溢れていた。
「記憶が戻った事は喜ばしいです」
 その眼差しに答えるように微笑みを向けた。
 しかし、山吹は、らしさは残しつつも強かに成長していた彼女との今後を思うと胃が痛くなってきたのだ。
「では、今度ともよろしくお願いしますね。時間はいっぱいありますから」
 更に強い瞳と微笑みを山吹に向けるテレーズ。
 山吹ははにかみながらも、
「お手柔らかに」
 そう答えるだけで精一杯になっていた。

 話しを終えその後2人は談笑をしていた。
 そこに様子を見に来た店主がアフターティーとデザートを2人の前へと置いて、
「ごゆっくり」
 と一言残して去っていった。
 2人に用意されたアフターティーはジャスミンの花茶の工芸茶が用意された。
「カップの中に花が咲いていますね」
 そう言われ山吹はカップの中を覗き込む。
「きれいですね、飲んだあとも余韻が残りますね」
 お互いに注文したデザートにも口をつける。
 テレーズは口に含んだ瞬間に満面の笑みを浮かべる。
「言いたいことも全ていいましたし、スッキリしました」
 話題を戻されてしまうと、なんだか落ち着かない山吹。冷や汗が再び流れていることはテレーズにはけしてばれないし、教えることも無いだろう。
「明日からまたがんばりましょうね」
 誓いの言葉のように元気よくそう言う。
 『前途多難』かもしれないと思いつつも山吹は小さく『もちろんです』と答えたのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:テレーズ
呼び名:テレーズさん
  名前:山吹
呼び名:山吹さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 草壁楓
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月29日
出発日 04月03日 00:00
予定納品日 04月13日

参加者

会議室


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