春ひたひたと夢の足音(京月ささや マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●春のあしおと悪夢のあしおと

 春はあけぼの。
 一度眠ってしまえばなかなか眠りもさめぬもの…
 何かとバタバタと気温も変わり、季節もかわり、眠っていた生命も動き出す。
 そんなあかるい環境の変化もあれば、目に見えにくいマイナスの影響だってあるかもしれない。
 だからこそ、あなたはそんな夢をみたのかもしれない…

 その日は、あなたのパートナーは、あなたの部屋のドアをノックしていた。
 しかも、若干不機嫌に。
 それは、一緒に行く予定のデートにあなたが3時間以上経過しても現れなかったから。
 最初は辛抱強く30分待った。けれど、いつまで経過してもあなたは現れない。連絡も。
 1時間経過し、2時間経過したころ、あなたのパートナーは、A.R.O.A本部を訪れた。
 もしかしたら、何かあったのかもしれないと思ったからだ。
 しかし、そこでもあなたの姿はなかった。
 と、なると…もしかして予定を忘れているのか?
 それとも…何か、異常でもあったのか。
 そんな思いを抱いて、あなたのパートナーは、あなたの家の扉を叩いたのだ。

 呼び鈴を何度か鳴らして、ドアを叩く。あなたの名前も呼んだ。
 そうしているとしばらくして…カギが外れる音がした。
 そして、ゆっくり開いた扉の前で、あなたのパートナーは驚いて立ち尽くす。
 扉の向こうにいたのは、真っ青に青ざめた顔色が悪いあなたの姿だった。
 しかも、外出着などではなく、部屋着のままで青ざめて震えている。
 一体何があったのか?風邪か?それとも…
 心配するあなたのパートナーは、あなたに何があったのかを聞いた。
 すると、あなたは震えながら口を開いてこう言った。

 『悪夢を見たんです…夢の中のあなたは、とても、怖かった…』

 はたして、あなたはどんな夢をみたのだろうか。
 そして、そんなあなたを見たあなたのパートナーは…?

解説

●目的
 自分の相方が登場する悪夢にうなされた側と、目の当たりにしたもう片方が
 ケアや話し合いを行うエピソードとなります。
 互いの隠れた側面や過去が見えてくるかもしれません…
 距離が縮まる可能性も、逆に…違う展開が起こるのかもしれません。

●プラン必須記入内容
 通常のプラン内容にくわえ、悪夢の内容も必ずご記入ください。

●消費ジェール
 パートナーの家までの移動費として300jrを頂戴いたします。

●見た悪夢について
 悪夢は、神人・精霊のどちらか片方が見たものになります。
 悪夢には、自分の相方が何らかの形で登場しています。
 夢を見た側にとって、とても怖く感じる夢であったことは間違いないようです。
 悪夢を見た原因は不明ですが、過去の出来事や、封印された記憶など…
 思い当たる節がある人もいるかもしれません。


●ケアグッズ・施設などについて
 悪夢をケアするためのグッズが近隣のショップで売られていたり
 近所に公園や公園内の施設があったりしますので、
 それを使って悪夢のケアしてあげてもいいでしょう。

・リラックスハーブのお香 100jr
(甘くゆったりとした香りのお香)
・爽やかフルーツ紅茶 50jr
(飲むと爽やかなレモングラスの香りとグレープフルーツの風味が楽しめる紅茶)
・やすらぎと愛の言葉全集 150jr
(読み上げるだけで心を愛や安らぎで満たしてくれる短い言葉が沢山収録されたハンドブック)
・天使の歌声クラシックCD 150jr
(聞いているだけで心がリラックスするような女性の歌声の入ったクラシックCD)
・天の川公園:入園料 50jr
(天の川のようにキラキラ光る川が流れている大きめの公園です。
 川の傍は青い芝生が広がっており、人気も少ない静かな空間です) 
・天の川公園睡蓮池ボート:利用料 50jr
(睡蓮が一年中咲いている池でボートを借りられます。
 ボートの利用には天野川公園入園料もプラスされます)

 もちろん、自分のスキルなどを利用したり、おうちでケアをしても構いません。

ゲームマスターより

こんにちは、京月ささやです。

このエピソードは、春先に見た悪夢を通じて
悪夢を見た側、そしてそれを知らされた、悪夢に登場した側が
お互いに助け合って何らかの物語りを紡ぐいでいくエピソードになります。

春うららの雰囲気にシリアスな内容ではありますが
これまでにない、助けあいや看病などで心の距離が近づいたり
互いの関係に転機が訪れるかもしれません。

新しい季節の到来とともに、皆様の楽しい思いで作りの一端となれれば幸いです。
宜しくお願い致します!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
エミリオさんに心配かけたくないよ
いつも通りに笑っていなくちゃ

☆病室にて
(飛び込んできた精霊に笑顔を向け)エミリオさん!
心配かけてごめんなさい
最近夜更かししすぎてあまり寝れていなかったからちょこっと立ちくらみがして倒れちゃっただけなのっ
だから私はだいじょ…(抱きしめられ精霊に縋り付く)

あのね…とても怖い夢をみたんだ
6年前の…私の故郷がオーガの襲撃に遭って…お父さんとお母さんが…うっ(涙を堪えながら)
お、お父さん達は、オーガに、こ、殺された…筈なのに…
血溜りに立っていたのは…エミリオさんだったの
どうして?どうして、こんな…うわああああっ!!!!

(精霊の手を掴み)お願い、私が眠るまで…傍にいて


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  グレン、ごめんなさい、私のせいで、
ごめんなさい、ごめんなさい…!

えっと…グレン、どうしてここに…?
怖い夢見たんです…
家の外に誰かがやってきて、
私、お客さんだと思って扉を開けるんです。
でも家の前にいたのはオーガで、
どこまでも追ってくるんです…
グレンが庇って守ってくれたけど、
酷い怪我だらけで、抱き締めてくれてる腕、
だんだん動かなくなって…

目の前で起きたこと信じたくなくて、
何も考えられなくなって…
グレンの声が聞こえてきて、
悪い夢から覚めた感じです。

お出かけの約束破ってごめんなさい、
埋め合わせ必ずしますから、
だからもう暫くこのままぎゅってしてて下さい…
暖かいです…グレン、ちゃんと生きてる…よかった



油屋。(サマエル)
  ■夢

気づいたらドブ川で倒れていた 全身痛くて身体が動かない
精霊が現れて精霊宅へと運ばれる
姿鏡の前に座らされて自分の姿を見る
髪は腰までの長さ、制服は中学の物
精霊が背後から何かを振り下ろす
冷たい金属の感触と真っ赤に染まる視界



夢の内容を精霊に話す アンタのせいだよ…

告白の事 もう一度きちんと返事しなきゃ
これが本当の事にならないように…
ごめんなさい
アタシ達はウィンクルムだ それ以上の関係なんて嫌

瞬間、冷たい金属のような物が首筋に当たって背筋が凍る
って…時計かよ!

本当にごめんなさい

再び夢の中、同じドブ川の光景 
精霊ではなく別の男が立っていた

「やぁ、また会えたね」

そう言って笑ったのは誰だったのか 


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
うふふ、悪夢ですか。私に夢占いができれば良かったのですけれど。
でもアロマには少し知識があるんですよ。ラダさんが安眠できる香りを探してみますね。

行動
お店でお香購入。
天の川公園に移動し、川辺の芝生に座り会話。
悪夢の話を聞いてる間、上機嫌でニコニコしています。楽しげに相槌をうったり、キラキラと目を輝かせたり。
最後に、骨ばった手でラダさんの肩をつかみます。
ところで……夢には髪の毛しか出てこなかったのに、なぜ私の夢だと確信したのですか?
(それだけ私のことを身近に思ってくれているなんて。きゃー! 嬉しいです!)
照れで呼吸を不規則に乱し、喜びで指先をギチギチときしませながら、とびきりの笑顔を浮かべます。


ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  天の川公園・爽やかフルーツ紅茶

■自宅
ゆ、め…とても気分が悪い
呼び鈴が何度もなり何とか玄関へ
精霊を見て夢を思いだし紋様に触れる

…あ、すごく嫌な夢をみて(怯え
今から?
何も準備してな…ちょっとぉ!

■公園
精霊とベンチに座り無言で川を眺め過ごす
温かい紅茶美味しい

川がきらきらして穏やかだからか心が落ち着くと思う
何故だろう、どきどきが気持ちいい
精霊が傍にいるから?
何で怖いと思ったんだろう

怖い夢、1年前はよく見てたわ
顕著して凄い嫌だったけど逃げれないし

力があるから出来る事もあるのよね
最近は見なかったのよ
たぶん、…貴方が居るから
ありがとう
目を見て言うが、耐えれずぷいっ

いつの間にか大きな存在になってると気付く



●見えない彼のその顔は

 水の感触がする…
 そう感じて油屋が気づくと、そこはゴミだらけのドブ川だった。
 全身は痛みに支配されていて、身体を動かすこともできない。
 足音が聞こえた。身体を引っ張り上げた相手の顔を見ると…それはサマエル。
 何故?そう思うまもなく、引き摺られて運ばれたのはサマエルの自宅。
 姿見の前に座らされて油屋は自分の姿を見せられた。
 髪は腰までの長さ…制服は中学生の頃のものだ。
 ぼうっと姿見の自分の姿を見ていると、サマエルが背後に立ったのがわかった。
 そうして、そのままサマエルが背後から何かを自分に振り下ろす。
 感じたのは、冷たい金属の感触。そして、同時に真っ赤に染まる視界…
 そして記憶が暗転すると同時に、油屋は夢から覚めたのだった。

「アンタのせいだよ…」
 待ち合わせにいつまでたっても来ない油屋を心配して迎えに来たサマエルに
 油屋は夢の内容を話して聞かせたあと、下を向いて呟く。
 サマエルは油屋の手が腹部にずっと留まっているのが気になっていた。
 夢の内容を自分に話している間、彼女は以前言っていた
『オーガにやられた』という傷がある腹部をずっとかきむしっていたからだ。
「大丈夫なのか」
 サマエルに気遣われ、油屋はサマエルの方を向いた。
 愛を彼に告白されたあの夜の事を思い出す。
 曖昧な返事のままだと、自分が見た夢が現実にならないようにしたいから。
 だから、もう一度改めて返事をしなければならないと思った。
「サマエル…ごめんなさい。アタシ達はウィンクルムだ。
 それ以上の関係なんて、嫌。けれど、ウィンクルムとしてこの先も側にいたいと思ってる」
 改めて告げられた謝罪の言葉。油屋の瞳はしっかりとサマエルを見据えている。
「…わかった」
 少しの沈黙のあと、サマエルは了承ととれる答えを返した…のだが。
 その途端、不意に油屋の背後に冷たい金属の感触が当たったのがわかり、
 油屋の背筋は瞬く間に凍りついた。
「ひ…!!」
 慌てて振り向いてみれば…そこにあったのは、サマエルの時計。
「って…時計かよ!」
「早瀬が面白いから、つい、な」
 思わず間の抜けた表情をした油屋が面白くてサマエルは笑う。
 お互いの空気が少し和んだところで、サマエルは優しく微笑む。
「早瀬の気持ちはわかった。それでも俺の気持ちは変わらない…
 この先も虚戯早瀬だけを愛し続けるよ」
「…本当にごめんなさい」
 油屋は俯く。サマエルの言葉は心の底からのものだろう。
 けれど今の自分はどうしても、サマエルの気持ちをそのまま受け入れる事はできないのだ。
「…きっと、またアンタ傷つける事になる」
 哀しそうな顔をする油屋の言葉には答えず、サマエルはそっと油屋の頭を撫でた。
「安心しろ。どうなるかは…わからないさ。
 それに、ずっと眠れなかったんだろう?俺が側に居るから今は休め」
 疲れが残っている油屋を、そっと撫でながら膝枕をするように横にさせる。
 油屋は一瞬恥ずかしがるような仕草を見せたが、すぐに眠りに落ちて行った。
 そう、自分が心を許している相手の体温は、誰よりも心地いい。
 それがたとえ、恋人同士でないとしても。

 そうして、油屋は再び夢の中で同じドブ川の光景を見た。
 そこには…サマエルではなく別の男が立っている。
「やあ、また会えたね」と、その男は言った。その姿は…誰だったのか、よく、わからない…

「………」
 自分の膝の上で寝息を立てる油屋を、サマエルはそっと見つめる。
「これは…必要なかったか」
 いいながらクク、と笑うその唇は、狂ったように歪んでいる。
 手にしていたのは…誰が見ても『凶器』とわかる金属製のソレで。
 その笑みも手にしたものも油屋は知らないまま、夢の世界にいる。
「おやすみ、早瀬。良い夢を……」
 手にしたそれをポケットにしまい、サマエルはそっと油屋の髪を撫でたのだった。


●どっちが悪夢?どっちも悪夢!

「悪夢、ですか…」
 エリー・アッシェンは、ラダ・ブッチャーから大まかな事情を聞いて考え込んだ。
「私に夢占いができれば良かったのですけれど。
 …でもアロマには少し知識があるんです。待っていて下さい」
 そういうとエリーは近くの商店に出かけて行った。
 ラダはというと、未だに悪夢の内容に悪寒がして震えている。
「…すっごい怖かったよぉ…でも…」
 以前にどこかで聞いた言葉をラダは思い出す。
 それは『怖いものと面と向き合うことで恐怖を乗り越えられる』という言葉。
 …なら、エリーに相談するのも悪くないかもしれない。
 相談しようと決めたとき、エリーがラダの自宅に戻ってきた。
「お待たせしました、これ、安眠ができるアロマが入ったお香です」
 ラダはお香を受け取る。エリーはアロマショップの店員なのだ。きっと安眠できるだろう。
「あの、ラダさん…よかったら気分転換に公園にでもいきましょう?」
 エリーの言葉にラダも頷く。
「うん、ボクも相談しようと思ってたんだよぉ」
「ラダさんの見た夢…いったいどんな夢だったのかしら…?」
 ラダが着替え終わるのを待ちながら、自分に相談してくれるなんて…と
 エリーは嬉しさにソワソワしていた。

「その夢っていうのがさぁ…」
 ラダとエリーは天の川公園の川辺の芝生に座っていた。
 どこか暗い表情でラダが悪夢の内容を喋り始める。
「最初は、なんてことない夢だったんだよぉ」

 ラダは夢の中で普通にコーヒーを飲んでいただけだった。
 すると、カップの底に一本の長い髪の毛が入っていた。
 長さからして自分のものでない。
 ラダはなんとなく気づいてしまった。この髪の毛は…エリーの髪の毛だ。
 なんで?と思いつつ、読もうとした雑誌を開く。
 するとそこにもビッシリと髪が挟まっていた。
 慌てて、雑誌から離れると冷蔵庫に向かう。
 …しかし、冷蔵庫の中の瓶や精肉パックには、ぜんぶ丁寧に髪の毛が詰められていたのだ。
 あまりの恐怖にラダは助けを求めようと窓に向かう。
 しかし、窓を覆うカーテンもおびただしい黒髪に変わっていた。
 とにかく逃げようと必死に髪をかきわけても、ひしめく髪が邪魔をして、窓のカギが見つからない。
 すると、ガラスの向こうから誰かが小さく窓を叩く音がした。
 音がするだけで、顔は見えない…でも、わかってしまったのだ。
 窓を叩いているのが、エリーに間違いないということに…

「私が出てくる夢…」
 ラダの話しを聞いている間、エリーは上機嫌でニコニコ話しを聞いていた。
 悪夢が自分の事だとわかっていても、全くショックを受ける気配も無い。
 むしろ楽しげに相槌をうったり、キラキラと目を輝かせたりしてとても楽しそうだ。
「ところで……夢には髪の毛しか出てこなかったのに、なぜ私の夢だと確信したのですか?」
 ひとおおり聞き終わって、エリーは目を輝かせながらガシイッと骨ばった手でラダの肩を掴んだ。
「えっ、いやぁ、そ、そ、そのぉ…なんとなく…直感…」
 ラダは寧ろそんなエリーが夢の中のエリーのようで怖くて仕方ないのだがエリーは全くの逆だ。
(長い髪の毛っていうだけで私だって思ってくれるなんて…
 ラダさん、それだけ私のことを身近に思ってくれているんですね…!きゃー! 嬉しいです!)
 好きな人が自分のことを身近に思ってくれて夢まで見てくれた。
 しかもそれを相談までしてくれている…そんな夢の様な状況に、
 エリーの呼吸は照れくささで不規則に乱れ、喜びで指先はギチギチときしんでいる。
 そしてその顔はとびきりの笑顔。
 エリーにとっては最大級の喜びの表現なのだが…ラダにとっては悪夢の再来。
 怖いものと向き合ってみたら…乗り越えるどころか更なる恐怖が待っていた。
 恐怖に白目をむきそうになりながら、凸凹コンビはある意味平常運転を続けるのだった。
 唯一のラダにとっての救いは…エリーのお香で今晩は安眠が約束されている事かもしれない。


●生きる温かさ、心の温かさ
 
 いつまで経っても待ち合わせ場所に現れないニーナ・ルアルディ。
 グレン・カーヴェルはまだ同居している自宅を探していない事に気が付いた。
(知らない奴についてったとか有り得るから困る…心当たりは探したし一度家を確認しよう)
 合鍵を持って、自宅に急いで向かう。
 すると、そこには悪夢にうなされるニーナの姿があった。
「ニーナ、ニーナ…大丈夫か?」
 グレンが呼びかけると、ニーナの大きな瞳がぱちりと開く。
「グレン、ごめんなさい、私のせいで、ごめんなさい、ごめんなさい…!」
 起きてすぐ、ひたすら取り乱しているニーナ。
(とにかく落ち着かせないと…)
 グレンはしっかりと抱きしめて落ち着かせるように髪を撫でる。
「大丈夫、俺はここにいる」
 グレンの声と確かなぬくもりに、ニーナは少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「えっと…グレン、どうしてここに…?」
 ぼんやりと呟くニーナに、グレンは自宅に戻るまでを話して聞かせた。
「何があった…?夢がどうとか…」
 抱きしめながらグレンが問いかける。
 すると、ニーナはまだ少し震えながら「怖い夢見たんです…」と言って
 夢の内容を語り始めた。

 夢の中で、ニーナはこの家の中にいた。
 すると、家の外に誰かがやってくる。
 ニーナはお客さんだと思って扉を開けた。
 しかし、家の前にいたのはオーガだったのだ。
 ニーナは必死に逃げるが、オーガはどこまでも迫ってくる。
 そこにグレンが現れて自分を守ってくれたのだが、
 自分を守ろうとしてグレンは酷いケガをしていた。
 抱きしめてくれているグレンはやがて、次第に動かなくなっていく。 
 ニーナは目の前で起きたことが信じられないし、信じたくもなかった。
 そしてニーナは、絶望と恐怖で何も考えられなくなっていった…

「その時にグレンの声が聞こえてきて…悪い夢から覚めた感じです…」
 なんとか必死に話すニーナを、グレンは抱きしめ続ける。
「もう、無理に話さなくていい…思い出さない方がいいことだってある」
 グレンの言葉に、ニーナは頷くと、しゅんとうつむいた。
「お出かけの約束破ってごめんなさい…埋め合わせ必ずしますから」
 だから、とニーナは続ける。
「だからもう暫くこのままぎゅってしてて下さい…」
 それは、悪夢の恐怖に怯えたニーナができる、精一杯のお願い。
「そんな我侭くらいならいくらでも。というか、外出はやめだ、やめ。」
 アッサリサッパリとグレンは言ってみせる。
 好きな人に頼られたり甘えられるのは嫌いではない。寧ろ歓迎だ。
「無駄に色んな場所走り回ったから疲れたし、このままここでダラダラさせろよ。
 この部屋いい感じに日も射すし昼寝しよーぜ。」
 少し素直ではないグレンの言葉に、やっとニーナは笑顔を見せた。
 この人は…心から安心できる人だ。
「悪い夢見たらすぐに起こしてやっから。安心して二度寝しとけ、眠れてないんだろ?」
 そう言って添い寝してくれるグレンの体温はとても温かい。
 まるで、グレンの温かい心がそのまま温度になったようだった。
「暖かいです…グレン、ちゃんと生きてる…よかった」
 ニーナは、安心してそう言うと、瞳を閉じる。
「今度はもっと幸せな夢見ろよ…」
 そっとニーナの寝顔を見て、グレンは呟く。
 そうして、ニーナの寝息が聞こえてきたころ、少しだけ苦い顔をした。
(…しかし焦ってるトコ色んな奴に見られたよな…)
 後で口止めしに行くか。と、グレンは思う。
 そんなグレンの気持ちを知らず、ニーナは穏やかな寝息を立てているのだった。


●となりにいること

 それは、1年前の今頃。
 オーガに襲われたことで、ミオン・キャロルが見る悪夢は顕著になっていた。
 過去にオーガに襲われた時は、ウィンクルムに助けられた。
 しかし、今見ている夢は違う。
 彼女を襲っているのはオーガではなく…アルヴィン・ブラッドロー。
 なぜ、アルヴィンが? 夢の中で逃げ惑いながらミオンは恐怖に包まれる。
 ミオンの恐怖は…1人になる事だ。

 遠くから呼び鈴が聞こえて、夢からミオンは目覚めた。
(ゆ、め…とても気分が悪い…)
 何度も鳴る呼び鈴に、ミオンは何とか玄関に向かい。
 ドアを開けた先には、アルヴィンがいた。
 不機嫌そうな顔をしているが、目の前にいるのがアルヴィンだという事が判ったとたん
 ミオンは無意識に自らの模様にそっと触っていた。
「ミオン…?」
 待ち合わせの時間に大遅刻された事に最初は文句を言おうちしていたアルヴィンだったが
 普通ではないミオンの状況に驚いて少し焦った。
 そんな様子のアルヴィンを見て、ミオンは少し怯えた表情を見せる。
「あ…すごく嫌な夢を見て…」
(怯えられてる…?)
 アルヴィンは、ミオンの変化を敏感に感じ取る。
「外に行こう。ここにいるよりタ多少はマシだろ?」
 そう言うと、あっという間に自分の上着をミオンに着せてしまう。
「今から?な、何も準備してな…ちょっとぉ!」
 ミオンの驚く声を無視して、アルヴィンは手を繋いで強引に天の川公園に向かって進んで行った。

「ほら」
 天の川公園の川辺のベンチ。アルヴィンから差し出されたのは、温かい爽やかフルーツ紅茶だ。
「美味しい…」
 豊かな香りと味が、恐怖に濁っていたミオンの心をあたためてくれる。
 そのまま、2人は無言で川を眺めていた。
 アルヴィンはミオンに何かを言いたいが、何を言うべきかはわからない。できる事は隣にいる事。
 目の前には、きらきら9した水面が光っている。
 それはミオンの心を次第に落ち着かせていった。
(何故だろう、どきどきが気持ちいい…)
 最初のドキドキは恐怖によるものだ。でも今は、その鼓動が気持ちいい。
 それは、アルヴィンが傍にいるからだろうか。
 そして、なぜ…彼を怖いと思ったのだろうか。今は全くそんなことはないのに。
(落ち着いてきたのかな…)
 アルヴィンは、ミオンの手の力がゆっくり抜けていくのを感じていた。
 ここに来るときには痛いほど自分の手を握っていた彼女。
 それだけ、怖かったのだろうか。

「…怖い夢、1年前はよく見てたわ」
 ぽつりと、ミオンがそう口にした。
「顕著なぐらいよく見たの…凄い嫌だったけど…逃げれないし」
 それは、現実からだろうか。恐怖からだろうか。夢からだろうか。
 どれかかもしれないし、全部かもしれない。けれど、とアルヴィンは思う。
 しかし、彼女はオーガに関する依頼があれば引受け、立ち向かってきた。
 そんな彼女を姿を側でみて、アルビンは、彼女の心は間違いなく強いと思う。
 そう思って、自分は過去に何度か「傍にいて護るよ」と伝えた。
 …それが義務なのか、別の感情かは分らないが。
「力があるから出来る事もあるのよね…最近は悪夢、見なかったのよ」
 そう、ミオンは言うとアルヴィンの方を向く。2人の視線が交差した。
「たぶん、…貴方が居るから。…ありがとう」
 それは、ミオンにしては珍しく素直な、感謝の言葉だった。
 その言葉に、アルヴィンは驚きを隠せない。
 すると、目を合わせることが耐え切れなくなったのか、
 ミオンはすぐプイッと顔を逸らしてしまった。
 そんな彼女の姿を見て、アルヴィンはそっと微笑んで彼女の頭に手を添える。
「ミオンは…弱くないよ」
 その言葉に、てのひらの温かさに、ミオンは、いつの間にか彼が
 自分にとって大きな存在になってると気付いたのだった。


●夢の向こうに隠されたものは

 エミリオ・シュトルツは、ミサ・フルールがいるという病院に必死に向かっていた。
 待ち合わせ場所にもA.R.O.A本部にも来ない。
 心配になって自宅に向かっている途中、救急車がエミリオの隣を通り過ぎていった。
 そして自宅について、近所の住人から聞いたのだ。
 彼女が倒れて、近くの病院に運び込まれたということを。

(エミリオさんに心配かけたくないよ…いつも通りに笑っていなくちゃ)
 運び込まれた病室で、ミサはそう自分に言い聞かせる。
 すると、バタバタと足音がして…エミリオが病室に駆け込んできた。
「エミリオさん!…心配かけてごめんなさい」
 いつもと同じように。心配をかけないように。
 そうやって、必死にミサはエミリオに笑顔を向ける。
「最近夜更かししすぎてあまり寝れていなかったから…
 ちょこっと立ちくらみがして倒れちゃっただけなのっ。だから私はだいじょ…」
 そこまで必死に言って、ミサの言葉は途切れた。
 エミリオがミサを抱きしめたからだ。
 エミリオはミサのその元気な言葉が無理をしたカラ元気だと見抜いていた。
「ミサ…青い顔で笑っても説得力ないから」
 何があったのか話して、と優しく言われて、安心したミサは思わず彼に縋りつく。
「あのね…とても怖い夢をみたんだ
 6年前の…私の故郷がオーガの襲撃に遭って…お父さんとお母さんが…」
 そこまで言って、ミサはぐっと涙をこらえる。大きな瞳に涙がいっぱいに溜まっていた。
「お、お父さん達は、オーガに、こ、殺された…筈なのに…
 血溜りに立っていたのは…エミリオさんだったの…
 …どうして?どうして、こ、こんな…」
 そこまで必死に告白すると、ミサは大声を上げて泣き崩れてしまった。
 そんなミサを抱きしめながら、エミリオは告げられた夢の内容にただ呆然とする。
 エミリオの脳裏には…ある光景がフラッシュバックしていた。

 血濡れた双剣、狂ったように高笑いする憎き男・
 そして…両親を殺され気を失う栗色の髪の少女の姿…

 ミサと自分の人生に大きな変化があったのは6年前のことだ。
 そして、2人ともその時の記憶は曖昧なまま。それは単なる偶然なのだろうか、それとも…
(ミサの両親を殺したのは…っ)
 ぎり、とミサに気づかれないようにエミリオは歯をかみしめる。

「お願い、私が眠るまで…傍にいて」
 自分の手を弱弱しく握り願いを口にするミサに、エミリオはそっと口づける。
 彼女の悪夢は…口付けで忘れ去れてあげたい。そう思った。
「大丈夫、傍にいるよ…」
 唇を離し、そっと告げるとミサはゆっくりと再び眠りについた。

「…ふふ、あははっ」
 少しして、深く深く眠っているミサの病室に、エミリオの笑い声が響く。
 その笑い声は、ミサは知るはずもない。そして、それに続く言葉も。
「やはりあの男だけは地獄に道連れにしてやる…エリオス」
 エミリオが口にしたのは…父の名った。
 そしてエミリオの瞳が狂気に染まってゆく。
 エミリオの変化を知らないまま、ミサは無垢な顔で眠り続けるのだった…




END



依頼結果:大成功
MVP
名前:ミサ・フルール
呼び名:ミサ
  名前:エミリオ・シュトルツ
呼び名:エミリオ

 

名前:ミオン・キャロル
呼び名:ミオン
  名前:アルヴィン・ブラッドロー
呼び名:アルヴィン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月29日
出発日 04月05日 00:00
予定納品日 04月15日

参加者

会議室

  • [8]油屋。

    2015/04/04-10:56 

  • [7]ニーナ・ルアルディ

    2015/04/04-04:30 

  • [6]ミサ・フルール

    2015/04/02-01:31 

  • [5]ミオン・キャロル

    2015/04/01-21:53 

    ミオンよ。
    あら、皆、寝不足気味なの?
    疲れすぎたり、寝る前に何かに集中したりすると寝れなくなったりするわよね。
    足裏マッサージとか気持ちよくて好きよ。

    暖かくなって桜も咲いて、だんだん春ね(←寒いの嫌い
    こんなに暖かいと眠くなっちゃう…
    約束の時間まで、まだあるから少し横になろうかしら、ふぁ…お布団きもちいい…

  • [4]油屋。

    2015/04/01-12:19 

    こんちはー油屋。だよ……
    アタシも最近変な夢ばっかり見るんだ。
    アイツのせいだ……アイツの……(ブツブツ)

  • [3]エリー・アッシェン

    2015/04/01-01:47 

    エリー・アッシェンです。どうぞよろしくお願いします。

    春眠暁を覚えず……というのに、ラダさんは恐怖の悪夢に悩んでいる模様。
    うふふ……、ポカポカする春はついたくさん眠ってしまうので、ちょっとぐらい悪夢を見た方が、二度目や寝坊をせずに済みそうですね!!(超強引なポジティブ解釈)

  • [2]ミサ・フルール

    2015/04/01-01:18 

    こんばんは、ミサです。
    私もあまり寝れてないんだ。
    最近仕事が忙しいからすぐ寝れそうなものなんだけど・・・うーん、どうしちゃったんだろう・・・。
    兎にも角にもご一緒する皆さんどうぞよろしくお願いします(ぺこり)

  • [1]ニーナ・ルアルディ

    2015/04/01-00:24 

    ニーナ・ルアルディです、皆さんよろしくおねがいしまーすっ

    そういえば皆さん最近眠れてます?
    私は最近あまり眠れなくて…色々あったからでしょうか。
    今日こそはゆっくり寝れるといいんですけど。


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