梅の花に祈りを捧げて(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「梅木への祈祷、ですか」
「はい!なにとぞ……ウィンクルムの方々にお願い致したく……!」

 今日も、何でも屋もといA.R.O.A本部の受付に、頼み事を持ってきた人の姿。
確かにオーガに関係ない案件は、請け負うかどうかはウィンクルムたちの任意だが
何でもかんでも通してしまったら、益々A.R.O.Aへの認識が偏ってしまう(もう手遅れという噂が一部人々や地域にはあるようだが)。
何を、どんな内容をウィンクルムたちに通すか、受付職員の責任はこれでも意外と大きいのだ。
たとえ時にノリと勢いで引き受けているものがあっても!

 それはさておき。
これだけ聞くと、どう考えてもウィンクルムの仕事ではなかろう、神主などの部類の仕事だろう、と顔に表す職員に
拳を握り締め、本日やってきた青年は力強く説明を続けた。

「聞いて下さい!我が神社は田舎にあるとはいえ、その土地神様を古くから祀っているんですっ。
 境内に一際大きな御神木がありまして……その御神木を中心に、少し離れた東西南北の地に、梅の木が植えられています。
 『琅梅(ロウバイ)』と呼ばれる、本来純白の梅なんですが、ちょっと不思議な梅で……」

 青年は一旦区切って、ちらりと職員の顔色を伺う。

「なんですか?そんなところで切らないで下さい。不思議梅って?」

 あ。食いついてくれてた!良かった!
心の内でこっそり安堵して、青年は続けた。

「毎年この時期に、巫女さんが祈祷するんです。あ、それうちのばーちゃんだんですが。祈祷した後咲くその4つの梅は
 毎年咲かせる花の色が違うんですよ。一節には、土地神様の感謝の印だと言われてるんですが」
「へぇ。それは面白い梅ですね。ちょっと見てみたいです」
「ですよね!?」

 青年、くわっと顔を輝かせる。
職員、ビビる。

「ああっスイマセンつい。……実は、その祈祷が今年出来なくて……その、ばーちゃんがギックリ腰で起き上がれなくなっちゃって」
「それはお気の毒に」
「でも!その梅は祈祷しないと花の色を変えてくれなくて!つまりは、土地神様が怒るんじゃないかって
 梅の木が植えられてる4箇所周囲の村の人たちが怯え始めちゃったんです……!
 確か、ウィンクルムの皆さんは以前にも神社とその周辺の住民の心を救って下さったと聞きました!」
「よくご存知ですね……」
「だから!どうかうちの神社も……!」
「何もウィンクルムじゃなくても、代理で他の神社関係者に頼めないのですか?」

 ごもっともな職員の質問に、残念そうにふるふると首を振る青年。

「ばーちゃん、ウィンクルムだったんです。理由は未だに分かりませんが、ばーちゃんが祈祷するようになってから
 あの梅の木たちは嬉しそうな色をするようになったって聞いてます。
 もしかして、ウィンクルムの力に反応してるんじゃないかって……」
「なる程。よくわかりました」
「えっ。あ、あの……じゃあ」
「ウィンクルムの名を借りて、あわよくば商売繁盛っていう方々が最近多いもので、細かな説明を求めてスイマセン。
 あくまで引き受けるかは任意ですが、話は通しておきましょう」
「あ!ありがとう、ございます……!」

 青年、嬉しそうにお辞儀をして踵を返す。
どきっと痛んだ胸をそっと撫でた。

(嘘はついていないし困っているのは事実だし!ウィンクルムの力を借りて、活気を取り戻したっていう、
あの神社のようにうちもなりたいんだ……!どうかお願いしますウィンクルムの皆さん……来てくれますように!!)

 人に欲望はつきものである。

解説

●巫女衣装を着て梅の木へ祈祷(の真似)。おや、トランスしてほしいとな?

・東西南北に分かれ、個々で祈祷してもらいます。巫女衣装は勿論青年の実家が貸してくれます☆
 (どの方角に向かうか、こだわりがある方は会議室で話し合ってお決め下さい。無ければ、GMがランダムで配置します)
 すでに巫女衣装に着替え、各方角の梅の木に到着した所からスタート!
・祈祷の仕方はそれっぽく見えれば、お好きに考えてもらって構いません。梅の木に触れてもOK。
・青年の淡い期待が、どうやら各梅の木周辺の村人たちに誇張して広まってしまったようです。
 ウィンクルムさんたちの、それはもう神々しい姿が見れるらしいぜ!と。
 どうやら、トランスを間近で見たい方々が当日集まってきそう。
 勇気を出して 人 前 でトランスしてから祈祷する必要が出てきてしまいました……ふぁいと!
・各方角で梅の木祈祷後、中央の神社に戻ってそこにある御神木にウィンクルム全員で祈りを捧げて祈祷の儀は終了となります。
 その後、境内にささやかに開いてくれたお店で、おみくじやりんご飴を購入して和んでも良し☆(コチラは任意)
  ○おみくじ:1人につき【100Jr】当たるも八卦、当たらぬも八卦。
  ○りんご飴:1個【50Jr】

●田舎の神社までの交通費として、一組【300Jr】消費。相変わらず自費か……。


ゲームマスターより

いつも大変お世話になっております、蒼色クレヨンでございます♪

まだトランスされたこと無い方は、ここで初めてのトランスを経験されるのもよし!
すでに場数を踏んで慣れてらっしゃる方でも、大勢に見られて初心の恥ずかしさを思い起こすもよし!
気恥ずかしくなかなかトランスできないのっておいしいですよねげふんっ。

と、クレヨンもちょっぴり初心にかえってみました!
トランスの描写や、梅の花の色などもこだわりがありましたらプラン内に書いて頂いて構いません☆
無かったら、自分が印象と偏見で全力で楽しく描写します(ウキウキ)

※ちなみに。読んでも読まなくても問題なし!な当方ささやかな関連エピ:「祈望の神楽殿」

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月泉 悠(エードラム=カイヴァント)

  梅の木に祈りを捧げればいいらしいんですが…こんなに人がいるなんて聞いて無いです…!

と、とりあえず梅に一礼して…
…祈祷するのにトランスしなきゃいけないんです、か…?
今までしたことないのに、よりにも寄ってこんなに沢山の人の前でしなきゃいけないなんて…
だって確か頬に、き、キスを、なんて…恥ずかしすぎる…
エードさんだけを…って、それはそれで恥ずかしい…
う…でもここでちゃんとやらないと、エードさんに呆れられちゃいそう…
恥ずかしいのは嫌だけど…エードさんに嫌われるのは、もっと嫌だから…が、頑張らなきゃ…!

トランスの後は…祈祷の方法なんて知らないから、神社でお参りするのと同じように二礼二拍手一礼でいいかな?




かのん(天藍)
  方角、お任せ
天藍に手を引かれ先導される形で梅の木の元へ
思っていたより見学者が多く少し怯む
天藍の配慮にお礼を言い肩に手をかけ少し背伸びしトランス
その後のハイトランスに頬を染める
天藍の虫除けの言葉の意味に気付かず首を傾げる

それらしくとジェンマ持参
雰囲気大事、背筋伸ばして真っ直ぐに前を見る
梅の木の前で一礼の後、光の粉が舞うよう左右に数度振る
綺麗に花が咲くように
最後に梅の木に一礼
天藍と見学者に一礼、神社に戻り皆でご神木にお祈り
青年に方法を聞き皆で合わせる

緊張で梅の木ちゃんと見れませんでした・・・
天藍とお神籤を見せ合い所定の場所に結びながらぽつりと
天藍の提案が嬉しく笑顔で差し出された腕に自分の腕を絡める



菫 離々(蓮)
  土地神様に、皆さんに、喜んで頂けますよう。
……少し緊張してしまいますね

中央と、梅の木と、皆さんに順に一礼
呼吸を整え落ち着いて余裕のある所作を。
そうしてハチさんと向き合いトランス
ゆっくり顔を近づけ。手折る由を。口付けて。

皆さんがトランスを見学したいそうなので時間を掛けてみました
儀式ですよ、ハチさん?
言葉にせず窺うよう軽く首傾け。

オーラを纏い木の周囲を歩みます
道具あれば天に地にそれを振り。
締め括りに梅の木に先程のトランスと同じ動作、つまり口付けを。

その後は中央の神社に合流し祈りを捧げます

りんご飴をハチさんに差し上げるため購入
トランス時のハチさんの頬の色です
あと本音出ています
全部、知っていますけれど


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  梅に村の人達の健康や幸せをお願いしましょう。
巫女衣装は初めてです。
神事なので身が引き締まる気がしますね。
でも、近くの人達が見物に来ているなんてビックリ。
でも今日の私は神事を任された巫女さんですもの、堂々として居なくては!と勇気を出して胸を張ります。
内心ドキドキしてトランスします。
何だか淡い光に包まれているみたい。
梅の木の前で二拝・二拍手してから。
「今年も人々に沢山の恵みと安寧を、花びらが舞うように、木の葉が風に踊るように、皆の上に降り注いでください」とお祈りして、ぎゅっと木の幹を抱きしめます。
その後祈祷を締めるように一拝しますね。
中央の神社でも同様に。
済んだら、おみくじひきます。
結果はどう?



●北 慈愛の祈り

 恭しく手を引かれて最初に梅の木へ到着したのは、巫女装束と水干の衣に身を包んだかのんと天藍。
道中からあくまで一歩下がった位置を歩く天藍に、「どうかしたんですか……?」とかのんが尋ねたことに
「あくまで主役は巫女だろう」と、引き立て役であることを天藍は伝えていた。
天藍にとって、勿論梅の木や村人たちを救うことを忘れてはいないが、普段見れないかのんの姿を目に焼き付けることも重要なのだ。
決して口にはされないけれど。

 そんな天藍の胸中など知らず、そうですよね、私が凛として見せなくては……、と真面目に務めを果たそうと気合を入れるかのんだったが。
件の梅の周囲……、意外にも多くの人だかりを視界に捉えれば、気合が若干しぼんだ。
繋がれた手がこわばったことで、すぐにかのんの緊張を察した天藍は、梅の木へ誘導する流れで
さり気なくかのんから見学者たちが少しでも見えないよう、己の体が盾になる立ち位置へかのんを導く。

「……ありがとうございます」

 天藍らしい、あえて口にされない温かな気遣いに微笑してこっそりお礼を伝えてから。
かのんは少し背伸びをし、天藍の頬へと顔を寄せた。

「共に最善を尽くしましょう」

 その瞬間、邪魔をしてはいけないと一応控えめに見守っていた村人たちの方から『おお……っ』と歓声が上がる。
かのんと天藍から、二人を覆うように翠の雫が波紋となり、音もなく静かに広がる。
穏やかな翠のオーラが落ち着いたところで、今度は天藍がかのんの頬へと顔を寄せた。
幾つもの視線を感じ、唇が触れる間際、かのんの肩を抱くようそっと引き寄せ
天藍は少しでも神事らしく見学者たちにその瞬間が見えるようにする。
口づけがかのんの頬へと成されると、天藍を包んでいた光が揺蕩う大河のように緩やかに、それでいて力強くかのんへと流れ込んでいった。
ハイトランスを間近で見た村人たち、特にお年寄りに至っては感動のあまり騒ぐどころか両手の平を重ねて拝み出す風である。
しかし天藍は見逃さない。若い青年たちは、更に神々しさを増したかのんの姿に見惚れているのを。

「寄ってくる前に虫除けはしておかないとな」

 天藍サン、神事らしく見せる一方で別の意図もしっかりとあったようデス。なんと策士。
独り言で低く呟かれた言葉に、まだハイトランスの動作に慣れず頬を染めていたかのんが、小首を傾げる。
一際光を放つかのんが、その強い輝きとは裏腹にきょとんと見上げてくる。しかも現在巫女衣装。

(……これは、かなりクるな……)

 なにが、と聞いては野暮である。
今にも抱きしめたい衝動を理性総動員して耐えた天藍。それが全く表情に現れないのは、日頃の訓練の賜物もしくは元々の性格だろう。

何でもない、と微笑まれたのを見れば、かのんは安心の色を浮かべ、手を引かれながら梅の木へしずしずと歩み寄った。
その手に掲げるは、愛の女神表す月が施された杖・ジェンマ。
そうして――
梅の木と向かい合う。その背筋はピンと真っ直ぐに伸び。
一礼した後、ゆっくりと杖を左右に振る。光の粉が梅木を祝福するように、キラキラと舞った。

(綺麗に咲きますように……)

 気持ちを込めて、最後にかのんはもう一度梅木へと一礼。
その一部始終が済むまで、天藍はかのんの傍に跪いたまま、最後のかのんの一礼に添って瞳を閉じ軽く頭を垂れる。
天藍の顔を上げる姿が視界に入って、かのんは瞳を細め天藍へ、そして振り返って見学者たちへも微笑んでお辞儀をするのだった。

●南 勇気の祈り

「おや、見学者が沢山……」
「こ、こんなに人がいるなんて聞いて無いです……!」

 あくまで村人たちに聞こえないように小声で。
梅木を見つけると、どうにか慣れない巫女衣装でそろそろと歩くのは月泉 悠。
いつ転んでも大丈夫なように、隣りを歩きながら密かに構えるエードラム=カイヴァント。
確かにちょっとした見学者がいるかもとは聞いていたが、明らかに『ちょっと』ではなさそうな村人の人数を目にとめ、
エードラムは悠の表情を窺う。

(僕としてはこれも仕事ですし、気になりませんが)

予想通り今にも泣きそうな顔になっている悠を、見つめ見守ってみる。
それでも必死に梅の木へ一礼する様子が何とも一途で。

(表情に出てわかり易いのは可愛らしい所ではあるけれど……ね)

エードラムの心中知らず、悠は緊張のあまりに頭が働いていない様子。

「悠、トランスを……」
「……祈祷するのにトランスしなきゃいけないんです、か……?」
「うん、言ってたよ」

 なるほど見学者が居るっていう言葉でもう緊張して、トランスのくだりは聞こえてなかったのか、とエードラムはすぐに納得。
さらりと伝えてくるエードラムの顔、正確にはその頬をチラッと見上げる悠。
契約してから多少の付き合いを得た2人だが、実はまだ一度もトランスをしたことがない。
その初めてが、よりにも寄ってこのような沢山の人の前でしなきゃいけない……現実の残酷さよ。
――でもこれを乗り越えた時、本番の戦いの際にはきっと……ああでも、き、キスを、なんて……恥ずかしすぎる……
乙女にとっては如何ともし難い重大な、当然の恥じらいである。

「周りが気になるのなら、僕だけを見ていればいいよ」
「エードさんだけを……って」

 それはそれで恥ずかしい……と思うものの、これ以上自分がもたつくことでエードに呆れられてしまうのは怖い。
かくいうエードラムも、そんな悠らしさにも慣れてきている為、むしろ悠を気遣いその体を反転させた。

(身長差だけはありますから、少しは僕の体で隠れないでしょうか?)
(恥ずかしいのは嫌だけど……エードさんに嫌われるのは、もっと嫌だから……が、頑張らなきゃ……!)

呼吸ぴったりに、一方は背伸びをし一方は屈み。

「共に歩む道を、我らの前に」

 悠の唇がエードラムの頬へと触れた。
『お、おおおお』
何やらオーラが纏われる前にフライングで歓声が上がる。
実はその瞬間の映像は、エードラムが気をきかせた己の背なる壁によって、角度的に神がかっていたのである。
村人たちからは、まるで互いを抱き寄せ正面から口づけているように見えていたのだ。そう、つまり 口と口 で。
エードラムもそこまでは予期していなかった行動ではある、が。
――天然ジゴロ。
そんな単語が彼にあてがわれるのは近い未来かもしれない。

 そんなこととは露も知らない二人。自らを包むオーラに一瞬息を呑む。
それは湖面から控えめに反射される光のように、透明な膜が体を覆った直後、淡く水の色を帯びて輝き出す。
不思議な温かな光に自然と緊張解かれた悠は、梅の木へ向き直るとどこかで得た知識に身を委ねた。
お辞儀を二度。両の手を叩くこと二度。そしてそっともう一度お辞儀。
そうして振り返って微笑んだ悠の姿は、いつもの怯えた空気は無く、エードラムの瞳には美しささえも纏い映っていた。

●東 希望の祈り

 神事ということに重きを置いて、厳かに梅の木へ歩いてきた瑞希とフェルン。
瑞希は普段であれば、このように人前に進んで立つ性格ではないが、初めて着る巫女衣装が彼女の身を引き締め勇気を与えていた。
梅木への祈りが何より優先すべき大切な事なのだと。
対するフェルンも、瑞希に並ぶ自分も雰囲気を高めねばと、依頼主に要望を伝え神主風の装束を用意してもらいしっかりと身を包んでいる。
浅黄色の袴を一歩、また一歩と前に出し、瑞希を梅木正面に導いた。

(今日の私は神事を任された巫女さんですもの、堂々として居なくては!)

気持ちを持ち上げ胸を張り、トランスするべくフェルンへ身を寄せる瑞希。
しかしやはり気になる。この視線の数。

「さ、さすがに、少々居た堪れないわね……」
「恥ずかしがらなくても、とても似合うよ」
「え……あ、その、ありがとう」

 白い巫女装束にかかる瑞希のポニーテールの黒髪を、目を細め見つめながらフェルンは正直に伝える。
一瞬固まった瑞希に僅か心配になったが、すぐに続いた言葉と照れたように逸らされた瞳に、
良かったまんざらでもないのだろうか、とフェルンは安堵した。

(ほ、褒めてくれたのは嬉しいけれど。ミュラーさん……逆効果かも……な、なんだか余計心拍数が……)

優しい笑みを向けられ、火照ってくる頬を出来る限り意識しないよう、瑞希はフェルンの横顔へとトランスの口づけをする。

「皆を、護って」

 その瞬間、二人の体から天を照らす灯火のように一度淡い光が舞い上がったと思うと、昇った光の柱が散り散りになって二人へと降り注いだ。
それは白い花びらのように。
一度トランスを経験しているものの、その時は戦いの最中でよく見ている暇はなかった。
淡いオーラを纏うと二人は自らの体を思わずまじまじと見つめる。

(これが、俺たちのオーラか)

 まだまだ慣れないトランスに恥じらう瑞希とは反対に、フェルンにとってトランスは特別であり
精霊として誇らしいものだ。

(トランスの時の、ちょっと祈るようなミズキの、視線を伏せるような表情も好きなんだよな)

 そんなトランスの時のような表情で、梅木へと祈りを捧げ出す瑞希の姿を見守るフェルン。
焦らず、ゆっくりとした動作で二拝、そして二拍手してから。

「今年も人々に沢山の恵みと安寧を、花びらが舞うように、木の葉が風に踊るように、皆の上に降り注いでください」

 祈りを呪文の言の葉のように小さく呟く。
村人達の健康や幸せを、瑞希は一心に込めてぎゅっと梅木の幹を抱きしめた。
いつもは謙虚で控えめな姿しか見たことがない瑞希の、躊躇うことなく祈祷を行う後ろ姿に
フェルンはいつしか見とれていた。
最後に、祈祷を締めるように一拝を終えた瑞希に、お疲れ様と声をかけるつもりが思わず無言で手を差し出す程に。

●西 幸福の祈り

 蓮の手のひらに自身の手を重ね、梅木前に誘われた菫。
祈祷を行う菫よりも、一歩遠慮した立ち位置を保つ蓮の方が少々ソワソワしている。

(お嬢のことです、それはもう堂々とやってのけてくれると信じてますが……
この握り具合、……緊張してます?やっぱりお嬢の表情読み取りスキルまだまだだ)

 もしもその気持ちをはっきりと汲んであげられたなら、もう少しリラックスさせたりと何か手伝えるのに。
蓮は菫には気づかれないよう小さく息を吐く。
真っ黒ナイトガルドコートをまとった自分が場違いであると自覚しせめて、巫女姿の菫へと視線が集まるよう常に下座を維持しようとは思っているが。

(それにしてもお嬢の巫女姿尊い……)

「……少し緊張してしまいますね」

 蓮の葛藤なぞ知らず、村人たちへこっそり視線をやってから菫ははにかむような笑みを蓮へ向けた。
――ああああやっぱりだもっと気遣えたじゃないか俺のばかやろう。
あくまで真顔を崩さず、せめて一連の動作に難が出ないようにと、蓮は向き合った菫に頭垂れるように姿勢を低くする。
それを合図に、菫は一度今来た道を振り返り、中央の御神木へと。
続いてすぐ横にそびえる梅木へ、最後に村人たちへも、静かに順に一礼して。
ひと呼吸置いてから、蓮の頬を両手でそっと包み込むようにして、己が口を寄せていく。
今にも口が触れる数ミリの距離、たっぷり3秒程溜まる菫の様子にそわそわに磨きがかかる蓮。

「お嬢、こんなところでサービス精神出さなくても(焦らしプレイktkr)」
「手折る由を」

 ささやかれる言霊。
足元から、水が逆流しているかのように蒼いオーラが全身へと巡っていく。
二人のオーラが映る真下の大地は、まるで潤されているかの如く。

(皆さんがトランスを見学したいそうなので時間を掛けてみました。儀式ですよ、儀式なんですよ、ハチさん?)

蓮のドキウキ心中などもちろん分かるはずも無……いや薄々感づいているのかもしれない菫、
トランスを終えてもやや呆然気味(正確には恍惚気味)の蓮を、心の声は口にせず窺うように覗き込み首を傾げた。
若葉色の瞳と出会えば、ハッとしすぐさま梅木へ視線をやってから蓮は頷く。
問題ないの示しに頷き返して、菫は巫女衣装の帯に飾りとして付いていた根付鈴を手に取ると
りん、しゃん、と鈴を天に、地に、鳴らしながら梅の木をゆっくり一周した。道具を使うことで、より儀式っぽさを演出する。
トランスから今のその動きまで、見学者なる村人たちは菫の厳かな雰囲気に魅了させるように、ただじっと見つめ続ける。
ああ、もうきっと大丈夫だ。そんな安堵の色を瞳に宿して。
正面まで戻ってきた菫へ、蓮はまた手を伸ばす。
その手を取った菫は、蓮と並ぶことでなおオーラの輝きが増したようにも見え、村人たちはとうとう拝み出したり。

(土地神様に、皆さんに、喜んで頂けますよう)

締め括りとして、オーラ纏う両手を梅木へとつくと、トランスをする時のようにそれへと菫は優しく口づけた。
ぎりぃ。
蓮の心の歯ぎしり音がしたとか。


「御神木を中心に、皆様が行かれた方角の位置へそれぞれ立って下さい。後は、祈りを込めて頂ければ大丈夫です」

 全員が中央の神社に戻ってきたことを確認すれば、依頼主の青年は御神木へと一同を案内した。
お互いに微笑み合って各々の方角へと移動する。

北の位置にかのんと天藍。
皆と視線を合わせてから、呼吸を整え御神木へと祈りを捧げる。
しっかりと握りあった手。お互いの優しい想いごと、御神木へと伝えるように。

南の位置に悠とエードラム。
左右のウィンクルムの動きに倣って、瞳を閉じ祈りを捧げる。
梅木の時と同様、意図したわけではない二人の一連の動きはどこまでもぴったりと揃っていた。

東の位置に瑞希とフェルン。
先ほどの梅木へしたのと同じように、二拝二拍手し祈りを捧げる。
御神木の大きさに圧倒されながらも、再び意識して胸を張り背筋を伸ばす様が、隣りで微笑ましく見つめられていた。

西の位置に菫と蓮。
無意識に鈴を握り込んだまま、しっかりと両手を合わせて祈りを捧げる。
あくまで一歩下がった位置で、菫と同じ仕草で拝む気配に手の中の鈴が嬉しそうにチリンと微かに鳴るのだった。

●お役目終了☆

「緊張で梅の木ちゃんと見れませんでした……」

 お神籤を引きながら、少ししょんぼりした声がかのんから聞こえた。
実を膨らませ今にも咲きそうな姿を、一瞬垣間見ただけで……と呟くかのんに、隣りで同じように神籤を引きながら
クスリと天藍が微笑して告げる。

「なら、御神木をもう一度見た後……四方の梅の木をそれぞれ見てから帰らないか?」
「えっ?いいんですか?」
「俺が見たいんだ。折角来たんだしな……ゆっくり、2人で歩いて行こう」

 神籤を見せ合ってから結び木を見つけると、そっとかのんへと手を差し出す天藍。
押し付ける優しさで無く、自分ごと包み込んでくれるその提案がとても嬉しくなって。
かのんは差し出された大きな手を腕ごと、自分の腕と絡めた。
少し驚いた表情となった後、綻んだ笑みになる天藍。かのんの足並みに合わせて歩き出したのだった。

 結び木に結ばれた、寄り添う二つの神籤はどちらも中吉。
かのんのものは―
『独り事を成さんとするは損失 和順するたちなれば隣人にて相談で諸事万端なり』
天藍のものは―
『人事尽くし忘れるはしんぱいごと起こるべし 人の助けありて人にたふとまれ望事自然にかなふ』

 まるでお互いを補い合う言葉が、結び木に、そして二人の心に刻まれるのだった。

* * * * * * *

「悠さん、はい」
「え?」

 目の前に差し出されたりんご飴に、悠は数度の瞬き。
エードラムへと交互に視線を行ったり来たりさせる仕草に、小さく笑みを作って。

「慣れないことばかりで大変だったね」
「す、すいませんっ。……ありがとうございます」

 それがエードラムの労いだと気付いて、恐る恐るりんご飴を受け取る悠。

「……エードさんの分は?」
「今日の功労者は悠さんだから。なんなら後で一口もらおうかな」
「え、え、えーとっ」
「冗談だよ」

 慌てる悠に、にっこりと笑って見せながら。

(……何だか子供っぽかったでしょうか……?)

 りんご飴をプレゼント、だなんて。子供扱いなどしているつもりはないのだけれど。
年がかなり上である自分がやると、そう受け取られてしまっても仕方ないかもしれない。
しかし、エードラムのそんな心配はすぐに払拭された。
りんご飴をしばし眺めた後、悠からはにかんだ微笑が浮かべられたのだ。

(いつかのお願い事……叶ってきてるのかな……)

想いを込め手作りしたチョコレートのことを思い出す。
まだまだ自分からはたどたどしさは抜けないけれど、こうして何かをきっかけに会話出来るのが日々嬉しくて。
悠は落とさないよう、しっかりとりんご飴の持ち手を握り締めるのだった。

* * * * * * *

「あ、大吉」
「っと……俺は小吉かぁ」

 瑞希の綻んだ呟きに、ひょいとその手元の籤をフェルンは覗き込む。
『草木の春にあふて芽を出し花のさくがごとく これまで心配せしこともいつしかよろこびとかはる』

「お。とても良さそうな感じだな」
「ミュラーさんのも、見ていい?」
「もちろん」

『こと性急にすれば手にとるやうの幸も手にとられぬことあり ゆるゆるとことをなして良』

「どういう意味かしら……」
「まぁ、急がば回れってことだろう」

(急いても面白くないし、な。ミズキがこれからどう変わっていくか……まだまだ目が離せなそうだ)

「? ミュラーさん?何だか楽しそうね」
「うん。これからもミズキの傍から離れずいようと思って。ほら、大吉様のご利益にあやかれるかも」
「そ、そういうものかしら……」

 おろおろと表情を変える瑞希を、満足そうに眺めるフェルンであった。

* * * * * * *

(どうにかキリッとした表情は保てただろうか……俺、今回罰当たりな思考回路だったと思うんですよね……)

一人反省会が蓮の脳内で繰り広げられる。
そんな蓮の下に、ちょっと待っててもらえますか?と告げて離れていた菫が戻ってきた。

「ハチさん、どうぞ!」
「えっ?お嬢が、俺に?」
「傍に居て下さって心強かったです。トランス時のハチさんの頬の色だなぁ、って思ったらつい買ってた、っていうのもあるんですけれど」
「ありがとうございやす!帰ったら永久保存出来る方法を探しておかないといけやせんね……!」
「ハチさん、後半心の声ですよね?」

 りんご飴を持つ菫の手ごと、がしっと受け取れば今にも感涙しそうな蓮。
すぐ自ら気付いてその手は離すものの、先程の罰当たり云々考えた己の思考を思い返し。

「仕方ありません。人に欲望はつきものです」
「まだ本音出ています。全部、知っていますけれど」

 楽しそうに笑みを返す菫。
ああ眩しい。まだもう少し巫女姿のままでもいい。
蓮、自分では止められない思考だと判断し、おもむろに神籤を引きに行く。
裁いて下さい、とばかりに勢いよく籤を引き中を見た。

『末吉:身のほどをわすれておごり高ぶる時はかへりてうらうへの災にあふ事も有べし 幾時もかへりみて吉』

すいやせんでした!とばかりに籤握り締め崩れ落ちる蓮。
その手の中の籤を、興味深げに覗き込もうとする菫の姿があるのだった。



 数日後。A.R.O.A本部に手紙と写真が送られてくる。
それはウィンクルムたちが祈りを捧げた梅木の、無事色を付けたという感謝の内容。

北の梅は、芽吹いたばかりのような淡い新緑色。
南の梅は、どこまでも続く深い海のような紺碧を中央に映した水色。
東の梅は、人の頬のように薄いピンクから花びら先に向けて紅色に。
西の梅は、全てを包み込む日の光をそのまま宿したような蒲公英色。

どの色も大変美しく、村人たちはそれは大いに喜んでいたと綴られているのだった。

また更に後日に。
実は追伸がありまして……と受付職員が言うには、梅木を一目見ようと、ウィンクルムたちが祈りを捧げた御神木のご利益にあやかろうと、
例年以上に多くの人で賑わっている、と内心は大喜びの依頼主から控えめな声が届いたのだとか。



依頼結果:大成功
MVP
名前:月泉 悠
呼び名:悠さん(偶に呼び捨て
  名前:エードラム=カイヴァント
呼び名:エードさん

 

名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 03月21日
出発日 03月27日 00:00
予定納品日 04月06日

参加者

会議室

  • [8]かのん

    2015/03/26-21:16 

  • [7]かのん

    2015/03/26-21:15 

    プラン提出しました
    梅の花がどんな色になるのかとても楽しみです

  • [6]瀬谷 瑞希

    2015/03/26-00:37 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    ひ、人前でトランスですか。
    これもお仕事です、頑張ります。

    私も方角にこだわりはありません。

  • [5]菫 離々

    2015/03/25-20:36 

    こんにちは。スミレ・リリと、精霊のハチスさんです。
    衣装も祈祷も初めてのものばかりで、少し緊張してしまいます。
    そして、私の方も方角にこだわりはありませんよ。

  • [4]菫 離々

    2015/03/25-20:35 

  • [3]月泉 悠

    2015/03/25-02:16 

    あの…月泉 悠、です……。
    よ、よろしくお願いしますっ

    方角ですけれど、私達も特にこだわりは無くて……。
    ですので、私達も他の方の希望に合わせます。

  • [2]かのん

    2015/03/24-21:01 

  • [1]かのん

    2015/03/24-21:01 

    こんにちは
    離々さんお久しぶりです、悠さんと瑞希さんははじめまして
    花の色が変わる梅が見たくて参加したのですけれど・・・何だか見学の方が多いみたいですね(困惑)
    お仕事ですし、受けたからには頑張ろうと思いますけれど・・・

    そういえば、皆さんは向かう方角どうされますか?
    私達はこだわりがないので皆さんの御希望に合わせたいなと思っています


PAGE TOP