花流鏑馬(蒼鷹 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ある日、A.R.O.A.の掲示板に、こんなチラシが張り出されていた。

「ミラクル・トラベル・カンパニー・春のおすすめレジャー

★花流鏑馬~桜の季節に、馬との触れ合いを楽しみませんか~★

■ツアー概要
セイダ村は、タブロス郊外の山のふもとにある、農耕と牧畜が主な収入源の小さな村です。
この山には多くの桜が植えられており、毎年春の時期には、多くの観光客が花を見に訪れます。

花の季節に、山のふもとの花見スポット『桜の広場』で開かれるのが、毎年恒例の流鏑馬大会。
流鏑馬(やぶさめ)とは、走る馬上から弓矢を放ち、三つの的を次々に当てるという神事です。
乗馬の腕に自信のある方なら、実際に参加して体験することも可能です。

セイダ村では同じ時期に、馬との触れ合いながら桜を楽しむ、乗馬体験トレッキングツアーを開催しています。
馬に触れたことのない方でも、お気軽に参加いただけます。
また、普通の観光客が入らない山奥まで馬で踏みこみますので、桜の絶景を、喧噪や人混みに邪魔されることなく、静かに堪能することができます。

咲き乱れる桜を、馬上で満喫してみませんか。

★ツアーの内容★

●流鏑馬体験ツアー
【アマチュアの騎手と同等か、それ以上の腕前の方向け】
扱いやすい乗馬用の馬に乗って、流鏑馬にチャレンジして頂きます。

◎流れ
近隣の馬場にて簡単な練習→桜の広場に移動→本番チャレンジ
流鏑馬体験終了後は、他の参加者が流鏑馬を行うのを見物したり、桜の広場の屋台で食べ歩きを楽しむこともできます。

ペアお二人で別々の馬に乗ってチャレンジしても構いませんし、片方がチャレンジして、片方が応援して頂いても構いません。
二人乗りで、一人が馬を駆り、一人が弓を射ることも可能です。
その場合、馬を駆る方だけでなく、弓を射る方にも、揺れる馬上から弓を当てるための技術や経験が必要になるでしょう。


●桜満喫ツアー
【完全初心者~趣味程度の方向け】
馬に触るのは初めて、という方から、趣味で乗馬を楽しんでおられる方までおすすめのツアーです。

◎流れ
近隣の馬場にて、基本的な乗馬の知識・馬の操作法を学習→インストラクターの先導に従い、並足で桜の咲く山へ→目的地は二つありますので下記から選んで下さい

1・山の中腹の清らかな小川
人気のない静かな山の中、桜に囲まれて休憩できます。
お弁当を持ち込んで食べることもできます。

2・桜の広場(流鏑馬会場)
ぐるっと山を一周して桜を堪能した後、ふもとの桜の広場にて流鏑馬を見物します。
屋台での食べ歩きも可能です。

馬はお一人につき一頭に乗っていただきます。
山には野鳥が多く生息しており、馬上から観察できます。

※桜満喫ツアー・フリープラン
お二人のうちどちらかが、アマチュアの騎手と同等か、それ以上の腕前の方向けのプランです。
お二人に馬をお貸ししますので、インストラクターをつけず、ご自身の判断で外乗して頂きます。
地図をお渡ししますので、お好きな目的地を、ご自身のペースでご見学ください。
馬は基本的に一人一頭ですが、ご希望があれば二人乗りも可能です。

【料金】
保険料等込みで、お二人で700ジェールになります。

乗馬に必要なヘルメット、鞭などはお貸しします。

みなさまのご参加をお待ちしております」

解説

●馬について
オスメス、毛色などは、お好みがありましたらお書きください。(特になければこちらで描写します)
ちなみに、馬たちはみんな角砂糖が好物です。

●流鏑馬について
桜の広場に約200メートルの馬場が設けられており、馬の進行方向から左手に見て、3つの的が間をおいて置かれています。
馬場から的までの距離は約5メートル、的の高さは地上から2メートルほどになります。

●屋台・お弁当について
屋台での食べ歩きや、山の小川でのお弁当持ち込みを希望する場合は、別に200ジェールかかります。
屋台は、花見会場の桜並木に沿って出ています。焼きそばや焼き鳥、フランクフルトなど、お祭りなどで売っている一般的な食べ物が並んでいます。

●流鏑馬の閲覧席について
桜の木の下にビニールシートが敷いてあり、座って観戦できます。

ゲームマスターより

お世話になっております。蒼鷹です。
タイトルは「はなやぶさめ」と読んで頂いても、「かりゅうかぶらめ」でもOKです。
桜の季節にいてもたってもいられず、桜と馬を堪能するエピソードを出してみました。
せっかくの流鏑馬ですから、和服など、衣装に凝ってみるのもいいですね。
そして、二人乗りっていいですよね。バイクもそうですが、誰が前やら後ろやら、どこに手を回していいやら。
それでは、よろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  ■流鏑馬体験ツアーに参加

せっかくだし、いつもはできない事を体験してみたいんじゃない?
私も馬に乗れたら一緒に参加できたんだけど
来年までに乗れるように練習するわ
だから今年はアルの応援させて

■服装:袴姿
お婆ちゃんが貸してくれたの
学生の時に卒業式で着たんですって
似合うかしら?(くるっと回って

■流鏑馬
シートに座って大人しく見学
友人知人が参加していたら応援
アルの出番時は思わず膝立ちになっちゃった

「アル!頑張って!!」
思ったより大声になって少し恥ずかしい
真剣に的を狙う姿に見惚れてしまって
か、かっこいいなんて思ってな…本当は思ったけど

■終了後
桜を眺めつつ屋台へ
大きな声出したらお腹空いちゃった(照れ気味に笑って



かのん(天藍)
  桜満喫ツアー、山腹へお弁当持ち込み

乗馬初心者
近くで触れるのも初めて少し緊張
最初はおっかなびっくりで練習
少し慣れ周りが見渡せるようになり出発
歩くのとは視線が異なり間近で桜を眺める
枝の間を飛ぶ鳥の事を尋ねようとして天藍との距離に戸惑う
大声を上げるのも躊躇
少し寂しさを感じる

休憩
お弁当を食べながら先程見た鳥の事を天藍に尋ねる
桜の種類を天藍に説明
よく見る染井吉野や休憩場所付近に生える山桜等
別々の馬で前後に並んでだと移動中は話しかけにくく休憩の時に近くで話せる時間がとても大切で嬉しく感じる

一緒に乗るのは素敵だと思うも大人2人の重量は馬の負担になりそう
今回体験がとても楽しいので私も一緒に乗馬を習いたいですと



ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  流鏑馬に挑戦します

【使用スキル】
騎乗

馬を指定できるなら
私がブラッシング等のコミュニケーションをとってみて
それで相性が良い馬を選びたいです
乗馬用といってもやはり心の通じ合いがありますから。

さて、私は騎手
そして貴方は現役射手
二人乗りも慣れてるほうだと思います
ちょっと目標を立ててみませんか。

そうですね…例えば
的と一緒に桜の花びらを射るのはどうでしょう
ディエゴさんも私もタイミングを合わせるのに集中力がいるんじゃないですかね。

ただ…まあ
二人の息を合わせたいだけで
そこまで気張る必要は無いと思うんです
達成できたら嬉しいですけど、そればかり集中しちゃうと危ないですよ
私はディエゴさんをケガさせたくないです。


名生 佳代(花木 宏介)
  宏介ぇ、これは「やぶさめ」って読むんだしぃ!
さすがに宏介も知ってるっしょ?
…うん、難しそうだけど初心者用もあるみたいだし
なんとかなるってぇ!

桜満喫ツアーで目的地は桜の広場。
馬は当然白馬の王子様ッて感じで白っしょ?
へぇ、宏介馬に乗れたんだねぇ…。
和服も似合うじゃん!
武士様ってかんじぃ?
かっこいー!

わー結構揺れる!
早足でもこんなに揺れるんだぁ。
桜が綺麗だけど、
馬に気を取られてゆっくり眺めてる余裕がないかも。

すげー!
ウィンクルムの流鏑馬かっこいいじゃん!
様になってるし、
的にあたったら大歓声あげるしかないじゃん!
宏介もやってみて欲しかったかもぉ。
あ、あたいも屋台でなにか食べながら流鏑馬みるしぃ!


水瀬 夏織(上山 樹)
  桜満喫ツアー、目的地は山の中腹の小川

上山さんと少しでも親しくなれるよう誘ってみたは良いものの、馬って大きいですね。ちょっと怖い気もしますが、とりあえず「よろしくお願いします、ね」と馬に声をかけて乗せて頂きます。

桜、綺麗ですね
なんだか、上山さんに似ている気がします

似てますよ
上山さんの笑顔って、綺麗ですけどどこか儚い感じがして
あ、決して上山さんが弱々しいとかそういう意味ではないんですけど…

あ、それは知ってます
もし本当なら、少し悲しいお話ですよね
桜も、根元に埋まった方たちも、苦しいんじゃないかって…

え?それは知りません

上山さん、髪に花弁が…
あ!桜の花弁、ハート型だから綺麗なのかもしれないですね



――静の花――


●桜の秘密
 茶色い鹿毛の馬に、水瀬 夏織はおっかなびっくりで触った。
(上山さんと少しでも親しくなれるよう誘ってみたは良いものの、馬って大きいですね)
 ちょっと怖い気もするが。
 一方馬の方は、乗馬が初めてのお客さんに慣れている。
 大丈夫だよ、と囁くように首を振って、あぶみに足をかけるよう促す。
「よろしくお願いします、ね」
 馬に声をかけると、優しい瞳で見つめかえしてきた。
 夏織は馬の様子に少し安心して、躊躇いながらも鞍にまたがった。
「わあ……高い」
 ぼんやり春霞の青空が近くなって、花咲く枝も間近に見える。

 その隣で黒鹿毛の馬を眺めていたのは、上山 樹。
(水瀬に誘われて来てみたけど……馬、か)
 その穏やかな面立ちから、ふと表情が消えて。
(馬は人の心に敏感だという話も有るけど、どうだろうね)
 馬は、犬のように喜怒哀楽をわかりやすく表現したりしない。ただのんびりと、「お客さん、いらっしゃい」とばかりに軽く尾を揺らすだけだ。
 穏やかで物静かなその馬は樹の気に入った。
「よろしく」
 と軽く鼻面を撫でてからあぶみに足をかける。鞍に乗ると、広がる青い空と、薄紅の桜の枝がすぐ近くに見えた。
 そして、微風に長髪が緩くなびく、夏織の横顔も。
「桜、綺麗ですね」
 夏織が俯きがちに微笑する。はらはらと、花びらが舞い降りて、二人の間に落ちてくる。
「なんだか……」
 少し言葉を選んでから、
「上山さんに似ている気がします」
 樹はわずかに目を見開いた。白いシャツに上着に、桜の花びらが落ちかかる。
「桜は確かに綺麗だね」
 樹は見開いた目を細め、
「でも、僕に似てる? そんな事ないと思うけれどね」
(僕が綺麗だなんて、そんな事ありえない)
 引き合わされたこの馬の毛色のように。
 彼の心は光から陰へ、それも闇の濃い方を好む。
「似てますよ」
 夏織はインストラクターの指導の通りに、見よう見まねで馬に指示を出した。
 歩き出しながら、青年の黒い瞳を眺める。
「上山さんの笑顔って、綺麗ですけどどこか儚い感じがして」
(儚い?)
 彼女の表現に樹は、想いに耽るような表情を浮かべる。
「あ、決して上山さんが弱々しいとかそういう意味ではないんですけど……」
 取り繕うように、気恥ずかしそうに彼女が笑う。青年は彼女の後に続いて馬を動かしながら、分かってるよ、と穏やかに返事をした。

 山の中は咲き誇る桜の枝がまるで打ち寄せる波のよう、馬は花の波間を漂うボートのよう。
 風に波がたゆたえば、ひらり、ひらりと花飛沫。
 花見の人々の喧噪もここには届かず、静寂の中を進む。

「そうだ、桜の迷信を知ってるかい?」
 思い出したように、樹の声が響いた。
「花が薄紅に染まるのは、桜の根元に……ってやつ」

 美しいものの中にこそ。
 その奥底に昏い秘密が眠っている。

「あ、それは知ってます」
 景色を楽しんでいた夏織が振り返り、
「もし本当なら、少し悲しいお話ですよね。
桜も、根元に埋まった方たちも、苦しいんじゃないかって……」
 樹年は口元で微笑して、
「水瀬は優しいね。
じゃあ、もう一つの迷信、桜の花がこんなにもきれいな理由を知っているかい?」
「え? それは知りません」
「そうか。いや……実は僕も、良くは覚えていないんだ。
言いだしたのに、思い出せなくてすまない」
 二人の会話はそこで途切れた。桜に抱かれ、眠るようにせせらぐ、澄んだ水の流れが見えてきたから。
 キラキラと光る水に花びらが踊る。
 川の向こう、桜の枝の先には、ふもとの黄色い菜の花畑が見える。
 馬に水を飲ませ、二人はしばし、眺めに見入った。
「上山さん、髪に花弁が……」
 ふと気がついて、樹の黒髪に落ちかかった薄紅色の花に手を伸ばす。夏織は、あ、と小さく声を上げて、
「桜の花弁、ハート型だから綺麗なのかもしれないですね」
「そうかもしれないな」
 樹は目を細める。
(桜の花弁は心臓の形をしている。だから、鬼霊【きれい】だなんて言えるわけがない、か)

●想い川
 黒い長髪を、花びらがくすぐっては、流れ落ちる。
 かのんは、おっかなびっくりで馬を操っていた。馬に近くで触れるのもはじめてで、少しだけ緊張して。
 彼女の髪のように艶やかな、黒光りする青鹿毛の馬は、騎乗者を落ちつかせるように、のんびりと歩く。
 ざわっ、と桜が風に揺れ、花吹雪が舞うと、
「かのん」
 風に踊る花をまとうようにして、染井吉野の黒い幹のような黒鹿毛の馬に乗って現れたのは天藍だ。
 天藍も乗馬は初心者だった。とはいえ、馬にどう対応すれば良いのかは知っている。
 軽く練習するとすぐ、この馬の性格や呼吸も掴んだ。彼は神人に、
「緊張していると馬も緊張する。肩の力を抜いて」
 とアドバイスする。かのんはリラックスしようとしたが、どこか力が入っている。
 緊張のせいか少し頬を紅潮させ、ぴん、と背筋を伸ばし、美しい姿勢で花吹雪の中を歩むかのんを、天藍は心配しつつも、眩しそうに見やった。

 かのんが周囲を見渡せる余裕ができた頃、一同は出発した。
 普通に見るには少し高い桜の枝も、馬上ならちょうど目の先。
 時には目前に迫ってくる花を避けなければならず、鼻先をかすめればえもいわれぬ匂いがした。

 ひらり、はらり。

 白い花びらの降る斜面を、蹄の音が響く。
 インストラクターは小首を傾げた。二人が物静かなので。
 まだつきあい始めかな、と誤解して、あえて静かにする。
 天藍は、忙しそうな野鳥の姿に目を細めつつ、山の桜が普段見るのとは異なる種類に見えて、本当はかのんに声をかけたかった。
 かのんも、桜の枝をかすめて飛ぶ、蜜を吸う鳥の事を天藍に尋ねたかった。
 けれど……天藍は、乗馬中の声かけは危なっかしく思えてためらっていたし、かのんは、少し離れて前を歩く黒鹿毛の馬に乗った天藍との、いつもと違う距離感に戸惑っていた。

 桜の森はあまりにも静かで。
 大声を上げるのも躊躇して。

 近くのはずの天藍が遠く感じて、少し寂しさを感じる。

 陽光に輝き、せせらぐ小川のそば、低く枝を垂れた桜の下で、二人はお弁当を広げた。
「天藍、さっき野鳥を見かけたのですが……」
 五目ご飯を口にしながら話しかければ、天藍は特徴を聞いて、
「ツグミだな。ほら、あそこにもいる」
 桜の枝に留まる、茶色で腹に斑点のある鳥を指さす。
「夏場はもっと寒冷地にいて、越冬のために飛来するんだ。雀の仲間だよ。
雀は桜にとっては厄介者だ。蜜をなめるために裏側から花をちぎってしまうからな」
「ああ、あれは、雀の仕業だったのね」
 続いて今度は天藍に桜の違いを問われ、かのんは説明する。
 ふもとの桜は染井吉野、登ってくる途中にあったのは山桜。
 このあたりの桜は……
「少し色が濃いめの半八重咲で、オモイガワという品種です。川に沿って、誰かが植えたのかも」
「想い川」
 天藍は囁いた。清らかな流水に浮く花弁を眺めながら。

「少し乗馬の腕を磨くかな」
 ぽつり、と天藍。
「移動している間、かのんとの距離がもどかしくて……二人で乗れるくらいになりたい」
 青年の言葉に、かのんが思わず微笑む。彼も同じ気持ちでいたのか、と。
「別々の馬で前後に並んでだと、移動中は話しかけにくいですね。
でも、その分、休憩の時に近くで話せる時間がとても大切に感じられて、嬉しいです」
「確かにな」
 一人の時間があるから、二人の時間のありがたみが感じられる。
 かのんは優しい色をした、少し桃の花に似た桜を見上げて、
「一緒に乗るのは素敵だと思います。でも、大人二人の重量は馬の負担になりそう」
 天藍、ふっ、と笑って、
「大型馬なら大丈夫だよ。全身装甲の騎士が乗り回すものだからな」
 でも、と続ける。
「時間見つけて二人で習いに行こうか」
 二人乗りは楽しい。でも、二人で一緒に習うのはもっと楽しそうだ。

 輝きながら、川は歌う。待ちわびた春に歓喜し、鳥は歌う。
 想い川は無言のまま、その花びらで二人を包む。
 お弁当を食べ終わっても、二人はしばらくの間、川辺で寄り添っていた。


――動の花――


●花流鏑馬
「この子がいいですね」
 艶やかな漆黒のたてがみを優しくくしけずり、ハロルドが呟いた。
 賢そうな瞳の牝馬は、彼女にすっかり懐いて、鼻をこすりつける。
 厩舎にいた馬のうち、最も気に入った馬だった。
 乗ってみれば思った通り、昔から乗り慣れているように手綱が手になじんだ。

 訓練用の馬場にて。
 笛のような音を立てて、矢が的を割る。
 前に乗るのはハロルド、柑子色の羽織に露草色の袴、たすき掛けをして、深紅の馬具で華やかに彩られた青毛馬の手綱を駆る。彼女の背中で弓を射るのはディエゴ・ルナ・クィンテロ。黒袴に銀鼠色の羽織、同じくたすき掛けをして、一見地味だが、染井吉野の肌が黒いからこそ花を引き立てるように、陽光の中で白い桜にひときわ映える。
 二人は儀式用の馬具や弓、和装での騎乗にもすぐ慣れた。
 平坦な馬場で5メートル先の的を射るなど、二人には易しすぎるかもしれない。

 順番が来るまで少し時間があった。どちらからともなく会場に歩いて行き、二人で他の参加者の流鏑馬を見物した。
 矢が放たれるたび、歓声が上がる。
 ふっと、ディエゴが不意に笑ったので、ハロルドは青年を見上げた。
「いや……気付いたことなんだが、他の者達の流鏑馬を見ている時、俺達は休みにいかず、エクレールは騎手の手綱さばきを、俺は射手の技術を見ている」
 ディエゴはハロルドの視線の先もきちんと見ていた。
「なんだか似た者同士かもしれないと思ってなんだかおかしくなってしまった」
「そういえば……ディエゴさんは射手を見ていたんですね」
 少女は馬場を見やり、
「皆さん上手ですが、私たちには少し簡単かもしれませんね。
私は騎手、そして貴方は現役射手。二人乗りも慣れてるほうだと思います。
ちょっと目標を立ててみませんか」
「目標?」
「そうですね……例えば、的と一緒に桜の花びらを射るのはどうでしょう。
ディエゴさんも私もタイミングを合わせるのに集中力がいるんじゃないですかね」
「そうだな……お前と二人で馬に乗って、俺が弓や銃を使うのは、これまでにも何度か経験したことだし……。
目標をたてるのは良いことだと思う」
 ディエゴさん、ハロルドさん、ご支度下さい、と係員から声がかかる。
 ハロルドは踵を返しながら、青年を振り向き、
「ただ……まあ、二人の息を合わせたいだけで、そこまで気張る必要は無いと思うんです。
達成できたら嬉しいですけど、そればかり集中しちゃうと危ないですよ。
私はディエゴさんをケガさせたくないです」
 微笑むと、小走りで馬場に向かっていく。待ちきれない様子で。
 本当に馬に乗るのが好きなんだな、とディエゴは微笑する。

 二人はほどよく緊張して、黒光りする馬に騎乗する。
 騎手の合図に応え、馬は軽やかに大地を蹴り、降り積もった桜が舞い上がる。
 一の的。笛のような音と共に、板の割れる音。
「どうでしたか」
「外した。花びらごと射るのは想像以上に難しいな」
 青年は少女に囁く。二人は風上へと疾走していた。
「風が来たら教えてくれ。二の的はあえて外す」
 チャンスを一つ捨ててタイミングを掴むのだ。ハロルドは即座に理解し、はい、と応える。
「風です」
 湧き立つ風に花びらが散る。ディエゴは的ではなく花を射る。観客からは残念、という声が上がったが、狙い通りだ。
 三の的が来た。微妙に馬の速度を調整しながら、少女が声を上げた。
 桜吹雪が一斉に舞い散った。視界が白で埋まるほどの風の中、ディエゴが最後の矢を放つ。
 矢は桜を射貫き、三の的の真ん中を正確に射貫いた。
 溢れんばかりの歓声が上がった。
「エクレール」
 馬の首を撫でてねぎらいつつ、競馬場のような歓声に聞き入るハロルドに、青年が囁く。
「俺のことを思って最大限に気を遣って騎乗したようだが……俺は落馬するかもしれないと思ったことは無い。これまでがそうだったし、そしてこれからもそうだろう」
 少女が振り返ると、青年の金色の瞳と目が合った。
「信じているからだ。
技術も、俺のことに構わず飛ばすことはしないだろうという気持ちも」
 少女は目を見開き、やがて破顔した。心底からの笑みだった。

●響いた声
「花流鏑馬……風雅な催し物ですね」
 チラシを眺め、アルベルトが呟いた。
(流鏑馬に興味はありますが……輝と参加するなら、桜満喫ツアーでしょうか)
 そんなアルベルトの気持ちを察したように、月野 輝が、流鏑馬体験ツアーにしましょうよ、と提案した。
「せっかくだし、いつもはできない事を体験してみたいんじゃない?」
「応援だけでは輝はつまらなくはないですか?」
「私も馬に乗れたら一緒に参加できたんだけど、来年までに乗れるように練習するわ。
だから今年はアルの応援させて」
 微笑む輝に、アルベルトは嬉しそうに、
「では、お言葉に甘えて流鏑馬体験してきます。
来年? それは来年も一緒に来ようと言うお誘いですか?」
 からかうように笑えば、輝も笑う。
「晴れるといいわね」

 当日は輝の願ったとおり晴天となった。
翠の髪に若草色の羽織、下は群青。弓を射るためたすき掛けにして、髪は金の紐で束ねる。
 今日のアルベルトの装いは、輝の祖母に着せられた和服だった。
「馬に乗ると言うので乗馬服にしようと思っていたのですが。この方が場の雰囲気には合っていますしね」
 動きやすさを確かめるよう、軽く身体をひねる。
「お婆ちゃんが貸してくれたの。洋装も良いけど、アルの和服、とっても素敵よ」
 そう言った輝は、藤の花の袴、上は花柄、下は単色の紫。髪留めの雪の女王は冬の名残のよう、彼女の艶やかな長髪に映える。
「学生の時に卒業式で着たんですって。似合うかしら?」
 輝は嬉しそうにくるりと回った。ひらり、風に乗った花が、その髪に落ちかかる。無邪気な仕草にアルベルトは目を細め、
「ええ、似合いますよ。黒髪が和装によく映えます」
 そう言うと、アルベルトは彼女に歩み寄った。
「え、何?」
 目前に迫る凜々しい若武者に思わずどきっとしていると、彼はそっと、花弁をつまむ。
「桜も思わず寄ってきたようですよ」
 楽しそうに笑う。彼女も照れて笑った。

 馬場で軽く練習をしたアルベルトは、慣れない弓に苦戦していた。
 いつもの武器ではないうえに、揺れる馬上で両手を離さねばならない。
 練習では一つも的に当てることができなかった。
(もう少し時間があれば……)
 精霊の高い身体能力のこと、コツはつかめそうな気はするのだが。
 やがて時間切れとなった。腹をくくって本番に挑むしかない。
 集中しないと。青年は気を引き締めた。

 輝はシートに座って大人しく見学していた。
 ハロルドとディエゴのペアが見事に的を射当てると、身を乗り出して声を上げる。
 すると。
 アルベルトが現れた。連銭葦毛の牡馬に乗り、凜とした姿は絵巻物のよう、表情は戦場に赴くときのようにキリッと引き締まっている。
 馬が疾走する。馬上で弓を射る様子が輝にはスローモーションのように見えた。
 矢が風を切り、笛のような音。的は動かない。一の的は外れだ。
「アル! 頑張って!!」
 輝は思わず膝立ちになっていた。思ったより大声になって少し恥ずかしい。
 アルベルトは集中し、観客の喧噪も声援も聞こえなくなっていた。
 そこに不意に、輝の声だけがはっきりと響いた。
 その声に背中押されるように、引き絞った弓を放つ。
 小気味のいい音を立てて、二の的が割れた。
 歓声が上がった。一番大きな声を上げたのは、勿論輝だ。
 三の的は惜しくも外したが、初体験としては上々の成果だ。
 花びらが喝采するように、アルベルトの肩に、膝に落ちかかる。
 その姿に見惚れてしまって、駆け寄った輝は思わず、おめでとうやお疲れ様を言うのを忘れた。
 アルベルトは馬を厩務員に預けながら、
「どうでしたか、輝?」
「か、かっこいいなんて思ってな……」
 動揺気味に言う。本当は思ったけど。
 アルベルトは何もかも見透かしたように悪戯っぽく笑った。

「大きな声出したらお腹空いちゃった」
 照れ気味に笑えば、
「よく聞こえましたよ」
 そう言って手を差し出す。
 二人は手を握って、桜花が天井をなす下を、賑やかな屋台に向かって歩いて行った。

●春の駿馬
 高校生くらいの少年少女がチラシをのぞきこんでいる。
「……読めない」
 ぽつり、呟いたのはマキナの少年、花木 宏介。
「宏介ぇ、これは『やぶさめ』って読むんだしぃ! さすがに宏介も知ってるっしょ?」
 名生 佳代が、宏介に振り向く。
「解説どうも。さすがに流鏑馬自体は知ってる。
が……乗馬しながら弓を引くとは……ハードル高いな」
 佳代もちょっと考えたが、
「…うん、難しそうだけど初心者用もあるみたいだし、大丈夫っしょ!
なんとかなるってぇ!」
 明るく言って、宏介を誘った。

「うわぁ、満開だしぃ!」
 晴れた空の下、桜に埋もれた小さな村が見えると、佳代が声を上げた。
「少し散り始めくらいかな。
しかし……これはこれで、悪くない」
 浮き立つような桜花が風に舞う様は、桃源郷のような美しさだ。
「馬は当然白馬の王子様ッて感じで白っしょ?」
 厩舎にて、佳代はうきうきと馬を選ぶ。
「では、手本を見せようか。こうやってあぶみに足をかけて……」
 引き出された白馬にひらり、慣れた様子で宏介がまたがった。
「へぇ、宏介馬に乗れたんだねぇ……」
 佳代が目をキラキラ輝かせるのに、宏介はすました顔。しかし内心はほんの少し、むずがゆいような、しかし悪くない心地がした。
「和服も似合うじゃん! 武士様ってかんじぃ?
かっこいー!」
 青い着物、ムサシは彼の青髪とよく似合う。さらに聖袴・昇龍を着こなして、ぴんと背筋をのばした少年の騎乗は桜景色に完璧に調和している。金色の和服に白馬、手綱は赤く彩りを添え、その姿にひらり、花びらが絡めば、若く美しい武家の殿様そのものだ。馬を動かせば、佳代以外の客も彼を見て、おおっとため息をつく。
 宏介は、馬に乗った佳代を振り返った。ハーフコートを脱いだ佳代は着物・小春日和をまとう。薄い黄色と萌葱色の着物は春の陽気にぴったりで、少し緊張の残る顔つきで、しかし楽しげに凜と騎乗する少女の、みずみずしい可愛らしさを引き立てていた。
 宏介、しばし見つめた。佳代が少し照れるくらいに。
「佳代も黙っていれば和服が似合う気がしなくもないが……」
「でしょ?」
 少年は「黙っていれば」と声を大きくして復唱した。
「一言多いしぃ!」

「わー結構揺れる! 早足でもこんなに揺れるんだぁ」
 インストラクターの指導で、馬は速度を増した。走っているのと同じくらい早く感じる。そして揺れる。
「佳代、肩の力を抜いて、もう少し重心を後ろに」
 後ろから佳代がグラグラしているのを見ていた宏介、アドバイス。
「ちょっ……わかってるけど背筋伸ばしたままリラックスって難しいしぃ!」
 気を抜くと落ちそうだ。
(桜が綺麗だけど、馬に気を取られてゆっくり眺めてる余裕がないかも)

 桜は間近で眺めるよりも、少し離れて見る方がきれいに見える。
 今も、馬に揺られて必死な少女と、その様子を眺めては、自分でも気づかずに好ましく感じている少年の、二人の輝かしい若々さは、ただ中にいる本人達にはわからないものなのだ。

 桜山を一周して、二人は桜の広場にやってきた。
 馬を預け、人だかりの方に歩いて行けば、今まさにディエゴが馬上から矢を放つところだった。
「すげー! 二人乗りしてる! ウィンクルムの流鏑馬かっこいいじゃん!」
 的に命中すれば、佳代が観衆とともに大歓声をあげる。
「宏介もやってみて欲しかったかもぉ」
「……いずれ、な」
 すると、風に乗って漂ってきたのは、美味しそうな食べ物の匂い。
「あ、あたいも屋台でなにか食べながら流鏑馬みるしぃ! 宏介行こうよ!」
と、はしゃいで屋台へ歩き出す。

 二人はフランクフルトを買った。
 噛むと溢れる肉汁を味わいながら、宏介はふと、もう春なんだな、と思った。
(来年桜を見る頃には、俺らはどういう関係になっているんだろうな)
 横を見ると、手を繋ぎ、仲睦まじく歩くアルベルトと輝。
(あんな風になるのか?)
 どうなるかは、わからないけれど。
 今を大切にしよう、と宏介は思う。隣で笑う佳代を見やりながら。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼鷹
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月26日
出発日 04月01日 00:00
予定納品日 04月11日

参加者

会議室

  • [8]かのん

    2015/03/31-23:32 

  • [7]名生 佳代

    2015/03/31-09:26 

    おほほ、皆様はじめましてとお久しぶりですわ。
    名生佳代よ花木宏介ですわ。
    …ゲフン、よろしくだしぃ!
    馬って言ったら白馬だしぃ!

  • [6]水瀬 夏織

    2015/03/30-19:19 

    ご挨拶が遅くなりました。
    申し訳ありません。
    乗馬は完全に初心者ですが、春の陽気と桜につられて参加しました。
    どうぞよろしくお願いいたします。

  • [5]ハロルド

    2015/03/29-20:14 

  • [4]ハロルド

    2015/03/29-20:13 

    馬、好きです…

  • [3]かのん

    2015/03/29-17:20 

  • [2]かのん

    2015/03/29-17:20 

    こんにちは
    乗馬は完全に初心者なのですが、山中の桜を満喫できると聞いて参加しました
    流鏑馬体験に参加される方の勇姿も楽しみです

  • [1]月野 輝

    2015/03/29-00:41 


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