ひだまりと、のんびりしたおじかん(如月修羅 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●読み聞かせのお時間
「……で、その……はっくしょん!!!!」
 この時期、とてつもなく鼻がむずむずして辛い。
 そう、花粉症の季節だ。
「勇者様は、……くしゅんっ」
 絵本の前に座っている子供達は、もう絵本よりも読んでくれているカレンに視線が釘付けである。
「だいじょうぶー?」
「むりしないでー」
 子供達の優しい言葉にカレンの瞳から花粉の所為ばかりではない涙が零れ落ちる。
 けれど、このままでいいとも思えない。
「そうですね……ここは少々手伝いを頼んでみると致しましょうか」
 ウィンクルムの皆様でしたら、ひょっとしたら手伝ってくださるかも。
 院長はそう言って、微笑んだ。
 何より、子供達もまた出会えるのを楽しみにしているだろう。
「じゃぁ、ちょっと声を掛けてきますね」
 そう言って、マスクとサングラスというちょっと怪しい恰好をしつつカレンが向かっていったのだった……。


●お願いです。
「今回は依頼じゃないんですけど、ちょっとしたお願いがありますー」
 そう言ってひらりと紙を揺らした職員に興味を引かれたウィンクルムが立ち止まった。
「前回、孤児院へのハロウィンのお手伝いを頼んだと思うんですが、今回は絵本の読み聞かせのお願いですよー」
 その孤児院にいる子供たちは、オーガなどに家や家族を奪われた者だという。 
 ヨゼフという院長と、カレンというスタッフがきりもりしているのだが、この季節……。
 カレンが花粉症でやられてしまったらしい。
 かといって、ヨゼフだけでも子供達もつまらないだろう……そんなわけで、今回お願いが舞い込んだというわけだ。
「絵本は持ち込みでも、あちらにあるのでも、なんでもいいですよ。
行ってすぐに絵本の読み聞かせというわけでもないので、まぁ一時間程、準備する時間を設けたいとのことでした。
その間、子供達はヨゼフさんとカレンさんがお散歩をして皆さんの準備を見せないようするそうですよ」
 そのため、ネタバレとかはしないですみそうだという。
 絵本以外はダメなのかという問いに、職員が首を振った。
「考えられるのは皆で劇をする、とかダンスを見せるとかもありだと思いますし、危なくないように配慮さえしていただければ、模擬戦を見せるというのだってありだと思います。
個別グループを作ってそれぞれ絵本を読むとか紙芝居をするとかもありだと思います。
あと、皆様の依頼での活躍だとかそういうの辺りのお話も喜ばれるかと思いますよ。
あぁ……ただ、そのあまり生々しいお話はダメですね。オーガ達に家を壊されたり家族を奪われた子供達ですから……。
だからといって、配慮しすぎもまた問題ですけれど」
 塩梅がちょっと難しいかもしれませんね、と苦笑を零した。
 ちなみに男の子も女の子も、恋や冒険に興味津々だ。
「中庭で絵本を読むのもいいですね。あ、そうそう、これが重要でした!」
 職員がちょっと申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「ちょっとばかり予算が厳しくてですね、皆様 お菓子とかお持ちよりしていただけませんか? お一人様300Jrもあればかなりの量買えますよね。
コップとかお皿とかはありますから、皆様に持ち込んで欲しいのは食材のみです。
例えばお茶やジュース、ケーキやクッキー、軽食があってもいいかもしれませんね、サンドイッチとか」
 一日のんびりと交流を楽しんでください。
 そう言って職員が頭を下げたのだった。

解説

※重要なお願い
 版権物はダメです。
 創作の内容でお願いいたします。

●子供達
 4歳から11歳までの男女10人。
 おしゃまな女の子や悪戯っこな男の子、恥ずかしがり屋……。
 皆元気です。
  

●孤児院
 院長とスタッフ1名による、こじんまりとした孤児院。
 子供部屋、スタッフ部屋、応接室、食堂、作業部屋、台所、お風呂やトイレからなります。
 
院長:ヨゼフ 40歳 男性 子供達の良き父的存在
スタッフ:カレン 25歳 女性 子供達を愛するお姉さん的存在

 また、天気がいいため外で読むのも大丈夫です。
 中庭には白いベンチと青い芝生、そして梅の花が咲いています。
 近くには桜の蕾もあるようです。

●お店
 小さなお店があります、色々な物が売っていますので、お好きな物をお買いください。
 家で作ってくる、というのもありですが、必ず300jrは消費されます。
 絵本を買う方のみ、1冊100Jrになっておりますので、300+100~となります。

ゲームマスターより

 花粉がつらい季節ですね…!
そんなわけで、ちょっとしたお願いを手伝って下さったら幸いです!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  俺達は体を動かす寸劇をしようか
子供って長い間じっとしてるの苦手だもんな
な?ランス?
ラ:どういう意味だ
セ:別にー?(ふふ

◆用意
ゴムボール沢山用意し太ペンで「ヨーグルト」「ブルーベリー」「ブドウ」「だいず」「にんじん」等免疫力を高める食材名を書く
俺は白衣(白長上着)を羽織る。紙袋に薬と書く
ランスは黒の上下。傘に毒々しい色紙を巻いて槍に見立て加工

◆寸劇
花粉大王(ランス)が皆を花粉症にしようとやってくる
医者(セイジ)が薬で立ち向かうけど、やられそうに
花粉症は手強い。薬だけじゃ敵わない
ボール入りの籠を指し)ここに免疫力を高める食べ物が入っている
これをぶつけて花粉大王を退治してくれ(と子供達を巻き込みたい



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  絵本の読み聞かせする事にした。
ラキアが絵本を作ってくれたから。
水彩で幻想的な感じに、ささっと絵本描いててすごいな。
ラキアは植物好きだから花モチーフな女の子がそれっぽい雰囲気で幻想的に描かれてる。
ラキアに言われ花びらの模倣品を色紙で作った。
「実はそんな伝承があるの?」
と準備中に聞いたら、以前故郷で他の人から聞いた話なのだと。
「故郷に口伝で伝わる話だから、誰かの創作かもしれないし、大昔にそんな化身同士の話があったのかもね」とラキア。
絵本読み聞かせてる最後のあたりで、はらはらと花弁を振りまくぜ。
それでこの花は終わる時に風と戯れて吹雪みたいになるんだな。毎年ちゃんと会えているかな。会えてると良いな。



蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
  材料購入の上、自宅でフィンを手伝って、クッキーとマフィンを作って、数種類の果物ジュースと一緒に持っていく

絵本は自宅にあるものを持参
昔、今は亡き幼馴染から貰った大事な絵本
春の温かさに溢れたこの本を、子供達に見て貰いたくて…

中庭で絵本を読む

タイトル『春、花咲く道』
ぽかぽか陽気に誘われて、皆でお外に出かけましょう

お外には元気なお花が沢山

菜の花
白詰草
たんぽぽ
チューリップ



これらがペーパーフラワーで飛び出す『仕掛け絵本』
上手に本を開いて、素敵な仕掛けで子供達を驚かせたい

絵本を読み終わったら、好きな花について聞いたり話したりする
俺は青い薔薇が好きだよ
凄く綺麗で、花言葉が素敵だから
奇跡・神の祝福・夢叶う



胡白眼(ジェフリー・ブラックモア)
  家族が多かったので、賑やかなのは好きなんです
他の方が模擬戦などされる場合は
俺が子供たちを見てますね

俺は紙芝居と折り紙を用意しました
ジェフリーさんにも読むのを手伝ってほしいのですが…
子供、苦手でしたか…?
あ、怪しくなんか!大丈夫ですよ!

ジェフリーさんの解釈はちょっと疑問ですが
おかげでひとつ思いつきましたよ

さて、皆さんの宝物はなんですか?
手に取れるものならば、しまっておけば失くす心配はありません
そうではないものは、どうしたら?

答えはこれ(折り紙を見せ)
紙の首飾りを互いに贈り合いましょう
紙の鎖は脆いけれど、込めた思いは簡単には千切れません
皆さんとの思い出が飛んでいかないよう、俺も鎖でつないでおきます


●おさんぽのおじかん
 ぽかぽかと暖かな日差しの中、やってきたウィンクルム達に10人の子供達が瞳をきらきらと日差しに負けない勢いで見詰めた。
 今すぐにでもわっと寄って行って楽しみたいところだけれど。
 家族が多かったため、賑やかなのが好きな胡白眼が、そんなわくわくとそわそわを含ませた子供達を見る。
 細い瞳をさらに細くして微笑みながら、院長へと声をかけた。
「では、用意の方しますね」
 わいわいとお話をしている子供達のテンションは上がるばかりだ。
 胡白眼の言葉に、院長が用意していた一室を此方をお使い下さいと示す。
「結構広いんだな」
 ジェフリー・ブラックモアが顔を覗かせれば、そこは広い部屋で、ここならば8人がそれぞれ用意をしても邪魔になりそうもなかった。
 院長が、大丈夫そうですか? と問いかけるのに、皆が頷く。
 それを確認し、カレンが子供達を集め、ウィンクルム達にと頭を下げる。
「では、行ってきます」
 帽子に眼鏡に鼻まで隠すマスクのなんだか怪しい風体のカレンと此方はいたって普通な院長と一緒に子供達がお散歩へと出て行く。
 これからの準備を見せないようにするためだ。
「いってらっしゃい」
「気を付けてな!」 
 そんな彼らを見送り手を振るセイリュー・グラシアとラキア・ジェイドバイン。
「さて、セイリュー、手伝ってくれる?」
「勿論!」
 他の皆も手を振り、その後部屋へと入って行く。  
 アキ・セイジとヴェルトール・ランスは、他の皆と違いちょっと荷物が多めだった。
 沢山のゴムボールをせっせと取り出す姿に、蒼崎 海十が声を掛けた。
「多いな、劇か何かか?」
「寸劇をしようかと思っててね、子供って長い間じっとしてるの苦手だもんな」
 な、ランス? という問いかけに、ヴェルトールが首を傾げる。
「どういう意味だ?」
「別にー?」
 ふふっと笑うアキに、ヴェルトールがさらに首を傾げる姿をみてフィン・ブラーシュが微笑んだ。
 仲良い2人を見る視線は優しい。
 その視線を自分の相方へと戻し、唇を開いた。
「さてと。海十、俺達も準備しようか」
「そうだな」
 荷物を置くと、2人も準備を始めるのだった。


●じゅんびのおじかん
 それぞれが子供達を思って選んできた絵本や紙芝居。
 寸劇をやるアキとヴェルトールは一つ一つに丁寧に「ヨーグルト」・「ブルーベリー」・「ブドウ」とマジックの太いペンで書きこんでいく。
「ランス、こっちはだいずとにんじんって書いて」
「おう!」
 きゅっきゅっと音を立てながらゴムボールに文字を書いていく。
 2人の息の合った共同作業により、時間内に準備も終わりそうだ。
 そんな2人を邪魔しないように少し離れた場所で取り出された物。
 胡白眼が持ってきた物にジェフリーの視線が止まる。
「紙芝居と折り紙です。ジェフリーさんにも読むのを手伝ってほしいのですが……」
 そう言って見せた胡白眼に頷くジェフリーだが、なんだか反応が芳しくない。
「子供、苦手でしたか……?」
 そんな様子に心配げに問うのに、ジェフリーが苦笑を浮かべ首を振った。
 アー……と小さく呟き、子供は嫌いじゃないと前置きしたうえで説明をする。
「俺が親だったら、ヤニと安酒の臭いをさせた怪しい奴には近づけたくないなぁって」
 気だるげで、掴み所がない雰囲気がそう見せるのか。
 そんな彼にあわてて首を振る。
「あ、怪しくなんか! 大丈夫ですよ!」
 そうだといいけれどと思いながら、笑顔だけは絶やすまいと心に誓う。 
 そんな4人とはまた別の場所で、食べる物を用意している2人組。
 自宅にて、腕によりをかけて作ったマフィンとクッキーを取り出し、用意されていた皿に盛るのはフィンだ。
 その2つは、海十にも手伝ってもらい、2人で思いを込めて作った物。
「海十、こっちに置いてくれる?」
「ここでいいか?」
 確認しながらフィンと共に置いて、食べやすいようにと準備していく。
 そんな彼らの邪魔をせぬように場所をずらし、そっと取り出した物。
 セイリューはそんなラキアの作りだした絵本をみてほぅっと溜息吐く。
「凄いよなぁ」
 植物好きだからか、花モチーフな女の子がそれっぽい雰囲気で幻想的に描かれた絵本。
「実はそんな伝承があるの?」
 それはラキアの故郷でのお話を描いた物だ。
「故郷に口伝で伝わる話だから、誰かの創作かもしれないし、大昔にそんな化身同士の話があったのかもね」
 ささっと絵本を作り出すその手は、まるで魔法のようで。
 また違ったラキアの姿が見れたような気がする。
 ラキアに言われ花弁の模造品を作りあげていくセイリューに、視線をやる。
「そろそろ時間だね」
「あ、もうそんな時間かー」
 ラキアのその言葉に、皆が点検を始める。
 特に問題もなさそうだと安堵した所で、約束の時間まで、あとちょっとだ! 


●えらぶおじかん
「ただいまー!!」
 子供達とカレンと院長が帰ってくれば、楽しい時間の始まりだ。
 わらわらと帰ってきた子供達は、手洗いうがいを済ませるとウィンクルム達が待つ場所へとやってくる。
「お帰りなさい」
「準備は出来てるぜ」
 アキとヴェルトールの言葉に、子供達にぱぁっと笑顔が広がる。
 何があるの? と興味深げな子供達は今にも皆に群がっていきそうだ。
「可愛いですねぇ」
 そんな様子に瞳をさらに細めて微笑む胡白眼が、隣で同じように笑みを浮かべて見守るジェフリーをそっと見た。
(笑顔、……とにかく笑顔だな)
 そんなジェフリーの傍にもやってくることから、少なくとも今はまだ警戒心をあらわにしている子はいないようだ。
 落ち着かない子供達。
 まぁ落ちつけというのも無理というものだ。
 セイリューがそんな子供達の前に立つ。
「ほらほら、そろそろ落ち着かないと読めないぜー」
 セイリューの言葉はっとした子供達が、ぱっと行儀よく静かになる。
 素直な子供達が多いようだ。
 それに微笑み、ラキアが問いかける。
「さて、どれが見たいかな?」
 皆が持っているのをきょろきょろと見渡した子供達があれもみたい、これも見たいと大論争になる。
 これでは決まらずに時間だけが過ぎてしまいそう……。
 そんな様子に助け船を出した人がいた。
「なら、ちょっとずつずらすのはどうだ?」
「いいですね、それなら全部見れます」
 ジェフリーの言葉に、それは名案だと胡白眼が頷く。
 少々時間をずらしてやれば、全部見れるよという言葉に、子供達も大賛成だ。
「よし、じゃぁまずは俺達のから見ようか」
 フィンの言葉に、子供達が大きく頷く。
「さぁおいで、中庭に行こう」
 海十の誘いに、皆中庭へと足を踏み出した。 
「じゃぁ、物語を始めよう」
 子供達の期待に満ちた眼差しが、演じてのウィンクルム達を見つめる……。


●のんびりひだまりのおじかん いち
 取り出された絵本は、少々年季が入っていた。
 けれどそれはとても大事にされていることが、その絵本を持つ手から、そして眼差しからよく分かる。
 そんな海十を見つめ、フィンが微笑んだ。
 自分ですらも触ったことのない絵本。
 大事な絵本なのにいいのか、という問いに、海十が春の温かさに溢れたこの本を、子供達に見て貰いたくて、と答えた記憶は新しい。
(海十、最近変わったよね。柔らかくなった)
 いい傾向だ、と笑みがさらに深まる彼の視線の先では、海十が優しい語り口で子供達に語りかける。 
「『春、花咲く道』という物語だよ」
 今は亡き幼馴染から貰った大事な絵本。
「ぽかぽか陽気に誘われて、皆でお外に出かけましょう」
 この絵本を子供達は喜んでくれるだろうか。
 そっと開かれた絵本から、飛び出た菜の花に、飛び出す絵本を初めて見た子供達から凄い! と声が毀れる。
 覗きこむ子供達が見えやすいようにしながら、言葉が紡がれる。
「お外には元気なお花が沢山」
 ゆっくりと子供達が理解するまで待ってから、一ページ、一ページ開かれていく。
 白詰草、たんぽぽ、チューリップ。
 知っている花の名前を皆で言いながら、次のお花は何なのかの当てっこが始まる。
 フィンも一緒に当てっこに参加してみたりして、子供達と海十の絵本を楽しむ。
 梅、桜と続けば、そろそろお終い。
「……おしまい」
 パタンと閉じられた絵本。
 暫し余韻が辺りを包み込めば、ほっとしたように海十が絵本を仕舞う。
「……何というか、感動した。優しい絵本、だな」
 フィンが仕掛けも華やかだったと言えば、子供達からも口ぐちに綺麗だったと声が上がった。
 さっき行ったお散歩でもたんぽぽ咲いてたんだよ、と海十とフィンにと伝えれば、先程のページをもう一回見たいと暫し賑やかになる。
 それも一段落すれば、持ってきたお菓子を一度食べ、そのまま好きな花の話で盛り上がった。
「おいしー!」
 手に持った海十とフィンの作ったマフィン。
 もぐもぐと食べるその表情は、幸せそうだ。
「あたしは、ぴんくのおはなすき、おにいちゃんは?」
 クッキーを食べながらの少女の問いに、海十が唇を開く。
「俺は青い薔薇が好きだよ」
 凄く綺麗なだけじゃなく、花言葉がとても素敵だから、といえばどんなの? と聞かれる。
「奇跡、神の祝福、夢叶う……ほら、素敵だろう?」
 素敵素敵と笑いあうそんな2人のやり取りをみて、心のメモに留めるのはフィンだ。
(海十の好きな花、覚えておこう)
「おにいちゃんはー?」
 話を向けられ、暫し迷う。
 花に縁のない人生だったため、咄嗟にでてこなかったけれど……。
「母様が良くブルースターという花を飾ってた。あの蒼は綺麗だったな……」
「はなことばはー?」
 一瞬言葉に詰まれば、海十がそっと手助けをする。
「信じあう心、だよ」 
「へぇ……花言葉は信じあう心、か」
 フィンも一緒になって納得するのだった。
 暫し小さなお茶会を楽しむ。 


 ちょっと集中が切れた頃を見計らい、次に動いたのは胡白眼だ。
 その間に紙芝居の道具を手に取るジェフリー。
「さて、じゃぁ続いては紙芝居ですよ、みたい方はいらっしゃい」
 胡白眼に呼ばれて、子供達がわらわらと移動する。
「さて紙芝居の時間だよ」
 座るように促し、半円を描くように座れば、ジェフリーが買って来ていたクッキーを配る。
 紙芝居を見ながら食べられるとなって、子供達にぱぁっと笑顔が広がった。
「青い鳥を捕まえた魔女、というお話だよ」
 タイトルを言えば、それまでざわざわしていたのが静かになった。
 静かにゆったりと、反応を見ながら紙芝居を読み上げ、動かしていく。
 森で出会った少女を魔法で鳥に変え、連れ帰る魔女。
 すでにそこから子供達に恐怖が走ったのか、ちょっと身をすくませた少女の傍にそっと胡白眼が寄り添った。
 話はどんどん進み、世話をする魔女に全然懐かない鳥に、子供達からそれはそうだよーと声があがった。
 けれど、次に訪れた場面。
 不貞腐れた魔女がうっかり窓を閉め忘れ鳥が生き生きと飛び去る姿。
 そこに子供達の視線が奪われた。
「逃げ出した鳥が生き生きと飛び去る姿は、空の青さがくすむほど美しかったとサ」
 おしまい。
 そう言って、ことさらゆっくりとその場面を引いて行く。
「この物語の教訓は「大事なものは鍵でもかけてしまっておけ」ってことだね」
 ジェフリーのその解釈に、胡白眼が首を傾げた。
「ジェフリーさんの解釈はちょっと疑問ですが、おかげでひとつ思いつきましたよ」
 すっと立ち上がり、子供達のジェフリーと交代で立つ。
「さて、皆さんの宝物はなんですか?」
 宝物の名前が沢山上がってくるのに笑って頷き、さらに疑問を投げかける。
「手に取れるものならば、しまっておけば失くす心配はありません。そうではないものは、どうしたら?」
 答えをきゅうした子供達の前に、取り出された折り紙に、視線が釘づけになった。
 一体どんな答えが? という表情をしたのに、微笑みを浮かべた。
「答えはこれ。紙の首飾りをお互いに贈り合いましょう」
 紙の鎖は脆いけれど、込めた思いは簡単に千切れない……。
「それに、紙の鎖、カレンさん達に贈ると喜ばれるかもね?」
 そう言われれば、子供達が俄然やる気をだす。
 2人で教えながら作って行く間に、ジェフリーと胡白眼もそれぞれ作りあげる。
 出来あがった紙の首飾り。
 それぞれの首を彩るのと、カレンと院長の分も出来あがって。
「おにいさんたちは誰におくるの?」
「皆さんとの思い出が飛んでいかないよう、俺も鎖でつないでおきます」
 それにそっかーと頷くの少年の傍ら、ジェフリーが視線をやるのは胡白眼だ。 
「俺はフーくんに贈るよ。彼は俺にとっての幸運の鳥なんだ」
 それは、とても素敵だね! と笑顔が咲いた。
 楽しかった時間だけれども、やはり子供達の集中力は切れてしまっていて。
「そろそろ劇をやるぞー!」 
 ヴェルトールが折り紙をしている面々に声を掛ける。


●のんびりひだまりのおじかん に
 続いて催されるのは、寸劇だ。
 体を動かさないと少々元気が有り余っているか。  
「見たい子達はこっちにおいで」
 アキの言葉に、立ち上がり子供達がわらわらとやってきた。
「じゃぁ始まるよー!」
 今回の劇は花粉大王が皆を花粉症にしようとやってくるという内容だ。
「俺様は花粉大王! お前達全員花粉症にしてやろう」 
 はははは! とまさに悪者。
 全身黒ずくめのヴェルトール登場に、子供達から声が上がった。
「かんでもかんでも鼻水が止まらず、眼は痒くて開けてられない。クシャミで胸も痛くなって、夜も眠れなくなるのだ!!」
 子供達に向けて言われた言葉に、カレンの症状をよく知っている子供達に恐怖が走った。
 そんなやってきた花粉大王に立ち向かうのは白衣を着こんだアキ。
 薬を使って撃退しようとするが、そんなもので治るのならば花粉症で苦しむ人はいなくなるかもしれない。
「薬だとう? 俺様は無敵だ」
「ねぇ皆、俺だけじゃ無理なんだ。手伝ってくれるかい?」
 それに子供達が真剣に頷くのに、そっと示したのはボールの入った籠だ。
「ここに免疫力を高める食べ物が入っているんだ。これをぶつけて花粉大王を倒して欲しい」
 カレンお姉ちゃんのためにやる! とかやっつけるー! とか声が上がり、わっとボールが飛んでくる。
「おのれ、次から次へとこしゃくな」 
 体を張るのならば任せろ、というヴェルトールも毒々しい槍(傘)を使って応戦するふりをしようとするものの、それすら必要ない勢いだった。
「ぐっ……こうも食べ物パワーが強いとは!」
 ぐわああああ!
 大げさにぱたん、と倒れた花粉大魔王に、子供達の喝采があがった。
「ありがとう、皆のお陰で花粉大魔王を倒せたよ」
 そして、劇は終わって。
 流石にそのままだと花粉大王としてやられてしまいそうなので、着替えに行ったヴェルトールが、先程の劇に出てきたヨーグルトにブルーベリーを入れた物を出してくる。
 劇の内容のお陰か、子供達は我先にと手にとって食べ始める。
 改めてアキが食べている子供達に伝える。
「花粉症は免疫力をつけるのがいいんだよ。他の病気にもかかりにくくなるしね」
 ほぅっと頷くのは子供達だけでなく、ヴェルトールと、さらにカレンもだった。
「早速これ食べて花粉症をやっつけようぜ」
 笑いながら言うヴェルトールに、子供達が元気に返事をする。
 子供達は食べても覚えられてご満悦のようで、食品と健康への理解もばっちり深まっただろう。
 

 疲れた体を休めるためにも、とラキアが絵本を取り出す。
「さて、では最後に絵本は如何かな?」
「綺麗な絵本だぜ!」 
 2人の傍に子供達が寄って行く。
「では、始めるよ」
 ラキアがそっと開いた絵本。
 それは花の化身ととある男性との出会いの物だった。
 薄紅色した髪を持つ花の化身の少女は、人見知りで同じ春の花の女の子としか遊んだことがなかっという。
 けれど、ある時ある男性と知り合ったことによって物語が大きく動きだすのだ。
「彼に少し強引に、でも力強く天に舞い上げられて、下界を遠く遥かな遠くまで見渡す事ができた花の化身は、素敵な光景を見せてもらって世界に沢山の生命が溢れていることを知りました……」
 その光景の挿絵に、子供達の視線が奪われる。
 そっと次のページを開けば、セイリューがそっと皆の邪魔をせぬように立ち上がった。
 花の化身がお礼を言った後、また見せてくれるかとのお願いのシーン。
 はらはらと、はらはらと。
 セイリューの指先から作っていた花弁が散って行くのに、子供達の瞳がぱぁっと輝く。
 絵本と、そして花弁と。
 最後に向けて集中していく。
「私はもう行かなくてはならない、また来年お会いしましょう。そう言って、花の精を優しく地に導き去って行った彼は、北風の化身なのでした」
 さっと間髪いれず開かれたページ。
 そこには美しい桜の花が。
「少女の示す花は、人々に桜と呼ばれ愛されています……」
 おしまい。
 そう言った瞬間、ぱぁっと散らばる桜の花びら。
「それでこの花は終わる時に風と戯れて吹雪みたいになるんだな。毎年ちゃんと会えているかな。会えてると良いな」
 セイリューの言葉に、子供達からもそうだね、きっとあえてるよ! と声があがった。
 一枚一枚、花弁を拾い集め、子供達がこれ今日の記念に貰っていい? というのに2人が頷く。
 もう一回みせてー! と盛り上がっていったのだった。


●おわりのおじかん
 今日見た劇や絵本の感想を興奮気味に語り合う子供達とそれを優しく聴いているウィンクルム達。
 持ってきていたお菓子ももうそろそろなくなった頃。
 もう太陽がお山の向こうへ沈んでいく所だった。
 ラキアが微笑み、皆に言う。
「さて、そろそろお仕舞いだね」
 名残惜しいけれど、もうお仕舞い。
 パタン、と閉じられ片づけられた絵本。
「今日は楽しかったかー?」
 セイリューの言葉に、子供達が口ぐちに楽しかったと答えた。
 物語の時間が終わり、いつもの時間が戻ってくる。
 けれど、今日彼らが読んで貰い、見た劇や紙芝居から得た物は、これからもずっと残っていくだろう。
「「ありがとうございました!」」
 子供達のお礼が響く。
 後片付けをすませたウィンクルム達は、子供達に見送られながら孤児院を後にした。
 そんな帰り道。
 フィンが隣を歩く相方に声をかけた。
「子供達の為の筈なのに、何だか俺が癒やされてしまった気がする」
 そっと海十にそう言えば、それは良かったと微笑む。
 同じように微笑みを浮かべているのは胡白眼。
 今日繋いだ鎖が解けそうにないことが伝わってきたのと、ジェフリーから貰った鎖があるからだろうか。
「どうした?」
「いいえ?」
 首を傾げたジェフリーがとにかく泣かれなくてよかったと微笑を零した。
「それにしてもセイジは本当良く考えてたよなー」
 劇の内容を言われているのだと分かれば、ちょっと恥ずかしそうにアキが頬をかく。
 けれど、と微笑む。
「ランスが凄く良かったから……」
 演技の事を言われているのに気がついて、ヴェルトールも嬉しそうに笑う。
 2人の信頼関係あってこその成功だったかもしれない。 
 

 子供達の心にどれぐらい今日のことが残ったのか。
 それの一つの答えが数日後、皆が読んだ絵本や紙芝居、劇を描いた絵ハガキが、ウィンクルム達に届けられたという。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 如月修羅
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月21日
出発日 03月29日 00:00
予定納品日 04月08日

参加者

会議室

  • [7]蒼崎 海十

    2015/03/28-22:34 

  • [6]蒼崎 海十

    2015/03/28-22:34 

    セイジさんとセイリューさん、今回もよろしくお願いします。

    思い出の仕掛け絵本(飛び出す絵本)を持参する事にしました。
    申告遅くなりましたが、クッキーとマフィンを(フィンが)手作りし、果物ジュースを購入して持っていくつもりです。

  • [5]アキ・セイジ

    2015/03/28-01:09 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。

    読み聞かせと紙芝居をしてくれる人がいるなら、本読み方面は十分な気がするな。
    だから俺とランスは一寸体を動かす方面で何かしてみたいと思う。
    なにがいいかな…。

  • [4]アキ・セイジ

    2015/03/28-00:05 

  • [3]蒼崎 海十

    2015/03/27-00:31 

    胡さん、こちらこそ今回も宜しくお願いします。

    絵本、調べてみたら色々なものがあるんですね。
    俺とフィンは飛び出す絵本とか面白いかなって話してます。
    が、まだ迷っていて……。

    子供たちが楽しめるように頑張りましょう!

  • [2]胡白眼

    2015/03/25-23:33 

    胡白眼(ふぅ・ぱいいぇん)と申します。
    蒼崎さんは今回も宜しくお願いしますね。

    子供たちへの出し物、ですが…、俺は紙芝居を作ってこようかと考えてます。
    読み聞かせなんて初めての経験なので、うまくいきますやら(頭を掻き)

  • [1]蒼崎 海十

    2015/03/24-00:34 


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