花が届けるメッセージ(山内ヤト マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 神人と契約をして間もないある精霊が、A.R.O.A.の男性職員に相談事を持ちかけていた。
 パートナーとなかなか親睦を深めることができず、悩んでいるらしい。

「てかさー、あの子に伝えたい気持ちがあるんだけどー。いざ口にしようとすると? なんか緊張して? けっきょく言葉にならないんだよねー。どうしよー、マジで。こう見えて俺って男女関係には純心デリケートボーイなんだわー」

 ……彼は悩んでいるのだ。これでも。
 精霊が思いどおりに行動できない。出会ったばかりでまだ親密さが少ないウィンクルムや、奥手な性格のウィンクルムの間では、よく聞かれる悩みだ。
 職員は眼鏡をクイッとしながらアドバイスを考える。冷徹な思考で。

(ウィンクルムの絆が深まれば、それだけA.R.O.A.の保持する戦力も増大します。したがって、ウィンクルムが仲良くなる機会を手配することは、タブロス市民の安全とA.R.O.A.の信頼にも繋がります)

 チキチキシャキーンと損得勘定をした後で、七三分けの眼鏡職員はこういった。

「そうですね。素直に言葉にできない気持ちを託して、花を贈るのはいかがでしょう? もしも緊張して上手くしゃべれなくなっても、プレゼントした花の花言葉に相手が気づいてくれるかもしれませんよ。さっそく、タブロス市内の花屋に協力を呼びかけてみましょう」

「わー! サンキュー、七三眼鏡!」

 もちろん花屋のサービスは、相談を持ちかけてきたこの精霊以外も受けられる。



 A.R.O.A.のロビーの掲示板に、レジャーやデートスポットのおしらせが貼り出されている。
 あなたはその中の一枚に目を留めた。タブロス市内の花屋からの案内だ。春を思わせる温かな書体で、こんな内容が書かれている。

 花が届けるメッセージ。
 ウィンクルムのお二人で、花を贈り合いませんか?
 あらゆる季節の花をそろえて、ご注文をお待ちしています。

 張り紙によれば、希望の花の注文、ウィンクルムの自宅またはA.R.O.A.へ花束配送、荷物を受け取ってパートナーに花束を手渡しする、という流れになるようだ。メインの行動は、花束の手渡しだ。
 プレゼント交換で二人が落ち合う場所は、ハト公園が適している。ハトが住み着いている穏やかな公園だ。近場で景観も良い。
 手渡しで花を贈り合うなんて、ちょっと仰々しい感じもする。だが、そんな特別な雰囲気だからこそ、普段いえないことを伝えやすいのかもしれない。

解説

・必須費用
花束代:1組300jr

・プランについて
一つの花に複数の花言葉がつけられていることもあります。どの花言葉を伝えたいのか、プランに明記してください。PLが意図していない花言葉をGMが選んでしまうことを避けるためです。
複数の花言葉を指定するのもありです。

贈れる花は、生の切り花のみ。花の数や種類は自由です。
押し花、鉢植え、造花、ドライフラワー、プリザーブドフラワーなど、エピソードが終わった後もPCの手元に長期間残せるものは採用できません。

・難易度について
このエピソードのウィッシュプランで「精霊が神人に花のプレゼントを渡す」モーション自体は、ステータス不問で成立します。そのため難易度が「簡単」になっています。
それ以外の精霊の行動がウィッシュプランどおりにいくかは、通常のハピネスと同様にウィンクルムの親密度やステータスによって判定されます。

ゲームマスターより

山内ヤトです。

ジャンルは一応ロマンスにしてありますが、プラン内容によってシリアスにもコメディにも対応可能です。
ウィンクルムの皆さんがどんな花を贈り合うのか、楽しみにしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  花を贈るって素敵よね
アルはそこまで花に興味ないとは思うんだけど…
花言葉とかも知らなさそうだし

だからこそ、こっそり花言葉に気持ちを託す事もできるかも?
でもどうせなら伝わった方がいいわよね

前に植物園でアルが足跡に使ってくれたカランコエ
あれだけはお婆ちゃんから一緒に聞いて花言葉を知ってるはずだから、入れたら判ってくれるかも
大切だから守りたい想いは私も一緒だって伝えられたらいいな

■花束
スターチス(変わらない誓い
カランコエ(あなたを守る
かすみ草(永遠の愛

ちょっと詰め込みすぎた気もするけど大丈夫よね

■貰った花を見て目を瞠る
何だかドラマチックね
とても綺麗…
ね、薔薇やかすみ草の花言葉って知ってた?(顔覗き込み



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

※神人、精霊共にアドリブOK

私はロジェの独占欲を覗いてしまいました。だから貴方は、私を傷つけない為に別れると言った…
でもこのままじゃ、嫌なんです! だって、私は貴方をひと目見た瞬間から、恋をしてしまったから。
貴方の欲するままにされたいと、そう願ってきたから。

(ブーゲンビリアの花束を渡す)

この花…ブーゲンビリアというのです。花言葉は…『貴方しか見えない』
(ポロポロ泣いて)ロジェ、私も貴方と同じように、ずっと貴方しか見えなかったんです。
私を貴方のものにして欲しい…だからどうか、傍にいてください…!

(抱きしめられ、泣いたまま微笑む)ロジェ、私も貴方が好き…愛しています。


ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
  (相手のドヤ顔に
当然のことのような気もするが…と思いつつ)

(好きな相手からもらう薔薇とその言葉に
恥ずかしいような、むずがゆいような、嬉しいような気持ち
赤面して受け取る)
…あ、ありがとう…な
私からは、これを

◎ハナミズキ→返礼、永続性、私の想いを受けて下さい

ずっとお前との仲が続きますように…という意味と
それから
いつか、この薔薇に報いられるように…
お前の気持ちを受け止めらるようになるまで
少しの間、待ってくれないか

(返事に、目を潤ませ)
ありがとう
変だな、私もお前が好きなのに…
でも
返事を聞いて、すごく安心した
(手を差し伸べ)
これからもよろしくな、レオン
(固い握手を交わす)

(花を愛でつつ、二人並んで散歩)



アマリリス(ヴェルナー)
  当人の自主性に任せると一生貰えそうにない気がしましたので渡りに船です

ハト公園
先に渡す

・赤のガーベラ(常に前進)
契約してからだいぶ時間が経ちましたね
あの頃に比べたらわたくし達も成長しましたわ、体も心も
けれどこれしきで満足している場合ではないでしょう?
今後も共に精進していきましょう

枯れてしまうのが勿体ないですわね
…それもそうね
ありがとう、わたくしもパートナーが貴方でよかったわ

わたくしの名前は花の名前ですものね
花言葉もそうですが両親の思い出の花でもありますの
名前の由来になった神話にあやかって想いを通じ合わせたそうです
幼い頃は憧れていましたね

…本当に貴方はそういう所はかわりませんのね
(花で顔隠しつつ


和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎

花:ハイビスカス
花言葉:あなたを信じます

今回ばかりはあの人の行動の予想がつく
……嬉しくない進歩だけど
いつもは軽く流していたけど、ちゃんと考えたほうがいいのかな…

あの人のことは嫌いじゃない……と思う……
黙ってれば格好いいし、いつも気を使ってくれるし、優しいし…たまにウザイけど
でも、やっぱり私には似合わない…というか、もったいなさすぎる
あの人ならきっともっと素敵な人を選べると思うんだ
だからいつも同じ考えに辿り着くの
どうして私なんだろうって

でも本当に真剣に考えてくれているなら…
好きとか嫌いとか、ちゃんとした答えはまだ返せないけど
でもその気持ちは信じようと……思う

花言葉のカードを添えて渡す


●貴方しか見えない・……
 神人と精霊で花を贈り合うのがこの催しの主旨だ。けれどこのウィンクルムは、イレギュラーな注文をした。
 花を贈るのは『リヴィエラ』だけで、『ロジェ』から花を渡すことはない。花屋は少々いぶかしがりながらもその注文を請けた。料金は一組一律300ジェールで、半額にはならない。
 リヴィエラが注文した花は、彼女の元へと送られた。後は、渡すべき相手にその花を贈るだけだ。

「……こんな公園に呼び出して、何の用だ?」
 ハト公園に呼び出されたロジェは、冷ややかな目で自らの神人を一瞥した。腕組みをして、頑なな態度。その声は刃のように鋭い。
「俺達は別れると、この前そう言った筈だが」
 彼がこんな冷淡な対応をしているのには、明確な理由があった。自分の強い独占欲を彼女に見られたことで、ロジェからリヴィエラに別れを切り出したのだ。
「私はロジェの独占欲を覗いてしまいました。だから貴方は、私を傷つけない為に別れると言った……」
 うつむきながら、リヴィエラは花束をきつく握る。
 ちゃんと渡せるだろうか。受け取ってもらえるだろうか。
 迷いを振り払うように顔を上げた。
「でもこのままじゃ、嫌なんです! だって、私は貴方をひと目見た瞬間から、恋をしてしまったから。貴方の欲するままにされたいと、そう願ってきたから」
 リヴィエラが急に大きな声を出したので、周辺にいたハトたちが驚いて一斉に飛び立った。リヴィエラとロジェの間に、白い鳥たちの壁が現れる。羽音が静まると、白い羽がひらひらと落ちた。
 すっ、とリヴィエラが歩みを進める。
 近づいてきたリヴィエラに対して、ロジェは冷ややかな姿勢を保とうと意図的に努力しているように見えた。
「この花……ブーゲンビリアというのです。花言葉は……貴方しか見えない」
 リヴィエラがロジェに花束を差し出す。
 ロジェは腕組みを解かず、視線さえ合わせない。彼は振る舞いで拒絶を示そうとしていた。
「ロジェ、私も貴方と同じように、ずっと貴方しか見えなかったんです」
 人目も世間体も気にせずに、正直な気持ちを口にする。
「私を貴方のものにして欲しい……だからどうか、傍にいてください……!」
 ロジェの目線が、ブーゲンビリアの花束からリヴィエラの顔へと移動した。青い瞳からポロポロと涙を流し、切実に思いを語る彼女の姿がそこにあった。
「な……んで……何で君はそうまでして……」
 その涙に動揺して、腕組みが解かれた。驚きと戸惑いがロジェの心に渦巻く。
「君を籠の中の鳥にしたのは俺だぞ!? 何で……何で……!」
 叫ぶようなロジェの問いかけに、涙目になったリヴィエラが無理に微笑みを作って答える。
「貴方が好きですから」
「っ!」
 その献身的な愛に、ロジェは息を呑んだ。彼の目からも一筋の涙が流れ落ちる。
「……本当に、本当にお前はバカな女だ! 俺の牙にかかってまでそうやって近づいてくる、愚かな女だ!」
 きつい言葉をリヴィエラに向けるが、それは彼が彼女を気にかけているからだった。
「ロジェ、私は貴方が好き……愛しています」
 細身の体を抱きしめようと、ロジェの腕が動いた。が、彼が実際にその手に抱いたのはリヴィエラの体ではなく、彼女が持っていた花束。この時のロジェの心境はかなり複雑だった。
「リヴィー……」
 切なさを秘めた声で、ロジェが小さくつぶやく。
「お前が好きだ」
 リヴィエラの一途な行動によって、ロジェの冷淡さは和らいだ。ブーゲンビリアの花束を受け取り、リヴィエラへの思いを口にした。
 ただ、ロジェからリヴィエラへ渡せる花は何もない。リヴィエラから一方的に大きな愛をもらうことに対し、罪悪感や抵抗を持ったのだろうか。その点が、ロジェの控えめで一歩引いた反応として表れる形となった。

●あなたを信じます・私の想いを受け止めて
 その精霊は、初対面で神人に一目惚れして結婚を申し込んだ。
 いつもびっくりするようなやり方で愛のアピールをしてくる『セララ』だが、今回ばかりは行動の予想がつく。
(……嬉しくない進歩だけど)
 『和泉 羽海』はため息をついた後、真面目な顔をして考え込んだ。
(いつもは軽く流していたけど、ちゃんと考えたほうがいいのかな……)

 セララは羽海にプレゼントするための花を探していた。
「愛の告白といえば薔薇だよね~。まぁ愛の告白なんて毎日してるんだけど!」
 半ば独り言。半ば店員への世間話。
「でもどうも感触が良くないんだよね。普通ならとっくに落ちてるのに……」
 愛の告白や結婚の申し込みは、男女の関係を左右する上でかなり重要な意味を持つ。そのため、なかなか告白に踏み切れない者も多い。本来はとても特別なことが、セララと羽海の間ではもう当たり前の日常的なやり取りになってしまっている。それは否めない。
 そう簡単に自分になびかないところも、セララは羽海の魅力として感じている。それでもやっぱり……。
「たまにはデレてほしいっていうか。もっと可愛い所見てみたいっていうか」
 このあふれる気持ちをどうやって羽海に伝えたら良いのか。悩みながら、セララは花を選んでいく。

 ハト公園で羽海を見つけると、セララは駆け寄ってきて、羽海のそばにひざまずいた。そして、キリッとした表情で十一本の薔薇とハナミズキの花束を差し出す。
 まるでプロポーズだ。
「……」
 ひざまずいて花を掲げるという行動が大げさに映ったのか、羽海は困った顔をした。
(あの人のことは嫌いじゃない……と思う……。黙ってれば格好いいし、いつも気を使ってくれるし、優しいし……たまにウザイけど)
 わざと他人のフリをしてスタスタ歩き去る羽海。
 慌てて引き止めるセララ。
「ちょちょっと待って! 冗談だよ! いや冗談じゃないけど! ちゃんとするから話聞いて!」
 羽海も本気でスルーしたわけではない。足を止めて、きちんとセララに向き合う。
「オレは羽海ちゃんが好きだよ」
 そう言ったセララの眼差しは真剣で、ひたむきな姿勢は彼の端正な顔立ちをより美しいものにした。
 セララが魅力的であればあるほど、羽海は戸惑ってしまう。
(でも、やっぱりあたしには似合わない……というか、もったいなさすぎる。あの人ならきっともっと素敵な人を選べると思うんだ)
 いっぱい悩んで考えて、羽海はいつも同じ結論に辿り着く。
(だから……どうしてあたしなんだろうって)
 そんな羽海の内心の疑問に答えるように、セララが宣言する。
「どんな姿でもオレにとってはキミが唯一の人だから。だからどうかオレの気持ちを受け入れて下さい」
 貴方を愛してます。私の想いを受け止めて。それが、セララが花言葉に託して伝えたい思いだ。
 羽海はセララからの花束を受け取る。
(でも本当に真剣に考えてくれているなら……)
 羽海はセララの顔を見た。赤い瞳は真っ直ぐに羽海を見つめている。
(好きとか嫌いとか、ちゃんとした答えはまだ返せないけど。でもその気持ちは信じようと……思う)
 用意してきた花束を持ち、セララに差し出した。羽海が選んだのは、ハイビスカスの花だ。
「わあ! ありがとう、羽海ちゃ~ん! 嬉しいよ」
 花を受け取ったセララがパッと笑顔になる。南国風のこの花は、明るいセララの雰囲気に似合っている。見た目のイメージだけで選んだわけではない。添えられたカードには、ハイビスカスの花言葉が記されていた。
 あなたを信じます。それがセララに送る、今の羽海からの言葉。
「……羽海ちゃん!」
 カードの言葉に目を留めたセララは、嬉しそうな笑みを浮かべた。

●常に前進・出会えた事の喜び
 A.R.O.A.のロビーに貼り出された花屋のお知らせを見て、『アマリリス』は顔をほころばせた。神人と精霊で、花を贈り合う企画だという。
「当人の自主性に任せると一生貰えそうにない気がしましたので渡りに船です」

 花言葉を全くしらなかった『ヴェルナー』は本を読んで調べることにした。真面目な彼らしい行動だ。
 ちょうどアマリリスは花の名前でもある。それを贈ろうかとも思いかけるが、ヴェルナーは考え直した。ここで安直な選択や手抜きをすれば、アマリリスはすぐに見破ってしまうだろう。
「ちゃんと考えなくては」
 贈る花を真剣に選ぶ。

 ハト公園では、アマリリスから先に花を渡した。彼女が手にしているのは、赤のガーベラ。
 ヴェルナーは剣を賜る騎士のような凛々しい所作で、アマリリスの手から花を受け取る。
「契約してからだいぶ時間が経ちましたね。あの頃に比べたらわたくし達も成長しましたわ、体も心も」
 赤いガーベラの花言葉は、常に前進。勇ましく高潔な意志を感じさせる言葉だ。
「けれどこれしきで満足している場合ではないでしょう? 今後も共に精進していきましょう」
 強い意志を宿した眼差しでアマリリスがヴェルナーを見る。
「ありがとうございます。私からはこちらを。一番伝えたい事は何かと考えこれにしました」
 ヴェルナーが持っているのは、オレンジの薔薇五本。薔薇の花言葉は特に複雑で、色、数、花弁の状態で意味が異なってくる。オレンジ色は絆を、五本という数は出会えた事の喜びを表している。
「枯れてしまうのが勿体ないですわね」
 薔薇を受け取りながら、アマリリスが微笑む。
「例え形がなくなっても心には残ります」
 よどみなくヴェルナーが応える。生花なのでこの薔薇もいずれ枯れてしまうが、アマリリスたちのウィンクルムとしての絆は消えることはない。
「中々適合者が現れないと悩んでいましたが……それも貴方が顕現するまで待っていたのだと思うと納得がいきます。私の神人が貴方でよかった」
 ヴェルナーは自分と適合する神人を心待ちにしていた。待つ日々は長く感じられた。そんな中で、彼はアマリリスと出会った。
「……それもそうね。ありがとう、わたくしもパートナーが貴方でよかったわ」
 左手の紋章に視線を落としたのは、偶然二人共同じタイミングだった。
 アマリリスから感謝の言葉を聞いて、ヴェルナーはホッと胸をなでおろす。喜んでもらえて良かったと。
「実はアマリリスの花にしようかとも考えたのです」
「わたくしの名前は花の名前ですものね」
 贈り物にはしなかったが、ヴェルナーはアマリリスの花言葉も調べていた。複数の花言葉の中でも、誇りという言葉が最もヴェルナーの印象に残っている。
「花言葉もそうですが両親の思い出の花でもありますの。名前の由来になった神話にあやかって想いを通じ合わせたそうです。幼い頃は憧れていましたね」
 とある神話。アマリリスという娘が少年に恋をした。花が大好きな少年は、花を届けてくれる別の少女に心惹かれていく。神託によりアマリリスは矢で自分を傷つけ、流れた血から美しい花が咲いた。花が好きな少年は、アマリリスにひざまずいて愛を告げ、美しい花はアマリリスと呼ばれるようになった……。という話だ。
「そういえばそんな話も載っていましたね」
 本で花言葉を調べた際、由来となった神話にもヴェルナーは目を通していた。
「私にはあてはまりそうもないですね。好きなもので気を引かなくても私は貴方の事を見ていますから」
 率直な意見としてヴェルナーはいった。彼の言葉は、打算などとは無縁だ。
「……本当に貴方はそういう所はかわりませんのね」
 もらった花で顔を隠して、アマリリスは密かにはにかんだ。

●愛の告白・永続性
 『ガートルード・フレイム』との待ち合わせに『レオン・フラガラッハ』はやたらキリッとした格好でやってきた。レオンが身に着けている「ファベルズコート」はシックで格式高いデザインだ。
「この間お前に言われて、ちゃんと身辺整理をした」
「そうか」
 ガートルードはレオンにこう告げていた。私と付き合いたければ他の女とは別れろ、と。
「他に恋人がいたわけじゃねえが、その……」
 少し口ごもってから、レオンは堂々と言う。
「疑われるような女友達はいたからさっぱり縁切ってきた!」
 ここで、俺偉いだろう! と言わんばかりのドヤ顔!
「いや……そこまで威張ることか?」
 ガートルードはテンション低めのツッコミを入れた。
 女の子大好きで、好みのタイプは金髪美少女! そんなレオンのことをガートルードは素直に恋人だとは認められずにいた。二人の気持ちは、両思いのはずなのだが……。
 咳払いをして、レオンは場の空気を仕切り直す。真面目な顔つきになって、ガートルードに向き合う。
「よく考えれば申し込みもしてなかったしな。……改めて言う」
 レオンは緊張した面持ちだ。息を整えてから、思いを口にする。
「好きだ、付き合ってくれ」
 彼が差し出したのは、ピンク色の薔薇三本。花はまだツボミの状態だ。ピンクの薔薇の花言葉は温かい心、可愛い人。ツボミ三本は愛の告白の意味を持つ。
「……あ、ありがとう……な」
 頬を赤く染めながら、大事そうに薔薇を受け取る。
 ガートルードもレオンに対して好意を抱いている。好きな相手から花をもらうのは、恥ずかしいような、むずがゆいような、でもやっぱり嬉しい気持ちがした。
「私からは、これを」
 ハナミズキをレオンに渡す。
「ずっとお前との仲が続きますように……という意味と」
 ハナミズキの花言葉は、永続性。
「それからいつか、この薔薇に報いられるように……お前の気持ちを受け止めらるようになるまで」
 そして、返礼、私の想いを受けて下さい。
「少しの間、待ってくれないか」
「ガーティー!?」
 その返事に、レオンは一瞬ショックを受けたかのように、青い瞳を見開いた。
 だが、よくよくガートルードの言葉を噛み砕いて理解してみれば、断られたわけではないのだとわかる。
 レオンは複雑そうに笑う。困った様子で自分の頭に手を置いた。
「俺、せっかちなんだよな。傭兵業の癖で、いつ死ぬかわからないって考えちまうから」
 いつ死ぬかわからない、という思いは彼の本心であり、行動原理にも深く結びついている。
「でも、お前には時間をかける事を求められているのだと思う。それも『誠実さ』なんだよな」
 ガートルードに確認するように。自分を納得させるように。レオンは一つ一つの言葉を噛みしめるように口にした。
 そして、しばらく複雑な迷いの表情をした後で決断する。
「待つよ」
「……ありがとう」
 返事を聞いたガートルードの目は潤んでいた。
 レオンがガートルードの望む返答をするかどうかは、全く保証などはない。そんな不確かな中でレオンが導き出した返答は、ガートルードを安心させるものだった。
「変だな、私もお前が好きなのに……」
 ガートルードも真剣にレオンとの関係を考えているのだ。相手の本気をテストしているわけでも、遊び半分で恋の駆け引きをしているわけではない。誠実な関係を求めての言動だった。
「でも返事を聞いて、すごく安心した」
 花束を抱え直して、右手を自由にする。
「これからもよろしくな、レオン」
 微笑みながら手を差し伸べれば、力強い握手が返ってくる。
「よろしく! ガーティー」
 せっかくハト公園にきたのだ。どちらから誘うともなく、二人並んで花を愛でつつ散歩をする。その姿はとても仲が良さそうで、楽しそうだった。

●あなたを守る・永遠の愛
「花を贈るって素敵よね」
 『月野 輝』はふわりと微笑んだ。だがパートナーの精霊『アルベルト』が乗り気になってくれるかどうかが、ちょっとだけ気になった。
「アルはそこまで花に興味ないとは思うんだけど……花言葉とかも知らなさそうだし」
 しばし悩んだ後、輝はこの企画に参加することにした。後でアルベルトにも連絡しておこう。
「だからこそ、こっそり花言葉に気持ちを託す事もできるかも? でもどうせなら伝わった方がいいわよね」
 こっそり気持ちを託したい。はっきり意味を伝えたい。相反する思いだが、どちらもロマンがある。
「前に植物園でアルが足跡に使ってくれたカランコエ。あれだけはお婆ちゃんから一緒に聞いて花言葉を知ってるはずだから、入れたら判ってくれるかも」
 小さな花がたくさん集まったカランコエを脳裏に思い描く。
「カランコエは外せないとして、あの花も入れたいし、あの花もステキ。ちょっと詰め込みすぎた気もするけど大丈夫よね」
 花屋の貼り紙には、生の切り花であれば数や種類は自由だと書かれている。種類が複数でも問題はない。花屋は快く輝の注文を受け付けた。

「花を贈る……ですか」
 アルベルトは思案げに首を傾げた。
「輝は喜ぶだろうとは思いますが、花言葉にあまり詳しくはないのでどうしたものか」
 悩んだ末に、アルベルトは花言葉でメッセージを伝えることにこだわらず、輝の好きな花やプレゼントとして定番の花を選ぶことにした。
「確か輝はかすみ草が好きでしたね」
 かすみ草は上品で繊細な花だが、それだけではちょっと物足りない。その中に、赤とピンクの薔薇を数本入れる。色合いのバランスも良い。かすみ草はふんだんに用意する。これで美しく豪華な花束になった。
「薔薇の花は万能だという気がしますし、確か愛情を現すと聞いた気もします」
 アルベルトは輝のことを思いながら、ふっと微笑んだ。
「もう隠す必要はないですしね」

 ハト公園の待ち合わせ場所で、輝とアルベルトは顔を合わせた。
 アルベルトは、かすみ草と薔薇の花束を輝に差し出した。抱える程の量のかすみ草に、彩りを添える赤とピンクの薔薇。
「何だかドラマチックね。とても綺麗……」
 目を見張りながら、花束を受け取る輝。彼女は花言葉の意味をしっている。
「ドラマチックですか。私は花言葉に詳しくないので、輝の好きな花と女性への定番の花を選びました。気に入っていただけたようで何よりです」
「あら、やっぱり。予想はしていたけれど、アルは花言葉をしらずに花を選んだのね。偶然とはいえ、どれもステキな花言葉よ。嬉しい」
 そして今度は輝がアルベルトに花を渡す。かすみ草をベースにして、カランコエを目立つように取り入れて、色合いの調整にスターチスを配置した花束だ。
 アルベルトはすぐに花束の中のカランコエに気づいた。
「カランコエ、これだけは判ります」
 花言葉は、あなたを守る。輝がアルベルトに伝えたいメッセージだ。
「大切だから守りたい想いは私も一緒だって、アルに伝えられたらいいなって思ったの」
「有難う、輝」
 アルベルトの顔を覗き込み、無邪気に輝が問う。
「ね、薔薇やかすみ草の花言葉って知ってた?」
「詳しくは知りませんが……教えて貰っていいですか?」
 からかうように笑いながら、アルベルトは教えを望んだ。
 微笑み返して、アルベルトが用意した花束の花言葉を説明する。
「かすみ草は永遠の愛と幸福。薔薇は色ごとに意味が違って、赤い薔薇は愛情、ピンクの薔薇は美しい少女を意味していることが多いわね」
 次は、自分が渡した花を丁寧な手つきで指さした。
「かすみ草は永遠の愛。スターチスは変わらない誓いを意味しているのよ」
 輝はかすみ草が好きだ。永遠の愛があれば、きっと幸福になれるのだろう。



依頼結果:成功
MVP
名前:ガートルード・フレイム
呼び名:お前、ガーティー
  名前:レオン・フラガラッハ
呼び名:お前、レオン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月15日
出発日 03月20日 00:00
予定納品日 03月30日

参加者

会議室

  • [5]アマリリス

    2015/03/19-00:06 

  • [4]和泉 羽海

    2015/03/18-22:14 

    はろはろ~
    初めましての人も久しぶりの人も、どーぞよろしくね~!

    どんな形であれ、花って贈るのも贈られるのも嬉しいよね~
    皆が素敵な時間が過ごせることを祈ってるよ!

  • [3]月野 輝

    2015/03/18-20:24 

  • [2]月野 輝

    2015/03/18-20:24 

    羽海さん達には初めまして、他の方にはお久しぶり。
    花束をあげるって素敵よね。
    皆さんの花束がどんなのか楽しみにしてるわね。

    それじゃ、季節外れの格好で何だけど、皆さん……


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