プロローグ
ショコランド王家からの依頼により「幸せの灯火」を集めるべく、幸せのランプ片手にウィンクルムたちが今日もゆく。
彷徨える「バザー・イドラ」に来たのが初めてできょろきょろする者、
数度目において、未だ同じ店に出くわさず好奇心いっぱいの者、
そんなウィンクルムたちを、今夜も大小様々なテントたちが出迎える。
いくばかりかバザー内を歩いてみたあたりで、
突如救済を求める叫び声が耳にとどいた。
「うわ!!だ……誰かーーーー!!」
とても切羽詰まった声に、何組かのウィンクルムたちが同時に声の聞こえた目の前のテントに飛び込んだ。
とてもとても広いテントで、柔らか素材な壁が連なりまるで迷路のような道が作られている。
それぞれが道を進み、声の主を探そうとしたその瞬間――
バキバキィッ ドォォオ……ッン ばさばさばさぁ!
同時にいくつもの轟音が響いたと思えば、視界は落ちてきたテントの真っ白な幕で覆われてしまった。
あちらこちらから戸惑いの声が聞こえる。
そこへ、テントの主と思われる先ほどの叫び声と同じ男性の声が再び響いた。
「え?あれ!?もしかして誰か来てくれてたんですか!?うわぁ!申し訳ないことをしました……!」
とても恐縮している様子。
説明を求める空気に、男性が言いにくそうに、それでも皆に聞こえるように大きな声で口を開いた。
「ええとですね……。テントを支えていた一番大きな柱に亀裂が入りまして……倒れる前に誰かに支えてもらって修復出来ないかと
つい大声をあげてしまったんですが……時すでに遅しだったようで」
そういえばどなたかお怪我はされないですかー!?とあたふた続けながら男性は説明した。
つまり、支柱が壊れピンと張られていた幕が落ちてきた状態だと。
幸い、誰からも怪我をしたという報告はされず、男性は少し安堵の声を漏らした。
「本当に申し訳なかったです。折角飛び込んでくださったのに」
まぁ仕方がない。事故にでくわしたのだ。
取り敢えずこの動きにくい幕の中から出ようと試みる。
……すぐそばに居たはずのパートナーの声が何故か遠い。
おい。どうして動き回っているんだアイツは……!
説明が終わるまでじっとしていれば、事態は容易く抜け出せるものだったのに!
もういいか。向こうも出ようとするだろうし放っておけば。
そう思った矢先。
またあの男性の声がする。
「そうそう!もしかして連れがいたりする人たちですかー!?そしたら2人一緒に同じテント出口を通った方がいいかもですー!
元々2人1組向けに作ろうとした迷路でしてー……。迷って離れ離れになっても、二人の確かな友情や愛で
迷路内でもう一度出会ってもらって、力を合わせて仲良くゴール!という趣旨だったもので……
別々にテントの幕を出ると、バザー内ではあるけれどそれぞれ全く違う場所に出てしまうんですう!!」
ちくせう。なんて厄介な。
大きな溜息一つと共に、一歩踏み出すたびに伸し掛って視界を邪魔する幕を持ち上げながら
よっこらよっこらとパートナーを探しに歩き出すのだった。
解説
●ひたすら幕を持ち上げ避けながら、パートナー様と合流してテントを出ましょう!
落ちてきたテントの重みで、作りかけだった迷路の壁も崩れてしまっています。
素材が柔らかいので転んでその上に尻餅をついたりしても怪我はしません。
が。
何せ視界が真っ白。足元悪し。
転んだ瞬間に、「あ!!誰かを押し倒してしまった!」「お、押し倒されてしまった……!」
必ず一度はこうなります。決定事項です。決定事項です(大事なコトなので2回以下略)
それはどこかで見かけた、または顔なじみの、ウィンクルムの片割れサマで。
気まずそうにすぐ退くも良し。
挨拶してちょっと雑談するも良し。
おや好みうふふふ……とするも良し。
(※残念ながら他パートナー様と恋愛フラグは立ちません)
その後は無難にご自身のパートナー様と合流して頂き
和気あいあい(または喧々囂々)と揃ってテントを出て下さい。
ええ。お互い、離れている僅かの間にナニがあった……?とか話して頂いて結構ですよ☆
<入れ替え瞬間床どんペア>
「この方と話してみたかった!」などあれば
会議室で相談して自由に決めて頂いて構いません。
(神人様同士、精霊様同士でも可)
しかし決まらないとプランが書けないと思うので、特にこだわりがなければ
以下にて決定。
☆会議室上に表示される「参加者一覧」の順番☆
上より1から5まで番号を振りまして以下となります。
:1の神人&2の精霊
:2の神人&3の精霊
:3の神人&4の精霊
:4の神人&5の精霊
:5の神人&1の精霊
●テント主より「本当に申し訳ない……良かったらカンパを……」
テント修理募金:1組【300Jr】消費
●床どんペアについては、会議室を読ませて頂きますので
プランにお相手様を書かなくとも大丈夫です。
会話内容もご相談される場合は、なるべく会議室を参考にさせて頂きますが
描写を強く希望する部分は、プランに必ずご記載下さいませ。
イイ男たちの絡まり合いが見たk ご め ん な さ い 。
ゲームマスターより
男性側に月一で現れるへっぽこ妖精もといGM、蒼色クレヨンでございます!
いつもお世話になっておりますっ(へこへこへこっ)
女性側でやらせて頂いた「床どん」を、更にパートナー入れ替えでカオスにしちゃいました。
放っておくとクレヨンのことだ「コメディ」に転がる!と断定してジャンル選択をしておりますが、
プランにてシリアスやロマンス系でも勿論OKです!
皆様の個々のプランに合わさせて頂きます!!(た、たぶんっ!頑張る…!)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
信城いつき(レーゲン)
転倒して驚いたら、目の前にゼクがいてさらにビックリ ゼクは大丈夫?無事ならよかった レーゲン以外の精霊と一緒という状況を珍しがってる 好奇心で迷惑にならない程度に話しかける お菓子作りしてるの?おいしいのあったら今度レシピ交換しよう いいなぁ、このくらい筋肉ほしい。 俺だってレーゲンをちゃんと守れるようになりたいんだ そういえば顕現後からずっとレーゲンが側にいた ほんの1年ちょっとの時間なのに、すごく当たり前に思ってた きっとレーゲン心配してる。ゼクも直香のこと心配でしょ? 早く探しに行こう あ、レーゲン発見。 ただいま。なんとなく今そう言いたい気分(へへっ) レーゲンがつないできた手をきゅっと握り返す |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
ゼクが迷子になった と。瑠璃く……んじゃなかった、赤色お目目は珊瑚くんだ 知り合いのキミじゃなければ蹴り上げてたとこだった しかしこの状況 あ、面白そう 離れようとする珊瑚くん引き止め。 そんな……ゼクにすらされたことないのに……と突如涙目。 少しでも狼狽えさせたら隙有りっとくすぐっちゃうんだぞ キミは両手両足を床に付いた状態だが僕は動かせるのだ 次があったらキャーとか叫ぼう、と不穏な会話しつつゼクと合流? 確かな友情や愛って僕らにあったろうか ゼク、いつきくんに失礼なことしなかった? 慰謝料はちゃんと支払いたまえよ 言い淀むってことは本当に何かしちゃったの? ゼクにそんな願望が。僕の監督不行届だ 後で押し倒してあげるから |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
(珊瑚と離れてしまったな。 あいつの事は心配だが、先に千亞さんとテントから出よう) 千亞さんと雑談しつつ、珠樹さんとは連絡を取っているか、 どこで待ち合わせをしているか尋ねる。 自分は、テントの入口だった所で珊瑚を待つ予定です。 「千亞さん、怪我はありませんか?」 反射的にも彼を怪我から守ろうとして押し倒してしまった。 テントの幕を押し上げて、千亞さんの様子を見る。 擦り傷程度の軽い怪我なら、絆創膏を貼る。 怪我したら、珠樹さんに申し訳ないので。 「珊瑚、怪我はないか?」 思わず珊瑚の両肩や背中に触れ、怪我がないか心配した。 「いや、それは……」 人に触られるの苦手って言ってたからな。 その、パニックになってたと思った。 |
明智珠樹(千亞)
★千亞共々弄び大歓迎! 「おやおや。千亞さーん、どこですかー?」 白い世界での宝探しですね、ふふ。 ●倒され ジルさんに倒され、踏まれ、色々され喜び悶絶。 「も、もしや貴方は美人ディアボロ女将のジル様!?」 一方的にファン。鞭が似合いそう精霊NO1 何をされても幸せそうに 「我々の世界ではご褒美です」 ●合流 「千亞さん、ご無事ですか?お怪我はありませんか?」 安堵の笑み。 千亞の話に 「…ちょっと私にも押し倒させてください…!」 ぐいぐい。ちょっと本気。 「しかし瑠璃さん、紳士ですね。私だったらそのまま千亞さんに色々…ふふ。」 妄想。 「聞いてくださいよ千亞さん!憧れのジル様にお会いしたんですよ!」 楽しく内容語るド変態。 |
暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
アドリブ大歓迎 本当になんて厄介な… こんな事態じゃなければ、素直に楽しめたのかもしれませんが ★床ドン(押し倒される は……?? (事態把握)~~~!? あああああなんかすいませんごめんなさい申し訳ありません!!! (混乱中:よく分からないけど謝っておくスタイル 取り乱してすみませんでした… お怪我はなかったでしょうか?(驚きすぎて心臓が痛い… こんな状況じゃなければ、ゆっくりお話したいところなのですが…残念です ★合流 あぁ、無事でよかったです いえ、大したことはないですが、ちょっと動悸が… こっ…それはないと思います はぁ……そちらはなんだか楽しそうですけど、なにかあったのですか? 先生は一体どこへ向かってるんですか… |
「あちゃー。レーゲン心配してるかな」
「ろくに前も見えにくい……本当になんて厄介な……」
「おやおや。千亞さーん、どこですかー?」
「しまったな……やっぱり手を繋いでおくんだった」
「……(てぇぎな)」
「ゼクが迷子になった」
「居なくなったのは直香の方だ」
「あら。私のチヒロちゃんがいないわ」
「ちくしょう!瑠璃どこやさ!」
「あ、あれ?珠樹?」
大きな大きな崩れたテント内。
聞こえてきた声は 信城いつき、暁 千尋、明智珠樹、レーゲン、瑪瑙 瑠璃、柊崎 直香、ゼク=ファル、
ジルヴェール・シフォン、瑪瑙 珊瑚、千亞、の計10名。
てんでばらばらな方向から呟かれた声たち。
一部会話が成立しているのは気のせいか、はたまた本意にしろ不本意にしろ絆の高さ故だろうか。
一人また一人と、自らのパートナーと邂逅すべく歩み出す。
その先で、いたずら的不慮の事故☆が待っているとは夢にも思わずに。
●そんなわけで床どん中
只今、いつきの視界に映るは白銀垂れ褐色肌覗く胸板。
あれ俺何が起きたの??
そんな丸く見開かれた目と合って、ゼクが口を開いた。
「いつきか。すまない。怪我は無いか?痛むところは」
その一言ですぐに直前の出来事がいつきの頭の中で整理された。
テントの幕布を押し上げることに必死になっていたら、足元の何かにつまづいてしまい。
その瞬間横の幕に大きな影が映ったのを見たのだ。
そうかあれゼクだったんだー、といつきは納得顔。にぱっと笑顔になる。
「俺は平気だよ。ゼクは大丈夫?」
「問題ない。本当にすまなかったな……いつもの、直香の頭がある位置ばかり気にしていた為、
手を伸ばした先の目測を誤った。少々低すぎたようだ」
「庇おうとしてくれたんだろ?むしろありがとな!……それより今の台詞……さ、」
「……」
「……」
「直香には内密で」
「おっけ」
ゼク、さらっと口をついて出た言葉が直香的大失言であろうことに気づかされ、思わず周囲を警戒したり。
いつきはいつきで、伊達に様々な任務をご一緒しているわけではない。男としても身長のこと言われるのは自分とて気になる。
それが直香なら、聞いたが最後どんなよいえがおが出るか、と何となく想像したようだ。
(正確には、いつきが想像したより数割増なナニカがゼクの脳内光景では映し出されて鳥肌が立っていたようだが。
そこはゼクしか知らない直香の一面であろう)
二人の間に交わされた瞬時の沈黙には、そんな暗黙やり取りがあったとか。
いつきなら信用できる、と安堵しかけたところで、ようやく自分が取っている態勢に気付くゼク。
「――す、すまん!」
いつきの顔の両脇に己の手をついて、四つん這いでいつきを見下ろした状態からようやく身を起こす。
ものすごい速さで。
立てるか、と手を差し出したゼクの表情は大変気まずそうである。
いつき、若干逸らされたゼクのそんな横顔を、新鮮そうにまじまじ見つめながら手を借り立ち上がった。
「気にすんなってー。ちょっとびっくりしたけどな!」
「うっ……本当にすまん」
天然台詞は確実にゼクの精神へダメージを与えた。
しかして無邪気に向けてくる笑顔は、いつも見る確信犯の笑みとは違った印象で、ゼクもすぐ回復しいつきの横を歩き出す。
「レーゲンは一緒じゃないのか」
「さっきまで一緒だったんだけどさ。この幕のせいではぐれちゃったみたいで」
覆いかぶさる幕がいつきに掛からないよう配慮して少し前を歩くゼクへと、いつきは日頃出来ない会話への好奇心がむくむく。
「ゼクってさ、お菓子作りしてるの?俺もそれなりに作るんだ!おいしいのあったら今度レシピ交換しようよ!」
「……何故知って……、いや何でもない。構わんが」
ウィンクルム内、意外と顔の広いという自覚のないゼク。
いつの間にか、家事スキルに定評が付いている上に、あくまで直香にせがまれ勉強するハメになっただけのはずの菓子作りまで
得意らしいぜ!と広まっているらしいことは知らぬが幸せか。
「いいなぁ、このくらい筋肉ほしい」
「神人はそこまで力を気にすることないんじゃないか」
「俺だってレーゲンをちゃんと守れるようになりたいんだ」
きっぱりと告げるいつき。
真っ直ぐな言葉に、ゼクも微か目を細め。
その視線の意味をいつきは誤解したようで、ハッと慌てたように顔を上げた。
「ご、ごめんゼク!」
「? 何がだ」
「その、調子にのっていっぱい聞いちゃってる俺。うるさい、よね」
「うるさいなんて思わねえよ」
穏やかな声色に、いつきはゼクを不思議そうに見つめた。
その視線を受ければゼクも苦笑いを浮かべる。
「直香もいつきも明るく口数が多いが、直香とは穏やかな会話にはならんからな」
「えっ。そうなのっ?」
あんなにいつも楽しそうに会話してるのにー、と告げるいつきに、楽しそう……?と本気で首を傾げるディアボロさん一名。
そんな仕草が見れるのもどこか嬉しそうにいつきは眺めてから。
そういえば顕現後からずっとレーゲンが側にいたんだな、なんてふと思う。
(ほんの1年ちょっとの時間なのに、すごく当たり前に思ってた……)
いっつも度が過ぎるくらい気にかけてくれる。きっと心配してるだろうな、なんて。
あ。なんだろう。今すごくレーゲンの顔がみたいかも。
「ゼクも直香のこと心配だよね?早く探しに行こっか!」
「ああ、いや……」
心配?と再び盛大に首を捻りながら、いつの間にかいつきにグイグイと引っ張られるように足を進めるゼクであった。
* * * * * * * *
(あの長い兎耳シルエットは……)
こちら瑠璃。
どこかで聞こえるパートナーの叫び声に、やれやれあっちか?と幕をかき揚げながら進んでいると、
前方の白い布に小柄な人影が映るのを確認する。
きょろきょろしながら、一歩一歩が遅くどこか寂しげに見えて、瑠璃はついそのシルエットの動きを目で追っていた。
と、その瞬間シルエットがつまづく。考えるよりも早く、瑠璃の足が飛び出す。
「わ、わわ!」
――こっこんな時いつもなら珠樹が頼みもしないのに下敷きにでもなろうとするのに……珠樹のバカ!何でいないんだー!
この間コンマ1秒。寂しんぼ気味の兎さんは思わず理不尽な思考に駆られる。
千亞は地面への衝撃を覚悟し、ギュッと目を瞑った。
が、一向に体への痛みはやってこない。
そろりと瞼を開くと、自分に覆いかぶさる人影。そこに浮かぶ深蒼の瞳と出会った。
「千亞さん、大丈夫ですか?」
「えっ?あ、えーと、瑠璃くん……かな?」
かまくらの中、肩を並べ合ってお鍋を食べた思い出は色恋、もとい色濃い。
鍋友の見分けは言葉と雰囲気からつくようになった千亞は、ホッとするように見上げた。
そして自分の背中の下から腕を引き抜こうとする動きに、千亞は状況をやっと把握する。
「ご、ごめん!もしかして助けてくれたのっ?」
「いえ。たまたま千亞さんの影を発見した所だったので。こんな態勢になってしまいすいません」
「「怪我はない?」ありませんか?」
同時に、互いを気遣う言葉が重なった。
近距離で見つめ合うことしばし。どちらからともなく、クスリと笑みが溢れる。
僕も、自分も、大丈夫、と再び重なる声に笑い合いながら、本当に大丈夫そうだと瑠璃も確認すれば
身を起こし、千亞が立ち上がるのに手を貸して。
(珊瑚がこんなふうに転んでいないといいが……あいつの事は心配だが、先に千亞さんを珠樹さんに無事送り届けたいところ)
「千亞さん、どこかで珠樹さんと待ち合わせなどはしていますか?」
「え?ううん。たまたま立ち寄ったテントだったし……急にはぐれちゃったから」
「ああ。じゃあ自分たちと一緒ですね」
普段寡黙な瑠璃も、千亞には自然と言葉が紡がれる。鍋友の絆、いと深し。
「どこか擦りむいたりもしてないですか?かなり勢いよく押し倒してしまった気がするので……
お怪我されてたら珠樹さんに申し訳ないです」
「ありがとう、本当に平気だよ。瑠璃くん優しいね」
にこっと安心させるように笑う千亞。
瑠璃も安堵の表情を浮かべる。
「したっけ……ごほん、そしたら、テント入口まで戻れば取り敢えず合流しやすいかと、……思ったんですが」
「……真っ白だね」
「はい。清々しい程に、全く方向感覚が分かりませんね」
「テント主さんが言ってたように、頑張って珠樹と珊瑚くん探そう、か」
「そうしましょう」
苦労性&面倒見の良さという点で波長が合うのか。会話もとてもスムーズである。
仲良く幕を押し上げながら歩み出す。
(全く一人でどこへ行ったんだ珊瑚……)
(勝手にいなくなるなよな……珠樹のくせに……)
心の中、寂しさの裏返しもどこか息ぴったりなのであった。
* * * * * * * *
そんな彷徨う兎さんの寂しさを知ってか知らずか、明智の珠樹氏は現在感極まりの真っ最中。
「やだ何かにつまづいちゃったみたい……って、まぁごめんなさいね。お怪我はないかしら?」
「も、もしや貴方は美人ディアボロ女将のジル様!?」
ジルが迷路の残骸に足を取られ倒れ込んだ先には、丁度正面の幕をあげて現れた珠樹がいて。
咄嗟に両手を出して受け止めようとした珠樹ごとジルヴェールは押し倒してしまったことに気付き、申し訳なさそうに顔を覗き込む。
しかして、お相手の表情とセリフにきょとんとする。
「あら、ワタシをご存知なの?それは光栄だわ」
「それはもういつ会えるかと心待ちにしておりました……!
噂ではキモかわいいひよこの着ぐるみをデザインされたとか、往来でデコピンを披露されたとか、ああ!羨ましく拝聴しており……!」
珠樹の情報網、ストーカーに近し。
ジル、瞬時に珠樹という人種を理解。年の功は伊達じゃない。
にっこり笑顔で応えてから、下敷きにしてしまった相手に怪我が無さそうなのを確認して立ち上がろうとする。
も、珠樹を跨いだ状態から力んだ足の下で、自身の着物の裾を踏んでいたことに気づかず。
起き上がった瞬間うっかりよろめいて、盛大に珠樹の体の中心を踏んでしまった。
お腹ですよお腹。ええ決してわざとでなく。
「やだ、ごめんなさいっ」
「あ、ああああ!なんという至福!」
またも目を丸くするジル。ああなるほど、結構そっちの方ねっ。
真面目なチヒロちゃんが見たらどんな反応するかしら、ああ私が絶交でもされちゃうのかしらこの場合……
なんて思考よぎらせながら。
足にかけてしまった重心は浮かせるものの、なんとなく足自体はすぐにどかすことはせず。
「こういうのがお好きなの?ふふふ、可愛い人ねぇ」
「これで鞭があればなお……!」
珠樹、ジルを脳内で一方的に『鞭が似合いそうな精霊NO.1』に崇め奉っていた模様。
今にも夢が叶いそうで、踏まれたまま ふ、ふふふ……!と大変幸せそうである。
そんな珠樹の様子を、面白そうにひとしきり眺めてから、ジルは足をどかしてから珠樹の倒れる傍らに膝を折る。
その顎に指をやり、くいっと持ち上げれば美麗な笑みを向けた。
「それならもう少し……ワタシと楽しんでいかない……?」
「っっっ」
珠樹もはや悶絶のあまり卒倒寸前。
しかし、すぐにその手を離せば笑みを称えたままジルは立ち上がった。
「なーんて、ね。もっとお話していたいけど、そろそろ……ね?」
「ああっ。次は放置プレ……っ」
「貴方も可愛いウサギさんを早く捕まえに行ったほうがいいんじゃないかしら」
『ウサギさん』の単語に、彼方の世界から現実に戻る。
珠樹の瞳に僅かな憂いが宿ったのを見てとれば、ジルも満足そうに手を差し伸べた。
「素直なコは好きよ」
「ジル様のパートナー様は、きっととても素直な方なのでしょうね」
嬉しそうにその手をとって、珠樹もようやく身を起こし地に足をつけ。
では、我々の大好きなコたちを迎えに行きましょうか、なんて足並み揃って前へと進む。
「次は本当に放置した方がいいのかしら?」
「我々の世界ではご褒美です」
真っ白な世界にきりっとした声が響いたとか。
* * * * * * * *
(なんだろう。先生が新たな境地を開拓している気がしてならない……)
順調に絆を深めるウィンクルムは、時として要らない電波もキャッチする。
真面目に真面目にジルの姿を探して歩き回っていた千尋は、よく分からない困惑に襲われ
幕を上げる手を一旦下ろせば休憩の姿勢。
ふぅ、と溜息をついたその時、突如横から衝撃を受けた。
「うわ!?」
「あ!」
誰かに手を掴まれる感覚と、完全に自分の体が倒れこむ感覚に、無意識に目を瞑る千尋。
どさっと倒れたものの、意外と衝撃は弱い。息苦しさというか、何やら体に重みを感じるが。
その数十秒前。
レーゲンも必死にいつきの姿を白い布腰に探っている最中だった。
僅かな人影も見逃すまいと、常に左右へ視線を動かしていたところ、正面への注意が散漫になっていたことに気付いたのは
幕を持ち上げた眼前に、浅葱色の髪が飛び込んできた瞬間だった。
急くあまりかなり足早だったレーゲンの体全体が、その人物に勢いよくぶつかる。
咄嗟にその手を掴み、庇うように抱き込んだが自らもそのまま一緒に倒れてしまったのだった。
「ごめん!大丈夫?怪我してないかい?」
「………は……??」
さらり、と頬へかかる淡い青色の毛先。
体の重みが消えたと思い、両の目を開いた千尋の眼前で、エメラルドグリーンの瞳が心配そうに覗き込んでいた。
状況を理解しようと視覚情報をかき集める。
今、自分は倒れている。
顔の両脇に存在する人の手。
近距離で見つめてくる端正な顔。あ、えーと確かレーゲンさん?宝石の森以来でしょうかご無沙汰シテマス。
おかしいな、近い。すごく近い。あれこの態勢……
「~~~~!?」
千尋サン、無事 事態把握。
慌てて上半身をがばっと起こす千尋に、レーゲンもどうしたのかと驚きの表情を浮かべる。
「あああああなんかすいませんごめんなさい申し訳ありません!!!」
「えっ!いやいやいや落ち着いて。大丈夫だから落ち着いて」
事態は把握したものの、その反動で今度は混乱に見舞われた様子。
どうしてか正座になってひたすら謝ってくる千尋に、思わずつられるように正座でなだめるレーゲン。
今にも土下座しそうな千尋の頭にそっと手をおき、ぽんぽんとあやすレーゲンのそれは、ほぼ条件反射的行動であろう。
いつもそうやって、いつきにしているように。
心地よく頭に響くリズムに、次第に千尋の動悸も収まっていった。
「取り乱してすみませんでした……お怪我はなかったでしょうか?」
「いや。それは私の台詞だよ。本当にごめんね、全然前を見ていなくて……」
千尋の様子から、大きな怪我は無さそうだとそっと安堵しながら、レーゲンは穏やかな笑みを向ける。
その笑みに、まだ驚き過ぎて痛む心臓に片手を当てていた千尋も、いつもの落ち着いた表情を取り戻していった。
「千尋ももしかして、はぐれちゃったクチかな?」
「はい。先生を探していたところでした」
「じゃあ一緒に探そうか」
会話しながら、遠くから聞こえるいつきらしい人物の声をしっかりと耳に拾うレーゲン。
(聞こえる限りでは……ゼクと一緒なのかな?なら取り敢えず一安心)
無事を確認すれば、まずは千尋をジルのところまで連れて行かないと、と精霊としての使命感に駆られる。
(たとえウィンクルムの片割れではなくても、神人は守らないとね)
「じゃあ行こうか」
「……へっ?」
千尋らしからぬ素っ頓狂な声に、レーゲンはハッと気付いた。
「あ!ご、ごめん、ついいつものクセで……」
「……いえ。気にしないで下さい」
無意識に繋いでしまった手を慌てて放すレーゲンの仕草に、小さく微笑む千尋。
先程の床どんに比べたら、心臓も鍛えられているというもの。
日頃の、レーゲンといつきのやり取りを垣間見れたようでどこか微笑ましくも感じた。
(本当に……パートナーさんを大事にされているんだな)
(……やっぱり過保護なのかな?)
やってしまった感いっぱいで反省するレーゲンの横顔を見つめ、ふと千尋はジルの顔が浮かぶ。
恐らく向こうも、自分のことを探しはしているだろう。
心配、もしてはいるかもしれない。
しかしどうしてだろう。どこか楽しそうな先生の顔しか出てこないのは……。
ふ、と遠い目になる千尋。
そんな千尋の思考を知ることもなく、レーゲンは気分を持ち直して明るく会話する。
「大学行きながらA.R.O.Aの仕事もしてるんだ、すごいね」
「やはり学べる時に学びたいと思いますし。でも皆さんも同じですよね。他に仕事持ってる方もいるでしょうし」
「あー……でも私の場合は頼まれ事ばかりで過ごしているというか……」
優しい雑談に花が咲く。
* * * * * * * *
「ちくしょう、一体どうなってんだ!早くここを出て、瑠璃に会いに行くぞ!」
「あれー?瑠璃くん?……じゃなかった、その赤いお目目は珊瑚くん、だね。こんな所で何してるの?」
「あ?直香?」
乱暴に幕を掻き揚げわざと大声を発しながら歩くのは珊瑚。
聞こえたら迎えにこい!とばかりに。
して、瑠璃とは違う声のした方を振り返ると、ひょこっと幕を持ち上げた可憐な顔と出会った。
やしが。(※しかし)
珊瑚は知っている。直香が可憐なだけではない神人だということを。
あの掃除をかけた腕相撲大会にて、ものすごい作戦でゼクを負かしていたのを忘れはしない。
(ゼクがいねぇ、喧嘩でもしたのか?)
と、思うも下手に口にしない方が良いと珊瑚の本能が告げたらしい。
「ん?どうかした?」
「な、なんでもねぇ!」
直香の方はすぐにピンときていた。
この中、何人のウィンクルムがはぐれてるのかなぁ、と。
ほんの僅か、直香が思考に囚われたその足元。いち早く珊瑚が気付く。
「直香!ウカーサン!」
「へ?おかあさん??」
普段瑠璃のスパルタ指導で、仲間相手には標準語を頑張っている珊瑚だがどうしても土壇場で出るのは使い慣れている言葉で。
危ないっ、と注意を促したものの、残念ながら直香には伝わらず。
そうして直後、ぐらっと直香の体が傾いだ。
「りゃっ?」
「!!」
転ぶのを予期した直香だが、この足元の感触なら転んでも怪我はなさそうかなーなんて
呑気に受身を取るつもり満々だった、が。
精霊の反射神経の下、珊瑚は咄嗟に直香の方へ手を伸ばす。
二人が我に返った時には、珊瑚が直香を見事に押し倒した構図の出来上がりであった。
「……知り合いのキミじゃなければ蹴り上げていたところだ」
「だ!わ、わざとじゃねーやっさ!」
(まぁ、庇ってくれた結果のこの態勢なのだろうけれどねー)
アタフタと、何故か顔を赤らめる珊瑚を見上げ、改めて状況を確認する直香。
結論:あ、面白そう。
瞬時に思考を働かせ、慌てて離れようとする珊瑚をくいっと引っ張り引き止める。
「そんな……ゼクにすらされたことないのに……」
「ぬー!?」
突然涙目で訴えかけてきた直香に、四つん這いの格好でビシッと固まった珊瑚。
その両手足は床についた状態。一方直香の両手は自由である。
直香の瞳、キラリ☆
「隙有り!」
「ウワハ!?って!直香!どこ触ってんやさ!ア、アヒャハハハッ!」
直香のくすぐり攻撃が炸裂。
数分後、ぐってりしながら歩く珊瑚と、意気揚々と進む直香の姿があった。
「次があったら『キャー』とか叫ぼう。うん」
「ワンネ……次は無ぇ……っ」
ゼク……お前すげぇ。
珊瑚、ゼクの苦労を肌で感じ取ったようだ。
また同じような事が起きては堪らないとばかりに、直香を足早に追い越すと
その足元の障害物たちをざっかざっかとかき分ける。
(うーん。リアクションが大きくて、ゼクとは違った面白さがあるにゃぁ、彼)
そんな珊瑚の後ろをなんとなくテクテクついて行きながら、楽しそうに見つめる直香であった。
●その絆、引力の如し
「お」
「……」
「ちょっとゼク。愛しい僕に会えたのに無反応ってどういうことー」
そんな棒読みで言われても……、とゼクの顔に書かれている。
ここに、一組目のウィンクルムが無事合流した。
正面の幕からゼクが現れ、あからさまにホッとする珊瑚。
「あ!直香居たー!やったなゼクー♪」と、嬉しそうにゼクの二の腕をぱしっと叩くいつき。
「すまんねいつきくん。ゼクが粗相しなかった?」
「何言ってんだよー。俺とっても楽しかったよ!じゃ、俺このままレーゲン探しに行くなっ」
「おい、いつき。一人で大丈夫か?」
「平気平気―!2人共またなっ」
最後に、珊瑚も今度ゆっくり話そうなー!と手を振って走り去るいつきが、転ばないかしばし見守るゼク。
それに便乗して、「じゃ、じゃあ俺も行く!」とそそくさ消える珊瑚。
二人の姿が白い布の世界に見えなくなってから、直香は改めてゼクを見上げた。
「確かな友情や愛って僕らにあったろうか」
「合流できたなら多少の絆はあるだろ」
「それは初耳」
このテント内に居る限り会えないかもしれない、と心のどこかで思っていた直香は、真顔で顎に手をやる。
そんな言動を一瞥しては肩で息を吐いてから、後はここを出るのみと一直線に歩いていくゼク。
幕を押し上げる必要がないゼクの真後ろに付きながら、直香はその背中へあっさり声をかける。
「ゼク、ホントにいつきくんに失礼なことしなかった?慰謝料はちゃんと支払いたまえよ」
「慰謝料とか言うな。俺は何もしてな……い、からな」
ど真面目なゼクが、僅か言葉に間をあけたのを直香が見逃すはずもなく。
「……言い淀むってことは本当に何かしちゃったの?ゼクにそんな願望が……僕の監督不行届だ。後で押し倒してあげるから」
「何で俺が押し倒される側なんだ。それにお前も珊瑚と二人きりで――」
「うん?なにさ、最後まで言いたまえよ」
(これ何言っても藪蛇じゃねえか)
「いつものことじゃない」
「人の心と勝手に会話するな」
もはや条件反射でツッコミながら、今何言おうとしたんだか俺は……と自らの発言に頭を抱えそうになるゼク。
離れていたのはほんの僅かのはずだが、つい先程までそばにいた珊瑚と見比べて、うんやっぱゼクだな、とか直香は納得している。
ついと、その指にはめられたカラベラリングを直香は見下ろした。
『身につけている者の切ない心とシンクロして涙を流す』という噂を聞いたけれど。
たとえこの中で再会出来なかったとしても、自分は笑って出口へ向かうのだろう。
このドクロの瞳から涙が流れることなんてありはしないのに、と胸の内で笑みを浮かべ。
何事もなかったように、今はしっかりと視界に映るパートナーと共に白い世界から脱出するのだった。
* * * * * * * *
あ、レーゲン発見。
幕を上げた先で、同じように幕が持ち上げられてちょうどトンネルのように繋がって、いつきはレーゲンの後ろ姿を見つけ瞳を輝かせる。
いつき、何だか久しぶりな気持ちがこみ上げて、勢いよくその背中へタックルもとい抱きついた。
「レーゲン!」
「ごふっ」
「あ。いつきさん」
突然の衝撃に前のめりにつまづいたもののしっかりと耐えて、その声と温もりにレーゲンは自然と笑顔で振り返った。
「いつき、無事で良かった」
「当然じゃん!俺子供じゃないぞ」
「いつきさん、こんにちは」
「こんにちは!千尋がレーゲンと一緒だったんだなー。俺はさっきゼクと直香に会ったよ!」
うん知ってるよ、何で知ってんの!?、なんてやり取りを微笑ましく千尋は見つめ。
「なら俺はこれで。レーゲンさん、ご一緒してくださってありがとうございました」
「え?そんな、このまま一緒にジルを探そうよ?」
「そうだよ千尋!俺も手伝うしっ」
慌てるように千尋へ言葉を向けるレーゲンといつき。
控えめに首を振って。
「またいつ何が起きるか分からないですし、出会えたお2人は早くこのテントを抜けた方がいいと思います。
大丈夫ですよ、俺たちもウィンクルムですから。きっとすぐ合流出来ます」
たぶん……、という言葉は飲み込まれたようだ。
笑顔で白い幕の奥へと消えていく千尋を、申し訳なさそうに、気をつけてなー!と両手を振って、二人は見送る。
そうして、どちらからともなく顔を見合わせた。
「ただいま」
「おかえり」
へへっ、と照れくさそうにいつきは笑う。
ずっとそう言いたい気分だったいつきの言葉を、当然のようにレーゲンは受け止めて。
その手が定位置へと動く。
しかしいつきの温もりに触れたところで、ハッと何かに気付いて触れるだけのまま留まってしまった。
(過保護、なのだろうか……)
千尋にやらかしたことが脳裏に過ぎり、自問自答で動けなくなってしまうレーゲンの代わりに
いつきがその触れられた手をきゅっと握り返した。
レーゲンは少し驚いた表情をいつきに向ける。
「べ、別におかしいことじゃないだろ。ほらっ、これならもうはぐれないし!」
「うん。じゃあ行こうか」
照れくさくて、自分が繋ぎたいんだ、なんて口には出来なかったけれど。自分の想いはもう知られてるし。
いつきは赤みがさした頬を見られないように、ぐいぐいとレーゲンを引いていく。
――俺どんどん我儘になってるのかな?受け入れてくれて、もう充分なはずなのに。
相棒だと言い聞かせていた時より、もっともっとレーゲンと一緒にいたいと思うようになってるなんて。
両思いになっても、すぐには拭えない不安を抱えるいつきだが、今振り返ればそんな不安もどこかへいったかもしれない。
いつきから力強く手を繋いでもらえて、破顔したレーゲンの顔があったのだから。
* * * * * * * *
「あぁ、無事でよかったです」
「チヒロちゃんが男前な台詞を」
「ジル様のパートナー様ですね!お会い出来て光栄の至り……!」
レーゲンたちと別れて程なく、千尋は自身のパートナーであるジルを見つけることが出来た。
嬉しそうにやや失礼なことを述べるジルを、やや疲弊の顔で見てから、その隣りに立っていた珠樹へと千尋は一礼した。
「暁 千尋です。ジル先生がお世話になったようで」
「明智珠樹と申します。いえ、私の方がそれはもう大変お世話になりました、ふふっ」
礼儀正しく頭垂れる珠樹に、『紳士で格好良い人だなぁ』と思う千尋による第一印象。その印象が覆る日は次に会う任務時だろうか。
ジルが千尋へ歩み寄ったのを見れば、珠樹は目を細め一歩後ろへと下がる。
「ジル様、千尋さん、また任務時にお会いしたらば是非よろしくお願い致しますね。次は私のカワイコちゃんをご紹介させて頂きますので」
「探すのお手伝いしましょうか?」
「それには及びません。これも私に課せられた愛の試練ですので!」
あれ?真面目そうな好青…年?
早くも千尋の第一印象にクエスチョンマークが付いたようだ。
「チヒロちゃん、こういう時はお言葉に甘えましょう。馬に蹴られちゃうわよ?」
「え、馬……?」
「ふふふ……では、お二人がご無事に出口までたどり着けますことをお祈りしております」
マントを翻し、珠樹、華麗に去っていった。
ぽかんと見送っている千尋の顔を、ひょいとジルは覗き込む。
「あら疲れた顔してるわねぇ。私が離れちゃってる間、何かあったのかしら?」
「いえ、大したことはないですが、ちょっと動悸が……」
「そう?心なしか顔も赤いし、恋でもしちゃったのかしら?」
「こっ……それはないと思います」
確かにレーゲンさんは素敵な方でしたが、とぼんやり思い出す千尋の様子に、
誰かと一緒だったであろうことは読み取るジル。
「そうだとしたら、ちょっと妬けちゃうわねぇ」
「はぁ……そちらはなんだか楽しそうですけど、なにかあったのですか?」
千尋、見事に妬けちゃう云々はスルーし、逆にジルの上機嫌ぶりに問いかけた。
意味深ににっこりと微笑むジル。
「なかなか素敵な邂逅だったわよ。ふふふ、今度鞭とハイヒールでも買ってこようかしら……」
「先生は一体どこへ向かってるんですか……」
ただでさえ、昔の面影どこへいったのか状態であるのに。
またも自分が知らぬ間に先生の身に何が起きたのだろうかと、頭を悩ませる千尋の姿があるのだった。
* * * * * * * *
「……瑠璃くん、あれってマントの影だと思う……?」
「はい?……ああ、マントじゃないですかね」
千亞が指を差し、瑠璃が肯定の声を発したところで、マントなる人物・珠樹が幕を押し上げ現れた。
千亞を視界に捉えた瞬間、満面の笑顔となる。
「千亞さん、ご無事ですか?お怪我はありませんか?ってあああ!なんと、瑠璃さんがご一緒して下さっていましたか!」
「こんにちは、珠樹さん。お久しぶりです」
「な、何してたんだよ」
珠樹と会えて盛大にホッとする心を隠し、千亞は頬をプクーッと膨らませる。
再会のご褒美かと言わんばかりに鼻を抑え悶え出す珠樹に、瑠璃くんの前でまで変態晒すな!と飛び蹴りが入る。
全く動じない瑠璃。会話が一段落するのを待ってから。
「では、自分はこれで」
「あ!珊瑚くんのこと一緒に探すよっ?」
「いえ。結構声が聞こえてきてるので、すぐ見つかると思いますから」
言われて、そういえばと長い耳をぴょこぴょこ動かしてみる千亞。
『る~~~り~~~!』
あ。本当だ。珊瑚くんの声だ。
どうして今まで気付かなかったんだろう……僕、そんなに珠樹のことばっか、考えて……?
そんな思考に行き着きそうになったのを、首をぶんぶんと振ってとっぱらおうとしてから。
「瑠璃くんが居てくれて心強かったよ。本当にありがとう」
「私からもお礼を言わせて下さい。ありがとうございます、瑠璃さん」
「こういう時はお互い様ですから。では、またそのうち任務で……」
千亞と珠樹、並んで瑠璃の後ろ姿を見送った。
「さて千亞さん。出口を目指しましょうか」
「うん、そうだね」
「ちなみに、私はとっても素敵な体験をしたのですが、千亞さんは何事かありませんでしたか?」
「え?別になにも……ああ、瑠璃くんが押し倒して助けてくれた、かな」
「千亞さん、 も う 一 度 言 っ て 下 さ い 」
あれ、僕何か使う言葉間違ったような……と思ったのも束の間。
珠樹が間髪入れず言葉を被せてきて、一瞬呆気にとられる。
「えーと。言い方間違っちゃった……。だから、瑠璃くんが転びそうになった僕を、」
「……ちょっと私にも押し倒させてください……!」
「ちょ、何すんだド変態!」
ぐいぐい。珠樹、かなり本気。
自分の両肩に手を置き迫ってくる珠樹に、一気に心拍数が上がり千亞の顔が赤面していく。
あ、あれっ……瑠璃くんの時はこんなことなかったのに……と困惑すれば、堪らず二度目のウサギキック!
ぐふっと嬉しそうな顔で仰向けに倒れる珠樹。
「しかし瑠璃さん、紳士ですね。私だったらそのまま千亞さんに色々……ふふ」
「瑠璃くんを珠樹と一緒にするな!」
「そう!聞いてくださいよ千亞さん!憧れのジル様にお会いしたんですよ!」
「は?憧れ……?」
仰向け状態で思い出した珠樹、興奮気味に一部始終包み隠さずジルとの邂逅を語った。
傍から聞いていた千亞には、とんだプレイにしか聞こえず。
楽しそうな表情でジルのことを話す珠樹の様子に、嫉妬云々よりご迷惑かけてないか、という心配の方が勝ったようで。
(菓子折り持って今度謝りに行こ……)
「ああっ、今日の良き日を早速千亞さんとの愛の日記にしたためねば……!」
「おい。交換日記、だぞ!?そういうことに使うなっ」
「しかし、忘れないように、と言って下さったのは千亞さんです」
「そ……そうだけ、ど……っ」
「私にとって千亞さんがご一緒して下さった日は、全て一字一句形として記憶しておきたいことですから」
――ず、ずるいぞ……そんな急に穏やかな顔で言うなんて……。
千亞の口から、それ以上反対する言葉は出されることはなかった。
* * * * * * * *
「瑠璃!」
「珊瑚」
お互いの姿を見つけたのも、その名を呼んだのも同時。その顔にはそれぞれ違った色を浮かべていたが。
真顔で近づく瑠璃。
どこか怒ったような表情で駆けてくる珊瑚。
「ど!どこほっつき歩いてたー!!」
「それはこっちの台詞だべ」
今にも瑠璃の胸ぐら掴みそうな勢いで詰め寄ってくる珊瑚を、一向に気にすることなく、
瑠璃は真剣な表情のままその両肩や背中にぺたぺたと触れた。
「ななな、なんやっさ!?」
「珊瑚、怪我はないか?」
「えっ?あ、ああ」
瑠璃の、自分を心配しての言動を受けてようやく珊瑚は落ち着きをみせる。
「転んだのは直香の方だったしな。俺は庇おうとして、一緒に倒れちまっただけ」
「直香と一緒だったのか。……一緒に、倒れた?」
「そう!聞けよ瑠璃っ。直香のやつ、人のことくすぐりゃーって!」
「……平気だったのか?」
「あ??」
不思議そうな瞳を向けてくる珊瑚に、少し言いにくそうに、まだ心配げな瞳のまま瑠璃は話す。
「その、パニックになってたのではと……」
人に触られるのは苦手と以前に聞いてから、瑠璃自身も珊瑚に触れる際は慎重にタイミングを選んでいた。
心の傷にうっかり触れて、痛がらせないように。
瑠璃のそんな見えない優しさにずっと守られていたためだろうか。
瑠璃の言葉を受け、思い返す。
直香に触られた時、特に体が震えたり違和感を感じなかったことを、珊瑚は改めて気付いた。
(瑠璃が俺のこと気にすんの、悪い気はしねーな)
ずっと自分を見つめてくる瑠璃の視線が、珊瑚を無意識に上機嫌にさせる。
そうだ。もっと、俺が居ること意識すればいい。
もう二度と、俺がいない過去に囚われてどこかへ行きそうになんてならないくらいに。
にかっと珊瑚は笑って見せた。
「オレの事は気にすんな。まっ、触られるのは瑠璃で十分だけどな!」
「それはどういう……」
「さー!とっととこんな所出るぜ!!」
急に機嫌良くなったように見える珊瑚に、瑠璃は何度か目を瞬かせた後
自然と微笑を浮かべ、その隣りへと歩み寄るのだった。
●
仲間との楽しい会話。
思いがけず湧く想い。
再び出会えた喜び。
ウィンクルムたちが持つ幸せのランプに、ほっこりほっこり、灯りが揺らめいていた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:信城いつき 呼び名:いつき |
名前:レーゲン 呼び名:レーゲン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼色クレヨン |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | EX |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,500ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月08日 |
出発日 | 03月15日 00:00 |
予定納品日 | 03月25日 |
参加者
会議室
-
2015/03/14-23:52
こちらもプラン出しました。
千亞さんを押し倒すのも、直香を押し倒すのも(背後)は緊張していたようです。
それでは当日はよろしくお願いします。 -
2015/03/14-23:49
-
2015/03/14-23:44
-
2015/03/14-21:52
こんばんは、千亞だよ。ひとまずプラン提出完了!
瑠璃くんに押し倒される僕、
ジルさんに押し倒される珠樹、で書かせてもらったよ。
お二方ともよろしくお願いします…っていうのもなんだか変な話だね(苦笑)
本当に本当に本当に、しっかりお話ししてみたい方ばかり!でっ。
皆さんの様子も楽しみにしてるね! -
2015/03/14-21:49
-
2015/03/14-18:47
レーゲン:
じゃあ、私はなんとなく押し倒す方で(笑顔)
どちらでも大丈夫だけど、やっぱり決めてた方が動きやすいよね。
こちらも仮プランは提出済み。
何か希望あれば対応はできるよ。 -
2015/03/14-15:07
とりあえず仮プラン提出してきました。
が、どちらが押し倒すか決めてなかったなぁと。なんとなく押し倒される方向で書いてましたが。
どちらでもいけるようなプランですので、レーゲンさんのご希望があれば、そちらに沿うように調整します。
ちなみに先生の方は珠樹さんを押し倒す&踏みつける方向です←
不都合やご希望がありましたら、こちらも調整可能なのでお気軽に仰ってください。
あぁ、それから一方的に知っていたという設定は大丈夫だと思いますよ。
ジル:「それはそれで、なんだか気恥ずかしいけれど・・・光栄だわ」
だそうです。 -
2015/03/14-14:08
珊瑚:
ぐっ……!わ、わんね(オレは)、おっ、押し倒す!
いいか?でーじなぐとぅ(大事なこと)やさから、二回言うやさ!直香を押し倒すっ!
(※押し倒したら、セクハラされないと思い込んでいる)
瑠璃:
おだつな(調子に乗るな)、珊瑚。
したっけ(そしたら)、自分は千亞さんを押し倒します……。
何というわけではありませんが、千亞さんは細身のようですので、
人混みの布越し激突や怪我から、庇わなければならないと思いました。
後々、珠樹さんに泣かれてしまっても困りますから。 -
2015/03/14-01:26
>ゼク
うん、大丈夫だよ。
俺が押し倒そうとしてもはじき飛ばされる図しか思いつかない……
他の精霊と二人って、めったに無いから色々話しかけそう(わくわく)
うるさくならないようには注意するから、どうぞよろしくね。 -
2015/03/14-00:14
ゼク:
俺はいつきとのペアになるか。すまんが、よろしく頼むな。
そして、その……俺が押し倒す側、でいいのだろうか。
無論、状況に気づき次第すぐに離れるつもりではいるが。 -
2015/03/14-00:13
ふふふ……僕はやる時はやる男ですよ。
珊瑚くんは押し倒すのと、押し倒されるの、どっちがお好みかにゃ?
希望なければ僕、乗っかっちゃうぞー。 -
2015/03/13-02:10
(直香が本音でセクハラする訳ではない(と考えている)為、暫し珊瑚を見て頷く)
……そうですね、よろしくお願いします。
珊瑚:
ちょ、瑠璃!待たに!直香こそ、おま……何やっさ!セクハラって!
瑠璃:
大丈夫だ、言葉のあや だと思う。察してくれ。
珊瑚:
(あぎじゃー……)(※なんてこった)
瑠璃:
サンドイッチ(意味深)は……機会があれば検討します。
(※依頼でいつか、そういった話があると思っている為)。
千亞さんは、お鍋の時はご一緒ありがとうございました。
こちらも押し倒す倒されるは、今のところ希望はありません。改めてよろしくお願いします。
-
2015/03/12-08:43
【千亞】
珠樹、長いよ馬鹿。
それでは、瑠璃さんよろしくお願いいたします(ペコリ)
する側、される側ご希望あったら言ってね。GM様にお任せも楽しそう、とも思いつつっ。
最近も顔を会わせているけど、ゆっくり話せそうるのは白の世界でお鍋一緒につついた以来、かな?
今回もよろしくね!(にっこり)
-
2015/03/12-08:40
おはようございます、明智珠樹です。
それでは無事にペア決定ですね、ふふ…!!
ジルヴェールさん、よろしくお願いいたします(頬を染め)
押し倒されたり踏まれたり鞭で打たれたりしたいです、先生…!!
一応「はじめまして」状態ですが
「もしかして、美人オネエウィンクルムのジルさん!?」なぞ一方的に知ってた設定でも
良いものでしょうか、ドキドキ。
いやしかし、考えたらパーピンしてるのに
いつきさん&レーゲンさんもしっかりがっつり絡んだことないですよねぇ。
いつきさんを押し倒してみたいし、レーゲンさんに押し倒されてみたいし
直香さんを押し倒してみたいし、ゼクさんに組み伏せられたいし
瑠璃さん珊瑚さんにはサンドイッチされてみたいし
千尋さんは押し倒してみたいし、ジルさんを押し倒すのもそれはそれでアリだし……
はっはっは、幸せ妄想が朝から広がりますね!ふふ、ふふふふふ…!! -
2015/03/12-01:48
クキザキ・タダカにゼク=ファルだー。
よろしくどーぞ?
僕のところも誰を押し倒したり押し倒されたりしてもオッケーなので
いつきくんがまとめてくれた組み合わせでいい感じかな。
僕は珊瑚くんにセクハラすればいいんだね! -
2015/03/11-21:42
こんばんは、精霊のジルヴェールとパートナーのチヒロちゃんよ
皆さんよろしくね
珠樹さん、熱烈なラブコールありがとう
もちろん喜んでお受けするわ
ふふ、それで私は押し倒せばいいのかしら?それとも踏めばいいのかしら?
チヒロちゃんの方はいつでも交代OKよ
魅力的な方ばかりだから、どなたとご一緒しても楽しみだわ -
2015/03/11-20:27
同じく、こんばんは。最後の一枠で参加させていただきました瑪瑙瑠璃と
珊瑚:
ポブルスの珊瑚やっさ。ゆたしくー!
瑠璃:
いつきと直香は久しぶりですね、珠樹さんと千尋さんは今回もよろしくお願いします。
(PL:神人または精霊の交代は、こちらも随時OKでございます。
瑠璃珊瑚に関しては、お話しても、不可抗力でひっぱたいても、
のしかかっても大丈夫なのでお気軽にお申しつけください!) -
2015/03/11-20:23
こんにちは、千亞だよ。皆さんよろしくお願いいたします(ぺこり)
……なんか、珠樹の背後霊が『うわぁ元々ジルさんデハナイデスカ!!アァ恥ズカシイ!!』
って悶えてるようだよ…(遠い目)
いつきくん、レーゲンさん、まとめてくれてありがとう!!(ぺこり)
あ、むしろジルさん『変態&オッチョコチョイお断り』でチェンジしてくれても構わないですからねっ。
明智「チェンジされたとしてもドM的には美味しいです、ふふ…!!」
珠樹は丸太にでも床ドンされてるといいよ。
しかし本当に、皆ゆっくりお話してみたいメンバーだよ。
僕も珠樹もなんでもウェルカムだから、何かあったら教えてねー! -
2015/03/11-18:24
レーゲン:
私の方も希望があれば対応するよ。
誰と一緒になっても色々話してみたくてワクワクしてるよ。
ただ、いつものクセで(危ないからと、いつきの手を引っ張ろうとして)つい手を握ってしまうかもしれない。
気づいたらすぐ手を離すけど……ごめん、相手になる人には先に謝っておくね。 -
2015/03/11-18:16
こんばんわ!信城いつきと相棒のレーゲンだよ、今回もよろしく!
えーと、とりあえずGM様の案だとこのようになるのかな?
:1の神人&2の精霊(いつき&ゼク)
:2の神人&3の精霊(直香&珊瑚)
:3の神人&4の精霊(瑠璃&千亞)
:4の神人&5の精霊(珠樹&ジル)
:5の神人&1の精霊(千尋&レーゲン)
これだと珠樹とジル、表を崩してないから大丈夫じゃないかな?
(もしかして俺の方と並び順違うのかな?もし違ってたら教えてね)
ちなみに俺は変更希望OKだよ(出来ることならみんな一人一人話したいくらい!)
特に希望が無い場合は、上記の内容でプラン書く予定。 -
2015/03/11-09:18
おはようございます、明智珠樹です。
パートナーは兎テイルスの千亞さんです。皆様どうぞよろしくお願いいたします、ふふ…!
皆様顔なじみ!だと思っていたら、千尋さんとジルヴェールさんは初めまして!なのですよね。意外です。
そ、それでですね(もじもじ)
もし、もしも許可が得られるならば…
私、ジルヴェールさんに床ドンしたりされたりしてみたいのですが…(もじもじ)
千亞
「恥じらうな珠樹気持ち悪い(蹴り)
GM様の表を崩すことになっちゃうし、ジルヴェールさんの意志もあるし…
気軽に断ってくださって問題ないですからっ。
ちなみに僕はどなたでも歓迎です(ぺこ)」
気が向いたら、レヴェルでお願いいたします、ふふ…!
-
2015/03/11-09:12