絢爛のチョコ☆フェスタ(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●チョコレートフェスタ、再び!
「チョコレートは好きか?」
 唐突で、端的にすぎる問い。貴方の困惑に気付いて、A.R.O.A.職員の男は首の後ろをがりがりと掻くと、慎重に選び選び言葉を重ねていく。
「あーっと……タブロス市内のとある通りで、もうじきチョコレートフェスタという催しがあるんだ。通り中にチョコレート菓子専門の露店が幾らも並んで、趣向を凝らした様々のチョコレートが、その日一日だけ通りを煌びやかに彩る」
 例年はバレンタインの時期に行われるその祭りは、バレンタイン地方での騒ぎを受けて今年はあわや中止かと思われた。けれど、ウィンクルムたちの活躍によって、来たるホワイトデーに合わせての開催が無事に決まったのだという。
「露店には本当に様々のチョコレートが並んでいるから、気に入ったものを食べ歩いて回るだけでも楽しい時間になるだろう」
 ふわりと爽やかに香る上品な柚子風味の生チョコに、シナモンや胡椒に生姜等を効かせたスパイシーなショコラショー。ほろ苦い大人のカフェ・トリュフに、ナッツたっぷりのずっしりブラウニー。濃厚なチョコレートのジェラートも気になるし、ミントリキュールで爽やかに仕上げたふんわりチョコレートムースも捨て難い。昨年注目度の高かったチョコレート専門店『フルール』の幸せを呼ぶボンボン・ショコラ『しあわせの欠片』も、その人気に応えて今年も露店に並ぶらしい。ちなみにボンボン・ショコラとは、中に詰め物をした一口サイズのチョコレートのこと。
「『しあわせの欠片』は、色も形も様々で、全く同じものは一つとないと話に聞くな。贈り物にもちょうどいいかもしれない。勿論、他のチョコレートたちも大切な人にプレゼントするのに不足のない、ショコラティエ達の特別の一品だ」
 ギルティ騒ぎでバレンタインのチョコレートをパートナーに渡し損ねた者もいるかもしれないし、バレンタインのお返しを考えている者もいるかもしれない。少し遅れたバレンタインやホワイトデーの贈り物を見繕うのはきっと素敵に甘い時間になるだろうし、パートナーと2人で祭りを楽しむのも良い思い出になるはずだ。
「というわけで、一日限りのチョコレートの祭典、興味のある者はパートナーと2人で覗いてみるといい」
 そう締め括って、男は厳つい顔に優しい笑みを乗せた。

解説

●チョコレートフェスタについて
首都タブロスのとある通りで催される、年に一度のチョコレートの祭典。
簡単な飲食スペースも用意されていますので、座ってチョコレートを堪能することも可能です。
昨年のチョコレートフェスタの様子は『【バレンタイン】魅惑のチョコ☆フェスタ』に詳しいですが、ご参照いただかなくとも今年のチョコレートフェスタをお楽しみいただくのに支障はございません。

●露店について
プロローグにあるようなチョコレートが揃っています。
また、昨年のチョコレートフェスタで扱っていたチョコレートもございます。
そちらもチェックしたい! という場合は、前述のエピソードをご参照願えればと思います。
パートナーに、購入したチョコレートを渡すのを試みることも可能です。
購入したチョコレートのアイテム発行はできません。予めご了承ください。

●『しあわせの欠片』について
チョコレート専門店『フルール』が提供する人気の一品。
昨年のチョコレートフェスタにも出品されております。
味や形、色などをプランでご指定いただけますと、可能な限りリザルトに反映いたします。
プランに記載がない場合はこちらでチョコを選ばせていただきますので、避けてほしい味や形がある場合はその旨記載願えますと幸いです。

●消費ジェールについて
チョコレートフェスタ満喫代として一律300ジェール消費とさせていただきます。
加えまして、神人さんから精霊さんへ、精霊さんから神人さんへのチョコレートのプレゼントは、1点につき50ジェール消費となりますのでご注意くださいませ。
300ジェール+プレゼント代(一品につき50ジェール)が本エピソードでの消費ジェールです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなりますのでお気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

甘ーいチョコレートのお祭り再びです! 1年ぶり!
今年もチョコレートフェスタのエピソードをお届けできること、嬉しく、とても感慨深いです……!
昨年のフェスタの様子は『【バレンタイン】魅惑のチョコ☆フェスタ』にてご確認いただけますが、勿論本プロローグのみご確認いただけましたらこのエピソードを楽しんでいただくのに支障はございません。
チョコレートを渡したり渡されたりも、2人で楽しく甘い露店を巡るのも、若しくはその他の楽しみ方も、いずれのプランも大歓迎です!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  チョコフェスタ……懐かしいな
さて、今年は何か珍しいもんはあるかね?

相変わらずのテンションの相方に釘を刺すのを忘れずに
ったく、相変わらずだな……って何だその手は
いや確かにはぐれたら大変だが……仕方ねえな

色々見て回ってたら突然駆け出して
忙しねえなほんとに。なんだよ幸せって
……帰って、くるよな。
ああくそ、余計なこと考えるだろうが

遠くから駆けてくる姿を目にして、
認めたくないが安心して
はぐれないようにって言っといて別行動かよお前……ん?
俺にか、これ?
……あぁ、「しあわせの欠片」。そういうこと、か

変わってないようで、少しずつ。
あの時から何かが動き始めた気がする
―きっと、いい変化だと信じて。
ありがと、な


羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  早速甘い匂いがしているね。今年も二人で参加出来て嬉しいな
…じゃあ、お言葉に甘えて(躊躇いがちに手を取り

今日はラセルタさんの気になるお店を巡りたいと提案
去年は俺の用事に付き合ってくれたでしょう?
出店しているお店は覚えてきたから、道案内は任せてね
(今の俺は自分の事ばかりで、貴方の事を真っ直ぐ見れていない気がするから

…ええと、何だか俺ばっかりに食べさせてない?(首傾げ
じゃあ、次に出すご褒美は頑張るから楽しみにしててほしいな(ふふ

夕暮れ時に段々はけていく人並み見つめ
(もう手を繋ぐ必要は無いけれど…何だか離し難いな
ねえ、流石にもう迷わないから大丈夫だよ?
!…ラセルタさんの所為だろうね、間違いなく(赤面


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  確かウィンクルムになって初めて出かけ先だったね
もう迷子にならないでよ

あ…『フルール』か
同じ味と形が一つとしてないって評判だから、出会えるか分からないけど、並ぶ?
(一瞬…僕があげたのかと思った。いやどっちつかずで渡したんだ。切り替えないと)依頼57
本当食べ物に目が無いね。わかった

タイガ喜ぶかな変り種がいいか
ショコラショーやジェラートも面白い
でも一緒に回りたかった、と行きかう人を見


遅い…溶けちゃうよ
!ありがとう…これフルールの?

っ…再現できてよかった(小声
美味しいよ(美味しくて。嬉しい。気付いてたのは驚いたけど頑張ってよかった。マーサさんやメイドにも感謝しないと)
帰りは手を繋いでいい? と勇気だし



アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
  甘い匂いと雰囲気に楽しそうに辺りをきょろきょろ
はぐれないように軽く精霊の背中を掴む

これだけチョコレートが集まってくると壮観だなあ
あ、あれがしあわせの欠片だって

たくさんの形・味に悩みながら
楽しそうにチョコレートを眺める
こっちは猫だ。小鳥の形もある
四角もいろんな柄があるし中身もいろいろか

蕾の形に薔薇の香るガナッシュと
正方形にハート型の板チョコを乗せた
オレンジ風味ガナッシュの二つを選び
プレゼント包装してもらう

飲食スペースで改めて精霊に贈る
俺、クレミーの事が好きだよ

え?単なる好意と恋愛感情の区別?
触れたいと思うかとか
幸せを祈れるかどうかとかかなあ
俺は祈れないな
俺が幸せにしたいし、一緒に幸せでいたいから



芹澤 奏(ラム・レイガード)
  ●心
(連れて来られ)
チョコ祭っスか。ラムさん、チョコマジ好きなんスね。
いや、俺も食べるっスけど、ラムさんほどじゃねぇス

●動
ラムさんの行きたいところ優先でっいいスよ。
(ラムに連れまわされるも)
ホント、色んなチョコあるんスねー
(興味深く)
あ、濃厚チョコジェラート食べたいっス。

あー、やっぱ普段食べるのとはコクが違うっスね。
ラムさんも食べてみるといいっスよ(ジェラート渡し)
あ、ケーキくれるんスか。あーん、は嫌っス。
(結局フォーク借り)

●贈
人気店のなのに俺にもくれるんスか?
ラムさん、ありがとっス。
はい、俺も早いけどお返しっス。
なんか、ラムって書いてあったんで。あげるっス。
(ラム酒入りボンボン)



●時巡る音は心地良く
「チョコフェスタ! 秀様と初めてお出かけした思い出の場所です!!」
 今年はどうなることかと思いましたが無事開催できたんですね! と、昨年と変わらぬ賑わいを見せる通りの様子に、イグニス=アルデバランは青の瞳をきらきらさせる。
「イグニス、はしゃぎすぎるなよ。それにしても……懐かしいな」
 今にも通りへと駆け出してしまいそうなイグニスへと釘を刺すことは忘れずに、初瀬=秀は色付き眼鏡の奥の銀の瞳をそっと細めた。
「さて、今年は何か珍しいもんはあるかね?」
「どんなチョコがあるでしょうね、楽しみです!」
「ったく、相変わらずだな……って何だその手は」
 子供のように顔を輝かせているイグニスの言葉に苦笑いを漏らした秀、ふと、こちらへと彼の手が差し出されていることに気付く。問いに、イグニスはきりりとその表情を引き締めた。
「エスコートです! はぐれたら大変ですからね!」
「エスコートってお前……いや確かにはぐれたら大変だが」
 真面目な顔のイグニスを見て、人に溢れた通りを見て。秀はため息一つ、パートナーの手を取る。
「……仕方ねえな」
 手に手の温もりが触れれば、イグニスはその顔をぱああと明るくした。
「行くぞ、イグニス」
「はい! しっかりばっちりエスコートします! ……あ、あのチョコレート美味しそう……!」
「って、エスコートはどうした、エスコートは」
「はっ、そうでした!」
 なんて会話を交わしつつ、2人は手に手を携えたまま、様々の甘い露店を見て回る。と、ふとイグニスは、その青の視線の端にある物を捉えて、はっと目を見開いた。
(あのお店は……!)
 見つけたら、もう居ても立ってもいられなくて。不意に繋いだ手を自分から離したイグニスに、秀が怪訝な声を投げる。
「イグニス?」
「秀様! ちょっと私あの、そう、幸せを探しに行きますので!」
「何? 幸せ? 一体どういう……」
「あの、ここで待ってて下さいね! 絶対ですよ!」
 言いたいだけ言って、イグニスは目当ての店へと急ぎ駆け出した。見つけたのは『フルール』の露店。目指すのは、昨年、秀が自分へと贈ってくれたボンボン・ショコラだ。
「えっと……このカップの形のを一つ下さい!」
 少し並んで、買い求めたのは『しあわせの欠片』。コーヒー香るチョコレートの中には、レモンのジュレが詰まっているのだという。チョコレートの小箱を宝物のように大事に抱えて、イグニスは秀の元へと駆け出した。

「……忙しねえなほんとに。なんだよ幸せって」
 一方、急に通りに置いてきぼりを食らった秀は、人混みに消えた姿を追うように目を眇めて、ぽつりと零した。雑踏の中に、返る言葉はない。ぶわり、頭に過ぎるのは。
(……帰って、くるよな)
 湧いた苦い想いを振り払うように、秀は首の後ろをがしがしと掻いた。
「ああくそ、余計なこと考えるだろうが」
 通りの賑わいに吸い込まれるようにして消える、声。どうにも落ち着かぬままに視線を彼の消えた方へと向ければ、見慣れた金色が、風にふわりと揺れた。
「秀様!」
 こちらの気も知らないで、満面の笑みで彼が駆けてくる。
(認めたくないが……)
 胸に満ちたのは確かに安堵の色だと、秀は自覚し息を吐いた。
「お待たせしました!」
 息を切らして、イグニスが秀へと笑い掛ける。その胸を、秀は軽く小突いた。
「はぐれないようにって言っといて別行動かよお前……ん?」
「あ、そうですこれ! はいどうぞ!」
 ふと目に留まった小箱は、真っ直ぐに秀へと差し出されて。
「……俺にか、これ?」
「はい! 去年頂いたチョコがとてもおいしかったので。今年は私から、プレゼントです!」
「……あぁ、『しあわせの欠片』。そういうこと、か」
 小箱を受け取って、秀は自然とその目元を柔らかくした。
(変わってないようで、少しずつ)
 あの時から何かが動き始めた気がすると、秀は思う。それはきっと、いい変化だと信じるに値するもので。
「ありがと、な」
 言葉零せば、イグニスはふにゃりと笑み崩れた。

●『好き』のカタチ
「これだけチョコレートが集まってくると壮観だなあ」
 通りに満ちるのは、チョコレートの甘い香り。心なしか通りの雰囲気もふわりと甘いもののように感じられて、アレクサンドル・リシャールは緋色の瞳を輝かせ、きょろきょろと視線を巡らせた。人の波に流されてしまわぬよう、パートナーの背中の辺りをきゅっと掴む。クレメンス・ヴァイスが振り返った。
「アレクス?」
「はぐれたらいけないだろ?」
「まあ……それはそうやね。困るわ」
 人混みは得意でないクレメンスである。背に触れる指の温かいのを少し嬉しく、頼もしく感じて、クレメンスはフードの奥でその口元を仄か和らげた。
「あ、あれが『しあわせの欠片』だって」
 アレクサンドルが、『フルール』の露店を見つけ、2人は『しあわせの欠片』探しへ。沢山の形と数限りない味わいの組み合わせに悩みながらも、チョコレートを眺めるアレクサンドルの表情は明るくて。
「こっちは猫だ。小鳥の形もある。四角もいろんな柄があるし中身もいろいろか」
「人生をチョコレートの箱に譬えた小説もあるけど、確かにこう見たら様々やねぇ」
 楽しそうに声を弾ませるアレクサンドルの隣で、クレメンスも感心しきり。とりどりのチョコレートに目を走らせて、アレクサンドルは結局蕾の形のチョコレートと、正方形にハートを飾ったものを選び出した。中身はそれぞれ、薔薇香るガナッシュとオレンジ風味のガナッシュだ。それを、プレゼント用に包装してもらう。
「クレミーは? 何か買わないのか?」
「あたしは……ええと、そうやねぇ」
 目に留まり、心を惹かれたのは小鳥を模った愛らしいチョコレート。赤いラズベリーのガナッシュを内に抱いたそれを、購入する。クレメンスは何も言わなかったが、連れがプレゼント包装を頼んだからだろうか、クレメンスの分の小箱にもリボンが掛けられて。
「それじゃあ、移動するか」
「せやね。ずっとここにおったら参ってまうわ」
 『フルール』周辺は殊更に人が多い。小さく息を吐いたクレメンスの背に再び柔らかく触れて、アレクサンドルは少し疲れた顔のパートナーを飲食スペースまで誘った。

「クレミー、これ」
 飲食スペースにて。先に購入した『しあわせの欠片』の小箱を、アレクサンドルは迷いなくクレメンスへと差し出す。
「改めて俺の気持ち。俺、クレミーのことが好きだよ」
 どこまでも真っ直ぐな想いを向けられて、小箱を受け取ったクレメンスが、耳の先まで朱に染めた。照れながらも、しみじみと考えを巡らせるクレメンス。
「クレミー?」
「……単なる好意と、恋愛感情ってどう違うんやろう」
「え? 単なる好意と恋愛感情の区別?」
 ぽつり、零された言葉に、アレクサンドルは寸の間思案して――すぐに、彼なりの答えを導き出した。
「うーん、触れたいと思うかとか、幸せを祈れるかどうかとかかなあ」
「幸せを祈れたらそれは恋愛感情、いうこと?」
「いや、逆かなぁって」
「逆?」
 ことりと緩く首を傾げるクレメンスに、「俺は祈れないな」とアレクサンドルは言う。
「だって、俺が幸せにしたいし、一緒に幸せでいたいから」
「何や、難しいねぇ。自分の幸せとかよぅ判らへん。あんさんは大概笑顔やし」
 ああでも、とクレメンスは小さく付け足した。
「笑顔が曇るのは嫌やねぇ。あんさんの隣に、違う誰かがおるのも嫌や」
 何とはなしに呟いた言葉を耳に留めて、アレクサンドルが破顔する。再び首を傾けるクレメンス。
「アレクス? なんや嬉しそうやね」
「だってさ、それ、逆に言ったら……」
「へ? 逆? ……ああ、そう、か」
 アレクサンドルの笑顔の意味を解して、クレメンスは頬の熱くなるのを感じた。そうして、先ほどの言葉の裏を紡ぐ。
「あたしの隣で、笑顔でおってほしい」
 言葉にすれば、アレクサンドルが益々嬉しそうに笑み崩れて。そんなアレクサンドルに、クレメンスは自分が購入した方の小箱をそっと差し出した。
「確かに、ただ幸せを祈れそうにはあれへんね……その」
 触れられるのも嫌やないよと小さく小さく紡がれて、アレクサンドルは小箱を手に、その目元を柔らかくした。

●チョコレートの魔法を貴方に
「うっふふー! またカナちゃんとデート☆ ラムちゃん嬉しい♪」
 どこまでも機嫌良く、ラム・レイガードは賑わう通りを軽やかな足取りで行く。ラムにここまで連れてこられた芹澤 奏は、辺りに満ちるチョコレートの甘い香りを吸い込んで、きらきらしい通りの様子に小さく感心したような息を漏らした。
「チョコ祭っスか。ラムさん、チョコマジ好きなんスね」
「あら? カナちゃんもチョコ嫌いじゃなかったわよね?」
「いや、俺も食べるっスけど、ラムさんほどじゃねぇス」
 そんなやり取りをしつつ通りを歩けば、目に入るは極上のチョコレートの数々。
「やーん、色々あってラム幸せー!」
 と、緑の瞳を本当に幸せそうに輝かせるラムを見て、「ラムさんの行きたいところ優先でいいスよ」と表情は変えないままに奏はぽつりと零した。勿論、そんな奏の呟きを聞き漏らすようなラムではなく。
「やだ、カナちゃん優しい……!」
 なんて瞳をきゅるるんと潤ませれば、「別に普通っス」と釣れないお返事。が、ラムはめげない。
「よーし! カナちゃんのお許しも出たし、お店いっぱい回るわよー!」
 そうして奏は、ラムに思う存分連れ回されることになったのだった。けれど、奏は奏でまんざらでもない様子。
「ホント、色んなチョコあるんスねー」
 等と、その表情筋こそあまり仕事をしないものの、趣向を凝らしたチョコレートの数々に興味深そうに見入っている。
「あ、ラムさん、この濃厚チョコジェラート食べたいっス」
「うふふ、勿論いいわよ☆ 食べたい物ぜーんぶ食べちゃいましょ!」
「ラムさんは何食べるんスか」
「あたし? 素敵なチョコが沢山で目移りしちゃうけど、でもね、絶対買いたいのは『フルール』の『しあわせの欠片』! 同じものがない、なんて素敵よねぇ」
 うっとりとするラムの傍らで、しっかりばっちり買い求めた濃厚ジェラートを口に運ぶ奏。
「あー、やっぱ普段食べるのとはコクが違うっスね」
「って、カナちゃん聞いてるー?」
「ラムさんも食べてみるといいっスよ、美味いんで」
 躊躇なく差し出されたジェラートを、ラムはぱくりとする。緑の瞳が煌めいた。
「んっ、ジェラート美味しい♪ それじゃあ、ケーキもお裾分けするわね」
「ケーキ?」
「チョコミントのケーキも狙ってるの! ミント好きなのよねぇ。甘さと清涼感、あたしの瞳のような緑☆ あ、ほら、あのお店よ!」
 そうして買い求めたチョコミントのムースケーキを、
「カナちゃん、あーん!」
 とラムは奏に「あーん」で食べさせようとする。
「あ、ケーキくれるんスか。でも、あーん、は嫌っス」
 断固として口を開けない奏に根負けして、結局ラムは奏にフォークごとケーキを差し出した。

「楽しかったわねぇ、カナちゃん♪」
「そうっスね。色んなチョコがあって面白かったっス」
 通りを巡り終えて。ラムがにこやかに笑み掛ければ、淡々とその言葉に応じる奏。けれど、その言葉に嘘はないのを知っているから、ラムは益々そのかんばせに浮かぶ笑みを深くした。そうして、取り出したるは。
「カナちゃん、付き合ってくれてありがとう」
「『しあわせの欠片』……人気店のなのに俺にもくれるんスか?」
「勿論! カナちゃんのために選んだのよ?」
 小箱の中身は、ラムが奏を想って選んだ猫を模ったダークチョコ。その中には、奏の瞳の色に似たチェリーのジャムが詰まっている。
「ラムさん、ありがとっス。はい、俺も早いけどお返しっス」
 代わりに奏から差し出されたのは、ラム酒の香る大人のチョコレート。
「え、あたしにも? やだ、嬉しいー!」
「なんか、ラムって書いてあったんで。あげるっス」
「ありがと、カナちゃんっ! 大事にいただくわねぇ」
 幸せいっぱいの言葉を奏へと向けて、ラムはにっこりとする。
「あ、お返しはホッペにチューでいいかしらっ?」
「断固拒否っス。ラムさんマジ煩いっス」
 バッサリと一刀両断されて、それでもラムは、奏に貰ったチョコレートを手に緑の瞳を細めたのだった。

●思い出の味を数えて
「セラ、こっちこっちー!」
 ぶんぶんとこちらへと元気良く手を振る火山 タイガの姿は、きらきらしい通りの中でも一際眩しくセラフィム・ロイスには見えた。
「もう、待ってよタイガ。はしゃぎすぎ」
「あはは、悪い悪い。それにしても、1年ぶりなんだなチョコフェスに来たのも」
「確かウィンクルムになって初めての出かけ先だったね。もう迷子にならないでよ?」
「って、勘弁してくれよ」
 苦笑いを寄越すタイガに、自分もそっと笑顔を返すセラフィム。「それじゃあ行こうぜ」と歩を進めかけたタイガが、ふと思い出したようにセラフィムの方を振り返って。
「あっ、あれ食べてーな。何だっけセラがくれたやつ」
「!」
「ほら、萌黄色の抹茶の……去年、ここで渡してくれただろ?」
 続くタイガの言葉に、セラフィムは詰めていた息を吐く。
「あ……『フルール』か」
「そう、それ! 懐かしいよな」
「同じ味と形が一つとしてないって評判だから、出会えるか分からないけど、並ぶ?」
 何でもないふうに返しながら、未だ鳴り止まぬ胸をセラフィムは抑えた。
(一瞬……僕があげた抹茶のチョコレートケーキのことかと思った。……いや)
 どっちつかずで渡したんだから切り替えないと、と、セラフィムは緩く首を振る。一方、そんなセラフィムの心中には気付かずに、
(いやまてお返しに食べさせてぇ)
 なんて、タイガもまたセラフィムのことを思って。
「んーっと、なあ、別行こうぜ!」
「え?」
「制覇してぇし、二手に分かれてベンチに合流ってのどうだ?」
 提案に、セラフィムは小さく笑みを漏らした。
「本当食べ物に目が無いね。わかった。それじゃあまた後でね」
「おう! また後で!」
 手を振り別れて、タイガは通りに『フルール』の露店を探す。欲しいのは、2人分の『しあわせの欠片』。
(セラをイメージするチョコねぇかな。宝石とかシックなのそれっぽい)
 そんなことを思って、タイガは通りを行きながら口元を緩めた。

(変り種がいいかな。タイガがきっと喜ぶ)
 自然とタイガの笑顔を思い浮かべながら、セラフィムもまた通りを歩く。
(スパイス入りのショコラショーなんてあるんだ。ジェラートも面白い……あれにしようかな)
 でも、とふと道の端に立ち止まるセラフィム。
(やっぱり、タイガと一緒に回りたかったな……)
 行き交う人々がそれぞれの大切な人と笑い合っているのに、ぎゅっと胸が締め付けられるような心地がした。

 そして、待ち合わせの場所。
「遅い……溶けちゃうよ」
「じゃあ、溶けちゃう前にっと!」
 自らの戦利品をベンチの端にこそりと置いて、タイガはセラフィムが買い求めたジェラートをぱくりとした。
「んっ、ジェラートもいい感じだな」
「タイガは何を買ったの?」
「俺のは……ほら」
 差し出された小箱に、セラフィムの銀の瞳が見開かれる。
「! これって……」
「ん、ホワイトデーのプレゼント」
「ありがとう……これ、『フルール』の?」
「おう! 去年すっげー旨かったから味は保障する」
 促されて、セラフィムは小箱をそっと開いた。黒と白の宝石、2粒が顔を出す。
「あ、セラのは黒い方な!」
 齧れば、柚子ガナッシュの香りがふわりと鼻をくすぐった。どうだ? とタイガがわくわくと顔を輝かせる。
「……美味しいよ、すごく」
「よかった! セラみてーに作れたらよかったんだけどさ」
 あの抹茶も旨かったと笑うタイガの言葉に、「っ……再現できてよかった」と思わず小さく呟くセラフィム。口の中にパイナップルの風味を楽しみながら虎の耳をぴくりとさせて、
(メイドの、とも思ったけど、あの時のやっぱそっか)
 と胸に思うタイガである。口にチョコレートを遊ばせながら、セラフィムは目元を柔らかくした。
(美味しくて。嬉しい。気付いてたのは驚いたけど頑張ってよかった)
 マーサさんやメイドにも感謝しないと、なんて思っているうちに、チョコレートは溶けてなくなった。
「……ねえ、タイガ」
「うん?」
「帰りは手を繋いでいい?」
 勇気を出してそう尋ねれば、タイガは目をぱちくりとし、
「おう! また1年よろしく」
 と、明るく笑み崩れた。

●狡いことおひとつ
「早速甘い匂いがしているね。今年も二人で参加出来て嬉しいな」
 通りの昨年と変わらぬ賑わいに、羽瀬川 千代は目元を柔らかくした。そんな千代に、するりと差し出される、手。ことり、千代は軽く首を傾げた。
「えっと、ラセルタさん?」
 問えば、差し出された手の主――ラセルタ=ブラドッツは、その口元に優美に弧を描く。
「今年も俺様のエスコートが必要だろう?」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
 躊躇いがちに千代がラセルタの手を取れば、ラセルタは満足げに青の目を細めた。手に手を重ね、2人は甘い香りに満ち溢れた通りを行く。
「ねえ、ラセルタさん。今日はラセルタさんの気になるお店を巡りたいんだけれど」
 駄目かな? と付け足された控えめな、そして物珍しい提案に、ラセルタはその瞳を寸の間仄か見開いた。
「その、去年は俺の用事に付き合ってくれたでしょう? だから……」
「いいだろう」
 応じたラセルタの青の眼が、興味深そうに光る。
「ならば、行くぞ、千代」
「あ……うん、出店しているお店は覚えてきたから、道案内は任せてね」
 露店に視線を巡らせるラセルタの姿に、千代は思う。
(今の俺は自分のことばかりで、貴方のことを真っ直ぐ見れていない気がするから)
 だから今日は貴方のことが知りたいのだと、千代はラセルタの背にそっと視線を投げた。一方のラセルタは、ごく熱心に試食のチョコレートを口に遊ばせていて。
「ふむ、悪くないな。店主、これをくれ」
 露店を巡り、露店毎の味を巡り、気に入った物は漏らさず購入して。ラセルタはそれを、一つ一つ、千代に食べさせた。口の中の甘味を味わいながら、首を傾げる千代。
「……ええと、何だか俺ばっかりに食べさせてない?」
「要は俺様の好みが知りたいのだろう? だから直々に教え込んでいる」
 毎度洋梨だけで機嫌が取れると思ったら大違いだ、とのラセルタのお言葉に、千代は思わず「ふふ」と笑み零した。
「じゃあ、次に出すご褒美は頑張るから楽しみにしててほしいな」
「……漸くいつもの調子になったな」
「え……?」
 ふっと笑み漏らしたラセルタの指が、千代の口元に伸びる。口の端のチョコレートを拭った指に舌を走らせるその姿に頬の火照りを感じながら、同時に千代は思った。
(ラセルタさんには、お見通しなんだな……)
 ふわり、心が温かくなる。見上げた空は、気付けばもう、夜を待つ夕暮れの色に染まっていた。段々と、通りを行く人も少なくなっていく。笑顔を携えて帰路に着く人の群れの中で、千代の胸にこっそりと、一抹の淋しさが掠めた。
(もう手を繋ぐ必要は無いけれど……何だか離し難いな)
 だから千代は、その手を離す代わりに言葉を紡ぐ。
「ねえ、流石にもう迷わないから大丈夫だよ?」
 その言葉に、ラセルタは訝しげに目を眇めた。そして、すぐに「ああ」と得心する。
(成る程、暗に俺様の方から離せと言っているのか)
 分かって、分かった上でラセルタは繋いだ手を離すことはしない。言葉に返すのは、言葉。
「……手を取ったのもお前の意思なら、離すことも選ばせてやる」
「!」
 千代が目を見開く。その様子にくつくつと喉を鳴らして笑って、ラセルタは繋いだ手に力を込め直した。暫しの間の後、おずおずと、けれど確りと握り返される、手。千代のその反応に、ラセルタは機嫌良く、益々笑みを深くした。
「お前も随分ずるくなったものだ、いったい誰の影響だ?」
「……ラセルタさんの所為だろうね、間違いなく」
 耳まで真っ赤になって、けれど握った手を離そうとはしない千代の様子に、ラセルタは堪え切れずに「くく」と楽しげな笑い声を漏らしたのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:初瀬=秀
呼び名:秀様
  名前:イグニス=アルデバラン
呼び名:イグニス

 

名前:セラフィム・ロイス
呼び名:セラ
  名前:火山 タイガ
呼び名:タイガ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月04日
出発日 03月10日 00:00
予定納品日 03月20日

参加者

会議室

  • [5]羽瀬川 千代

    2015/03/09-23:45 

    こんばんは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    芹澤さんとラムさんは初めましてですね、宜しくお願い致します。

    ぎりぎりのご挨拶になってしまいましたが…
    今年も祭典に参加出来て嬉しい限りです、どうか良い一時になりますように。

  • [4]初瀬=秀

    2015/03/09-21:03 

    初めましてはいなさそうかね?
    去年に引き続き参加の初瀬とイグニスだ。
    一年を振り返りつつゆっくりできたらなと。

    皆にもいい時間になるように。どっかであったらよろしくな?

  • [3]芹澤 奏

    2015/03/09-17:41 

    うっふふー!
    芹澤 奏ことカナちゃんのパートナーのラムです♪
    お久しぶりな方はお久しぶり♪
    はじめましてな方もよろしくぅ★(ウィンク)

    挨拶と同時にプラン送信完了よぅ!
    ちなみに昨年の様子も拝見させていただいたの。
    二年連続で参加できるって素敵☆ねっ

    あたし達も楽しませていただくわ♪どこかで見かけたらよろしくぅ☆

    奏『ラムさんマジテンション高いス、うるさいっス』

  • アレックスと、相方のクレメンスだ。よろしくな。

    チョコレート、ばたばたしてて渡せてないから渡したいし
    せっかくだから幸せのかけらがいいかな

    楽しいひと時になるといいな

  • [1]セラフィム・ロイス

    2015/03/08-02:19 

    どうも。芹澤たちははじめましてになるね。
    なじみや前年いった面子は、何かうれしく思うよ。よろしく頼むね

    タイガの意見を聞きながら一時を過ごせたらと思ってる
    フルールはどうしようかな。スパイシーなショコラショーなんて初めてしったし
    何か素敵なものがみつけれたらいいな、と。楽しもうと思う


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