【灯火】天使の歌声(くにとも ほし マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 彷徨えるバザー「バザー・イドラ」では、売ってないものを探す方が困難と言われています。
 衣類や装飾品に飲食物、調度品は勿論、そちらでは大道芸人が火を噴き、乙女が蝋燭の炎からあなたの未来を紡ぎ、何処かでは龍の卵や精霊の粉を見た、だなんて伝説もあります。なんたってここは伝説のバザー、心地よい薄闇はファンシーでファニーな幸福を、奇跡のランプを携えた訪れる者に与えてくれるのです。
 さて、そんな様々な夜店の中に一つ、おっと、今日はどうやら北のはずれ、いいえ、東の太陽がちょうど上るところ、あら、中心からちょっとずれた場所かしら?申し訳ありません、ここの夜店は気分屋で、いつも違う場所から顔を出すものですから。
 ああ、ああ、ありました、ここです。この、甘い香り漂う夜店です。入口に金平糖をお持ちくださいの文字、そう、これ、大事ですよ。
 入りますと直ぐにぴしりと蝶ネクタイを締めた幸運の兎が、ふかふかの椅子が置いてあるレジに鎮座しています。このお店は、ちょっとした真夜中のティータイムを味わえる素敵なカフェなのです。メニューを出しますのは、様々な色の帽子をかぶった、こどもたち。そう!ここで大事だと先程述べました、金平糖が輝きます。金平糖は、このこども達のチップなのです。
 しかしまして、この店のメインは素晴らしい香りの紅茶や珈琲でも、最高の柔らかさのスイーツでもなく、マシュマロ色の髪にストロベリージャム色の瞳を持ちました、スフレとメレンゲの歌声です。
 スフレが少女、メレンゲが少年で、まだまだ甘い顔だちの幼子二人は、仲の良い双子です。そして、その歌声は知らない筈の朝日のようで、聞くものに春の目覚めや初夏の木洩れ日、高い秋の空と冬の眩い白を連想させる、それは素晴らしいものなのです。
 この天上の歌声を聴きながら食べるスイーツは、手放しにお勧め出来る代物です。例えどんな悲しみを抱えていても、羽のような笑顔がこぼれ、あなた様のランプに幸福の明かりが灯ることでしょう。
 しかし、残念ながらこの天使の双子は、バザーの夜店のように気分屋でございまして、本日は特に、含むような、ええと、そうですね、とても厄介な笑みを浮かべています。

「ねえねえ、私達とってもつまらないの」
「ねえねえ、僕達と遊んでおくれよ」
「私達、あるものが知りたくて歌えないの」
「僕達、それが見たくて歌えないんだ」
「何が知りたいか当ててみて」
「何が見たいか当ててみて」

「私は、柿の実の隣にあるものが知りたいの」
「僕はこの世で、最も近いキスが見たいんだ」


 甘く甘く笑う双子達、さて、ランプに火は灯るのでしょうか?

解説

さて大変だあ。美味しい飲み物にケーキ、それに舌鼓を打っていたのに、肝心の双子が歌ってくれません。確かのその二つでも充分幸せなのですが、歌声がないと火は灯ってくれません!厄介なお店に入ってしまいました。
スフレちゃんとメレンゲくんは、それを知るまで見るまで歌ってくれないようです。



ぶっちゃけますと、スフレちゃんが見たいのは「かき」くけこの隣の「あい」うえお。愛ですね。愛を教えてあげてください。もうラブラブなあなた、一歩踏み出せないあなた、まだ知り合ったばかりのあなた、どんな愛(友愛、恋愛、愛)を見せますか?
メレンゲくんが見たいのは、誓いのキスです。死が分かつその時まで、それとも全く別のあなたが思う誓い、どんな誓いのキスを見せてくれますか?パートナーとしての信頼か騎士である誓いかそれとも恋の…………?


なぞなぞがわからない!どうしよう!そんなあなた!こども達が金平糖を欲しそうな目でこちらを見ていますよ!

だがしかし!なぞなぞに応えるだけじゃ駄目だ!あなたの心が見たい!

そんなわけで、全てを溶かす朝日までに、双子ちゃんを歌わせてみてくださいな。


因みに、メニューは
・好きなケーキ+飲み物で250Jr
・お好きな飲み物50Jr
(自慢のブレンド珈琲とブレンド紅茶、その他ソフトドリンク)
です。そちらのオーダーも宜しくお願いします!
金平糖は隣の屋台で、30Jrで買えます。うまいこと隣の屋台の駄菓子屋のおじさんと、流れを組んでいるようです。

のーみゅーじっくのーらいふ

ゲームマスターより

厄介な双子ちゃんの話です。レッツスイーツ。このお店では、甘いものが苦手なあなたの為に、守りぬかれたビターなチョコレートケーキもありますのでご安心を。

さて、わたくしは思うのです。キスって別に、口じゃなくてもキスになるよね、と。シレッ。
ほっぺ手の甲頬、色々ありますよねシレッシレッ。


どうか、参加される方々の心に、幸福の火が灯りますように。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)

  ケーキ+紅茶

かきのとなり…あい?愛!?
キスなんて人前で見せるものじゃないでしょ!!

そんな期待した瞳で見られても(たじたじ
は、母と父はらぶらぶね…こっちが恥ずかしいわ
姉は愛よりお金とか兄は…
え、私!?

愛とか以前に…(ちらっと精霊をみて視線を逸らす
えっと、妙な縁だけど
頼りにはしてるし、居ないと困るし……ちがっ、オーガ相手に私1人じゃ何も出来ないもの!!
最近じゃ一緒に居るのが当たり前な感じで…っ!?

あっけにとられた後に慌てて手を離す
視線を感じたら目が合い、更にそっぽを向く

誰かと?(聞き捨てならない事が聞こえたような
昔を思い出してただけ、と返され
…別にいいけど、ふーんそうとお茶を飲む(何かむっとするわ



蘇芳(ヨシュア)
  オーダー:蘇芳=紅茶 ヨシュア=ガトーショコラ+コーヒー
金平糖=3つ購入。
「うーん、柿の実のとなり……?も、もも?栗?」
ヨシュアにぷっと笑われる。

(あ、愛?ってなんだろうなぁ…)
形のないものを見せることに悩む。
”最も近いキス”でちょっとピンとくるけれど、誓いのキスに戸惑い。
(何すればいいってんだ……)

(結婚式ごっこは小さい頃にしたことがあるだろ?と提案するヨシュアに対し)
「あのね、私もいい年なんだし……」
ごっこでは本当の愛じゃないから歌って貰えないよ、とため息。守る=愛してるのは本当、という言葉に、家族愛でしかないと知っていて、苦笑。
 ランプが灯ったらケーキを一口ヨシュアからもらい、一息。



ゼロ(エドガー)
  金平糖
チーズケーキとブレンド紅茶

双子ちゃんに歌って貰うためですもの
仕方ないですよね?ねっ

・愛
愛、愛ですね?お任せください!
私達の愛の出番ですねっ
ああっ、エドガーさん冷たい…。でもそんな所も素敵です!

なるほど、そういう考え方もありますね
見返り、くれてもいいんですよ?
まあ愛とは重いものですからね

・誓いのキス
近い…誓いでしょうか?
え、誓いのキスだなんてそんな、いきなり段階すっ飛ばしすぎというか…
(口を連想してもじもじ
あっ、はい。わぁ、この紅茶美味しいですねっ

手ですか?はい、どうぞ
あ、これって…
…はい!私も、エドガーさんに相応しいパートナーになるべくもっと頑張りますね!


■さて、大変なことになりました。


 やあやあ、隣の駄菓子屋で金平糖を買ったぞ、あの方々は三つも!これはうちの歌い手達に、頑張ってもらわにゃ。そう気合を入れてお迎えし、席に通しメニューをお出しした途端これです。純白のセイレーン達は、妙な謎々を出してソファーに座ってしまいました。
 こうなったら、梃子でも動かないでしょう。給仕のこども達は、おろおろとお客様の周りをまわります。薄暗い店内は席ごとにカーテンで仕切られていますので、お客様がたは互いの困り顔は見えてはいないでしょうが、伝わってはいるでしょう。
 ああ、スフレ、メレンゲ、君達はどうしてそんなに、人を困らせるのが好きなんだい!




■キャロルを捧げる

 ミオン・キャロルはきょとんと小首を傾げた。紅茶とケーキを頼み、美味しいと微笑んだところで、双子が出した問題は一瞬歌かと思えるほど軽やかだったからだ。
 かき、の、隣?最も近い、キス。紅茶を飲み、一つ考えて閃いた。
 かき、の隣って、あいうえお表じゃないかしら?つまり、かきの隣は、あい、だから。
「あっ、あぁああ、あ、愛っ?」
「ミオン、音をたてない」
 閃いたものの甘さに驚き、ミオンはカップを少々乱暴にソーサーに戻した。かちゃん、と高い音がたって、アルヴィン・ブラッドローに注意され、ミオンは更に慌てて周囲を見渡す。
 蝋燭で照らされた店内は、小さなサーカスのテントのような内装だ。席は一つ一つカーテンで区切られていて、分厚くはなくとも、薄暗いからか隣の席の動きはあまりよく見えない。ただ、慌て困惑した空気は、なんとなく見て取れた。
 原因は、舞台の上のベルベッドのソファーでくつろぐ、美しい雪の精のような双子だ。スフレとメレンゲと紹介された双子は、にこにことこちらを見ている。
「だ、だって、愛って、愛よ?」
「そこの君」
 ぱたぱたと走り回るこどもを一人、アルヴィンは呼び寄せる。赤い帽子をかぶったこどもが傍に寄って来て、アルヴィンはその小さな手に金平糖を渡した。
「一つ目の答え、愛、かな?」
 金平糖を貰ったこどもは、ぱあと表情を輝かせると、尖った靴をぱたんぱたん鳴らし、くるくると飛び跳ねた。
「せーいかーい!」
 くるんくるん、回って金平糖を頬張りながら、こどもは去っていく。成程。アルヴィンは頷きながら見送った。
「本当に、愛、みたいだね。真面目な君にしては、柔らかい答えがぱっと出たものだ」
「……どういう意味よ」
 じと、と薄闇でもわかる真っ赤な顔で睨まれても、アルヴィンはどこ吹く風だ。彼女はとてもからかいやすいので、ちょっとしたじゃれあいである。
「愛、ね。そういう答えならば、この世で最も近いキス、は、誓いのキスだろうか」
「ち、誓いの!?」
「落ち着いて、ミオン。所詮、こどもの謎々だよ。ここで結婚式をしろ、ってわけではないと思う。家族愛、でいいんじゃないか」
 愛、か。アルヴィンは双子をちらと見て、混乱から脱っしようと、また紅茶を飲みケーキを口に運ぶミオンを見た。自分は珈琲一杯のみでゆっくり過ごそうと思っていたので、まだカップになみなみと揺蕩っている。先程一口飲んだが、いい香りだった。
 愛、もう一度考える。愛とはなんだろうか。こどもの謎々なので、ふと家族愛を口にしたが、アルヴィンが思い出すことと言えば、家に帰ると待っていた母親の手作り菓子の甘い香りと、抱き締めてくれた温度だ。
 ミオンと出会って、短いとは言えない月日が流れている。
「父と母は、ラブラブだわ。私が見ているのが、恥ずかしいくらい……姉は愛よりお金で、兄は……」
 何やらぶつぶつと家族を並べて唸るミオンに、アルヴィンは目を細める。神人と精霊。言ってしまえば、それだけの間柄だが、もうそれだけ、とは言えない。
 見たい、ということは、自分とミオンのだろう。さて、それを踏まえて、愛、とは?
「俺とミオンの愛、かあ」
「はあ!?」
 思わず漏れた独り言は、ばっちりミオンに届いていた。落ち着き始めていたミオンが、また混乱の渦に落ちる。からかいがいのあるミオンは、直ぐに感情が噴き出す。
「あ、愛とか、以前に、あなたとは変な縁があるだけ、だし……」
 その通りだ。アルヴィンが頷く前に、でも、とミオンは否定した。
「頼りにはしてるし、居ないと困るし……あっ、ち、ちがっ、違うのよ!愛とかそんなんじゃないの!ただ、オーガ相手に私一人じゃ何も出来ないし、そ、それに、最近じゃ一緒に居るのが当たり前な感じで、って、あああ」
 ドツボだ。両手で顔を覆い、突っ伏す。その背中をさすってやりながら、くすりとアルヴィンは微笑みをこぼした。
 いるのが当たり前。そうだ。それもその通りだ。神人と精霊はそうあるべきものである。が、その言葉はじんわりとアルヴィンの心に沁みわたった。その温度の答えはわからないが、ミオンに伝えたい言葉が自然と思い浮かぶ。
 顔を覆っている手の一つを取り、ちらと双子を見る。視線に気付いた双子の、赤い瞳がこちらへ向いたのを確認して、ミオンの手の甲へ口づけた。
「愛はよくわからないけれど、俺は君の為の騎士だ。ミオン・キャロルを護ると約束した。これが、俺達の誓いってことで、許して貰えないだろうか」
 真っ直ぐとミオンの目を見て微笑み、再び双子を見る。届いたらしく、スフレとメレンゲは、にっこりと微笑みを返した。
 呆然とアルヴィンを見ていたミオンが、はっとその視線の動きに目を覚まし、手をひっこめた。元々強く握っていたわけではないので、あっさりとアルヴィンの手のうちから逃げられた。
 真っ直ぐとした瞳に、ミオンの胸のうちにも何かが宿る。こども達に残りの金平糖を配って頭を撫でるアルヴィンに、ほ、と息をついた。いつもの空気だ。宿った何かは、とてもこそばゆかった。
「そういえば、誰かと長くいたのは、初めてだな」
 にこ、といつもの笑みを向けられて、ほっとしたはずなのに、ミオンは途端に不機嫌になる。眉間に皺をよせ、紅茶を飲む。これだけ沢山飲んでも、サービスなのかこども達は暖かい紅茶を直ぐに注いでくれる。
「ふーん、そう。誰か、ね」
 ぷい、とミオンが顔を逸らす。その様子にも笑うが、アルヴィンは指摘をしなかった。彼女から向けられる好意は、嫌いではないからだ。
 無事、双子は美しい歌声を聞かせてくれた。そういえば、キャロル、は、歌と言う意味があったと、アルヴィンはぼんやりと思い出し、ランプに火が灯るのを眺めた。



■これはおままごとではなく

 突然謎々を出して、ふわりと舞台の上のソファーに腰掛け、それ以上口を開かなくなった双子に、蘇芳は戸惑った。こども達があわあわと慌てて右往左往しているのを見るに、本気のようだ。その名を冠するにふさわしい真っ白なスフレとメレンゲは、光源が蝋燭のみの薄暗い店内でもぼんやりと光っているように見えた。
 色違いの帽子をかぶったこども達に、小さなサーカスのようなテント。薄いカーテンで仕切られた席と、まるで童話の中に入ったようだ。思いつつ、蘇芳は首を傾げる。
「かき、の隣……かき、かき……?」
 その手の童話は、結局謎々を応えなければ進まない。ならば、答えを見付けなければ。ううんと唸り、考える。
「柿……柿の実の隣?も、桃とか、栗とか?」
「あのね、ことわざじゃないんだから」
 ヨシュアに笑いながら指摘され、蘇芳はさっと頬を赤らめた。その赤を誤魔化すように眉を寄せて、ヨシュアを軽く睨む。
「じゃあ、なんだっていうの?」
「この店に似合うロマンチックな答えじゃないかな」
「そんなこと言って、ヨシュアもわからないんじゃないの!」
 ふん、とそっぽを向く妹ぶんに、ヨシュアは苦笑した。どうも、最近の蘇芳は少々反抗期気味である。お兄ちゃんは寂しいよ、なんてね。
 こどもを一人呼び、新しい紙ナプキンと書くものを貰う。勿論、金平糖を渡してだ。隣の店で沢山買ったので、この後も皆に配ろうと思っている。が、取り敢えず今は、謎々の答えだ。
 蘇芳が膨れる中、五十音を書く。見慣れたヨシュアの文字は、かきくけこ、で止まった。
「かき、の、隣」
 書かれた文字に丸を付けて、強調する。かき、を囲い、矢印を隣に伸ばす。
「……だから?」
 伸ばされた矢印の先を、更に丸で囲う。あ、と蘇芳は短く声を上げて、その二文字を読み上げた。
「あい、愛!?」
「正解」
 納得の溜息をこぼしながら、蘇芳は答えに頷いた。なんてことはない、こどもの謎々だ。
 ならば、二つ目の謎かけも同様の答えの筈だ。蘇芳はそのまま、ぴんとまばたきした。
「じゃあ、近いキス、は誓いのキス?なあんだ、本当に単純な謎々なのね」
 微笑むヨシュアがいるからか、なんだか小さな頃を思い出す。すべからくこどもというものは、謎々を覚えると披露したくなるものだ。もしかしたら、あの双子もそうなのかもしれない。
 だが、あの双子は更に厄介だ。それを見せなければ、歌わないと口を閉じているのである。今もにこにことソファーに座って、客席を見渡していた。まるで、ショーをしているのはこちらのようだ。
「……愛、愛ねえ」
 見えないそれを、どう見せろというのか。誓いのキス、でどうしても結婚式を思い浮かべてしまうが、ここは喫茶店だ。教会ではないし、ましてや、相手もいない。
「何すれば、いいってんだ……」
「結婚式ごっこは、小さい頃沢山したろう?」
「ごっこ、って……」
 小さい頃を思い出したのは、蘇芳だけではないようだ。幼い頃から遊んでいたのだから、思考回路はどうしたって似てくるということか。紅茶を一口飲み、じとりと蘇芳はヨシュアを見た。
「私をいくつだと思ってるの?もういい年だし……それに」
 再び双子を見る。妖精のような二人は座っているだけで存在感があり、オーガとは全く別だが、それなりの緊張感があった。
 不思議なバザーで出会った、不思議なお店。そういう場にはきっと、不思議な決まり事がある筈だ。
「きっと、本物の愛でなければあの子達は納得しないわ」
 自分達は、ランプに火を灯さなければならない。童話では、そういったものには本物を差し出さなければならないと、相場が決まっている。全く、ごっこを否定しておきながら、童話を思い浮かべるだなんて、妙な話だ。
 そう苦笑を浮かべる前に、ヨシュアが、えっ、と素っ頓狂な声を出した。
「俺が蘇芳に持っている感情って、愛だよね?」
 蘇芳は、ティーカップを落とさなかったのを奇跡のように思った。静かにソーサーに戻し、え、と今度は蘇芳が声を漏らす。
 ヨシュアの微笑みは、いつものように柔らかい。そんなに年齢も変わらない筈なのに、彼の自分へ向ける感情は、兄のようである。手を引かれて立たされながら、蘇芳は気付いた。
 ああ、家族愛か。
 持っていた大きなハンカチをかぶせられ、ヴェールのようにうやうやしくめくられ、額にキスをされながらも、落ち着けたのは、それに気付いたからだ。この一連の流れは、小さな頃やった結婚式ごっこ、そのままだ。
「俺は、一番身近な存在として、蘇芳を守ることを誓います」
 それでも、一瞬呼吸が止まったのは何故だろうか。真っ直ぐと視線を合わせると、ヨシュアは再びにっこりと微笑む。
「見てたかな?守ることが俺にとっての愛だ。そして、この誓いはごっこじゃない。本物だよ」
 ヨシュアがそう言って、スフレとメレンゲのほうへ視線を向けたのにつられるように、蘇芳も双子へ目を向ける。
真っ白な妖精は、きちんとこの本物のおままごとを、愛だと認めてくれたようだ。ふんわりとした双子の微笑みに、何故か教会のステンドグラスを思い出した。
「じゃあ、金平糖をこども達に配ろうか。沢山買ったし、皆に配れるよね」
「……ケーキ」
「ん?」
 ハンカチを頭から取り、ヨシュアに押し付ける。なんだか、くすぐったくて顔が上げられない。
 蘇芳が頼んだのは紅茶のみで、ケーキは迷って頼まなかった。まさか、のちのちを見越して珈琲だけでなく、ヨシュアはガトーショコラも頼んだのだろうか。そうだったら、暫く彼には適いそうにない。
 適いそうになくとも、大人しくするのはごめんだった。蘇芳は言い放つ。
「ケーキ、一口ちょうだい!」
 美しい歌声に乗るように、二人の持つランプに火が灯った。



■二人の距離


 アクシデントだ。ランプに火を灯す為に、金平糖まで買って入ったというのに、とうの双子は妙な謎かけを一つずつ出して、舞台の上のソファーに座ってしまった。
エドガーの溜息に、ゼロはびくりと肩を揺らす。彼は決して怒りっぽいわけではなく、むしろ何事にも冷静なタイプだが、蝋燭の揺らめきと突然のことに何だか妙な空気だ。カーテンで仕切られていて他の席が見えないが、きっと他の客達も戸惑っているだろう。
「でもでも、双子ちゃん達に歌って貰わないと、ランプに火が灯りませんし、ねっ?」
「……大丈夫。わかっているよ。腑に落ちないけど、仕方ない」
 はあ、とまた一つ溜息を付いて、エドガーはティラミスを食べる。妙な店だが、ケーキと珈琲は一級品だ。ほどよい甘さと薫り高い豆は、まるで好みを全て把握されているように、美味しい。
 むむむ、とゼロは首を捻る。それも一瞬で、ぴん、と閃いたのか輝くように微笑んだ。
「一問目、わかっちゃいました!」
「え?」
「愛、ですよ!かきくけこ、の隣はあいうえお、愛!」
 答えを聞いて、頷く。確かに、その答えならばゼロは直ぐにわかりそうだ。現に、ふふんと胸を張っている。
「愛なら、任せてください!私達の愛の出番ですよ、エドガーさん!」
 やっぱり、このノリだ。エドガーはモノクル越しに一人興奮するゼロを一瞥するだけで、珈琲を飲む。やはり、美味しい。頷いたのは珈琲の味に対してで、ゼロにではない。
 ゼロもそれがわかったのだろう、任せてくださいと立ち上がっていた体を、大人しく椅子に戻す。エドガーは右往左往するこどもの一人と目があい、緑色の帽子をかぶったその子に金平糖を与えながら、言った。
「君達、こんな大人になっちゃいけないよ。双子達にもそう伝えて」
「あああ、エドガーさん冷たい……でもそんなところも素敵です!」
 ゼロの表情が悲しげに歪んだのも一瞬で、直ぐに両手を合わせて微笑み頬に朱を走らせる。おかしい。光源は蝋燭のみの薄暗い店内の筈なのに、ゼロの周りだけ、無駄に明るい気がする。
 ころころと表情が変わるゼロは、結局エドガーに笑顔を向ける。金平糖を貰い、踊るように喜ぶこども達を見送って、エドガーは気付いた。
「ああ、ある意味、これも愛なのか」
「はい?」
 独り言にだったので、ゼロはきちんと拾えなかったようだ。小首を傾げるゼロに、エドガーは向き直る。
「君の、そういう馬鹿に明るいところ」
「ば、馬鹿に明るい?」
 エドガーは頷いた。
「僕がどう返したって、君は結局そうやって笑うだろ。そういうの、無償の愛、っていうんじゃないかな。どうやら本当に、君は答えを見付けたようだ」
 そう言って珈琲を飲むエドガーに、ゼロはきょとんとまばたきを繰り返した。一度二度三度とまばたきをして、再び首を傾げる。
 悩む為でなく、エドガーの様子を伺うように傾げて少し身を乗り出し、ぽつ、と囁く。
「……見返り、くれてもいいんですよ?」
 ぽつりとした囁きは、独り言ではないのできちんとエドガーに届く。こぼされた囁きに、珍しくエドガーがきょとんと目を丸くする。きら、とモノクルのふちが、一緒に驚いたように瞬いた。
 乗り出していた身を引き、ゼロは笑った。
「なんて!まあ、愛って言うのは重いものですしね」
 二人の間に流れたのは、今迄とは違う、ちょっとおかしな雰囲気だ。が、それも一瞬で、エドガーの丸まった瞳も、ゼロが身を戻す頃にはとっくに元に戻っていた。
 その空気は、果たしてこの妙なバザーの一つである、この店のせいなのか。エドガーは再びケーキを口にする。やはり、美味しい。
「……はいはい。ほんと、君みたいな大人になっちゃ駄目だね」
 ゼロもにこにことチーズケーキを食べている。皮肉を言ったというのに、これだ。ゼロの明るさは本物である。
 ならば、自分も答えを出さなければ、もう一つの問いかけの答えを、エドガーは考える。これはこどもの謎々だ。考えすぎず、言葉遊びだと単純なものを選べばおのずと答えは思い浮かぶ。
「最も近いキス……つまり、誓いのキス、か」
「ちっ、誓いのキス!?」
 チーズケーキを楽しんでいたゼロの顔が、音を立てて赤くなった。何を考えているか、嫌でもわかる。そして彼女のことだがら、考えていることは直ぐに口から出るだろう。
 ゼロは両手を頬に置き、周囲を見渡す。
「そそそ、そんな、段階をすっ飛ばして、い、いきなり誓いのキス、だなんてっ」
 ……やっぱり。彼女との付き合いはまだ短いが、何度この言葉を心の中で呟いたことだろう。エドガーは妙な汗をかきながら周囲を見るゼロに、紅茶を差し出し持たせた。
「ほら、飲んで。落ち着いて」
「へ、はいっ」
 ずいと押し付ければ、頬を包んでいた両手もティーカップを受け取る。言われた通りに紅茶を飲んだゼロは、その味に表情を緩ませ、緊張をほぐした。ふわあ、と息を付き、もう一口飲む。
「あー、ここの紅茶、美味しいですねぇー」
「うん、うん。いきなりすっ飛ばしてキスなんかするわけないから、ね?」
「そーですよねー」
 ティーカップを持ったとき、その甘い香りも漂ってきている。ゼロがふにゃんととろけるのも、頷ける。確かに、ここには幸福が眠っているのだろう。
 眠っている幸福の存在に気付いても、ゼロの底抜けの愛を見せても、双子は口を開かない。やはり、誓いのキスは必要なのだ。エドガーはカップを置き、立ち上がる。
「ゼロ、手を出して。文様があるほう」
 言いながら、膝をつく。驚いたゼロはティーカップを置いて、隣に膝をついたエドガーのほうを向き、文様の浮かぶ手を差し出した。
「あの、エドガーさん?」
 自分達の在り方を変えた文様を見る。全てはここから始まったのだから、誓いはこれに立てるべきだろう。エドガーは差し出された手を取り、ゆっくりとそこに口付けた。契約したときを思い出しながら、口を離し、見上げる。
 ゼロの緑色の瞳が、ゆらゆらと光っている。契約の日と同じように、決して目は逸らさない。
「経緯はどうあれ、適合して契約を済ませたんだ。もう私情は挟まない。パートナーとして、君のことを守るよ」
 あれだけうるさいゼロの口が、震えて閉じられる。見届けて、エドガーは手を離して席に戻った。冷める前に、珈琲を飲みきってしまいたかった。
「……これで、いいのかな」
 ちらと双子を見ると、納得してくれたのか、今迄とは違う微笑みを向けてくれた。ここまでやったのだ。違ったら、流石に凹む。
「わ、私も!」
 ゼロが静かなのは、本当に一瞬なようだ。自分が名前を与えた少女は、助けたときと同じように頬を紅潮させた。
「私も、エドガーさんのパートナーに相応しくなるよう、頑張りますね!」
 助けたのが縁で出会い、異様に懐かれて困ってはいるが、評価していないわけではないのだ。蝋燭以外の光源と化したゼロの笑顔に、エドガーは微かに微笑んだ。
 響いた歌声は、二人のランプに淡い光を灯したのだった。



■大団円

 スフレとメレンゲの歌声は、高く高く店に響きわたりました。ああよかった!
 とても困った二人ですが、歌声は本物なのです。とある詩人は、スフレとメレンゲの歌声を光を含んだ風だと言いました。確かに、二人が歌うと仄暗いこの店が、蝋燭以外の輝きに包まれるのです。
 今日は特に、歌声も伸びやかです。きっと、お客様方が示した答えが、それはそれは素晴らしいものだったのでしょう。
 店主のわたくしも、心が躍ってまいりました。この幸せの兎めが、責任をもって幸運の火を灯しましょう。
 皆様に、幸運が宿りますように。またのご来店を、お待ちしております。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター くにとも ほし
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 3
報酬 なし
リリース日 03月04日
出発日 03月11日 00:00
予定納品日 03月21日

参加者

会議室

  • [5]ミオン・キャロル

    2015/03/10-16:23 

    >蘇芳さん
    えっとえと、何となく?(わたわた

    よろしくお願いします、お好きな呼び方で大丈夫よ!
    イラスト納品おめでとうございます。

  • [4]ゼロ

    2015/03/10-00:24 

    挨拶遅くなってごめんなさい!
    初めまして、ゼロです。
    よろしくお願いしますね。

    どんな歌声なんだろうって楽しみにしていたけど、困った事になってるみたいですね。
    歌ってもらうためにも頑張らなきゃ、ですね。ふふ、楽しみ~。

  • [3]蘇芳

    2015/03/09-22:24 

    ミオンさんって呼んでもいいかな、はじめまして!

    柿の実の隣?ってなんだかわかったの!?
    すごいなー。
    近いキスってなんだろね?逆に近くないキスってある?(笑)

    ヨシュア:ほんとにわかってないっぽいねこの子は......
    俺がフォローしないとうちはランプつかないよねー(笑)

  • [2]ミオン・キャロル

    2015/03/08-15:10 

    蘇芳さん、ゼロさん、初めまして。

    色々見回ってら疲れちゃったわ。
    歌を聴きながらお茶が出来るなんて素敵なお店ね。

    …って愛にキス?
    ええっと、この子達、何を言ってるかしら(入る店を間違えたと狼狽中…)

  • [1]蘇芳

    2015/03/07-00:34 

    はじめまして、新米の蘇芳です。
    精霊はファータのヨシュアだよ。
    ヨシュアが甘いもの大好きなんだ。私も好きだけど。
    すてきな歌声、聴けると良いね。


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