【灯火】家族になれたら(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 彷徨える「バザー・イドラ」は、夜な夜な現れる神出鬼没の不思議なバザーだ。
 「幸せの灯火」を集めるため、ウィンクルムはショコランドの王家から貴重なアイテム幸運のランプを借りていた。このランプがあれば、ほぼ確実に「バザー・イドラ」に辿り着け、そして身の回りで小さな幸せが起きると、ランプに火が灯るのだ。幸せは自分自身のものでも良いし、自分と少しでも関わりのある誰かのものでも良い。

 さて、幸運のランプを持ったウィンクルムは、首尾よく「バザー・イドラ」に遭遇することができた。
 夜の闇に数多くのテントが並ぶその景観は、たっぷりのメルヘンの中にちょっぴりのダークさも混ざっているようだった。

 テントの一つに、こんな看板がかかっていた。
「家族が買える家」
 ……家族が買える、という表現に首を傾げていると、テントの中から店主らしき妖精の老婆が顔を出した。占い師風の出で立ちで、手には催眠術に使うような振り子を持っていた。

 妖精の話によれば、このテントでは幸せな家族の幻想が見れるらしい。椅子に座った状態で、店主が客へ催眠術をかける。
 商売なので、つらい情景や悲しい記憶を見せるのはできないそうだ。老婆の売り物は、あくまでも幸せな家族の幻想。
 二人で同じ夢を見ることができるし、夢の記憶は目が覚めた後も覚えていられる。幻想なので、大きな豪邸も、可愛い我が子も、安楽な未来も、思いのまま。

「500jrで家族が買えるよ。夢だけどね。どうだい? そこのお似合いのお二人さん」

解説

・必須費用
幻想体験料:1組500jr

・プランについて
EXエピソードです。リザルト文字数が通常より多くなっていますが、プラン文字数は従来のままです。

そのため、プランにない細かな描写や情景などは、GMが自由設定などから想像したり、オススメするものを書く形になると思われます。参加される際は、この点をご了承ください。
プランでは、これがやりたい、これは外せない、というものを優先して書かれることを推奨します。

参照できる情報は提出されたプランと、自由設定に記載された文字のみです。情報量が不平等になってしまうため、URL先の内容は見ません。

ゲームマスターより

山内ヤトです。

幻想ですが、パートナーと家族になった夢が見られます。
「幸せの灯火」を集めることも目的なので、幻想の内容は幸せなものになります。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  「う、ん。幸せなもの、だと思う、よ。勿論、色々な事情、の家族…もいると思う、けど」
何故そんなことを聞くんだろう
勿論構わないよ

●幻想
兄妹として
夢の中では普通の喋り
「お母さん、僕今日少し遅くなるね」
「もうヒューリ…珈琲くらい自分で…しょうがないなぁ」
朝食の風景
兄への小言
学校へ行く際の挨拶等ありふれたほんわか家族

●夢の跡
可笑しそうに、微笑して目覚め

「本当の兄、は、『兄さん』って呼んでる、けど…ヒューリは、やっぱりヒューリ、だったね」
「?ヒューリの家族、は…違う、の?」
心配そうに覗き込み
相手の胸へそっと自分の手を当て
「ココ…少し、は…温かかった…?」
返答にホッ
今はヒューリがそう感じてくれたなら良い



月野 輝(アルベルト)
  家族の幻想…ってどんなのかしら?
もし亡くなった人を見れたりするなら、お父さんとお母さんに会ってみたいなって思ったのだけど

■幻想
庭付きのこじんまりとしてるけど洒落た家
庭には自分とそっくりな男の子を肩車している精霊の姿
「お母さん」と子供に呼ばれて家の中から出てくる今より少し大人になった姿の輝


アルにそっくりな男の子
お父さんがアルでお母さんが…私?
普通に笑って、普通に平和で幸せそうな家族
ここまで考えた事無かったけど、でもこういう未来が本当にあったら…

これは私の願望よね
アルも?本当に?

ね、私はこんな風にずっと傍にいたい
傍にいてもいい?

この歳になってアルを兄だなんて思ってないわ
アルこそ私を妹扱いしてない?


かのん(天藍)
  2人の家族と聞き恋人の天藍を意識


場所、かのんの自宅の庭

庭のテーブルセットで幼子をあやしている
天藍からお茶を受け取り子守を交代

庭仕事中、風のように横切る少年
するすると庭の木に登る
追いかけてきた天藍が叱る様子に、自分も子供の頃似たような事をしたと苦笑

怒声が聞こえ青年と天藍がお互いに胸ぐらを掴み険悪な雰囲気
水撒きに汲んだバケツの中身を2人にかけ説教
お父さんに手を上げるとは何事ですか
天藍も感情にまかせた力の行使はただの暴力でしょうと

幻が覚め隣の天藍の呟きに
凄く賑やかで楽しい日々が送れそうですねと笑顔
亡くした家族は戻らないけれど、また新しく今見たような幸せな家族を近い将来に天藍と2人で築けたらと思う



クロス(オルクス)
  アマルティ双子姉 蒼銀髪 紅瞳 クロス似 愛称ルティ 3歳

未来自身 ショートヘア

心情

面白そうな店だな
前にも見たけどもう一度あの子達に逢いたい
俺達のいつか見た未来をもう一度…

幻想
ふわぁ(欠伸
ふむ絶好のピクニック日和だ
弁当作って朝食作ってから子供達起こそう
…中々の出来かな

ルティ、ルナ朝だよ
はいおはよう(額にキス
二人でパパ起こしに行って来てくれる?
有難う頼んだよ
パパおはよう(微笑

(会話しながら食べその後出掛ける準備
車で少し遠くにある小高い桜が綺麗な公園へ
到着後子供達と遊んだりお弁当食べたり
夕飯は外食で帰りの車中で疲れて寝る子供達

オルク、この幸せを護る為に頑張ろうな

☆幻想後
本当になれば良いのにな(小声


アンダンテ(サフィール)
  幻想だとしても幸せな家族だなんて素敵ね

同じ夢
一軒家に家族四人暮らし
子供は男女一人ずつ
服装も落ち着き眼鏡

夫の帰りを子供達と待ちながら楽しく過ごす
みんなで一緒に食卓を囲み賑やかで和ましい光景に微笑む

現実
家族って事はつまり私達は夫婦役って事だったわね…

サフィールさんから見ても幸せな家族だった?
私は流星融合の時に両親と逸れたっきりなのでもう碌に顔も思い出せないのだけれど…
私の両親もあんな感じの笑顔で私の事を見てくれていたのかしら…

未来はどうなるのか分からないけど、あんな未来もきっと素敵よね
いい刺激になったわ
まあ今があるから未来もあるんだもの
よりよい未来が掴めるように、明日からも頑張りましょうね


●いつか見た未来をもう一度
「家族が買える店……か。面白そうな店だな」
 妖しい雰囲気満載のテントや妖精の老婆をしげしげと眺めた後で『クロス』はパートナーである『オルクス』に意味深な視線を向けた。
「あぁ、そうだな」
 オルクスもまた、家族や夢といったキーワードに心惹かれるものがあったのだろう。クロスの眼差しを受け止めて、彼は肯定の頷きを返した。
「前にも見たけどもう一度あの子達に逢いたい。俺達のいつか見た未来をもう一度……」
「よし催眠術で一緒に見に行こう。いつか夢で逢えたあの子達に」
 オルクスはクロスに微笑んだ。
 「バザー・イドラ」で見つけた、幸せな夢を見せる商売をしている妖精。店主である催眠術師の妖精に、二人は夢の対価を支払う。
 仄暗いテントの中に案内される。リラックスして椅子に座るように指示され、いつしかクロスとオルクスの意識は、幸せなまどろみの世界に一つになって落ちていく。

 ふわぁ、と欠伸をするクロス。長かったはずの彼女の青い髪は、ショートヘアになっていた。
 爽やかな朝の日差しが、カーテンごしに差し込んでいる。ここはクロスとオルクスの幸せな幻想世界だ。
「ふむ。絶好のピクニック日和だ」
 窓から朝日を見て、これからはじまる一日を想像し、クロスは笑みを浮かべる。
 キッチンで朝食とピクニックのお弁当を作るクロスの表情は、穏やかな幸せに満ちていた。
「……中々の出来かな」
 満足気に独り言をこぼす。現実世界で調理や家事のスキルを持っているだけあって、夢の世界にもそれはリアリティとして反映されていた。
 食事の支度ができたところで、可愛い子供達を起こさなくては。
「ルティ、ルナ朝だよ」
 アマルティとルナティスは双子の姉弟で、どちらも三歳児。
 アマルティはクロスに似た容姿に紅い目を持ち、ルナティスはオルクスに似た容姿に銀の目とテイルスの精霊の特徴を宿している。
 二人の子供に共通したその輝くような髪を色で表すとするならば、それは蒼銀。
 父母の特徴をそれぞれ受け継いだ双子は、眠りから覚めてクロスに微笑みかける。
「はい、おはよう」
 ちゅっと小さな音を立てて、子供達の額におはようのキスをするクロス。
「二人でパパ起こしに行って来てくれる?」
 この時間になっても、オルクスはまだ寝ているようだ。双子はちょっとイタズラっぽい笑みと視線をかわしてから、クロスの頼みを承諾した。
「有難う。頼んだよ」
 すやすやと眠っているオルクス。彼のいるベッドに、アマルティとルナティスが突撃! 子供ならではの無邪気さと強引さで、ベッドにダイブした。
「うぐっ!? ……お、おはよう二人共……」
 ベッドの中から、ゆっくりとオルクスが姿を現す。背中まである髪を後ろで結いている。やや落ち着いた大人っぽい雰囲気だ。
「起きた、起きたから飛び跳ねるんじゃない」
 まだ元気いっぱいに暴れている双子に、狼狽気味に降伏する。
「そしてお願いだからもう少し優しく起こしてくれ」
 片手でアマルティの頭をなで、もう片方の手でルナティスの頬に触れながら、オルクスは子供達に言い聞かせる。
「さぁママのご飯が待ってるぞ」
 キッチンから、食欲をそそる良い匂いがしてきた。
「クーおはよう」
「パパおはよう」
 挨拶をかわす二人。現実世界においても、親しい者からはオルクロ夫婦と認識されることもあるほど仲の良いウィンクルムだが、この夢の中では本当の夫婦として存在していた。
 幻想の舞台は庭付きの一軒家。ここに家族四人で暮らしている。
「天気予報によれば、今日は一日、気持ちの良い晴れが続くらしい」
 そうクロスがオルクスに告げる。
「へえ。それじゃあ絶好のピクニック日和だな」
「ふふ。朝起きた時に、パパと全く同じことを思った」
 そんな小さな幸せを噛みしめる。
 クロスとオルクスは今日の予定について、アマルティとルナティスは今朝見た面白い夢の冒険譚を。わいわいと賑やかに家族で会話をしながら、和やかに朝食の時間が進む。
 出かける準備には、ちょっとだけ手こずった。三歳の子供二人を相手にキチッと支度をさせるのは、なかなか難しいことだ。だけどクロスとオルクスは、そんな手間さえも楽しんでいるようだった。クロスもオルクスも子供好きで保育の技術もある。
 準備ができたら、家族そろって車に乗り込む。クロスは自動車の運転が上手い。
 少し遠くにある小高い公園に向かう。その公園では桜がキレイに咲いているのだ。
 目的地に到着すると、双子は思いのままに遊びまわった。自由に遊べるように解放されている草地の上でキャッチボールをしたり、ヒラヒラと舞う桜の花弁を気ままに追いかける。
 昼食の時間になれば、ピクニックシートを広げてお弁当にする。
「美味しい!」
 と、ごきげんな双子の声がハモる。
「当然だろう。クーは料理上手だからな」
 嬉しそうな顔でお弁当を食べる家族の姿をクロスは温かく見つめる。
 草地の周囲には花盛りの桜の木が並んでいた。
「桜、キレイだな」
 オルクスの声にクロスも頷く。
「ああ……」
 夕方近く。家に帰る前に外食にする。小さい子供を連れているので、洒落た店よりもファミリーレストランの方が気軽に入れるだろう。
 味はクロスの手料理には及ばないが、レストランでの食事も楽しい。
「クリームソーダ!」
「お子様ランチ!」
「ルティにルナ。楽しいのはわかるが、もうちょっとだけ静かにな。ここは大勢の人が食事をする場所だ。マナーを守ってお行儀良く、だ」
 双子がはしゃぎすぎないよう、時にはビシッと注意するところが、良いお母さんといった感じだ。
 そんなクロスを見て、オルクスも穏やかな気持ちになる。
 外食を楽しんだ帰り。アマルティとルナティスは、後部座席でうとうとと眠ってしまった。遊び疲れたのだろう。
 安全運転で車を走らせ、家を目指す。
 見慣れた道に出た。あの角を曲がれば、もうすぐ家に着く。
「オルク、この幸せを護る為に頑張ろうな」
「あぁそうだな……。この幸せがいつまでも続く様に……」
 充足感が二人の心に満ちていった。
 そして、幻想の幕は静かに閉じる。

 夢から覚めても、なんだかまだ夢を見ているような、不思議な気分だった。
「本当になれば良いのにな」
 ほのかに顔を赤らめながら、小声でクロスがつぶやく。
 オルクスもそれに答えて、ささやき返す。
「いつか現実にしたいな」

●理想の未来を垣間見て
 「家族が買える家」と銘打ったテントに、妖精の老婆の客引き文句。
「二人の家族……」
 『かのん』は家族という言葉を聞いて、思わず隣にいる恋人の『天藍』のことを意識した。ドキドキしながら彼の方へ視線を向ける。
「あの……、天藍……」
 かのんの気持ちを天藍もちゃんとわかっているようだ。
「家族か。興味を惹かれるな。少々怪し気な店だが、危険なものじゃないだろう」
 ちょっとダークで不思議な雰囲気が漂っているのは、ここ「バザー・イドラ」の特色だ。
「いつか俺達二人で築く家庭を垣間見れたら……と思わないか?」
「はい」
 天藍がかのんを促す形で、テントの中に足を踏み入れた。
 そして妖精が二人に催眠術をかける。かのんの記憶と天藍の意識が混ざり合い、二人で一つの夢を見る。

 緑あふれる穏やかな場所。夢の舞台となったのは、かのんの自宅の庭だった。
 庭に置かれたテーブルセット。そこで幼子をあやしている女性はかのんだ。テーブルの上には空のカップが所在なさげに置かれている。
 かのんが腕に抱いているのは、まだ生を受けて間もない命。慈しむような表情を浮かべて、かのんはその子に惜しみなく愛情を注いでいる。かのんの小指を幼子の手が意外な強さで握る。
 みずみずしい植物の香り。ほんわりと甘いミルクの香り。そこに、新たにお茶の香りが加わった。
「かのん。付きっきりでずっと子供の世話をするのは大変だろう。少し休憩したらどうだ?」
 淹れたてのお茶のセットを用意して、天藍がやってきた。かのんと幼子の体調面を考えて、最近はカフェインレスのお茶を選んで飲むことが多い。
「そうしますね。ありがとう」
 かのんにお茶のおかわりを渡して、今度は天藍が子守を交代する。緊張のせいか、少しぎこちない手つきで、天藍はその子を大事に大事に抱いた。
「命ってすごいな。まだこんなに小さいのに、心臓の鼓動をハッキリ感じる」
 腕の中で息づく小さな命に、驚きと安らぎを感じる天藍。
 その隣ではかのんが優しく微笑んでいる。

 どこかで時計の秒針がトッと動く音がした。
 いつものように、かのんはガーデニングに勤しんでいた。今日は鉢植えの移植作業に精を出す。
 ふと、少年がサッと庭を横切った。軽やかで素早いその動きに、かのんは一瞬風が吹いたのかと勘違いしたほどだ。
 少年はするすると身軽に庭の木に登っていった。今度はまるでリスのよう。
「コラーッ!」
 少年を追いかけて、天藍が庭にやってきた。
「イタズラをしたあげく逃げ出すとは良い度胸だ! これはみっちり叱る必要がありそうだな」
 少年と天藍のやり取りを見ただけで、かのんは何があったのかだいたい理解した。なんだか微笑ましい気持ちになって、ついクスッと笑いをこぼしてしまった。
 毒気を抜かれた顔になって、天藍が問いかける。
「これって笑うところか? かのん」
「いえ。でも昔を思い出してしまって」
 木の上の少年に困ったような苦笑を向けてから、かのんが天藍の質問に答える。
「私も子供の頃、似たようなことをしていましたから」
 心強い仲間を得たとばかりに、少年はちょっとナマイキな顔つきで天藍を見下ろした。
「まったく。仕方がないな……」
 かのんと少年を交互に見て、天藍もまた苦笑いを浮かべるのだった。

 どこかで時計の長針がカチッと進む音がした。
 庭の水撒き用にとバケツに水をくんでいる時だった。ふいに、かのんの耳に不穏な怒声が届いた。ハッとして顔をあげる。
 もはやその声は、大人がイタズラっ子をたしなめるような甘いものではない。
 急いで庭の裏手に駆けつければ、凛々しく成長した青年と天藍が、お互いの胸ぐらをつかんでいた。両者はとても険悪な雰囲気で睨み合っている。ここからいつ本格的な喧嘩が起きてもおかしくはない状況だ。
 とっさにかのんはバケツの水を青年と天藍にぶちまけていた。
「二人共っ! いい加減頭を冷やしなさい!」
 突然水浸しにされた二人は、唖然として顔を見合わせている。
 それから腰に手を当てて、かのんのお説教がはじまる。
「お父さんに手を上げるとは何事ですか」
 有無をいわさぬ口調と迫力の眼差しで、かのんは二人の男を叱りつける。
「天藍も感情にまかせた力の行使はただの暴力でしょう」
「それは……なんというか……。最初は単なる意見の行き違いだったんだが……。なあ?」
 かのんに叱られ、気まずそうな天藍の言葉に、青年もコクコクと頷いた。
 うつむきがちにボソッと青年がこぼした一言。
「家で一番強いのは母さんだよな」
 そのつぶやきに、天藍は肩を竦める。

 どこかで時計の短針がコチッと進む音がした。
「ここまで育ててくれてありがとう。母さん、父さん。今まで本当にお世話になったよ」
 一人前の大人として社会に出ていく、かのんと天藍の息子。
「面と向かってこんなことをいうのは照れくさいけど……。二人の子供として産まれて、幸福だったって思うんだ」
 誇りと希望を胸に抱いて、彼はこれから親元から飛び立っていく。
 独立していく息子の姿に、かのんは涙ぐんでいた。その肩を天藍がそっと抱き寄せ、息子の門出を二人で見送った。
 どこかで時計の鐘が鳴り響く。音はじょじょに大きく、ハッキリしていく。それは時の進行と幻想の終焉を告げる鐘。

 テントの中。幻から覚めてすぐ、椅子に身をゆだね半ば無意識に出た天藍の一言。
「子供は兄弟が多い方が良い」
 言葉にした後で、天藍は自分の発言に気づく。この言葉をかのんはどう思うだろうか、と不安になった。不用意だったか、口を滑らせたかと、天藍は隣にいるかのんの様子を気にかける。
 彼がふともらしたつぶやきは、かのんも聞いていた。
「凄く賑やかで楽しい日々が送れそうですね」
 屈託のない笑顔でそう返す。
「……かのん。そうだな」
 笑顔での同意に、天藍はホッと安堵した。二人で同じ思いを共有している。その事実が嬉しい。
 かのんは思う。
 自分が亡くした家族は戻らない。かのんは両親と早くに死別している。けれど、また新しく今見たような幸せな家族を近い将来に天藍と二人で築けたら……。
 天藍は思う。
 いつか遠くない未来でかのんの寂しさを埋められる位の温かな家族を二人で作れたら……。

●よりよい未来が掴めるように
「幻想だとしても幸せな家族だなんて素敵ね」
 そう言ってのける『アンダンテ』に、『サフィール』はやや困惑気味に応じる。
「それは、構いませんが……」
 妖精の老婆の謳い文句から解釈すれば、この幻想は自分達が夫婦になる前提だろう。それなのに、アンダンテときたらずいぶんと軽い。サフィールはそう思っていた。
 彼の思惑をよそに、アンダンテはおっとりほんわかとした雰囲気でテントの中に入っていく。少し迷ってから、サフィールもすぐにアンダンテの後に続いた。
「ここの雰囲気って独特でミステリアスだわ。たくさんのテントがあって。なんとなく、旅芸人の一座みたいね」
 視力の弱い彼女の目にも、「バザー・イドラ」の光景はぼんやりと映っていた。日常的に占い師の出で立ちをしているアンダンテは、まるで「バザー・イドラ」の商人の一員のようでもある。だが実際は大切なお客さまだ。それに同じ占い師の格好をしていても、アンダンテと妖精の老婆では外見の魅力は大違いだ。
 店主の妖精は二人を椅子に座らせると、売り物にしている催眠術をかけた。妖精の魔法の力に導かれて、アンダンテとサフィールは同じ夢を見る。

 夢というと曖昧だとかぼんやりといった不確かなイメージが強いが、アンダンテの夢はとってもクッキリハッキリ見通しが良かった。現実のアンダンテが見ているものよりも、クリアな視界だ。
 なぜならば、夢の中のアンダンテが眼鏡をかけていたからだ。服装も、占い師の派手な衣装ではなく、落ち着いた感じの普通の衣服になっている。……アンダンテには服のセンスがない疑惑がかけられているものの、一応夢の中で着ている服は地味ではあるがそれほど不自然なものではない。
 一軒家に家族四人暮らし。子供は男女一人ずつだ。
 夫であるサフィールは仕立て屋の家業を継いだため、いつもこちらの家にいられるわけではない。アンダンテと二人の子供のいる家に通う形だ。少々珍しいが、これも家族のあり方の一つだ。家を出る時も帰った時も、家族が出迎えてくれる生活に、サフィールは幸せを感じている。
 アンダンテと子供達はサフィールの帰りを待つ。待つといっても、そこには追い詰めた感情や離別の悲哀はない。あくまでもそれぞれの時間を穏やかに過ごしながら、サフィールが家に戻るのを家族で楽しみにしているのだ。
「ただいま」
「お父さんだ!」
「おかえりなさい!」
 こちらの家に帰ってきたサフィールを子供達が玄関まで迎えに出る。子供はどちらもサフィール似だ。可愛いし良い子だが、アンダンテの色が出なかったのはもったいないと思う。アンダンテの髪や瞳には独特の色彩があり、濃淡や光の加減で様々な色に見えた。
 子供達の後で、家事をしていたアンダンテも一時手を止め、にこやかに夫の帰りを歓迎する。
「おかえりなさい。あなた」
「ええ。今戻ったところです。……おや? ア、アンダンテ、家の中に煙がっ!?」
 もくもくと白い煙が玄関近くにまで漂ってきている。
「あら、いけない」
 慌てつつも、やはりどことなくおっとりとした挙動で、アンダンテがキッチンに向かう。サフィールも子供二人を家の外に避難させてから、彼女の手助けに急ぐ。
「アンダンテ! 無事ですか」
「ええ、私は平気よ。でも……おかしいわね」
 キッチンを見渡しても特に火災の気配はない。
「あ、こっちね」
 アンダンテが何かに気づいたように、いそいそとバスルームにいく。そして、うっかり出しっ放しにしていた温水の蛇口をキュッとしめた。バスタブからは、ホカホカのお湯が溢れ出していた。
 白いモヤは火事の煙ではなく、この湯気だったらしい。
 母親になってもこういうちょっと抜けているところは変わらない。
「やれやれ、人騒がせですね。相変わらず抜けてるんですから」
「ごめんなさいね」
 ホッとしてサフィールは、アンダンテに優しい苦笑を向けた。これぐらいの軽いハプニングはご愛嬌だ。
 落ち着いたところで、食事の時間。一家四人で食卓を囲み、会話に花を咲かせながら楽しく食事をする。賑やかで和やかな光景だ。
 アンダンテは心穏やかな気持ちになり、微笑んでいた。
 夢の中でも。

 現実でも。
 一家四人の食卓はフッと消えていき、アンダンテは妖精催眠術師のテントに置かれた椅子に座っていた。それに、視界もぼんやりとしたものに戻っている。
「……あ。夢が終わってしまいましたね」
 おぼろげな視界の中でサフィールの声を認識して、アンダンテは照れながら小声でつぶやいた。
「家族って事はつまり私達は夫婦役って事だったわね……」
「考えてなかったんですか」
 老婆の宣伝の言葉を聞けば、夢の中で夫婦役として振る舞うことになるのはわかりそうなものだ。サフィールはそんなアンダンテに呆れつつ、彼女が照れたことで自分もまた恥ずかしくなっていた。
 お互いに沈黙がおりる。心臓がトクトクと鳴る感覚だけがあった。
 沈黙を破ったのはアンダンテからだった。
「サフィールさんから見ても幸せな家族だった?」
「幸せそうでしたよ」
 心のままに即答してから、サフィールはじっくりと幻想の光景を思い返して付け加えた。
「笑顔が絶えない家庭でしたね」
「そう」
 アンダンテの顔には、笑みではなく遠い疑問が浮かんでいた。
「私は流星融合の時に両親と逸れたっきりなのでもう碌に顔も思い出せないのだけれど……。私の両親もあんな感じの笑顔で私の事を見てくれていたのかしら……」
 さらり、と重い話をするアンダンテに、サフィールは反応に悩んだ。
 だがアンダンテはすぐに未来の話をはじめた。
「未来はどうなるのか分からないけど、あんな未来もきっと素敵よね。いい刺激になったわ」
 心の切り替えが早い、とサフィールは少し感心する。
「まあ今があるから未来もあるんだもの。よりよい未来が掴めるように、明日からも頑張りましょうね」
「そうですね」
 前向きな彼女の意見に、サフィールも後押しするように頷いた。
 テントを出て、アンダンテとサフィールは「バザー・イドラ」の不思議な喧騒に戻っていく。
「……」
 あの催眠術で見た光景が実際の事になるかどうかは不明にしても確かに幸せそうで、ああなっても悪くはない。サフィールはそう感じていた。

●兄と妹として
「……家族とは、通常『幸せ』を感じるものなのかね……」
 つぶやくような『ヒュリアス』の言葉を『篠宮潤』は聞き逃さなかった。
「う、ん。幸せなもの、だと思う、よ。勿論、色々な事情、の家族……もいると思う、けど」
 素直にそう答える。家族の幸せをしっている潤には、ヒュリアスがどうしてそんなことを聞くのかわからなかった。
「……この店で幻想を体験してみても良いかね?」
 幸せな家族の夢というものに興味を示して、潤に了承をとるヒュリアス。彼は幸せな家庭がどういうものなのか、知らない身の上だった。
「そう、だね。勿論構わないよ」
 二人は店主の老婆に幸せな家族の幻想を体験したいと頼んだ。
 兄と妹として。
「うん? なんだって? 兄妹になりたい? 夫婦ではなく?」
 妖精が口にした夫婦という単語に対して、潤とヒュリアスはそれはちょっと……という反応を見せた。夫婦ではなく、兄と妹になって家族の体験をしてみたいのだ。それが二人の希望だった。
「ええと。ちょいと待っておくれ。色々と確認することがあるから」
 妖精は商売関係の書類を取り出した。各種の規約や取り決めの事項をじっくり読んでいる。
「うーむ。アタシは家族になれると商売の宣伝をした。基本的に、この催眠術で男女が夫婦気分を楽しむことを想定していたんだが……夫婦にしかなれない、とは厳密に定めてなかったねえ。そして兄と妹って関係も、家族であることに違いない」
 妖精の想定していたものとは異なるが、潤たちの要望はこの店の営業ルールに反しているわけではない。実行可能だ。それによって特にペナルティやマイナスの影響なども発生しないので安心してほしいと妖精が説明した。
「兄と妹か。うん、そういうアイディアもなかなかステキじゃないか! それじゃあ催眠術をかけるよ」

 幻想の家族が、朝食の席に集まっている。穏やかな一般家庭。仮想の父母と、兄のヒュリアスに妹の潤という家族構成だ。
 美味しそうな朝食の香りが漂う。今日は、パンやスクランブルエッグに、パリッとしたソーセージにみずみずしい野菜サラダといった洋風の朝食がテーブルの上に並んでいる。珈琲に合いそうなメニューだ。
「お母さん、僕今日少し遅くなるね」
「あら、そうなの。わかったわ。あまり暗くならない内に帰ってこられると良いわね」
 母親に予定を告げる潤の言葉は、言い淀むことなくハキハキしている。現実と夢の違いだ。
「うん。遅くなりすぎないよう気をつけるよ」
 パンに塗るジャムをとろうとして、潤が立ち上がる。
「立ったついで、だ。珈琲頼む」
 立ち上がった潤に、遠慮無く頼み事をするヒュリアス。妹をこき使うのは兄である者の特権だ。
「もうヒューリ……珈琲くらい自分で……しょうがないなぁ」
 なんだかんだと小言を言いながらも、潤はヒュリアスのために珈琲をいれて渡す。
「はい、どうぞ」
「すまんね」
 香ばしくてほろ苦い珈琲。その香りを堪能してから、ヒュリアスは大切そうにカップに口をつけた。
 しばらくモグモグと皆で食事を続けた後で、ヒュリアスは壁にかけられた時計の針にチラリと視線を向けた。
「ウル、遅刻ではないか?」
 時計を見て、潤はビックリと目を丸くする。
「ええっ!? ああ、もうこんな時間だ! 遅刻しちゃう! ヒューリが僕に珈琲頼んだりするからだよ」
 潤が文句の一つもこぼせば、ヒュリアスはヒュリアスですました表情で答える。
「俺は親切に時刻を教えてやったのだがね? 非難されるいわれはないのだよ」
「ほらほら。二人共、言い争ってないで」
「学校に遅れるぞー」
 穏やかな声で、二人の兄妹喧嘩をなだめる両親。
 優しくほんわかとした両親のイメージは、潤の心をベースに形成されている。潤は父子家庭で兄と共に育てられた。母親こそ不在だったが、家族の大切さならしっている。
 実際の両親に対しては思うところのあるヒュリアスだが、幻想の中では違和感なく家族と馴染んでいた。両親に優しくする自分、優しくされる自分。それは彼にとって、とても新鮮な体験だった。
 どこまでも笑顔が絶えない家族。ありふれているが、幸せに包まれた、そんな家族の幻想。

 潤は楽しげに微笑みながら目覚めた。
「あはは……! 楽しかった、よ。僕、と……ヒューリが、兄と妹って、面白い、よね」
 最近、潤はヒュリアスのことを打ち解けてきた友として認識している。以前はまだ二人の間には心の距離があり、とりあえず当たり障りない仲間といった関係だったのだが、二人で色んな経験をする内に友としての感覚が芽生えてきた。
 友と家族になる夢は、潤にとって楽しい体験だった。
「本当の兄、は、『兄さん』って呼んでる、けど……ヒューリは、やっぱりヒューリ、だったね」
 一方ヒュリアスは、かつてないほど呆けた表情をしていた。
「……ウルに『兄さん』と呼ばれるのは……想像つかんな」
 彼が一度苦笑いをしたのは、内心にうごめく複雑な感情をごまかすためだった。
「そうか……。これが幸せな家族といわれているものなのだね……」
 感情を抑えながら、ヒュリアスは低い小声でつぶやいた。
「? ヒューリの家族、は……違う、の?」
 心配するように、潤がヒュリアスの顔をのぞき込んだ。
「……っ」
 感情は抑えたつもりだったが、その戸惑いを隠し切ることはできなかった。観念するように、ヒュリアスは自分の家族のことを少しだけ明かす。
「血の繋がりが……家族というなら、居る、が……。今の幻想とは全く違うな……」
 それだけいうと、何かを堪えるようにヒュリアスは目を閉じる。彼の家庭の詳細な事情は、今はそれ以上わからない。それでも彼がつらそうなのは、誰の目にも明らかだった。
「……ヒューリ」
 潤はそんな彼の様子を気遣うようにしばらく見つめていたが、やがて静かにその手を動かした。ヒュリアスの胸へ、自分の手をトンと優しく当てる。
「ココ……少し、は……温かかった……?」
 彼の心臓のある辺りに、潤はそっと手を置いた。
 胸に当てられたそのぬくもりで、険しく苦しげだったヒュリアスの表情が少しずつゆるんでいく。
 潤の手を覆うように、ヒュリアスの手が重ねられる。彼はだんだんと心の落ち着きを取り戻していくようだった。
「……ああ。これが『幸せ』だとは、分かった」
「そっ、か」
 その返答に、潤はホッとする。
 今はヒュリアスがそう感じてくれたなら、それで良い。潤は素直にそう思える。
 二人で重ねた手は温かかく、ヒュリアスの心臓は穏やかに鼓動を刻んでいた。

●二人の願望が重なる時
「家族の幻想……ってどんなのかしら?」
 『月野 輝』が、店の方を興味深そうにチラリと眺めた。
「もし亡くなった人を見れたりするなら、お父さんとお母さんに会ってみたいなって思ったのだけど……。どうもこのテントで体験できる夢は、そういう主旨とは違うみたいね」
「ええ。そのようですね」
 亡くなった両親に再会したいという願いは『アルベルト』も同じだ。しかし、どうやらこの店で売り物にされている幻想はそういうものではなさそうだと、二人共すぐに察した。
 ただ、妖精の老婆が口にする幸せな家族の幻想という言葉に惹かれて、輝とアルベルトは催眠術を受けてみることにした。
 テントに入ると妖精の老婆から椅子に座るよう案内され、振り子を用いた催眠術が二人にかけられた。

 二人の幻想がはじまった。
 舞台となるのは一軒家。サイズはこじんまりとしているが庭付きで、外装などのデザインが洗練されている洒落た家だ。庭には青々とした芝生が生えている。芝は適度に刈り込まれており、手入れが行き届いていることが見てわかる。整然とした美しい家の佇まいからは、どことなくマキナ的な印象を受けるかもしれない。
 その庭で、誰かが男の子を肩車している。そして肩車されている少年は、アルベルトの面影を宿していた。
 夢の中でもアルベルトの意識は冷静かつ明晰で、情景を俯瞰するように周囲を観察していた。
 この家は、幼い頃に住んでいた家に似てはいるものの、細部が微妙に違う。肩車をされている子供も、風貌が似てはいるがどうやら幼い頃の自分ではないらしい。少年の父親は自分の父とは別人だと感じる。
 といった具合に、アルベルトの意識はこの夢世界の配役を静かに分析している。
「お母さん」
 少年がそう呼べば、家の中から母親が姿を現した。その女性は、輝だった。今現在の姿より、少し大人の雰囲気へと変わっている。
 母親が輝と判明したところで、庭を見下ろすように宙に浮かんでいたアルベルトの意識が、子供を肩車している男性の体にすうっとまじわり一体化する。この夢の配役では、彼が父親だからだ。
「お父さんがアルでお母さんが……私?」
 夢の中の自分の立場を確認するように、輝は不思議そうな表情で辺りをキョロキョロ見回した。
「どうしたの? お母さん」
 少年は父親であるアルベルトに肩からおろしてもらい、輝の方へと駆け寄ってきた。無邪気な笑顔で、輝とアルベルトを親として慕っている。明るい笑い声をあげながら、少年はお母さんのことが大好きな気持ちを示そうと、輝の手をギューッと握った。小さくて可愛らしい子供の手だった。
 輝とアルベルトが夫婦になって。二人の間の子供はアルベルトにそっくりで。小さいけれどステキな家があって。
 気づけば、いつの間にか輝も笑顔になっていた。
 普通に笑って、普通に平和で。幸せそうな家族の姿がそこにあった。
 ここまで考えた事は無かったが、こういう未来が本当にあったら……。夢の中で穏やかな幸福感に包まれて、輝はそんなことを思った。
 アルベルトも、夢の光景に対して強い感情を抱いていた。自分が失くしてしまった光景を、輝と一緒に取り戻したい。そう願えば、彼が心の奥に押し込めていたはずの光景が広がっていく。これが現実になったら本当に幸せだろうなと、アルベルトは夢の中でそう思う。

 やがて楽しい幻想の時間は終わり、二人は静かに目を覚ました。テントの中にある椅子に背中を預けた姿勢で眠っていた。テントの中は適度に仄暗く、店主である妖精の姿は見当たらない。席を外しているようだ。テント内の別の場所にいるのだろう。つまり今この閉ざされた空間にいるのは、輝とアルベルトの二人きりということだ。
 夢の内容を思い返して、輝は照れと気まずさを感じた。
「これは私の願望よね」
「すみません、私の願望が出たのかもしれません」
 輝が顔を赤らめながらそう発言したのと、アルベルトがそういって困ったように目をそらしたのは、同時のタイミングだった。
 アルベルトの予期せぬ言葉に、輝の心臓がトクッと高鳴った。
「アルも? 本当に?」
 彼の言葉が意味しているのは、二人共同じ願望を持っているということだ。輝と家族になりたいと。彼がそう思っていなければ、先ほどの言葉は出てこないはずだ。
「……」
 気まずそうな表情で沈黙してしまうアルベルト。輝が彼に尋ねているのは、とても重要な言葉だったから。二人の関係性を決める上で大切な言葉。だからこそ、アルベルトも軽々しい気持ちでこの言葉を口に出すわけにはいかない。
 ここでもし輝が消極的な態度をとっていれば、二人の関係は曖昧になったままだったかもしれない。
 しかし実際は違った。輝はごまかしや逃げの姿勢にならずに、自分の方から一歩踏み出して、ありのままの気持ちを言葉にして伝えることを選んだ。
 そして彼女のその意志と行動が、二人の運命を良い方へと導くことになる。
「ね、私はこんな風にずっと傍にいたい。傍にいてもいい?」
 うるんだ瞳をした輝が、切なさと情熱の入り混じった声でそう告げる。
「……っ、輝」
 アルベルトはわずかに動揺した。気持ちが揺り動かされているのだろう。
「輝が傍にいる事を私が拒む理由はありませんが……、いいのですか?」
 アルベルトの金色の目が、輝の顔を映す。彼の眼差しは、まだ愛情と戸惑いの間で揺れていた。
「私は……兄ではないのですよ」
「この歳になってアルを兄だなんて思ってないわ」
 アルベルトの目を見ながら、輝がハッキリと宣言する。兄とは思っていないと明確に告げる。輝の心臓はドキドキしていた。
「……アルこそ私を妹扱いしてない?」
 ふっとアルベルトが微笑んだ。
「貴女を妹だと思った事など一度もないですよ」
 彼の中にあった迷いは、真っ直ぐな輝の言葉と態度によって消えていた。輝がしっかりと自分の思いを口にしたからこそ、アルベルトもその勇気や誠実さに応えて、自分の心の内を明かそうと思ったのだ。
 アルベルトが椅子から立ち上がった。そして、椅子に腰掛けている輝に向けて、優雅に手を差し出した。
「輝は私にとってずっと、たった一人の女性でしたから」
 一人の女性として見ていた、とアルベルトが迷いのない口調と表情で、輝に告げる。
「アル……!」
 差し出されたアルベルトの手を輝がとれば、そっと優しく引き寄せられる。夢の中の少年に手を握られた時よりも、ずっと頼りがいのある彼の手の感触。
 その温かなぬくもりこそが、彼女がとった行動に対するアルベルトからの心のこもった返答だった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:月野 輝
呼び名:輝
  名前:アルベルト
呼び名:アル

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 白金  )


( イラストレーター: 梨麻  )


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月02日
出発日 03月08日 00:00
予定納品日 03月18日

参加者

会議室

  • [13]クロス

    2015/03/07-22:42 

  • [12]かのん

    2015/03/07-21:35 

  • [11]アンダンテ

    2015/03/06-22:37 

  • [10]月野 輝

    2015/03/06-07:12 

  • [9]月野 輝

    2015/03/06-07:12 

    おはようございます。顔出しが遅れちゃってごめんなさい。
    アンダンテさんは先日のウィッグ店の時に会ってるけど、他のみんなは久しぶり。
    みんな、また会えて嬉しいわ。

    どんな幻想が見られるのか楽しみね。
    それじゃ、時季外れの格好で何だけど、皆さん、

  • [8]かのん

    2015/03/05-21:03 

  • [7]かのん

    2015/03/05-21:02 

    (済みません、大きな誤字を見つけて一旦削除しております)

    こんにちは、皆さんお久しぶりです(小さく片手振り返し)

    天藍が何だか興味があるようなので、今回参加しました

    ・・・家族・・・
    今となっては、自分の思い出の中のものだとばかり思っていたのですけれど・・・

    ・・・それはともかく

  • [4]篠宮潤

    2015/03/05-19:59 

  • [3]篠宮潤

    2015/03/05-19:59 

    あ。みん、な、お久しぶり、だ(嬉しそうに片手ふりっと)
    僕、と、ヒューリも今回、参加させてもらう、よ。

    家族……
    僕、は、ごく普通、に、今の家族が幸せ、に感じてるんだ…けど…
    ヒューリ、が、珍しく興味、が、ありそう…?
    それ、じゃ、皆……――

  • [2]クロス

    2015/03/05-10:36 

    クロス:
    潤、輝、かのんさん、久しぶり!
    アンダンテさんは初めまして、だよな?
    宜しく頼む(微笑)

    家族か…
    ふふっ夏祭りの時に一度未来を見たけど、今回もオルクと一緒に見たいな…
    あの子達や可能なら父さん達と、なぁんて欲張りかも知れないけど(苦笑)
    兎に角楽しもうな!
    参加者の皆に幸あらん事を…(微笑

  • [1]クロス

    2015/03/05-10:24 


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