【灯火】坂の上できらめくものは(京月ささや マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●路地の行く手に広がる光景は

 伯爵の継承式に必要な『幸運の灯火』と集めるため、
 幸運のランプを手にショコランドを歩いていたあなたたち。
 灯火を探して街中を歩いているうちに、夕暮れがやってきました。
 そこであなたたちは気付きました。周囲の光景が今までとなんだか違うのです。

 いつのまにかあなたたちは狭い路地に入り込んでしまっていました。
 今までショコランドでは見た事のない光景…どうやら道に迷ってしまったよう。
 どうしよう…と思いつつ元きた道を少し戻った時、
 あなたたちの目の前に更に驚きの光景が広がりました。
 そこには、大小無数のテントが立ち並び、
 テントの内側には様々な商品が並べられています。
 そこであなたたちは確信しました。ここは、彷徨えるバザーなのです。

「やあやあそこのご一行、少しお願いがあるのですけど」
 ここでなら、幸運の灯火を発見することができる!
 そう思った矢先、あなたたちの足元から声がしました。
 見ると、キラキラと輝くべっこう飴で身体を包んだカカオの妖精が
 あなたたちを見ているではありませんか。
「今宵はとても嬉しい空気!おかげでここは大繁盛しているのです。
 しかしそのせいでお店は大忙し!人手が非常に足りませぬ。
 どうか、お二方のお力をかしてはいただけませんでしょうか?」

 詳しく聞いてみると、バザーが大忙しになったせいで
 この妖精のいる坂之上のテントの人手が足りないのだそう。
 妖精が働いているテントは、アメ細工のテントだそうです。

「忙しくて忙しくて…本当にネコの手も借りたいのです!!」
 ぺこり!と頭を下げる妖精。どうも本当に困っている様子。
 妖精が手渡してくれたのは、マップとチケット。
 マップには『星空サーカス』『キラリ帽子屋』『幻想本屋』
 そして『坂之上アメ細工ショップ』の文字があります。
 妖精がいうところによれば、このマップどおりに進めば
 書かれた3つのポイントと妖精のアメ細工店にゆくことができるのだそう。
 そしてチケットを使えば、地図に書かれた場所を自由に行き来でき、
 好きなものを1つだけアメ細工店に持ち帰ることができるといいます。

「新しいアメ細工のネタにも困っているのです。
 どうぞ、今から好きな場所に行ってモチーフのネタをお探しください。
 そして戻ってこられましたら…ネタをご報告いただけますか?
 もしくは、私達と一緒にアメ細工を作ってくださいませんか」
 お店にネタの提供をするだけでもよいのですが、
 なんと商品のアメ細工作りもできるなら手伝ってほしいというのです。

 さすがにアメ細工はできるかどうか…と困惑するあなたたちでしたが、
 妖精は微笑んで言いました。
「大丈夫、あなたたちには他の方々にはあまり見られない
 特別に光る何かを感じたのです。それがあれば不器用だったとしても
 お客様が笑顔になるアメ細工を作ることが出来ますよ。
 思いのこもったアメ細工はどんなアメ細工よりも笑顔を呼ぶのを私達は知っています」
 そして、妖精はこうも付け加えました。
「出来上がったアメ細工は、まずあなた方を笑顔にするために1本差し上げますので!」

 ではお願いします!と言い残して、あなたたちにチケットとマップを手渡し
 ああ忙しい忙しいと言いながら妖精はその場から去ってしまいました。
 
 アメ細工作りに協力しても、ネタを持っていくだけでも
 もしかしたら『幸せの灯火』を手に入れる事ができるかもしれない…
 そう考えたあなたたちは、顔を見合わせて頷き
 さてドコに行こうかとマップを開いたのでした。

解説

●妖精が経営するアメ細工テントについて
 彷徨えるバザーの中でもひときわ高い坂の上にあります。
 多忙のため、新作のネタ提供やアメ細工作りの協力者を募集中。
 店内にはアメを暖める機械と冷やす機械、アメを細工するハサミが用意されています。
 ベテラン店員さんからアメ細工の方法を教えてもらうことができます。

●ネタ集めとアメ細工作りについて
 地図に描かれている3つのポイントでアメ細工のネタを集めてください。
 持ち帰ったネタは、お店が回収します。
 アメ細工テントに報告されたネタを元にアメ細工が出来上がります。
 完成品は持ち帰り可能。希望すれば自分たちで作る事もできます。 

●消費ジェールについて
 マップ&チケットレンタル代金として、500ジェール消費とさせて頂きます。

●星空サーカスについて
 ゾウの球乗りや白馬のダンス、猫の綱渡りなどの動物ショーや
 ピエロの笑いや涙ありの喜劇、星空が描かれたテントを舞う空中ブランコなどを楽しめます。
 チケットを見せると好きな光景を1枚、写真に残してアメ細工店に持ち帰ることができます。

●キラリ帽子屋について
 シルクハットからヘッドドレスまで、
 綺麗に刺繍や装飾がほどこされた帽子たちが並んでいます。
 帽子の試着は自由。紳士気分やお人形気分になれるかもしれません。
 チケットを見せると、好きな帽子を1つアメ細工店に持ち帰ることができます。

●幻想本屋について
 狭い店内の中には、妖精や精霊、おとぎ話のモンスターといった
 メルヘンや幻想に満ちた生き物についての書籍がひしめいています。
 知らなかった動物の名前や知りたかった動物の姿や情報を
 見つけることができるかもしれません。
 チケットを見せると、好きな本を1冊だけアメ細工店に持ちかえることができます。

●その他
 アメ細工店の裏庭からは、坂の下に広がるバザーの全景を見渡すことができます。
 休憩用に設置されたベンチにすわると、
 夜景に点々と光るテントの光が綺麗に見えます。

ゲームマスターより

こんにちは、京月ささやです。

今回のエピソードは、彷徨えるバザーの3つのポイントで
アメ細工のネタ探しをしつつデートを楽しんでいただき、
可能であればアメ細工体験もしながら
自分たちとお店、お客のみんなの幸せを感じようというエピソードになります。

アメ細工もキャンディのうち。
ネタやアメ細工にどちらがどんな想いを込めるかは皆様次第となっております。
EXのため、これまで以上に皆様の思い出として強く印象に残りますよう
ホワイトデーならではの思い出作りになれればと思っております。
宜しくお願いいたします! 

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  何処も素敵な所ですね。悩んじゃいます。

サーカスってなんだかドキドキしますよね。
白馬のダンスの猫の綱渡り…あんな大きい体でダンスが出来るんですねー。猫ちゃんもすごく器用です。
星空が描かれたテントとっても綺麗です。今度ゆっくり星空でも見に行きたいですねー。

帽子屋さん。えっ?これイヴェさんが選んでくれたんですか?レース編みの花がいっぱいついたヘッドドレス…。
どうでしょう似合いますか?ふふ、ありがとうございます。

イヴェさんは飴のデザイン考えましたか?白馬とかイヴェさんに似合いそうなのですが難しいですよね。
この飴私にくれるんですか?思いを聞いた時にいじわるしたからそのお詫び?ふふ、もう怒ってませんよ。


日向 悠夜(降矢 弓弦)
  弓弦さんはやっぱり本屋さんが気になっているよね
先ずは其処に行こっか
素敵な本がいっぱいだね…弓弦さんも楽しそう

私の行きたい所?それじゃ…サーカスが良いな
わぁ…凄い!
実はね、旅をしていた頃にサーカスの虜になっちゃって…大好きなんだ
星空を手を取り合って泳いでいる様な…そんな空中ブランコの一瞬を写真で切り取るね

お店に戻ったら写真とイメージを伝えるね
キラキラとした星空を閉じ込めている…難しいかな?

綺麗…食べちゃうのが勿体ないね
弓弦さん、くれるの?
春…私たちが初めて出会った季節だね
…ありがとう

私からも飴を差し出すね
好きなものを共有出来て嬉しかったから、受け取って欲しいんだ

●使用スキル
撮影
◆チケット2回使用


ペシェ(フランペティル)
  デザインに関わることはフランが得意ですよね

■サーカス
つい夢中になってリアクション大きめに
チケット:馬のダンス

■帽子屋
綺麗な帽子を次々着せかえられ
もう、フラン!ネタ集めが目的ですよ!

■幻想書店
沢山の本に目移りしてしまいますね
も、目的は忘れてませんよ?
チケット:ユニコーンの本

清らかな乙女にだけ心を開くそうです

■集めたネタを報告
お手伝いで馬を作ったつもりですが猪になってしまいました…
道具を渡してフランの作業をサポート
綺麗な白い指が器用に動いて作っていく様に見とれます
火傷には気を付けて下さい

折角作ったものをくれるんですか?
嬉しいけど、私の作ったものじゃ綺麗じゃないし、嫌でしょう?

そ、それ、どういう…



紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  とりあえず一通り回るわよ
折角のバザーは、楽しまなきゃ

賑やかなサーカスは、好き
帽子は普段被らないから、とても気になる
本は読みだしたら止まらなさそう

…咲姫、幾つ持って帰る?
あたしは、一つで良い

選ぶのはサーカス
ピエロもブランコも楽しかったけど
あたしが形にしたいのは、星空の天井
天井だけの写真って、怒られるかな
でも、楽しい、は、あたしの感情の中で残したいから
星空天井モチーフの飴細工を見て、あぁ楽しかったなって思い起こしたい
…飴細工チャレンジ、してみようかしら

咲姫は、帽子?
…シルクハット、似合うじゃん
咲姫、あのね
あたし、咲姫の男の子らしいとこ、好きよ
でも、綺麗な「姉さん」も好き
困ってんの。どうしよ、兄さん


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  アメ細工のネタ、頑張って見つけますよ!

星空サーカス
サーカスってワクワクしますよね♪
空中ブランコが凄く好きですっ
まさにプロの技ですよね
そして、サーカスといえば、ピエロさん!
ピエロさんに写真を撮らせて貰いましょう
皆が笑顔になるようなポーズをお願いします!

キラリ帽子屋
騎士様が冠るような羽根帽子を持ち帰ります
(羽純くん、凄く似合いそう♪)

幻想本屋
メルヘンな本から、架空の動物『不死鳥』を選びます
格好良いし、羽根の質感とかアメ細工で出せたら過ごそう!

三つのお店の人々にお礼も忘れずに

アメ細工体験します!
出来た飴は羽純くんに食べて欲しいので
想いを込めて丁寧に

細工店の裏庭で出来上がったアメ細工を食べたいです



●純真の白い花

「どこも素敵な所ですね…悩んじゃいます」
 渡されたマップとチケットを眺め、淡島咲は困りながらも少し嬉しそうだ。
 一方のイヴェリア・ルーツはというと、別の事を考えていた。
 ネタ集めをしたあとのアメ細工。
(俺は器用なほうではないからな…しかし)
 考えつつ、マップを眺めるサクの方を見る。
 イヴェリアはいつか自分の手づくりのものを彼女にプレゼントしたいと考えていた。
 しかし、作るにしてもまずはやはりネタ集めをしなければ。
 サクの瞳はサーカスと帽子屋で悩んでいるようだった。
「なんなら…二箇所回ってみるか?」
 促すと、サクは嬉しそうに頷いた。

 2人がいるのは星空サーカスからほど近い場所。
 テントに入る際にチケットを見せるとカメラをカカオの妖精からそっと手渡される。
(サーカスってなんだかドキドキしますね…)
 自然とサクの鼓動は高鳴る。
 薄暗がりの客席に2人並んで腰を下ろすと、ほどなくしてショーが開幕した。
 大きな体で二足歩行をしてみせる白馬のダンスは圧巻のひとことで。
「すごい!あんなに大きな体でダンスができるんですね…!」
 目を輝かせて写真を撮るサクの横顔をイヴェリアはそっと眺める。
 サーカスも勿論だけれど…それを見ているサクの方が自分にとっては楽しい。
(まったく…相変わらず恋の力は凄いな)
 そんなイヴェリアの思いを知ってか知らずか、サクは器用に綱渡りをするネコを眺めている。
(そういえば以前に猫カフェにも行ったな…)
 猫を見るサクの表情は、いつも以上に嬉しそうだ。
 もしかすると、サクは猫が好き…なのかもしれないとイヴェリアは思った。
 ショーが終われば、盛大な拍手とともに、幕は下ろされた。
 皆が次々と席を立つ中、サクはイヴェリアとテントに描かれた模様を交互に眺める。
「星空が描かれたテント、とっても素敵ですね」
「…そうだな」
「今度、ゆっくり星空でも見に行きたいですね」
(星空…それも、いいかもしれない)
 いや、もしかしたらサクと一緒ならどこでもいいのかもしれない。
 そう思いながら、イヴェリアは頷いたのだった。

 次に2人が訪れたのはキラリ帽子屋だった。
(これは…)
 帽子屋に入って、数々の帽子やヘッドアクセサリーが並ぶ店内を見回し、
 イヴェリアの目に飛び込んできたのは1つのヘッドドレス。
 レース編みの小さな花がとても愛らしく感じるヘッドドレスだ。
「どれにしましょう…」
 チケットを店員にわたして様々な帽子に目移りしていたサクだったが、
 トントンと肩を叩かれて振り返ると、ヘッドドレスを手にしたイヴェリアがいた。
「これはどうだろう…?」
「えっ?…これイヴェさんが選んでくれたんですか?」
 少し照れ気味に頷くイヴェリアに、嬉しくなったサクはヘッドドレスを受け取る。
(レース編みの花がいっぱいついたヘッドドレス…)
 自分にはこれが似合うとは想像していなかった。
 そっとそれを鏡に向かって装着し、イヴェリアを振り返る。
「どうでしょう似合いますか?」
「ああ、愛らしいレースの花もとても合う。似合っているよ、サク」
「…ふふ、ありがとう、ございます」
 頬を染めて嬉しそうにサクは笑う。
 レースの花の愛らしさも勿論だが、
 それよりもっと愛らしいとイヴェリアが感じているのは…サクだ。
「じゃあ、これをアメ細工屋さんに持ち帰りましょう」
「ああ、そうしよう」
 互いに頷き、2人は店を後にしてアメ細工屋に向かったのだった。

 さて、アメ細工店に到着した2人。
「ありがとうございます!またこれはこれは素敵なネタをば…!」
 カカオの妖精が差し出されたネタを嬉しそうに受け取る。
 2人はアメ細工は自分達で作ることを提案した。
 妖精に手ほどきをうけて、2人はアメ作りの準備をする。
「イヴェさんは飴のデザイン考えましたか?」
「ん?ああ…一応、な」
 もう作るものは決まっているようだ。
 一方のサクはというと、少し迷っていた。
(白馬とかイヴェさんに似合いそうなのですが…難しいですよね…)
 サーカスで踊っていた優雅な白馬。
 イヴェリアにとても似合うと思うが果たして自分にうまくやれるのだろうか。
 イヴェリアの方を見てみると、彼はすでにアメで何かを作り始めていた。
 その表情は真剣そのもの。
(わたしもイヴェさんみたいに頑張って作ってみようかしら…)
 こうして、2人は時間をかけつつ、2つのアメ細工を作ったのだった。

 アメ細工を作り終えた2人は、妖精たちにお礼を言われてテントを出た。
 坂の上からはテントの光が夜の闇に散らばって見えている。
 それはまるで、地上に広がる星空のようで。
「綺麗ですね…」
 思わずみとれるサクの目の前に、白く輝く花が現れた。
「…これ…」
 それは、帽子屋でイヴェリアが似合うと言ってくれたヘッドドレスの…白い花。
「ああ、レースの花をまねてみたが…すまない。不格好だな」
 イヴェリアは言いつつ、バツが悪そうに視線をそらしたが、
 すぐ向き直るとそっとアメ細工をサクの手に握らせた。
「え…これ、私にくれるんですか?」
 驚きと嬉しさでサクの心臓はどきりと跳ねる。
 しかし、それ以上にサクが驚いたのは、今まで以上にイヴェリアの顔が真剣だったこと。
「以前、俺は…半ば無理やりサクの気持ちを覗き見ただろう?
 その時のお詫びをずっと渡したかったんだ」
 そう、それは互いの気持ちを知った時のこと。
 自分の気持ちをイヴェリアに知られた時、目からこぼれおちた涙。
 それを、ずっとイヴェリアは気にかけてくれていたのだ。
「…サク、これをもらってくれるだろうか」
「思いを聞いた時にいじわるしたから…そのお詫び…ですか?」
 頷くイヴェリアの瞳には、謝罪と懇願と、そして変わらない想いが見えた。
 それが嬉しくて、サクは微笑む。
 イヴェリアの気持ちも、そしてその気持ちのこもったアメ細工も、
 どうして、受け取らない理由があるだろうか。
 むしろ真剣な気持ちが嬉しくて嬉しくて…微笑んでしまう。
 「ふふ、もう…怒ってませんよ」
 その返答に、イヴェリアも安心し、嬉しそうに微笑んだ。
 自分の使ったちょっと卑怯な方法。泣かせてしまったその事実。
 ずっと怒っていても仕方のないはずなのに、彼女はそれを許してくれた。
 そして…微笑んでくれた。
「…ありがとう。サクは笑顔の方が似合う」
 そっと、微笑んでいる彼女の頬に手を添える。
 イヴェリアの目にうつっているのは、笑顔のサクの姿。
 それを泣かせてしまった事実は、もう二度と起こしてはいけないと思った。
「泣かせたときは驚いた。もう…泣かせたくない」
 それはイヴェリアの心からの言葉。
 もう二度と、涙を見せることがないよう、大切にしていきたい。
 みつめあう2人の間で、白く可憐なアメ細工の小さな花が
 2人の純真さをあらわすように輝いていた。

 


●再びいつか、同じ光景を

 妖精から貰ったマップをひろげ、日向悠夜と降矢弓弦が決めた場所は
 幻想本屋と星空サーカスだった。
「へぇ、幻想本屋…心擽られる響きだね…!」
 弓弦が嬉しそうに声を上げる。
 自分達が今いる場所から少しバックした角を曲がった場所にその本屋はあるらしい。
(弓弦さんはやっぱり本屋さんが気になっているみたいよね…)
 悠夜はちらりとマップを見つめる弓弦を見て、これからどうするかを考える。
 せっかくの幻のバザーなのだ。
 そしてどうせなら…弓弦の嬉しい顔をこのままずっと見ていたいとも思う。
「じゃあ、幻想本屋…先ずは其処に行こっか」
 そう提案してみると、パッと弓弦の顔が輝いた。
「え、最初に行っていいのかい?ありがとう、早速行こうか!」
 言うが早いか、弓弦はウキウキと幻想本屋に向かって歩き始める。
 そんな弓弦の背中を数歩離れたところから追いかけながら、
 ああ、嬉しそうだなあと感じ、悠夜はくすりと微笑んだ。

 少しして、幻想本屋と書かれた看板がぶらさがる店舗に到着する。
「お店は小さいけれど…いろいろなものがありそうだね」
 確かに弓弦の言うとおり、本屋にしてはちょっと小さい雰囲気のお店。
 ツタに覆われたテントは不思議な雰囲気だったが、
 弓弦は悠夜を連れてすたすたと中に入っていく。
(本当、知識を取り込むときは人がかわったみたいになるわね…)
 昼寝をしている時とは別人のような弓弦のテンションが悠夜にとっては微笑ましい。
 テントの中に入ると、そこには見たことがない光景が広がっていた。
「はぁ…素晴らしい…僕も読んだ事が無い本でいっぱいだ」
 弓弦がうっとりとした言葉になるのも無理はない。
 本棚には本がギッシリと積み上げられ、本棚以外にも古びた本が並べられている。
 チケットを手渡すと、2人はネタ選びに本を探し始めた。
(確かに素敵な本がいっぱいだね…弓弦さんも楽しそう)
 神話にしか出てこない幻の動物や、それに関する情報がたくさん詰まった本の数々。
 弓弦の姿を見ながら、悠夜も本をいくつか手にしてパラパラとめくっていく。
 …と、ふとその手が止まった。
 それは、見たことがない、ドラゴンのような生き物。
「せい…りゅう?」
 悠夜が首をかしげていると、それに気付いて弓弦が隣から本をのぞきこんだ。
「ああ、この生き物は幼い頃に聞かされた事があるよ」
「そうなの?」
「うん、確か四神…へぇ、これが青龍か…」
 弓弦は暫くそれを眺めていたが、やがて何か納得したように頷いた。
「よし、持って帰るのはこの本にするよ」
 店員にその内容を告げて、本を袋に入れてもらう弓弦は心底楽しそうだ。
「いけない、僕ばっかり楽しんでしまったね」
 袋を受け取って申し訳なさそうに頭をかきながら言う弓弦に、
 別に大丈夫、と悠夜は笑ってみせる。
「ねぇ悠夜さん、次は君の行きたい場所へ行こうか」
 互いの楽しい姿を見たいから。そっと弓弦は次のポイントがどこがいいかを聞いてみた。
「私の行きたい所?」
 悠夜もその気持ちがわかり、瞳がひときわ輝く。
「それじゃ…サーカスが良いな」

 少ししてたどりついた、星空サーカスのテント。
「わぁ…凄い!」
 はじまったショーに、思わず悠夜は声を上げる。
 星空が描かれた大きなテントの上空を、まるで彗星のようにブランコがゆれ、
 ブランコのりが飛んでゆく。
 かと思えば、動物たちがかわいらしく、時に大胆に曲芸をみせる。
「サーカスは初めて観たけれど…童心を擽られるね」
 弓弦もしみじみとそう呟いた。
 周りのお客は、大人も子供もみんな笑顔。…もちろん、悠夜も。
「実はね、旅をしていた頃にサーカスの虜になっちゃって…大好きなんだ」
 悠夜の思いがけない告白に、弓弦は驚く。
 神人になって自分と再会するまでの間…そんな事があっただなんて。
 だから、迷いもなくサーカスに行きたいと口にしたのか、と納得する。
 弓弦に過去の思い出を告げると、悠夜はカメラを上に向けてシャッターを押した。
 カメラのレンズの先には、星空を飛び回る空中ブランコ。
 プレビュー画面に表示されたブランコのりたちの風景は、
 まるで、星空を手を取り合って泳いでいるようだった。
 その画面をのぞきこんで、弓弦も頷く。
「悠夜さんが虜になるのも分かる…僕も、サーカス…好きになったよ」
「本当?嬉しいよ」
 弓弦の言葉に、悠夜は嬉しそうに笑った。

 1冊の本に、空中ブランコの写真。
 それぞれを、2人は坂の上のアメ細工テントに持ち帰った。
「これはこれは!!またとても素敵なネタをありがとうございます!」
 カカオの妖精たちも、2人がもってきたネタに歓声を上げる。
「さて、お二方はアメ細工、どうされますか?」
「それじゃあ…」
 ふたりは、カカオの妖精たちに、
 自分のイメージしているアメ細工を作ってもらうようお願いをすることにした。
「了解いたしました!それでは…それぞれ、こちらの席にてお伺いします!」
 弓弦と悠夜は、カカオの妖精につれられて、それぞれ別の席でイメージを伝える。
「えっと…イメージはこの空中ブランコの写真。
 キラキラとした星空をアメ細工に閉じ込めているような…」
 話しながら、悠夜は少し心配になる。このイメージ…難しくないだろうか。
 だがしかし、妖精はお任せください!と笑って見せた。
 ホッとひと安心して弓弦のほうを見ると、
 弓弦は借りてきた本の1ページを開いて、なにやらイメージを伝えている。
(何を作ってもらうんだろう…)
 そう思っていると、弓弦の話しを聞いていた別の妖精も、
 ぺこりと頭を下げて厨房に走っていった。
「ではでは、完成まで少々おまちくださいませ!」
 妖精の元気な声が響き渡る。
「さて、どんな物ができるんだろう?」
「楽しみだね」
 弓弦と悠夜は、厨房に消えて行った妖精の後姿を笑って見送った。

「さあて、おまたせいたしました!コチラがご要望のアメ細工でございます!」
 頼んでから10数分ほど。厨房から戻ってきた妖精から2人はアメ細工を受け取った。
「綺麗…」
 悠夜が頼んだ星空のアメ細工は、夜空のような深い藍色のアメに
 空気の泡と食用のラメがキラキラと光っていた。
「なんだか食べちゃうのがもったいないね…」
 悠夜の口から思わず本音がもれる。
 そんな悠夜が弓弦を見ると、弓弦は手にしていたアメ細工を差し出した。
「…弓弦さん、それ、くれるの…?」
 悠夜の言葉に弓弦はうなずく。
「この飴はね、春を司る神様を象ってもらったんだ」
 弓弦が頼んだアメ細工は、書店で目にした青龍。
 そして青龍は春を司る神様で、そして春という季節は…
「…私たちが初めて出会った季節だね」
 悠夜がしみじみとつぶやく。あの春の日を司る神様を、弓弦は渡してくれたのだ。
「また君と春を迎えられる様に、これをプレゼントしたいんだ」
 幻想本屋で青龍を目にした時から決めていたであろう弓弦の想いに、悠夜は胸が熱くなる。
「…ありがとう」
 そう微笑んで悠夜も輝く夜空のアメ細工を差し出す。
「えっ、ホワイトデーの贈り物だから僕は…」
 意外な悠夜の行動に慌てる弓弦に、ニッコリと笑ってみせる。
「私も好きなものを共有出来て嬉しかったから…受け取って欲しいんだ」
 それは、お互いの気持ちが対等である、何よりの証。
 また、いつか弓弦と幻想的な星空を眺められるように。
「…ありがとう」
 弓弦は、アメ細工を受け取り微笑む。
 出会った春と、今日過した星空と。
 2人の手の中のアメ細工は、きっとどこの星空よりも輝いているのかも…しれない。
 



●あなたのためのその鳥は
  
「さあ、アメ細工のネタ、頑張って見つけますよ!」
 マップを手にした桜倉歌菜の意気込みは上々だ。
「そうだな。まずはネタ探しからか」
 月成羽純もクールな表情だが、歌菜の意志には賛同しているようだ。
 さて、ドコへ行こう…と考えるひまもなく、
 歌菜のキラキラした瞳はマップのサーカスのポイントに釘付けになっている。
「サーカスってワクワクしますよね♪」
 歌菜のその言葉で最初の行き先は決まった。
 星空サーカス。まずは、そこでネタ探しだ。
「さあ、行きましょう!」
 ウキウキした足取りで歩いていく歌菜に、羽純もあとに続いた。

「いらっしゃいませ!チケットを拝見」
 顔にメイクをしたカカオの妖精が出迎えてくれる。
 チケットを渡すと手渡されたのは2台のデジタルカメラ。
 席についてショーがはじまると、歌菜は夢中になりながらも
 ネタ集めにも必死な様子でショーステージをながめている。
「歌菜は、どれがいいんだ」
 羽純がポツリと声をかけると、キラキラしたまなざしで歌菜は上空を眺めた。
「私、空中ブランコが凄く好きですっ。まさにプロの技ですよね…!」
 星空模様の空中を舞うブランコと乗り手はまさに芸術的。納得して羽純も頷く。
「でもね、私ピエロさんも好きなんです。サーカスといえば…ですよね!」
「ピエロか…」
 歌菜の言葉にはたっと気付いて、ブランコステージが終わったあとのステージに視線を戻す。
 そこには…おどけた仕草やポーズで皆を笑わせるピエロの姿。
 フラフープに平均台に。そして…
(玉乗りか…)
 楽しく玉の上で踊るシーンを羽純はを写真に撮らせて貰うことにする。
 このピエロの魅力は…歌菜に言われなければ気がつかなかったかもしれない。
 しかし、ショーが終わっても歌菜はカメラを使った様子はなかった。
「歌菜、写真はいいのか?」
「へへへ、実は、考えがあるんです…!」
 笑ってみせると、歌菜はテントから出る観客たちに風船を配っているピエロの所へ歩いていく。
「あの、すみません!お写真、撮らせてもらってもいいですか?」
 歌菜の声に気付いたピエロは、コクコクと頷いてOKをだしてくれた。
「どんなポーズにしてもらうんだ?」
「皆が笑顔になるようなポーズをお願いします!」
 ピエロは大きく頷くと、まるで『幸せがいっぱい!』と大声で叫んでいるかのように
 大きく手を広げて片足を上げたポーズをとってくれる。
 カシャリ!とタイミングよくシャッター音が鳴る。
 その瞬間を、バッチリ歌菜のカメラはフレームに閉じ込めたのだった。

 ピエロにお礼を告げて、2人が次に向かったのはキラリ帽子屋。
 店内を見回した歌菜の目に飛び込んできたのは…
(これ…羽純くん、凄く似合いそう♪)
 手に取ったのは騎士がかぶるような羽根帽子。
「これ、持って帰ります!」
 入店してから数分、あまりに早い選択に羽純は少し驚いた。
「まぁ、派手でアメ細工には映えるんじゃないか?」
 確かにアメ細工にするには悪くはなさそうだと想い、羽純も素直に同意する。
 チケットを見せて受け取りの手続きを済ませている間、
 歌菜は帽子ごしに羽純の顔をじいっと見つめる。
 頭の中にうかぶのは、彼がその帽子をかぶった、りりしい姿。
(何で人の顔をジロジロと見ているんだ…?)
 歌菜の真意がわからない羽純は戸惑うばかりである。
「さあお待たせしました、素敵な夜を!」
「ありがとうございます!」
 上機嫌で羽根帽子を受け取る歌菜。そして2人は次のスポットへと足を運んだのだった。
 
 最後に訪れたスポットは、幻想本屋。
 さっそく2人は店内で最後のネタ探しをはじめることにした。
(童話から神話…シリアスなものにメルヘンなものまで…たくさんある…)
 本たちを見ているうち、歌菜の目がある本に釘付けになった。
 花とつる草があしらわれた、とてもメルヘンな雰囲気の本。
「これ、何だかステキ…」
 パラパラと本のページをめくっていく。
 中には羽根のついたウサギやユニコーンなど、さまざまな動物が描かれている。
「この不死鳥…格好良いし、羽根の質感とかもとてもステキ」
「…なら、これを借りていくのか?」
 口にする歌菜に羽純が問いかけると、歌菜はすぐに頷いた。
「この雰囲気、アメ細工で出せたらすごそう…!」
 そんな歌菜を見て、羽純は意外だと感じていた。
 この本には不死鳥以外にも動物は沢山描かれている。
 普段なら歌菜はもう少し可愛い動物を選ぶのかと思っていたが。
(意外だな…あえてこれを選ぶなんて)
「ありがとうございます!お借りしていきますね!」
 羽純が本を受け取り、歌菜が元気よくお礼を言う。羽純もぺこりと頭を下げた。
「さあ、ネタ集め終わりました…行きましょう!」
 店を出て、坂の上に向かう彼女は元気いっぱいだ。
(何だか今日は…いつも通りの歌菜と意外な歌菜、たくさん見ている気がするな…)
 と思いつつも、あえて口にはせずに、羽純は歌菜の後に続いたのだった。

 坂の上のテントで2人を出迎えたカカオの妖精は、2人のネタに大喜びしてくれた。
「あの、できれば私達、アメ細工体験をしたいんですが!」
 妖精は頷くと、さっそく2人分の材料を用意して作り方を教えてくれた。
「さあ、頑張らないと…!!」
 やる気満々に細工用のハサミを手にする歌菜。
 アメ細工のアメは熱く、ハサミだって決して危なくないわけではない。
 羽純も自分のアメ細工を作りながら、チラチラと歌菜を見る。
 歌菜は、自分が考えた形を作ろうと必死にハサミを動かしていた。
「ハサミ、気をつけろよ」
 声をかけると、頷きはするが答えは返ってこない。よほど熱中しているようだ。
(歌菜の奴、やけに真剣だな…弁当店でアメ細工する予定でもあるのか?)
 あまりにも歌菜が真剣なので、ふと羽純はそんな事を考えてしまう。
 が、真剣な表情を見ているうち、いつの間にか羽純もアメ細工作りに没頭していった。

「やっとできました…!」
 アメ細工テントの裏庭。
 バザーの夜景が見下ろせるそこは、とても静かで落ち着いていて。
 夜景を眺めることができるベンチに、そっと2人は腰を下ろしていた。
 歌菜が取り出したのは、不死鳥のアメ細工。
(必死に作っていたのはこれだったのか…)
 自分もいつの間にか集中していて、歌菜が何を作っていたのかを羽純は知らなかった。
 そしてまさかそれが…歌菜の手から自分へと差し出されることも。
「…これ、どうぞ。一緒に食べたいんです」
 元気よく…でも、どこか頬を染めてアメ細工を差し出す歌菜。
 その瞳と、作られた不死鳥を見て、羽純は思い出す。

『この不死鳥…格好良いし、羽根の質感とかもとてもステキ』

 あの時、羽純はどうして歌菜が自分が進んで選びそうな可愛い動物を選ばなかったのか不思議だった。
 でも、今ならわかる。
 可愛い動物だったら、自分が楽しむためだけに作る事もできたはず。
 けれど、この不死鳥なら…自分が食べてもあまり抵抗もない。
(あえて不死鳥を選んだのは…俺向けのアメ細工を作るためだった訳か…)
 それを、あんなに真剣に必死に作ってくれたのかと思うと、胸の奥が温かくなるように感じる。
「サンキュ。じゃあ…2人で一緒に食べるか。」
 微笑んで羽純は歌菜に提案する。
 …が、それ以上になんだかその言葉を聞いた歌菜は、顔を真っ赤にしてなんだか動揺している。
「…どうした?変な顔して…」
「いえ、その…羽純くんに食べてほしいって思ってたから…」
「だから?」
「だ、だから2人で食べたら…間接…キスに…なるかなって…」
 真っ赤になって歌菜がボソボソと口にする。
 その言葉につられて羽純もカアッと頬が熱くなった。
 …夜の闇のせいで、少しは隠れているといいのだが。
「…バカ」
 ポツリと口にしつつ、まんざらでもない羽純の言葉と、真っ赤な歌菜と。
 二人の姿を月明かりにてらされて、不死鳥のアメ細工がうつして輝いた。




●優しい覚悟とひとつの光

「さて…とりあえず一通り回るわよ。折角のバザーは楽しまなきゃ」
 マップを一通り見終えて、紫月彩夢は3つのポイントを全部回ることを決めた。
(彩夢ちゃんの行きたい所に…とは思うけど)
 …と思っていた紫月咲姫だったが、予想通りの彩夢の反応に気付かれないようにくすりと笑う。
「やっぱり三つともって、言うと思った。楽しみね」
 生真面目な彩夢の性格を、咲姫は昔から良く知っている。
 くすくす笑うしぐさも外見も女性のようだが、咲姫はまぎれもなく男性。
 もちろん、妹の彩夢も、それは充分理解している。
 まるで姉妹のような兄妹が並んでまず最初のポイント・星空サーカスを目指す。
 まだまだ月明かりは2人の頭の上。
 星空サーカスに、幻想本屋…そして、キラリ帽子屋。
 3つのポイントをまわるには、まだまだ時間は充分にありそうだ。
「賑やかなサーカスは、好き。…帽子は普段被らないから、とても気になるな。
 本は読みだしたら止まらなさそう…」
 ポイントに到着する前から、彩夢は先の事を考えているようだった。
 
「ふう…たくさんまわったね」
 すべてのポイントを回りおえた2人。
 最後におとずれたキラリ帽子屋を出て、満足げに彩夢はのびをしている。
「…咲姫、ネタは幾つ持って帰る?」
 のびをしたまま、彩夢は咲姫を振り返ってきいた。
「彩夢ちゃんはどうするの?」
「…あたしは、一つで良い」
 少しだまったあとで、彩夢は決心したようにつぶやいた。
 3つのポイントでたくさんたくさん回って楽しんで。
 そして、よく彩夢なりに考えて出した、たった1つの選び抜いたネタ。
 そっとカメラを差し出されて、咲姫はパチリと大きくまばたきをした。
「サーカス…の、天井だけ?」
 プレビュー画面に映っていたのは、星空サーカスの天井。
 そこにはテントの上空いちめんに描かれた幻想的な星空がいっぱいに映っている。
「ピエロもブランコも楽しかったけど…あたしが形にしたいのは、これ。
 …天井だけの写真って、怒られるかな…」
 ちょっとだけ不安そうに彩夢がつぶやく。
「どうして天井だけにしようって思ったの?」
 咲姫が聞くと、彩夢は自分の思いを口にしはじめた。
「楽しい、は、あたしの感情の中で残したいから。
 星空天井モチーフの飴細工を見て、あぁ楽しかったなって…思い起こしたい」
「わくわくは、思い起こすものだから素敵、なのよね」
 口にされたその内容に、咲姫は彩夢ちゃんらしい、と嬉しそうに笑う。
「うん…アメ細工チャレンジ、してみようかしら」
 ネタを持ち帰れば、アメ細工は自分で作ることもできるし、妖精に任せる事もできる。
 あえて、それを自分でやってみたいと思う言葉も彩夢らしいと咲姫は思う。
「咲姫は、帽子?」
 彩夢が咲姫のてもとを見ると、そこにはシンプルながら綺麗な光沢のシルクハット。
「ふふ、飴細工のネタ用じゃなくて、自分用に買って帰りたいくらいだわ」
 笑いながら咲姫は頭にシルクハットをのせて笑ってみせる。
「…それ、似合うじゃん」
「…似合う?ありがと」
 どこか悔しいけれど…よく似合う。
 そして、シルクハットをかぶる咲姫の姿は、なんだか…とても男性的で。
 彩夢は、彼がまぎれもなく兄だと、わかってはいるのだけれど。
 なんだか、いつもと違う彼の姿を見たような気がして、
 どうしていいかわからない気持ちを抱えたまま、彩夢は咲姫と共に坂の上に向かった。

「ありがとうございました!いやあいいネタをありがとうございます!」
 カカオの妖精は、2人が作ったアメ細工を渡すとペコリと頭を下げた。
 2人の手には、それぞれの思いがこもった作品が、2つ。
 彩夢は自分達がいる坂の上から下を見下ろして、
 自分が作ったアメ細工の棒をぎゅっと握りしめた。
 アメ細工を作っている時もそうだった。隣にいる咲姫の手には…シルクハットのアメ細工。
 あの帽子屋で、咲姫が帽子をかぶった時に、気付いてしまったのだ。
 自分の中で、なかなか整理できない気持ちがあることに。
 そしてそれを…理解してくれる人も、他でもない咲姫だろうことに。
「…咲姫、あのね」
 なにか、決心したような困ったような彩夢の口調に、咲姫は顔を向けた。
 視線で、話してもいいのよとうながすと、彩夢はそのまま思ったことを喋りだす。
「…あたし、咲姫の男の子らしいとこ、好きよ。
 でも、綺麗な「姉さん」も好き…困ってんの」
 本当に困っていた。そして困っているのは目の前の咲姫のこと。そして何よりも…
「どうしよ、兄さん…」
 兄であり、そして特別な存在である、その人のこと。
 にいさん、と呼んでくれた言葉に、咲姫は一瞬驚いた表情を見せたが、
 やがてそれもすぐに優しい微笑みに変わった。
「…兄さんって、呼んでくれるの、久しぶりね」
 咲姫は、困った顔をして視線を揺らしている彩夢にそっと目線をあわせる。
 自分達の関係は、他人からしたら、とてもとても特別で。
 でも、それはとても自然なことで…だからこそ難しい。
 それに自分の妹が直面しているなら、自分も本当の気持ちを伝えたい。
 そう考えて、ゆっくりと咲姫は自分の思いを口にする。
「…彩夢ちゃん、私は、ね。彩夢ちゃんのきょうだいよ。
 彩夢ちゃんが望むならどっちでもいいの
 彩夢ちゃんがどっちの私も好きなら、私はどっちの私でもいられるわ」
 それは、咲姫のなによりもまっすぐな本音だった。
 そして、覚悟。その覚悟を、もしかしたら傷つけてしまうかもしれないと思いながら
 咲姫は彩夢に告げることにする。
「…いつか、ね。
 彩夢ちゃんの大好きな人を紹介して貰う時に、彩夢ちゃんが決めて。
 大好きな人は…ウィンクルムのパートナーじゃなくてもいいのよ」
 それは、自分でなくとも構わないという、告白。
 嫌いになったわけでもない。大切な妹で大切なパートナーだからこそ。
 だからこそ、自分の覚悟を彩夢に伝えておきたかった。
「彩夢ちゃんを、私以上に愛してくれる人を、私に教えてね」
 もし、彼女が自分より他の人を愛する道を見つけたとしても…受け入れたいと。
 それは、とても優しい覚悟。
 この言葉を告げて、この思いを知って…彼女はどう思うのだろうか。
 夜の闇にまぎれて、彩夢の表情は泣いているのか笑っているのか。
 彼女の頬に光ったのは、涙だったのか、
 それとも、アメ細工が反射する月明かりだったのだろうか…。




●ちらりと覗く、意外なもの

 今回の目的は、アメ細工のネタ集めにアメ細工作り。
 アメ細工は…当たり前ではあるが、デザインがとても重要だ。
(デザインに関わることはフランが得意ですよね…)
 ペシェはそう考えながら、マップをしげしげと見つめているフランペティルを見る。
 考えてもはじまらない、まずは行ってみなければわからない!ということで。
 結果、ネタ集めのために全部のポイントを回ることに2人は決めたのだった。

「さて…最初は星空サーカスだ。行くぞ、ペシェ」
 ズンズンと勢いよく歩いているフランだったが、サーカステントに到着したとたん
 ペシェの大きな目がキラキラ輝きだした。
 開演前から、テントのあちこちで盛り上がっているサーカスならではの雰囲気。
 ペシェは無自覚だったが、思わずテンションが上がってしまい、
 いつの間にかフランを追い抜いて、ステージがよく見える客席に進んでいく。
(なんだ、いつもと全く勢いが違うではないか…そんなに嬉しいのか)
 普段見ることの少ないペシェの姿に、フランも悪い気はしないらしい。
 カメラはきちんと入手して、ショーがはじまってもペシェのテンションは下がることはなかった。
「すごい、すごい…!」
 拍手をするリアクションも、普段のペシェにはなかなかない大きなもの。
 中でも白馬のダンスはとても綺麗で、ペシェはたくさんシャッターをきる。
(いやはや、珍しいこともあるものだ)
 そんなペシェをみるのも悪くはないかもしれない…と思いながら
 足を組み腕を組み、フランは無関心らしさを装っていた。

「次はキラリ帽子屋だな。我輩が最も美しい帽子を探してやるとしよう!」
 そういいながら、フランはズンズンと帽子屋の中へと入っていく。
「わあ、色んな帽子がいっぱ…」
「ようしペシェ、そこに立て!」
「えっ?」
 ペシェが店内の帽子を見回す前に、フランにそこに立つように言われる。
 さてどうするのか…と思っていると、フランは店内を素早く歩き回っては、
 次から次へと帽子を持ってきてはペシェの頭につけはじめた。
(き、綺麗でとてもステキなんだけど…)
「この帽子もすてがたい…いや、あの帽子も素晴らしいな…」
 いくつも帽子を付け替えられながら、店内でブツブツ言っているフランを見つつ
 もしかしてネタ集めなのを忘れかけているんじゃ…と思った矢先、
 そっとフランがペシェにヘッドドレスをかぶせてウンウンと頷いた。
「ふむ、この百合のヘッドドレス、なかなか似合うではないか」
 腕組みをして満足げなフランを見て、ペシェもようやく鏡をのぞいてみる。
 それは、とても清らかな百合があしらわれたもので。
 ペシェとしてはとても…とても嬉しいのだが。
「もう、フラン、買い物じゃなくてネタ集めが目的ですよ?」
 思わず突っ込んでみるとフランはあからさまに動揺した。
「も、目的は忘れておらぬ!」
 …どうやら本当に目的を一瞬わすれかけて帽子選びに没頭していたらしい。
「よ、ようし、我輩はこれを持ち帰ることにしよう!気に入った!」
 さっそくチケットを取り出して受け取りの手続きをしているフランを
 苦笑しながらもどこか嬉しそうにペシェは見守るのだった。

「さあ、最後だ!幻想書店だぞ」
 ラストのポイントの書店では、今度はペシェがフランに突っ込まれる番だった。
 なにせ…ペシェは本屋の店員。なので本が大好きである。
 店内に山のようにつまれた本を見ると、どうしてもトキメキがとまらない。
(ああ、目移りしてしまう…どれもこれもとってもステキ…!)
 手にとってはじっくり眺め、ページをめくって様々な幻の動物をながめるペシェ。
(ペシェめ…本の虫になりかけておるが…)
 相変わらずだな、とため息をつくフランである。
「おい、ここに来た目的を忘れるでないぞ?」
 帽子屋でペシェに突っ込まれたお返しを無意識にちゃっかりしているフラン。
「も、目的は忘れてませんよ?」
 ペシェもペシェで、自分がフランに返したその言葉が、
 帽子屋でフランが口にした言葉とほとんど同じだとは気づいていない。
「なんだ、それに決めたのか」
 フランがペシェの腕をみると、少し大きな本が抱えられていた。
「これにします。ユニコーンの本みたい」
 清らかな乙女にだけ心を開くというその清純な獣は、
 どこかサーカスでみた白馬にも似ている。
「ふむ、お前らしいといえばらしいかもしれんな。早く受け取ってくるがいい」
 腰に手を当てながら、フランはペシェが本を受け取る姿を見守る。
 チケットを渡して本を受け取るペシェはとても嬉しそうだ。
「よし、これですべて集めたな!では坂の上へゆくぞ」
 こうして、2人はそれぞれのネタを手にアメ細工テントへと向かった。

 坂の上でカカオの妖精にネタ報告をした2人は、
 店の手伝いでアメ細工を作りたいと告げてOKをもらった。
「考えたのだが…ユニコーンと、座る乙女のアメを各々で何色かバリエーションを作り
 好きなものを組み合わせるのはどうか?いい提案だと思うのだが」
 フランの提案に店舗のカカオの妖精たちもそれはいいアイデアだと大喜びだ。
 こうして、2人はアメ細工をつくりはじめた…のだったが。
「あああ…あれ?おかしい…なんだか思い通りにいかない…」
 ペシェの困った声が厨房に響く。
 乙女を作っていたフランがその声に気付いて見てみると、
 そこにいたのはペシェの手に握られた…白い…イノシシのアメ細工。
「ナンだ…これは」
「あの…本当は馬を作ったつもり…だったんですけど…」
 困り顔のペシェにフランも苦笑するしかない。
「ペシェの不器用は一種才能だな…よし、吾輩の補佐に回れ。
 多忙な所に余計な仕事を増やすわけには行かぬからな」
 フランの提案に、ペシェも頷いて補佐にまわることにした。
「乙女の髪色はオレンジにしよう…ユニコーンは白一色だとつまらんな。
 鬣を吾輩のようなピンクにしてやるとするか。よし、そこのハサミを渡してくれ」
 フランは器用な手つきと道具を使い、熱いアメから次々にパーツを作り出してゆく。
(すごい…でも、火傷には気をつけてくださいね…)
 ペシェはフランの足手まといにならないように必死に道具を渡しつつ、
 ユニコーンに乗った乙女がアメの百合で飾りつけられていく様子にみとれていた。

 こうして、アメ細工は無事に出来上がり、2人はそれぞれの作ったアメ細工を手渡された。
 妖精にお礼を言われてテントを出ると、そこは坂の上。下にはバザーの夜景が広がっている。
「よし、ペシェ。貰ったアメ細工はお前にやろう。先程の猪と交換だ」
「えっ…折角作ったものをくれるんですか?」
 いきなりズイッと目の前にフランが作った綺麗なアメ細工を出されて
 ペシェは嬉しいながらも困惑する。
 フランが作ったものを貰うのは嬉しいが…交換、となると。
「あの。嬉しいけど、私の作ったものじゃ綺麗じゃないし…」
 それにきっと貰っても嬉しくはないだろう。なにせあれだけ綺麗なものがフランは好きなのだから。
 ペシェが受け取るのを躊躇っていると、フランはギリリと歯を食いしばる。
「ええい、貴様の手作りだから欲しいのだ!」
 苛立ち紛れに言われた信じられないフランの言葉にペシェはビックリしてしまう。
「そ、それ、どういう…」
 どういう意味だろうか。ちょっとそれは…深読みをして…しまいそうな、そんな言葉で。
「…な、なんでもない!
 そう言うが早いか、なかば強引にペシェの手を取りアメ細工を交換してしまった。
「え…あの、フラン…?」
「ええい聞くな!大人しく我輩のアメを味わえ!」
 ワイワイとやりとりをする2人。
 広がる綺麗な夜景の下、不器用なアメと器用なアメと。
 それらが月明かりの下でキラリと光った。


●ランプの中で輝いたのは
 バザーの空間の中で、それぞれに輝いた5つの光。
 坂の上のアメ細工店をきっかけにした、ネタ探しと、それぞれのものがたり。
 いつも通りのようで、どこか何かが違う、そんな夜。
 暖かなしあわせ、せつない幸せ…それぞれにしか起こる事のないしあわせのきらめき。
 それがキラリと光った瞬間…5つのランプに、そっと、幸せの灯がともったのだった。


FIN 




依頼結果:成功
MVP
名前:ペシェ
呼び名:ペシェ、肉
  名前:フランペティル
呼び名:フラン

 

名前:紫月 彩夢
呼び名:彩夢ちゃん
  名前:紫月 咲姫
呼び名:咲姫

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 京月ささや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月25日
出発日 03月07日 00:00
予定納品日 03月17日

参加者

会議室

  • [15]日向 悠夜

    2015/03/06-22:55 

  • [14]桜倉 歌菜

    2015/03/06-21:53 

  • [13]桜倉 歌菜

    2015/03/06-21:52 

  • [12]桜倉 歌菜

    2015/03/05-00:14 

    あ、危ない…!
    間違った認識でしたね、お問い合わせして良かったです!

    皆様のところにもメールが届いているようで、運営様とGM様に感謝ですね♪

    よーし、張り切ってアメ細工のネタを考えなきゃ!
    どんなアメ細工が出来上がるか、とっても楽しみですね♪

  • [11]紫月 彩夢

    2015/03/04-23:33 

    お問い合わせの回答がこちらにも来ていたわ。
    あたしもどっちだろーって悩んでたし、頑張って上を最優先に三つ書いて置けば損が無いかな…ぐらいで思ってたけど、
    いざ書き出してみたら文字数が困ったことになってたの。はっきりわかって良かったわ。ありがとう。


    結構先の締切だと思って油断していたから、ご意見言い損ねてたわね、ごめんなさい。改めて、ありがとう。

  • [10]日向 悠夜

    2015/03/04-20:48 

    こんばんは、日向悠夜です。
    紫月さん達とは初めましてかな?よろしくお願いするね。
    他のみんなも、改めてよろしくね。

    お問合せ、助かったよ。どういう風に調整するか悩んでいたからね。
    素敵な飴細工が作れると良いなぁ。

  • [9]ペシェ

    2015/03/04-13:34 

    お問い合わせして下さりありがとうございます!
    三ヶ所それぞれでチケット使えるみたいですが、全部使わなくても良いそうですね。

    うふふ、アメ細工どんなのにするか悩むの、楽しいですね。

  • [8]桜倉 歌菜

    2015/03/04-00:23 

    ペシェさん、お役に立てたなら何よりなのです♪
    私も情報が整理出来て良かったです!
    が、すみません!
    もう一回読み返してみると、各所で1つだけネタを持ち帰れる(合計3個)も
    間違いではないような気に…!(あわわ)
    み、皆さんの解釈も聞いてみたいなぁ…と(弱気)

    そうだ、ちょっとお問い合わせしてみますね!それが確実っ

    そして、未だにどんなアメ細工ネタにするか悩んでます…!
    この悩む時間も楽しいのですがっ

  • [7]ペシェ

    2015/03/03-08:40 

    歌菜さん、ありがとうございます!
    各所で1つだけネタを持ち帰れる(合計3個)と最初考えてしまってプラン書いていたら明らかに文字数足りなかったので、聞いてみて良かったです…

  • [6]桜倉 歌菜

    2015/03/03-01:25 

    あらためまして、桜倉歌菜です!
    皆様、宜しくお願い致します♪

    >チケットとネタ
    『好きなものを1つだけアメ細工店に持ち帰ることができる』
    と記載がありますので、3つ回れるけど、持ち帰れるのは一個、
    つまりは「チケットは一枚で、持ち帰るネタも一つ」と解釈しておりました!

  • [5]ペシェ

    2015/03/02-21:23 

    ふとした疑問なのですが、貰えるチケットは1枚で、ネタは3つのポイントの内から持ち帰るネタは一つだけ、と解釈すれば良いのでしょうか?
    皆さんどう判断したか伺ってもいいですか?

  • [4]淡島 咲

    2015/03/02-19:43 

  • [3]紫月 彩夢

    2015/03/02-00:58 

    紫月彩夢と、姉の咲姫よ。どうぞ宜しく。
    バザーをうろうろ楽しめて、飴細工も体験できちゃったりするのよね。
    何だかわくわくするわね、お互い楽しめれば、一番。

  • [2]ペシェ

    2015/03/01-19:01 

    皆さんよろしくお願いします。綺麗なアメ細工できると良いですね。

  • [1]桜倉 歌菜

    2015/03/01-00:08 


PAGE TOP