プロローグ
A.R.O.A.の受け付けに、小さな村からの使者がやってきた。
「お願いがあります。桃園を荒らす化け物を退治していただきたいのです」
伝令役は、着物風の出で立ちをした黒髪の若者だった。彼の出身地も、そういった和文化の色濃い場所なのだろう。
普段の村はのどかな雰囲気で、この時期になると美しい桃の花が咲くのだという。村人たちは桃の木を神聖なものとして崇め、広大な桃園を作り上げた。
「その大切な桃園に、最近奇妙な化け物が出没するようになりました。野犬に似ておりますが、もっと質が悪く、頭部には鬼のごとき角が生えておりまして……」
特徴からして、デミ・ワイルドドッグだろう。使いの青年の話では、デミ・ワイルドドッグは広大な桃園に散開しており、どのくらいの規模の敵と戦うことになるかは、はっきりと特定はできないらしい。
また大人数で桃園にいくと、敵は警戒して姿を現さない。神人と精霊の二人でいくのが良さそうだ。
「化け物の討伐はもちろんですが、お願いしたいのはそれだけではありません。神人は、古の神の血を継いでいる方々とお聞きしました。その力で、荒らされてしまった桃園を神聖な場所へと戻す儀式も手伝ってほしいのです」
桃園からデミ・ワイルドドッグを追い払った後は、村で身支度を整えてから、神人と精霊に村の神社で平和の祈りを捧げてほしいとのことだ。
もしも戦闘で怪我をしてしまった場合は、村にいる高齢のウィンクルムがライフビショップの能力で治療をおこなう。村のウィンクルムはすでに戦いの場から引退したお年寄りで、デミとの戦闘には参加できない。
神人と精霊に用意されている衣装は、雛人形の男雛と女雛の装束を想像してもらうとわかりやすいだろうか。神社の境内で、緋毛氈が敷かれ、その上に並んで座る形になる。そこで、桃の枝一本が渡される。
「神人と精霊で同じ枝を持って、祈りの気持ちを込めて振ってください。桃園の瘴気が払われ、村人の不安も晴れましょう」
解説
A.R.O.A.がまとめた資料。
ウィンクルムは、これらの情報を自由に閲覧可能。
・桃園
桃の木が植えられた庭園。
地面は土で、人の通り道には飛び石が敷かれている。
草むらや灌木、岩や置物など、隠れられるものはない。
桃の木に近づきすぎると、木を傷つけてしまう恐れがある。道のそばであれば、適度に桃の木から距離をとれる。
・敵について
1組ごとに各自戦闘となる。他のウィンクルムとの直接的な連携はとれない。
・目的
桃園のデミ討伐(完全討伐が望ましいが、桃園から追い払うことさえ達成できれば失敗にはならない)
神社で祈りを捧げる。
ゲームマスターより
山内ヤトです。
エピソードの性質上、複数名での連携がとれません。ご注意ください。
戦う敵の数は、各ウィンクルムのLVに応じて変わります。
LV1~3:デミ・ワイルドドッグ1体
LV4~6:デミ・ワイルドドッグ2体
LV7~11:デミ・ワイルドドッグ5体
LV12~19:デミ・ワイルドドッグ8体
LV20以上:デミ・ワイルドドッグ10体 +???
リザルトノベル
◆アクション・プラン
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
桃園に入る前にトランスを行います。 桃園を守る為に通り道からあまり外れないように。 戦いやすくする為に ワイルドドッグ達を道側に誘き寄せましょう。 道に沿って歩くようオ・トーリ・デコイを放ちます。 戦いに集中して貰う為に カガヤが自分の立ち位置や敵に気付けていない時は 早めに声掛けします。 わたくしも気をつけなくては。 デミワイルドドッグが現れたら 盾を持ち、カガヤの少し後方で構え。 周辺の状況を伺い、カガヤへの指示に備えます。 こちらへ来た敵の攻撃は回避しつつカガヤの方へ 向かうように引きつけます。 (+???) 素早い敵→攻撃の邪魔にならない程度に カガヤの側に居ます。 最後に頼まれた通り身支度をし、祈りを捧げましょう。 |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
ふぅーっと深呼吸 チラっ精霊をと見 「場数はこなしてるから、大丈夫よ(強がり」 トランス 状況、敵の位置を確認 「向こうから来てくれたら楽ね」 桃の木をの損傷を避け道の傍での戦闘を心がける 来なければ石でも投げて挑発 それでも無理ならジリジリ近づき、攻撃を仕掛けられたら道近くの精霊近くまで後退 「デミ・オーガでも神人は美味しい餌かしら?ほらほら来なさいよ」 精霊の後で背後を守りつつ数確認と状況伝達 優先 1、精霊の死角や邪魔になる敵を防ぐ 2、自分からは攻めず、敵の動きをよく見て回避か盾で防ぎ向かって来る敵に攻撃 3、負傷した敵 戦闘後 力が抜けてへたり込む 儀式 「えっと…何かこれって(精霊を見て顔を逸らす」 わたわた |
ラブラ・D・ルッチ(アスタルア=ルーデンベルグ)
素敵!桜も良いけど 桃の花も可愛いわ〜 あらあら、アス汰ちゃんたら何を言っているのかしら 気合いぱーんち☆(精霊に愛の拳) 精霊と背中合わせになり、全方位に気をつける 2匹確認したところで、動きに注意しつつ 連携をとりながら、近づいてきたデミを攻撃 デミが桃の木を傷つけないよう、注意をこちらへ向ける 逃げようとするデミがあれば牽制 普段着た事のない衣装に思わず心躍る 本物のお姫様になったみたい アス汰ちゃんもカッコいい!この枝を振れば良いのね? 桃の木がこれからもずっと綺麗に咲き続けますように 精霊と目が合い、微笑む アドリブOK |
織田 聖(亞緒)
●心情 初めての戦闘依頼、です。 …頑張ります、ね。 ●戦準備広大な敷地の地形や桃の木の位置を予め確認 桃園に入る前にトランス 初トランスに緊張するも、真剣な面持ち ●戦闘 桃の木を傷つけないよう、道のそばを位置取る 周りを確認しいち早く敵の姿を見つけられるよう留意 発見次第亞緒に伝え、前衛として動く オーガが神人を狙う習性を利用し 桃の木から敵を遠ざけるの主目的。 「あなたの敵はこっちです、よ…!」 と、二刀流で敵の攻撃をいなしつつ出来る限り攻撃を加える 亞緒と声をかけ合い連携 「亞緒さん、今ですっ!」 ●戦闘後 「素敵な着物……お雛様みたいです、ね」 嬉しそうに亞緒と枝を振り (平和な世界となるよう、頑張ります…!) と祈願。 |
リコチェット・ベッカー(ヒューゴ・クランツ)
初っ端から二人だけでデミ退治だなんてどきどきします… 頑張って成功させましょうね 為せば成る、ですっ! 桃園に入ったらトランスしておきます 継続時間が心配ではありますが新米ですし無防備な状態で遭遇するよりかは、と 事前にどこにいそうか聞けたらそこを目指してみます 桃の木を傷つけられないようなるべく道の傍で戦う 戦闘中な精霊の後ろで剣を準備して待機 桃の木が近そうな場合は周囲を観察してどこに誘導すれば戦いやすいか伝えますね 倒せなかったとしてもも桃の木だけは死守です! 終了後 わあ、可愛い衣装 疲れていたはずですが何だかうきうきしますね ヒューゴさんと同じ枝を持って祈りの気持ちを込めて振ってみます 美しい花が咲きますように |
桃園を荒らすデミ・ワイルドドッグを倒すため、五組のウィンクルムが集まった。
大勢で向かうと敵が警戒して姿を現さないため、神人と精霊のペアで桃園の見回りをすることになっている。
他のウィンクルムとは連携ができない個別での行動。頼りになるのは自分とパートナーだけだ。
●囮を駆使して
「私達の全ては、ただ潰滅の為にある」
『手屋 笹』の身長に合わて『カガヤ・アクショア』が屈む。吹き荒れる風のオーラが二人を包む。
トランスをしてから桃園に入り、道沿いに進んでいく。
「デミ・ワイルドドッグなら苦戦はしないだろうけど、どれだけの数居るのかは気になるね……」
「戦いやすくするために、デミ・ワイルドドッグ達を道側に誘き寄せましょう」
道沿いに進むように設置して、笹はアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」を放った。ちょっとした囮効果があるアイテムだ。
しばらくして、デミ・ワイルドドッグがわらわらと集まってきた。その数、十体。
「……」
二人はデミ・ワイルドドッグ以外の気配を感じ取っていた。今は姿を見せていないが、敵対的な存在が桃園の中にいることはわかる。
「倒しきれなくても残らず追い出せば勝ちだ。桃の木を俺達が傷つけない事を第一に考えよう」
カガヤは見つけた敵から確実に倒していくことにした。
「カガヤは戦いに集中してください。何かあれば、わたくしが声掛けしますわ」
精霊の少し後方に立ち、笹は盾「食いしん坊なお化け」で身を守りつつ戦況をうかがう。
まずカガヤは十体の中から一番近くにいる敵をターゲットにして、動きを目で追って接近した。ブンッと両手斧「シルバー・フルーム」を振り下ろせば、デミ・ワイルドドッグ一匹が命を落とす。
カガヤに実力の差を見せつけられても、数の上ではまだデミが多い。荒れ狂う猛犬の群れが二人を囲む。
笹は自分の立ち位置や敵の動きに注意を払っていた。この状況で無理に包囲を突破するより、カガヤのそばで盾を構えていた方が良いと判断する。
デミ・ワイルドドッグは、斧を持った精霊よりも神人を狙った。
「くっ!」
かわせる攻撃は回避。九匹の攻撃の内七匹はカガヤの方へ向かわせることができた。さばききれなかった二匹の攻撃も、武装した笹に致命傷を与えるものではない。
そしてカガヤが装備しているクレセントサムライボディには、直接攻撃してきた敵へ一定確率で攻撃を反射する効果が宿っていた。
攻防を繰り返し、カガヤが最後のデミを倒したところで、笹は何かの視線に気づいた。
「あれは……野生のイノシシ? いえ、デミ・ボアですわね」
桃園にまぎれこんでいたようだ。
素早い敵なら、スキルを使わずに動きを追うことを重視。鈍重な敵なら、グラビティブレイクを使う。そう考えていたカガヤは若干迷った。デミ・ボアは直線的に素早く動くし、頑丈さもそこそこある。
だがデミ・ボアが突進の構えを見せたことで、迷いは消えた。
笹が突進の直撃を受ける前に、カガヤが間に入る。
猪突猛進な敵に、インプロージョンで威力を増したグラビティブレイクを叩き込む。
二つの大きな力がぶつかる。
突進の勢いでカガヤは軽くバランスを崩した。そして、ハードブレイカーの渾身のジョブスキルを受けたデミ・ボアは絶命していた。
●こわばった指
『ミオン・キャロル』は深呼吸してから、チラッと『アルヴィン・ブラッドロー』を見た。
「場数はこなしてるから、大丈夫よ」
その言葉は強がりだ。
「選択の先へ」
トランスをすると、アルヴィンは軽い調子でぽんとミオンの頭をなでた。
「じゃ行こうか」
桃園で、ミオンは状況を確認する。
「向こうから来てくれたら楽ね」
その希望はまもなく叶った。デミ・ワイルドドッグが十匹出現。
群れとは別の気配も感じる。潜伏しているわけではなく、現時点では単に離れた場所にいるようだ。
桃の木の損傷を避けるため、ミオンは道のそばまで敵を招く。
「デミ・オーガでも神人は美味しい餌かしら? ほらほら来なさいよ」
挑発的なセリフで小石を投げつける。
デミたちの間に殺気が走った。
ミオンをかばいアルヴィンが前に出る。もっとも前衛も後衛もなかった。二人は十匹のデミに包囲されていた。
「背中の守りは任す」
観察したところ、群れに統率者はいない。烏合の衆といったところか。
アルヴィンの初手はブラッディローズ発動。クレセントサムライボディも装備しているため、カウンターダメージが増すだろう。
好戦的な一匹が、茨と三日月の餌食となる。
不注意な仲間の死に、群れは警戒を強める。そして矛先はミオンに向けられる。
「きゃあっ!?」
包囲を保つため同時に攻撃してくることはないが、タイミングをずらし執拗にミオンを狙う。先ほどの挑発を覚えているのかもしれない。
ミオンは勇者の盾「ラメトク」で攻撃を防ぐ。やられてばかりではない。氷の剣「ブリザートデビル」で反撃。一匹が倒れた。残るは八匹。
ここでシンクロサモナーのジョブスキル、コスモ・ノバを使えばすぐにケリがつくが、庭園への影響と姿を見せない敵も考慮すると安易には使えない。それに、代償である憑依侵食が一挙に進んでしまう。
アルヴィンの両手剣「フレイム・チェリー」は2m近い長さがある。刀身を活かし数体を一度に斬れないかチャンスを狙う。
偶然密集していた敵二体に斬撃を当てることができた。これであと六匹。ただし元々範囲攻撃可能なスキルなどとは違い、この方法はかなり運に左右されるものだ。いつも上手くいくとは限らない。
全てのデミ・ワイルドドッグを倒し終えた頃には、ブラッディローズの効果はなくなっていた。
そこでデミ・ボアが一体、桃園の端に姿を見せた。気配の主はコイツだ。
ブラッディローズの憑依侵食現象を受けたが、まだアルヴィンには戦う力がある。
「万が一に備えて、俺は空中戦まで想定してたんだがな」
アルヴィンは不敵な笑みで、狼の力を武器に宿した。残るはこのデミ・ボアだけのようだ。目指すのは短期決戦。
愚直な突進の軌道を見定めて、ウルフファングが敵を引き裂く。デミ・ボアは息絶えたが、その突進の衝撃はアルヴィンの腕をジンとしびれさせた。
戦いが終わり、ミオンはその場にへたり込んだ。
アルヴィンが手を差し伸べる。しかしミオンの手にはまだ固く武器が握られていた。
「うう。指がこわばって……」
「頑張ったな」
アルヴィンはその指を丁寧に離していった。
●連携の難しさ
「初めての戦闘依頼、です。……頑張ります、ね」
「風流な桃園を脅かす脅威……退治いたしましょう」
『織田 聖』と『亞緒』がウィンクルムとして戦うのは、これがはじめてだった。
桃園に入る前に、まずトランスをする予定だ。初トランスに聖は緊張するが、その面持ちには真剣さが表れている。
「頑張りましょう」
安心させるような亞緒の柔らかな声に、聖の緊張もわずかにほぐれる。
「聖なる想いを抱いて」
特別なキーワードを唱えて、聖は亞緒の頬にそっと唇を近づけた。不思議なオーラが二人を包む。これがウィンクルムのトランス状態だ。
聖は事前準備として、敷地の地形や桃の木の位置を確認しておきたかった。
広大な桃園にある全ての木の位置を完璧に暗記するのはハードルが高い。しかし、だいたいの敷地の地形や通り道を覚えることはできた。
桃の木を傷つけてしまわぬよう、聖と亞緒は道のそばで待つ。
しばらくして聖が獣の姿を見つけた。デミ・ワイルドドッグが一匹。
「敵です、よ」
亞緒に伝えて、聖は前衛に立つ。
プレストガンナーの亞緒は桃の木に背を向ける形で後衛となり、ファスト・ガンでの不意打ち狙いで待機。このスキルは弓でも使用可能だ。
この時点で聖はすでに前衛にいる。彼女に矢が当たらぬよう、亞緒は射撃時に声をかけることにしていた。
「討ちますっ!」
安全面を配慮しての行動だったが、その警告は当然デミにも聞こえる。言葉の内容は理解できなくとも、何かの合図ということはわかったのだろう。
放った矢が避けられる。
不意打ちは成立しなかった。射撃合図を敵に悟られぬよう工夫するか、聖が前衛に出るタイミングが不意打ちの後だったなら、違う結果になっていたかもしれない。
一つ一つの行動は格好良くて絵になるのだが、それらを一連の戦いの流れとして並べた時に違和感が浮かび上がる。ある行動で発生し得る利点を別の行動で打ち消してしまう。そんなことになっている。
しかし今は落ち込んでいる場合ではない。二人は凛として戦う。
「あなたの敵はこっちです、よ……!」
聖はナイフ「マシュマローン」と短剣「マンゴーシュ」の二刀流で、果敢にデミ・ワイルドドッグに立ち向かった。
「亞緒さん、今ですっ!」
デミはまた退却しようとしたが、聖に注意が向いていたため迅速な回避行動はとれなかった。
今度は亞緒の弓の方が早かった。ショートボウ「アルシエ」の矢が、デミ・ワイルドドッグを仕留める。
「聖さん、怪我は?」
「う……。少し、負傷してしまいました」
桃の木の確認をする予定だったがそちらは手短に切り上げて、聖の治療を優先して村のライフビショップの元に向かう。
●長引いた戦い
「初っ端から二人だけでデミ退治だなんてどきどきします……」
「うん、緊張するね……。怪我をしても治してくれるそうだけど、お互い何事もなく討伐できるといいね」
「頑張って成功させましょうね。為せば成る、ですっ!」
『リコチェット・ベッカー』と『ヒューゴ・クランツ』の二人にとって、これがウィンクルムとしてのはじめての活動だ。できれば成功させたい。
「絆の調べ」
インスパイアスペルをささやき、ヒューゴの頬にキスをする。戦うための大切な儀式とはいえ、ヒューゴは少し気恥ずかしそうだった。
リコチェットは敵の居場所を村人に尋ねてみた。デミ・ワイルドドッグは広い桃園内に散開している。場所の特定は難しい。少人数で桃園に踏み入ると向こうから姿を現す、とのことだ。
二人は桃園に入り、道沿いに歩く。
マジックブック「目眩」を手にし、油断なく敵の襲来に備えるヒューゴ。
「! いましたよ」
リコチェットが、一匹のデミ・ワイルドドッグに気づく。
トリックスターであるヒューゴは、まずはマジックブックによる通常魔法攻撃を使い、敵の注意を引く。
思惑どおり、デミ・ワイルドドッグは怒りにかられるままに、道沿いに佇む二人に接近した。
鋭い牙がヒューゴの腕に赤い線を描く。
「っ!」
痛みが走る。まだ戦う余力はあるが、長期戦になれば危うい。
戦闘の間、リコチェットは武器を準備して後方で待機する。
「倒せなかったとしても桃の木だけは死守です!」
もしもデミが桃の木に向かおうとした場合、マジックブック「目眩」で錯乱させるつもりだったが、その心配はなかった。デミの敵意は、ヒューゴに向けられている。
「罰ゲーム!」
どこからともなくピコピコハンマーが出現し、敵の頭上に浮かんだ。ポカポカと殴りつける。トリックスターのジョブスキルだ。
間にデミの足を狙った通常攻撃を挟み、動きを予測させないようにする。初陣とは思えないほど、テクニカルで巧妙な戦い方だ。
二度目の罰ゲーム発動。MPが足りないため三回は使えない。
敵はまだ生きていた。しかし、あと少しのダメージで倒せそうだ。
それはヒューゴも同じこと。次に攻撃されれば、もう耐えられない。
作戦面のミスや落ち度はないが、ステータスや属性相性といった能力の面で、泥仕合になっているのだ。
「ヒューゴさん!」
とっさの判断で、リコチェットが前に出てウィンクルムソードⅡを振るった。
ボロボロだったデミ・ワイルドドッグは、リコチェットの一撃で息絶える。
「ありがとう。危ないところだったよ……」
苦戦したが、こうして二人で力を合わせてデミ・ワイルドドッグを倒すことができた。
ヒューゴの怪我の具合を気遣いながら、リコチェットは村へ戻る。
●窮地と逆転
「素敵! 桜も良いけど桃の花も可愛いわ」
上機嫌の『ラブラ・D・ルッチ』の横では、『アスタルア=ルーデンベルグ』が陰鬱モードに浸っている。特に何かあったというわけではなく、アスタルアの性格上、戦闘任務の時はどうしてもネガティブになるのだ。
「うっ、うう……短い人生だったなぁ」
「あらあら、アス汰ちゃんたら何を言っているのかしら」
パートナーだけあって、こういう時の対処法をラブラはちゃんと心得ている。
「気合いぱーんち☆」
「せめて幼女の膝の上で死にたk……ぐほぁ!?」
ラブラの愛の拳がアスタルアに炸裂!
ドタバタしつつも二人は桃園に向かう。木を傷つけない場所を選び、ラブラとアスタルアは背中合わせとなる。二人で全方位に気をつける。
「敵のおでましね~」
二匹のデミ・ワイルドドッグが、こちらの様子をうかがっている。戦うか逃走しようか、二匹の間で迷っているようだ。やがて気性の荒い方の一匹が走ってきて、もう一匹もそれに続く形で参戦した。
アスタルアはそれとなく、ラブラが怪我をしないよう配慮していた。
そして双葉弐式で確実にダメージを与えていく……はずだった。
「あの、ラブさん? 僕たち、いつ、トランス、しましたっけ!?」
してない。
精霊のジョブスキルは、トランス状態でないと使用できない。
集団で動いていれば、仲間ウィンクルムのトランスを見て、その流れで一緒にトランスできたかもしれない。だが運悪く今回は個別行動。気づくチャンスがなかった。
すでに敵と対峙しており、今からトランスしている余裕はない。
「あー……、もう僕たちは失敗確実ですねー……」
諦めて闘志を失いかけるアスタルアに、ラブラは乱暴な口調で活を入れる。
「ウジウジしてんじゃねえ! それに、まだ失敗だって決まったわけじゃないわよ~」
相手はデミだ。トランスなしのウィンクルムでも、理論上倒すことは可能。些細な失念から不利な状況に陥った二人だが、目的達成の見込みはまだ残されていた。そう、ジョブスキルなしでデミ・ワイルドドッグ二匹との戦闘に勝利すれば良いのだ。
主にラブラが敵の注意を引きつけ、アスタルアは手裏剣「サクリティ」を打つため、敵に間合いを詰められぬよう距離をとる。万が一接近されても、仕込み刀「時雨」を用意していた。
気持ちを切り替えて、アスタルアは手裏剣を放つ。ギャンと獣の悲鳴があがり、動かなくなった。
もう一匹が逃げ腰になるが、ラブラが牽制する。
「ぐっ!」
デミから反撃を受けるが、それでも逃がさない。
足止めしたところにアスタルアの手裏剣。デミ・ワイルドドッグはよろめき倒れた。命の火が消えようとしている。
その息が完全に止まるまで、アスタルアは襟で口元を隠しつつ、じっと見つめた。殺す相手は笑顔で見送ってやるものだ。それが父の教え。
「……」
アスタルアが身に着けている服の口元部分には、ニヤリと笑った歯のマークが描かれている。
●桃香る神人雛
帰還したウィンクルムたちに、村にいるお年寄りライフビショップが治療をおこなった。高齢の夫婦は久々のトランスをすると、村のために戦ってくれたウィンクルムたちに感謝の言葉をかけながら癒しの術をかけた。不思議な力で傷が癒えていく。
全てのペアが桃園のデミとの戦いに勝利した。戦いがスムーズにいなかったペアもあるが、不利な状況下でも討伐成功という結果を叩き出したのは、あくまでも本人たちの実力だ。見えない運命の流れが、ウィンクルムにとって有利な手助けやお膳立てをしたわけではない。
これで第一の目的は達成された。後は第二の目的、村の神社で祈りを捧げればバッチリだ。
神人と精霊は別室で身支度を整える。それぞれ同性の村人が着付けを手伝った。豪華絢爛の和服へと着替える。
神社の境内には緋毛氈が敷かれ、そこにウィンクルムが座る。その姿はまるで女雛と男雛だ。美男美女のウィンクルムが並ぶと、なおさらだ。
村人がうやうやしく桃の枝を手渡した。
「最後にお祈りもしないとね!」
元気良く明るい笑顔を見せるカガヤに、笹はコクリと頷いた。
「ええ。祈りを捧げましょう」
カガヤとともに祈りを捧げる笹の所作は、とても本格的だった。笹の実家は神社なのだ。
厳かで神聖な雰囲気が漂う。
村人たちの不安も、これで払拭されることだろう。
「えっと……何かこれって」
祈りの儀式に集中できず、わたわたしているのはミオンだ。アルヴィンの方を見て、すぐに顔をそらした。
「んー」
ミオンだけでなく、アルヴィンも顔をそらす。
二人がちょっと挙動不審になっているのは、どちらも気恥ずかしさゆえだった。
何かこれって、結婚式みたい。それが二人の共通感想。
「和装は初めてです。聖さんはお着物も似合いますね」
亞緒は楽しげに微笑む。
「素敵な着物……お雛様みたいです、ね」
亞緒はそっと聖の手を取った。聖も嬉しそうに枝を振る。
(平和な世界となるよう、頑張ります……!)
そう思いを込めながら。
可愛い衣装にリコチェットは顔を輝かせる。
「疲れていたはずですが何だかうきうきしますね」
「初依頼、どうなる事かと思ったけど何とかなってよかった」
二人は祈りの気持ちを込めて一緒に枝を降る。
リコチェットは、美しい花が咲くように。
ヒューゴは、桃園の平和を願い。
「本物のお姫様になったみたい」
「ま、まぁ……ババアの割には似合ってるんじゃないですか?」
ラブラの横顔をチラリと見て、アスタルアは慌てて視線を戻す。
「アス汰ちゃんもカッコいい! この枝を振れば良いのね?」
二人で桃の枝を振り、祈りを捧げる。
桃の木がこれからもずっと綺麗に咲き続けますように、と祈るラブラ。
オーガ二度と来るな。お花見も楽しめないなんて冗談じゃありません、とアスタルア。
祈り終えたところで、二人の目が合う。ラブラはにこやかに微笑んだ。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:手屋 笹 呼び名:笹ちゃん |
名前:カガヤ・アクショア 呼び名:カガヤ |
名前:ミオン・キャロル 呼び名:ミオン |
名前:アルヴィン・ブラッドロー 呼び名:アルヴィン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 02月26日 |
出発日 | 03月04日 00:00 |
予定納品日 | 03月14日 |
参加者
- 手屋 笹(カガヤ・アクショア)
- ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
- ラブラ・D・ルッチ(アスタルア=ルーデンベルグ)
- 織田 聖(亞緒)
- リコチェット・ベッカー(ヒューゴ・クランツ)
会議室
-
2015/03/03-22:29
こちらもプラン完了しました。
最低限桃の木を自ら傷つけてしまわないようにだけは気を配りました…!
後は倒しきれるかどうか、でしょうか…成功を祈りましょう。 -
2015/03/03-22:21
もうすぐ出発ですね。
それぞれ任務成功を目指して頑張りましょう。
私達もなんとか頑張ってきます……!
アドバイスもありがとうございます。
トランスの事もしっかりねじ込んでみました。
油断せず頑張ってこようと思います。 -
2015/03/03-18:25
ゆ、雄姿…!?
えっと…頑張りなさいよ、アルヴィン!!(精霊にぴしっと)
アルヴィン:
…いやまぁ、頑張るけど
(無理しない程度にお前も頑張れよ、の意を込め頭ぽん)
とりあえず、庭園破壊したらマズイかなと外してたコスモ・ノバを緊急時使用の為に
持って行く事を心に決めたようだ:半径3mの範囲攻撃スキル
-
2015/03/03-14:37
-
2015/03/03-12:11
今日の夜には出発ですね…!緊張しますが、頑張ります(ぐ。)
一足早く、プラン提出完了報告ですっ。
皆様の雄姿、参考にさせていただきます、ね。
>ミオンさん
アドバイスありがとうございます、嬉しいですっ(ぺこぺこ)
トランスの表記に、精霊の亞緒さんのスキルセットと……
装備変更も忘れずに、と…!
頑張りますっ!(ぐ。) -
2015/03/02-20:02
笹ちゃんはお久しぶり!他の皆は初めましてかしら〜
私はラブラ・D・ルッチよ。こっちはマキナでシノビのアス汰ちゃん。よろしくねっ♪
私達はデミ2体と戦う事になりそう。
ア「どうせ僕なんて犬にケツ噛まれて死ぬ運命なんですよ……(ブツブツ)」
精霊はこんな調子だけど、お姉さんは気合い十分よ〜!
デミなんかボコボコにしてやるんだからっ -
2015/03/02-10:13
ミオンです。
向かってくる敵は討伐したいと思うけど…逃げられちゃったらごめんなさい。
桃の木を傷つけないよう気を付けるとして
見晴らしがよくて障害物がないって事は不意打ちはなさそうね。
>聖さん、リコチェットさん
初めまして。
初任務なのね、お手伝いできないけどお互いがんばりましょう!
デミ・オーガはトランスしなくても倒せるってワールドガイドにあるけど
スキルを使えないのでトランスをしてたら安全かも…?余計な事だったらごめんなさい。
>笹さん
10体+α…何がでるかしらね?
オーガじゃない事を祈るとして、統率するリーダとか…とちょっと思ったわ。
ア:
決め打ちしたら困るし、出たとこ勝負でいいんじゃないか?
わかってるわよっ!
何にでも対応出来るようには努力するわ。
-
2015/03/02-02:33
はじめまして。リコチェット・ベッカーです。
よろしくお願いしますね。
同じく初戦から単独行動ということでどきどきですが…
無事にデミ・ワイルドドッグを退治できるよう全力を尽くそうと思います。 -
2015/03/02-00:31
聖さん、初めまして、よろしくお願いしますね。
初めての戦い、応援しています!
こちらも気合を入れていかねばなりませんね…
デミワイルドドッグ10体もなのですが+???が一体何なのか…
もう少し強いデミオーガが一緒なのか、はたまたDスケールオーガだったりなのか…
ある程度色々対応出来るように考えておかねばならないでしょうか… -
2015/03/01-19:59
はじめまして(ペコリ)
織田 聖と申します。よろしくお願いいたします。
初めての戦いが亞緒さんと二人きり、と緊張でいっぱいですが
桃園を守り切れるよう頑張りたいと思います(ぐ。)
私達の敵はデミ・ワイルドドッグ一体になりそうです、ね。
私達にとっては十分な脅威です…! -
2015/03/01-10:27
手屋 笹です。
ミオンさん、アルヴィンさん、今回もよろしくお願いしますね。
今回は他のペアとの連携が取れないという事なので、
各自、自分達の作戦を考えた上で不安な点を相談するという感じになりそうでしょうか。
あとは共通認識の確認とかとか。
何かありましたらお気軽にお尋ね下さい。