はらはら!ラブトライアングル(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●甘い恋の季節だから
 バレンタインにホワイトデー。
 街に漂う甘い香りは、人の心を優しく擽る。
 あの人にほんの少し近づいてみようかと、人をそんな気持ちにさせる。

 例えば神人である貴方に、想いを寄せる誰かさんがいるかもしれない。
 それは街角での一目惚れかもしれないし、或いは、想いをずっと胸の内に温めていたのかも。
 もしそんな彼――或いは彼女と、どこかで偶然出会うことがあるとしたら。
 貴方のパートナーは、一体どんなことを想って、どんな顔をするだろうか。
 どんな言葉を口にして、どんなふうに動くのだろう?
 そして貴方は、何を想い、何を喋り、どんなふうに行動する?

 或いは逆に、貴方のパートナーを見つめている誰かさんもいるかもしれない。
 それは突然の恋か、はたまた長い恋煩いか。
 もしそんな彼――又は彼女が、貴方のパートナーに声を掛けてきたとしたら。
 貴方はどんな想いをその胸に抱き、そのかんばせにどんな色を乗せるのか。
 どんな言葉を紡ぎ、どんな行動を起こそうとするのだろう?
 そして貴方のパートナーが抱く想いは? 紡ぐ言葉は? 彼はどんなふうに動く?

 これはそんな『もし』が、『もし』で終わらなかった場合のお話。
 貴方と、貴方のパートナーと、恋の季節に惑うた誰かさんの物語。

 急に誰かさんに話し掛けられ戸惑う貴方を、パートナーが助けてくれたり。
 パートナーと誰かさんの楽しそうな様子にもやもやしたり。
 はたまた、貴方と誰かさんの談笑を目にしてパートナーさんの方が苛立ちを胸に抱いたり。
 熾烈な三角関係バトルが、勃発することもあるかもしれない。

 ――さあ、貴方たちの物語は、どんな形をしていますか?

解説

●詳細
1.誰かさんがあなたと彼のどちらに恋をしているか
2.誰かさんの性別
3.誰かさんとあなた・誰かさんと彼の関係(両方)
4.誰かさんの行動
5.あなたの心情や行動
6.彼の行動
7.誰かさんに対するあなたと彼の口調(敬語か否かと、その他こだわりあれば)
以上7点をプラン内に組み込んでいただけますと幸いです。(明示がなくともそれとわかればOKです)
但し、6は親密度等の関係でそのまま採用できない場合がございますことをご了承くださいませ。

また、
・誰かさんと出会う場所・シチュエーション
・誰かさんの名前、性格、外見、口調、職業等
・誰かさんがあなたまたは彼に恋をした経緯
・彼の心情(※親密度等の関係で採用できない場合アリ)
などその他諸々、文字数の許す限りこだわりを詰め込んでいただければと……!
ご指定がない部分はお任せとなりますこと、ご了承ください。

誰かさんに出会う時にお2人が近くにいる必要がありますので、何らかの理由で一緒に外出中という点のみ共通とさせていただきます。
デート代として一律300ジェール頂きますことをご了承ください。
リザルト直前までの行動等も指定可能です。

考えていただく要素が多い変則的なエピソードです。
女性PC様サイドの『どきどき!ラブトライアングル』もご参照願えますと、プラン作成の一助となるかもしれません。
ですが、実際のプランは上記の条件を満たした上で、皆様の心の赴くままに書いていただけますと幸いでございます。

●注意点
公序良俗に反するプランは描写いたしかねます。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますのでお気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

以前女PC様サイドにて出させていただきました三角関係エピをこちらでも! 出させていただきたいと!
コンセプトは、皆さまとパートナーと誰かさんの三角関係を自由に妄想して楽しもう! です。
妄想全開上等! と言いますか、妄想大歓迎! そんなエピです。
可能な限り自由に妄想を楽しんでいただけるようプロローグはふんわりですが、以前のエピと同様、リザルトの方は皆さまの素敵妄想をがっつりばっちり形にできるよう精一杯力を尽くします!
どんな素敵なプランをお届けいただけるか、今からわくわくそわそわです……!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  離れてた間に桐華さんが女の子にナンパされてる
…と思ったら近所の子だった
折角だからちょっと見てよう

意外とまともなご近所づきあいしてるんだなー
ていうかむしろ、仲良さそうだなー
こらこら、僕が居るのにお茶の誘いを断らないとかどういうことですか

…行っちゃった
…なんだよ。知ってるんだからね
君が、元々そういう可愛い女の子守る立場に憧れたんだって
…あれ、おかしいね。何だか気分が悪いぞ?

…ふーんだ!
桐華なんてしーらない
僕は一人で甘いお菓子を買って一人でおうちで優雅にティータイムしてくれる!
一人で、いるのには、慣れて…慣れ…(ぶわっ)

うるさい…桐華が急にいなくなるから悪い
美味しい紅茶淹れてくれなきゃ、許さないから



羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
  裾を引く手に振り向けば見慣れたテイルスの姿
あれ、螢と外で会うなんて珍しいね。何か頼まれ事?
「ちーちゃん、お財布忘れて行ったから。届けに」

慌てて懐を探って、思わず熱くなった顔で肩落とし
ごめん…追いかけてきてくれたんだね、ありがとう
お礼に今度の休みに好きなご飯を作ってあげるから
「…大変なのは、分かってる。疲れていない?心配(ぎゅう」

ラセルタさんの言葉と態度に、勝手に心臓が跳ねる
雲行きの怪しい会話に慌てて間に入り
半ば強引に彼の背中を押してその場から離れ

あの…螢の事、怒らないでやってね
任務続きで少し寂しい思いをさせていたんだと思う
嫌な思いをさせて、ごめん(俯き
(どうかこのまま、何も変わりませんように


スウィン(イルド)
  (市場を見て回っていたら声をかけられる
二人はセイルを知らない)
えぇ、憧れ?照れるわね~
やっぱ格好いいおっさんにはファンの一人や二人…
や~ね冗談よ
おっさんはスウィン、こっちはイルドよ
セイルくんもいつか魅力的な神人と契約できるわよ
そう、おっさんみたいな!なーんて(けらけら)
またどこかで会えるといいわね!

(セイルと別れ)
どしたのイルド、不機嫌ね?
(不機嫌そうな表情はいつもの事だが
本当に不機嫌かどうかスウィンはすぐ分かる)
ふふ、嫉妬してくれたの?

■誰か
名:セイル
ポブルス
性格:好青年・素直・紳士・王子・時々わんこ
職業:護衛騎士
身長185・細マッチョ・21歳・金髪
瞳:緑
口調:僕、~さん、ですます


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ラーメン屋のバイト先ってここ…どうしよう
店の人に声を掛けられ招かれ、あっ僕はタイガを人を待ってるだけで

遊覧船で夜景みる約束だろっ!時間せまってるよ
まったく…

◆誰か
酔いつぶれてた30半ばの色眼鏡のとび職風の男が目覚め
つかみ凝視。離してタバコくわえ

な!?…何ですか、あれトキワだよね?
そう!セラフィム。5年も帰らなかったからって顔忘れる事ないだろ…暫くは居れる?
…やめてよ(まんざらでもない)
うん?だったら嬉しいな

タイガ紹介するよ。話してた(依頼53)知人のトキワ
いい年で放浪画家しててオカリナも習ったんだ
こんな所で会えるなんて

え…やっと会えたのに
っごめん。トキワもまたね

デートじゃっ…(そう見えるのかな



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアと一緒に喫茶店でケーキ食べてたら、
誰か入って来た扉の音がして。
ラキアが驚いた顔してさ。
その人物がラキアの所へ真っすぐ来て。
ラキアによく似てて俺もビックリした。
同じファータか。剣佩いて騎士っぽいけど。
「知り合い?」ってラキアに聞いたら。
ラキアの返事前にそいつがにっこり笑って
「ラキアの恋人」って。
オレ、心臓飛び出るかと思った。
ラキアが噛みつくように
「ただの兄弟だよ。ラキシス、悪ふざけは止めて」
「つれないな、同じ臍の緒で栄養を分かち合った仲だろう」
ってすげー会話を繰り広げてるぞこいつら。
ラキアがこんな背徳的思考を持つ兄弟居るとは驚きだ。
「でもラキアはオレが護るし」とオレだって負けないからな。



●貴方に憧れています
「ねぇねぇ。あれ美味しそうじゃない?」
 共に市場を見て回っていたスウィンに服の裾を引かれて、イルドは彼の視線の先を見遣る。そこに彼の好む甘味の屋台を見留めて、イルドは浅くため息を零した。
「ったく……無駄遣いすんなよ、おっさん」
「失礼ねぇ。美味しそうって言っただけじゃない」
 ジトっとした視線を向けられて、冗談っぽく口を尖らせるスウィン。と、その時。
「あの、すみません!」
 突然に、2人は声を掛けられた。イルドと似た背丈に年頃の金髪の騎士が、頬を上気させ、緑の瞳を煌めかせている。
「あら? おにーさん、おっさんたちに何かご用?」
 スウィンが応じれば、青年の瞳が益々明るくなった。ぴしりと背筋を伸ばして言うことには。
「その、僕はセイルといいます。以前お二人が任務で戦っている姿を見て憧れていました」
 よければお名前を教えて頂けませんか? と、しなやかな体躯の青年騎士は、どこまでも真摯な眼差しで問う。微笑ましさに、スウィンは相好を崩した。
「えぇ、憧れ? 照れるわね~。やっぱ格好いいおっさんにはファンの一人や二人……」
「……おい」
「や~ね、冗談よ」
 イルドに低くつっこまれて、スウィンが笑う。そんなスウィンに真っ直ぐな視線を注ぐセイルの姿に、イルドは僅か眉を顰めた。
(あの目、気に入らねぇな。憧れ、って言葉に嘘はないんだろうが)
 それ以上の感情を含んだ瞳だと、イルドは思う。胸をもやつかせるイルドを余所に、スウィンは「おっさんはスウィン、こっちはイルドよ」と常の明るさで自分たちのことをセイルへと紹介した。セイルが屈託のない笑みを見せる。
「僕はまだ未契約の精霊なんです」
「精霊? じゃあ、セイルくんはポブルスかしら」
「はい。いつかスウィンさんみたいに素敵な神人と契約して、お二人のようなウィンクルムになりたいと思っています」
 『スウィンさんみたいな素敵な神人』の下りを聞いて、このままスウィンの腕を引いてセイルから離れてしまおうかと思ったイルドだったが、2人のようなウィンクルムになりたいと語るセイルは、歪みのない眼差しを、僅かの躊躇いもなくイルドにも向けて。だからイルドは、スウィンを攫うようにしてこの場を離れることが出来ない。行き場のない苛立ちが胸を掠める。
「セイルくんもいつか魅力的な神人と契約できるわよ。そう、おっさんみたいな! なーんて」
 言ってけらけらと笑うスウィンの不用意な発言に、イルドの胸に降り積もる鉛のような感情。にこにことしてスウィンの言葉に耳を傾けていたセイルが、ふと、ごく小さな声で呟きを漏らした。
「……スウィンさんと契約できたらいいのに」
 市場の喧騒にかき消えたその呟きは、けれど精霊たるイルドの耳にはしかと届いて。思わず赤の眼差しでセイルを睨み据えるも、セイルは一切の含みのない眩しい笑顔をイルドへと寄越すばかり。ストレートな好意にたじろぐイルド。どうやら先の呟きに、言葉以上の意味はないつもりらしい。
(だとしても……こっちは気分よくねぇよ)
 胸中に呟く。と、セイルが名残惜しそうに言った。
「僕、そろそろ行かないと……お二人と話せて本当に嬉しかったです。イルドさん、僕、あなたのような立派な精霊になれるよう頑張りますね」
「あ、あぁ……」
 イルドの不機嫌の元は、反撃のしようもないような清々しいほどの憧れをイルドへと向けて、去っていった。
「またどこかで会えるといいわね!」
 とその背中へと手を振っていたスウィンの視線が、ふとイルドへと注がれる。
「って、どしたのイルド、不機嫌ね?」
 ことりと首を傾げて、スウィンはイルドにそう問うた。不機嫌そうな面持ちは殆ど常のものだけれど、イルドが本当に不機嫌かどうかは、スウィンにはすぐに分かるのだ。明後日の方向に視線を遣って、イルドは言った。
「……あんま誰彼構わず愛想振りまいてんじゃねぇ」
「ふふ、嫉妬してくれたの?」
「うるせぇ。ほら、まだ買うもんあっただろ」
 その反応に密かくすりと笑んで、早足に歩き出したイルドの後をスウィンは追い掛けた。

●面影を君に見る
「ラーメン屋のバイト先ってここ……どうしよう」
 火山 タイガが働くラーメン店の前で、セラフィム・ロイスは困惑しきり、端正な眉を下げる。立ち尽くすセラフィムに気付いた店員が、入口からひょこりと顔を出した。
「いらっしゃい、お客さんかい?」
「あっ、僕はタイガを、人を待ってるだけで……」
「ああ、タイガの。とにかく、寒いから中へおいで」
 招かれるままに店の中へと足を踏み入れれば、スタッフ姿のタイガとばちりと目が合って。
「あ、セラ! ……ってことは」
「そう、時間せまってるよ! 遊覧船で夜景みる約束だろっ!」
「げっ、すぐ着替える!」
 バタバタと店の奥へと引っ込むタイガを見送って、「まったく……」とセラフィムは呆れ混じりの息をついた。と、すぐ近くのテーブルに突っ伏して酔い潰れていたとび職風の男がむくりと顔を上げ――傍らのセラフィムの顔を見るや、色眼鏡の向こうの瞳を見開く。がたり、椅子を鳴らして立ち上がり、セラフィムの肩を掴んでそのかんばせにじぃと見入る男。
「な!? 何ですか……」
 声を上げれば、男は我に返ったようにセラフィムの肩から手を離し、ズボンのポケットをまさぐって煙草を咥えた。
「……悪かった、人違いだ」
 ライターを手に弄びながら、男は言う。
「惚れた女の生き写しなんてそうそう居る訳ねぇ。全く、夢の延長戦にしちゃ性質が悪い」
「あれ……?」
 目をぱちくりとするセラフィム。驚きから覚めてみれば、男の声に、そのニヒルな笑い方にどう考えても覚えがあった。30半ば位に見える男の顔も、記憶の中より齢を重ねているけれど確かに見知った顔で。
「トキワ、だよね?」
「は?」
 男は名を呼ばれたことに僅か怪訝な顔をして――けれどすぐに、呆けたような声で言葉を零す。
「……セラフィムなのか? 嘘だろ」
「そう、セラフィム! 5年も帰らなかったからって顔忘れることないだろ……暫くは居れる?」
「ああ、まあな。しかし母似だとは思ってたが、……いい顔するようになったな」
 言って、トキワはセラフィムの頭を柔らかく撫でた。やめてよ、なんて言いながらも悪い気はしないセラフィムだ。
「はっはっ、特別扱いしてやろうか」
「うん? だったら嬉しいな」
 一方のタイガ。息を切らせて戻ってみれば、セラフィムが自分以外の誰かと楽しげに笑い合っていて。その胸に、もやもやが満ちる。
(俺以外にあんな風に戯れるなんて初めて見た。何だこれ……! 人見知りなセラが懐いてていいことだろ)
 頭ではそう思うのに心がついてこなくて、タイガは拳をきゅっと握った。と、セラフィムの銀の視線がタイガへと向けられる。嬉しそうに目元を和らげて、セラフィムは言った。
「タイガ紹介するよ。話してた知人のトキワ。いい年で放浪画家しててオカリナも習ったんだ。こんな所で会えるなんて……」
「あ、ああ、トキワだったのか」
 先に話に聞いていた男がバイト先の常連だったとは、世界は狭い。セラフィムの顔を見て、自分達の方へと歩み寄るタイガの顔を見て――2人の手の甲の、文様もそっと検めて。トキワは、煙草に火を付けてふうと吹かした。
「成る程、虎坊主の影響か。改めてよろしく頼むわ」
 トキワの言葉に「おう」と応えて、タイガはセラフィムの手を引く。
「行くぞ」
「え……やっと会えたのに」
「セラ! ……行くんだろ」
 緑の瞳にじっと見つめられて、セラフィムはタイガの手を握り返した。
「っごめん。トキワも、またね」
 振り返れば、ぽん、と頭に触れるトキワの手のひら。それは、タイガの頭の上にも。
「仲良くやれよ坊主共。暫くはいるしまた会うだろうよ。ほら、デート行ってこい」
「……おう」
「って、トキワ! タイガ! で、デートじゃっ……」
 あわあわするセラフィムを余所に、トキワは笑い、タイガは花を持たされたのだろうかと思いながらセラフィムの手を引いて歩き出す。
(デート……に、見えるのかな)
 促されるままに歩を進めながら、セラフィムは仄か銀の瞳を伏せ、そんなことを思った。

●仔猫のように慕っています
「ちーちゃん!」
 待ち合わせ場所で名を呼ばれて、服の裾を引かれて。羽瀬川 千代が振り返れば、そこにはよくよく見慣れた白猫のテイルスの少年が立っていた。千代が生まれ育った孤児院の子だ。目を丸くする千代。
「あれ、螢と外で会うなんて珍しいね。何か頼まれ事?」
「違うよ、ほら、ちーちゃん、お財布忘れて行ったから。届けに」
「え?」
 慌てて懐を探るも、そこには螢の言う通りに財布はない。羞恥に頬を熱くして、千代は肩を落とした。差し出された財布を、受け取る。
「ごめん……追いかけてきてくれたんだね、ありがとう」
 お礼に今度の休みに好きなご飯を作ってあげるから、と、眉を下げて笑み掛ければ、螢は、千代のことをぎゅうと抱きすくめた。
「……ちーちゃんが大変なのは、分かってる。疲れていない? 心配」
「螢、俺は……」
 大丈夫だよ、と答えかけて、けれど千代は、その言葉を紡ぎ切れずに終わる。待ち合わせの相手だったラセルタ=ブラドッツがちょうどそこへ現われて、千代が抱き締められているのを認めるや否や、2人をぐいと引き離したからだ。千代の肩を抱き寄せて、青の視線で螢を鋭く射抜くラセルタ。
「何だ? よく見れば孤児院の鈍間な白猫ではないか。家族同然とはいえ17歳だったか? いつも千代にべたべたと」
 何度でも言うが、とラセルタは不機嫌を露わに目を眇めた。
「千代は俺様の所有物だ。軽々しく触れるな」
 しっしと、さっさと去れとばかりにラセルタが手を振る。その言葉に、態度に、千代の心臓は勝手に跳ね上がる。千代が場を収める言葉を見つけるよりも早く、螢が口を開いた。
「……ちーちゃんは、物じゃない」
 千代に向けられるのとは違う、唸るような低い声と険しい眼差し。ラセルタも、氷の視線と声音で応じる。
「お前に何が分かる、白猫」
「貴方は只のパートナーでしょ。契約が切れれば、それでお終い」
「何?」
 聞き捨てならない台詞に、形の良い眉をぴくりとさせるラセルタ。螢は追及を緩めない。
「ちーちゃんだって、ウィンクルムだから一緒に居るだ、」
「螢!」
 千代の声に、螢はびくりとして言い掛けた言葉を途切れさせた。慌てて、雲行き怪しいやり取りを収束させようと試みる千代である。
「……螢、お財布ありがとう。ごめん、俺たちそろそろ行くね」
 半ば無理やりにラセルタの背を押しながら、千代は螢へと困り顔で笑み掛ける。千代のその表情に、螢はつと俯いて静かになった。
「次の休みには、絶対に螢の好きな物作るから」
 掛けられた言葉に何か返そうとした様子で――けれど螢はこくりと一つ頷いただけで、もう何も言わずに去っていく2人を見送ることにしたようだった。
「あの……螢のこと、怒らないでやってね」
 今はもう抗わずに自分と共に道を行くラセルタへと、千代は申し訳ないような、心もとないような気持ちで声を掛ける。
「任務続きで少し寂しい思いをさせていたんだと思う……嫌な思いをさせて、ごめん」
「子供の言うことなど元より気にしていないが」
 俯き零す千代へと、すっかり不貞腐れた声でラセルタは応じた。螢の言葉を、ラセルタは苦く思い出す。彼が指摘したのは当然の事実で、それなのに何か痛い所を突かれたような心地がして。胸を掠めて止まない苛立ちを隠そうともせずに、ラセルタは千代の首筋へと戯れのように顔を埋めた。そして、眉を顰める。
「……あの白猫の匂いがする。気にいらんな」
 吐き捨てるようにそう呟いて、ラセルタは懐から取り出した香水を千代へと振り掛けた。その香りに包まれながら千代は寸の間心を飛ばし、
(どうかこのまま、何も変わりませんように……)
 祈るような想いで、胸中に呟かずにはいられなかった。

●兄弟の愛は何より深い
「んっ、このケーキ美味いな、ラキア」
「……セイリュー、口元、クリーム付いてるよ」
 喫茶店にて。ケーキを口にしたセイリュー・グラシアが真っ直ぐに笑みを向ければ、紅茶の香を楽しんでいたラキア・ジェイドバインは呆れたようにそう零した。
「え? どこだ?」
「全く、セイリューったら……」
 ペーパーナプキンを手に、ラキアがセイリューの口元へと手を伸ばし掛けたところで、喫茶店のチャイムがコロリと鳴った。ふと視線を扉の方へと遣ったラキアが、緑の瞳を瞠る。ラキアの驚いた顔に、セイリューもラキアの視線を追うように振り返って――そして、彼と同じように目を見開いた。そこに、立っていたのは。
(ラキアによく似てる……同じファータか。剣佩いて騎士っぽいけど)
 ラキアによく似た騎士風のファータは、つかつかと真っ直ぐにセイリュー達のテーブルへと向かってくる。こそりとラキアに問うセイリュー。
「知り合い?」
 答えようと、ラキアが口を開く――前に、件のファータがぽん、とセイリューの肩を叩いてにっこりとした。
「ラキアの恋人」
「え……?」
 心臓が、ばくりと跳ねる。言葉を失うセイリューの前で、ラキアが噛みつくように言った。
「ただの兄弟だよ。ラキシス、悪ふざけは止めて」
「つれないな、同じ臍の緒で栄養を分かち合った仲だろう」
「そりゃあ、双子の兄弟だもの、お互いを半身だと感じることはあるよ? でもそれは、恋愛的な意味じゃない。同じ卵から半分に分たれたんだし」
「酷いな。俺はラキアのことをこんなに愛しているのに。兄弟だなんて、気にしないし」
「……ちょっとは気にしてよ。兄弟愛にも限度ってものがあるでしょ」
 ラキアの態度がすげなくても、ラキシスは一切動じずに口元に弧を描いている。半ば圧倒されながらも、
(って、すげー会話を繰り広げてるぞこいつら)
 と、事の成り行きを見守るセイリュー。ラキアにこんな背徳的思考を持つ兄弟が居るとはと、驚愕しきりだ。ラキアが、再び口を開く。
「そもそも、ラキシスは故郷にずっと居るんだと思ってた。何しに来たの?」
 問いに、ラキシスは益々笑みを深くした。
「ラキアを攫おうとしている奴の顔を見に来た」
 言って、ちらとセイリューへと意味深な視線を遣って。ラキシスは椅子を引くと、2人と同じテーブルにつく。ぱらり、メニューを開く音。
「全く、俺が一生護ってやるって言っているのに」
「って、余計なお世話。ラキシスに契約適合神人が顕れたらそんなこと言ってられないよ?」
 ため息混じりに言って、ラキアは眉を下げ、セイリューへと向き直った。
「ごめんねセイリュー。変わった兄弟で」
「変わったとはご挨拶だな、ラキア」
「もう、ラキシスは黙っててよ」
 双子の息の合ったやり取りに、セイリューは口を尖らせる。
「……でも、ラキアはオレが護るし」
 オレだって負けないからな、と力強く言い切れば、双子は同時にセイリューを見遣って。そしてその片割れ、ラキシスは、「へぇ」と含みのあるような声を漏らした。一方のラキアは、そっとその口元を柔らかくする。
(そんなセイリューが、今は好きなんだ)
 なんて、密やかに思うラキアである。ぱたんとメニューを閉じたラキシスが、店員を呼んだ。どうやら彼は、ちゃっかりとこの場に同席するつもりであるらしかった。

●このチャンスを逃しません
(どうしてこうなった……)
 苦々しい思いで、桐華は眉根を寄せた。叶と夕飯の買い出しに来たはずなのだ。なのに、叶はふらりと桐華の傍を離れてしまい、その間に、桐華は近所に住むふわふわ系女子大生に捕まってしまった。
「こんな所で会うなんて偶然だね。嬉しいな」
 なんて、媚び媚びの笑顔を向けてくる彼女の天然ぶったところも露骨な主張も、苦手だと桐華は思う。
(……助けろ叶)
 胸中にパートナーの名を呟くが、彼が戻ってくる気配はない。
(叶め……戻ってこない所を見るに、どっかで見てるな)
 そっちがその気ならこっちにも考えがあると、桐華は胸の内にひとりごちた。

「あれ?」
 一方の叶は、桐華が女性に声を掛けられるところをばっちり目撃していた。
「桐華さんが女の子にナンパされてる……と思ったら近所の子だ」
 分かりやすくしかめっ面の、けれど彼女を邪険にも出来ずに奮闘する桐華の姿をじーっと観察して口元を緩める叶。
「ふふ、折角だからちょっと見てようっと」
 かくれんぼなら得意なのだ。こっそりと、桐華の様子を窺う叶である。桐華は女子大生の扱いに困りながらも、思ったよりもつつがなく彼女の相手をしていた。
「へぇ……意外とまともなご近所づきあいしてるんだなー」
 ていうか、と叶は僅か表情を曇らせる。
「むしろ、仲良さそうだなー」
 ちょっと面白くない、と口を尖らせる叶には気付かずに、桐華と女子大生は会話を続けている。その内容まではしかとは聞き取れないものの――ふと、女子大生の高い声が、風に乗って叶の耳まで届いた。
「良かったら、一緒にお茶しない?」
 知らず目を見開く叶。殆ど息を飲むようにして事の顛末を見守っていると、何やら一言二言言葉を交わした後に、2人は連れ立って歩き始めた。
(こらこら、僕が居るのにお茶の誘いを断らないとかどういうことですか)
 思うも、桐華がこちらを振り返ることは遂になく。やがて2人の姿は、街の雑踏の中に消えた。
「……行っちゃった」
 呆然として、叶は呟く。
「……なんだよ。知ってるんだからね。君が、元々そういう可愛い女の子守る立場に憧れたんだって」
 毒づいても、返る言葉はここにはなくて。胸の内に、もやもやが溢れる。
(……あれ、おかしいね。何だか気分が悪いぞ?)
 違和は胸に広がるばかりで、叶は広い広い街の中にひとりきりだ。
「……ふーんだ!」
 胸の内の痛く苦しい想いを振り払うように、叶は声に出して言った。
「桐華なんてしーらない! 僕は一人で甘いお菓子を買って一人でおうちで優雅にティータイムしてくれる!」
 そう、だって。
「一人で、いるのには、慣れて……慣れ……」
 ぶわりと涙が溢れて、叶は道の端にしゃがみ込んだ。

「良かったら、一緒にお茶しない?」
 そう誘いを受けた桐華は、寸の間の迷いもなく思った。それは流石に無理だ、と。けれど、どこかで隠れて自分達を覗いているであろう叶に、ちょっとした意趣返しはしてやりたい。故に、桐華は彼女へとこう言った。
「それは出来ねーが……代わりに、菓子店に付き合ってもらえるか?」
 この返しに、機嫌良く諾の返事をした彼女と連れ立って菓子店に入る。
「何だかデートみたいだね」
 と計算し尽くした上目遣いで彼女が言うのを耳に、桐華は2人分のケーキを購入して、彼女の目前に薬指の指輪を翳した。表情を固くする女子大生。
「そーゆーことだから、あんま声かけないでくれる?」
 女子大生は顔を真っ赤にして、踵を返して去っていった。

「……お前本当に意外と泣き虫だよな」
 耳慣れた声が、呆れたように言う。顔を上げないまま立ち上がらないまま、
「うるさい……桐華が急にいなくなるから悪い」
 と、叶はぐしゃぐしゃの声でそう応じた。
「はいはい、俺が悪かったから。そう落ち込むな」
「だから、うるさいよ。……美味しい紅茶淹れてくれなきゃ、許さないから」
「……善処はするけど、味は保証しないからな」
 ぽんぽんと、ずるいくらいの温もりが頭に触れる。伸ばされた手をしかと握って、叶はやっと立ち上がった。そうして2人、帰路につく。
「……あぁ、買出し、してねーな」
 思い出したように桐華がそう呟くのが、叶の耳に届いた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:
呼び名:叶
  名前:桐華
呼び名:桐華、桐華さん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 梨麻  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月24日
出発日 03月02日 00:00
予定納品日 03月12日

参加者

会議室


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